ページトップ
  • 平成10年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

廃棄物処理施設整備事業による焼却処理施設等の建設に係る工事請負契約について


第5 廃棄物処理施設整備事業による焼却処理施設等の建設に係る工事請負契約について

検査対象 厚生省
会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省 (項)環境衛生施設整備費
(項)北海道環境衛生施設整備費
(項)沖縄開発事業費
(項)離島振興事業費
事業の概要 廃棄物処理施設整備事業によりごみ焼却処理施設等を建設した地方公共団体に補助金を交付するもの
事業主体 都1、市50、一部事務組合47、計98事業主体
国庫補助金 2295億余円(平成5年度〜10年度)
上記事業に係る建設工事 契約方式 制限付一般競争契約、指名競争契約又は随意契約
契約年度 平成5年度〜9年度
契約件数 103件
契約金額 1兆4604億余円

1 検査の背景

 厚生省では、廃棄物処理施設整備緊急措置法(昭和47年法律第95号)に基づいて策定された廃棄物処理施設整備計画において、ごみの減量処理率の目標を定めるとともに、ごみの排出抑制や排出時の分別の促進などによりリサイクルを推進する循環型社会への転換を図ることとしている。また、近年、不法投棄や廃棄物焼却施設等から排出されるダイオキシン類など深刻な環境問題に直面し、その対応に迫られている。このため、これらの事態に対処しつつ、今後の廃棄物対策のあり方について総合的な検討を進める中で、ごみ処理施設の集約化・広域化や、より高度なダイオキシン対策等を図ることとして、地方公共団体が実施する廃棄物処理施設整備事業に対して多額の財政援助を見込んでいる。
 そして、このうちごみの焼却処理施設等の整備については、環境への対応が重視され、また焼却処理技術の高度化・多様化、新技術の普及が進み、設置する施設の構造も複雑、高度なものとなり、これら施設を整備する市町村等の財政負担は、その管理・運営経費を含め極めて大きいものとなっている。このような状況において、環境の保全や施設の設置などを巡る社会的な関心が著しく高まっている。

2 制度の概要

(1) 国の技術的、財政的援助について

(国及び地方公共団体の責務)

 廃棄物の処理に関しては、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)において、国民及び事業者の責務とともに、国及び地方公共団体の基本的な責務が次のように定められている。

〔1〕  市町村は、その区域内のごみ処理に関する計画を定め、これに従って収集、運搬及び処理しなければならない。そして、事業の実施に当たっては、その能率的な運営に努めなければならない。

〔2〕  都道府県は、市町村に対し、その責務が十分に果たされるように必要な技術的援助を与えることに努めなければならない。

〔3〕  国は、廃棄物に関する情報の収集、整理及び活用並びに廃棄物の処理に関する技術開発の推進を図り、並びに国内における廃棄物の処理に支障が生じないよう適切な措置を講ずるとともに、市町村及び都道府県に対し、その責務が十分に果たされるように必要な技術的及び財政的援助を与えることに努めなければならない。

(補助金の交付)

 国は、廃棄物処理法等に基づき、ごみ処理施設については、その設置に要する費用の額のうち、厚生大臣が定める基準に基づいて算定した額に、施設の存する地域区分に応じて4分の1から2分の1を乗じて得た額以内の額を補助することができるとされている。そして、「廃棄物処理施設整備費の国庫補助について」(昭和53年厚生省環第382号厚生事務次官通知。以下「交付要綱」という。)などにおいて、一般廃棄物処理施設整備事業を実施する市町村及び一部事務組合等(以下「事業主体」という。)に対して、事業主体が定めたごみ処理に関する計画等に則り、公害防止条件等に関する法令等の規定による技術上の基準に適合した事業を対象として、予算の範囲内において交付するものとされている。また、事業主体は都道府県を通じて補助申請を行い、国は、都道府県に実績報告の審査等の事務処理を委任することとなっている。
 この補助金の交付額は、平成5年度から9年度に着工した事業については、建設工事のうち焼却設備の工事費の額、又は補助対象とする施設の焼却設備の規模(1日当たりごみ焼却処理トン数。以下「整備規模」という。)に応じてこれに1t当たりの所定の単価を乗じるなどして算定した額を補助対象事業費として、これに基づいて算定することとなっている。
 そして、10年度以降に着工した事業については、交付要綱が改正され、補助対象とする整備規模を原則として100t以上とするとともに、建設工事のうち焼却設備の工事費の額を補助対象事業費として、これに基づいて算定することとなっている。

