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  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

港湾における大規模地震対策施設の整備及び管理について


第4 港湾における大規模地震対策施設の整備及び管理について

検査対象 国土交通省(平成13年1月5日以前は運輸省)
会計名及び科目 港湾整備特別会計(港湾整備勘定) (項)港湾事業費
  (項)北海道港湾事業費
  (項)離島港湾事業費
一般会計 (項)河川等災害復旧事業費
部局等の名称 北海道開発局(13年1月5日以前は総理府北海道開発庁北海道開発局)、東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局(13年1月5日以前は運輸省第一、第二、第三、第四、第五各港湾建設局)
港湾管理者 東京都ほか61港湾管理者
事業の概要 係留施設、外郭施設等の港湾施設の建設、改良等を行う港湾整備事業のうち、耐震強化岸壁、防災拠点緑地等の大規模地震対策施設の整備
耐震強化岸壁等の整備の計画がある港湾 室蘭港ほか135港
上記港湾における耐震強化岸壁等の事業費 緊急物資輸送のための耐震強化岸壁 1785億円
国際海上コンテナ輸送のための耐震強化岸壁 850億円
防災拠点緑地 67億円
上記に対する国費負担の額 緊急物資輸送のための耐震強化岸壁 985億円
国際海上コンテナ輸送のための耐震強化岸壁 499億円
防災拠点緑地 24億円

1 事業の概要

(港湾における大規模地震対策施設の整備)

 国土交通省では、港湾法(昭和25年法律第218号)等に基づき、直轄事業、補助事業等により港湾整備事業を実施している。この事業は、航路等の水域施設、防波堤等の外郭施設、岸壁等の係留施設等の建設、改良等を行うもので、整備された港湾施設は、国が直轄事業で整備した港湾施設も含めて、都道府県、市町村等の港湾管理者が一元的に管理することとなっている。
 港湾施設の整備等について、国土交通省では、港湾法に基づいて「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」(現行のものは平成12年運輸省告示。以下「開発方針」という。)を定めている。そして、港湾管理者は、その整備等について、港湾法の規定に基づく「港湾の開発、利用及び保全並びに港湾に隣接する地域の保全に関する政令で定める事項に関する計画」(以下「港湾計画」という。)等を作成しており、この港湾計画等は、開発方針等に適合したものでなければならないとされている。
 上記の開発方針においては、安全で安心な地域づくりへの貢献として、災害に強い港湾システムを構築するため、大規模地震に対する耐震性を備えた港湾施設(以下「大規模地震対策施設」という。)の整備を港湾整備事業の一つとして位置付けている。
 これは、大規模地震が発生し陸上輸送に重大な支障が生じた場合、緊急物資の輸送や被災者の避難のルートとして、海上輸送交通路は極めて重要な役割を果たすこととなること、また、港湾は、貿易貨物量の99%以上を取り扱うなど社会活動や経済活動に深く結びついているため、港湾施設が被災しその機能がまひした場合、背後地域のみならず我が国の社会経済に大きな影響を与えることになるためである。
 そして、大規模な地震等の災害時に避難者や緊急物資の輸送を確保するため、耐震性を強化した係留施設(以下「耐震強化岸壁」という。)等を整備し、また、必要に応じて防災拠点や、災害時に避難地として機能する港湾緑地を整備するとしている。さらに、港湾が被災した場合にも一定の海上輸送構能を確保して、地域の経済活動等への影響を最小限に止められるように、必要に応じて国際海上コンテナ輸送等に対応した岸壁の耐震性についても強化するとしている。

(災害対策基本法)

 我が国の地震、水害等の災害対策については、昭和36年に制定された災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)に基づき、内閣総理大臣を会長として内閣府に設置された中央防災会議が作成した防災基本計画を基に実施されている。
 そして、同法によれば、国の行政機関等のうち、内閣総理大臣が指定した機関の長は、防災基本計画に基づき、その所掌事務について、防災に関し執るべき措置等を定めた防災業務計画を作成し、公表、実施することとされている。

(国土交通省防災業務計画)

 災害対策のうち地震防災対策については、53年6月に、東海地震を想定した大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)が、平成7年6月に、阪神・淡路大震災を契機とした地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)がそれぞれ制定されている。
 国土交通省では、上記法律の制定等を受けて、地震防災対策を強化するため、昭和45年に策定された防災業務計画の修正を数度にわたって行った後、平成14年5月に現行の国土交通省防災業務計画を策定し、震災時における緊急物資等の輸送を確保するため、耐震強化岸壁等の整備を推進することとしている。

(地域防災計画)

