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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第5 農畜産業振興事業団|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

畜産環境保全施設整備事業により整備するたい肥舎の建設、利用等が適切に行われることによって事業の目的が達成されるよう改善させたもの


 畜産環境保全施設整備事業により整備するたい肥舎の建設、利用等が適切に行われることによって事業の目的が達成されるよう改善させたもの

科目 (畜産助成勘定) (項)畜産助成事業費
部局等の名称 農畜産業振興事業団
補助の根拠 農畜産業振興事業団法(平成8年法律第53号)
事業主体 財団法人畜産環境整備機構
事業名 畜産環境保全施設整備事業
事業の概要 畜産環境問題の改善に資するため、たい肥舎等を整備し畜産農家等に貸し付ける事業に対し、経費の一部を助成するもの
事業の目的を達成していないたい肥舎数 74たい肥舎
上記に係る事業費 5億8558万余円 (平成10年度〜13年度)
上記に対する事業団の補助金交付額 2億9270万円  

1 事業の概要

(畜産環境保全施設整備事業の概要及び基金の造成)

 農畜産業振興事業団(以下「事業団」という。)では、農畜産業振興事業団法(平成8年法律第53号)に基づき、財団法人畜産環境整備機構(以下「機構」という。)が実施している畜産環境保全施設整備事業(以下「施設整備事業」という。)に対して補助金を交付している。この施設整備事業は、畜産経営規模の拡大と一般の住居との混在化などによる畜産環境問題の改善に資するため、交付された補助金を原資に、機構が基金を造成して平成9年度から実施しているものであり、交付を受けた補助金の13年度末現在の累計は667億1384万余円となっている。

(畜産環境問題と法律の制定)

 近年、畜産農家、農事組合法人等(以下「畜産農家等」という。)においては、家畜飼養規模の拡大等により家畜排せつ物の野積みや素掘り投棄が見受けられ、この家畜排せつ物からの汚水による水道水源や水質の汚染などが社会問題化してきている。
 このような状況に対処するため、11年度に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(平成11年法律第112号。以下「管理適正化法」という。)が制定された。この管理適正化法では、家畜排せつ物の管理基準を定めるとともに、畜産業を営む者に対し、たい肥舎その他家畜排せつ物の処理又は保管の用に供する施設(以下「管理施設」という。)において家畜排せつ物の適正な管理を行うことを義務付けている。管理基準によると、管理施設は、家畜排せつ物からの汚水が流出したりすることがないように床をコンクリートのような不浸透性材料で築造し、側壁を設けることとされている。

(施設整備事業の実施)

 施設整備事業は、機構が、畜産農家等からの申請に基づいて管理施設等を整備し、農業協同組合連合会等を経由して申請者に貸し付けるもので、次のように実施することとなっている。
〔1〕 畜産農家等は、管理施設の構造等及び施工業者等を決定し、農業協同組合連合会等へ申請する。
〔2〕 農業協同組合連合会等は、申請内容を検討し、都道府県を経由して申請書を機構に提出する。
〔3〕 機構は、申請書の内容を検討し、貸付けを決定した上で、施工業者と工事請負契約を締結し、工事完成後の検収を農業協同組合連合会等に委託する。
〔4〕 畜産農家等は、完成後貸し付けられた管理施設について善良な管理者の注意義務をもって維持管理し使用する。
〔5〕 貸付料については、取得価格(消費税を除く。)の2分の1を前記の基金で負担し、残りの2分の1を畜産農家等がリース料として負担することとして算定し、管理施設は、リース期間満了後に畜産農家等に譲渡されることとなっている。
 そして、畜産農家等に対しては、前記のとおり、家畜排せつ物の適正な管理を行うことが管理適正化法により義務付けられたため、管理施設を早急に整備することが必要となり、施設整備事業の申請が12年度から急激に増加してきていて、今後、更に増加することが見込まれている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 施設整備事業において整備する管理施設は、畜産環境問題を改善するための重要な施設であり、また、管理適正化法の施行により、管理施設の適切な建設、利用が一層肝要になってきている。そして、このうちたい肥舎は、管理施設の中でも中核的な施設であり、これに係る事業費も多額に上っている。そこで、施設整備事業の実施に当たり、家畜排せつ物からの汚水等の流出を防止するなどの畜産環境問題の改善という事業の目的が達成されるよう、たい肥舎が適切に建設され、利用されているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の対象)

