会計名及び科目 | 一般会計 (組織)水産庁 (項)水産庁 | |
部局等の名称 | 水産庁 | |
補助の根拠 | 予算補助 | |
補助事業者 (事業主体) |
財団法人海外漁業協力財団 | |
補助事業 | 南太平洋漁業振興対策 | |
補助事業の概要 | 南太平洋諸国の200海里水域に入漁する漁業者の操業を確保し経営の安定に資するため、南太平洋漁業振興基金を造成し、当該漁業者を対象に次の業務を行うもの | |
(1) | 入漁料に充当する資金の借入れに係る利子補給(南太平洋入漁料対策特別資金) | |
(2) | 入漁料に相応する漁獲量がなかった場合の資金の貸付け(南太平洋漁業振興資金) |
国庫補助金交付額 | (1) | 2億8200万円 | (昭和54年度) |
(2) | 6億1000万円 | (昭和54年度) | |
計 | 8億9200万円 | ||
有効活用を図るよう改善させた基金の国庫補助金相当額 | (1) | 10億4067万円 | (平成14年度末) |
業務を廃止し基金から返還させた国庫補助金相当額 | (2) | 4億9666万円 | (平成15年度) |
1 事業の概要
水産庁では、南太平洋諸国(注1)
の200海里水域(以下「南太平洋水域」という。)に入漁する我が国漁業者の操業を確保し、当該漁業者の経営の安定に資することを目的として、南太平洋漁業振興対策事業実施要領(昭和55年55水海第350号農林水産事務次官依命通達。以下「実施要領」という。)等に基づき、財団法人海外漁業協力財団(以下「協力財団」という。)に南太平洋漁業振興対策事業(以下「振興対策事業」という。)を実施させている。
振興対策事業は、南太平洋諸国が200海里の排他的経済水域を設定したことに伴い、南太平洋水域に入漁する我が国漁業者に入漁料(漁獲量に応ずる水揚見込額のおおむね3〜5%)の支払義務が発生したことにより漁業者が受ける経済的影響を緩和するとともに、魚価の急激な上昇を回避することが必要であることにかんがみ、昭和55年2月に発足したもので、56年3月までは社団法人大日本水産会が実施していたが、その後、協力財団がこれを承継している。そして、事業の内容は、南太平洋入漁料対策特別資金(以下「特別資金」という。)と南太平洋漁業振興資金(以下「振興資金」という。)からなる南太平洋漁業振興基金(以下「基金」という。)を造成し、次のとおり、特別資金による利子補給と振興資金による融資の2つの業務を行うものとなっている。
(1) 特別資金による利子補給
漁業協同組合等の融資機関が、南太平洋水域に入漁を予定している漁業者に対して、南太平洋諸国に支払う入漁料に充当する資金を融資する場合に、当該融資機関に対して、特別資金から利子補給金を交付する。
この利子補給の対象となる融資は、入漁料に相当する額を限度とし、償還期限は1年以内とされており、これに対する利子補給は、当該融資の貸付残高に年利率4%(約定貸付利率が8%を下回るときは、当該約定貸付利率に2分の1を乗じた率)を乗じて得た額以内となっている。
(2) 振興資金による融資
南太平洋諸国に入漁料を支払った者であって、かつ、漁海況の変動、海難事故等により南太平洋水域に入漁できなかった者又は漁獲割当量若しくは漁獲目標量(以下「漁獲目標量等」という。)を達成できなかった者に対して、振興資金から融資する。
この融資限度額は、南太平洋水域に入漁できなかった者に対しては、その者の支払った入漁料に相当する額、漁獲目標量等を達成できなかった者に対しては、漁獲目標量等から漁獲量を控除して得た部分に相応する入漁料に相当する額で、貸付利率は年4%以上、償還期限は3年以内(据置期間1年を含む。)となっている。
基金は、実施要領等により、国からの補助金と漁業者等からの拠出金によって造成すること、また、基金のうち上記(1)の特別資金については南太平洋入漁料対策特別資金融通助成勘定(以下「特別資金勘定」という。)、(2)の振興資金については南太平洋漁業振興資金融資勘定(以下「振興資金勘定」という。)によって、それぞれ区分して経理することとされている。
そして、水産庁では、基金に充てるため、54年度に(1)特別資金分として2億8200万円、(2)振興資金分として6億1000万円、計8億9200万円の国庫補助金を交付している。また、54年度から57年度までに社団法人日本トロール底魚協会ほか4団体(注2)
から(1)特別資金分として1億6309万余円、(2)振興資金分として3797万余円、計2億0107万余円が拠出されており、基金は、これら国庫補助金及び民間拠出金を合わせた(1)特別資金4億4509万余円、(2)振興資金6億4797万余円、計10億9307万余円により造成されている。そして、利子補給及び融資の各業務は、55年度から開始された。
