会計名及び科目 | 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)牛肉等関税財源畜産振興費 |
部局等の名称 | 農林水産本省 |
助成の根拠 | 農畜産業振興事業団法(平成8年法律第53号) |
助成事業者 | 農畜産業振興事業団(平成15年10月1日以降は「独立行政法人農畜産業振興機構」) |
事業主体 | 全国農業協同組合連合会ほか5団体 |
助成事業 | 市場隔離牛肉緊急処分 |
事業の概要 | 牛海綿状脳症(BSE)の関連対策の一環として、BSE検査を受けていないことを理由とする牛肉に対する消費者の不安感を一掃し牛肉需要の回復を図ることなどにより、国内牛肉生産の安定に資するため、市場隔離した牛肉を焼却処分するもの |
焼却処分することとなった牛肉 | 11,115t |
上記の牛肉に係る助成金 | 170億3890万余円 | (平成14、15両年度見込額) |
節減できた助成金 | 20億0670万円 |
1 事業の概要
農林水産省では、平成13年9月10日に国内で初めて牛海綿状脳症(以下「BSE」という。)の発生が確認されて以降、BSE関連対策として多数の事業を実施している。このうち市場隔離牛肉緊急処分事業(以下「処分事業」という。)は、市場隔離牛肉緊急処分事業実施要領(平成13年13生畜第5260号農林水産省生産局長通知。以下「実施要領」という。)に基づき、先に実施した牛肉在庫緊急保管対策事業(以下「保管事業」という。)により冷凍倉庫に保管されている牛肉(以下「事業対象牛肉」という。)を焼却処分するものであり、農畜産業振興事業団(以下「事業団」という。)による助成事業として実施されている。
処分事業に先立って実施された保管事業は、BSE全頭検査が始まった13年10月18日より前にと畜解体処理された牛肉について、BSE検査を受けていないことを理由に、消費者等からしゅん別される懸念があったことから、これを市場から一定期間(約8箇月間)隔離し保管することとして、同月に設定された事業である。
そして、全国農業協同組合連合会ほか5団体(注1)
(以下「全国連等」という。)が事業主体となって、その構成員等(以下「牛肉在庫保有者」という。)が所有するBSE全頭検査開始前にと畜解体処理された国産牛肉であって、牛半丸枝肉(注2)
を部位別に分割した部分肉を、牛肉在庫保有者の申請を受けて買い上げて冷凍保管する取組を行う場合に、事業団から助成金を交付することとした。この助成金の額については、保管事業の設定当時、保管期間経過後に牛肉在庫保有者が事業対象牛肉を買い戻すことが前提とされていたことから、冷凍し保管するのに要する経費と冷凍したことによる商品価値の下落分(以下「冷凍格差」という。)の合計とされ、牛肉価格は見込まれなかった。
しかし、その後、BSEの感染原因、感染経路等の解明が進まないまま、2頭目、3頭目のBSE患畜が発生し、消費者の不安が解消されず、牛肉の需要も回復しない状況であったことから、13年12月に処分事業を設定し、これにより事業対象牛肉を市場に再び流通させることなく焼却処分するとともに、その牛肉価格を補償することとしたものである。
処分事業は、実施要領により、事業対象牛肉を有する全国連等が事業主体となって実施するもので、事業対象牛肉の焼却は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)に基づき都道府県知事の許可を受けた一般廃棄物処理施設等で行うこととされている。
そして、事業団は、必要に応じて事業対象牛肉の現品の確認及び焼却状況の報告を求めることができるものとされている。なお、現品の確認に関し、保管事業においては、当初、抽出検査で行っていたが、一部の食品会社による牛肉の偽装表示が発覚したことを契機として逐次確認基準を強化し、14年4月から全箱を開封し検品する体制を執るに至っている。
また、処分事業では、焼却に要する経費のほか、牛肉価格の補償として、事業対象牛肉の評価額を助成することとしており、農林水産省では、実施要領において、その助成単価を1kg当たり1,554円以内と定めている。
この額は、BSE発生確認前1年間における全国の食肉中央卸売市場10市場(以下「中央市場」という。)で取引された牛の品種別・性別(和牛オス、和牛メス、乳用牛オス、乳用牛メスの別)の枝肉の1kg当たり平均取引価格を取引数量に応じて加重平均して算出した枝肉単価から、保管事業で見込んでいる冷凍格差分を差し引くなどして算定したものである。
