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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第8 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

特別支給の老齢厚生年金の受給権者に係る現況届による就労情報の把握及び活用について、その適正化を図るよう改善の意見を表示したもの


(3) 特別支給の老齢厚生年金の受給権者に係る現況届による就労情報の把握及び活用について、その適正化を図るよう改善の意見を表示したもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計 (年金勘定) (項)保険給付費
    (健康勘定) (款)保険収入
  (項)保険料収入
    (年金勘定) (款)保険収入
   (項)保険料収入
部局等の名称 社会保険庁ほか14社会保険事務局(132社会保険事務所等)
現況届による就労情報の把握及び活用の概要 年金受給権者の就労状況に関する情報を現況届により把握して活用することにより、厚生年金保険等の適用及び年金給付の適正化を図るもの
検査対象とした受給権者の数 801人
上記のうち現況届による就労情報の把握及び活用が十分でない受給権者の数 709人
上記のうち適用事業所に常用的に使用されていた者の数 270人
上記に係る不適正支給額及び徴収不足額 特別支給の老齢厚生年金 2億6405万円 (平成12年度〜14年度)
厚生年金保険保険料等 2億2601万円 (平成12年度〜14年度)
4億9007万円  

【改善の意見表示の全文】

特別支給の老齢厚生年金の受給権者に係る現況届による就労情報の把握及び活用について

(平成14年11月14日付け 社会保険庁長官あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 制度の概要

(厚生年金保険)

 貴庁では、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)に基づき、適用事業所(注1) の65歳未満(平成14年4月1日以降は70歳未満)の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行う厚生年金保険事業を運営している。
 厚生年金保険の保険料は、被保険者と適用事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。そして、事業主は、新たに従業員を使用したときなどには、地方社会保険事務局の社会保険事務所等に対し、厚生年金保険に係る被保険者資格取得届を提出することとなっている。

(特別支給の老齢厚生年金の支給停止)

 厚生年金保険の給付のうち老齢厚生年金の支給開始年齢は、原則として65歳であるが、当分の間の特例として65歳未満であっても60歳に達しているなど所定の要件を満たす者については、特別支給の老齢厚生年金が支給されることとなっている。そして、特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、適用事業所に新たに使用されて被保険者となったときなどには、標準報酬月額等を用いて、一定の方式により算定した額に応じ、年金額の全部又は一部の支給を停止することとなっている。

(現況届)

 貴庁では、厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)に基づき、受給権者に、毎年、誕生日の属する月の末日までに氏名、生年月日及び基礎年金番号等を記載した年金受給者現況届(以下「現況届」という。)を提出させている。この現況届は、年金支給を適正に行う観点から年1回、受給権者の生存の状況等を把握するために、受給権者本人から提出を求めているものであり、正当な理由がなく現況届を提出しない場合には、給付の支払を一時差し止めることができることとされている。現況届は社会保険業務センターから受給権者に送付され、受給権者がこれに氏名等を記載して同センターに返送することとなっている。

(就労情報)

 貴庁では、8年から特別支給の老齢厚生年金の受給権者のうち年金額の全部を支給されている者(以下「受給者」という。)について、現に事業所に使用されている場合は、現況届に使用されている事業所の名称及び所在地を新たに記載させることとした。これは、受給者の就労状況に関する情報(以下「就労情報」という。)を現況届により把握して活用することにより、厚生年金保険等の適用及び年金給付の適正化を図ろうとするものである。

(現況届に関する事務処理)

 受給者の現況届に記載された就労情報を活用した厚生年金保険等の適用及び年金給付の適正化についての事務処理は、次のように行うこととされている。

ア 社会保険業務センターにおける事務処理
 現況届に記載された就労情報に基づき、受給者の氏名、使用されている事業所の名称等を記載した就労実態調査対象者一覧表(以下「対象者一覧表」という。)を作成し、現況届に記載された事業所の所在地を管轄する社会保険事務所等に毎月1回送付する。

イ 社会保険事務所等における事務処理
(ア) 対象者一覧表に掲記された事業所のうち適用事業所の事業主及び適用事業所に使用されている受給者に勧奨状等を送付し、被保険者資格取得の届出について周知する。
(イ) 対象者一覧表は、各社会保険事務所等が被保険者の資格取得に関する届出状況等について総合的に行う調査(以下「総合調査」という。)における調査対象事業所の選定に使用する。

(社会保険事務所等における調査確認及び指導)

 社会保険事務所等では、地方社会保険事務局が定めた事業運営通知などにより、適用事業所に使用されている者に係る被保険者資格取得の届出漏れ及び届出誤りがないよう事業主指導に努めることとなっており、標準報酬月額の定時決定時調査(注2) や総合調査等を実施し、使用されている受給者等の被保険者資格取得等の適否について、賃金台帳、出勤簿、会計帳簿等を照合して事実を確認することとされている。

(不適正支給等の状況)

