会計名及び科目 | 一般会計 (組織)農林水産本省 | (項)牛肉等関税財源畜産振興費 |
部局等の名称 | 農林水産本省 |
助成の根拠 | 農畜産業振興事業団法(平成8年法律第53号) |
助成事業者 | 農畜産業振興事業団 |
事業主体 | 全国農業協同組合連合会ほか5団体 |
助成事業 | 牛肉在庫緊急保管対策 |
事業の概要 | BSE検査を受けていないことを理由とする牛肉に対する消費者の不安及び市場における牛肉の滞留を解消することにより、円滑な食肉流通を確保するため、国産牛肉を一定期間市場から隔離し、保管するもの |
交付決定された助成金 | 87億2906万余円 | (平成13年度) |
検査の対象とした助成金 | 2億5615万余円 | (平成13年度) |
上記のうち助成の要がないと認められる助成金 | 4658万円 |
(平成14年7月11日付け 農林水産大臣あて)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求する。
記
1 事業の概要
貴省では、平成13年9月10日に国内で初めて牛海綿状脳症(以下「BSE」という。)の発生が確認されて以降、BSEの清浄化対策、食肉処理・流通体制の整備、農家等の経営安定対策などのBSE関連対策として、家畜個体識別システム緊急整備事業、牛肉在庫緊急保管対策事業、市場隔離牛肉緊急処分事業、牛肉価格安定緊急対策事業等多数の事業を設定し実施している。
これらの事業は、貴省による国庫補助事業又は農畜産業振興事業団(以下「事業団」という。)による助成事業等となっており、これらの事業に充てるため、13年度には、国庫補助事業について貴省所管歳出予算により34億余円、事業団の助成事業等について貴省所管歳出予算からの交付金を財源とする事業団の資金等により1958億余円、計1992億余円の財源措置が講じられている。
国内でのBSE発生の事態を受けて、13年10月18日以降は、と畜場においてと畜解体されるすべての牛についてBSE検査が実施され、BSEに感染していないと診断された牛の肉以外は、と畜場から食用として出回らないようにするBSE全頭検査体制が執られている。しかし、同年10月17日以前にと畜解体処理された牛肉については、BSE検査を受けていないことを理由に、消費者等からしゅん別される懸念がある。そこで、貴省では、BSE関連対策の一環として、BSE検査を受けていない牛の肉を市場から一定期間隔離し保管する事業に対して事業団が助成することにより、消費者等の不安を払拭し市場における牛肉の滞留を解消し、もって円滑な食肉流通の確保に資することを目的として、財源措置額91億余円をもって13,000tを限度として牛肉を8箇月間程度市場隔離することを内容とする牛肉在庫緊急保管対策事業(以下「緊急保管事業」という。)を実施することとした。
貴省では、緊急保管事業の実施に当たり、13年10月26日に「牛肉在庫緊急保管対策事業実施要領」(平成13年13生畜第4109号農林水産省生産局長通知。以下「実施要領」という。)を定めている。
この実施要領によれば、緊急保管事業は全国農業協同組合連合会ほか5団体(注1)
(以下「全国連等」という。)が事業主体となって、牛肉を買い上げて冷凍保管し冷凍倉庫から搬出させない取組を行うものとなっている。そして、事業の対象とする牛肉(以下「事業対象牛肉」という。)は、次のいずれにも該当する牛肉としている。
〔1〕 13年10月17日以前(BSE全頭検査開始前)にと畜解体処理された国産牛肉であって、「畜産物の価格安定等に関する法律施行規則」(昭和36年農林省令第58号)に規定された方法により整形した牛半丸枝肉(注2)
を部位別に分割した部分肉
〔2〕 全国連等の直接又は間接の構成員等である食肉卸売業者、食肉製品製造業者等(以下「牛肉在庫保有者」という。)が所有する牛肉
なお、牛肉在庫保有者が緊急保管事業に参加してその所有する事業対象牛肉を全国連等に売り渡すかどうかは任意であることから、貴省では事業団を通じて全国連等から事業参加数量の聞き取り調査を行い、その限度数量を13,000tとしたところである。
