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  • 平成14年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

社会保険庁が設置した厚生年金老人ホーム等及び政府管掌健康保険保養所等の事業運営の現況について


第4 社会保険庁が設置した厚生年金老人ホーム等及び政府管掌健康保険保養所等の事業運営の現況について

検査対象 社会保険庁
会計名 厚生保険特別会計
施設設置の根拠 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)
健康保険法(大正11年法律第70号)
厚生年金老人ホーム等の概要 厚生年金受給者が健康で文化的な生活を送ることを目的とした有料老人ホームを基本とし、受給者等の余暇利用等のための宿泊等の機能を併せ有する施設
政府管掌健康保険保養所等の概要 政府管掌健康保険等の被保険者等の病後の保養や機能回復訓練等による健康な日常生活への復帰等を図ることなどを目的とした施設
検査を実施した施設の平成14年度末国有財産現在額 (1) 厚生年金老人ホーム等 31施設 934億円  
(2) 政府管掌健康保険保養所等 22施設 206億円  
53施設 1140億円  

1 保健・福祉施設の概要

(保健・福祉施設の概要)

 社会保険庁では、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)、健康保険法(大正11年法律第70号)等に基づき、厚生年金保険、政府管掌健康保険等の被保険者又は年金受給者等に対して保険給付を行うほか、健康の保持増進、福祉の増進を図ることなどを目的として、病院、老人ホーム、保養所等の保健・福祉施設を設置している。
 これらの施設(平成14年度末現在において458施設)は、国有財産として保険者である国が設置しており、公益法人等にその経営を委託し、施設を無償で使用させている。委託を受けた公益法人等は、施設の経営につき原則としてそれぞれの施設の収入をもってその支出に充てるものとされている。そして、同庁では、これらの施設の建替、改修等の施設整備に係る予算を厚生保険特別会計等に計上しており、その予算額は13年度694億2634万余円、14年度540億2762万余円となっている。また、一部の施設に対しては、運営等に要する経費の一部について厚生保険特別会計等から委託費を交付しており、その額は13年度計38億1386万余円、14年度計35億7999万余円となっている。

(保健・福祉施設設置の経緯)

 これら保健・福祉施設のうち、厚生年金保険の福祉施設は、年金制度が老後に受給権が発生する老齢年金を主たる給付とした長期保険であることから、長期間保険料を納める被保険者等の制度に対する信頼感、安心感の確保を図るとともに年金制度の周知を図るための一つの手段として、昭和19年から設置・運営されてきた。そして、その後、教養と文化の向上、保養、健康の保持増進など被保険者、年金受給者等の生活の向上のための施設として増設されてきている。
 また、政府管掌健康保険の保健・福祉施設は、被保険者等の疾病予防、健康の保持増進を図ることにより、保険給付費を適切なものとし、保険財政の安定化を図るとともに、疾病又は負傷の療養等による被保険者等の福祉の向上を目的として、20年代から設置・運営されてきた。そして、その後、健康教育、健康診査、リハビリテション、健康づくり等のための施設として増設されてきている。

2 検査の背景、着眼点及び対象

(検査の背景)

 我が国では少子・高齢化が進行しており、厚生年金保険、政府管掌健康保険等の財政状況は近年特に厳しさを増しており、その給付と負担のあり方等について各方面で議論が行われ、今後、給付水準の低下、事業主及び被保険者の負担率の上昇も懸念されているところである。そして、厚生保険特別会計の平成14年度決算においては、年金勘定では本年度利益が9年度の7兆3179億円から5年連続減少して4289億円(対前年度比26%減)にまで落ち込んでおり、健康勘定では本年度損失が前年度の約5.6倍の5984億円となっており3年連続で赤字決算となっている。このような財政状況の中で、保健・福祉施設の設置・運営に要する費用は厚生年金保険等の保険料によって賄われていることから、これらの施設のあり方などについて国民の関心が高くなっている。
 本院では、10年4月に国会から国会法(昭和22年法律第79号)第105条の規定による要請を受け、社会保険庁が設置した施設を含む公的宿泊施設を対象として、その設置・運営状況について検査を行い、その結果として、被保険者等が本来的な利用者であることを念頭において施設の運営を行うことなど、設置・運営の課題を示しつつ、施設のあり方について幅広い議論が肝要である旨を、10年9月に「公的宿泊施設の運営に関する会計検査の結果について」として国会に報告した。その後、12年5月に「民間と競合する公的施設の改革について」の閣議決定が行われ、国又は特殊法人等が設置主体となる会館、宿泊施設等の公的施設について、施設の新設及び増築の禁止、既存施設の廃止、民営化その他の合理化を行うこととされた。
 社会保険庁では、この閣議決定に沿って、〔1〕閣議決定の対象となる施設に限定せず、すべての施設を見直しの対象とする、〔2〕保険財政からの支弁を抑制する、〔3〕各施設の事業実績等の評価を行い、統合、譲渡、廃止等を含めた整理合理化計画を策定する、ことを保健・福祉施設の見直しの基本的方向として検討を進めているところである。

(検査の着眼点)

 本院が10年に検査の対象とした施設及び政府が上記の閣議決定で対象とした施設は主として宿泊機能をもった施設で、この中には、社会保険庁の保健・福祉施設の一部も含まれていたが、保健・福祉施設の中には、宿泊機能を有しながら、本来的な独自の設置目的をもった次のような施設がある。

(ア)厚生年金老人ホーム及び厚生年金総合老人ホーム

 厚生年金老人ホーム及び厚生年金総合老人ホームは、表1のとおり、厚生年金の受給者(注1) (以下「受給者」という。)が健康で文化的な生活を送ることなどを目的とした有料老人ホームを基本とする施設として設置されている。

