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  • 平成14年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

国営諫早湾干拓事業の実施について


第5 国営諫早湾干拓事業の実施について

検査対象 農林水産本省、九州農政局
会計名及び科目 国営土地改良事業特別会計 (項)土地改良事業費
    (項)土地改良事業工事諸費
事業の概要 大規模で生産性の高い優良農地の造成及び防災機能の強化を目的とし、海面を築堤によって締め切り、干拓して農地等を造成するなどの事業
上記に対する事業費の合計 約2259億円(平成14年度末現在)
上記の事業により造成される面積の合計 干陸地816ha、調整池2,600ha

1 事業の概要

(国営諫早湾干拓事業の概要)

 農林水産省では、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、大規模で生産性の高い優良農地の造成及び防災機能の強化を目的として、長崎県諫早湾において、「国営諫早湾干拓事業」を昭和61年度から平成14年度までに事業費約2259億円で実施している(平成18年度完了予定、総事業費2460億円)。
 本件事業は、現在の計画では諫早湾湾奥部の海面3,542haを延長約7kmの捨石式傾斜堤防(以下「潮受堤防」という。)で締め切り、更にこの潮受堤防内の海面の一部を緩傾斜堤防(以下「内部堤防」という。)で締め切ることにより干陸地816haと調整池2,600haを造成するものである(参考図1参照)

(参考図1)国営諫早湾干拓事業の概要図

(参考図1)国営諫早湾干拓事業の概要図

 本件事業の主な施設の概要は次のとおりとなっている。

〔1〕 潮受堤防

 伊勢湾台風級の高潮被害を防止することを想定して天端の標高は7.0mとなっており、また、軟弱地盤に築造されるため基礎地盤には砂杭による地盤改良が施されている。

〔2〕 排水門

 調整池の水を排水するため、潮受堤防北側には北部排水門(延長200m)、南側には南部排水門(延長50m)が築造されている。

〔3〕 干拓地

 中央干拓地(706ha)と小江干拓地(110ha)の二つがある。中央干拓地は湾奥部の諫早市及び森山町地先から張り出す形で位置しており、南部堤防、前面堤防及び北部堤防からなる堤防(以下、これらを合わせて「中央堤防」という。)により潮受堤防内の一部を方形に締め切り干陸することにより造成されている。小江干拓地は、調整池北部の高来町地先から張り出す形で位置しており、堤防により小判型に締め切り、工事の発生土で埋め立てることにより造成されている。

(諫早湾における干拓事業の変遷)

 諫早平野は、そのほとんどが古くから干拓によって築きあげられてきた地域であり、近年においても、地形的に平坦な農地の少ない長崎県において、かんがい用水が確保された大規模で平坦な優良農地の造成と背後低平地における高潮、洪水及び常時排水不良に対する防災機能の強化が強く要望されてきたことを受けて、干拓事業が以下のとおり幾度か計画されてきた。
 昭和27年に長崎県知事より発表された「長崎大干拓構想」に基づいて、40年4月に農林省直轄事業として「国営長崎干拓事業」(締切面積10,094ha、干陸面積7,299ha)が事業着手されたが、諫早湾内漁業協同組合との漁業補償交渉の不調等により45年1月に事業中止となった。
 その後、45年4月に「長崎南部地域総合開発事業」(締切面積10,094ha、干陸面積6,454ha)が構想され調査が開始されたが、有明海沿岸に位置する福岡、佐賀及び熊本各県の漁業協同組合連合会(以下「3県漁連」という。)並びに長崎県諫早湾外の一部の漁業協同組合との漁業補償等が整わなかったため事業着手には至らず、57年12月に事業打切りが決定された。
 しかし、長崎県から事業実施に対する強い要望を受け、事業実施に向けて3県漁連との調整が引き続き行われ、60年10月には締切面積を3,550haとする事業縮小案が受け入れられることとなった。
 そして、61年12月に本件「国営諫早湾干拓事業」(当初計画締切面積3,550ha、干陸面積1,635ha)が着手された。

(事業を取り巻く社会経済状況)

 本件事業では、平成11年12月に第1回目の計画変更が行われた後、12年度の有明海におけるノリ不作を契機とした抗議行動が展開され、13年2月には、反対派の一部の実力行使により干拓工事の現場が封鎖されるなどしたことから、これらを総合的に勘案して工事が約1年間にわたり一時中止されることとなった。
 その後、14年4月に工事が再開されたが、一部周辺関係者等により中央干拓地の前面堤防工事が完成すれば有明海の再生が不可能になるとして、工事の中止を求める訴訟が提起された。このように、工事の中止を求めるなどの訴訟は8年から現在まで9件提起されており、うち6件が現在係属中である。このほか、15年4月には公害等調整委員会に対して、漁業被害と本件事業との因果関係の認定を求める原因裁定が申請され、係属中である。
 また、本件事業に対しては、国営土地改良事業等再評価実施要領(平成10年構造改善局長通知)に基づいて、13年8月に九州農政局国営事業再評価第三者委員会(以下「第三者委員会」という。)において、環境への一層の配慮と事業の早期遂行が緊要である旨の意見が表明された。これを受けて、農林水産大臣より、〔1〕防災機能の十全な発揮、〔2〕概成しつつある土地の早期の利用、〔3〕環境への一層の配慮、〔4〕予定された事業期間の厳守(18年度完了予定)の四つの視点に立つ総合的な検討に着手した旨の談話が発表され、14年6月に事業計画が大幅に変更された。
 なお、ノリ不作を契機として13年2月に設置された「農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」の見解を踏まえ、有明海の再生に向けた総合的な調査の一環として、本件事業が有明海へ影響を与えたとされる諸事象についての開門総合調査(短期開門調査等)が実施され、現在調査の取りまとめが行われているところである。
 さらに、上記の見解で述べられている短期開門調査後の半年程度及び数年の開門調査の実施については、幅広い検討を行うため、有識者からなる「中・長期開門調査検討会議」が15年3月に設置され、調査の取扱いについて、農林水産省が最終的に行政判断をする際に必要な論点整理を行っている。