(2) 工事請負契約関係業務の取扱いについて
 厚生省の都道府県に対する各種通知によれば、事業主体は、補助事業の実施に当たり、焼却処理施設等の建設工事に係る工事請負契約関係業務について、以下のように取り扱うこととなっている。

(予定価格の算定、管理)

 昭和52年度の新規補助事業の申請に関する事務連絡(以下「52年事務連絡」という。)では、「契約は、競争入札又は指名競争入札とすること。ただし、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第167条の2の規定に該当する場合には随意契約によることができるものであること。この場合には、随意契約とする具体的な理由を明らかにすること。」としている。そして、「契約予定価格は、当該市町村が作成した発注仕様書に基づいて3社以上の工事施工業者から見積仕様書及び設備工事別見積額を提出させ、各設備工事の別に中位の見積額を出し、これを集計した額とすること。ただし、他の市町村における類似した施設の実施例などを参考にできる場合には、これによることができるものである。」としている。
 また、環境衛生施設整備事業に係る工事請負契約関係業務の適正化について(昭和58年環水第107号水道整備課長、環整第93号環境整備課長連名通知。以下「58年通知」という。)では、「予定価格及び補助事業に係る単価表については、従来にもまして厳正な管理に努めること。特に予定価格に係る秘密の保持については、いやしくも周囲から疑惑を持たれたりすることのないようなお一層徹底すること。」としている。

(入札の参加者数)

 58年通知では、「競争参加者の指名は、工事の種類、内容(特殊な施工技術の必要性の有無)、建設業者の能力等を勘案し適切な業者を選定するものとするが、なるべく多数の業者を指名するよう配慮すること。この場合において、形式的、画一的に流れることがないよう配慮すること。」としている。そして、「工事請負業者の指名及び決定の公正を確保するため、合議制の審査機関等において競争参加者の指名審査を行うこと。競争参加者の指名に当たっては、指名基準等を設け、基準に照らして適確な運用に努めること。」としている。

(最低制限価格制度の運用)

 環境衛生施設整備費(水道施設及び廃棄物処理施設)補助事業の適正執行について(昭和58年環計第65号水道環境部長通知)では、「特別の事情によりやむを得ない場合にあっても予定価格に対し高率な最低制限価格を設定し、競争の利益を失うことのないように努められたいこと。」としている。

3 検査の着眼点及び対象

(検査の着眼点)

 焼却処理施設等の建設工事は、中核となる燃焼設備や排ガス処理設備について工事能力のある施工業者が限られ、それぞれ異なるノウハウを有するなどしており、一般の公共工事とは異なる特質を有している。そして、事業主体においては、これらの設備に係る工事費の積算体系が確立していないことから、施設に必要な性能等を発注仕様書に示し、施設の実施設計及び施工を同一の業者に委ねる性能発注方式を従来から採用している。また、工事請負契約関係業務に関する取扱いは、上記のように、52年事務連絡などで各事業主体に通知されているものの、長年にわたって見直しをされていないものがある。
 そこで、事業主体において、焼却処理施設等の建設に係る工事請負契約関係業務が適正で効率的に実施されているか、特に、予定価格の算定・管理、入札の参加者数、最低制限価格制度の運用は、性能発注方式に適ったものとなっているかに着眼して入札、契約状況等を検査した。

(検査の対象)

 平成5年度から9年度の間に着工した焼却処理施設整備事業のうち、補助対象とする整備規模が100t以上の103施設について、38都道府県(注) における98事業主体が発注した建設工事請負契約103件、契約額の合計1兆4604億余円(5年度から10年度までに交付された国庫補助金計2295億余円)を対象として検査した。

4 検査の状況

(予定価格の算定)

 建設工事請負契約の契約方式についてみると、上記のうち83事業主体における84件は指名競争契約(入札不調により随意契約に移行した5件を含む。)、5事業主体における5件は制限付一般競争契約であるが、10事業主体における14件は随意契約によっていた。
 指名競争契約及び制限付一般競争契約89件のうち、82件は3業者以上(最高14業者、平均6業者)、2件は2業者から見積りを取っていた。残り5件は見積額の確認ができなかったものなどである。
 そして、見積りを取っていた84件のうち58件(69.0%)は、予定価格の算定に当たり、他の事業主体における類似した施設の実施例等を参考としていないとしていた。これは、多くの事業主体では事業経験が少ないこと、全国的な実施例等に関する情報が収集・整理されていないこともあって、事業主体において活用し得る必要な情報を適時適確に把握することが容易でないことなどによる。
 これら84件のうち見積時と予定価格算定時で発注仕様等の変更がなかった65件について、見積各業者の見積平均額に対する予定価格の割合をみると、表1のとおりとなっていた。

