会計名及び科目 | 厚生保険特別会計 | (健康勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入 (年金勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入 |
部局等の名称 | 社会保険庁ほか15社会保険事務局(71社会保険事務所等) |
適用事業所の全喪処理の概要 | 適用事業所が解散したり休業したりするなどして、その従業員全員が使用されなくなった場合に、その事業所を適用事業所から除外する処理 |
適用事業所数 | 政府管掌健康保険 | 154万余事業所(平成12年度末現在) |
厚生年金保険 | 168万余事業所(平成12年度末現在) |
事業の実施状況を確認した事業所数 | 1,048事業所 |
上記のうち全喪処理後も事業を実施していた事業所数 | 298事業所 |
(平成13年11月21日付け 社会保険庁長官あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
1 制度の概要
貴庁では、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づき業務外の疾病、負傷等に関し医療、療養費等の給付を行う健康保険事業を、また、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)に基づき老齢、死亡等に関し年金等の給付を行う厚生年金保険事業をそれぞれ運営している。
健康保険又は厚生年金保険が適用される事業所は、健康保険法第13条第1号又は厚生年金保険法第6条第1項第1号に定められている事業の事業所で常時5人以上の従業員を使用するもの、常時従業員を使用する法人の事業所などとされている。これらの事業所は、事業主等の意思にかかわらず健康保険又は厚生年金保険に加入し、その適用を受けなければならないこととなっている(以下、これらの事業所を「強制適用事業所」という。)。そして、その事業主は、健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)又は厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)の規定に基づき、事業所の新規適用届を社会保険事務所長等に提出することとなっている。また、健康保険の被保険者は適用事業所に使用される者であるとされ、厚生年金保険の被保険者は適用事業所に使用される 65歳未満の者であるとされている。
平成12年度末現在において、貴庁が運営する健康保険(以下「政府管掌健康保険」という。)の適用事業所数は154万余事業所で被保険者数は1945万余人、厚生年金保険の適用事業所数は168万余事業所で被保険者数は3219万余人となっている。
政府管掌健康保険及び厚生年金保険の保険料は、被保険者の標準報酬月額に保険料率を乗じて得た額とされており、被保険者と事業所の事業主が折半して負担し、事業主が納付することとなっている。12年度の保険料収入額は、政府管掌健康保険で6兆1168億余円、厚生年金保険で20兆0512億余円となっている。
被保険者資格の取得及び喪失については、健康保険法等又は厚生年金保険法等の規定に基づき、被保険者は、適用事業所に使用されるようになったなどの場合に被保険者資格を取得し、適用事業所の事業主は被保険者資格取得届を社会保険事務所長等に提出することとなっている。そして、被保険者が適用事業所に使用されなくなったなどの場合には被保険者資格を喪失し、適用事業所の事業主は被保険者資格喪失届を社会保険事務所長等に提出することとなっている。
この被保険者資格の取得及び喪失は、社会保険事務所長等が確認することにより効力を生ずるとされている。そして、社会保険事務所長等は適用事業所の事業主に対しこの確認の通知を行わなければならないこととされている。
社会保険事務所等は、適用事業所が解散したり休業したりするなどして、その従業員全員が使用されなくなって被保険者全員の資格が喪失した場合には、当該事業所の事業主に対し、被保険者全員の資格喪失届に健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届(以下「全喪届」という。)を添付して提出させることにしている。この全喪届には、事業所が解散や休業等に至った事由、年月日などを記載することになっている。
全喪届は、法令等の規定に基づいて事業主に提出させているものではないが、社会保険事務所等は、事業主から被保険者全員の資格喪失届と全喪届が提出された場合には、これらの記載内容を確認した上でその事業所に係る全喪処理を行うことにしている。この全喪処理により、その事業所は適用事業所から除外され、健康保険又は厚生年金保険の適用を受けないことになる。
2 本院の検査結果
政府管掌健康保険及び厚生年金保険の適用事業所数は、9年度をピークに毎年減少傾向にあり、近年は新規適用事業所数に比べて全喪処理された事業所数が多くなっている状況である。そこで、社会保険事務所等における全喪処理が事業所の事業実態を十分に確認して行われているかなどに着眼して検査した。
北海道社会保険事務局ほか15社会保険事務局(注1) の93社会保険事務所等において、12年度に全喪処理された20,681事業所の中から主として休業を理由とした8,190事業所を抽出した。そして、このうち1,048事業所については検査時点で事業を行っている可能性があると思料されたので、これらの事業所の全喪処理が適正に行われているかについて検査を実施した。
検査したところ、これらの事業所の全喪届の中には、休業に至った事由が全く記載されていなかったり、具体性に欠ける記載となっていたりしていて、事業所が休業に至った事実が十分に確認できないものが多数見受けられた。
そこで、上記の1,048事業所について現地確認を行うことなどにより調査したところ、北海道社会保険事務局ほか14社会保険事務局(注2)
の71社会保険事務所等における298の強制適用事業所については、休業を理由とする全喪届を提出していたが、次のとおり全喪処理後も事業を実施していた。
(ア)全喪処理後も引き続き事業を継続しているもの | 270事業所 |
(イ)全喪処理後に短期間で事業を再開しているもの | 28事業所 |
この298事業所の全喪処理時における被保険者数は計1,614人となっており、これらの者に係る健康保険料及び厚生年金保険料の合計は月額で1億0778万余円となっていた。
上記のように、社会保険事務所等へ全喪届を提出した強制適用事業所が引き続き事業を継続していたり、短期間で事業を再開していたりしているのに、健康保険又は厚生年金保険の適用を受けていない事態は、健康保険法又は厚生年金保険法の趣旨からみて適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、事業主が誠実でなく保険料の負担を避けるなどのため全喪届を提出していたこと及び社会保険事務所等における事業主に対しての指導等が十分でなかったことにもよるが、なお次のようなことによると認められる。
(ア)全喪届は全喪処理を行うための重要な届書であるのに法令等で規定されておらず、全喪届の記載内容やこれを確認するための添付資料が明確に示されていないため、社会保険事務所等において、全喪届を提出した事業所の事業実態を的確に把握することができないここと
(イ)全喪届の記載内容について、社会保険事務所等が行う調査確認方法などが具体的に定められていないこと
3 本院が要求する改善の処置
適用事業所の全喪処理は、健康保険事業又は厚生年金保険事業の適正な運営の観点から、事業所の事業実態に基づいて適切に行われる必要がある。
ついては、貴庁において、全喪処理の適正化を図るよう、次のような改善のための処置を講ずる要があると認められる。
(ア)全喪届について法令等で規定してその記載内容を明確に示し、また事業所が休業等に至った事由などを確認するための資料を添付させることにより、社会保険事務所等において、全喪届を提出した事業所の事業実態を的確に把握することができるようにすること
(イ)全喪届の記載内容について、社会保険事務所等が行う具体的な調査確認方法などを定めること
(注1) | 北海道社会保険事務局ほか15社会保険事務局 北海道、秋田、山形、茨城、群馬、千葉、東京、神奈川、富山、山梨、岐阜、大阪、愛媛、福岡、大分、沖縄各社会保険事務局 |
(注2) | 北海道社会保険事務局ほか14社会保険事務局 北海道、秋田、山形、茨城、群馬、千葉、東京、神奈川、山梨、岐阜、大阪、愛媛、福岡、大分、沖縄各社会保険事務局 |