 地域防災計画は、防災業務計画による作成基準に従って、都道府県及び市町村の防災会議により作成、公表されるものである。
 この地域防災計画には、〔1〕行政機関、公共機関、防災上重要な施設の管理者の処理すべき事務又は業務の大綱、〔2〕災害予防、災害応急対策、災害復旧に関する事項別の計画、〔3〕〔2〕に掲げる措置に要する労務、施設、物資、輸送等に関する計画等が定められている。

(港湾における大規模地震対策施設整備の基本方針)

 国土交通省では、前記大規模地震対策特別措置法の制定を受けて、昭和56年度から、静岡県を中心とした東海地域等において大規模地震対策施設の整備を進めてきた。そして、58年の日本海中部地震を契機として、59年8月には「港湾における大規模地震対策施設の整備構想」を公表し、観測強化地域、特定観測地域等における大規模地震対策施設の整備を進めてきた。
 その後、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災においては、港湾施設や道路網に生じた甚大な被害により、緊急物資の大量輸送システムを速やかに構築することができなかった一方で、神戸港における耐震強化岸壁等の港湾施設は利用可能であり、陸上交通がまひ状態となる中で、緊急物資等の搬入に重要な役割を果たした。また、港湾緑地等のオープンスペースは、臨時ヘリポート、仮設住宅等の用地として多目的に利用され、復旧・復興の支援拠点として一定の役割を果たすこととなった。
 これらの教訓を基に、国土交通省では、大規模地震はどこでも起こる可能性があり、大規模地震対策施設の全国的な整備が必要であるとして、8年11月に、新たに、防災拠点や幹線輸送機能の確保等を盛り込んだ内容で前記の開発方針を改訂した。
 そして、この開発方針、災対法及び前記の防災業務計画等を踏まえ、8年12月に、大規模地震対策施設整備の基本的な枠組みとなる「港湾における大規模地震対策施設整備の基本方針」(以下「基本方針」という。)を策定し、公表した。以後、国土交通省は、港湾における大規模地震対策施設の整備については、原則としてこの基本方針に基づいて実施してきている。

(大規模地震対策施設の整備)

 基本方針によると、大規模地震対策施設として整備する施設は、次のとおりであるとしている。
(ア)緊急物資輸送のための耐震強化岸壁等 震災直後の緊急物資、避難者の海上輸送等を確保する目的で整備する大規模地震対策施設は、港湾背後地域に一定規模の人口を有している港湾、地形的要因により緊急物資の輸送等を海上輸送に依存せざるを得ない背後地域を有する港湾、離島航路が就航し、震災時にもその維持が必要な港湾等を対象として体系的に計画して整備する。そして、整備する大規模地震対策施設は、〔1〕耐震強化岸壁、〔2〕緊急物資の一時保管場所、駐車場、臨時のヘリポート等として利用可能なオープンスペース(以下「広場」という。)、〔3〕耐震強化岸壁又は広場と背後幹線道路とを結ぶ臨港道路(以下「臨港道路」という。)とする。

(耐震強化岸壁)

 上記のうち、耐震強化岸壁は、大規模な地震が発生した際の緊急物資等の海上輸送を円滑に行うために必要となる施設の量を確保するものとし、既存の係留施設の改良によることが可能な場合はこれにより、改良が困難な場合には新たな整備によることとする。この場合、震災時の緊急物資等の輸送に適し、かつ、通常時に一般的な利用が十分見込まれる岸壁であって、海陸双方からのアクセス、通常時に扱う主要貨物の性状、荷さばき地の面積等の必要な条件を満たすものを耐震強化岸壁として整備する。
 なお、設計に当たっては、「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(国土交通省港湾局監修)によると、一般の係留施設が75年確率で発生する地震に対して、所要の構造の安定を保持するよう設計されるのに対し、耐震強化岸壁については、数百年確率で発生する地震等に対して、これにより生ずる被害が軽微であり、かつ、地震後の速やかな機能の回復が可能なものとしている。このように、耐震強化岸壁は一般の係留施設に比べて耐震性が強化されることとなり、具体的な構造としては、例えば、ケーソン式の係留施設の場合は、本体のケーソンを一般の係留施設より大型なものとし、地震後の変形量を極力押さえる構造とする方法が一般的である。
 この緊急物資輸送のための耐震強化岸壁については、8年12月において、阪神・淡路大震災の実績をもとに、被災率、1人1日当たりの緊急物資量、1バース(注1) 当たりの緊急物資取扱量等から必要バース数を算定した結果、基本方針における整備の計画(以下「基本計画」という。)を全国で177港、358バースとし、その整備をおおむね2010年(平成22年)を目途に実施することを公表している。その後、船舶の大型化による水深の変更や耐震強化岸壁の配置の見直し等の状況を踏まえて、13年度に全国の耐震強化岸壁の整備の計画を見直すこととし、各港湾管理者に対する調査等の結果、15年3月に、基本計画を全国で184港、336バースに変更し、現在に至っている。