表1 厚生年金老人ホーム等の設置目的等
施設種別
(通称)
厚生年金老人ホーム
(ウェルハートピア)
厚生年金総合老人ホーム
(ウェルサンピア)
制度 厚生年金保険
設置時期 昭和36年〜 昭和49年〜
設置目的 受給者が健康で文化的な生活を送ることを目的とした有料老人ホームを基本とし、後に、受給者の生きがい、余暇利用のための宿泊、保養機能を付加した施設 受給者が健康で文化的な生活を送ることを目的とした有料老人ホームにとどまらず、受給者の生きがい、余暇利用及びその家族、地域住民等との交流、被保険者等の健康増進を目的とした総合的な施設
施設数 32 17

 上記の有料老人ホームとは、老人福祉法(昭和38年法律第133号)に基づく施設で、常時10人以上の老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設である。そして、厚生年金老人ホーム等における有料老人ホームは、日常生活に支障のない程度の健康状態にある受給者を対象とし、毎月の入居料により運営されている。

厚生年金の受給者厚生年金老人ホームにあっては老齢厚生年金受給者、厚生年金総合老人ホームにあっては老齢・障害・遺族の各厚生年金受給者である。

(イ)政府管掌健康保険保養所、政府管掌健康保険保健福祉センター及び厚生年金保養ホーム

 政府管掌健康保険保養所(健康増進所を含む。以下同じ。)、政府管掌健康保険保健福祉センター及び厚生年金保養ホームは、表2のとおり、被保険者等の病後の保養、退院した被保険者等の健康な日常生活への復帰、入院までに至らない被保険者等の早期の社会復帰などを目的として設置されている。

表2 政府管掌健康保険保養所等の設置目的等
施設種別
(通称)
政府管掌健康保険保養所
(健康増進所はホールサムイン)
政府管掌健康保険保健福祉センター
(ヘルシーパル)
厚生年金保養ホーム
制度 政府管掌健康保険 厚生年金保険
設置時期 昭和26年〜 昭和59年〜 昭和55年〜
設置目的 政府管掌健康保険の被保険者等が病後の保養又は健康の保持増進を図ることを目的とした施設 政府管掌健康保険の被保険者等であって、病院を退院した者などの健康な日常生活への復帰又は健康の保持増進を図ることを目的とした施設 厚生年金保険の被保険者、受給者等であって、入院までに至らない患者の早期の社会復帰・生活復帰を目的とした施設
施設数 21 13 4

 そして、これらの施設は、健康の保持増進等を図るべく、栄養士やトレーナー等を配置するなどし、医師が必要と認める被保険者等に対して、トレーニング又は食事療法等の生活指導、軽度な機能回復訓練、リハビリテーション等を行うものとされている。
 そこで、これらの施設の設置目的は十分達成されているかなどに着眼し、これらの施設の設置状況、利用状況、収支・損益状況等を分析するとともに、今後の保健・福祉施設の見直し及び施設のあり方などの検討に当たり、特に留意すべき点がないかなどの観点から検査を実施した。
 また、上記(ア)の厚生年金老人ホーム等については、介護保険制度の導入(12年4月)など老人福祉を取り巻く環境の変化にも着目した。

(検査の対象)

 上記の施設について、北海道社会保険事務局ほか25社会保険事務局(注2) 管内に所在する53施設を対象として棲査を実施した。その内訳は、次のとおりである。

厚生年金老人ホーム 20施設 (施設数32施設)
厚生年金総合老人ホーム 11施設 (同 17施設)
政府管掌健康保険保養所 11施設 (同 21施設)
政府管掌健康保険保健福祉センター 7施設 (同 13施設)
厚生年金保養ホーム 4施設 (同 4施設)
53施設 (同 87施設)
北海道社会保険事務局ほか25社会保険事務局 北海道、岩手、秋田、山形、群馬、埼玉、千葉、神奈川、富山、山梨、岐阜、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、島根、岡山、広島、山口、香川、愛媛、福岡、大分、宮崎、沖縄各社会保険事務局

 なお、以下、これらの施設を次のように略称する。また、個々の施設については50音(カタカナ)又はアルファベットの記号で示す。

〔1〕 厚生年金老人ホーム :「老人ホーム」
〔2〕 厚生年金総合老人ホーム :「総合老人ホーム」
〔3〕 上記の〔1〕及び〔2〕をあわせて :「老人ホーム等」
〔4〕 政府管掌健康保険保養所 :「保養所」
〔5〕 政府管掌健康保険保健福祉センター :「保健福祉センター」
〔6〕 厚生年金保養ホーム :「保養ホーム」
〔7〕 上記の〔4〕、〔5〕及び〔6〕をあわせて :「保養所等」

3 検査の状況

(1)老人ホーム等及び保養所等に投入された国費

(国有財産の保有状況)

 検査の対象となった53施設の14年度末現在における土地、建物等国有財産の保有状況は、表3のとおりである。

表3 国有財産の保有状況(14年度末現在)
(単位:千m 、千円)

施設種別 土地 建物 工作物 現在額計
(1施設当たり)
面積 現在額 面積 延面積 現在額 現在額
老人ホーム(20施設) 180 6,842,694 44 91 9,759,748 6,167,848 22,770,291
(1,138,514)
総合老人ホーム(11施設) 1,598 25,114,246 109 200 24,021,123 21,540,121 70,675,491
(6,425,044)
小計(31施設) 1,779 31,956,941 153 292 33,780,872 27,707,969 93,445,782
保養所(11施設) 18 874,226 9 20 2,521,694 1,071,284 4,467,205
(406,109)
保健福祉センター(7施設) 48 2,236,260 8 20 2,698,221 1,750,014 6,684,497
(954,928)
保養ホーム(4施設) 51 1,730,369 12 29 4,694,131 3,050,574 9,475,075
(2,368,768)
小計(22施設) 117 4,840,856 30 70 9,914,048 5,871,873 20,626,778
合計(53施設) 1,897 36,797,797 184 362 43,694,920 33,579,843 114,072,561

