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  • 平成9年度|
  • 第3章 国会からの検査要請事項及び特定検査対象に関する検査状況|
  • 第2節 特定検査対象に関する検査状況

石油等の探鉱投融資事業について


第8 石油等の探鉱投融資事業について

検査対象 石油公団
科目 一般勘定
事業の概要 海外等で石油及び可燃性天然ガスの探鉱事業を実施する会社に対する出資及び融資
投融資先 石油等の開発会社283社
出資累計額 7399億余円
融資累計額 1兆0392億余円
  計 1兆7792億余円
9事業年度末投融資先
石油等の開発会社135社

出資残高 5123億余円
融資残高 6064億余円
  計 1兆1187億余円

1 事業の概要

(探鉱投融資事業の制度の概要)

 我が国は、主要先進国に比べ石油の輸入依存度が高く、エネルギー供給構造がぜい弱なものとなっている。このような状況にかんがみ、昭和42年10月、通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の答申に基づき、石油の自主開発を推進するため、石油公団(53年6月以前は石油開発公団。以下「公団」という。)が設立された。
 石油の開発には巨額な資金を必要とするばかりでなく、商業油田の発見率は数%程度と極めて低く、商業生産への移行後にも原油価格(以下「油価」という。)や為替相場の変動の影響を受けるなど多大なリスクを伴っている。
 このため公団では、海外等で石油及び可燃性天然ガス(以下「石油等」という。)の探鉱事業を実施する会社(以下「開発会社」という。)に対する様々な財政支援を行っている。
 すなわち、探鉱段階では、開発会社に対し、石油税を原資とする石炭並びに石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計などからの政府出資金と石油開発事業から生じた配当金等を財源とし、出資及び融資(以下「投融資」という。)という方法で資金の提供(以下「探鉱投融資事業」という。)を行っている。
 また、開発・生産段階では、必要な資金の調達は、通常日本輸出入銀行と市中銀行との協調融資を受けることによって行われ、公団は、その融資に対して債務保証を行っている。
 そして、公団は、業務方法書に基づき、開発会社が探鉱を行っている期間中は、石油等の生産がなく販売収入も生じないので、探鉱期間中に支払期限が到来する貸付金利息については、貸付金元本に組み入れる措置(以下「元加」という。)を執ることができることとしている。また、石油開発に伴う高いリスクにかんがみ、事業が失敗に終わった場合又は不測の事態により生産が著しく減退したなどの場合には、投融資に係る開発会社の債務を減免することができることとしている。

(探鉱投融資事業の実績)

 公団が設立以来投融資を行った開発会社は283社であり、50年代半ばから60年代初めにかけて投融資額が大幅に増加した結果、これらの会社に対する平成9事業年度末の投融資額の累計は1兆7792億余円(出資累計額7399億余円、融資累計額1兆0392億余円)となっている。
 このうち、9事業年度末現在で投融資残高がある開発会社は135社であり、これには、生産中のもの42社、生産準備中のもの5社、探鉱中のもの68社などがある。そして、9事業年度末の投融資残高は1兆1187億余円で、投融資残高の約70%が現在生産中の開発会社に対するものとなっている。また、9事業年度末の債務保証残高は、1636億余円となっている。
 我が国の自主開発原油の輸入量は、このような公団の支援策もあって、公団が設立された昭和42年度の日量27万バレル(総輸入日量216万バレルの12.7%)から、平成9年度には同69万バレル(同461万バレルの14.9%)に増加している。

2 検査の背景及び着眼点

 本院では、探鉱投融資事業については、探鉱事業に失敗し長期間休眠状態に陥っている開発会社について、これを放置しておくことは公団の不良資産の累増を招くことになる旨を、昭和51年度決算検査報告において「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記したところである。
 そして、その後の公団の探鉱投融資事業の決算内容についてみると、事業収入は油価の上昇と円安に支えられた60年までは順調に推移していたが、61年以降は油価の低迷と円高の進行により開発会社の経営が悪化したため、公団の受取配当金が急激に減少するとともに、生産中の開発会社の資金繰りの悪化に対処するため、開発会社が支払うべき貸付金利息の支払を猶予(以下「棚上げ」(注) という。)し、その収益計上を停止する措置を執ったことから貸付金利息も減少している。
 このような状況に対して、昨年末以来、国会等において本事業に関する論議がなされ、生産中の開発会社の経営状況や公団の財務状況等に社会的関心が高まっている。
 そこで、生産中の開発会社の経営状況が公団の探鉱投融資事業に係る財務状況に大きな影響を与えている状況を踏まえ、特に生産中の開発会社の経営状況に着目し、これら開発会社からの受取配当金、貸付金利息等の事業収入を重要な財源とする探鉱投融資事業が適切に運営されているかに着眼して検査した。