農林水産省では、事業団が処分事業に対する助成を行うのに必要な資金として、14年1月に国の一般会計予備費から201億円を事業団に支出しており、このうち事業対象牛肉の焼却に要する経費の分5億円を除いた196億円が、牛肉価格の補償としての助成分となっている。
この価格補償分の資金額は、保管事業における助成金の交付申請等の牛肉数量12,626tを基にしたものであるが、その後、一部の食品会社による牛肉の偽装表示が発覚するなどしたことにより事業対象牛肉の数量が減少し、11,115tとなっている。そして、これについて、処分事業において前記の助成単価1kg当たり1,554円を助成する場合の助成金総額は170億3890万余円となる。
2 検査の結果
国産牛の部分肉には、品種や性別、部位等によって、肉質がよく高い価格で流通するものもあれば、肉質が劣るため冷凍のうえ加工用として低い価格で流通するものもある。その中で、牛肉在庫保有者は、部分肉を保管事業の対象として任意に申請しているが、一方、処分事業における助成単価は、中央市場で取引される枝肉の品種・性別ごとの割合で事業対象牛肉が保管される前提となっている。
また、本院が、昨年、農林水産省に対して是正の処置を要求(「牛肉在庫緊急保管対策事業における冷凍格差の助成について」平成14年7月11日付け農林水産大臣あて)した中で指摘したとおり、事業対象牛肉の中にはBSEの発生に対処するために冷凍されたものでない牛肉が相当量あったが、これらの牛肉は、主に加工用として消費されるまでに長期間を予定し、と畜解体処理後すぐに冷凍されるような品種や低級部位の部分肉であると思料された。
そこで、処分事業の事業対象牛肉1kg当たり1,554円という一律の助成単価は、事業対象牛肉の品種・性別ごとの割合等に照らして適切なものであるかなどに着眼して検査した。
(1) 事業対象牛肉の品種等ごとの割合と助成単価について
事業対象牛肉の品種・性別ごとの割合について、14年2月に保管事業の助成金の交付申請書に添付されている在庫証明書を抽出して調査したところ、大半の在庫証明書には品種又は品種と性別の記載があり、これについて品種別の数量の割合を見ると、和牛と乳用牛で56.9:43.1となっていた。これに対して、処分事業における助成単価の基となった中央市場の枝肉取引における品種別の割合は64.2:35.8であり、事業対象牛肉に比べて和牛の割合が多くなっている。(なお、この後、保管事業において14年4月から15年3月にかけて行われた全箱検品の結果等に基づき確認ないし判定されたところでは、事業対象牛肉の和牛と乳用牛の割合は38.5:61.5となっている。)
そして、BSE発生確認前1年間における中央市場の品種・性別ごとの取引数量により加重平均した和牛と乳用牛の枝肉取引価格は、和牛の方が1kg当たり634円高くなっていることから、価格の高い和牛の取引が多い中央市場の取引数量の割合を基にした1,554円という助成単価は、事業対象牛肉の品種別の割合に即して算定した場合の単価より高くなっていて、これにより助成金を支払う場合には助成金総額が過大なものになると認められた。また、事業対象牛肉はすべて焼却することとされたことから、一律の単価により助成する場合には、取引価格の高い肉を保有する者と取引価格の低い肉を保有する者との間で公平を欠くことになると認められた。
(2) 事業対象牛肉の品種等の確認等について
14年2月に本院が在庫証明書を抽出して調査したところ、牛肉の品種・性別の記載がないため、その確認ができないものも相当数あった。そして、農林水産省においても、事業対象牛肉の品種・性別の実態にかんがみ、14年3月に事業団を通じて全国連等に在庫証明書による品種・性別の確認を行わせたところ、48.3%の事業対象牛肉については品種・性別が確認できなかった。そして、農林水産省では、それ以上の確認を行わないことにしていた。
しかし、農林水産省及び事業団では、一部の食品会社による事業対象牛肉の偽装表示等を契機として、保管事業において14年4月から15年3月にかけて事業対象牛肉の全箱検品を実施しており、その際には現品調査表を作成している。そして、この現品調査表に品種・性別の記載項目はないが、品目名の記載項目はあり、品種・性別を品目名の項目に記載しているものなどが見受けられた。また、この現品調査表のほか、在庫証明書にも品目名の記載があるものがあり、これらはその名称からだけでは一見して品種・性別が分からない記載でも、例えば次のように、牛肉取引における商習慣に照らすと、それらが判定できるものがほとんどとなっていた。