 これら53施設の国有財産は、土地1,897千m 、建物延べ面積362千m 等で現在額計1140億7256万余円となっており、1施設当たりの現在額は老人ホーム11億3851万余円、総合老人ホーム64億2504万余円、保養所4億0610万余円、保健福祉センター9億5492万余円、保養ホーム23億6876万余円となっている。

(維持修繕費等の費用)

 厚生保険特別会計が10年度から14年度までの5年間に負担した維持修繕費等の費用は、表4のとおりである。

表4 維持修繕費等の費用(10〜14年度)
(単位:千円)

施設種別 維持修繕費等 土地借料 備品購入費 委託費 合計
(1施設当たり)
老人ホーム(20施設) 5,789,778 178,292 97,361 187,991 6,253,425
(312,671)
総合老人ホーム(11施設) 9,510,158 150,276 69,005 9,729,439
(884,494)
保養所(11施設) 434,963 32,596 63,075 128,423 659,059
(59,914)
保健福祉センター(7施設) 1,977,180 47,182 334,317 2,358,680
(336,954)
保養ホーム(4施設) 949,212 51,092 181,414 1,181,719
(295,429)
計(53施設) 18,661,294 210,889 408,988 901,152 20,182,324

 これらの費用は、10年度の75億9504万余円から14年度の23億2320万余円と減少傾向にあるが、5年間の計で維持修繕費等186億6129万余円、委託費9億0115万余円等合計201億8232万余円に上っている。このうち特に、総合老人ホームについては、全体の48.2%を占める97億2943万余円を負担している。また、厚生保険特別会計が負担した1施設当たりの費用は、老人ホーム3億1267万余円、総合老人ホーム8億8449万余円、保養所5991万余円、保健福祉センター3億3695万余円、保養ホーム2億9542万余円となっている。

(2)老人ホーム等の現況

ア 施設の設置状況

(施設の設置態様)

 老人ホーム等は、前記のとおり、有料老人ホームを基本として設置されている(以下、老人ホーム等に有料老人ホームとして設置されている施設を「長期入居施設」という。)が、受給者等の余暇利用等のための宿泊等の施設(以下「短期宿泊施設」という。)を併せ有している。
 今回、検査を実施した老人ホーム等計31施設の長期入居施設及び短期宿泊施設の設置態様をみると、表5のとおりである。

表5 老人ホーム等の設置態様
(単位:箇所)

設置態様 老人ホーム 総合老人ホーム 合計
〔1〕 長期入居施設のみ設置しているもの 7 0 7
〔2〕 長期入居施設と短期宿泊施設を併設しているもの 5 5 10
〔3〕 短期宿泊施設のみ設置しているもの 8 6 14

 すなわち、〔1〕長期入居施設のみを設置しているもの(以下「長期専用」という。)が老人ホームで7施設(総合老人ホームはない。)、〔2〕長期入居施設と短期宿泊施設を設置しているもの(以下「長短併設」という。)が、それぞれ5施設、計10施設で、〔3〕短期宿泊施設のみで営業し、施設設置の基本的な目的である長期入居施設を設置していないもの(以下「短期専用」という。)が、老人ホームで8施設、総合老人ホームで6施設、計14施設ある。
(短期専用施設となるに至った経緯)

 上記のように、老人ホーム等設置の基本的な目的となっている長期入居施設を設置していないものが14施設あるが、このうち開業当初から設置していないものが11施設(老人ホーム5施設、総合老人ホーム6施設)あり、これらについては、長期入居施設を設置することとして計画していたが、その後入居者の見込みが立たなかったなどのため短期宿泊施設のみとしたものである。また、残りの3施設は、入居者がいなくなったことから長期入居施設を廃止したものであるが、これらについては、長期入居施設を模様替えするなどして、短期宿泊施設に用途変更している。

(長期入居施設の設置状況)

 長期専用及び長短併設計17施設における長期入居施設の設置状況についてみると、施設の立地は、最寄り駅から徒歩圏の施設は3施設と少なく、車での移動を強いられる施設が多い。また、単身用居室の広さは、4.5畳から7.5畳で、6畳が標準的な広さとなっており、入居定員の平均は老人ホーム62人、総合老人ホーム77人である。トイレは、共同のものが8施設あり、また、建物の改修、模様替え等はされているが、経年数20年以上のものが12施設と多くなっている。

(短期宿泊施設の設置状況)

 長短併設及び短期専用計24施設における短期宿泊施設の設置状況についてみると、老人ホーム13施設の平均は、客室数25室、宿泊定員65人、敷地面積12,035m となっていて、全体として比較的小規模な施設となっている。総合老人ホーム11施設の平均は、客室数59室、宿泊定員200人となっていて、結婚式場やゴルフ練習場、屋外プール、体育館などの各種体育施設が併設されており敷地面積の平均は145,345m と大規模な施設となっている。

イ 施設利用者の範囲

(ア)老人ホームの利用者の範囲

 老人ホームの利用者は、長期入居を目的とする者と短期の余暇利用等を目的とする者とされている。
 そして、長期入居施設への入居者に対しては、居室、共同利用の設備、備品及び食事、入浴、その他日常生活に必要な便宜を供与するものとされている。入居者の資格は、受給者であって、入居料、その他の生活費を支弁できること、日常生活に支障のない程度の健康状態にあることなどとなっており、介護を要する状態になったときは退居しなければならないとされている。また、受給者の配偶者、受給者以外の60歳以上の者等についても受給者の利用を妨げない範囲内において入居が認められている。入居期間は、入居の承認を受けた日から3年間であるが、承認を得れば継続して入居することができるとされている。
 また、短期の余暇利用等の利用者は、受給者、及び受給者以外の者であって原則として60歳(女子については55歳)以上の者並びにこれらの同伴者とされている。

