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  • 平成9年度|
  • 第3章 国会からの検査要請事項及び特定検査対象に関する検査状況|
  • 第2節 特定検査対象に関する検査状況

政府開発援助について


第4 政府開発援助について

検査対象 (1) 外務本省
(2) 国際協力事業団
(3) 海外経済協力基金
会計名及び科目 (1) 一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
(2) 一般勘定 (項)プロジェクト方式技術協力事業費
(3) 貸付金
政府開発援助の内容 (1) 無償資金協力
(2) プロジェクト方式技術協力
(3) 直接借款
平成9年度実績 (1) 2537億 2134万余円
(2) 378億 7900万余円
(3) 6875億 9112万余円
現地調査実施国数及び事業数 7箇国
(1) 54事業
(2) 15事業
(3) 27事業
96事業
現地調査実施対象事業費 (1) 1208億9451万余円
(2) 110億9305万余円
(3) 2635億9772万余円
援助の効果が十分発現していないと認めた事業数 無償資金協力5事業
うち研究施設関連 2事業
  水産関連 2事業
  上水道関連 1事業

1 政府開発援助の概要

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中近東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると運輸、エネルギー、農林水産、水供給・衛生、教育、鉱工業・建設等の各分野となっている。
 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成9年度の実績は、無償資金協力(注1) 2537億2134万余円、プロジェクト方式技術協力(注2) 378億7900万余円、直接借款(注3) 6875億9112万余円(注4) などとなっている。

(注1)  無償資金協力 相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。

(注2)  プロジェクト方式技術協力 相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、研修員受入、専門家派遣及び機材供与の3形態を一つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して行うもので、国際協力事業団が実施している。

(注3)  直接借款 相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、海外経済協力基金が実施している。

(注4)  債務繰延べを行った額418億7368万余円を含む。

2 検査の範囲及び着眼点

 本院は、無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、直接借款等(以下「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度や方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び着眼点について、我が国の援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。

(1) 我が国援助実施機関に対する検査

 本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力事業団(以下「事業団」という。)及び海外経済協力基金(以下「基金」という。)に対して検査を行うとともに、海外においても、在外公館、事業団の在外事務所及び基金の駐在員事務所に対して検査を行っている。
 これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な着眼点から検査を実施している。

(ア) 我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているか。

(イ) 援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、支払、貸付けなどは法令、予算等に従って適正に行われているか。

(ウ) 我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。

(エ) 我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて追加的な措置を適切に執っているか。

(2) 現地調査

 相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか否かなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の着眼点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。

(ア) 事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。

(イ) 援助対象事業が、他の開発事業と密接に関連している場合、その関連事業の実施とは行等が生じないよう調整されているか。

(ウ) 援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は十分利用されているか。

(エ) 事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。

(オ) 事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。

 そして、毎年数箇国を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。

3 検査の状況

(1) 現地調査の対象

 本院は、10年中において上記の検査の範囲及び着眼点で検査を実施し、その一環として、7箇国において現地調査を実施した。現地調査は、1箇国につき3名から7名の職員を派遣し1週間ないし2週間実施した。そして、相手国において、治安、交通、衛生、言語、事業現場の点在等の制約がある中で、次の96事業について調査した。

 〔1〕  無償資金協力の対象となっている事業のうち54事業(贈与額計1208億9451万余円)

 〔2〕  プロジェクト方式技術協力事業のうち15事業(9年度末までの経費累計額110億9305万余円)

 〔3〕  直接借款の対象となっている事業のうち27事業(9年度末までの貸付実行累計額2635億9772万余円)

 上記の96事業を、分野別にみると、農林水産24事業、保健・医療13事業、教育13事業、水供給・衛生12事業、エネルギー9事業、運輸9事業、通信7事業などとなっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

