ページトップ
  • 平成10年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

河川改修事業の実施について


第2 河川改修事業の実施について

検査対象 建設省
会計名及び科目 治水特別会計(治水勘定) (項)河川事業費
部局等の名称 建設省東北地方建設局ほか1地方建設局、秋田県ほか4府県
事業名 一般河川改修、総合治水対策特定河川改修、広域河川改修
事業の概要 洪水等による災害発生の防止を図るなどのため河川を総合的に管理し、公共の安全を保持することなどを目的として、堤防の築造、護岸の整備、橋りょうの架け替え等を行う事業
堤防等の整備に着手できない箇所がある河川 旧北上川ほか6河川
上記河川の改修のために国が支出した額 359億8847万円(平成9、10両年度)
(うち国庫補助金 4億4429万円)

1 事業の概要

(河川改修事業の概要)

 建設省では、河川法(昭和39年法律第167号。以下「法」という。)に基づき、洪水等による災害発生の防止を図るなどのため河川を総合的に管理し、公共の安全を保持することなどを目的として、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う国庫補助事業により、堤防の築造、護岸の整備、橋りょうの架け替えなどの河川改修事業を実施している。

(河川管理の仕組み)

 河川のうち国土保全上又は国民経済上特に重要な水系に係る河川で建設大臣が指定した河川は一級河川とされ、法第9条の規定に基づき、建設大臣がその管理を行うこととなっている。そして、建設大臣が指定する区間(以下「指定区間」という。)については、当該河川の部分の存する都道府県の知事に、その管理の一部を行わせることとなっている。

(河川の整備計画)

 建設省及び都道府県では、管理する一級河川について、過去の主要な洪水や災害の発生状況などを総合的に考慮し、流下能力を増大させるための整備を行うことなどにより、治水安全度の向上を図ることとしている。このため、建設省では河川整備基本方針及び河川整備計画(以下、これらを「基本方針等」という。)を定め、また、都道府県ではこの基本方針等を踏まえ、管理する指定区間のうち、河川の改良工事を計画的に実施することが特に必要な区間について河川改良工事全体計画(以下「全体計画」という。)を定めている。この基本方針等及び全体計画では、過去の主要な洪水、水害実績、流域の人口、資産の集積、今後発生すると見込まれる豪雨などを勘案し、基準地点等で河道を流下する計画上の最大流量(計画高水流量)、この計画高水流量が計画上の河道を流下するときの最高水位(計画高水位)、この計画高水流量を安全に流下させるために必要な堤防の高さなどを定めている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 豪雨等による水害は毎年度発生しており、これによる平成8、9両年度の家屋、田畑等の被害額は約4340億円(注1) と多額に上っている。そこで、水害の発生を防止し、国民の生命、財産を守るために行われている河川改修事業の実施状況に着眼して検査した。

(検査の対象)

 東北地方建設局ほか7地方建設局(注2) 管内の19工事事務所及び北海道ほか21府県(注3) 管内の49土木事務所等 (以下、これらの工事事務所及び土木事務所等を合わせて「工事事務所等」という。)計68工事事務所等が管理する一級河川計408河川(延長計3,271km)の河川改修事業について検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、東北、関東両地方建設局及び秋田県ほか4府県(注4) の7工事事務所等が管理する旧北上川ほか6河川 (延長計77.09km)において、市街地等で人口が集中し資産価値が高い地区で、河川改修事業に必要な用地の買収等ができないなどのため、基本方針等又は全体計画に定められた堤防等の整備に着手できない箇所が7箇所(未整備堤防等の延長計16,108m)見受けられた。これらの箇所で計画高水位に達する洪水等が発生した場合には、これに対応することができない状況になっている。
 上記の7工事事務所等がこれら7河川の河川改修事業(直轄事業においては当該河川の属する水系の河川改修事業)のために支出した額は、9、10両年度において、直轄事業で355億4417万余円、国庫補助事業で9億6046万余円(国庫補助金4億4429万余円)となっている。
 これら堤防等の整備に着手できない事態を態様別に示すと次のとおりである。