 バース 岸壁等の係留施設において、1隻の船舶が占める施設の単位

(広場及び臨港道路)

 広場は、緊急物資の仕分や一時保管、駐車場等に必要な面積及びこれらの諸活動が円滑に行える形状を有するスペースを確保する。さらに、臨港道路は、大規模地震に対する耐震性について点検を実施し、必要に応じ橋りょう及び高架部の耐震性を強化するとともに、護岸沿いの道路等の液状化により復旧に長時間を要するおそれのある場合には液状化対策を実施する。そして、臨港道路を使用して震災時に緊急物資等を円滑に輸送するため、道路管理者が港湾管理者と共同で策定する緊急輸送道路ネットワーク計画と調整を行う。

(イ)国際海上コンテナ輸送のための耐震強化岸壁等

 震災直後から復旧完了に至るまで、一定の幹線貨物輸送機能を確保する目的で整備する耐震強化岸壁等は、国際海上コンテナ輸送等を担う港湾において整備することとし、耐震強化岸壁及び臨港道路に加え、必要なヤード、駐車場を備えたものとする。

(ウ)復旧・復興の支援のための防災拠点

 震災直後はもとより、市民生活や経済社会活動の復旧・復興にも幅広く貢献していくため、被災地の復旧・復興の支援拠点としての機能等を確保する目的で港湾管理者が整備する防災拠点は、(ア)の港湾のうち、背後の市街地における他の防災拠点の整備状況及び背後地域の人口規模等により、必要に応じて整備する。そして、防災拠点は、耐震強化岸壁、広場及び臨港道路に加え、避難地や救援・復旧支援基地用地として多目的に利用可能な港湾緑地等のオープンスペース(以下「防災拠点緑地」という。)等を備えたものとする。

(大規模地震対策施設の管理)

 基本方針によると、大規模地震対策施設として整備された港湾施設は、港湾法第49条の2で規定する港湾台帳に大規模地震対策施設である旨を記載するなどして、緊急時にその機能が確保されるように適切に管理するものとされている。また、大規模地震対策施設は、通常時においては、一般的な利用に供することにより効率的な利用を図るものとするが、利用に当たって貨物の仮置き・保管、車両の駐車、建築物(仮設物を含む。)の設置等を行う場合には、緊急時の利用に支障を来さないよう十分配慮することとされている。さらに、これらの大規模地震対策施設については、地域防災計画に位置付けることとし、表示等により地域への周知を図ることとされている。

(臨海部防災拠点マニュアル)

 国土交通省では、基本方針の内容をより具体化させ、臨海部における防災拠点の整備の促進、有効活用を図ることを目的として臨海部防災拠点マニュアル(以下「マニュアル」という。)を9年3月に作成し、参考資料として各港湾管理者等に配布している。このマニュアルは、防災拠点整備の基本的な考え方、整備対象港湾、構成施設、通常時及び震災時の運用・管理等のあり方についてとりまとめたものである。

2 検査の結果

(検査の背景)

 国土交通省では、これまでに、地震に強い港湾を目指し、耐震強化岸壁の整備等を実施してきており、阪神・淡路大震災の教訓も踏まえ、耐震強化岸壁、防災拠点等の大規模地震対策施設の整備を今後の行政の重要課題の一つとして位置付けている。そして、8年に基本方針を定めた後、12年には開発方針を改定し、さらに、14年に策定された「国土交通省防災業務計画」においても、耐震強化岸壁等の大規模地震対策施設を整備する必要性が盛り込まれている。
 また、14年7月には「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(平成14年法律第92号)が成立するなど、従来から観測強化地域とされていた東海、南関東と併せて、これらの地域を震源域とすそ大規模地震が発生することが危惧されている。さらに、兵庫県南部地震のような活断層による直下型地震については、全国のどの地域においても発生し得ることが危惧されており、震災時の緊急輸送等を確保するための港湾施設の重要性が高まっている。

(検査の着眼点及び対象)