国別現地調査実施状況表

国名 海外出張延人日数
(人日)
調査事業数
(事業)
援助形態別内訳 調査した事業に係る援助の実績額
(億円)
援助形態別内訳
無償資金協力
(事業)
プロジェクト方式技術協力
(事業)
直接借款
(事業)
無償資金協力
(億円)
プロジェクト方式技術協力
(億円)
直接借款
(億円)
バングラデシュ 112 23 15 3 5 1,142 345 25 770
象牙海岸 21 5 4 1 66 58 8
ホンデュラス 51 13 9 2 2 262 126 20 115
パプア・ニューギニア 58 10 6 1 3 215 61 10 142
スリ・ラン力 105 22 11 4 7 1,522 345 26 1,150
テュニジア 21 8 2 6 325 11 314
ヴィエトナム 75 15 9 2 4 421 271 7 142
443 96 54 15 27 3,955 1,208 110 2,635

(2) 現地調査対象事業に関する検査の概況

 前記のとおり、相手国に対しては検査権限は及ばないこと、現地調査は国内とは状況の異なる海外で実施されることなどの制約の下で検査した。現地調査を実施した事業のうち、おおむね順調に推移していると認められたものの例を示すと次のとおりである。

事例 > コロンボ港開発事業(直接借款)
       コロンボ港拡張事業(直接借款)

 これら2事業は、スリ・ランカのコロンボ港において、港湾サービスによる外貨獲得を図り、国内産業振興に寄与するため、コンテナバース4(注1) バースを建設し、これに付随する荷役機器等を整備するものである。
 基金では、両事業に要する費用のうち、コンテナバースの建設工事、荷役機器の調達等に必要な資金を対象として、昭和56年7月から平成10年3月までの間に589億6245万余円を貸し付けている。
 そして、両事業に係るコンテナバースについては、昭和60年8月から62年3月までの間と、平成6年12月から8年1月までの間に順次2バースずつ完成し、それぞれ供用が開始されている。
 同港のコンテナ貨物の取扱実績をみると、上記コンテナバースの完成前の昭和57年には10万6000TEU(注2) であったが、4バースすべての供用開始後の平成9年には168万7000TEU(計画160万6000TEU)までに増加し、計画を上回っている。
 また、同国港湾庁の港湾サービスによる利益をみると、昭和57年には4億5400万ルピーであったが、コンテナターミナル施設の整備・拡充によるコンテナ貨物取扱量の増加などにより、平成9年には27億7800万ルピーとなっていて、これら港湾施設は外貨獲得にも貢献している。
 このように、直接借款の対象となった2事業は、港湾施設が適時適切な規模で建設、整備されていること、同国の管理運営も適切であったことなどにより、本院調査時(10年9月)における事業現場の状況等から判断した限りでは、我が国の援助が効果を発現しているものと認められた。

(注1)  バース 岸壁及びその周辺の水域からなる船舶の接岸場所をいう。

(注2)  TEU 長さの異なるコンテナの合計取扱量を計算するため、長さ6.1mのコンテナ(幅2.4m、高さ2.4m)に換算した場合のコンテナ個数の単位

 一方、現地調査を実施した事業のうち次の5事業について、無償資金協力の効果が十分発現していない事態が見受けられた。これらの事態の内容は次項に示すとおりである。

(3) 無償資金協力の効果が十分発現していない事業

 〔1〕  無償資金協力により建設された水揚施設等が、水揚量の著しい減少などのため、十分活用されていないもの

<水揚・貯蔵施設建設事業>

 この事業は、バングラデシュの重要な漁業基地であるチッタゴンのモノハカリ地区において、機能を十分に果たしていない既存施設の改善を図るため、水揚施設(浮桟橋、物揚場等)、荷捌施設(卸売市場等)、製氷施設(製氷室等)等を建設するものである。
 外務省では、これら水揚施設等の建設に必要な資金として4、5両年度に計13億4250万円を贈与している。
 本件事業計画によると、6年度の同地区の漁業状況について、チッタゴン地域全体における動力漁船による水揚量を60,949t 、このうち本件水揚施設の水揚量を30,475tと予測した上で、これに対応した規模の水揚施設等を建設することとしていた。
 そして、本件水揚施設等の建設工事は、4年7月に着工され、6年2月に完成し、同年7月に供用が開始されている。
 しかし、本件水揚施設等が建設される前に制定された「漁場管理条例」により、政府所有の水揚場から8km以内では民間の水揚施設は営業できないこととされていたが、本院調査時(10年4月)においては、民間の水揚施設が営業を続けており、多くの零細漁民がこれらの民間の施設を利用していた。また、近年、網目の細かい漁網を用いて、商品価値のない稚魚まで乱獲するなどしたため、チッタゴン地域全体の水揚量が事業計画策定時に想定された水揚量より大幅に減少していた。
 このため、施設の供用が開始された6年7月から9年末までの3年6箇月間で年間平均水揚量は約2,900t 、年間最大水揚量は7年における4,195tと計画量を大幅に下回っている状況であった。
 上記のとおり、無償資金協力により建設された水揚施設等は、水揚量の著しい減少などのため計画どおり活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