 北海道ほか24府県(注1) において、10年度から13年度までの間に、整備されたたい肥舎は2,519件、これに係る事業費は計212億3890万余円(事業団補助金計106億1918万余円)となっており、このうちの193件に係る事業費計16億0989万円(事業団補助金計8億0492万円)を対象として検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、青森県ほか15府県(注2) において整備されたたい肥舎74件、これに係る事業費計5億8558万余円(事業団補助金計2億9270万余円)について、畜産環境問題の改善を図るという事業の目的が達成されておらず、適切を欠いている事態が次のとおり見受けられた。

(ア) たい肥舎の設計や施工の検収が適切でなかったりしていて、家畜排せつ物からの汚水が外部に漏れ出したり、地下に浸透するなどしていたもの

12府県 たい肥舎41件
事業費 3億5158万余円
事業団補助金 1億7578万余円
 

 これらは、機構がたい肥舎の整備をすることとなっているが、その建設に当たり、〔1〕畜産農家等が構造等を決定してたい肥舎を設計することとなっていて、たい肥舎の利用方法等を考慮した適切な構造等にするための知識が十分でないことなどから、たい肥舎の設計が適切を欠くものとなっていたもの、〔2〕農業協同組合連合会等がたい肥舎の施工の検収を行うこととなっていて、工事に関する専門的な知識が十分でないことなどから、たい肥舎の検収において粗雑な施工を看過することとなっていたものである。
 上記のうち施工の検収が適切でなかった事例について示すと、次のとおりである。

<事例1>

 機構では、平成11年7月に、畜産農家Aの申請に基づき、たい肥舎を事業費14,176千円(うち事業団補助金7,088千円)で整備し、酪農業協同組合連合会を経由して、当該畜産農家に対して貸し付けている。このたい肥舎については、設計書によれば柱下基礎として幅110cm及び115cmのコンクリート基礎を施工することとなっているのに、酪農業協同組合連合会では、検収に当たり、柱が床コンクリートに設置されていて柱下基礎は一切施工されていないなど粗雑な施工となっているのを看過しており、床コンクリート等には多数のき裂が生じていて汚水が地下に浸透するなどしていた。

(イ) たい肥舎の利用や管理が適切に行われていなかったりしていて、家畜排せつ物からの汚水が外部に漏れ出したり、地下に浸透するなどしていたもの

11県 たい肥舎33件
事業費 2億3399万余円
事業団補助金 1億1699万余円
 

 これらは、たい肥舎の利用に当たり、畜産農家等がたい肥舎の構造等、使用方法及び維持補修についての認識が十分でないことなどから、たい肥舎の利用、管理が適切を欠くものとなっていたものである。
 上記の事態について、一例を示すと次のとおりである。

<事例2>

 機構では、平成12年9月に、畜産農家Bの申請に基づき、たい肥舎を事業費7,000千円(うち事業団補助金3,500千円)で整備し、乳業農業協同組合を経由して、当該畜産農家に対して貸し付けている。このたい肥舎については、畜舎でもみ殻等を混入し含水率を低くした状態の家畜排せつ物を搬入し、たい肥化するため、側壁は遮水性を向上させる処置を施さないコンクリートブロック構造としていたが、利用に当たり、含水率の高い家畜排せつ物をそのまま搬入していたり、たい肥の切り返し作業時に機械で損傷した壁を補修していなかったりしていて、汚水が外部に漏れ出すなどしていた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、畜産農家等において、事業の目的に対する認識が十分でないことなどにもよるが、事業団及び機構において、畜産農家等及び農業協同組合連合会等の関係機関に対してたい肥舎の建設及び利用方法等について具体的な指導等を行う体制の整備を図っていないことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、事業団では、14年10月に機構に対し畜産農家等がたい肥舎の適切な建設及び利用等が行える具体的な措置を講ずるよう指導した。そして、これを受けて機構では、事業の目的を達成するよう適切なたい肥舎の構造等に係る設計、施工の検収及びその構造等に対応した利用、破損の補修等の管理について具体的な指導文書を作成し、畜産農家等及び農業協同組合連合会等の関係機関に対し周知徹底を図る処置を講じた。

(注1) 北海道ほか24府県 北海道、京都府、青森、岩手、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、石川、愛知、三重、和歌山、鳥取、島根、広島、山口、福岡、佐賀、長崎、熊本、沖縄各県
(注2) 青森県ほか15府県 京都府、青森、福島、栃木、埼玉、千葉、神奈川、愛知、三重、鳥取、広島、山口、福岡、佐賀、熊本、沖縄各県