 上記を踏まえて、港湾整備事業費及びこのうちの耐震強化岸壁に係る事業費の推移等に留意しつつ、整備については、〔1〕耐震強化岸壁、防災拠点等の整備が進ちょくしているか、〔2〕耐震強化岸壁の周辺施設の耐震化が実施されているか、〔3〕大規模地震対策施設が必要な地域の港湾に整備が適切に計画されているかなどに着目して検査した。また、管理については、〔1〕 整備された大規模地震対策施設が震災時の使用に支障がなく、その機能を十分に発揮できるよう適切に管理されているか、〔2〕震災時に円滑な諸活動を行うための体制が整備されているかなどに着目して検査した。
 検査は、北海道ほか24都府県(注2) において、基本計画がある136港(62港湾管理者)を主な対象として実施した。

(検査の結果)

 検査の結果、大規模地震対策施設の整備及び管理について、以下のような事態が見受けられた。

(1)大規模地震対策施設の整備

ア 緊急物資輸送のための耐震強化岸壁等

(ア)港湾整備事業費及び耐震強化岸壁に係る事業費の推移

 今回検査した25都道府県における港湾整備事業費及びこのうちの耐震強化岸壁に係る事業費の推移は図1のとおりとなっていて、港湾整備事業費は10年度以降漸減傾向にあり、港湾整備事業費に占める耐震強化岸壁の事業費の割合は、近年は5%前後で推移している。

図1 25都道府県における港湾整備事業費及び耐震強化岸壁に係る事業費の推移

図125都道府県における港湾整備事業費及び耐震強化岸壁に係る事業費の推移

(単位:百万円)
(年度) 8 9 10 11 12 13 14
港湾整備事業費 519,943 481,184 597,647 553,313 483,919 455,632 395,888
港湾整備事業国費 255,321 234,336 303,799 276,008 259,983 244,855 217,624
耐震強化岸壁に係る事業費 14,595 15,011 28,350 31,125 28,714 25,263 16,610
耐震強化岸壁に係る国費 7,443 7,966 15,364 16,759 16,082 14,393 10,057
耐震強化岸壁の事業費割合 2.81% 3.12% 4.74% 5.63% 5.93% 5.54% 4.20%
耐震強化岸壁の国費割合 2.92% 3.40% 5.06% 6.07% 6.19% 5.88% 4.62%

(イ)耐震強化岸壁の整備の進ちょく状況

(全国における進ちょく状況)

 全国における耐震強化岸壁の整備の進ちょく状況は、表1のとおり、基本計画(2010年を目途)の336バース(184港)に対し、14年度末現在で、整備済みとなっているものは、140バース(73港)で42%、整備中の28バース(28港)を加えても50%となっていた。また、未着工のものが168バース(117港)見受けられた。

表1 全国の耐震強化岸壁の整備状況
(平成14年度末現在)

港格 計画 整備済み 整備中 未着工
港湾管
理者数
港湾数 バース 港湾数 バース 進ちょ
く率
港湾数 バース 進ちょ
く率※
港湾数 バース
特定重要 21 21 100 14 54 54% 1 1 55% 19 45
重要 55 88 149 31 50 34% 16 16 44% 59 83
地方 34 75 87 28 36 41% 11 11 54% 39 40
79 184 336 73 140 42% 28 28 50% 117 168
注(1) 特定重要 :特定重要港湾 :重要港湾のうち国際海上輸送網の拠点として特に重要な港湾で政令で定めるもの
  重要 :重要港湾 :国際海上輸送網又は国内海上輸送網の拠点となる港湾その他の、国の利害に重大な関係を有する港湾で政令で定めるもの
  地方 :地方港湾 :重要港湾以外の港湾
注(2) 整備中欄の進ちょく率※は、計画バース数に対する、整備済みと整備中を合わせたバース数の割合である。

 そして、都道府県ごとの状況についてみると、基本計画はあるものの整備済みの耐震強化岸壁がないものが、岩手県、宮城県、茨城県、石川県、山口県、香川県及び熊本県となっていた(岩手県、茨城県、石川県には整備中のものが各1バースある。)。
 また、各港湾ごとの状況についてみると、基本計画がある184港のうち、整備済みの耐震強化岸壁がない港湾が111港あり、このうち、特定重要港湾が7港(室蘭港、苫小牧港、仙台塩釜港、姫路港、広島港、徳山下松港、博多港)、重要港湾が57港となっていた。さらに、このうちには、地震予知連絡会で観測強化地域に指定されているなど大規模地震の切迫性が高いとされている地域に所在する特定重要港湾が4港、重要港湾が20港含まれている状況となっていた。
 耐震強化岸壁の整備済みバース数の推移は図2のとおりである。