 〔2〕  無償資金協力により建設された稲遺伝資源研究施設が、研究員の不足などのため、十分活用されていないもの

<稲研究所稲遺伝資源研究施設建設事業>

 この事業は、バングラデシュにおいて、長期間にわたり安定した稲の品種改良の研究を推進するため、種子調製室、実験室、種子貯蔵室等を備えた稲遺伝資源研究施設を建設し、研究や種子貯蔵に必要な大型冷蔵庫、開閉式密封ドラム缶、大型定温乾燥器、脱穀機等を整備するものである。
 外務省では、これに必要な資金として、昭和59年度に5億5000万円を贈与している。
 本件事業計画によると、研究員32人が研究に従事できる床面積の研究施設を建設し、国内の在来種や野生種を収集して、3年から5年間短期貯蔵室に保存してそれらを育成し、保存価値のある原種と認められた品種については、将来の品種改良等に利用するため中期貯蔵室に1品種当たり平均250gを10年から15年間保存することとしていた。また、海外の稲研究機関との種子の交換を通して、保存品種数を増やしていくこととして、短期貯蔵室、中期貯蔵室ともに10,000品種程度の種子を貯蔵することとしていた。
 そして、本件研究施設は、59年2月に着工し、60年3月に完成し、同月より供用が開始されている。
 しかし、本件研究施設の研究員は、その開設時には36人いたものの、その後、海外へ転出したりして、本院調査時(平成10年4月)では9人しかおらず、開設時に比べ大幅に減少していた。また、種子の貯蔵品種数についてみると、元年に、中期保存用原種約5,000品種が登録されていた。しかし、予算や研究員の不足などにより、今回の調査時でも、1品種当たりの重量が平均22gから25gしかなく、中期貯蔵室に保存されているのは約5,000品種に過ぎなかった。このため、大型冷蔵庫21台のうち、実際に種子の貯蔵用として使用されているのは11台に過ぎない状況となっていた。
 上記のとおり、稲遺伝子の研究は長期間にわたる研究を継続して初めて、その成果が現れるものであるにもかかわらず、無償資金協力により建設された研究施設等は計画どおり活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

 〔3〕  無償資金協力により調達された機材が、水産集荷センターの活動が停止しているため、十分利用されていないもの

<浅海漁業開発事業>

 この事業は、パプア・ニューギニアの首都ポート・モレスビーの北西部に位置し豊富な漁業資源を有するガルフ州において、沿岸漁業の振興を図るため、水産集荷センターの漁業支援設備である製氷機、冷蔵庫、多目的用途船等を整備するものである。
 外務省では、これに必要な資金として2年度に1億9300万円を贈与している。
 そして、製氷機、冷蔵庫、多目的用途船等は、3年1月までにパプア・ニューギニア政府に引き渡され、同センターは、3年11月から、これらの設備を使用して運営を開始した。
 しかし、本件事業は、現地の漁業をめぐる環境が変化したことや、予見が困難であったとの事情はあるとしても、事業の実施地区に関する状況の把握が必ずしも十分でなかったことなどのため、次のような状況となっていた。
 すなわち、同センターの近くに他国の石油会社が以前から調査していた油田があり、2年からこの油田の本格的な開発が始まり、3年から4年にかけて同センターの前にパイプラインが敷設された。その結果、5年からパイプラインの敷設に伴う補償料が地元漁民に支払われるようになり、また、これとは別に近接地の木材の伐採による補償料も5年から支払われるようになった。このため地元漁民が漁業に従事しなくても生計を維持できるようになったこと、漁業を続けている漁民は同地区で以前から運営されている同種の施設を利用していることなどから、同センターは営業を停止しており、製氷機等の機材は使用されていなかった。
 また、当該海域における漁業調査及び資機材運搬のための多目的用途船は、我が国政府と協議することなく、6年4月から本件事業とは関係のないマグロの調査や漁獲に使用されていた。
 上記のとおり、同センターが機能を停止しているため、無償資金協力により調達された機材が計画どおり利用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

