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  • 平成12年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

基盤技術研究促進センターにおける出資事業について


第12 基盤技術研究促進センターにおける出資事業について

検査対象 基盤技術研究促進センター
出資の概要 新規に設立する研究開発プロジェクト会社に対して、基盤技術研究の促進を目的として研究開発に必要な資金を出資するもの
調査した会社 74社
  うち 研究開発中の会社 11社
成果管理会社 47社
解散した会社 16社
上記に対する出資金の総額
2790億円(昭和60年度〜平成12年度)

1 基盤技術研究促進センターの概要

(基盤技術研究促進センターの設立とその背景)

 基盤技術研究促進センター(以下「基盤センター」という。)は、昭和60年10月に基盤技術研究円滑化法(昭和60年法律第65号)に基づき、通商産業大臣及び郵政大臣(平成13年1月6日以降は経済産業大臣及び総務大臣)の共管の下に設立された特別認可法人である。
 昭和60年当時の我が国は、工業製品の輸出力が高いにもかかわらず、民間の研究費の中で基盤技術研究費の割合が低かったことや、民間研究への政府支援が欧米に比べて少ないことに対して、欧米諸国から「基盤技術ただ乗り論」の批判を受けており、基盤的、先端的分野の技術水準を向上させる必要に迫られていた。このような背景の下、民間において行われる基盤技術に関する試験研究(以下「基盤技術研究」という。)を促進するための中核機関として基盤センターが設立され、以降、新素材、バイオテクノロジー、通信処理などの基盤技術研究に必要な資金に対する出資事業及び融資事業を行ってきた。

(基盤センターの事業資金)

 基盤センターの上記事業の資金は、その全額が産業投資特別会計の資金(以下「産投資金」という。)で賄われている。60年4月に、日本電信電話株式会社の設立に当たって発行された株式1560万株のうち、3分の1に当たる 520万株が政府保有義務株とされた。これから見込まれる配当260億円は産業投資特別会計に帰属することとなり、毎年度同程度の額が同特別会計から基盤センターに出資金又は貸付金として交付されている。

2 出資事業の概要

(出資先と出資の実績)

 基盤センターの主な出資事業は、基盤技術研究を目的として、複数の企業等が出資し設立する会社あるいは企業等が大学等との共同研究のために設立する会社(以下「研究開発プロジェクト会社」という。)に対して出資するものである。出資の限度は人件費、材料費、機械装置購入費等の研究開発費の7割とされており、残り3割は民間の企業等が出資することとなっている。
 出資事業の平成12年度末における出資先及び出資総額は、112社、2858億6823万余円となっているが、そのうち研究開発プロジェクト会社に対する出資が74社、2790億3145万円に上っており、出資総額の97.6%を占めている。

(成果の管理と出資金の回収)

 研究開発プロジェクト会社は、研究開発を終了すると当該研究開発で得た特許権等の成果を管理する段階に移行する。そして、この段階に移行して成果を管理する会社(以下「成果管理会社」という。)になると、研究開発終了時の研究機材の売払代収入、研究開発で得られた成果である特許権等の開示料や実施許諾料等の収入(以下「特許収入等」という。)によって運営されることになる。成果管理会社は特許収入等の収受や特許権等の維持・管理を業務とすることから、特許権等が取得できなかった場合や技術的内容が陳腐化したり、債務超過が危惧されたりする場合には解散することになっている。
 基盤センターの出資事業は、成果管理会社が研究開発で得られた成果を利活用して特許収入等を得て、基盤センターが出資により取得した株式に係る配当又は当該株式の売却によって出資金の回収を図るというスキームの下に実施されている。

(研究開発の評価)