図2 整備済み耐震強化岸壁数の推移
 

図2整備済み耐震強化岸壁数の推移

 上記図2のとおり、基本方針が公表された8年度から14年度までの7年間に完成したバース数は、64バースとなっていて、年平均9バース程度となっていた。今後、これまでの整備状況と同様に推移したとしても、基本方針で目途としている2010年(平成22年)には約213バース、約63%が整備済みとなるに過ぎず、必要な整備水準である336バースを確保できるのは、2024年(平成36年)頃になると見込まれる。

(検査を実施した都道府県における進ちょく状況)

 今回検査した136港における耐震強化岸壁の整備の進ちょく状況は、表2のとおり、基本計画の263バースに対し、14年度末現在で、整備済みとなっているものは、122バース(60港、事業費1502億3万余円(国費834億6052万余円))で46%、整備中の20バース(20港、14年度までの事業費283億3862万余円(国費150億9849万余円))を加えても54%となっていた。また、未着工のものが121バース(82港)となっており、未着工のもののうち、港湾計画等における具体的な整備計画がないものが48バース(37港)見受けられた

表2 検査を実施した都道府県の整備状況
(平成14年度末現在)

港格 計画 整備済み 整備中 未着工 未計画
港湾管理者数 港湾数 バース 港湾数 バース 進ちょく率 港湾数 バース 進ちょく率※ 港湾数 バース 港湾数 バース
特定重要 17 17 86 12 49 57% 1 1 58% 15 36 6 9
重要 39 62 109 22 40 37% 12 12 48% 40 57 13 20
地方 26 57 68 26 33 49% 7 7 59% 27 28 18 19
62 136 263 60 122 46% 20 20 54% 82 121 37 48
注(1)  整備中欄の進ちょく率※は、計画バース数に対する、整備済みと整備中を合わせたバース数の割合である。
注(2)  未計画は、港湾計画等の具体的な整備計画がないもので、未着工のバース数の内数である。

 そして、上記の整備計画のない48バースを除いた未着工の73バースには、重要港湾等に設置される大型の係留施設である水深12m以上のものが2バース(2港)、港湾整備に当たり大規模な埋立工事を伴うものが8バース(7港)あり、これらについては、事業全体の整備に長期間を要することなどから、耐震強化岸壁が未着工となっている状況が見受けられた。

<事例1>

 A県では、平成5年8月改訂の港湾計画により、B港内のC地区において砂・砂利等の輸出入貨物及び輸送機械等の国内貨物を取り扱うため計8バースを整備し、このうち水深7.5m岸壁1バースを、緊急物資輸送のための耐震強化岸壁として整備するとともに、約41haの埠頭用地、港湾関連用地、緑地等を埋立により造成する計画を策定している。
 そして、同地区の整備は、大規模な埋立工事を伴うなど全体の整備に長期間を要するものであることなどから、耐震強化岸壁を含め上記の施設は未着工となっていた。しかし、A県では、同港の他地区において、新たな係留施設の整備や、既存の係留施設の補修工事を行っているのに、これを耐震強化岸壁に変更するなどの見直しは行っていない状況となっていた。

(ウ)耐震強化岸壁の周辺施設の耐震化

 震災時において大規模地震対策施設の機能を十分に発揮させるためには、基本方針にも示されているとおり、必要に応じて臨港道路等の周辺施設の耐震化が実施されていることが重要である。
 しかし、今回検査した整備済みの122バース(60港)に係る周辺施設の状況についてみると、臨港道路等の周辺施設の整備は完了しているものの、臨港道路内にある橋りょう等について耐震化の必要性の検討を行っていなかったり、港湾管理者において検討の結果、耐震化の必要があることが判明したのに、これを実施していなかったりしているものが3バース(3港)において見受けられた。
 このため、震災時において、整備された周辺施設が十分に機能を発揮できないこととなり、ひいては緊急物資の輸送等の諸活動にも支障が生ずることとなる。

<事例2>

 D県では、E港において、平成8年度から12年度にかけて、耐震強化岸壁1バースを事業費51億7273万余円(国費28億2920万円)で整備している。そして、臨港道路については、市道であったものをD県へ移管し、12年度中に港湾施設として公示している。この臨港道路には、昭和57年度に架けられた橋りょうがあり、耐震化の必要があることが判明しているのに、D県は現在までこれを実施していない状況となっていた。

(エ)耐震強化岸壁の整備の計画

 開発方針においては、大規模地震等の災害時に緊急物資の輸送等を確保するため、地域防災計画との整合を図りつつ、耐震強化岸壁等を整備するとされている。そして、基本方針においては、地形的要因により緊急物資の輸送等を海上輸送に依存せざるを得ない背後地域を有する港湾、離島航路が就航し、震災時にもその維持が必要な港湾等において、緊急物資輸送のための耐震強化岸壁を整備する必要があるとしている。したがって、これらの港湾については、港湾担当部局と防災担当部局において十分な調整、検討の上、積極的に整備の計画を策定する必要がある。
 しかし、今回検査した25都道府県において、都道府県又は市町村の地域防災計画に、上記の要件に合致する港湾について耐震強化岸壁等の大規模地震対策施設の必要性が記載されているのに、基本計画のないものが7港見受けられた。

