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  • 平成12年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

航空自衛隊の新初等練習機の調達について


第1 航空自衛隊の新初等練習機の調達について

検査の対象 内閣府(防衛庁)(平成13年1月5日以前は総理府(防衛庁))
会計名及び科目 一般会計 (組織)防衛本庁 (項)航空機購入費
調達物品 新初等練習機
調達物品の概要 初級操縦教育の第一段階において、操縦士学生の教育に使用する練習機(T-3初等練習機の後継機)
契約の方式 一般競争契約(総合評価落札方式)
契約の相手方 富士重工業株式会社
契約年月 平成12年10月
調達機数 2機(平成12年度)
契約金額 5億1434万余円(平成12年度)
  平成13年度以降の調達予定機数  47機
機体価格(47機)及び維持経費等の総額  212億余円(平成12年度〜31年度)

1 新初等練習機の調達の概要

(新初等練習機の調達方法)

 防衛庁では、平成11年度の予算要求に当たり、航空自衛隊のT−3初等練習機の後継機となる新初等練習機の機種について、富士重工業株式会社(以下「富士重工」という。)が提案したT−3改と丸紅株式会社(スイスのピラタス社の代理店。以下「丸紅」という。)が提案したピラタス社製のPC−7MkIIを、要求性能との適合性、後方支援、教育、所要経費など総合的な観点から検討した結果、10年8月に富士重工のT−3改を選定した。
 しかし、海上自衛隊用の救難飛行艇の開発に関連し、富士重工の会長等が贈賄容疑に問われたことから、防衛庁では、富士重工に対し、1年間の入札参加停止の措置を執るとともに、11年度予算への計上を見送った。
 その後、防衛庁では、12年度の予算要求に当たり、新初等練習機2機(総調達予定機数49機)の予算を計上することとした。そして、装備品等に関する調達改革の一環として、新初等練習機の機種選定の方法について見直しを行った結果、11年8月、機種を選定して随意契約としていた従来の方式に代え、総合評価落札方式による一般競争契約により機種を決定することとした。
 そして、防衛庁では、「総合評価落札方式により航空機の調達を行う場合の手続について(通達)」(平成11年防防計第5940号)、「総合評価による落札方式について(通達)」(平成7年調本発調第2933号、平成13年1月6日以降は平成13年契本総第102号)などを定め、これらの手続に従って総合評価落札方式による入札を行うこととした。

(総合評価落札方式の概要)

 総合評価落札方式とは、会計法(昭和22年法律第35号)第29条の6第2項の規定に基づく競争契約における落札方式の一形態である。この方式は、通常の落札方式が国にとって最も有利な価格で入札した者を落札者とするのに対し、価格のみではなく機能、性能など他の条件にも着目して費用対効果の面で国にとって最も有利な入札をした者を落札者とする方式であり、近年、我が国の政府調達とりわけ電気通信機器、医療機器、コンピュータ等の調達において多数採用されている。
 そして、本件新初等練習機の調達における総合評価落札方式の採用に当たっては、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)第91条第2項の規定に基づき、12年3月、内閣総理大臣が、落札方法、総合評価の方法等について、大蔵大臣に協議を行っている。

(落札者の決定方法)

 本件調達における落札者の決定方法は、入札説明書に示された総合評価のための書類を添付して入札書を提出した入札者であって、次の各要件をすべて満たすものを落札者とするとされてている。
〔1〕 入札説明書に示された競争参加資格をすべて満たしていること
〔2〕 入札価格が予定価格の制限の範囲内であること
〔3〕 入札説明書に示された機能・性能等(以下「性能等」という。)の要求要件のうち必須とされた項目の基本的な要求要件をすべて満たしていること
〔4〕 当該入札者の申込みに係る性能等の各評価項目の得点の合計を、当該入札者の入札価格(2機分の機体価格)、13年度以降調達予定分(47機)の機体価格、全体の所要機数(49機分)に応じた維持エンジン、維持部品等の価格及びその他の費用の総額(これらのうち、入札価格を除いたものを、以下「価格その他の費用」という。)で除して得た数値(以下「評価数値」という。)が最も高い者であること(次式参照)