2 検査の結果
振興対策事業は、入漁料の支払により漁業者が受ける影響の緩和と魚価の急激な上昇の回避の必要にかんがみ実施されたものであるが、基金造成後、長期間を経過しており、この間、入漁料の算定・支払方式が変わり、また、世界的に漁業資源の管理が強まり、我が国では景気低迷等に伴い市中金利が著しい低金利となるなど、事業を取り巻く環境も変化してきている。そうした中で、本院は、近年の検査において振興対策事業の実施状況等を注視してきており、平成13年に国が公益法人等に補助金等を交付して造成させ一定の事業を行わせている資金を横断的に検査した結果として、本件業務の実績が著しく低調又は皆無で基金が活用されていない事態が継続している状況を、平成12年度決算検査報告の「特定検査対象に関する検査状況」の「国が公益法人等に補助金等を交付して設置造成させている資金について」
(同報告参照)において掲記するなどしている。
このような経緯を踏まえて、引き続き、振興対策事業をめぐる状況、同事業の実施状況と基金の利用状況などについて検査した。
振興対策事業発足後の事業をめぐる状況は次のようになっている。すなわち、〔1〕入漁料の算定・支払方式は、昭和50年代には南太平洋諸国の多くでランプサム方式(注3)
(漁業種類毎一括前払方式)だったが、漁業交渉の結果により60年ごろから一部の国を除いてパーベッセル方式(注4)
(漁船毎航海毎前払方式)に変更された。これにより、漁業者が一度に必要とする資金の額が少額となった。また、航海ごとに入漁料を支払って直ちに操業すること、航海ごとの漁況をみながら、その後の入漁の可否や期間を決定できることから、海況や海難事故等により入漁できなくなる事態や漁獲目標量等を大きく下回る漁獲となる事態がほとんど生じなくなっている。〔2〕また、南太平洋水域に入漁する漁船の隻数は、50年代には1,000隻を超えていたが、その後は減船や漁況、魚価の低迷等から漸減し、直近の平成14年では355隻となっていて、基金の造成当時と比べて事業の対象となる漁船数が大幅に減少している。〔3〕さらに、市中金利については、その指標となる日本銀行の長期プライムレートでみると、昭和55年当時は8%程度であったが、平成7年以降は4%を下回り、8年から2%台、13年から1%台となっていて、基金の造成当時と比べて極めて低金利で推移していて、基金を利用するメリットが少なくなっている。
そして、特別資金の利子補給及び振興資金の融資の実績は、次のとおりとなっている(別表参照)
。
(1) 特別資金による利子補給の実績は、業務を開始した昭和55年度の7161万余円を最高として、その後漸次減少し、平成10年度から14年度までの5年間では平均333万余円(直近の14年度では309万余円)となっている。そして、昭和50年代は利子補給額が資金運用利息を相当上回るものであったが、その後これが逆転し、平成10年度から14年度まででも上記の利子補給実績は平均運用利息2295万余円(14年度は1677万余円)を大きく下回るものとなっている。
(2) 振興資金の貸付実績は、昭和55年度から58年度にかけて3件、計1億2176万円あっただけで、59年度以降1件の貸付けも行われていない。
こうした中で、協力財団では、56年度及び59年度から平成2年度までに、水産庁の承認の下に、振興資金勘定から特別資金勘定に計6億0178万余円の資金を振り替えている。
そして、上記のような事業実績及び資金の振替等により、特別資金勘定及び振興資金勘定の資金保有の状況は、次のようになっている。
(1) 特別資金勘定(国庫補助金及び民間拠出金計4億4509万余円)の資金残高は、最も少なかった昭和58年度末の2億7514万余円以降、毎年増加し、平成14年度末では12億7331万余円(国庫補助金相当額10億4067万余円)に上っており、前記の利子補給実績に比べて著しく多額なものとなっている。
(2) 振興資金勘定(国庫補助金及び民間拠出金計6億4797万余円)の資金残高は、特別資金勘定への資金振替があったものの運用利息が累積し、14年度末で6億0768万余円(国庫補助金相当額4億9666万余円)となっており、貸付実績がないまま多額の資金が滞留している。
(単位:千円)
勘定 | 区分 | 平成10年度 | 平成11年度 | 平成12年度 | 平成13年度 | 平成14年度 | 累計 (昭和54年度〜 平成14年度) |
(1) 特 別 資 金 |
