検査対象 | 外務省 |
会計名 | 一般会計 |
部局等の名称 | 在ネパール日本国大使館ほか16公館 |
在外公館における会計経理の概要 | 在外公館における国有財産等及び物品の管理、その運営に必要となる経費の支払等 |
1 在外公館における会計経理の概要
外務省では、外国において相手国政府との交渉、邦人の保護、情報収集等を行うため、大使館、総領事館等の在外公館を198公館設置している。
そして、これらの在外公館の事務所並びに大使又は総領事の公邸(以下「在外公館施設」という。)の維持、運営及び管理に当たっては、各在外公館に会計機関等を配置しており、これらの会計機関等が在外公館における財産の管理、予算の執行等の会計経理に関する事務を行っている。
2 検査の対象及び着眼点
本院では、従来から、毎年10数箇所程度の在外公館を選定し、これに対する会計実地検査を実施してきた。
そして、在外公館における会計経理について国民の関心が高まっていることなどから、平成14年次の会計実地検査に当たっては、17箇国に所在する在ネパール日本国大使館ほか20公館(注1)
を選定して、その会計経理について重点的に検査した。
検査に当たっては、在外公館における国有財産及び物品の管理その他の会計経理が適切に行われているかに着眼して検査した。
上記の検査の過程で、一部の在外公館が国有財産として管理する土地が使用されていない事態が見受けられた。そこで、外務本省の検査の際に、会計実地検査を実施していない在外公館が管理する土地の使用状況についても検査した。
3 検査の状況
検査したところ、在ネパール日本国大使館ほか16公館(注2) において、次のような事態が見受けられた。
(1) 在外公館における国有財産等の管理について
在外公館において取得した土地又は建物並びに土地又は建物のリース権については、国有財産法(昭和23年法律第73号)等に基づき、国有財産又はリース権として管理することとなっている。
13年度末現在、133の在外公館において、上記の国有財産又はリース権(以下「国有財産等」という。)のうち、在外公館施設の用に供するための土地計225箇所を国有財産等として管理している。このうち、国有財産として管理している土地は計201箇所、 また、リース権を取得し管理している土地は計24箇所となっている。
在外公館において、在外公館施設の整備のために土地又はそのリース権を取得する手続等については、次のとおりとなっている。
(ア) 外務本省及び在外公館において、在外公館施設の整備に適した土地について調査し、候補地を選定する。
(イ)外務本省では、財務省との間でこれらの土地又はリース権の取得について必要な協議等を行うとともに、財務省に対してその取得に必要な予算の概算要求を行う。また、当該土地における在外公館施設の整備に関する検討を行う。
(ウ) 土地又はリース権を取得することとなった在外公館では、予算の配賦後に当該土地所有者と売買契約又はリース権契約を締結し、取得した土地又はリース権を管理する。
そして、外務本省では、昭和63年度から、各国に所在する在外公館施設の整備を計画的かつ効率的に実施していくため、営繕に関する計画を毎年度策定しており、これにより各在外公館施設の整備の優先度を決定している。
在外公館が国有財産等として管理している土地の使用状況について検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 国有財産として管理している土地が使用されていないもの
国有財産として管理しているのに使用されないままとなっている土地が、表1のとおり、7公館で計7箇所見受けられた。そして、これらの土地の面積は計33,348m2
、国有財産台帳価格は計10億4836万余円となっていた。そして、これらの土地のうち、5公館に係る計5箇所、面積計22,935m2
、国有財産台帳価格計6億0739万余円については、当該土地の取得後20年以上を経過していた。
在外公館名 | 用途 | 土地面積
(m2
)
|
取得年月日 | 台帳価格
(円)
|
未利用期間 | 利活用の方針 |
在ドイツ 日本国大使館 在スーダン 日本国大使館 在イラン 日本国大使館 在マナオス 日本国総領事館 在ハガッニャ 日本国総領事館 在フィンランド 日本国大使館 在済州 日本国総領事館 |
事務所 (分室) 公邸 公邸 公邸 公邸 事務所 公邸 |
956 3,343 9,619 3,177 5,840 5,297 5,116 |
S39.12.07 S47.12.27 S48.03.10 S53.03.31 S54.03.30 H10.03.30 H11.11.11 |
25,464,253 23,188,288 317,340,271 89,102,465 152,295,000 141,320,785 299,658,427 |