(注)  棚上げ 融資契約につき、利息債務の弁済を猶予する旨の変更を加えるもので、〔1〕 直ちには回収できないが、長期的には回収の可能性が高いと判断して収益計上しているもの(以下「長期未収金」という。)と〔2〕 回収の可能性が低いと判断して収益に計上せず財務諸表の注記事項としているもの(以下「非計上棚上利息」という。)とがある。

3 検査の状況

(1) 開発会社の経営状況

 生産中の開発会社42社のうち、公団が出資している39社の経営状況についてみると、剰余金を有する会社は11社で、うち8社は配当を実施しているが、残りの28社中27社には欠損金が生じており、うち9社は債務超過の状態にある。また、10社については貸付金利息の棚上げ措置が講じられている。
 そして、第1次及び第2次石油危機前後の極めて緊迫した石油情勢の中で、高い油価と当時の為替相場を前提に設立された開発会社の経営は苦しい状況にあり、この中には、石油の安定供給確保のために政府が積極的に支援した事業規模の大きないわゆるナショナルプロジェクトと称される会社が5社ある。このうち、3社は上記の欠損金が生じている開発会社に該当し、残りの2社は現在探鉱活動を休止している。これら5社に対する9事業年度末の投融資残高は合計6760億余円で、公団の投融資残高の約60%を占めている。
 これら5社の設立の経緯及び現在の経営状況は、次のとおりである。

ア 生産中の会社

(ア) ジャパン石油開発株式会社(昭和48年2月設立)

設立経緯及び経営状況 第1次石油危機直前に設立。 61年以降の油価及び為替相場の変動により、経営は大幅に悪化しているが、資金収支は黒字である。現在、協調融資への返済を優先しており、それが完了すれば公団に対する返済額は増加する見込みである。
石油公団出資残高 1295億円
同   融資残高 2432億円
同  長期未収金 617億円
同 債務保証残高 61億円
  (合計) (4406億円)
同 非計上棚上利息 1149億円
48百万ドル
同 元加融資累計額 1135億円
  繰越欠損金 1376億円

(イ) 日本インドネシア石油協力株式会社(昭和54年9月設立)

設立経緯及び経営状況 第2次石油危機勃発直後に設立。発見された資源がガスが主体であったことと埋蔵量が小規模であったことにより、経営は厳しい状態にある。現在の油価、為替相場を前提とすると、配当が実施される可能性は小さいが、ガスを販売することにより協調融資及び公団に対する返済は進んでいる。
石油公団出資残高 293億円
同 融資残高 116億円
同 債務保証残高 17億円
(合計) (427億円)
同 元加融資累計額 80億円
   繰越欠損金 143億円

(ウ) 日中石油開発株式会社(昭和55年4月設立)

設立経緯及び経営状況 第2次石油危機当時日中初の合作事業として設立。油価及び為替相場の変動に加え、埋蔵量が予想を下回ったことから経営悪化。公団への利息を棚上げしても資金収支の黒字は極めて少なく、近い将来採算割れの可能性がある。
石油公団出資残高 645億円
同 融資残高 397億円(ほか減免134億円)
同 債務保証残高 226億円
同求償権(代位弁済)残高 120億円(ほか求償権償却36億円)
(合計) (1389億円)
同 非計上棚上利息 244億円
同 元加融資累計額 120億円
   繰越欠損金 511億円

イ 探鉱活動を休止している開発会社

(ア) サハリン石油開発協力株式会社(昭和49年10月設立)

設立経緯及び経営状況 第1次石油危機直後に設立。取得した鉱区内では生産移行に足りるだけの可採埋蔵量が発見できず、事業が休止状態となる。その後、鉱区を追加して新事業を開始するために設立された新会社に対して、所有していた権益を譲渡。その対価の支払は新事業の収入から支払われる予定。それに伴う債権管理業務のため存続を続けている。
石油公団出資残高 135億円
同 融資残高 172億円(ほか減免150億円)
(合計) (308億円)
同 非計上棚上利息 150億円
同 元加融資累計額 151億円
   繰越欠損金 209億円

(イ) 北極石油株式会社(昭和56年2月設立)

設立経緯及び経営状況 第2次石油危機後油価高騰の中で設立。カナダ企業と4億カナダドルの融資買油契約を締結し、10億バレルを超す可採埋蔵量を確認しているが、油価低迷のため開発移行の目途が立っていない。契約では融資元本は平成42年末に返済。生産が開始された場合の報酬原油については永久に権利を所有。現在の主な業務は債権管理のみである。また、毎年50億円を超す公団に対する支払利息(元加分)が発生している。
石油公団出資残高 292億円
同 融資残高 980億円
(合計) (1272億円)
同 元加融資累計額 624億円
  繰越欠損金 47億円