 本院では、毎年度の決算検査報告において、特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、適用事業所に常用的に使用されているのに、被保険者資格取得届が提出されなかったなどのため、特別支給の老齢厚生年金が適正に支給されていない事態を掲記するとともに、これらの者に係る厚生年金保険保険料等が徴収不足となっている事態を掲記している。本年次の検査においても、北海道社会保険事務局ほか26社会保険事務局(注3) の214社会保険事務所等において、適用事業所からの給与収入が確認され調査の要があると認められた1,569適用事業所に使用される1,979人について検査したところ、特別支給の老齢厚生年金の支給が適正でなかったものが932人、7億1097万余円、及びこれらの者に係る厚生年金保険保険料等の徴収額が不足していたものが6億6709万余円見受けられたところである。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 このような事態の適正化を図るためには、受給者の就労状況を把握して、受給者が常用的に使用されている場合には、事業主から被保険者資格取得届を提出させることを徹底することが重要である。そこで、就労情報が現況届によって的確に把握されているか、社会保険事務所等において現況届による就労情報が十分に活用されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 前記27社会保険事務局において検査の対象とした1,979人のうち、14年4月以降検査を実施した北海道社会保険事務局ほか13社会保険事務局(注4) 管内の132社会保険事務所等において、適用事業所からの給与収入が確認され調査の要があると認められた731適用事業所に使用される801人について、就労情報の把握状況及び社会保険事務所等における就労情報の活用状況を検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような適切でない事態が見受けられた。
(1) 就労情報が把握されていなかったもの
 上記801人の受給者は適用事業所に使用されているのに、このうち592人については現況届に就労情報の記載がなかったため対象者一覧表に掲記されておらず、受給者の就労情報が把握されていなかった。
(2) 就労情報が十分に活用されていなかったもの
 対象者一覧表に掲記された209人のうち117人については、社会保険事務所等において、現況届による就労情報が十分に活用されていなかった。そして、その態様は次のとおりとなっていた。

ア 事業主及び受給者に対して勧奨状等を送付しておらず、被保険者資格取得の届出について周知していなかったもの
  33人
イ 対象者一覧表から就労情報を把握して勧奨状等を送付していたものの、更に適用事業所に対する調査などを実施していなかったもの
  59人
ウ 対象者一覧表から就労情報を把握して更に調査などを実施したものの、就労実態の確認方法が十分でなかったり、被保険者資格取得の届出についての指導が十分でなかったりしていたもの
  25人

 このように、(1)の592人及び(2)の117人、計709人については、就労情報が把握されていなかったり、十分に活用されていなかったりしていた。
 そして、このうち270人については、適用事業所に常用的に使用されているのに被保険者資格取得届が提出されていなかったなどのため、特別支給の老齢厚生年金2億6405万余円が適正に支給されていないとともに、これらの者に係る厚生年金保険保険料等2億2601万余円が徴収不足となっている。

(改善を必要とする事態)

 貴庁においては、これまでの本院の指摘を踏まえ、事業主説明会等の機会を活用するなどして、事業主に対する適正な届出励行の指導・啓発の徹底を図ることとしたり、適用事業所の総合調査等の実施に際しては、届出漏れの多い業種の適用事業所を優先するなど効果的な調査を実施したりするなどの取組を進めているところである。
 しかし、受給者が適用事業所に使用されているのに、現況届に記載がないため就労情報を把握することができなかったり、社会保険事務所等において現況届による就労情報を十分に活用していなかったりしていたことから、特別支給の老齢厚生年金が適正に支給されていないとともに、厚生年金保険保険料等が徴収されていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、事業主又は受給者が不誠実であることにもよるが、受給者が現況届に就労状況を記載すべきことについての周知、並びに社会保険事務所等における現況届による就労情報を活用した被保険者資格取得の届出に関する周知、調査確認及び指導についての検討が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する改善の意見

 特別支給の老齢厚生年金については、段階的に支給開始年齢が引き上げられるものの、42年度までは支給が行われることとされている。また、厚生年金保険法の改正により、新たに14年度から65歳以上70歳未満の者が老齢厚生年金を受給しながら適用事業所に常用的に使用されている場合にも、厚生年金保険の被保険者として保険料の負担を求め、標準報酬月額等に応じて年金額の全部又は一部を支給停止する制度が導入されている。これらのことから、老齢厚生年金の受給権者に係る就労情報の把握及びその活用については、今後とも適切に行われる必要がある。
 ついては、貴庁において、特別支給の老齢厚生年金の不適正支給などの事態の防止が図られるよう、受給者が現況届に就労状況を記載すべきことについて更に周知すること、社会保険事務所等において現況届による就労情報を活用した被保険者資格取得の届出に関する周知、調査確認及び指導を適切に実施することなどの処置を講ずる要があると認められる。

(注1) 適用事業所 常時従業員を使用する法人の事業所など、厚生年金保険法が適用される事業所
(注2) 定時決定時調査 被保険者が毎年8月1日現在で使用されている適用事業所から前3箇月間に受けた報酬の総額を基に標準報酬月額を決定するため、社会保険事務所等が行う調査
(注3) 北海道社会保険事務局ほか26社会保険事務局 北海道、青森、宮城、福島、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、石川、福井、長野、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、和歌山、岡山、山口、徳島、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島各社会保険事務局
(注4) 北海道社会保険事務局ほか13社会保険事務局 北海道、青森、福島、千葉、東京、神奈川、新潟、石川、長野、大阪、徳島、福岡、長崎、鹿児島各社会保険事務局