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  • 平成12年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

公立小・中学校におけるコンピュータ教室等の効果的な活用について改善の意見を表示したもの


(2)公立小・中学校におけるコンピュータ教室等の効果的な活用について改善の意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)文部本省 (項)公立文教施設整備費
部局等の名称 文部本省(平成13年1月6日以降は文部科学本省)
補助の根拠 義務教育諸学校施設費国庫負担法(昭和33年法律第81号)予算補助
補助事業 学校施設の新増改築事業、大規模改造事業
補助事業の概要 公立の小学校及び中学校にコンピュータ教室等を整備する事業主体に対してその経費の一部を補助するもの
検査の対象とした公立小中学校の学校数 小学校1,202校、中学校285校 計1,487校
補助対象事業費の合計 449億5517万余円 (平成7年度〜11年度)
上記に対する国庫補助金交付額 174億0791万円 (平成7年度〜11年度)

【改善の意見表示の全文】

   公立小・中学校におけるコンピュータ教室等の効果的な活用について

(平成13年11月22日付け 文部科学大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 制度の概要

(情報教育の概要)

 貴省では、近年の高度情報通信社会に対応するため、小学校、中学校等において、児童生徒の発達段階に合わせた情報活用能力(情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質)を育成することが重要であるとして、情報教育の推進に努めているところである。
 そして、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況等を踏まえて発信・伝達できる能力、コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等を活用し得る基礎的な能力の育成を図るなどのための施策を推進している。

(補助制度等の概要)

 公立の小学校及び中学校(以下「小・中学校」という。)の設置等に要する経費は、原則として、当該学校の設置者である市町村(特別区及び市町村学校組合を含む。以下同じ。)が負担することとされている。そして、義務教育については一定の水準を確保する必要があることなどから、貴省では、義務教育諸学校施設費国庫負担法(昭和33年法律第81号)又は公立学校施設整備費国庫補助要項(昭和46年文施助第7号文部大臣裁定)に基づき、小・中学校の校舎等の新増改築事業又は既存校舎等の大規模改造事業を行う市町村に対し、その事業に要する経費の一部として公立学校施設整備費負担金又は公立学校施設整備費補助金(以下「補助金等」という。)を交付している。
 そして、コンピュータ教室については、校舎の新増改築事業及び既存の教室をコンピュータ教室へ改造する工事を行う大規模改造事業(小学校は平成12年度、中学校は10年度に終了)により整備されている。この両事業に対する補助金等の予算額を、11年度でみると新増改築事業640億9600万円(校舎の新増改築に係る額)、大規模改造事業72億0400万円となっており、その中の一部によりコンピュータ教室の整備が図られている。
 また、教育用コンピュータ機器については、大規模改造事業(コンピュータ設置工事)、教育用コンピュータ整備事業(平成6年度に終了)等により整備されてきたが、6年度からは、情報教育の一層の充実を図るためとして、その整備等に必要な経費が地方交付税で措置されている。
 コンピュータ教室の整備状況についてみると、次表のとおり、12年3月末日現在、小学校23,607校中17,367校、中学校10,418校中9,961校において、コンピュータ教室が整備されている。また、これと並行してコンピュータ教室へのコンピュータ機器の整備が進められている。

コンピュータ教室の整備状況
区分 学校数
(校)
コンピュータ教室
整備校数
(校)
整備率
(%)
コンピュータの設置台数
(台)
1校当たり台数
(台/校)
小学校 23,607 17,367 73.5 274,657 15.8
中学校 10,418 9,961 95.6 318,743 31.9
(平成12年3月31日現在。文部省初等中等教育局調べ)

(学習指導要領における情報教育)