〔1〕 品目名「牛正肉」、「牛正」、「乳廃牛」の牛肉は、通例、ミンチ材等の加工用牛肉となる乳用牛メスの部分肉とされている。
〔2〕 品目名「国産牛肉」、「牛肉」、「牛セット」の牛肉は、通例、比較的廉価な食用牛肉となる乳用牛オスの部分肉とされている。
このように、在庫証明書とともに全箱検品における現品調査表を活用することとすれば、事業対象牛肉のほとんどについて、その品種・性別の確認ないし判定が可能と認められた。
そして、前記(1)のとおり、事業対象牛肉の品種の実態から農林水産省が設定した一律の助成単価は割高なものと認められ、さらに事業対象牛肉の部位別の実態まで考慮に入れた場合には、この一律の助成単価は一層割高なものとなると考えられるところである。
よって、処分事業開始後、既に焼却処分されるなどして、部位の特定ができない事業対象牛肉が相当量あることから、品種・性別ごとの助成単価によることはやむを得ないとしても、これら品種・性別の確認ができないものが48.3%にも上るままにしておくことは適当でないと認められた。
したがって、農林水産省において、処分事業における助成単価を品種・性別ごとに設定し、また、事業対象牛肉の品種・性別の確認ないし判定の合理的な基準を示し、これにより品種・性別を区分して助成金を算定させ、もって助成金の節減を図る要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、牛肉価格を補償しないことから品種・性別の確認を要しないこととした保管事業開始後に、牛肉価格を補償する処分事業を緊急に追加して実施する必要があったというやむを得ない事情にもよるが、農林水産省において、処分事業の助成単価の算定に当たって、事業対象牛肉の品種・性別の実態とその評価額の算定との整合性について十分検討しないまま一律の単価で助成するとしたこと、また、全箱検品の現品調査表等により、品種・性別の確認ないし判定を適切かつ合理的に行うことができるのに、その検討が十分でなかったことなどによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置及び節減できた助成金
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、次のとおり、一律の単価に代えて品種・性別ごとの助成単価を設定し、また、品種・性別の確認ないし判定の基準を示し、事業団に指示して、これらにより助成金の交付を行わせる処置を講じた。
(1) 助成単価について、14年3月に、BSE発生確認前1年間における中央市場の品種・性別ごとの枝肉取引単価を基に、「和牛オス」、「和牛メス」、「乳用牛オス」、「乳用牛メス」の助成単価と、なお性別が確認できない場合に適用するものとして性別単価を加重平均した「和牛」、「乳用牛」の助成単価を設定し、これらの単価1,993円〜787円により助成金の交付申請及び交付決定を行わせることとした。
ただし、この時点では、品種・性別の確認は在庫証明書の記載によるものとし、確認できないものは、確認できたものの加重平均単価によることとされていた。
(2) 品種・性別の確認ないし判定について、15年3月に、在庫証明書とともに現品調査表を活用することとして、品目名等から品種・性別を確認・判定する基準を示し、これにより事業対象牛肉を仕分けさせた上で、上記の品種・性別ごとの単価により助成金を算定し交付させることとした。
事業団では、上記の農林水産省の指示を受けて、在庫証明書及び現品調査表により事業対象牛肉11,115tすべてについて品種・性別を確認・判定して助成単価の区分に仕分けを行った上で、それぞれの助成単価を用いて助成金を算定し、15年8月までに、その総額150億3220万余円を全国連等に交付した。
これによって、前記一律の助成単価1,554円による助成金総額170億3890万余円を約20億0670万円節減できたことになる。
(注1) | 全国農業協同組合連合会ほか5団体 全国農業協同組合連合会、全国畜産農業協同組合連合会、全国開拓農業協同組合連合会、全国酪農業協同組合連合会、全国食肉事業協同組合連合会、日本ハム・ソーセージ工業協同組合 |
(注2) | 牛半丸枝肉 牛をと畜し、はく皮し、内臓を摘出し、頭・足などを取り除いて左右の半体に切断したもの |