年度当初残高 | 1,175,220 | 1,202,024 | 1,229,943 | 1,244,910 | 1,259,628 | − |
補助金・拠出金 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 445,097 | |
運用利息 | 30,786 | 31,947 | 18,240 | 17,018 | 16,772 | 644,934 | |
資金振替額(+) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 601,785 | |
利子補給額 | 3,982 | 4,028 | 3,273 | 2,300 | 3,090 | 418,506 | |
年度末残高 | 1,202,024 | 1,229,943 | 1,244,910 | 1,259,628 | 1,273,311 | − | |
(2) 振 興 資 金 |
年度当初残高 | 546,188 | 559,598 | 573,164 | 582,139 | 588,702 | − |
補助金・拠出金 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 647,975 | |
運用利息 | 13,409 | 13,565 | 8,975 | 6,562 | 18,986 | 561,498 | |
資金振替額(−) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | −601,785 | |
貸付金 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 121,760 | |
償還金 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 121,760 | |
年度末残高 | 559,598 | 573,164 | 582,139 | 588,702 | 607,688 | − |
以上のような事態は、国の財政資金がその効果を上げていないもので、適切でないと認められる。そして、振興対策事業をめぐる状況や事業の実施状況に照らして、現行制度の下では事業実績が好転するとは考えにくいことから、事業の在り方を見直し、国の財政資金の有効な活用を図る要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、振興対策事業を取り巻く環境が大きく変化し、漁業者のニーズが減少し又はなくなっているのに、水産庁において、事業の必要性の検討や事業内容の見直しを行ってこなかったことなどによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、水産庁では、15年3月に実施要領等を改正して、次のとおり、業務の内容を見直して資金の活用の促進を図ったり、業務を廃止して資金を返還させたりする処置を講じた。
(1) 特別資金による利子補給について、15年度以降、資金の需要増が見込まれるペルー及びフィジーを対象国に追加するとともに、漁業者の負担を軽減するため利子補給水準を引き上げるなどし、資金利用の促進を図ることとした。
なお、水産庁では、上記の処置にもかかわらず、資金保有額が事業規模に比べて多額となる場合には、廃止を含めて改めて見直しを行うこととしている。
(2) 振興資金について、融資業務を14年度末で廃止し、15年4月に残余資金のうち国庫補助金相当額4億9666万余円を協力財団から国に返還させた。
(注1) | 南太平洋諸国 パプアニューギニア、キリバス、ソロモン、ニュージーランド、フランス海外領(ニューカレドニア及び付属の諸島、フランス領ポリネシア並びにワリス及びフトウナ諸島に限る。)、ミクロネシア、パラオ、マーシャル、オーストラリア、インドネシア、ツバル及びナウル |
(注2) | 社団法人日本トロール底魚協会ほか4団体 社団法人日本トロール底魚協会、日本鰹鮪漁業協同組合連合会、日本遠洋いか漁業協同組合、全国漁業協同組合連合会、社団法人海外まき網漁業協会 |
(注3) | ランプサム方式 漁業種類ごとに一定の入漁割当隻数及び漁獲割当量又は漁獲目標量を定め、この隻数及び漁獲量に見合った入漁料を入漁する前に全額支払う方式(漁業種類毎一括前払方式) |
(注4) | パーベッセル方式 入漁を予定している漁船ごとの一航海(一定期間)ごとに入漁料を支払う方式(漁船毎航海毎前払方式)で、現在オーストラリア及びフランス海外領を除く南太平洋諸国との間でこの方式が採られている。 |