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  • 平成9年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

科学研究費補助事業がその目的を達成し有効なものとなるよう改善の処置を要求したもの


科学研究費補助事業がその目的を達成し有効なものとなるよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)文部本省 (項)科学振興費
部局等の名称 文部本省
補助の根拠 予算補助
補助事業の概要 大学等の研究者又は研究者グループが計画する基礎的な学術研究
研究成果報告書等が提出されていない研究課題数 205件 (研究期間終了年度 平成5年度〜8年度)
(研究機関 北海道大学ほか19大学等)
上記に対する国庫補助金交付額の合計 22億7360万円(平成2年度〜8年度)

【改善の処置要求の全文】

科学研究費補助事業の実施について

(平成10年11月26日付け 文部大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(科学研究費補助金の概要)

 貴省では、我が国の学術を振興するため、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野における優れた独創的・先駆的な学術研究を格段に発展させることを目的として、科学研究費補助事業を実施している。この事業は、大学等の研究者又は研究者グループが計画する基礎的研究について、その研究課題を公募し、その中から、学術研究の動向に即して、特に重要なものを取り上げ研究費用を助成するもので、貴省では、その研究助成費として科学研究費補助金(以下「科研費」という。)を交付している。

(科研費の交付等の事務)

 科研費の交付を受けようとする者は、貴省の「科学研究費補助金(科学研究費)の取扱いについて」(平成8年文学助第21号学術国際局長通知)等により、計画初年度の前年の12月上旬に、研究課題名、研究目的・内容、研究期間(5年以内の期間)、研究経費の算出内訳とその年次計画等を明らかにした研究計画を貴省に提出することとされている。そして、貴省では、この研究計画を貴職の諮問機関である学術審議会の審査に付し、その答申を得て、4月下旬に、採択する研究課題とそれに対する科研費の交付予定額を決定し、その旨を申請者に通知している。この通知を受けた者は、交付予定額による当該研究計画の遂行可能性を判断の上、毎計画年度において貴省に科研費の交付申請書を提出することとされており、これを受けて貴省では、毎年6月下旬に交付決定を行い科研費を交付している。

(研究成果報告書等の提出と公開)

 科研費の交付を受けて研究を行った者は、貴省の上記通知(平成7年度以前は「科学研究費補助金による研究成果の公開・発表について」(平成元年文学助第21号学術国際局長通知))により、毎年度の研究終了時に科研費の収支等を明らかにした実績報告書を貴省に提出するほか、萌芽的研究や若手研究者の奨励研究等に係る研究課題を除いては、研究成果を冊子体にまとめた研究成果報告書並びにその概要を記した和文及び英文の研究成果報告書概要(以下、これらを合わせて「研究成果報告書等」という。)を作成し、研究計画の最終年度の翌年度の4月20日から同月30日までの間に、貴省に提出することとされている。
 このうち研究成果報告書は、国立国会図書館に提供して広く研究者等に公開するものであり、研究成果報告書概要は、その内容を貴省の大学共同利用機関である学術情報センターの科学研究費補助金研究成果概要データベースに入力し、大学の研究者等への情報検索サービスに供するためのものである。
 そして、研究成果報告書等の提出期日までに研究成果の取りまとめができない場合は、その理由、取りまとめ予定時期等を記した研究経過報告書を提出するとともに、後日、研究成果の取りまとめができ次第速やかに(原則として1年以内)、研究成果報告書等を提出することとされている。

(研究成果報告書等の提出・公開の目的等)

 上記のように、萌芽的研究や奨励研究等を除き研究成果報告書等を提出させ公開するのは、国の科研費を使用して行った研究の成果を社会に還元することを目的とするものであり、科研費による研究を行った研究者の責務ともされている。
 また、研究成果報告書等の提出・公開は、学会等への自発的な研究成果の発表とともに、公募型研究である科研費による研究における事後評価の仕組みの一つと位置付けられている。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 近年、我が国においては、科学技術創造立国を目指し研究開発投資の拡充が図られてきたことなどから、科研費の予算額は、厳しい財政状況下にもかかわらず5年度以降毎年、対前年度比伸び率が10パーセントを超え、9年度には1122億円に上っている。その中で、科研費の研究成果について民間企業の研究者等からも強い関心が寄せられており、これを積極的に社会に還元することが望まれている。また、科研費を含む国の研究費の有効使用や研究機関の効果的な機能整備等の観点から、学術研究における評価の充実が要請されている。
 このような状況を踏まえ、研究成果を社会に還元するという目的が十分達成されているか、研究の事後評価が十分に行えるようになっているかという観点から、科研費による研究の実施状況及び研究成果報告書等の提出状況に着眼して検査した。

(検査の対象)