航空自衛隊の新初等練習機の調達についての図1

 また、「価格その他の費用」については、大蔵大臣との協議において、教育上必要とされる機数に応じ所要期間において確実に発生する費用であり、その価格について客観的な条件のもと、相当な確実性をもって見積もることができるものとされている。

(契約締結までの経緯)

 新初等練習機の調達における契約は、資料提供の招請、仕様書案等に対する意見の招請、入札説明会、入札等を経て行われたが、このうち入札書受領から契約締結までの経緯は、次のとおりである。

(ア)入札書の受領期限である12年8月30日に富士重工と丸紅の2社が入札に応じ、それぞれT−3改、PC−7(注1) を提案した。その際、入札者は、封印された入札書とともに、総合評価のための書類等を調達実施本部(以下「調達本部」という。13年1月6日以降は契約本部)に提出した。

(イ)調達本部及び航空幕僚監部では、次のとおり、両提案機種の性能等及び「価格その他の費用」について審査及び検討を行った。
 〔1〕 支出負担行為担当官である調達本部長は、上記の8月30日に、航空幕僚長に入札者より受領した総合評価のための書類を送付し、提案機種の性能等及び「価格その他の費用」の検討を依頼した。
 〔2〕 航空幕僚長は検討を行った後、防衛局長と協議の上、その結果を9月19日に調達本部長に回答した。
 〔3〕 調達本部長は、それを参考に審査を行った。

(ウ)調達本部は、同月25日に開札を行い、次のとおり、評価数値の高かった富士重工を落札者として決定した。

項目
入札者
性能等の
評価点A
入札価格
B(円)
価格その他の
費用C(円)
評価数値
D=A/(B+C)
順位
富士重工 197.54098 489,850,000 21,201,308,000 0.00000000910698 1
丸紅 197.54098 355,274,310 22,699,151,000 0.00000000856846 2
(注)
消費税及び地方消費税を除く。

(エ)調達本部は、10月6日に富士重工と、納期を14年9月30日とする新初等練習機(2機)の製造請負契約を、契約金額5億1434万余円(消費税及び地方消費税を含む。)で締結した。

PC−7 平成10年度の機種選定時のPC−7MkIIとは性能等が異なり、PC−7MkIIの下位機種である。

2 検査の背景及び着眼点

(検査の背景)

 本院は、近年の防衛庁における装備品等の調達改革の実施状況について注視してきている。今回の新初等練習機の調達については、機種選定をやり直していることや、防衛庁における航空機の調達に総合評価落札方式を採用した初めての試みであることなどを踏まえ、重点的に検査を実施することとした。

(検査の着眼点)

 本院は、検査に当たって、上記のような状況を踏まえ、入札、契約手続が公正性及び透明性を確保したものとなっているか、総合評価があらかじめ定められた評価基準等に基づき適切に行われているか、契約内容が総合評価落札方式の趣旨からみて適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の方法)

 検査に当たっては、防衛庁内部部局、契約本部及び航空幕僚監部において、〔1〕入札者が提出した関係書類、〔2〕防衛庁が作成した評価基準、技術的事項等確認書類、審査結果に関する書類等、〔3〕契約関係書類を確認の上、これらについて担当者から説明を聴取するなどの方法を採った。また、富士重工及び丸紅において、調達本部等に提出した資料の内容について担当者から説明を聴取するとともに、関連資料を収集した。

3 検査の状況

(1)今回採用された総合評価落札方式の特徴

 総合評価落札方式は、性能等に係る評価点を分子、入札価格を分母として評価数値を算出するのが通例であるが、今回の総合評価落札方式では、前記の算定式のとおり、入札価格に「価格その他の費用」を加えた額を分母として評価数値を算出しており、また、「価格その他の費用」の分母の額に占める比率が著しく高いものとなっていた(富士重工では97.7%、丸紅では98.5%)。
 また、性能等の評価点は、基礎点(評価項目のうち必須とする項目)と付加点(基礎点の対象項目以外で加算する評価項目)から成るが、両提案機種ともすべての項目で同点と なっていた。
 このようなことから、今回の方式においては、「価格その他の費用」が、落札者を決定する際の極めて重要な要素となっていた。
 なお、他省庁における総合評価落札方式の事例について調査したところ、入札価格に入札価格以外の費用を加えた額を分母として評価数値を算出しているものは見受けられたが、本件のように、将来調達する予定の物件の価格及びすべての物件に係る維持費用を入札価格以外の費用としている例や、分母の額に占める入札価格以外の費用の額の割合が著しく高い例は見受けられなかった。