(イ)総合老人ホームの利用者の範囲

 総合老人ホームの長期入居施設への入居者に対する日常生活に必要な便宜の供与、入居資格、入居期間等は老人ホームと同様の内容となっている。
 短期の余暇利用等を目的とした短期宿泊施設の利用者については、被保険者、被保険者であった者及び受給者等を優先することとされている。

ウ 施設の利用状況

(ア)長期入居施設の利用状況

(長期入居施設の施設種別ごとの利用状況)

 長期入居施設を設置している老人ホーム12施設及び総合老人ホーム5施設における長期入居施設の入居者数、入居率(入居定員に占める入居者数の割合。以下同じ。)等の推移は、表6のとおりである。

表6 長期入居施設の施設種別ごとの入居状況
(単位:人、%)

施設種別 年度 入居定員 入居者数 入居率 入居者の内訳
受給者 入居率 その他
老人ホーム 10 762 493.0 64.7 421.8 55.3 71.2
11 762 494.8 64.8 422.5 55.3 72.3
12 762 455.4 59.8 394.5 51.8 60.9
13 746 442.9 59.4 386.6 51.8 56.3
14 746 447.3 60.0 394.9 52.9 52.4
総合老人ホーム 10 386 204.5 53.0 180.5 46.8 24.0
11 386 192.7 49.8 166.0 42.9 26.7
12 386 179.4 46.5 153.5 39.8 25.9
13 386 176.9 45.8 155.1 40.2 21.8
14 386 169.2 43.8 149.2 38.7 20.0

 老人ホームの入居率は10年度の64.7%から14年度の60.0%と低下傾向となっている。また、入居者の内訳をみると、受給者の入居率も55.3%から52.9%と低下傾向となっている。
 総合老人ホームの入居率は老人ホームよりも更に低く、10年度の53.0%から14年度の43.8%と低下しており、入居者の内訳をみると、受給者の入居率も46.8%から38.7%と低下傾向にある。
 このように年々入居率が低迷してきている要因としては、長期入居施設が日常生活に支障のない程度の健康状態であることを入居条件としていて、介護が必要となった場合には退居しなければならないことが挙げられる。また、トイレが共同であるなど居室の利便性が悪かったり、最寄り駅から徒歩圏になく病院、店舗などが近隣にないなど立地条件が悪かったりしていることも一因となっている。
 一方、全国の有料老人ホーム、及び老人ホーム等と機能が類似しているケアハウス(注3) の施設数等の推移は、表7のとおりである。

表7 有料老人ホーム及びケアハウスの施設数等の推移
区分 3年 10年 11年 12年 13年
有料老人ホーム 施設数 228 288 303 349 400
入居定員(人) 21,825 30,792 34,024 36,855 41,582
入居者数(人) 16,692 21,643 24,182 26,204 29,126
平均入居率(%) 76.5 70.3 71.1 71.1 70.0
ケアハウス 施設数 14 794 985 1,160 1,297
入居定員(人) 715 31,228 38,444 45,672 50,804
入居者数(人) 541 26,146 33,843 40,990 46,512
平均入居率(%) 75.7 83.7 88.0 89.7 91.6
(注)
有料老人ホームには老人ホーム等が含まれる。

 上表のように有料老人ホームは年々増加しており、10年には288施設、定員30,792人であったものが、13年には400施設、同41,582人となっていて、この3年間で施設数が39%、定員が35%増加している状況である。そして、近年の有料老人ホームは終身利用権付で、要介護の状態になっても介護サービスを受けられるものが主流となってきており、平均入居率は各年において70%を超えている。
 また、ケアハウスは、厚生労働省の高齢者保健福祉推進10か年戦略(ゴールドプラン)等の計画に基づき、急激な伸びを示しており、10年から13年までの間に施設数で63%、定員でも63%増加している。この施設の入居料は老人ホーム等の入居料と同程度であるが、要介護の状態になっても介護サービスが受けられるため退居する必要がなく、施設も比較的広くて新しいなどの理由から、10年から13年の各年において施設の平均入居率は80%台から90%台と高率となっている。
 このように、全国の有料老人ホーム、ケアハウスの平均入居率は70%台から90%台となっているのに対し、老人ホーム等の入居率は前記表6のとおり40%台から60%台で、これらを大幅に下回っている。

ケアハウス 老人福祉法に基づく老人福祉施設の軽費老人ホームであり、60歳以上の者であって、身体機能の低下が認められ、又は高齢等のため、独立して生活するには不安が認められる者で、家族による援助を受けることが困難な者を低額な料金で利用させる施設で、その整備等には、国の一般会計等から補助金が交付されている。

(長期入居施設の施設別の利用状況)

 各長期入居施設における10年度から14年度の5年間の平均入居率は、図1のとおりである。

図1 長期入居施設の施設別平均入居率(10〜14年度)

図1長期入居施設の施設別平均入居率(10〜14年度)

 老人ホーム12施設の平均入居率は、最低19.7%から最高102.2%と区々となっており、全国の有料老人ホームの平均入居率70%を下回っているものが8施設、うち30%を下回るものが2施設となっている。
 総合老人ホーム5施設の平均入居率は、最低3.2%から最高66.7%と区々となっているが、全施設が70%を下回り、うち30%を下回っているものが3施設となっている。

