会計名及び科目 | 一般会計 国税収納金整理資金 | (款)歳入組入資金受入 (項)各税受入金 |
部局等の名称 | 国税庁、札幌北税務署ほか88税務署 |
課税の根拠 | 所得税法(昭和40年法律第33号) |
青色事業専従者給与の必要経費算入の制度の概要 | 青色申告の承認を受けた事業者が専らその事業に従事する一定の親族に対して給与を支払った場合には、青色事業専従者給与の届出書等に記載された給与額の範囲内で、労務の対価として相当と認められる額をその事業所得等に係る所得金額の計算上必要経費に算入する制度 |
調査の実施について検討する要があると認める事業者数 | 521人 |
上記の事業者が所得金額の計算上必要経費に算入していた青色事業専従者給与の額 | 59億2000万円(平成10、11両年分) |
1 制度の概要
所得税については、原則として、納税者が所得税額を計算し、その税額を当該納税者の居住地を管轄する税務署長(以下「所轄税務署長」という。)に申告し、納付する申告納税制度が採られている。
この納税者が申告すべき所得税額は、納税者の各種所得に係る総収入金額から必要経費を差し引くなどして算出される総所得金額等から各種の所得控除を行って課税所得金額を算出し、これに所定の税率を乗ずるなどして算出されるものである。そして、各税務署においては、納税者が申告した内容が所得税法(昭和40年法律第33号。以下「法」という。)等の規定に基づく適正なものとなっているかについて申告審理をしており、この結果必要があると認める場合には、調査を行うこととしている。
法第143条、第144条及び第148条の規定によると、各種所得のうち、不動産所得、事業所得又は山林所得(以下「事業所得等」という。)を生ずべき業務を行う居住者(以下「事業者」という。)は、所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書(以下「青色申告書」という。)により提出することができるものとされている。この青色申告書の提出(以下「青色申告」という。)について所轄税務署長の承認(以下「青色申告の承認」という。)を受けようとする事業者は、原則として、その年の3月15日までに、当該業務に係る所得の種類その他大蔵省令で定める事項を記載した申請書を所轄税務署長に提出しなければならない。青色申告の承認を受けた事業者(以下「青色事業者」という。)は、帳簿書類を備え付け、取引を記録し、当該帳簿書類を保存しなければならない。
この青色申告の制度は、青色事業者に各種の特典を与えることなどにより、納税者の帳簿書類の備付け、記録、保存等を促進し、前記の申告納税制度の適正な運用を図ることを目的としている。
事業者が、生計を一にする配偶者その他の親族(以下「生計同一親族」という。)に対して当該事業に従事したことなどの事由により当該事業から対価の支払を行った場合、その対価については当該事業者の事業所得等に係る所得金額(以下「所得金額」という。)の計算上必要経費に算入しないものとされている(法第56条)。これに対し、青色事業者については、青色申告の特典の一つとして、生計同一親族で専ら当該青色事業者の営む事業に従事する者(年齢15歳未満である者を除く。以下「青色事業専従者」という。)に対して支払った給与(以下「青色事業専従者給与」という。)を、一定の要件の下に、その所得金額の計算上必要経費に算入するものとされている(法第57条第1項)。
青色事業専従者給与の支払額を必要経費に算入することができる場合の要件は、次のとおりとなっている。
〔1〕 青色事業専従者給与の届出書等を提出していること
青色事業者は、原則として、その年の3月15日までに所轄税務署長に青色事業専従者給与の届出書(以下「届出書」という。)を提出しなければならないものとされている。
この届出書には、当該青色事業専従者の氏名、職務の内容、給与額、昇給基準、青色事業専従者が他に職業を有しているなどの場合にはその事実等所定の事項を記載しなければならないこととされている。そして、届出書の記載内容について変更がある場合には、青色事業者は、遅滞なく、青色事業専従者給与の変更届出書(以下「変更届出書」という。)を所轄税務署長に提出しなければならないとされている。
〔2〕 届出書等に記載された金額の範囲内で支払われたものであること
青色事業者の所得金額の計算上必要経費に算入することができる青色事業専従者給与は、届出書又は変更届出書(以下「届出書等」という。)に記載された同給与の額及び昇給基準に基づき算定される額(以下「限度額」という。)の範囲内における支払額とされている。
〔3〕 専ら青色事業者の営む事業に従事したことに対して支払われた給与であって、労務の対価として相当な額であること
青色事業専従者給与の支払額をその所得金額の計算上必要経費に算入することができる額は、当該青色事業専従者に対して支払われた給与であって、労務の対価として相当と認められる額とされている。この相当とされる額は、その専従期間、労務の性質及び提供の程度、事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況等に照らして判断するものとされている。
2 検査の結果