 基盤センターでは、支援する研究開発テーマが国民生活、国民経済に資するという観点から基盤技術としてふさわしい広がりと可能性を持っているか、また、その研究開発は目的に沿い、計画どおりに進ちょくしたかについて、採択時、中間時、終了時の3段階にわたって技術評価を実施している。評価に当たっては、外部の専門家を委員とする評価委員会を設置している。また、3年度から収益性の改善を目的として、新規案件の採択時に経済性評価に関する項目を拡充し、8年度には外部評価制を導入して中間技術評価時に経済的観点からの評価を強化している。さらに、10年度からは研究開発終了時に総合的評価の一環として経済性評価を併せ行うこととしている。

3 検査の背景及び着眼点

 総務省及び経済産業省は、基盤センターの出資事業について、一定の研究成果は得られたとしながらも、〔1〕出資金の回収が困難であることが明らかになってきたこと、〔2〕会計処理上、これまでの出資による研究開発費の支出は資産として計上することとされていたが、この種の費用は費用化すべきであるとする企業会計審議会の企業会計基準の設定に関する意見書の内容にそぐわなくなったことなどから、より適切な制度に改める必要があるとして、現行制度の見直しを行った。これにより、13年6月、基盤技術研究円滑化法の一部が改正され、その結果、基盤センターはこの改正法が公布された同月22日から2年以内に解散することとなり、また、同年7月1日の改正法の施行に伴い、産投資金を活用した基盤技術研究に関する支援事業は、通信・放送機構及び新エネルギー・産業技術総合開発機構によって、新たなスキームで実施されることとなった。
 このような状況を踏まえ、これまで基盤センターにおいて実施されてきた基盤技術研究に関する支援事業の問題点を探り、今後新たな制度で実施される事業に活かしていくことを念頭に置いて、出資先会社の経営・財務の状況、出資金回収が困難な要因の分析などに着眼して検査を実施した。

4 検査の状況

(検査の対象)

 基盤センターの出資事業は、前記のとおり、研究開発プロジェクト会社に対して行う出資がその大宗を占めていることから、12年度末までに基盤センターが出資した研究開発プロジェクト会社全74社を対象として検査した。この74社に対する出資状況は、次表のとおりとなっており、出資総額は2790億余円となっている。また、74社のうち47社は成果管理会社であり、そのうち29社については会社に赴いて調査を実施した。

研究開発プロジェクト会社に対する出資状況
内訳 会社数 出資額(百万円)
研究開発中の会社 11 44,000
成果管理会社 47 210,070
解散した会社 16 24,960
74 279,031

(出資先会社の経営・財務の状況)

 12年度末においては、研究開発中の会社11社の資本金は639億5360万円であるが、これに対して繰越欠損金は514億0090万余円となっている。また、成果管理会社47社においても、資本金3075億6415万円に対して繰越欠損金が2979億1253万余円生じている。
 このように多額の繰越欠損金が生じているのは、研究開発中は、人件費、材料費、機械の減価償却費等の費用が発生する一方で、その間、収入がほとんど得られないことによるもので、この繰越欠損金は成果管理会社においても引き継がれている。そして、成果管理会社であっても費用が発生することから、利益が生じない限り、この繰越欠損金は更に増大していくことになる。
 会社に赴いて調査した29社についてみると、各社とも、成果管理会社に移行した時点では、研究開発費総額の約90%が繰越欠損金となっている状況であった。また、成果管理会社移行後12年度末までに決算期を迎えた26社の特許収入等を含む収入の総額は21億6668万余円となっていて、その間の管理経費等の費用の総額79億3546万余円を賄えないため、繰越欠損金を増大させていた。

(出資金の回収状況)

 研究開発プロジェクト会社74社に対しては、12年度末までに、民間からの出資金と合わせて4000億円を超える出資金が投下されているが、特許収入等の総額はわずか30億4627万余円である。
 前記29社のうちには、単年度では利益を計上している会社が7社みられたが、各社とも膨大な繰越欠損金を抱えているため配当できる状況にはなっていなかった。
 このようなことから、解散済みの会社を含めても、これまでに配当を実施した会社は皆無である。また、基盤センターが出資金を回収した実績についてみると、解散した会社16社の残余財産の分配金8億0721万余円のみであり、16社に係る基盤センターの出資額249億6060万円のうち、241億5338万余円が損失処理されていた。