 10年中に、北海道大学ほか58大学等(注1) の研究機関において、5年度から8年度までの間に研究期間が終了した研究課題のうち研究成果報告書等の提出が義務付けられているもの(各大学等の会計実地検査時点において研究期間終了後1年を超えていないものを除く。)13,936件(科研費交付額計924億8553万余円)を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の研究課題のうち提出期日までに研究成果の取りまとめができないとして研究経過報告書を提出しているものは、2,235件となっていた。
 このうち、研究期間終了後1年以内に研究成果報告書等を提出していないものが、35大学等(注2) で842件(科研費交付額計69億3479万余円)あった。そして、この中には、本年の会計実地検査時点においても研究成果報告書等が未提出となっているものが、20大学等(注3) で205件(科研費交付額計22億7360万円)見受けられた。
 これを研究期間終了年度別に示すと、次表のとおりである。

研究期間終了年度 件数 科研費交付額
5
39
千円
221,600
6 49 667,700
7 54 905,400
8 63 478,900
205 2,273,600

 なお、このうち7年度までに研究期間が終了しながら研究成果報告書等が未提出となっている研究課題の研究者に対して、9年度に新たな科研費を交付しているものが、13大学等で35件(9年度の交付件数で、その科研費交付額計1億9350万円)ある。
 そして、研究成果報告書等が未提出となっている205件の研究課題の研究者は、提出が遅れている理由として、資料の整理、データの分析に時間を要したこと、論文投稿を優先したこと、その後の研究成果を加えて取りまとめようとしたことなどを上げているほか、研究成果報告書等の提出を失念していたとする者もいる。
 しかし、これらの研究課題の研究者は、次のことから、速やかに研究成果報告書等を提出すべきであったと認められる。

〔1〕  科研費の交付は、研究者自身が応募に当たって作成した研究計画において所定の期間内に研究を終了し成果を取りまとめるとしていることを前提として行われていること

〔2〕  論文発表したものを研究成果報告書等として提出することも認められていること

〔3〕  取りまとめが遅くなれば研究成果が陳腐化し、学術研究の動向に即さなくなるおそれがあること

(改善を必要とする事態)

 上記のように、研究成果報告書等が提出されず研究成果が公開されないままとなっている事態は、科研費による研究成果を社会に還元するという目的が十分達成されず、また、研究の事後評価が十分行えるようになっていないもので、適切とは認められず、改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、主として、次のようなことによると認められる。

(ア) 科研費の目的・意義及び研究成果報告書等の提出・公開の必要性、重要性などについて、研究者の認識が不足していること

(イ) 貴省及び各大学等において、研究経過報告書提出後の研究成果報告書等の提出状況の把握が十分でないこと

(ウ) 研究成果報告書等が未提出となっている研究者に対して新たに科研費の採択を行う際、貴省でその提出を励行させるための特段の措置を執っていないこと

3 本院が要求する改善の処置

 科研費は大学等の学術研究を推進し、我が国の研究基盤を形成するための基幹的な経費として今後とも増大することが見込まれる。
 ついては、前記の事態にかんがみ、貴省において、研究成果報告書等の提出の徹底を図り、科研費による研究の評価の充実に資するため、次のような改善のための処置を講ずる要があると認められる。

(ア) 科研費の目的、研究成果報告書等の提出の重要性等について、研究者への啓蒙を徹底すること

(イ) 貴省及び各大学等で、研究成果報告書等の提出状況を適切に把握するとともに、未提出となっている研究者への督促の強化を図るなど効果的な措置を執ること

(ウ) 科研費の新規採択者のうち研究成果報告書等の未提出者について、今後の研究成果報告書等の提出を励行させるため、適切な措置を執ること

(注1)  北海道大学ほか58大学等 北海道、旭川医科、弘前、岩手、東北、秋田、福島、茨城、筑波、埼玉、千葉、東京、東京医科歯科、東京外国語、東京学芸、東京農工、東京芸術、東京工業、お茶の水女子、電気通信、横浜国立、富山、福井医科、岐阜、名古屋、豊橋技術科学、三重、京都、大阪、神戸、和歌山、島根、岡山、広島、徳島、香川医科、九州、九州工業、長崎、熊本、鹿児島、琉球、奈良先端科学技術大学院、大阪市立、大阪府立、慶応、早稲田、久留米、福岡各大学、国文学研究資料館、国立極地研究所、宇宙科学研究所、国立天文台、核融合科学研究所、岡崎国立共同研究機構、高エネルギー加速器研究機構、学術情報センター、国立民族学博物館、メディア教育開発センター

(注2)  35大学等 北海道、弘前、東北、福島、茨城、筑波、埼玉、東京、東京医科歯科、東京工業、お茶の水女子、電気通信、名古屋、三重、京都、大阪、神戸、島根、岡山、広島、徳島、香川医科、九州、九州工業、長崎、熊本、鹿児島、琉球、大阪市立、大阪府立、慶応、早稲田、福岡各大学、宇宙科学研究所、高エネルギー加速器研究機構

(注3)  20大学等 北海道、東北、茨城、筑波、東京、東京医科歯科、東京工業、電気通信、名古屋、京都、島根、岡山、広島、香川医科、熊本、鹿児島、大阪市立、慶応、福岡各大学及び高エネルギー加速器研究機構