1 本院が要求した是正改善の処置
独立行政法人は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務・事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものなどについて効率的かつ効果的に行わせることを目的として、国が有する権利及び義務を承継して設立されたものである。
独立行政法人の設立の際に国から承継される権利及び義務は、〔1〕国の部局又は機関の所属に属する土地、建物等に関する権利及び義務、〔2〕独立行政法人の設立の際、現に国の部局又は機関に使用されている物品に関する権利及び義務、〔3〕独立行政法人の業務に関し国が有する権利及び義務のうち〔1〕及び〔2〕以外のものであって、主務大臣が指定するものとなっている。
独立行政法人の会計は、原則として企業会計原則によるものとされている。そして、独立行政法人の有する公共的な性格等の特殊性を踏まえて企業会計原則に必要な修正を加えた独立行政法人会計基準(以下「会計基準」という。)等が公表され、独立行政法人がその会計を処理するに当たって従わなければならない基準とされた。また、そこに定められていない事項については一般に公正妥当と認められる企業会計原則に従うものとされている。
独立行政法人の制度については、国による事前関与・統制を極力排し、事後チェックヘの重点の移行を図ることとされ、この事後チェックのためには業績評価が正しく行われるように正確な財務報告が求められるところである。
そこで、独立行政法人の最初の決算期となる平成13事業年度の決算に当たり、国から承継された権利及び義務が財務諸表等に適正に計上されているかなどについて検査したところ、26独立行政法人において、次のとおり会計基準等に照らして適切でない事態が見受けられた。
(1) 承継資産の計上について
ア 3独立行政法人では、国から承継した物品のうち、確認漏れなどにより展示品、机等の一部を財務諸表に計上していなかった。
イ 24独立行政法人では、国が12年度に新規に調達して独立行政法人に承継した会計システム等のソフトウェアについて、国において消耗品として取り扱われ承継財産リストに登載されていなかったことなどから、評価額はないとして財務諸表に計上していなかった。
ウ 18独立行政法人では、国から承継した電話加入権について、承継時において適正な時価評価ができなかったなどとして、財務諸表に計上していなかった。
(2) 国有資産の維持・運営に要する費用の計上について
10独立行政法人では、国が独立行政法人等の研究業務を支援するために設置した共同利用施設を対価を支払わないで利用しているが、国においてこれら施設の維持・運営に要する費用のうち当該独立行政法人の業務に係る費用を財務諸表に計上していなかった。
(3) 科学研究費補助金の計上について
6独立行政法人では、独立行政法人に所属する研究者に国から交付された科学研究費補助金を独立行政法人の預金口座に受け入れて、その事務局で管理(以下「機関管理」という。)しているが、その13事業年度中の交付額を各月の合計残高試算表等に計上していなかった。
このような事態が生じているのは、13事業年度は独立行政法人として設立されて1年目と日が浅いこと、会計基準等の運用に係る助言等が必ずしも十分でなかったことにもよるが、各独立行政法人において会計基準、企業会計原則等に関する理解が+分でなかったことなどによると認められた。
第2期の財務諸表等の作成に向けて、会計基準、企業会計原則等に関する理解を深め、資産及び費用等の認識・計上処理を適切に行い、財務諸表等の真実性の向上を期する要があるとして、26独立行政法人の理事長等に対し14年11月に、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を要求した。
2 当局が講じた是正改善の処置又は当局の処置状況
前記(1)アの国から承継した資産のうち物品が財務諸表に計上されていなかった事態については、本院の検査における指摘により、各独立行政法人の13事業年度の財務諸表において是正されている。そして、(1)イ及びウのソフトウェア及び電話加入権を財務諸表に計上していなかった事態については、各独立行政法人において、本院指摘の趣旨に沿い、14事業年度の財務諸表に計上し、正確な財務情報を開示する処置を講じた。
また、(3)の機関管理している科学研究費補助金を各月の合計残高試算表等に計上していなかった事態については、1法人において、本院の検査における指摘により、13事業年度から預り金として合計残高試算表に計上されている。そして、同法人を除いた5法人においては、本院指摘の趣旨に沿い、14事業年度の各月の合計残高試算表等に預り金として計上する処置を講じた。
前記(2)の国が設置した共同利用施設の維持・運営に要する費用のうち独立行政法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、各独立行政法人(注) と主務省との間で具体的な表記方法の検討を行っている。
上記の是正改善の処置又は処置状況を法人別に示すと、次のとおりである。
1 独立行政法人国立特殊教育総合研究所
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア14,983,500円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
○科学研究費補助金について
機関管理している科学研究費補助金について14事業年度において各月の合計残高試算表に預り金として計上する処置を講じた。
2 独立行政法人大学入試センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア29,603,112円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権34件、2,448,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
3 独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア34,706,700円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権48件、3,456,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
4 独立行政法人国立女性教育会館
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア9,450,000円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権28件、735,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○科学研究費補助金について
機関管理している科学研究費補助金について14事業年度において各月の月次試算表に預り金として計上する処置を講じた。
5 独立行政法人国立青年の家
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア16,100,000円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権117件、8,424,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
6 独立行政法人国立少年自然の家
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア16,100,000円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権130件、9,360,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
7 独立行政法人国立科学博物館
○承継資産について
・物品
国から承継した物品のうち展示品の一部126点、555,340,484円については、13事業年度の貸借対照表の有形固定資産に計上済みである。
○科学研究費補助金について
機関管理している科学研究費補助金について14事業年度において各月の合計残高試算表に預り金として計上する処置を講じた。
8 独立行政法人放射線医学総合研究所
○承継資産について
・電話加入権