 上記5社のうち、日中石油開発株式会社、サハリン石油開発協力株式会社及び北極石油株式会社の3社については、通商産業大臣の指示により設置された石油公団再建検討委員会(以下「検討委員会」という。)が平成10年9月に公表した報告書において整理の方針が打ち出されている。

(2) 公団の投融資事業に係る財務状況

(ア) 投融資損失引当金の引当額と計上基準

 上記のように、仮に日中石油開発株式会社ほか2社を整理したとすれば、これら3社に係る公団の損失は2千数百億円に達することが見込まれる。
 公団では、このような損失に備えるため投融資損失引当金を設定しており、9事業年度末の残高は936億余円となっている。しかし、上記3社の現状からみても、同引当金は、今後大幅な積増しが必要になると認められる。
 また、引当金の計上基準は繰入限度額について規定しているだけで、具体的にどのように将来の損失を見積もるのかについては示しておらず、公団では実際の運用に当たり、毎事業年度の収入から一般管理費などを差し引いた額を繰り入れてきた。
 このため、投融資残高等に対する同引当金の割合は昭和63事業年度の19.9/100を最高として、その後は漸減し平成9事業年度末では同引当金の繰入限度50/100に対して7.7/100に過ぎない状況となっている。

(イ) 事業収入の内容と経理処理

 公団の事業収入の累計は、9事業年度末で7262億余円となっている。
 この事業収入の主なものは、次表のとおり貸付金利息と受取配当金であるが、貸付金利息には、前記の元加によって貸付金債権となった利息(以下「元加利息」という。)及び開発会社の資金繰り悪化のため生じている長期未収金が含まれている。これらは貸付金利息の約80%、総収入の約50%を占めている。

事業収入の内訳表

事業収入7262億円
貸付金利息
4672億円
受取配当金
1609億円
その他
981億円
元加利息
3037億円
長期未収金
809億円
実収利息等
826億円

 元加利息は、融資元本の一部として本来回収されるものであるが、開発会社が探鉱途中で事業を終結する場合は、探鉱期間中に負担していた元加利息は出資金及び実際に投下された融資元本と同様に損失処理される。また、長期未収金よりも元本の返済が優先されるため、長期未収金の回収見通しはその後の油価及び為替相場の変動によって左右される。このような収入を収益に計上し債権を増加させる経理処理は、事業実施期間中の収益を増加させることとなる一方、回収ができないまま事業が長期化した場合には、終結時の損失を拡大させるものである。
 前記(1)の北極石油株式会社を例にとれば、公団が実際に投下した融資資金は356億余円であるが、事業が長期化したことにより毎年の収益に計上された元加利息は累計で624億余円に上り、仮に今解散した場合に損失処理の対象となる融資残高は980億余円に拡大することとなる。

4 本院の所見

 石油開発事業は、前記のとおり、商業油田の発見率が極めて低く、しかも探鉱から生産に移行して収入を得るまでには長期間を要することから、この間、利息が累増するとともに、開発会社の経営は、油価や為替相場の変動の影響を受けやすい構造となっている。また、巨額の初期投資を必要とし、これを回収するためには、決算上損失が生じても、資金収支が黒字である限りは操業を続けた方が有利となる場合が多い。このため、多数の開発会社が損失を出しながらも操業を続け、借入金の返済を行っている。
 そして、前記のとおり、開発会社に対する投融資額は大幅に増加しており、元加利息もこれに伴って多額となってきている。また、生産段階に達しているものの経営が悪化している会社も生じており、これに伴って多額の長期未収金も発生している。
 このような探鉱投融資事業の状況の下で、通商産業省及び公団においては、事業の採択等に当たって十分慎重な検討を加える必要があることはもちろんであるが、事業実施後、開発会社、特に生産中の開発会社について、油価や為替相場の動向を勘案し、その経営状況を十分見極めて資金回収の可能性を検討し、その結果によって適切な額の投融資損失引当金を計上したり、開発会社の整理等を考慮したりするなど、的確な措置を講ずる要がある。
 また、前記の検討委員会の報告書では、探鉱投融資事業の基本的な在り方として、政府出資金を元手とした資金と開発会社からの配当金や貸付金利息等を同事業に再投資して、資金の回転を図ることが期待されるとしている。そして、公団において、事業採択時の審査を一層適正に行うこと、資金収支見通しを分析した結果開発会社を整理すること、投融資額の回収の可能性のない額については適切に引当金を計上する方法を採用すること、これによって当面新たに投融資損失引当金に多額の積増しが必要となること、徹底した情報公開と会計処理基準の改善を行うことなどとしている。
 本院としては、通商産業省及び公団において、検討委員会の報告書に沿って進められる探鉱投融資事業の改善策について引き続き注視していくこととする。