(1) 地権者の協力が得られないなどのため河川改修事業に必要な用地の買収等ができないもの

4河川 未整備の堤防等4箇所 延長計2,980m

<旭川基幹河川改修事業>

工事事務所等名 河川名 未整備の護岸の延長
秋田県秋田土木事務所 旭川 860m

 秋田県秋田土木事務所では、秋田市内を流れる旭川(指定区間の延長21.7km)のうち旧雄物川合流点より上流側8.2km区間について、全体計画に基づき、昭和35年から河川改修事業を実施してきており、現在、堤防等は約78%が完成している。
 全体計画によれば、秋田市の中心部で繁華街となっている同河川の右岸側の川反地区延長860mについては、現況河川を3m程度拡幅し、河床を掘削して河積を拡大することにより、河川の流下能力の向上を図ることとしている。
 しかし、この地区は全体計画の作成後間もなくビル化が急速に進み、40年代には河川に沿って商店等の建物が密集して建設されたため、河川改修に必要な用地を確保するには建物の移転等に多額の用地費や補償費を必要とすると見込まれ、かつ、その交渉にも相当の期間を必要とすると見込まれている。
 このため、同事務所では、全体計画の見直しや都市計画事業との連携により事業の進ちょくを図ることを検討しているが、依然として具体化しておらず、必要な護岸の整備に着手できない状況になっている。

<鶴見川総合治水対策特定河川改修事業>

工事事務所等名 河川名 未整備の堤防の延長
関東地方建設局京浜工事事務所 鶴見川 640m

 関東地方建設局京浜工事事務所では、神奈川県横浜市及び川崎市の両市内を流れる鶴見川の河口より上流側17.4km区間について、基本方針等に基づき、昭和14年から河川改修事業に着手し、59年からは中流部において洪水の際に一時的に水を貯留する多目的遊水地の整備を実施しており、現在、堤防は約96%が計画高水位以上の高さで概成している。
 しかし、同河川の河口付近で人口、住宅等が密集し、高潮の影響を受ける区間でもある横浜市鶴見区の右岸側640mの地区の堤防予定地には、以前から住民が住宅、工場等を建設し、現在も57戸の住宅等が残っている。
 このため、同事務所では、53年に堤防の整備に必要な土地の境界確定作業に着手しているが、平成11年2月時点でなお一部の土地の確定作業が完了しておらず、前記のように同河川の堤防はほぼ全区間が概成しているのに、この地区については必要な堤防の整備に着手できない状況になっている。

<藤ノ木川一般河川改修事業>

工事事務所等名 河川名 未整備の護岸の延長
滋賀県大津土木事務所 藤ノ木川 1,180m

 滋賀県大津土木事務所では、大津市内を流れる藤ノ木川(指定区間の延長2.3km)のうち琵琶湖への流入点より上流側1.29km区間について、全体計画に基づき、昭和47年から河川改修事業を実施してきており、護岸は全体計画の区間のうちの下流側700m(約54%)の区間が61年までに完成している。
 全体計画によれば、同河川は屈曲しているうえ現況河床の位置が周辺地盤より高いいわゆる天井川であり、護岸が完成している区間より上流側の区間については、流下能力も低いことから、その向上を図るため、現況河川のバイパスとして新たに590m(左右両岸の延長1,180m)の河川を開削することとし、これに必要な用地の買収を行うこととしている。
 しかし、同事務所では、62年にこの区間の地権者に対して説明会を開催するなどしているが、地権者の理解を得ることができず、その後も事態は進展していない。
 このため、61年以降10年以上にわたって河川改修事業が全く進展しておらず、市街化区域で新興住宅地となっているこの区間は、護岸の整備に着手できない状況になっている。