<事例3>

 F県では、F県地域防災計画において、港湾施設は、海上交通ルートによる避難、救助、輸送を行う上で重要な役割を果たすことから、特に重要な拠点港湾及び離島の生活を支える港湾において、耐震強化岸壁等の整備に努め、震災後の物資輸送拠点としての機能確保に努めるとしている。このことから、同地域防災計画では、10港について、耐震強化岸壁等の整備を計画的に推進するとしている。
 しかし、基本計画に示されているのは上記10港のうち4港にすぎず、残りの6港については、何らの計画もない状況となっていた。

イ 国際海上コンテナ輸送のための耐震強化岸壁等

 阪神・淡路大震災を契機として、国土交通省では、国際海上コンテナ輸送のための耐震強化岸壁の整備については、中枢・中核国際港湾(中枢国際港湾は東京湾、伊勢湾、大阪湾及び北部九州の4地域に配置する港湾、中核国際港湾は北海道、日本海中部、東東北、北関東、駿河湾沿岸、中国、南九州及び沖縄の8地域に配置する港湾)をその対象とし、国際海上コンテナ輸送を行う係留施設数に対して、常時そのおおむね3割を耐震強化岸壁として確保するよう整備することとしている。
 国際海上コンテナ輸送のための耐震強化岸壁の整備の進ちょく状況についてみると、中枢・中核国際港湾(12地域)において国際海上コンテナ輸送の主力となっている水深14m以上の係留施設は、14年度末現在で、整備済みが39バース(8地域)であるが、このうち耐震強化岸壁は11バース(5地域、このうち今回検査したものは10バース(4地域)で、事業費850億8214万余円(国費499億7856万余円))で28%となっていた。
 耐震強化岸壁の整備済みバース数の堆移は図3のとおりである。

図3 整備済み耐震強化岸壁数の推移
 

図3整備済み耐震強化岸壁数の推移

ウ 復旧・復興の支援のための防災拠点

(ア)防災拠点の整備の進ちょく状況

 防災拠点の整備については、基本方針では背後地域の人口規模等により必要に応じて整備するとしているところであり、全国において防災拠点として耐震強化岸壁、防災拠点緑地等が整備済みの箇所数の推移は図4のとおりである。

図4 整備済み防災拠点箇所数の推移
 

図4整備済み防災拠点箇所数の推移

 今回検査した136港についてみると、防災拠点として耐震強化岸壁、防災拠点緑地等を整備済みのものは8箇所(7港、事業費67億763万余円(国費24億6132万余円))となっていた。

(イ)防災拠点の整備の計画

 防災拠点の整備については、基本方針において、緊急物資用の耐震強化岸壁を整備する港湾のうち、背後の市街地における他の防災拠点の整備状況及び背後地域の人口規模により、必要に応じて整備することとされている。そして、具体的には、マニュアルにおいて、背後人口がおおむね10万人以上の港湾には防災拠点を整備するとされている。
 しかし、今回検査した25都道府県の136港のうち、背後人口が10万人以上の港湾66港についてみたところ、防災拠点の整備の計画がないもの(他の防災拠点の整備状況から、港湾における防災拠点の整備は行わないとしているものを除く。)が30港見受けられた。

(2)大規模地震対策施設の管理

ア 緊急物資輸送のための耐震強化岸壁等

(ア)広場の確保

 港湾管理者は、緊急物資の仕分や一時保管等を行うために、耐震強化岸壁背後の荷さばき地、野積場、駐車場等を広場として設定している。そして、これらの広場については、通常時は、港湾管理者が、港湾の管理に関し定めた条例(以下「港湾施設管理条例」という。)に基づき、港湾施設を利用する者に使用許可を与えており、貨物、工事用資機材等が野積みされていたり、自動車等が駐車したりなどしている状況となっている。このため、震災時においては、緊急物資の仕分や一時保管の場所、駐車場等として使用するためには、広場に野積み等されている貨物等の整理、移動等の作業が必要となる。
 そして、港湾施設管理条例においては、震災時における貨物等の移動等に関する作業体制等の具体的な方策が規定されていないことから、当該野積場等の利用者が被災により活動できない事態や、複数の事業者等が使用していることにより混乱が生ずるなどの事態が想定される。このため、マニュアルにも示されているように、広場確保のための貨物等の移動、整理に関して、あらかじめ具体的な手順や実施方法を取り決めておくなど、震災時に円滑な利用ができるよう適切な管理、運用を行う必要がある。
 しかし、今回検査した整備済みの耐震強化岸壁122バース(60港)についてみると、広場確保のための具体的な実施方法、取決め等を定めていないため、震災時における迅速かつ円滑な諸活動に支障が生じ、広場が緊急物資の仕分等の用途に使用できないおそれがあるものが47バース(36港)において見受けられた。