(出資金回収が困難な要因)

 基盤センターでは外部の専門家により各研究開発段階において技術評価を行っており、これによると、各プロジェクトとも、採択時には基盤技術としての有用性を備えているとされ、終了時にもおおむね目標を達成したと評価されているが、研究開発の成果が出資金の回収に結びついた例はない。このように出資金の回収が困難となっているのは、事業化が進んでいないことによるが、その主な要因は次のとおりである。
ア 基礎研究の要素を多く含む基盤技術研究には、成果を事業化するに当たりいくつかの技術的課題の克服と相当の研究期間を要するものが多く、その間に、最近の技術進歩・市場動向の急激な変化により特許権等の成果が陳腐化してしまうリスクが存在している。同時にこのような事業化をめぐる状況の下で、採択時から各段階における評価において事業化の可能性を正確に見通すことは容易ではない。
イ 研究開発プロジェクト会社74社の設立に参加した企業等の数は400ほどであるが、その一部は複数の研究開発プロジェクト会社に出資しているため、研究開発プロジェクト会社1社当たりの出資企業等の数は平均20を超えている。このように、複数の企業等の出資により研究開発プロジェクト会社を設立し、共同研究を実施する方式は、異業種間あるいは同業他社間の交流を通じて、参加企業の技術力の向上や技術分野の拡大が促される反面、実際に事業化するのは各企業であることから、競合する企業間で実用化の最終段階まで共同研究を継続することは困難である。
ウ 会社に赴いて調査した前記29社の特許収入等についてみると、例外的な2社を除く27社においては、ほとんどが出資企業等からの収入でその割合は92.2%に達しており、特許権等を利活用する者が出資企業等に限定されがちな傾向となっていた。出資企業の意向は、主として成果をいかに自社の企業活動に活用するかという点にあり、また、成果管理会社にあっては、管理費用を節約するため最小の人員と経費で運営されており、成果普及活動等はほとんど行っていない状況であった。

(今後の見通し)

 基盤センターの12年度末における出資金残高は、研究開発中の会社11社に対する440億0025万円、成果管理会社47社に対する2100億7060万円、計2540億7085万円であるが、前記の繰越欠損金がそのまま欠損金として処理されるとすれば、基盤センターでは約2380億円損失処理することとなる。一方、特許権等の譲渡による収入は期待できるものの、これまでの特許収入等の状況をみると、大幅な出資金の回収を図ることは困難な状況になっている。

5 本院の所見

 基盤センターの出資事業は、民間の基盤技術研究の強化及び円滑化を図ることで、国民経済の健全な発展、国民生活の向上、国際経済の進展に寄与することを目的として実施されてきたが、一方では、研究開発の成果である特許収入等の利益による配当等で出資金の回収を図ろうとするものであった。しかし、前記のとおり、現実にはこのスキームによる出資金の回収は困難であることが明らかになってきている。
 総務省及び経済産業省の見直しに基づき、新たに通信・放送機構及び新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施する事業は、共同出資・共同研究方式を単独企業も対象とする委託方式に改め、研究成果である知的財産権は受託企業等に帰属させ、研究成果の事業化に成功した場合には、その収益の一部を納付させることとした。このようにスキームは変更したが、基盤技術研究の成果の事業化には少なからぬリスクが伴うという事情に変わりはなく、研究成果の活用を促進するためには、実用化のための技術的課題や市場の動向を注視して事業化が可能かどうかの評価を適切に行い、採択や継続の適否を的確に判断することが肝要である。また、研究成果による収益の発生を的確に把握する方策を検討していくことが望まれる。
 なお、基盤センターにあっては、ほとんどの成果管理会社において一般管理費等の経費が収入を上回っている現状の下で、残余財産の減少を防ぐために速やかに解散手続きを進める要があるが、その際には、特許権等の成果及び株式の処分価額について適正を期すことも肝要である。