 貴省では、学校教育法(昭和22年法律第26号)等に基づき、教育課程の基準として学習指導要領を定めている。
 現行の学習指導要領(小学校については平成元年文部省告示第24号。中学校については平成元年文部省告示第25号)においては、小学校段階の情報教育については、特定の教科や領域においてコンピュータ機器等を利用した授業を行うこととはされていない。一方、中学校段階については、技術・家庭科の選択領域として「情報基礎」を設置し、コンピュータの基本的な構成、機能、操作、情報の選択、整理、処理等を内容とする教育を実施することとしている。
 さらに、貴省では、新たな学習指導要領(小学校については平成10年文部省告示第175号。中学校については平成10年文部省告示第176号。以下「新学習指導要領」という。)を策定し、14年度から施行することとしている。そして、それまでの移行措置として、「現行の学習指導要領の特例」(小学校については平成11年文部省告示第128号。中学校については平成11年文部省告示第129号)を定め、教科等の指導に当たっては、小学校では、児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実することとし、中学校では、生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用するよう学習活動の充実に努めることとしている。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 貴省では、学校教育において情報や情報機器を積極的に活用する能力を育成するため、多額の財政資金を投入して、情報機器やネットワーク環境の整備等を図っている。そして、小・中学校における情報教育に係るコンピュータを利用した授業は、補助金等により整備されたコンピュータ教室を利用して行われている。
 そこで、コンピュータ教室の利用時間及び同教室を利用した授業の内容がどのようになっているか、各学校におけるコンピュータ教室の利用計画等の作成、コンピュータを利用できる教員の実状や研修の状況等が、コンピュータ教室等の効果的な活用に資するものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか21都府県(注) において、7年度から11年度までの間に実施された校舎の新増改築事業によりコンピュータ教室を整備した事業及び大規模改造事業(コンピュータ教室への改造工事。同時に実施した他の工事を含む。)、計1,487事業(小学校1,202校、中学校285校)、事業費449億5517万余円(国庫補助金等174億0791万余円)を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、12年度におけるコンピュータ教室の利用状況等において、利用時間、授業内容、利用計画等の作成及び教員等の状況について次のような事態が見受けられた。

(1)コンピュータ教室の利用時間

 ア 小学校(学校数1,202校)

 特定の児童のみが利用する特別活動以外の国語、社会等の教科や道徳、総合的な学習の時間(以下「各教科等」という。)について、1学級当たりの平均利用時間数をみると、学校間で利用時間数に大きな開きが生じている事態が見受けられた。
 学習指導要領では、各教科等の年間の授業を35週以上設けることとしていることから、週1時間の利用で年間35時間の利用となることを目安に1学級当たりの年間利用時間数について分析すると、次表のとおり、1学級当たり年間35時間以上利用している学校が68校で、全体の5.6%ある。一方、1〜9時間(1学期当たり3時間以下。以下同じ。)の利用となっている学校が413校、全体の34.4%を占めており、全く利用していない学校も27校、全体の2.2%ある。

1学級当たり年間利用時間別学校数 (単位:時間、校)
1学級当たり年間利用時間数 0 1〜3
以下
3超
〜9
以下
9超
〜15
以下
15超
〜20
以下
20超
〜25
以下
25超
〜30
以下
30超
〜35
未満
35以上
〜40
以下
40超 合計
学校数 27 54 359 290 190 103 67 44 29 39 1,202
割合(%) 2.2 4.5 29.9 24.1 15.8 8.6 5.6 3.7 2.4 3.2 100.0
2.2 34.4 57.8 5.6
(注)
利用時間数0時間の27校のうちには、コンピュータ教室が整備されたものの、13年3月31日現在、コンピュータ機器が導入されていない学校が7校ある。

イ 中学校(学校数285校)

 各教科等について、1学級当たりの平均利用時間数をみると、学校間で利用時間数に大きな開きが生じている事態が見受けられた。
 学習指導要領では、各教科等の年間の授業を35週以上設けることとしていることから、週1時間の利用で年間35時間の利用となることを目安に1学級当たりの年間利用時間数について分析すると、次表のとおり、1学級当たり年間35時間以上利用している学校が59校で、全体の20.7%ある。一方、1〜9時間の利用となっている学校が56校、全体の19.7%を占めており、各教科等で全く利用していない学校も1校、全体の0.3%ある。