国税庁統計年報書によると、平成10年及び11年において青色事業専従者給与を支払い、その額を必要経費に算入している青色事業者は、それぞれ759,191人(青色申告納税者の38.0%)、882,877人(同37.8%)となっている。また、この青色事業専従者給与の支払総額は、それぞれ2兆1276億46百万円(1事業者当たり280万円)、2兆3438億59百万円(同265万円)と多額に上っている。
そこで、青色事業専従者給与を必要経費に算入する制度の運用が適切に行われているかについて、次のような点に着眼して検査した。
〔1〕 青色事業者から所定の届出書等が提出されているか。
〔2〕 各税務署において、この届出書等の管理、保管及び活用は適切に行われているか。
〔3〕 必要経費に算入されている青色事業専従者給与の額は、青色事業専従者が専ら青色事業者の営む事業に従事したことに対して支払われたものとなっているか。また、その額は、労務の対価として相当と認められる額となっているか。
札幌国税局ほか11国税局(沖縄国税事務所を含む。)管内の札幌中税務署ほか138税務署において、青色事業専従者給与を必要経費に算入する制度の適用を受けている青色事業者のうち、原則として、10年分及び11年分の課税所得が2000万円を超えている事業者7,006人について検査した。
検査したところ、札幌国税局ほか10国税局(注) 管内の札幌北税務署ほか88税務署において、次のとおり、青色事業専従者給与を必要経費に算入する制度の運用が適切に行われているとは認められない事態が見受けられた。そして、各所轄の税務署において申告審理を行い、必要と認める場合には調査を実施することについて検討する要があると認められた青色事業者は、521人、青色事業専従者給与の必要経費算入額10年分29億3443万余円、11年分29億8556万余円、計59億2000万余円となっていた。
(1)届出書等の提出又は保存の事実等の確認ができなかったもの
多くの税務署では、提出された届出書等を提出された年分ごとに取りまとめるなどして保管していたことから、提出時期の不明な青色事業者については、届出書等の提出の事実の有無又は各所轄の税務署における当該届出書等の保存の事実について確認することができない状況となっていた。このため、これらの青色事業者については、届出書等の記載に基づく限度額と必要経費に算入されている額とを対査するなどして必要経費算入の適否を確認することができなかった。
このうち、複数の青色事業専従者に青色事業専従者給与を支払っている青色事業者で、近年青色事業専従者が増加していると思料されるが、その増加した者に係る届出書等の提出の有無が確認できないなどの青色事業者は、27人、青色事業専従者給与の必要経費算入額10年分2億8069万余円、11年分3億3666万余円、計6億1735万余円となっていた。
上記の青色事業者について事例を示すと、次のとおりである。
<事例1>
青色事業者Aは、10年及び11年に生計同一親族である長男及び長女に対して支払った青色事業専従者給与額の計3,995,000円、2,485,000円を各年分の事業所得に係る所得金額の計算上必要経費に算入していた。しかし、長男及び長女の年齢からみて、近年青色事業専従者になったものと思料されるが、これらに係る届出書等の提出の有無を確認することができなかった。
(2)所得金額の計算上必要経費に算入された青色事業専従者給与の支払額が届出書等の記載に基づく限度額を著しく超えているもの
青色事業者から提出され、各税務署において保管されていた届出書等の中には、「昇給の基準」欄や賞与の「支給の基準(金額)」欄に所要の記載がないもの、「業績に応じて」、「仕事の内容による」と記載されているなどその記載内容が明確でないものなどが相当数見受けられた。
そこで、本院において、上記の届出書等のうち元年以降に提出されたものについて、公表されている資料等を参考に10年及び11年における限度額を試算した。その結果、この試算による限度額を著しく超える青色事業専従者給与を必要経費に算入している青色事業者は、117人、青色事業専従者給与の必要経費算入額10年分11億1380万余円、11年分10億7915万余円、計21億9296万余円となっていた。
上記の青色事業者について事例を示すと、次のとおりである。
<事例2>
青色事業者Bは、10年及び11年に妻に対して支払った青色事業専従者給与額7,500,000円を各年分の事業所得に係る所得金額の計算上必要経費に算入していた。しかし、7年に提出された同人の届出書等によると、昇給基準等が明確でないことから、本院において同人に係る10年分及び11年分の必要経費に算入できる限度額を試算したところ、それぞれ4,307,961円、4,379,904円となり、上記の必要経費算入額は試算した限度額を著しく超えていた。
(3)青色事業専従者が他に職業を有していて、青色事業専従者給与が専ら事業に従事したことに対して支払われた給与であること及びその支払額が労務の対価として相当な額であることが確認できないもの
青色事業専従者が法人の代表取締役等に就任していたり、他に事業を営んでいたりなどして報酬等があるのに、青色事業専従者給与を青色事業者の所得金額の計算上必要経費に算入しているものが見受けられた。
