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  • 平成9年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
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在宅福祉事業費補助金(老人デイサービス運営事業分)の算定が適切に行われるよう是正改善の処置を要求したもの


(1) 在宅福祉事業費補助金(老人デイサービス運営事業分)の算定が適切に行われるよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省 (項)社会福祉諸費
部局等の名称 厚生本省、北海道ほか18府県
補助の根拠 老人福祉法(昭和38年法律第133号)
事業主体 市59、町144、村15、計218事業主体(平成6年度)
市70、町174、村21、計265事業主体(平成7年度)
補助事業 在宅福祉事業(老人デイサービス運営事業)
補助事業の概要 在宅の要援護老人の生活の助長等とその家族の負担の軽減を図るため、老人に対し通所又は訪問により養護、入浴、給食等のサービスを提供するもの
上記に対する国庫補助金交付額の合計 95億3492万余円 (平成6、7両年度)
過大に交付された国庫補助金 2億1267万円 (平成6、7両年度)

【是正改善の処置要求の全文】

在宅福祉事業費補助金(老人デイサービス運営事業分)の算定について

(平成10年7月29日付け 厚生大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(老人デイサービス運営事業の概要)

 貴省では、老人福祉法(昭和38年法律第133号)等に基づき、在宅の寝たきり老人、介護を要する痴呆性老人などの要援護老人等の福祉の推進を図ることを目的として、老人ホームヘルプサービス事業、老人デイサービス運営事業等の在宅福祉事業を行う市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、在宅福祉事業費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。
 このうち老人デイサービス運営事業(以下「デイサービス事業」という。)は、老人デイサービスセンター等の施設(以下「センター」という。)又は居宅において、在宅の要援護老人に対し、日帰りの通所又は日中の訪問により各種のサービスを提供することによって、これら老人の生活の助長、社会的孤立感の解消、心身機能の維持向上等を図るとともに、その家族の身体的、精神的負担の軽減を図ることを目的としている。
 このデイサービス事業の内容は、〔1〕 生活指導、日常動作訓練、養護、家族介護者教室、健康チェック及び送迎(基本事業)、〔2〕 センターにおける入浴サービス、給食サービス(通所事業)、〔3〕 居宅における入浴サービス、給食サービス及び洗濯サービス(訪問事業)となっており、市町村は、これらの中から必要なサービスを選択して提供することとなっている。
 そして、市町村では、このデイサービス事業を直接又は社会福祉法人等に委託して実施しており、これに対する補助金の交付額は、平成6年度522億2409万余円、7年度678億0838万余円、8年度856億3002万余円、9年度1052億5545万余円と毎年増加している。

(補助金の交付額の算定方法)

 補助金の交付額は、「在宅福祉事業費補助金交付要綱」(平成4年厚生省発老第19号厚生事務次官通知。以下「交付要綱」という。)により、次のように算定することとなっている。

〔1〕  所定の基準額と国庫補助の対象となる経費(以下「対象経費」という。)の実支出額とを比較して少ない方の額を選定する。

〔2〕  〔1〕 により選定された額と、総事業費から寄付金その他の収入額を控除した額(以下「収支差額」という。)とを比較して少ない方の額を選定する。

〔3〕  〔2〕 により選定された額を国庫補助基本額とし、これに補助率の2分の1を乗じて得た額を交付額とする。

 上記の算定方式における基準額、対象経費の実支出額及び収支差額は、センターごとに、それぞれ次により算出することとなっている。

(ア) 基準額は、デイサービス事業の内容等に応じて定められている運営費(市町村の負担となる人件費及び管理費の年額)及び車両購入費と、利用人員等に応じた各種の加算額との合計額による。

(イ) 対象経費の実支出額は、デイサービス事業に必要な給料、職員手当等、共済費、謝金、賃金、旅費、需用費、被服費、修繕料、役務費、扶助費、委託料、備品購入費、自動車重量税、使用料及び賃借料の年間の合計額による。

(ウ) 収支差額は、デイサービス事業に係る支出の総額から、この事業に対する寄付金、条例等に基づく徴収金などの収入額を控除して得た額による。

(サービスに伴う原材料費等と利用料収入の取扱い)