<表1:見積各業者の見積平均額に対する予定価格の割合>

割合
予定価格の算定方法
95%以上 90%以上95%未満 85%以上90%未満 80%以上85%未満 75%以上80%未満 70%以上75%未満 70%未満
見積りのみによっていた件数 3 7 11 8 7 5 0 41
実施例等も参考とした件数 1 3 5 4 8 0 3 24
4 10 16 12 15 5 3 65

 そして、事業主体において予定価格の算定に当たり施工業者の見積りのみによって実施例等を参考としなかったとする41件は、予定価格が見積平均額に対し70.6%から99.5%(平均85.0%)となっているのに対し、実施例等も参考としたとする24件は、64.1%から95.0%(平均81.2%)となっていた。このように、見積平均額に対し予定価格は広範に分布してはいるものの、実施例等を参考とした事業主体には、実施例における設計金額と落札金額の比率を参考として予定価格を算定しているものも見受けられ、予定価格が見積平均額に対し低めに設定されている傾向を示している。
 また、これら65件について、見積平均額に対する入札各業者の入札平均額の割合をみると、表2のとおりとなっていた。

 <表2:見積平均額に対する入札各業者の入札平均額の割合>

割合 95%以上 90%以上
95%未満
85%以上
90%未満
80%以上
85%未満
75%以上
80%未満
70%以上
75%未満
70%未満
件数 7 18 16 8 4 7 5 65

 そして、施工業者の入札平均額が見積平均額の95%以上(最高100.0%)となっているものが7件ある一方で、85%未満と低く入札されているものが24件あり、このうち5件が70%未満(最低46.2%)となっていた。このように、施工業者では、発注仕様書の提示を受けて提出した見積額をそのまま入札額とするのではなく、競争入札の段階で、かなり低い額で入札する場合があることを示している。
 上記のような施工業者における見積りや入札の動向を勘案すると、事業主体においては、予定価格の算定に当たって、施工業者から提出させた見積額のみではなく、類似した施設の実施例等を積極的に参考とするなど、より適正な予定価格の算定方法を多角的に検討する必要がある。このため、事業主体では、落札価格の予定価格に対する割合(以下「落札比率」という。)などの入札結果等の公開を自ら促進するとともに、他の事業主体において公開された情報を活用することが必要となっている。

(予定価格の管理)

 上記競争契約89件について、落札比率が85%未満(最低44.7%)となっているものが15件ある一方、95%以上となっているものが66件あり、このうち45件は99%以上(1回目の入札によるもの31件)となっていて全体の半数を占めていた。
 一般に公共工事の場合、予定価格は施工業者の見積りや積算の基準などに即して算定された設計額を基に、最終的には市町村長等の査定等によってその金額が決定されるものである。
 しかしながら、焼却処理施設等の建設工事の場合は、他の公共工事の場合と異なり、前記のとおり、事業主体において積算体系が確立しているものではない。そして、予定価格が施工業者の提出した見積りの平均額に対して広範に分布している状況の中で、このような落札比率の状況にあることを勘案すると、事業主体において予定価格を適切に算定することはもとより、その一層厳正な管理にも十分配慮する要がある。

(入札の参加者数)

 競争契約89件の総入札参加者は18業者であり、契約ごとの入札参加者は最少で2業者、最多で13業者、平均5.7業者で、5業者以下であったものが48件、6業者以上であったものが41件ある。これら入札参加者数と落札比率の状況についてみると、表3のとおりとなっていた。

<表3:入札参加者数と落札比率との対比>
(単位:件、%)

入札
参加者数
競争契約89件 左の件数のうち下記の落札比率に該当する件数
95%以上 85%以上
95%未満
85%未満
件数 割合 件数 割合 件数 割合 件数 割合
2〜 5 48 100 42 87.5 2 4.1 4 8.3
6〜13 41 100 24 58.5 6 14.6 11 26.8
89 100 66 74.1 8 8.9 15 16.8