このうち、青色事業専従者給与を上回る高額な報酬等の収入が別にあり、専ら事業に従事しているとは思料されない者を青色事業専従者としていた青色事業者は、24人、青色事業専従者給与の必要経費算入額10年分1億9662万余円、11年分1億8977万余円、計3億8639万余円となっていた。
上記の青色事業者について事例を示すと、次のとおりである。
<事例3>
青色事業者Cは、10年及び11年に妻に対してそれぞれ支払った青色事業専従者給与額14,970,000円、15,120,000円を各年分の事業所得に係る所得金額の計算上必要経費に算入していた。しかし、妻の10年分及び11年分の所得税の申告書等によると、自ら事業を営んでいて上記の青色事業専従者給与のほかに10年分約3400万円、11年分約3300万円の事業収入があった。
(4)共同事務所等において業務を行う資格事業者が青色事業専従者給与を支払っているのに、専従の実態等が明確でないもの
業務を行うに当たり、専門的な国家資格を与えられている青色事業者(以下「資格事業者」という。)の中には、多数の事務職員等が共同で雇用されている事務所等(以下「共同事務所等」という。)において業務を行っている者がおり、これらの資格事業者において、青色事業専従者給与を所得金額の計算上必要経費に算入しているものが見受けられた。そして、共同事務所等で業務を行っている資格事業者に係る青色事業専従者が行う仕事の内容は、届出書等によると、いずれもほぼ同様に記帳事務・補助業務全般などと記載されていた。
しかし、これらの業務は共同事務所等の事務職員等が行っていると思料されることから、上記の青色事業専従者は専従の実態及び業務に対する関与の度合いが届出書等のみでは把握できないものとなっていた。このような青色事業者は、31の共同事務所等において、353人、青色事業専従者給与の必要経費算入額10年分13億4330万余円、11年分13億7997万余円、計27億2328万余円となっていた。
上記の青色事業者について事例を示すと、次のとおりである。
<事例4>
D共同事務所の資格事業者(24人)は、生計同一親族に対し、10、11両年分とも、一部の者を除いていずれも4,270,000円の青色事業専従者給与を支払っていた。しかし、同事務所には15人の事務職員等が雇用されており、その職務内容は、報酬の支払、事務所経費の算定などとなっていて、同事務所における補助的な業務の執行体制は整備されていた。また、これらの青色事業専従者の仕事の内容は、資格事業者の居宅における電話の取次ぎなどとなっていた。
このような事態が生じていたのは、一部の青色事業者において、届出書等の適切な提出、その実態に即した適正な申告等についての認識が不足していたことにもよるが、次のことなどによると認められた。
(ア)各税務署において、青色事業者から提出を受けた届出書等の管理が十分でなく、その活用が図られていなかったことと、国税庁において、届出書等の管理及びその活用について、各税務署に対する十分な指導が行われていなかったこと
また、青色事業者に対し、法令の定めに従った届出書等の提出等を行うとともに、青色事業専従者給与の必要経費算入について適切な申告をするよう十分な周知、指導又は啓蒙が図られていなかったこと
(イ)各税務署において、他に職業を有している青色事業専従者、資格事業者に係る青色事業専従者等に関する申告審理等において、専従の実態、業務に対する関与の度合いなどが的確に把握されないままになっていたこと
また、国税庁において、青色事業専従者給与の必要経費算入の適否の判断に資する情報が各税務署に対し十分に提供されていなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、国税庁では、次のような改善の処置を講じた。
(ア)各所轄の税務署を通じ、13年10月までに、前記の青色事業者521人すべてに対する申告審理を実施し、そのうち、青色事業専従者の専従の実態等について確認する要があると認められる青色事業者については、順次、調査に着手することとした。
なお、調査に着手したもののうち、13年9月末現在、38人の青色事業者の青色事業専従者給与の必要経費算入について、既に是正が図られている。
(イ)13年10月に通知を発し、各国税局及び各税務署に対して次のように指示した。
〔1〕 青色事業者から必ず届出書等の提出を受けるよう努めるとともに、各税務署における届出書等の管理・保管方法を改善し、その活用を図ること
〔2〕 各税務署において、他に職業を有している青色事業専従者、資格事業者に係る青色事業専従者等の専従の実態、業務に対する関与の度合いなどについて的確に把握すること
また、13年12月までに、上記の趣旨を踏まえ、個人課税の事務の処理手順及び処理方法を定めている個人課税事務提要(国税庁長官訓令)の改正を行うこととしている。
(ウ)青色事業専従者給与の必要経費算入に関する調査事例を集約し、その情報を各国税局及び各税務署に提供することとした。
また、税の専門紙に、青色事業専従者給与の必要経費算入の要件等についての説明を掲 載するなどして、青色事業者に対する一層の啓蒙を図ることとした。
(注) | 札幌国税局ほか10国税局 札幌、仙台、関東信越、東京、金沢、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、熊本各国税局 |