 〔4〕  無償資金協力により建設された植物遺伝資源研究センターの施設、機材が、センターの活動が活発でないため、十分活用されていないもの

<植物遺伝資源研究センター建設事業>

 この事業は、スリ・ランカの主要穀物の生産性向上等を図るため、新品種の開発に必要となる有用な植物遺伝資源(種子等)の収集、分類、評価、保存、育種等を行う研究実験棟、種子貯蔵庫、屋外ほ場関連施設等を備えた研究センターを建設し、大型発芽機等を整備するものである。
 外務省では、これに必要な資金として、昭和62、63両年度に計19億8800万円を贈与している。
 本件事業計画によると、施設、機材の整備の前提条件は次のとおりとなっていた。
(ア) 保存する種子の点数は、施設供用開始から10年後には25,000点とする。
(イ) 栄養繁殖系植物(種子での保存が不可能なイモ類、バナナ等の植物)の試験管内保存点数についても、10年後には1,000点とする。
(ウ) 研究関係者の人員配置計画を定め、平成3年には84名体制とする。
 そして、本件研究センターは、昭和62年8月に着工され、平成元年3月に完成し、同年4月から供用が開始されている。
 しかし、本件研究センターは、国内の治安の悪化の影響から植物遺伝資源収集活動に支障をきたしていること、十分な予算確保がなされていないことなどの理由により、次のような状況となっていた。
(ア) 保存種子点数は、施設の供用開始後9年5箇月が経過した本院調査時(10年9月)で、8,938点にとどまっていた。
(イ) 栄養繁殖系植物の試験管内保存点数は、275点にとどまっていた。
(ウ) 本件研究センターでの研究関係者の人員配置は34名であった。
 このため、種子貯蔵庫16庫のうち9庫が遊休したり、目的外に使用されていたり、大型発芽機等一部機材が使用されていなかったりなどしていた。
 上記のとおり、無償資金協力により建設された本件研究センターは、保存種子点数等が少ないなどその活動が活発でなく、施設、機材が計画どおり活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

 〔5〕  無償資金協力により建設された上水道施設が、給配水管の不足等により、十分活用されていないもの

<上水道整備事業>

 この事業は、ヴィエトナムの首都ハノイの上水道整備が遅れている地区において、生活用水事情の改善を図るため、老朽化した既存の上水道施設を廃止し、12年時点の水需要にも対応できる取水・浄水施設等を建設し、同時に給配水網を整備するものである。
 外務省では、これに要する費用のうち、取水・浄水施設等の建設、給配水管等の調達に必要な資金として、5年度から8年度までの間に、計38億1059万余円を贈与している。
 本件事業計画によると、9年時点の給水人口は109,200人、漏水等の無効、無収水量を含めた1日当たりの給水量は18,132m3 となるとし、これに対応するため、次のように施設建設及び給配水網の整備を実施することとしていた。
(ア) 取水・浄水施設等については、井戸12本を掘削し、1日当たり最大32,100m3 を供給できる取水ポンプ場等を建設する。
(イ) 給配水網の整備については、給配水管、水道メーター等の機材調達は我が国の無償資金協力により実施し、布設工事等はこれに必要な資金を同国が負担して実施する。
 そして、本件無償資金協力による施設建設及び機材調達は、8年7月に完了している。
 しかし、同国が実施する給配水管布設工事において、設計を変更したため、給配水管のうち、一部の径の管に過不足が生じ、給配水管布設工事を実施することができず、多くの給配水管が各家庭等の末端まで達していない状況となっている。また、上水道施設が整備されると水道料金が必要となるため、給配水管が各家庭等あるいはその周辺まで達していても、料金の支払に納得しない一部の住民は、従来どおり井戸を利用し水道を利用しようとしていない。このため、給水の実績は、次のような状況となっていて、設置した取水・浄水施設等の能力に比べ、実際の給水量等が著しく低い水準となっていた。
(ア) 井戸の取水ポンプの稼働状況は、9年時点の計画に比べて給水量が少ないため、稼働しているのは井戸12本のうち1本に係るポンプのみであった。
(イ) 9年時点における1日当たりの給水量は990m3 であり、計画給水量18,132m3 に対して約5.5%に過ぎず、また、実績給水人口は11,000人であり、計画給水人口109,200人に対して約10.1%に過ぎなかった。
 上記のとおり、無償資金協力により建設された上水道施設は、実際の給水量が計画給水量を大幅に下回っているなどのため計画どおり活用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