1学級当たり年間利用時間別学校数 (単位:時間、校)
1学級当たり年間利用時間数 0 1〜3以下 3超〜99以下 9超〜15以下 15超〜20以下 20超〜以下 25超〜30以下 30超〜35未満 35以上〜40以下 40超 合計
学校数 1 13 43 60 32 29 22 26 11 48 285
割合(%) 0.3 4.6 15.1 21.1 11.2 10.2 7.7 9.1 3.9 16.8 100.0
0.3 19.7 59.3 20.7

(2)コンピュータ教室を利用した授業の内容

 ア 小学校(学校数1,202校)

 各教科等におけるコンピュータ教室を利用した主な授業の内容をみると、次表のとおり、低学年で機器の立上げや終了等の基本的な操作を教え、高学年で表計算、インターネットを利用した資料の収集、ホームページの作成、メールのやりとりを教えている学校が大半を占めている。一方、低学年からインターネットを利用した資料の収集やメールのやりとりを教えている学校もあることから、学校間で授業の内容に大きな開きが生じている事態が見受けられた。

主な授業内容 (単位:校)
区分
授業内容
学年
1学年 2学年 3学年 4学年 5学年 6学年
機器の立上げ、終了等の基本的操作 905 858 716 617 559 538
表計算ソフトによる帳票計算等 34 46 68 90 163 158
インターネットを利用した各種資料の収集 39 72 421 632 759 772
ホームページの作成 3 4 29 45 111 121
メール・テレビ会議等のインターネットを利用した情報の交換 11 19 59 98 139 155

 なお、14年度から施行される新学習指導要領において、社会、算数、理科の3教科についてコンピュータを有効に活用することとしていることを踏まえ、これらの3教科について、12年度の利用状況をみたところ次表のとおり、全学年を通じて、3教科とも利用していない学校が149校、全体の12.4%あり、1教科しか利用していない学校が176校、全体の14.6%ある。

社会、算数、理科における利用状況 (単位:校、%)
区分 3教科すべて利用している学校 2教科を利用している学校 1教科を利用している学校 3教科とも利用していない学校 合計
学校数 548 329 176 149 1,202
割合 45.6 27.4 14.6 12.4 100.0

イ 中学校(学校数285校)

 各教科等におけるコンピュータ教室を利用した主な授業の内容をみると、次表のとおり、第1、2両学年において、インターネットを利用した資料の収集やメールのやりとりを教えている学校が多数ある一方、主に機器の立上げ、終了等の基本的な操作を教えるに止めている学校もあり、学校間で授業の内容に大きな開きが生じている事態が見受けられた。

主な授業内容 (単位:校)
区分
授業内容
学年
1学年 2学年 3学年
機器の立上げ、終了等の基本的操作 202 156 187
表計算ソフトによる帳票計算等 50 80 150
インターネットを利用した各種資料の収集 138 154 181
ホームページの作成 19 36 69
メール・テレビ会議等のインターネットを利用した情報の交換 22 35 59

 なお、14年度から施行される新学習指導要領において、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭科、外国語の8教科についてコンピュータを有効に活用することとしていることなどを踏まえ、これらの8教科について、12年度の利用状況をみたところ次表のとおり、全学年を通じて、8教科とも全く利用していない学校が3校、全体の1.1%あり、技術・家庭科でしか利用していない学校が50校、全体の17.5%、技術・家庭科と他の1教科でしか利用していない学校が77校、全体の27.0%ある。なお、現行の学習指導要領において選択領域として「情報基礎」が設置されている技術・家庭科でも利用していない学校が14校見受けられた。

社会、数学、理科、音楽、美術、技術・家庭科、保健体育、外国語における利用状況
(単位:校、%)
区分 全教科利用している学校 技術・家庭科のほか 技術・家庭科のみ利用している学校 技術・家庭科以外の教科で利用している学校 全教科利用していない学校 合計
6教科利用している学校 5教科利用している学校 4教科利用している学校 3教科利用している学校 2教科利用している学校 1教科利用している学校
学校数 4 11 22 26 36 45 77 50 11 3 285
4 140 77 50 14
割合 14 3.9 7.7 9.1 12.6 15.8 27.0 17.5 3.9 1.1 100.0
1.4 49.1 27.0 17.5 5.0