(イ)短期宿泊施設の利用状況

(短期宿泊施設の施設種別ごとの利用状況)

 短期宿泊施設を設置している老人ホーム13施設及び総合老人ホーム11施設における短期宿泊施設の宿泊者数、受給者等の利用状況、定員稼動率(一定期間中の施設の宿泊可能人員に対する宿泊者数の割合。以下同じ。)等の推移は、表8のとおりである。

表8 短期宿泊施設の施設種別ごとの利用状況
(単位:室、人、%)

施設種別


宿泊定員 延べ宿泊定員 延べ宿泊者数 定員稼働率 宿泊者の内訳
受給者 定員稼働率 被保険者 一般利用者
老人ホーム 10 253 665 235,540 140,292 59.6 50,145 21.3 66,086 24,061
11 298 806 285,373 186,095 65.2 82,531 28.9 82,642 20,922
12 322 864 286,827 181,399 63.2 76,327 26.6 83,083 21,989
13 325 848 299,941 198,041 66.0 81,137 27.1 87,011 29,893
14 325 848 305,450 198,128 64.9 89,711 29.4 88,019 20,398
総合老人ホーム 10 666 2,242 791,561 424,039 53.6 365,180 46.1 58,859
11 666 2,242 764,941 401,285 52.5 335,891 43.9 65,394
12 651 2,212 773,323 395,315 51.1 327,103 42.3 68,212
13 651 2,209 762,190 376,519 49.4 323,981 42.5 52,538
14 651 2,201 739,163 375,463 50.8 308,725 41.8 66,738
(注)
総合老人ホームの受給者欄の人数は、受給者及び被保険者を合わせた人数である。

 老人ホームの定員稼働率は10年度の59.6%から14年度の64.9%と上昇傾向となっている。また、宿泊者の内訳をみると、受給者の定員稼働率は21.3%から29.4%と上昇傾向が見られるものの、おしなべて低率となっている。
 総合老人ホームの定員稼働率は10年度の53.6%から14年度の50.8%と低下傾向となっている。宿泊者の内訳をみると、受給者及び被保険者の定員稼働率も46.1%から41.8%と低下傾向となっている。

(短期宿泊施設の施設別の受給者等利用状況)

 各短期宿泊施設における10年度から14年度までの5年間の平均定員稼働率は、図2のとおりである。

図2 短期宿泊施設の施設別平均定員稼働率(10〜14年度)

図2短期宿泊施設の施設別平均定員稼働率(10〜14年度)

(注)
受給者等は、老人ホームにおいては受給者、総合老人ホームにおいては受給者及び被保険者である。

 老人ホーム13施設の受給者の平均定員稼働率は、最低6.1%から最高64.3%と区々となっており、30%未満のものが8施設あり、これを含む10施設は受給者よりも受給者以外の利用が多くなっている。これらの施設の中には、受給者の利用が低調であり、必ずしも受給者のための施設となっていない施設が見受けられる。
 総合老人ホーム11施設の受給者及び被保険者の平均定員稼働率は、最低21.8%から最高64.1%と区々となっており、30%未満で受給者及び被保険者よりも一般利用者の利用が多い施設が1施設となっている。

エ 損益の状況

 老人ホーム等の14年度における施設別の損益等は、表9のとおりである。

表9 老人ホーム等の施設別の損益等(14年度)
(単位:千円、%)

施設種別 施設名 当期収益 うち入居料 左の割合 当期費用 当期剰余金 利益剰余金 売上高経常利益率 人件費対売上高比率
老人ホーム


114,202 102,948 90.1 101,074 8,559 19,320 12.9 42.3
95,389 86,990 91.2 91,299 4,020 △69,869 4.7 48.9
49,391 43,080 87.2 70,796 △21,484 △61,817 △50.5 94.0
69,994 61,211 87.5 82,315 △12,391 △67,841 △20.0 67.1
30,441 25,412 83.5 55,708 △25,337 △96,170 △100.2 133.1
30,263 21,585 71.3 61,966 △31,782 △143,714 △137.1 148.7
69,893 59,889 85.7 66,342 3,480 △6,121 6.0 47.0



172,010 57,075 33.2 160,833 7,276 2,206 7.0 47.0
301,817 8,473 2.8 287,883 9,099 95,170 49 36.2
113,202 2,932 2.6 115,582 △2,460 △61,612 △2.2 52.5
189,913 74,540 39.2 180,010 6,455 △73,927 5.6 42.6
171,306 43,231 25.2 158,442 8,414 68,389 7.9 38.4



99,887 94,205 5,611 △100,641 5.8 40.5
301,148 286,883 13,266 57,489 4.8 38.3
175,298 169,927 3,489 △43,219 3.1 43.3
437,748 409,856 18,002 73,043 6.5 35.3
101,418 101,735 △387 34,178 △0.3 55.0
140,355 139,093 1,191 55,312 0.9 51.7
204,564 231,146 △26,651 △61,832 △13.3 43.1
121,639 117,011 2,964 34,536 3.9 46.4
2,989,889 587,373 19.6 2,982,116 △28,662 △347,120
総合老人ホーム


759,979 86,040 11.3 731,237 18,531 155,491 4.0 39.6
894,053 123,494 13.8 867,646 18,977 485,874 3.1 33.6
1,042,941 118,341 1.8 946,320 61,649 469,657 9.6 31.6
532,024 11,788 2.2 527,795 4,149 △246,834 0.8 43.8
490,898 0 0.0 503,615 △12,787 △112,391 △2.7 38.5



