会計名及び科目 | 国民年金特別会計 (国民年金勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入 |
部局等の名称 | 社会保険庁 |
国民年金の第3号被保険者制度の概要 | 国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づき、民間サラリーマンや公務員等である第2号被保険者に生計を維持されている配偶者のうち20歳以上60歳未満の者については、第3号被保険者として国民年金の保険料を納付する要がないなどとなっている制度 |
第3号被保険者数 | 1181万余人 | (平成10年度末現在) |
検査対象とした被保険者数の数 | 28,365人 | |
上記のうち種別変更の届出が適正に行われていなかった第3号被保険者の数 | 1,245人 | (平成10、11両年分) |
(平成12年11月16日付け 社会保険庁長官あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。
記
1 国民年金の概要
貴庁では、国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づき、老齢等によって生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的として、老齢基礎年金等の給付を行う国民年金事業を運営している。そして、この給付に要する費用は、被保険者が納付する保険料、一般会計からの国庫負担金、厚生保険特別会計及び共済組合等の年金保険者からの拠出金等により賄われている。
国民年金の被保険者は、20歳以上60歳未満の自営業者等である第1号被保険者、民間サラリーマンや公務員等である第2号被保険者、第2号被保険者に生計を維持されている配偶者(以下「被扶養配偶者」という。)のうち20歳以上60歳未満の者である第3号被保険者の3種類に区分されている。
平成10年度末現在における国民年金の被保険者総数は7050万余人で、このうち第1号被保険者は2042万余人、第2号被保険者は3825万余人、第3号被保険者は1181万余人となっている。
国民年金の保険料については、第1号被保険者が定額の保険料(11年度は月額13,300円)を納付することとされている。しかし、第2号被保険者及び第3号被保険者は、被用者年金制度がその加入者及び被扶養配偶者の数に応じた拠出金を国民年金特別会計に拠出することになっていることから、両被保険者とも国民年金の保険料を納付する要がないこととされている。そして、第3号被保険者であった期間は、将来の年金支給に当たって、保険料を納付した期間に算入されることとなっている。
第3号被保険者に係る被扶養配偶者の認定については、健康保険法(大正11年法律第70号)等における被扶養者の認定の取扱いを勘案して社会保険庁長官(平成12年3月31日以前は厚生大臣)が定めることとなっている。
そして、「被扶養配偶者の認定基準」(昭和61年厚生省発年第35号厚生大臣通知。以下「認定基準」という。)によると、年間収入が130万円(以下、この額を「基準額」という。)未満であることなどをその要件としている。この年間収入には、給与所得、事業所得等の収入で継続して得るもの又はその予定のものをすべて含むとしている。また、給与所得については、給与所得控除前の金額を収入(以下「給与収入」という。)とし、事業所得等については、社会通念上明らかに当該所得を得るために必要と認められる経費(以下「必要経費」という。)をその総収入額から控除した後の金額を収入としている。
第3号被保険者に該当することになった者は、その資格の取得又は種別変更に関する事項を市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)に届け出なければならないこととなっている。市町村長は届出の内容を確認した後、所定の事項を記載した書類を社会保険事務所長等(平成12年3月31日以前は都道府県知事)に送付することとなっている。そして、社会保険事務所長等は、認定基準に基づいて被扶養配偶者であることの認定を行い、その者を第3号被保険者として取り扱うこととしている。
また、第3号被保険者が、年間収入が基準額以上になるなどして認定基準を満たさなくなり、第1号被保険者に該当することになった場合は、これに係る種別変更の届出を市町村長に行わなければならないこととなっている。なお、第2号被保険者に該当することになった場合は、その者を使用している事業主等が当該届出を社会保険事務所等に行わなければならないこととなっている。
2 本院の検査結果
近年、短時間就労者(いわゆるパートタイマー)が増加傾向にある。そして、第2号被保険者の配偶者であって、第2号被保険者に該当しない20歳以上60歳未満の者が短時間就労等により基準額以上の年間収入を得た場合、第1号被保険者として保険料を納付する義務が生じることとなる。
そこで、第3号被保険者の資格を取得している者のうち年間収入が基準額以上となり被扶養配偶者の要件を欠くこととなった者から、種別変更の届出が適正に行われているかどうかに着眼して検査した。
北海道ほか25都府県(注1) の167社会保険事務所管内の65市町(特別区を含む。以下同じ。)及び302事業所において、次のように抽出した被保険者の資格種別が認定基準に照らして適正なものとなっているかについて検査した。
ア 市町における検査