国から承継した電話加入権181件、13,032,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○科学研究費補助金について
機関管理している科学研究費補助金について14事業年度において各月の合計残高試算表に預り金として計上する処置を講じた。
9 独立行政法人国立美術館
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア33,285,000円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権60件、4,536,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○科学研究費補助金について
機関管理している科学研究費補助金について14事業年度において各月の出納計算表に預り金として計上する処置を講じた。
10 独立行政法人国立博物館
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア33,285,000円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
11 独立行政法人文化財研究所
○承継資産について
・物品
国から承継した物品のうち出土品の一部1,026,076点、1,026,076円については、13事業年度の損益計算書の費用に計上済みである。
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア33,285,000円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
○科学研究費補助金について
機関管理している科学研究費補助金については、13事業年度において各月の合計残高試算表に預り金として計上済みである。
12 独立行政法人農林水産消費技術センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア27,433,624円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権84件、6,048,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
13 独立行政法人種苗管理センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア51,438,046円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権70件、5,040,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
14 独立行政法人家畜改良センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア41,150,436円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権92件、6,624,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
15 独立行政法人肥飼料検査所
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア20,232,297円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
16 独立行政法人林木育種センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア17,146,015円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
17 独立行政法人さけ・ます資源管理センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア24,004,421円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権56件、4,032,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
18 独立行政法人農業技術研究機構
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア126,880,513円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権545件、39,300,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
19 独立行政法人農業生物資源研究所
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア20,575,218円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権99件、7,128,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
20 独立行政法人農業環境技術研究所
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア3,429,203円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権27件、1,944,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
21 独立行政法人農業工学研究所
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア3,429,203円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
22 独立行政法人食品総合研究所
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア3,429,203円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権23件、1,656,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検詩を行っている。
23 独立行政法人国際農林水産業研究センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア6,858,406円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権31件、2,232,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
24 独立行政法人森林総合研究所
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア24,004,421円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
25 独立行政法人水産総合研究センター
○承継資産について
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア58,296,452円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権172件、12,352,000円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。
○国有資産の維持・運営に要する費用について
共同利用施設の利用に係る費用のうち、法人の業務に係る費用の財務諸表への計上については、主務省と連絡を取りながら、具体的な表記方法の検討を行っている。
26 独立行政法人教員研修センター
○承継資産について
・物品
国から承継した物品のうち机等の一部23点、2,604,227円については、13事業年度の損益計算書の費用に計上済みである。
・ソフトウェア
国から承継したソフトウェア10,242,000円について14事業年度において損益計算書の費用に計上する処置を講じた。
・電話加入権
国から承継した電話加入権29件、761,250円について14事業年度において貸借対照表の無形固定資産に計上する処置を講じた。