 貴省では、デイサービス事業の実施及び運営について老人デイサービス運営事業実施要綱(昭和51年社老第28号社会局長通知)を定めており、その中で、市町村は、利用料として入浴サービス、給食サービス、洗濯サービス、日常動作訓練、家族介護者教室等に伴う原材料費等の実費を定め、利用者がこれを負担するとしている。
 したがって、貴省では、利用者の負担とされているこれらサービスに伴う原材料費等に該当する食材費、光熱水費等については、補助金の算定に当たって、対象経費の実支出額とこれと比較する基準額とが対応するよう、これらの支出額を対象経費の実支出額に含めない取扱いとしている。
 また、利用者から徴収した利用料収入については、前記の収支差額の算出において総事業費から控除する取扱いとしている。

(実績報告書の提出)

 市町村は、その年度の事業が完了したときは、交付要綱に基づき、実績報告書を作成し関係書類を添えて、指定都市及び中核市の場合は直接貴省に提出することとされており、その他の市町村の場合は都道府県に提出し、都道府県がその審査を行い、各市町村分を取りまとめの上貴省に提出することとされている。

2 本院の検査結果

(調査の観点)

 貴省では、前記のとおり、デイサービス事業の各種サービスに伴う原材料費等の支出額は、対象経費の実支出額に含めない取扱いとしている。また、利用者から徴収した利用料は、収支差額の算出において、総事業費から控除する取扱いとしている。
 そこで、市町村において、これらにより補助金が適正に算定されているかという観点から調査した。

(調査の対象)

 北海道ほか20都府県(注1) の6年度823市町村、7年度884市町村に交付されたデイサービス事業に係る補助金6年度159億8913万余円、7年度201億1326万円について調査した。

(調査の結果)

 調査したところ、北海道ほか20都府県の6年度551市町村、7年度575市町村において、補助金の算定に当たり、次のように、対象経費の実支出額の中に原材料費等の支出額の全部又は一部が含まれていたり、収支差額の算出において収入額が控除されていなかったりなどしている事態が見受けられた。
 すなわち、上記の市町村では、対象経費の実支出額の算出に当たり、各センターにおける需用費等から、サービスに伴う原材料費等の支出額を全く除外していなかったり、給食サービスに伴う食材費は除外したもののその他の原材料費等の支出額が含まれたままであったり、入浴サービスに伴う光熱水費等についてセンターの事務運営に係るものとのあん分が困難であるとして除外していなかったりなどしていて、原材料費等の支出額の取扱いが区々になっていた。
 また、収支差額については、総事業費として対象経費の実支出額をそのまま計上するとともに、利用料等の収入額はないものとして控除しない取扱いをするなどしていた。
 そして、上記のような事態について、貴省及び都道府県においては、実績報告書の審査に当たり、対象経費の実支出額のうち需用費等、特に原材料費等の支出額や、収支差額の算出過程、特に利用料等の収入額についての審査が十分に行われていない状況であった。

(過大に交付された補助金)

 上記の市町村について、対象経費の実支出額から原材料費等の支出額等を除外し、また、総事業費から利用料等の収入額を控除して収支差額を算出し、基準額とこれらにより得られた額を比較したところ、6年度は北海道ほか17府県(注2) の218市町村(補助金交付額41億5897万余円)、7年度は北海道ほか16県(注3) の265市町村(補助金交付額53億7595万余円)において、国庫補助基本額が過大になっていると認められる。これらの市町村について、補助金の交付額を修正計算すると、6年度40億6925万余円、7年度52億5300万余円となり、交付済額との差額、6年度8971万余円、7年度1億2295万余円、計2億1267万円が過大に交付されていると認められる。
 上記の事態について事例を挙げると、次のとおりである。