(2)総合評価のための書類の取扱い

 今回の入札で入札者から提出された総合評価のための書類は、次のものである。

(ア)入札回答書(提出部数3部)

 航空機の性能等や「価格その他の費用」の内容(購入経費、維持経費、関連経費)を示したもの

(イ)技術的事項等の検討のための細部資料(同6部)

 入札回答書の内容を確認するためのもので、〔1〕性能等に関する事項、〔2〕後方支援及び教育に関する事項、〔3〕「価格その他の費用」に関する事項、その他関連事項の3分冊となっている。

(ウ)フライト・マニュアル(航空機取扱説明書)、メンテナンス・マニュアル(航空機整備取扱説明書)又はそれらに相当するもの(同1部)

 防衛庁では、これら総合評価のための書類の入札時の取扱いについて、入札価格のように会計法令上封印することが前提とされているものではないとし、また、調達本部等による審査及び検討の対象となるものであるとして、入札者に封印させる取扱いとしていなかった。
 なお、前記他省庁の事例の中には、防衛庁と同様に、入札価格に入札価格以外の費用として補償費等を加えた額を分母として評価数値を算出している例が見受けられたが、この場合、補償費等の計算の基礎となる数値等を入札書に付記させることとしていた。

(3)提案内容の拘束

 防衛庁では、「価格その他の費用」については、前記大蔵大臣との協議を受け、技術的事項等確認書類において、入札者が積算すべき航空機等の購入経費、維持経費及び関連経費の各項目ごとに算定方法等を定めていた。これによれば、〔1〕経費見積りの期間は12年度から31年度までの20年間とする、〔2〕物価上昇率は加味しない、〔3〕1機当たりの年間飛行時間は300時間とする、〔4〕機体・エンジン関係の修理に係る加工費率(1時間当たりの労務費と製造間接費の合計)は、11,020円とすることなどを積算の前提条件としていた。
 入札者の提案内容は、航空幕僚監部において、あらかじめ定められた本件新初等練習機の評価基準や技術的事項等確認書類等に基づいて検討することとなるが、評価基準等に示された算出方法に従っていないなど不適切な部分があった場合の取扱いについては、調達本部を通じ、入札者と文書による質疑応答を行い、当該入札者の同意の上で修正する方法を採っていた。
 そのうえで、防衛庁では、入札説明書に「総合評価のための書類の記載事項については、甲(防衛庁)の示す各種条件の変更及び、事情の変更がない限り、落札者を拘束するものとする。」と記載していることから、落札者は自ら提案した内容について、これを誠実に履行する一般的責任を有しているとしている。
 落札者となった富士重工の「価格その他の費用」のうち主要な経費についてみると、次のとおりとなっていた。

(ア)購入経費

 購入経費は、〔1〕13年度以降に調達する機体価格(47機分)等、〔2〕維持エンジン総額、〔3〕整備用構成品総額、〔4〕整備器材総額から構成されている。このうち、機体価格(47機分)は、直接材料費及び直接経費に、富士重工算定の製造に係る加工費率と工数を用いて計算した加工費を加えるなどして算出していた。
 この機体価格については、防衛庁が13年度以降、実際の航空機製造請負契約の予定価格を算定する際、各年度の契約ごとに、上記の加工費率を、防衛庁が算定する各年度の加工費率に置き換えて加工費を計算したり、各年度の物価変動を考慮するなどして直接材料費、直接経費を計算したりすることになる。
 このため、総合評価のための書類等に基づく機体価格と実際に調達されるときの機体の予定価格とは異なった額になることが十分想定されるが、防衛庁では、前記のとおり、総合評価のための書類等の記載事項は将来とも落札者を拘束するとし、年度別の機体価格を構成する直接材料費、直接経費、加工費等について、将来において拘束されるべき内容に係る主要な項目を示したり、提案内容に係るより詳細な関連データを提出させたりするための方策等を十分執っていなかった。