<事例4>

 G県では、6港において、昭和61年度から平成13年度にかけて、耐震強化岸壁7バースを事業費79億672万余円(国費36億5128万余円)で整備している。そして、この耐震強化岸壁の背後の広場については、荷さばき地、野積場、駐車場等がそれぞれ設定されており、通常時には、コンテナ、石材、公共工事用コンクリートブロック等が野積みされていたり、フェリーに乗船するための自動車、旅客船の乗客の自動車等が駐車したりしている。
 しかし、G県では、上記の広場を、港湾施設管理条例に基づいて事業者等に使用許可を与えて使用させているのみで、震災時における広場確保のための具体的な方策は定めていない状況となっていた。

(イ)臨港道路等における障害物の除去作業

 大規模地震対策施設としての臨港道路等は、震災時においては、緊急物資を輸送するなどの重要な役割を果たすものであり、基本方針においても、震災時にその機能が確保されるよう適切に管理することとされている。そして、震災時においては、緊急物資の輸送等に支障が生じないよう、臨港道路等における倒壊家屋や樹木等の障害物の除去作業を迅速かつ円滑に行う必要がある。
 しかし、今回検査した整備済みの耐震強化岸壁122バース(60港)についてみると、震災時における臨港道路等の障害物等の除去作業について、具体的な実施方法、取決め等がないため、震災時の作業が迅速かつ円滑に行えず、緊急物資の輸送等に支障が生ずるおそれがあると認められるものが、13バース(13港)において見受けられた。

イ 防災拠点の運用方法等の整備

 防災拠点については、震災時においてその機能を十分に発揮できるよう、具体的な運用方法を定め、港湾担当部局と都道府県及び市町村の防災担当部局との間で、他の防災拠点との役割分担等について緊密な連携、調整を図り、運用の計画や実施体制等を整備しておく必要がある。そして、マニュアルにおいては、防災拠点緑地等の運用方法、役割、機能を明確にするとともに、あらかじめ利用計画を定めて、各施設に応じた適切な管理、運用を行うことが必要であるとされている。
 しかし、防災拠点を構成する耐震強化岸壁、広場、臨港道路及び防災拠点緑地が整備済みとなっている8箇所(7港)についてみると、いずれも震災時における運用方法等が整備されていないことから、迅速かつ円滑な諸活動が行えず、整備した防災拠点が、その機能を十分に発揮できないおそれがあると認められた。

ウ 港湾台帳上の管理

 港湾管理者は、港湾法により港湾台帳の作成を義務付けられており、港湾法施行規則(昭和26年運輸省令第98号)により、港湾台帳は、帳簿及び図面により構成され、港湾管理者の名称、港湾施設の種類、名称その他当該港湾施設の概要を把握するために必要な事項等を記載することとされている。
 そして、大規模地震対策施設の整備が完了した場合や、既存の施設を大規模地震対策施設とした場合には、基本方針及びマニュアルに示されているように、港湾台帳に大規模地震対策施設である旨を記載し、震災時にその機能が確保されるよう、施設の保守・点検も含めて適切な管理を行うことが必要である。
 しかし、耐震強化岸壁、広場、臨港道路、防災拠点緑地等の大規模地震対策施設が港湾台帳に記載されていないことから、大規模地震対策施設であることやその施設の位置が明確になっておらず、港湾担当部局内における認識、周知が十分でない状況となっているものが、今回検査した62港(整備済み耐震強化岸壁60港、整備済み防災拠点緑地2港)のうち57港において見受けられた。特に、耐震強化岸壁以外の施設については、通常時は、野積場等あるいは港湾の休憩緑地等として利用されていて、特段の耐震構造等による整備を行っていない場合が多いため、港湾台帳上、他の野積場、緑地等と何ら変わりない記載となっており、どの野積場、緑地等が大規模地震対策施設としての広場、防災拠点緑地等として設定してある施設かが明確になっていない状況となっていた。
 このような状況は、震災時における迅速かつ円滑な諸活動が行えないことになり、大規模地震対策施設がその機能を十分に発揮できないおそれがあると認められた。