そして、事業対象牛肉を保管する冷凍倉庫は、倉庫業法(昭和31年法律第121号)に基づく倉庫業の営業に係る国土交通大臣の登録及び食品衛生法(昭和22年法律第233号)に基づく食品の冷凍又は冷蔵業に係る都道府県知事の許可を受けた者の倉庫等とされ、貴省生産局長がその処分方法を定めるまでの間、移出せず、適切な管理を行わなければならないとされている。
貴省では、実施要領において、事業団の助成金の額を事業対象牛肉1kg当たり707円以内と定めている。
この額は、貴省において冷凍・保管等に要する経費を1kg当たり329円、冷凍したことによる商品価値の下落分(以下「冷凍格差」という。)を1kg当たり378円とそれぞれ算出した額の合計額で、貴省及び事業団では緊急保管事業の実施に当たって上記内訳額を全国連等に示している。
なお、緊急保管事業により全国連等が買い上げ保管する牛肉の処理については、13年10月26日に実施要領を定めた時点では、保管期間経過後、牛肉在庫保有者に買い戻させ市場に流通させることを想定しており、このため助成額の算定に当たり牛肉価格は見込んでいない。その後、貴省では、消費者の不安感を一掃し牛肉需要の回復を図るなどのためとして、全国連等において当該牛肉のすべてを焼却処分することとし、同年12月に、そのための市場隔離牛肉緊急処分事業を事業団の助成事業として設定しており、同事業で牛肉価格を補償することとしている。
事業団では、貴省が定めた実施要領に基づき緊急保管事業に対する助成を行うため、貴省の承認を受けて牛肉在庫緊急保管対策事業助成実施要綱(平成13年13農畜団第1675号)を定めるとともに、その実施細則として牛肉在庫緊急保管対策事業助成実施要領(平成13年13農畜団第1675号)を定めている。
これらによれば、実施要領に定められた事項のほか、全国連等は、事業団への助成金の交付申請等に際しては倉庫業者発行の在庫証明書等の写しを添付すること、また、事業団は、事業対象牛肉であることの確認をこの在庫証明書等により行うこと、必要に応じて現品確認を行うこととしている。
そして、事業団では、全国連等から助成金の交付申請があった事業対象牛肉12,346tについて、13年度に、1kg当たり707円、計87億2906万余円の助成金の交付決定を行い、このうち一部の全国連等に対して31億9559万余円の概算払を行っている。
2 本院の検査結果
BSE関連対策については、その事業が多岐にわたり対策費も多額に上ることから、各事業の実施状況、事業間の整合性等について検査を実施しているところ、一部の食品会社による牛肉の偽装表示が発覚したことを契機として、国民の間で緊急保管事業の適正性に疑念が生じている。
また、国産牛肉市場における取引状況をみると、冷凍牛肉として流通するものが相当数量あるが、実施要領では、前記のとおり、全国連等が冷凍保管するすべての事業対象牛肉について、BSEの発生により消費の減少が予想されることに対処するための冷凍か否かを問わず、冷凍格差を含めた一律の単価で助成することとしている。
そこで、緊急保管事業における冷凍格差の助成がBSEの発生との関係において適切なものとなっているかに着眼して検査した。
助成金の交付決定が行われた事業対象牛肉12,346tについて、14年4月に、全国農業協同組合連合会ほか2団体(注3)
が三重県ほか4県(注4)
内の冷凍倉庫において保管している362,311kg(20冷凍倉庫、29,088箱)、これに係る助成金相当額2億5615万余円を抽出して実地に検査した。
検査に当たっては、冷凍時期に着目し、助成金の交付申請書に添付されている倉庫業者発行の在庫証明書では必ずしも冷凍時期が明確でないことから、倉庫業者の協力を求めて入庫伝票等の書類を確認する方法により調査することとした。