取得時より 同上 同上 同上 同上 同上 同上 |
売却 同上 新営 同上 同上 同上 同上 |
計 | / | 33,348 | / | 1,048,369,489 | / | / |
在ドイツ日本国大使館では、国有財産として管理している別の土地に在外公館施設を整備していた。また、在スーダン日本国大使館ほか5公館では、国有財産として管理している土地に在外公館施設の整備を行うことなく、別途に借り上げた建物を在外公館施設として使用していた。そして、これらの建物に係る賃借料の支払額は、平成13年度で計1億0488万余円となっていた。
イ リース権を取得した土地が使用されていないもの
無期限又は期限付きのリース権を取得しているのに使用されないままとなっている土地が、表2のとおり、4公館で計6箇所見受けられた。これらの土地の面積は計28.435m2
、リース権の取得価格は計7億4514万余円となっていた。そして、これらの土地のうち、2公館に係る計2箇所、面積計7,757m2
、取得価格計1億7420万余円については、リース権の取得後20年以上を経過していた。
在外公館名 | 用途 | 面積
(m2
)
|
取得年月日 | 取得価格
(円)
|
未利用期間 | リース期間 | 利活用の方針 |
在メダン 日本国総領事館 |
事務所公邸 | 5,767 | S54,03.31 | 121,329,877 | 取得時より | 無期限 | 新営 |
在コンゴー民主共和国日本国大使館 | 事務所 | 1,990 | S55.01.21 | 52,875,000 | 同上 | 昭和55年より25年間 | 不法占拠に より係争中 |
在ナイジェリア日本国大使館 | 公邸 事務所 |
4,100 11,127 |
H03.04.03 H04.09.17 |
13,967,200 43,063,603 |
同上 同上 |
平成3年より99年間 平成4年より99年間 |
新営 同上 |
在ユーゴースラヴィア連邦共和国 日本国大使館 | 事務所 |
2,500 2,951 |
H03.07.25 H10.03.17 |
389,441,871 124,463,256 |
同上 同上 |
無期限 同上 |
同上 同上 |
計 | / | 28,435 | / | 745,140,807 | / | / | / |
4公館では、リース権を取得し管理している土地に在外公館施設の整備を行うことなく、別途に借り上げた建物を在外公館施設として使用していた。そして、これらの建物に係る賃借料の支払額は、13年度で計1億3775万余円となっていた。
上記のように国有財産等として管理している土地が使用されていない主な事情は、次のとおりとなっていた。
(ア) 相手国における政治社会情勢の変化によるもの
〔1〕 在スーダン、在イラン及び在ユーゴースラヴィア連邦共和国各日本国大使館については、土地又はリース権の取得後、内戦、経済制裁等により社会情勢が悪化したことなどから、在外公館施設の整備を進めることが困難な状況が続いている。
〔2〕 在ナイジェリア日本国大使館については、同国で首都移転が予定されていたことから、同国政府が外交団のために用意した土地のリース権を取得していた。
しかし、首都移転及びこれに伴う各国外交団の移転が予定どおりに進められなかったことなどから、上記の土地については現在も使用されていない状況となっている。
〔3〕 在ドイツ日本国大使館については、第一次世界大戦以前に我が国が土地を取得し、これを使用していたが、その後、いったん同国政府により接収された後、更地で返還された。しかし、この土地については、在外公館施設を整備するだけの適当な広さがないことから、現在まで長期間使用されないままとなっている。
(イ) 土地の権利関係に争いが生じたことによるもの
〔1〕 在メダン日本国総領事館については、土地の取得直後に第三者から当該土地に関する民事訴訟が提起されたため、3年に勝訴するまで在外公館施設の整備を行うことができない状況が続いていた。
〔2〕 在コンゴー民主共和国日本国大使館については、取得した土地のリース権が内戦中に無断で第三者に移転されたことから民事訴訟を提起しており、現在も係争中となっている。
(ウ) 他の在外公館施設の整備を優先させたことによるもの
在フィランド日本国大使館並びに在マナオス、在ハガッニャ、在済州及び在メダン各日本国総領事館については、世界情勢の変化に伴い他の在外公館施設の整備を優先せざるを得ない事情が生じたことから、在外公館施設の整備が行われないままとなっている。
また、上記(ア)、(イ)及び(ウ)のほか、近年、在外公館施設の整備のために配賦される施設整備費(政府開発援助施設整備費を含む。以下同じ。)の予算は削減される傾向にあり、また、一部の在外公館について大規模な新営工事が行われていることなどから、その他の在外公館施設の整備に必要な施設整備費を確保することが困難な状況となっている。