河川改修事業の実施についての図1

<落堀川基幹河川改修事業>

工事事務所等名 河川名 未整備の堤防の延長
大阪府富田林土木事務所 落堀川 300m

 大阪府富田林土木事務所では、松原市内を流れる落堀川(指定区間の延長3.7km)のうち東除川放水路への合流点より上流側3.7km区間について、全体計画に基づき、昭和61年から河川改修事業を実施してきている。この事業は、この河川の本川である大和川の洪水時にその影響で水位が上昇した落堀川の水が住宅地等に流れ込むことを防止するなどのために実施しているもので、現在、同河川の堤防等は約84%が完成している。
 しかし、住宅等が密集している若林地区の左岸側300mについては、61年に同事務所がこの地区の関係者に事業計画を説明したものの、その理解が得られなかった。
 このため、同事務所では、その後も引き続き関係者との交渉を継続しているが、平成11年8月時点においても用地測量についてすべての地権者の同意を得るには至っておらず、必要な堤防の整備に着手できない状況になっている。

(2) 河川を横断して設置されている橋りょうの架け替えが進まないもの

2河川 未整備の堤防等2箇所 延長計5,628m

<田付川一般河川改修事業>

工事事務所等名 河川名 未整備の堤防の延長
福島県喜多方建設事務所 田付川 28m

 福島県喜多方建設事務所では、喜多方市内を流れる田付川(指定区間の延長26.8km)のうち同市豊川町米室の高吉橋より上流側5.7km区間について、全体計画に基づき、昭和56年から河川改修事業を実施してきており、現在、堤防等は約86%が完成している。
 全体計画によれば、同市の市街地にある田付川橋りょう(鉄道橋)の上下流延長28mの区間については、流下能力の向上を図るため、この橋りょうの位置で現況の左岸側堤防を約14m後方に移築して河川を拡幅することとしている。そして、このため、橋りょうの架け替えを行うこととしている。
 しかし、橋りょうの架け替えには相当の期間と多額の予算が必要になると見込まれること、また、鉄道事業者との協議も必要であることから、橋りょうの架け替えが行われていない。
 このため、橋りょうの上下流28m区間については、依然として堤防の整備に着手できない状況になっている。

<太田川基幹河川改修事業>

工事事務所等名 河川名 未整備の堤防等の延長
新潟県長岡土木事務所 太田川 5,600m

 新潟県長岡土木事務所では、長岡市内を流れる太田川(指定区間の延長12.5km)のうち同市左近町より上流側延長5.4km区間について、全体計画に基づき、昭和47年から河川改修事業を実施してきている。この事業は、河川の拡幅及び河床の掘削により河積を拡大して、必要な流下能力を確保することを目的として実施しているものである。そして、堤防等の整備は全体計画区間のうちの下流側から進めており、下流側の0.8km区間については、左右両岸とも全体計画どおり完成し必要な流下能力を確保している。
 全体計画によれば、この0.8km区間の上流0.8kmの地点には、鉄道橋が3橋架設されており、これらの橋りょうを架け替えることにより河川を拡幅し河床を掘削することとしている。
 しかし、これらの橋りょうの上流部で、53年6月の豪雨により浸水被害が発生し、この上流部まで早期に改修する必要が生じたが、これらの橋りょうの架け替えには、相当の期間と多額の予算が必要になると見込まれること、また、鉄道事業者との協議も必要であることから、橋りょうの架け替えが行われていない。
 このため、同事務所では、全体計画どおり堤防等の整備が完了した前記の0.8km区間の上流2.8kmの区間(左右両岸の延長5,600m)については、やむを得ずこれらの橋りょうを架け替えないで確保できる流下能力(全体計画上必要な流下能力のおおむね6割程度)により、河川改修を暫定的に実施しており、依然として全体計画に基づく堤防等の整備に着手できない状況になっている。