検査したところ、前記362,311kgの事業対象牛肉のうち、冷凍時期を確認できたものは218,054kgで、残りの144,257kgについては、調査に当たって牛肉在庫保有者や仕入先までの協力は求めなかったなどのため、冷凍時期を確認するに至らなかった。そして、冷凍時期を確認できたものの冷凍時期をみると、次のようになっていた。
〔1〕 13年9月10日(国内初のBSE発生確認日)より前に冷凍されたもの | |
123,228kg | (冷凍時期が確認できたものの56.5%) |
〔2〕 同日以降に冷凍されたもの | |
94,826kg | ( 同 43.5%) |
このうち、〔1〕の事業対象牛肉123,228kgは、BSEが国内で初めて確認された日よりも前に冷凍されていることから、BSEの発生に対処するために冷凍されたものでないことは明らかである。したがって、緊急保管事業の趣旨に照らして、これに係る冷凍格差4658万余円の助成を行う要はないものと認められる。
また、上記の調査の際、牛肉在庫保有者が立ち会っていた事例があったので、当該牛肉在庫保有者に係る上記〔1〕以外の事業対象牛肉について、その自発的な協力が得られた範囲で取引伝票や聞き取りにより更に冷凍の経緯等を調べてみたところ、牛肉在庫保有者において、BSEの発生に関係なく、冷凍牛肉として取り引きすることとして冷凍したとの説明があったものが14,414kg、牛肉在庫保有者が冷凍状態で仕入れていて、冷凍に伴う商品価値の下落分を牛肉在庫保有者が負っていることに疑義があるものが17,033kg見受けられた。
以上の本院の調査結果から、助成金の交付決定が行われた全事業対象牛肉12,346tの中には、BSEの発生に関係なく冷凍された牛肉が相当量あると思料され、一律に冷凍格差を助成することは適切を欠くと認められる。
このような事態が生じたのは、貴省において、BSE検査を受けていない牛の肉の市場隔離等について緊急の対策が求められたこともあって、緊急保管事業の設定に当たり、国産牛肉市場での取引状況等を考慮して冷凍格差の助成対象とする牛肉の範囲を定める必要があるとの認識がないまま、事業対象牛肉のすべてに一律に冷凍格差を助成することとしたことなどによると認められる。
事業対象牛肉がBSEの発生に対処して冷凍されたものか否か、商品価値の下落分を誰が負っているかは、その性質上、現時点では厳密に判定するのが困難であり、また、対象となる牛肉在庫保有者や事業対象牛肉が多数に上るという実態もあるが、冷凍時期については、現品の箱に記載されている品質保持期限等からでも一定の確認又は判断が客観的にできるものである。したがって、少なくとも、BSEの発生が国内で初めて確認された9月10日より前に冷凍されていてBSEの発生に対処するために冷凍されたものでないことが明らかな事業対象牛肉について、冷凍格差の助成が行われることのないよう是正の必要があると認められる。
3 本院が要求する是正の処置
緊急保管事業では、既に助成金の交付決定が行われ、その一部は概算払がされていて、このままでは適切を欠いた冷凍格差の助成を含む過大な助成金が支払われることになる。
ついては、貴省において、助成金の交付決定が行われた事業対象牛肉の全量について、速やかに合理的な冷凍時期の確認・判断方法を検討するとともに、適切な検品を行って冷凍時期を確定し、その結果により事業団に適正な助成金交付額を算定させ、これを助成金の交付に反映させるための処置を講じる要があると認められる。
(注1) | 全国農業協同組合連合会ほか5団体 全国農業協同組合連合会、全国畜産農業協同組合連合会、全国開拓農業協同組合連合会、全国酪農業協同組合連合会、全国食肉事業協同組合連合会、日本ハム・ソーセージ工業協同組合 |
(注2) | 牛半丸枝肉 牛をと畜し、はく皮し、内臓を摘出し、頭・足などを取り除いて左右の半体に切断したもの |
(注3) | 全国農業協同組合連合会ほか2団体 全国農業協同組合連合会、全国食肉事業協同組合連合会、日本ハム・ソーセージ工業協同組合 |
(注4) | 三重県ほか4県 三重、和歌山、山口、長崎、宮崎各県 |