497,845 530,983 △33,207 △6,853 △6.8 43.3
778,786 715,104 63,612 321,888 8.5 33.6
332,968 483,032 △150,133 △257,908 △48.3 49.6
520,187 529,312 △9,194 111,420 △1.8 40.4
962,786 879,206 52,533 268,625 9.0 33.8
719,301 695,881 19,275 △188,321 3.4 36.6
7,531,775 239,665 3.2 7,410,136 33,405 1,000,648
注(1) 当期剰余金は、当期収益から当期費用及び法人税等相当額を控除したものである。
注(2) 売上高経常利益率は、経常利益÷事業収益×100の式により算出した。
注(3) 人件費対売上高比率は、給与費÷事業収益×100の式により算出した。

 老人ホームでは、20施設のうち7施設が単年度赤字となっていて、このうち長期専用4施設は10年度以降5年連続して単年度赤字となっており、また、11施設が累積赤字となっている。そして、長期専用7施設のうち6施設は累積赤字となっており、赤字傾向が認められる。当期収益に占める入居料の割合は、施設の設置態様により区々であるが、長短併設5施設のうち2施設では、2%台と他の同種施設に比べ著しく低くなっており、老人ホーム20施設の合計では、2割程度を占めるにすぎない。
 総合老人ホームでは、11施設のうち4施設が単年度赤字となっていて、5施設が累積赤字となっている。当期収益に占める入居料の割合は、長短併設5施設のうち3施設では、最高でも2%程度と他の同種施設に比べ著しく低くなっており、総合老人ホーム11施設の合計では、収益のわずか3%程度となっている。なお、短期専用のフについては、14年度に改修工事があり、その期間中全館休業していたため、営業日数が通常の半分程度であった。
 また、人件費対売上高比率が高いと、売上高経常利益率が低くなる傾向が見られ、入居率が低く人件費対売上高比率が100%を超えている長期専用の2施設については、売上高経常利益率がマイナス100%を超えている。

(3)保養所等の現況

ア 施設の設置状況

 保養所等は、前記のとおり、被保険者等の病後の保養、退院した被保険者等の健康な日常生活への復帰、入院まで至らない被保険者等の早期の社会復帰などを目的としている。
 今回、検査を実施した保養所等計22施設の設置状況についてみると、保養所11施設の平均は、客室数13室、宿泊定員44人、敷地面積3,963m 、また、保健福祉センター7施設の平均は、客室数19室、宿泊定員51人、敷地面積6,858m といずれも比較的規模は小さくなっている。一方、保養ホーム4施設の平均は、客室数64室、宿泊定員77人となっていて、温泉大浴場に歩行湯、うたせ湯等があり敷地面積12,752m と規模が大きくなっている。

イ 施設利用者の範囲

 保養所等の利用者の範囲は、表10のとおり、医師が施設の利用が必要と認めた者(以下、保養所では「保養所要保養者」、保健福祉センターでは「センター要保養者」、保養ホームでは「リハビリ利用者」という。)及び被保険者等となっており、これらの利用に支障を来さない範囲で一般の利用も認めている。

表10 保養所等の利用者の範囲
区分 保養所 保健福祉センター 保養ホーム
要保養者・リハビリ利用者 政府管掌健康保険の被保険者等で、医師が下記の事由により施設の利用を必要と認めた者(保養所要保養者) 政府管掌健康保険の被保険者等で、医師が下記の事由により施設の利用を必要と認めた者(センター要保養者) 厚生年金保険の受給者、被保険者等で、医師が下記の事由により施設の利用を必要と認めた者(リハビリ利用者)
〔1〕 疾病、負傷が治ゆしたが、なお、健康の回復増進を図るため保養を要する者
〔2〕 健康診断の結果保養を要する者
〔3〕 その他保養を要する者
健康な日常生活への復帰のため、食事療法等の生活指導及び軽度の機能回復訓練を受けることにより医学的効果を期待しうる者
〔1〕 脳血管障害後遺症、関節リウマチ等の傷病を有する者であって医学的リハビリテーションを行う必要がある者
〔2〕 糖尿病及び高血圧症等の疾病を有する者であって食事療法、運動療法等を行う必要がある者
被保険者等 保養及びトレーニング等により健康の保持増進を図ることを目的とする被保険者等 保養及びトレーニング等により健康の保持増進を図ることを目的とする被保険者等 健康の維持増進のために食事療法、運動療法を修得しようとする受給者、被保険者等
一般 要保養者、被保険者等の利用に支障を来さない範囲で一般の利用も可 一般の利用も可、ただし受給者、被保険者等優先

 以上のように、これらの施設は、医師が必要と認めた保養所要保養者、センター要保養者(以下、これらを「要保養者」という。)、リハビリ利用者及び被保険者等を本来の利用者としている。

ウ 施設の利用状況

(施設種別ごとの利用状況)

 保養所11施設、保健福祉センター7施設及び保養ホーム4施設の宿泊者数、要保養者等の利用状況、定員稼働率等の推移は、表11のとおりである。

表11 保養所等の施設種別ごとの利用状況
(単位:室、人、%)

施設種別
宿泊室数 宿泊定員 延べ定員 延べ宿泊者数 定員稼動率 宿泊者の内訳
要保養者(リハビリ利用者) 定員稼動率 被保険者等 一般利用者
保養所 10 151 486 158,893 80,654 50.8 0 0 48,721 31,933
11 151 486 161,398 76,395 47.3 0 0 45,787 30,608
12 151 488 160,928 75,698 47.0 0 0 48,337 27,361
13 151 488 156,841 71,260 45.4 0 0 47,422 23,838
14 151 488 163,442 70,874 43.4 0 0 47,330 23,544
保健福祉センター 10 119 306 104,251 66,006 63.3 637 0.6 30,258 35,111
11 119 306 104,765 61,494 58.7 605 0.6 26,086 34,803
12 134 356 119,731 65,351 54.6 822 0.7 31,805 32,724
13 134 356 121,687 63,115 51.9 579 0.5 27,438 35,098
14 134 358 121,724 64,078 52.6 400 0.3 28,090 35,588
保養ホーム 10 252 311 102,335 76,597 74.8 66,939 65.4 4,735 4,923
11 255 311 111,866 85,301 76.3 75,133 67.2 4,869 5,299
12 255 311 92,669 70,145 75.7 61,075 65.9 4,669 4,401
13 258 310 111,350 90,154 81.0 77,782 69.9 7,482 4,890
14 258 310 112,160 92,014 82.0 78,769 70.2 9,230 4,015
(注)
保養ホームの被保険者等はリハビリ利用者を除く。