エ 地域防災計画への位置付け等

 大規模地震対策施設は、震災時においては、港湾担当部局と都道府県及び市町村の防災担当部局とが連携、調整を緊密にして、その活用を図ることとなる。このため、基本方針及びマニュアルに示されているように、耐震強化岸壁等の大規模地震対策旋設を地域防災計画に位置付け、整備の計画、進ちょく状況、整備済みの施設の位置、役割、機能等を明確にするとともに、防災担当部局との十分な連携、調整や地域住民に対する周知を図っておくことが必要である。
 しかし、整備済みの耐震強化岸壁が地域防災計画に明確に記載されておらず、震災時における防災業務の中心となる防災担当部局との連携、調整や地域住民等の関係者に対する周知が十分でない状況が見受けられた。このため、震災時において、整備した大規模地震対策施設が利用されなかったり、その機能を十分に発揮できなかったりするおそれがあると認められるものが今回検査した60港のうち7港において見受けられた。
 また、このほかに、基本計画にない港湾や埠頭が、地域防災計画において緊急物資の輸送拠点とされていたり、耐震強化岸壁ではない一般の係留施設が、耐震強化岸壁と同様に大規模地震対策施設とされていたりしている状況が見受けられた。

3 本院の所見

 国土交通省では、大規模地震対策施設の震災時における役割の重要性にかんがみ、従来から耐震強化岸壁等の整備事業を実施してきている。
 しかし、前記のように、大規模地震対策施設の整備が十分に進ちょくしていないことや耐震強化岸壁の周辺施設の耐震化がなされていないことなどのため、震災時において、緊急物資の輸送、幹線貨物輸送、復旧・復興の支援等に対応できなかったり、大規模地震対策施設の機能を十分に発揮できなかったりするおそれがあると思料される状況が見受けられた。
 また、震災時における具体的な取決めがされておらず、港湾担当部局内における認識や防災担当部局との連携、調整が十分でないため、震災時に迅速に対応できなかったり、円滑な活動に支障を生じたりして、大規模地震対策施設の機能を十分に発揮できないおそれがあると思料される状況が見受けられた。
 国内各地における大規模地震対策に対する社会的要請はますます高まっていることから、国土交通省は、自ら又は港湾管理者と十分連携し、大規模地震対策施設の整備の計画について、他港湾及び他事業との優先順位等を十分検討の上、港湾における大規模地震対策施設の整備を重要課題の一つとして積極的に促進していくことが肝要である。また、大規模地震対策施設の管理に当たっては、緊急時においてその機能を十分発揮させ、各種活動を円滑に実施できるよう、国土交通省自らその責任を果たすとともに、港湾管理者に対し、防災業務計画、基本方針等の内容を更に周知徹底させ、大規模地震対策施設の投資効果が十分に発現できるよう、なお一層の助言等を行うことが肝要である。
 ついては、国土交通省及び港湾管理者における大規模地震対策施設の整備及び管理に当たっては、次のとおり、自ら又は港湾管理者に助言するなどして、大規模地震対策の趣旨に沿った適切な整備及び管理を行うことが望まれる。

(1)整備について

(ア)基本計画にあるにもかかわらず、耐震強化岸壁、防災拠点等の整備の進んでいない港湾においては、他事業との優先順位等を十分検討の上、その整備の促進に努めること(イ)大規模な事業の一環として計画されていることなどのため、整備に長期間を要する耐震強化岸壁等については、既存施設の耐震化により代替するなどの見直しを行い、耐震強化岸壁等の早期の確保に努めること
(ウ)耐震強化岸壁の周辺施設について、耐震化の必要性を検討して早期に実施すること
(エ)地域防災計画等において、耐震強化岸壁等の整備の必要性があるとしている港湾については、防災担当部局との十分な連携、調整を行った上、基本計画を策定すること

(2)管理について

(ア)震災時における広場の確保、障害物の除去作業について、具体的な手順を作成したり、関係事業者等との間で震災時における運用方法等について取決めをしたり、協定等を締結したりしておくこと
(イ)防災拠点については、港湾担当部局内において、各施設の運用方法等の整備を図ること。また、都道府県及び市町村の防災担当部局、他の防災拠点等との役割分担等について、あらかじめ十分な調整を図ること
(ウ)大規模地震対策施設については、港湾台帳において大規模地震対策施設であることを明記し、その所在と重要性を十分に認識、周知しておくこと。また、地域防災計画に大規模地震対策施設の各施設を明確に位置付けるなどして、防災担当部局と十分な連携、調整を図ること

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(参考図)

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