事例

 A県B市では、7年度の実績報告書において、基準額は73,890,000円であり、対象経費の実支出額が76,474,069円、収支差額も76,474,069円であるとしていた。そして、基準額と対象経費の実支出額を比較し、更に収支差額と比較した上で、国庫補助基本額を73,890,000円として、補助金36,945,000円の交付を受けていた。
 しかし、同市のセンターにおける決算書等の関係書類によると、上記の対象経費の実支出額の中に、給食サービスに伴う食材費2,917,378円、入浴サービスに伴う燃料代、水道料金等911,160円など、原材料費等の支出額が計4,112,414円と、その他の補助対象外と認められる支出117,123円が含まれていた。また、収支差額についてみると、総事業費は対象経費の実支出額と同額で、収入額はないとしていたが、実際は、総事業費が76,881,823円で、利用料も3,032,500円(1人1回、給食サービス500円、入浴サービス(一般浴)200円・(特殊浴)1,000円)徴収していた。
 したがって、正しい対象経費の実支出額は72,244,532円、収支差額は73,849,323円となり、基準額と正しい対象経費の実支出額を比較し、更に正しい収支差額と比較すると、適正な国庫補助基本額は72,244,532円となる。そして、これにより補助金の交付額を修正計算すると36,122,000円となり、823,000円が過大に交付されていると認められる。

(是正改善を必要とする事態)

 上記のように、在宅福祉事業費補助金(老人デイサービス運営事業分)の算定において、含めてはならない原材料費等の支出額が含まれた対象経費の実支出額や、利用者から徴収した利用料等の収入額が控除されていない収支差額に基づいて国庫補助基本額が過大に算定され、補助金が過大に交付されているのは適切とは認められず、是正改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

(ア) 貴省において、都道府県及び市町村に対し、〔1〕 サービスに伴う原材料費等の支出額は対象経費の実支出額に含めない取扱いとしていることの周知徹底が十分でなく、また、これらの原材料費等の範囲を明確に示していないこと、〔2〕 利用者から徴収した利用料も収支差額の算出において総事業費から控除する取扱いとしていることの周知徹底が十分でないこと

(イ) 貴省及び都道府県が実績報告書の審査に当たって、原材料費等の支出額や、利用料等の収入額を把握・確認できる措置が十分執られておらず、また、貴省及び都道府県における実績報告書の内容の審査も十分でないこと

3 本院が要求する是正改善の処置

 デイサービス事業は、新・高齢者保健福祉推進10か年戦略(新ゴールドプラン)の中核をなす事業として、毎年多額の補助金が交付されており、今後、介護保険への移行に向けてますます事業の拡大が見込まれる状況にある。
 したがって、貴省において、デイサービス事業に係る補助金の適正な算定が行われるよう、次の処置を執る要があると認められる。

(ア) 都道府県及び市町村に対して、原材料費等の範囲を具体的に示すとともに、対象経費の実支出額の算出に当たり原材料費等の支出額を含めないことなど、適正な補助金の算定方法を交付要綱において明確にし、その周知徹底を図ること

(イ) 貴省及び都道府県において実績報告書の審査が十分行えるよう、原材料費等の支出額や利用料等の収入額を実績報告書に明確に記載させること

(注1)  北海道ほか20都府県 東京都、北海道、京都府、山形、福島、茨城、栃木、神奈川、新潟、富山、静岡、愛知、三重、兵庫、鳥取、広島、愛媛、福岡、長崎、熊本、沖縄各県

(注2)  北海道ほか17府県 北海道、京都府、福島、茨城、栃木、新潟、富山、静岡、愛知、三重、兵庫、鳥取、広島、愛媛、福岡、長崎、熊本、沖縄各県

(注3)  北海道ほか16県 北海道、山形、福島、茨城、新潟、富山、静岡、愛知、三重、兵庫、鳥取、広島、愛媛、福岡、長崎、熊本、沖縄各県

 上記のとおり是正改善の処置を要求したところ、厚生省では、本院指摘の趣旨に沿い、平成10年度以降に交付する在宅福祉事業費補助金(老人デイサービス運営事業分)について、その算定が適切に行われるよう、次のような処置を講じた。

(ア) 10年11月に、都道府県等に対し、各種のサービスに伴う原材料費等の範囲については、給食の食材料、入浴の光熱水など日常生活上必要となる経費に限定して、その実費算定の標準となる利用料を具体的に示した。そして、同月に、交付要綱を改正し、国庫補助の対象となる経費の実支出額の算出に当たり、利用者が実費負担することとなる原材料費等の支出額を含めないことなどを明記するとともに、都道府県及び市町村に対し、その周知徹底を図った。

(イ) 上記交付要綱の改正において、厚生省及び都道府県が実績報告書の審査が十分行えるよう、実績報告書に様式を追加して、原材料費等の支出額や利用料等の収入額を明確に記載させることとした。