 保養所の定員稼働率は10年度の50.8%から14年度の43.4%と低下している。宿泊者の内訳をみると、保養所要保養者は5年間全く利用実績がない。
 保健福祉センターの定員稼働率は10年度の63.3%から14年度の52.6%と低下傾向となっている。宿泊者の内訳をみると、センター要保養者の定員稼働率は最低0.3%から最高でも0.7%と、わずかでしかない。
 一方、保養ホームの定員稼働率は10年度の74.8%から14年度の82.0%と上昇傾向となっており、宿泊者の内訳をみると、リハビリ利用者の定員稼働率も65.4%から70.2%と上昇傾向となっている。

(施設別の要保養者等の利用状況)

 各保養所等における10年度から14年度までの5年間の要保養者又はリハビリ利用者の平均定員稼働率は、図3のとおりである。

図3 保養所等の施設別の要保養者等平均定員稼働率(10〜14年度)

図3保養所等の施設別の要保養者等平均定員稼働率(10〜14年度)

 保養所11施設の保養所要保養者は、前記のとおり、10年度以降5年間、利用実績が皆無である。
 保健福祉センター7施設のセンタ要保養者の平均定員稼働率は、最低0.0%から最高でも1.2%と、わずかでしかない。
 一方、保養ホーム4施設のリハビリ利用者の平均定員稼働率は、1施設で30.3%となっているほかは59.4%から94.4%と高率となっている。

(要保養者等に対する機能回複訓練等の実施体制等)

 要保養者等に対する生活指導、機能回復訓練等を実施する栄養士、トレーナー等の職員の配置状況や機能回復訓練等の実施状況をみると、保養所は、病後の保養や健康の保持増進を図る施設であることから、原則として自然公園又は温泉地に設置されているが、栄養士等の専門職員を配置することとはされていない。
 保健福祉センターでは、栄養士、トレーナーを常勤職員として、また、保健師、医師などを非常勤職員として配置し、生活指導、機能回復訓練等を実施することとされているが、すべての施設において常勤職員は配置していなかった。また、生活指導、機能回復訓練等をともに実施しているのは2施設のみであり、これらの実施回数も月1日から週3日程度となっている。
 一方、保養ホームでは、4施設のうち3施設は厚生年金病院に隣接して設置されていることもあって、すべての施設で医療機関と連携を取りながら1週間以上のコースでリハビリテーションが実施されており、また、栄養士を常勤させて生活指導も実施している。

(施設別の被保険者等の利用状況)

 各保養所等における10年度から14年度までの5年間の平均定員稼働率は、図4のとおりである。

図4 保養所等の施設別の平均定員稼働率(10〜14年度)

図4保養所等の施設別の平均定員稼働率(10〜14年度)

注(1) 被保険者等には、保養所及び保健福祉センターにおいては要保養者を、保養ホームにおいては受給者をそれぞれ含む。
注(2) 保健福祉センターのM施設は、12年度に設置されたものである。

 保養所11施設の被保険者等の平均定員稼働率は、最低7.7%から最高54.3%と区々となっている。そして、30%未満のものが6施設で、このうち4施設では被保険者等よりも一般利用者の利用が多くなっている。
 保健福祉センター7施設の被保険者等の平均定員稼働率は、最低9.7%から最高43.4%と区々となっている。そして、6施設で30%未満となっていて、このうち5施設では被保険者等よりも一般利用者の利用が多くなっている。
 一方、保養ホームの被保険者等の平均定員稼働率は、1施設で50.3%と比較的低いほかは、67.5%から91.4%と高率となっている。

エ 委託費の交付

 社会保険庁では、前記のとおり、施設の設置目的を達成するために必要とする経費の一部について、それぞれの受託団体に対して委託費を交付している。14年度では、保養所について、〔1〕保養所要保養者に対する入所費(素泊りの利用料で、要保養者は無料)及び〔2〕被保険者の入所費と一般利用者の入所費との差額の合計額として、各施設1,675千円から4,498千円、計30,623千円を交付している。保健福祉センターについては、〔1〕食事療法等の生活指導及び軽度な機能回復訓練を行うための栄養士、トレーナー等の人件費、〔2〕センター要保養者に対する入所費及び〔3〕被保険者の入所費と一般利用者の入所費との差額の合計額として、各施設9,382千円から10,284千円、計67,616千円を交付している。また、保養ホームに対しては、栄養士等の人件費、光熱水料等の経費の一部計35,885千円を交付している。

オ 収支・損益の状況

 保養所等の14年度における施設別の収支・損益等は、表12のとおりである。

表9 老人ホーム等の施設別の損益等(14年度)
(単位:千円、%)