4 本院の所見

 本年の現地調査の結果において、上記のとおり、研究施設関連で2事業、水産関連で2事業、上水道関連で1事業について、事業効果が十分発現していない事態が見受けられたが、これについての本院の所見は次のとおりである。

(1) 研究施設関連事業

 研究施設関連事業については、研究の実施あるいは研究員の確保に必要な予算が不足していたり、研究員が海外に転出したりなどしていて、運営体制が十分に整備されておらず、研究成果が十分に上がっていない状況となっていた。
 これらの事態は、主として相手国の事情によるものであるが、我が国援助実施機関においても、研究施設に対する無償資金協力については、研究の継続により研究成果が達成されることにかんがみ、施設完成後においても、絶えず相手国に自助努力を促し、その運営体制が当初計画通りに整備されているか確認し、必要に応じ、プロジェクト方式技術協力等と連携を図り、研究員の定着を促し、もって研究能力の向上に貢献し、援助の効果が十分発現するよう更に努力する必要がある。

(2) 水産関連事業

 水産関連事業については、事前に立てた水揚量の予測と実績が大きく乖離していたり、相手国が実施することとなっていた水揚施設利用の環境整備がなされていなかったり、予見が困難であったとの事情はあるにしても事業の実施地区に関する状況の把握が必ずしも十分でなかったりなどしていて、施設、設備等が十分利活用されていない状況となっていた。
 これらの事態は、主として相手国の事情及び自然環境の変化に左右されることの多い水産業に特有の事情によるものではあるが、我が国援助実施機関においても、水産関連の援助が我が国と相手国との友好関係の維持、資源確保等の観点から今後も継続して実施されると見込まれることにかんがみ、以下の措置を一層充実させる必要がある。
(ア) 事業実施地域の水産業の現状、自然環境等を的確に把握するための事前調査を充実させる。
(イ) 施設の規模、設備の内容等が現地の実状を適切に反映しているか、前提条件となっている相手国の実施する施設整備等の計画が妥当かつ現実的であるかを十分検討する。
(ウ) 施設等の完成後においても管理運営体制等に十分に留意し、相手国事業実施機関に対して必要な助言等を行う。

(3) 上水道関連事業

 上水道関連事業については、相手国が設計変更を行ったことなどの結果、わが国の援助により調達された資材に過不足が生じ使用されていない資材が多数見受けられたり、工事が進ちょくしておらず給水量が計画値を大幅に下回っていたりして、我が国からの援助で建設された取水・浄水施設等が十分に利用されていない状況となっていた。
 上記の事態は、主として相手国の事情によるものであるが、我が国援助実施機関においても、資材の調達に係る援助については、相手国の工事が当初計画通りに施工され、調達された資材が有効に利用されていることを確認しつつ、援助により建設された施設が十分にその設備能力を発揮できるよう相手国事業実施機関に対して必要な助言等を行い、援助の効果が十分発現するよう更に努力する必要がある。