 そして、入札参加者数が5業者以下で落札比率が95%以上となったものが42件(87.5%)と集中しているのに対し、6業者以上では、95%以上が24件(58.5%)、85%以上が6件(14.6%)、85%未満が11件(26.8%)となっていた。事業主体では、入札参加者の指名等に当たり、事業主体における内規や基準に基づき、主として過去の施工実績などにより業者の施工能力等の審査を行い、所定の手続きを経たうえで入札に参加させる業者を選定したとしている。
 しかしながら、入札参加者が少数となっているものに落札比率の高いものが多くなる傾向が見受けられ、事業主体の指名基準などによって入札参加資格が制約されて参加者数が少なくなるような場合には、入札の競争原理が十分に機能していないおそれがある。

(最低制限価格制度の運用)

 競争契約89件のうち最低制限価格を設定していない45件の中には、本件契約が性能発注方式であることから施工及び品質の確実性を認めて、最低制限価格制度を採用する合理的根拠がないなどとしているものも見受けられた。そして、中央公共工事契約制度運用連絡協議会が採択した「その者により当該契約の内容に適合した履行がされないこととなるおそれがあると認められる場合の基準」の下限とされている予定価格の3分の2を下回る金額で落札しているものが5件あり、そのうち最低の落札比率は44.7%であった。
 一方、最低制限価格が設定されていた44件の設定価格は予定価格の50.0%から87.9%であり、このうち排除された入札者があった5件において、最低の入札額は予定価格の53.2%から72.1%となっていた。
 最低制限価格制度の採用については、地方自治法及び同法施行令により「当該契約の内容に適合した履行を確保するために特に必要があると認めるとき」に限定され、その運用については、事業主体における総合的な判断と責任に委ねられたものとなっている。
 しかしながら、本件建設工事の場合は、前記のとおり、事業主体において工事費の積算体系が確立しているものではなく、予定価格の算定が施工業者の見積額のみによっているものもある。そして、工事の施工能力を有する業者が限られている中で、入札参加者の指名基準が過去の施工実績などを重視したものとなっていることなどを勘案すると、最低制限価格制度の運用如何によっては、契約の内容に適合した履行が期待できる価格で入札した業者を排除する結果となる場合があることに十分留意する必要がある。
 以上のとおり、本件建設工事について、技術的な蓄積が乏しかったり、事業の執行体制が脆弱であったりする事業主体が依然として一部において見受けられる現状にある。
 したがって、補助事業の実施に当たり、関係法令の趣旨に沿って、予定価格の算定・管理、入札の参加者数、最低制限価格制度の運用に係る個々の取扱いをより適切に行わせるとともに、これら一連の事務処理の結果が割高な契約となるなど不合理な事態を招くことがないよう、工事請負契約関連業務の適正で効率的な実施に十分配慮する必要があると認められた。

5 本院の所見

 厚生省においては、環境保全に対する現下の国民的な課題に対応し、今後の廃棄物対策のあり方についての総合的な検討を更に進めるとともに、国民及び事業者の理解と協力の下、国の技術的、財政的援助の計画的、安定的な実施に努める必要がある。そして、技術的進歩の著しい焼却処理施設等の廃棄物処理施設整備事業に対して、今後とも多額の財政援助が見込まれているのであるから、補助金の交付に当たり、事業主体におけるより適正で効率的な施設整備の実施を期す要がある。
 ついては、10年度に補助金の算定方法を見直すなどして施設整備事業の重点化を図りつつある状況にかんがみ、事業主体における事業の執行体制の強化に資するよう、厚生省における次のような施策の推進が望まれる。

(1) 補助事業の実施に当たり、事業主体において、関係法令の趣旨に沿って、予定価格の算定・管理、入札の参加者数、最低制限価格制度の運用を適正に行わせ入札・契約手続の透明性、競争性の一層の向上を図るため、工事請負契約関係業務に関する通知等の見直しを行い、都道府県を通じ事業主体に対し、その取扱いの趣旨を周知すること

(2) 廃棄物処理施設整備事業に関する情報システムを構築するなどして全国的な実施例等の収集・整理を行い、事業主体に対し、予定価格の算定など工事請負契約関係業務の実施に当たってこれらの情報を多角的に活用させるよう、具体的な方策を検討すること

本院としては、環境問題に対する廃棄物処理行政の基盤をなす廃棄物処理施設整備事業における工事請負契約関係業務の適正で効率的な実施について、引き続き注視していくこととする。

(注)  38都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、宮城、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、香川、愛媛、福岡、佐賀、長崎、大分、鹿児島、沖縄各県