(2) 在外公館におけるその他の会計経理について
ア 美術品の管理について
在外公館において取得し、また、外務本省から管理換(注3)
を受けるなどして保有する物品は、物品管理法(昭和31年法律第113号)に基づき管理することとなっている。
在外公館において保有する陶磁器、絵画、版画等多数の美術品についても、物品管理法の規定に基づき、物品管理簿に記載した上、大使又は総領事が同法に定める物品管理官として管理することとなっている。
これらの美術品は、在外公館が相手国において購入したもののほか、外務本省で購入した後管理換をして在外公館で保有しているもの、在外公館の外交活動の過程において寄贈を受けたものなどである。そして、在外公館では、相手国の関係者に日本文化を紹介するなどの目的で、これらを在外公館施設に設置するなどしている。
また、上記の美術品のうち、作者名及び作品名が判明しており、美術品としての価値が高いと見込まれるものについては、物品管理簿に記載するほか、物品管理簿の補助簿として作成される美術品写真台帳に当該美術品の写真を貼付の上、作者名、作品名、取得の経緯、価格等を記載することとなっている。
在外公館において保有している美術品の管理状況について検査したところ、次のような状況となっていた。
すなわち、在ネパール日本国大使館ほか5公館(注4)
において保有する美術品のうち、142点(陶磁器51点、絵画41点、版画18点、置物等32点)が物品管理簿に記載されていなかった。このうち美術品としての価値が高いと見込まれるもの9点については、美術品写真台帳が作成されていなかった。
これらの142点の美術品は、そのほとんどについて取得時の資料が保存されていないことから、外務本省から管理換を受けたことにより保有している美術品であるのか、あるいは外交活動の過程において寄贈を受けたことにより保有している美術品であるのかなど、取得の経緯、価格等が不明なままとなっている。
イ 渡切費の使途等について
在外公館には施設整備費、庁費等国における他の諸機関と同様の経費のほか、13年度まで、在外公館に特有の経費として渡切費が予算措置されていた。
この渡切費は、会計法(昭和22年法律第35号)に基づき、一回の支払ごとに所定の決議書等の関係書類を作成することを要しないこととして事務の簡素化を図るなどのため、予算執行上の特例的取扱いとして、主任の職員に対し、公務上必要な金額として見積もった一定の金額を渡切りをもって支給することができる経費として認められていたものである。
在外公館は、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)に基づき、主任の職員に対し渡切りをもって支給することができる官署とされている。そして、外務省では、昭和38年に、大蔵省(現財務省)との協議を踏まえ、在外公館において渡切費から使用することができる経費については、啓発宣伝用パンフレットの印刷・製本代、光熱水道料、消耗品費、工事現場等における事務に必要な工事雑費、他の費目に該当しない諸雑費等とする旨を定めている。
なお、渡切費は平成13年度をもって廃止されており、14年度以降、在外公館におけるこれらの経費については他の予算費目から支払うこととなっている。
13年度における在外公館の渡切費の使途等が制度の趣旨に沿った適切なものとなっているかについて検査したところ、在ロシア日本国大使館における状況は、次のとおりとなっていた。
(ア) 同大使館では、13年度において、広報用として頒布するため、ロシア国内で出版された日本の政治、経済、文化等に関する情報を掲載した広報誌を毎月3,300冊購入し、その代金計1004万余円を渡切費から支払っていた。
しかし、同大使館では、12年度までは、このような多額の広報誌代については啓発宣伝費から支払っており、13年度にこれを渡切費から支払っていたのは、同年度の啓発宣伝費の予算額に制約があったことなどによるものであった。
(イ) 同大使館では、13年度において、大使館の新営工事に当たり、工事に係る考古学調査の負担金、工事前に樹木を伐採するための負担金等計874万余円を渡切費から支払っていた。
このような負担金等は、施設整備費又は施設施工庁費から支払うことになっているのに、同大使館でこれを渡切費から支払っていたのは、相手国の事情として工事のために必要となる負担金などの費用を事前に積算することが困難であるなどの理由によるものであった。
ウ 付加価値税の還付について
付加価値税等の間接税については、国際慣行に基づく相互主義の下に、在外公館に対する課税が免除される場合が少なくない。
そして、付加価値税の免除の方法としては、免税カード等をその都度提示することにより付加価値税の免除を受ける場合と、いったん支払った付加価値税について還付申請の手続を行い、その還付を受ける場合がある。