(イ)維持経費

 維持経費のうち割合が一番大きい維持役務費は、〔1〕航空機機体定期修理費、〔2〕航空機要修理品修理費などから構成されている。
 このうち航空機機体定期修理費は、次のとおりとなっている。
 航空機機体定期修理(注2) (以下「IRAN」という。)を含め維持経費の見積りや整備方法については、入札者は、技術的な安全性を考慮しつつ、自らの機種にとって最も効率的な整備方法等を自由に提案できることとなっており、丸紅のIRAN間隔36箇月に対し、富士重工では45箇月としてIRANの所要機数を算出の上、技術的事項等確認書類に定められた下記の算式に基づきIRAN経費を算出していた。

<算式>

<算式>

 このIRAN経費については、今後、実際の航空機機体定期修理契約の予定価格を算定する際、各年度の契約ごとに、上記の修理に係る加工費率を、防衛庁が算定する各年度の加工費率に置き換えて修理費を計算したり、各年度の物価変動を考慮するなどして直接経費を計算したりすることになる。
 このため、総合評価のための書類等に基づくIRAN経費と実際に実施されるときのIRANの予定価格とは異なった額になることが十分想定されるが、防衛庁では、前記のとおり、総合評価のための書類等の記載事項は将来とも落札者を拘束するとし、年度別のIRAN経費を構成する修理費、直接経費等について、将来において拘束されるべき内容に係る主要な項目を示したり、提案内容に係るより詳細な関連データを提出させたりするための方策等を十分執っていなかった。

航空機機体定期修理 航空機の機体について、外注により定期的に実施する検査、修理、改修等の作業をいう。

(4)提案内容の履行の確保

 防衛庁では、前記のとおり、落札者が自ら提案した内容については、これを誠実に履行する一般的責任を有しているとしている。そして、落札者が提案した「価格その他の費用」については、その内容が確実に履行されるよう、各年度の予算要求及び執行に関し、防衛局長、管理局長、契約本部長等が、それぞれの職務を適切に遂行していくとしている。
 また、調達本部では、総合評価において評価した性能等及び「価格その他の費用」の内容を担保するために入札回答書を契約書に添付していた。
 このため、防衛庁では総合評価のための書類等の記載事項は将来とも落札者を拘束するとし、これらの内容が履行されなかった場合の責任の所在や損害賠償の方法など提案内容の履行を確保するための措置について具体的に示していなかった。
 なお、前記他省庁の事例の中には、落札者が提案内容を履行できなかった場合に所定の方式により契約金額を減額することなど、具体的な措置を契約関係書類において定めているものがあった。

4 本院の所見

 総合評価落札方式については、既に電気通信機器、医療機器、コンピュータ、公共工事等の政府調達の分野において活用されている。防衛庁においても、装備品をライフサイクル的観点から管理する手法を導入したり、ライフサイクルコストの抑制に十分配意しつつ、装備品の研究開発を進めることとしていることから、今回初めて採用されたライフサイクルコストを重視した総合評価落札方式は、今後の調達においても引き続き適用されることが予想される。
 ついては、防衛庁において、今後、今回の新初等練習機と同様の総合評価落札方式を採用する場合には、入札及び契約事務の公正性及び透明性を一層高め、提案内容がより確実に履行されるよう、次のような方策を検討する要があると認められる。

(1)入札時の書類の取扱い

 性能等及び「価格その他の費用」を入札書に付記させたり、提出された総合評価のための書類の部数のうち1部を原本として封印させたりする。

(2)提案内容拘束の具体化

 落札者の提案に係る「価格その他の費用」を構成する購入経費、維持経費等の額について、将来において拘束されるべき内容に係る主要な項目を示したり、提案内容に係る詳細な関連データを提出させたりする。

(3)提案内容履行の確保

 提案内容が履行されなかった場合の責任の所在や損害賠償の方法等の具体的事項について、落札者との間で書面により確認する。
 なお、本院としては、今回の新初等練習機の調達において、落札者が提案した性能等及び「価格その他の費用」の内容が、今後、航空機製造請負契約や航空機機体定期修理契約等の各契約に適切に反映されていくか注視していくこととする。