当該市町が備え付けている国民年金被保険者名簿に登載されている第3号被保険者1,145,700人のうちから、26,124人を抽出した。
イ 事業所における検査
配偶者を有する20歳以上60歳未満の女性で、10年又は11年に基準額以上の給与収入があり、かつ、第2号被保険者の資格を取得していない者のうちから2,241人を抽出した。
検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 市町における検査について
(ア) 給与所得に係るもの
北海道ほか11都府県(注2)
の51社会保険事務所管内の65市町において、給与収入を得ているため年間収入が基準額以上となっていた第3号被保険者が、10年で390人、11年で402人、計554人(うち両年に重複している者238人)いた。
これらの者については、第3号被保険者に係る種別変更の届出が適正に行われていないと認められる。
(イ) 事業所得等に係るもの
貴庁では、事業所得等の総収入額から控除する必要経費の範囲を明確に示していないので、所得税法(昭和40年法律第33号)の必要経費等(注3)
の範囲により必要経費控除後の事業所得等の額を計算すると、北海道ほか11都府県(注2)
の41社会保険事務所管内の49市町において、事業所得等により年間収入が基準額以上となっていた第3号被保険者が、10年で60人、11年で69人、計82人(うち両年に重複している者47人。上記の(ア)と重複している者4人。)いた。
これらの者については、第3号被保険者に係る種別変更の届出が適正に行われていないと認められる。
上記(ア)及び(イ)の者が第1号被保険者に該当することになったとして種別変更を届け出て保険料を納付したとすれば、その保険料相当額は、10年分が5946万余円、11年分が6477万余円、計1億2423万余円になる。
イ 事業所における検査について
北海道ほか25都府県(注1)
の128社会保険事務所管内の208事業所において、当該事業所の給与収入により年間収入が基準額以上となっていた第3号被保険者が、10年で398人、11年で486人、計613人(うち両年に重複している者271人)いた。
これらの者については、第3号被保険者に係る種別変更の届出が適正に行われていないと認められる。
これらの者が第1号被保険者に該当することになったとして種別変更を届け出て保険料を納付したとすれば、その保険料相当額は、10年分が5697万余円、11年分が7291万余円、計1億2988万余円になる。
したがって、上記ア及びイの検査において、年間収入が基準額以上となっていた第3号被保険者は、10年で848人、11年で957人、計1,245人(うち両年に重複している者560人)となり、これらの者が第1号被保険者に該当することになったとして種別変更を届け出て保険料を納付したとすれば、その保険料相当額は、10年分が1億1643万余円、11年分が1億3768万余円、計2億5411万余円となる。
前記のように、第3号被保険者の資格要件を欠いているのに種別変更の届出を行わず、納付すべき国民年金の保険料を納付していない者が多数いる事態は、適正に保険料を納付している第1号被保険者及び第2号被保険者との負担の公平性や国民年金制度への信頼性の確保の見地からみて適切とは認められず、改善の必要があると認められる。
このような事態が生じているのは、第3号被保険者において、種別変更の届出の義務についての理解が十分でなかったことにもよるが、なお、次のことによると認められる。
(ア) 第3号被保険者に係る種別変更の届出の必要な者の把握が十分でなかったこと
(イ) 事業所得等の総収入額から控除する必要経費の範囲を明確にしていなかったこと
(ウ) 第3号被保険者に係る種別変更の届出の義務について、被保険者への周知が十分でなかったこと
3 本院が表示する改善の意見
我が国における急速な高齢化の進展に伴い、国民年金の年金給付額は今後ますます増大し、年金財政が一層厳しくなることが見込まれている。ついては、貴庁において、第3号被保険者に係る種別変更の届出について、その適正化を図るよう次のような処置を講ずる要があると認められる。
(ア) 第3号被保険者に係る被扶養配偶者の認定基準と健康保険等の医療保険における被扶養者の認定の取扱いが、年間収入の要件に関しては同じであることに鑑み、医療保険者との連携を十分に執るなどして第3号被保険者のうち種別変更の届出が必要な者を把握すること
(イ) 事業所得等の総収入額から控除する必要経費の範囲を明確にすること
(ウ) 市町村や事業所との連携を十分に執るなどして、第3号被保険者に対して種別変更の届出の義務について周知、徹底を図ること
(注1) | 北海道ほか25都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、福島、栃木、埼玉、千葉、神奈川、新潟、石川、長野、静岡、愛知、滋賀、兵庫、岡山、広島、山口、徳島、福岡、長崎、熊本、鹿児島各県 |
(注2) | 北海道ほか11都府県 東京都、北海道、大阪府、青森、岩手、福島、千葉、神奈川、新潟、福岡、長崎、鹿児島各県 |
(注3) | 所得税法(昭和40年法律第33号)の必要経費等 配当所得については、所得税法第24条第2項但書に規定されている収入金額から控除する金額をいう。不動産所得、事業所得、雑所得(公的年金等を除く。)については、同法第37条第1項に規定されている必要経費をいう。 |