在外公館における付加価値税の免除について検査したところ、在フィンランド日本国大使館における状況は、次のとおりとなっていた。
我が国では、元年における消費税の導入当初から、在日フィンランド共和国大使館に対し物品及び役務に係る消費税の免除措置を執っており、10年には電気、ガス等の公共料金に係る消費税の免除措置を追加していた。そして、相互主義の下に、フィンランド共和国政府は、同国における付加価値税の導入と同時期の8年1月、在フィンランド日本国大使館に対し物品及び役務に係る付加価値税を免除する旨を通知し、また、10年3月には、公共料金に係る付加価値税を免除対象に追加する旨を通知した。そして、同国における付加価値税の免除手続としては、付加価値税の支払後1年以内に同国外務省に還付申請書を提出することとなっていた。
しかし、同大使館では、館内の連絡体制が不十分であったことなどから、上記の通知を受けた後14年2月の会計実地検査に至るまで、付加価値税に係る還付申請の手続を行っていなかった。
その後、同大使館では、12年度支払分306,065.67フィンランド・マルカ(邦貨換算額5,815,247円)、13年度支払分238,793.48フィンランド・マルカ及び21,735.40ユーロ(注5)
(同6,233,029円)の付加価値税の還付申請を行った。その結果、14年10月末までに、12年度分については、還付申請期限の1年を経過している13年2月以前に係る支払分を除き、8,254.13ユーロ(同891,446円)、13年度分については、60,968.88ユーロ(同6,584,639円)の付加価値税が還付されている。
4 本院の所見
上記のような本院の検査状況を踏まえ、在外公館における会計経理について、次のような点に留意する要がある。
ア 国有財産等の管理について
外務省では、従来から、在外公館施設の必要な整備を進めるなどして、国有財産等として管理している土地の利活用に努めてきているところである。しかし、前記のとおり、相手国の政治社会情勢の変化があったなどのため、依然として一部の在外公館においては、土地が使用されないままとなっており、中には取得後20年以上を経過しているものもあり、このような事態は土地の利活用の面で問題があるものとなっている。
したがって、相手国の事情をより的確に把握した上で、当該土地の利活用の方針について必要な見直しを行い、在外公館施設の整備を行うものについては、早急にその計画を具体化することとし、また、整備を行わないものについては、速やかに売却等の手続を行うなどして、国有財産等の有効な利活用を図っていく必要がある。
イ その他の会計経理について
〔1〕 美術品の管理については、物品管理官等に対して物品管理法等を遵守するよう周知して、美術品を取得した際にその経緯を含めた必要な事項を物品管理簿等に的確に記載するなどにより、その適正化を図る。
〔2〕 渡切費は、13年度で廃止されたが、在外公館の予算執行に対する関心が高まっている現状にかんがみ、在外公館における他の予算費目の支払に当たっても、予算の趣旨に沿った適切な予算執行を行う。
〔3〕 付加価値税の還付については、相互主義の下に、付加価値税が免除されることは、広く認められており、我が国においても、在日の外国大使館等に対し、消費税の免除を行っているところである。したがって、各在外公館における付加価値税の免除の状況を的確に把握した上で、付加価値税の免除が適切に行われるよう、各在外公館に対して一層の周知徹底を図る。
(注1) | 在ネパール日本国大使館ほか20公館 在ネパール、在フィリピン、在パラオ、在マーシャル、在ミクロネシア、在ボリヴィア、在メキシコ、在ウクライナ、在ノールウェー、在フィンランド、在フランス、在ロシア、在ウガンダ、在エティオピア、在南アフリカ共和国、在モザンビーク各日本国大使館、及び在サン・フランシスコ、在デンヴァー、在ハガッニャ、在ロス・アンジェルス、在サンクト・ペテルブルグ各日本国総領事館 |
(注2) | 在ネパール日本国大使館ほか16公館 在ネパール、在フィリピン、在ボリヴィア、在ドイツ、在フィンランド、在フランス、在ユーゴースラヴィア連邦共和国、在ロシア、在イラン、在コンゴー民主共和国、在スーダン、在ナイジェリア各日本国大使館、及び在メダン、在済州、在ハガッニャ、在マナオス、在サンクト・ペテルブルグ各日本国総領事館 |
(注3) | 管理換 物品管理法の規定に基づき、物品管理官の間において物品の所属を移すことをいう。 |
(注4) | 在ネパール日本国大使館ほか5公館 在ネパール、在フィリピン、在ボリヴィア、在フランス、在ロシア各日本国大使館、及び在サンクト・ペテルブルグ日本国総領事館 |
同国の通貨は、平成14年1月よりフィンランド・マルカからユーロに切り替えられた。 |