(3)コンピュータ教室の利用計画等の作成状況

 上記(1)及び(2)のとおり、利用時間や授業内容に学校間で大きな開きが見受けられたことから、各小・中学校の12年度におけるコンピュータ教室の利用計画、授業時間割表、使用割当表等(以下、これらを「利用計画等」という。)の作成状況についてみると、次のような事態となっていた。
 すなわち、小学校1,202校中731校(60.8%)、中学校285校中222校(77.9%)が利用計画等を作成してコンピュータを利用した授業を行っている一方で、小学校471校(39.2%)、中学校63校(22.1%)では、利用計画等を作成していない状況となっている。
 また、利用計画等を作成している小・中学校の中でも、利用計画等が各学年・各教科等ごとに具体的な内容を明記していないため、計画的に同教室を利用した授業を行っていない学校もある。
 このような各小・中学校における利用計画等の内容の差異が、各小・中学校間におけるコンピュータ教室の利用時間数や授業内容の差異の一因となっているものと認められる。

(4)コンピュータを利用できる教員等の状況

 コンピュータを利用できる教員の状況についてみると、次のような事態となっていた。
 すなわち、検査の対象とした小学校においては、全教員20,105人中15,413人(76.6%)がコンピュータを利用できるとしているが、コンピュータを利用した授業が可能と回答している教員は10,828人(53.8%)となっている。一方、中学校においては、全教員5,767人中4,004人(69.4%)がコンピュータを利用できるとしているが、コンピュータを利用した授業が可能と回答している教員は1,694人(29.3%)となっている。
 なお、このような状況にある教員に対するコンピュータの研修についてみると、国、都道府県、各学校がそれぞれ研修を実施しており、貴省では、11年度から、情報教育に関する指導的役割を担える人材を育成するための研修を実施している。そして、12年度は、都道府県の研修計画の企画、立案等の担当者や教育用ソフトウェア等を教育に利用した経験のある教員等を対象に、年間1,000人程度の規模で、1回の研修期間を5〜10日程度とし、「教員研修の進め方」や「学習指導におけコンピュータ・インターネットの活用」などについての研修を実施している。

(改善を必要とする事態)

 このように、各小・中学校間において、コンピュータ教室の利用時間数やコンピュータを利用した授業内容に大きな開きが生じていたり、利用計画等の内容に差異が生じていたりなどしている事態は、多額の国費を投入して整備しているコンピュータ教室等の効果的な活用の面からみて、改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、主として次のことによると認められる。
〔1〕 貴省及び都道府県において、コンピュータ教室の効果的な活用について十分な指導・助言を行っていないこと
〔2〕 各小・中学校において、補助事業により整備したコンピュータ教室等の効率的な活用のための体制の整備が十分でないこと

3 本院が表示する改善の意見

 貴省では、すべての小・中学校等がインターネットに接続でき、また、すべての学級のあらゆる授業において教員及び児童生徒がコンピュータを利用できる環境を整備することを目標として、今後、コンピュータ機器の整備等を含めた教育の情報化を一層進めるとともに、新学習指導要領により情報教育の充実を図るとしているところである。
 ついては、貴省において、効果的な情報教育を実施していくため、コンピュータ教室等の効果的な活用を図るよう、次のような処置を講ずる要があると認められる。
(ア)新学習指導要領の実施、学校における情報環境の整備等を踏まえ、様々な教科等においてその学習目的に応じてコンピュータ教室等を積極的に活用するよう、都道府県及び市町村に対して必要な指導・助言を行うこと
(イ)コンピュータ教室等の効果的な活用を促すよう、各学校において必要な利用計画等及び研修体制等の整備が図られるよう、都道府県及び市町村に対して必要な助言を行うこと

北海道ほか21都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、新潟、長野、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、山口、徳島、香川、高知、福岡、長崎、鹿児島、沖縄各県