施設種別

収支・損益状況 実収支差額
(a-b)
売上高経常利益率 人件費対売上高比率
当期収入 当期支出 当期収支差額(a) 委託費(b) 次期繰越収支差額
保養所 A 42,453 40,331 2,121 3,444 14,663 △1,322 5.5 39.8
B 35,616 34,953 663 1,949 2,258 △1,285 2.0 50.7
C 19,999 18,990 1,009 2,079 4,345 △1,069 5.6 41.1
D 63,945 69,756 △5,810 1,675 13,871 △7,485 △9.3 62.9
E 72,874 75,943 △3,068 2,772 △19,820 △5,840 △5.0 45.3
F 279,223 264,878 14,344 4,498 81,731 9,846 5.2 38.2
G 103,527 101,691 1,835 3,504 11,983 △1,668 1.8 43.9
H 42,914 42,553 361 2,013 2,409 △1,651 1.0 45.7
I 84,161 79,309 4,851 2,341 14,157 2,510 6.0 39.3
J 214,141 210,248 3,893 3,248 1,028 645 2.2 45.3
K 76,472 78,018 △1,545 3,100 2,786 △4,645 △2.7 55.2
保健福祉センター L 279,717 286,029 △6,312 10,284 3,962 △16,596 △2.4 43.0
M 137,791 133,420 4,370 9,382 9,074 △5,011 3.5 49.0
N 128,000 131,527 △3,527 9,546 3,725 △13,074 △3.1 52.2
O 143,370 141,572 1,798 9,451 7,874 △7,652 1.5 61.4
P 56,427 56,525 △97 9,390 3,209 △9,487 △0.2 63.6
Q 186,124 188,227 △2,103 9,682 4,346 △11,786 △1.4 47.8
R 118,625 117,938 687 9,880 815 △9,192 0.7 60.5
保養ホーム S 199,687 213,621 △14,003 26,722 △133,924 △40,726 △8.3 48.0
T 181,970 174,658 4,438 0 13,365 4,438 4.2 39.9
U 123,696 123,626 0 9,162 △5,688 △9,162 0.1 51.2
V 163,434 151,386 7,867 0 44,156 7,867 7.7 45.1
注(1) 売上高経常利益率は、当期収支差額÷事業収入×100の式により算出した。
注(2) 人件費対売上高比率は、人件費÷事業収入×100の式により算出した。
注(3) 保養ホームについては、当期収入欄は当期収益、当期支出欄は当期費用、当期収支差額欄は当期剰余金、また、次期繰越収支差額欄は利益剰余金である。
注(4) 保養ホームの当期剰余金(当期収支差額欄)は、当期収益から当期費用及び法人税等相当額を控除したものである。

4 本院の所見

(1)老人ホーム等について

 老人ホーム等は、受給者等が健康で文化的な生活を送ることを目的に設置されている。しかし、本来の設置目的を達成するための長期入居施設(有料老人ホーム)を設置していない施設があったり、設置している施設においても入居者は年々減少している。建物、設備等については老朽化した施設が多数あり、また、入居資格では、介護を要する状態になったときは退居しなければならないという制約がある。一方、入居基準等が老人ホーム等と同程度となっていて、介護サービスを受けることが可能なケアハウス等の施設数や入居定員、入居者数は年々増加していて、長期入居施設はその存在意義が希薄になっている。
 また、短期宿泊施設は、受給者等の生きがい、余暇利用等のために設置されたものであるが、本来の利用者である受給者又は被保険者の利用が低調で、一般的な観光などを目的とした宿泊、宴会などの利用が主となっていて、受給者等のための施設としての存在意義が希薄になっている施設が見受けられる。そして、これらの施設の中には、施設規模が大きく、維持、修繕に多額の費用を要する施設もある。
 損益の状況についてみると、本来の利用対象者以外の者の利用により経営が成り立っている施設もあるが、累積赤字を抱えている施設も見受けられる。

(2)保養所等について

 保養所等のうち保養所及び保健福祉センターでは、要保養者の病後の保養及び機能回復訓練などを利用目的としているが、要保養者の利用が全くなかったり、わずかでしかなかったりしており、また、要保養者に対する機能回復訓練等についても、これらを実施する職員の配置状況が十分でなく、実施状況も十分なものとはいえない状況である。また、利用者が年々減少していたり、要保養者、被保険者等の利用が著しく低率となっていたりして、一般的な観光などのための宿泊、宴会等の利用が主となるなど施設運営の実態が設置目的とかい離しており、要保養者、被保険者等の健康の保持増進のための施設としての存在意義が希薄となっている施設が見受けられる。
 保養所等の収支あるいは損益の状況についてみると、委託費が交付されなければほとんどの施設が赤字となり、累積赤字を抱えている施設も見受けられる。

 上記のような実態を踏まえると、社会保険庁において、今後、以下の点に留意して施設の見直しや施設のあり方などを検討することが望まれる。

〔1〕 事業実績の評価に当たっては、施設の収支あるいは損益の状況にとどまらず、当該施設の目的を十分踏まえてその達成状況を分析し、運営の実態を収支・損益及び目的達成の両面から適切に評価すること
〔2〕 目的達成の評価に当たっては、本来の目的が十分達成されているかという観点から多角的に分析することはもとより、施設設置後の社会経済情勢の変化、国民ニーズの変化、関連する政策・施策の進展等を十分に踏まえ、現状における当該施設の存在意義について適切に評価すること
〔3〕 整理合理化計画の策定に当たっては、上記収支・損益及び目的達成の両面からの適切な評価に基づき、維持継続の必要性、適切な運営形態について十分検討を行い、個々の施設の実態に応じて、譲渡、廃止等の方策を検討すること
〔4〕 存続させる施設については、個々の施設の運営状況を相互に比較して利用の促進、収益の増加、費用の削減などの改善方策を検討し、併せて維持修繕費等、委託費等のあり方について十分検討すること
 本院としては、保健・福祉施設の事業運営の見直しについて、今後も引き続き注視していくこととする。