河川改修事業の実施についての図2

(3) 関連する街づくり計画が具体化しないため河川改修事業に着手できないもの

1河川 未整備の堤防1箇所 延長7,500m

<旧北上川一般河川改修事業>

工事事務所等名 河川名 未整備の堤防の延長
東北地方建設局北上川下流工事事務所   旧北上川 7,500m

 東北地方建設局北上川下流工事事務所では、宮城県石巻市内を流れる旧北上川の河口より上流側35.4km区間について、昭和40年代から50年代にかけて、石巻市街の広い範囲に被害を与えると判断される箇所について堤防の整備を行った後、旧北上川と 北上川本川の分流点で、旧北上川の洪水時に北上川本川から流入する水を遮断する分流施設を整備する事業を実施しており、現在、その堤防は約83%が計画高水位以上の高さで概成している。
 基本方針等によれば、石巻市の中心街にある中央地区の左岸4,400m、右岸3,100mについては、現況より2mから3m程度高い堤防を築造することとなっている。
 しかし、この堤防を築造するためには、河川に沿って10mから20m程度の幅で堤防用地の買収が必要となっており、計画どおり事業を実施した場合には、道路敷の買収により車両等の通行に支障を及ぼすこととなったり、歴史的な景観となっている同地区周辺の港湾風景に影響を与えるおそれがあったりするなどの問題が生じることとなる。
 このため、同事務所では、関係機関との間でこれらの問題を解消できるような河川改修事業と街づくりを一体とした計画を作成するための努力を続けてきているが、計画は具体化しておらず、依然として必要な堤防の整備に着手できない状況になっている。

河川改修事業の実施についての図3

3 本院の所見

 建設省では、河川改修事業の実施により、各河川について治水安全度の向上に努めてきているところであり、河川改修事業の進ちょくを図るため、事業の重点化、効率化を進めるなどの努力をしてきているところである。
 しかし、前記のように、人口が集中し資産価値が高い市街地等を流れる7河川において、地権者の協力が得られないなどのため河川改修事業に必要な用地の買収等ができなかったり、橋りょうの架け替えが進まなかったりなどしているため、堤防等の整備に着手できず、治水安全度の向上を図ることができない状況となっている。
 このような状況でこのまま推移すると、これらの箇所で計画高水位に達する洪水等が発生した場合には、これに対応することができない状況になり、国民の生命、財産を守るため実施している河川改修事業の目的が十分に達成できないことになると認められる。
 ついては、建設省においては、次のような対策を講ずるとともに、指定区間の河川を管理している地方公共団体を指導するなどして、事態の早期解消を図ることが望まれる。

ア ビル化が急速に進んだことなどのため護岸の整備が困難となっている旭川については、早急に計画の見直しを検討するとともに必要に応じ秋田市の協力を得るなどして事業の実施方針を早期に決定すること

イ 地権者の協力が得られないなどのため用地の買収等ができない鶴見川、藤ノ木川及び落堀川については、河川改修事業の必要性について関係者の理解が得られるようなお一層積極的に交渉を行うとともに、関係機関との緊密な調整を行いその協力を得るなどして事態の解消に努めること

ウ 鉄道橋の架け替えが進まない田付川及び太田川については、架け替えのための体制を整備し、鉄道事業者との架け替えのための協議が早期に開始できるよう努めること

エ 街づくり計画との調整を必要としている旧北上川については、河川改修事業と街づくりを一体とした計画の作成の促進に努めること

(注1)  約4340億円 「水害統計」(建設省河川局)より算出した額

(注2)  東北地方建設局ほか7地方建設局 東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州各地方建設局

(注3)  北海道ほか21府県 北海道、京都、大阪両府、秋田、福島、茨城、群馬、埼玉、新潟、石川、静岡、滋賀、兵庫、奈良、岡山、広島、徳島、香川、高知、大分、宮崎、鹿児島各県

(注4)  秋田県ほか4府県 大阪府、秋田、福島、新潟、滋賀各県