2 検査の背景及び着眼点

 本件事業は、現在施行されている土地改良事業の中でも有数の大規模事業であるが、事業を取り巻く社会経済状況が変化する中、二度にわたり事業計画の変更がなされ、当初計画では12年度に完了を予定していたものが18年度に延長され事業が長期化している。
 このような状況を受けて、その実施をめぐる様々な議論が国会で取り上げられるなど社会的関心も高くなっている。また、その総事業費も当初計画では1350億円であったものが現在では2460億円と多額なものとなっている。
 そこで、本件事業の事業計画、実施状況、施設の管理状況、今後の課題等について、18年度の事業完了前において多角的な観点から検査することとした。

3 検査の状況

(1)事業計画

ア 事業計画の変遷

 事業計画の変遷とその主な内容は表1のとおりとなっている。

表1 事業計画の変遷
項目 当初計画
(昭和61年12月決定)
第1回変更
(平成11年12月決定)
第2回変更
(平成14年6月決定)
締切面積
  調整池面積
  造成面積
3,550ha
1,710ha
1,840ha
3,550ha
1,710ha
1,840ha
3,542ha
2,600ha
942ha
造成面積の内訳
 1)堤防面積
 2)干陸面積
  農業用・宅地等用地
  道水路等用地

205ha
1,635ha
1,428ha
207ha

186ha
1,654ha
1,415ha
239ha

126ha
816ha
693ha
123ha
総事業費 1350億円 2490億円 2460億円
事業完了予定年度 平成12年度 平成18年度 平成18年度

 このように、昭和61年12月に決定された当初事業計画では、事業の完了予定年度は平成12年度、総事業費は1350億円とされていたが、潮受堤防工における工法の大幅な変更があったなどのため11年12月に事業計画が変更され、完了予定年度が18年度に延長されるとともに、総事業費が2490億円に増額されることになった(以下「第1回変更」という。)。
 その後、13年8月の第三者委員会の意見等を踏まえた総合的な事業の見直しが行われた結果、14年6月に再度事業計画が変更され、完了予定年度は据え置かれたまま総事業費が2460億円に減額されることになった(以下「第2回変更」という。)。
 この第2回変更では、第1回変更の干陸面積1,654haのうち、中央干拓地の潮受堤防側半分(821ha)を東工区、陸側半分を西工区とした上で、東工区の全部及び小江干拓地の一部(17ha)の干陸が中止されたことにより干陸面積が約2分の1に縮小されるなど本件事業の見直しが行われ、既に相当程度工事が進ちょくしていた中央干拓地の東工区の潮受堤防側前面を構成する予定であった堤防(以下「旧前面堤防」という。)が堤防としての目的を失うこととなった。そのため、この旧前面堤防が調整池内の底泥の巻上げ防止等を目的とする潜堤(以下「潜堤」という。)に用途変更されるなど、本件事業の完成後の姿は当初計画と比べて相当程度異なるものとなった(参考図2参照)

(参考図2)第1回変更及び第2回変更に係る計画概略図

(参考図2)第1回変更及び第2回変更に係る計画概略図

イ 事業工程の変遷

 本件事業の工程を工種別に示すと図1のとおりとなっている。

図1 工種別事業工程の変遷

図1工種別事業工程の変遷

 本件事業の工期は、当初計画では昭和61年度から平成12年度であったものが、第1回変更では18年度に延長されている。これは、公有水面埋立法(大正10年法律第57号)に係る変更手続等が必要となったため、準備工の期間を当初1年としていたものが実際には6年要することとなったことが主たる要因である。また、第2回変更では干陸面積が半減するなどしたが、新たに中央干拓地の前面堤防の築造が必要となったことなどから工期は変更されていない。

ウ 事業費の変遷

 本件事業の事業費は、当初計画では1350億円であったものが第1回変更では2490億円に増額され、第2回変更では2460億円に減額されているが、工種別事業費の変遷及び内訳は表2のとおりとなっている。

表2 工種別事業費の変遷及びその内訳
(単位:百万円)

工種 当初計画 第1回変更 対当初計画 第2回変更 対第1回変更 対当初計画
潮受堤防工事
内部堤防工事
(潜堤工等を含む)
農地造成工事
雑工事
44,000
30,500
17,100
5,000
96,600
118,251
31,045
29,714
6,149
185,159
268.7%
101.7%
173.7%
122.9%
191.6%
118,251
29,629
14,895
13,530
176,305
100.0%
95.4%
50.1%
220.0%
95.2%
268.7%
97.1%
87.1%
270.6%
182.5%
測量及び試験費 2,700 15,223 563.8% 20,850 136.9% 772.2%
用地及び補償費 29,000 39,059 134.6% 38,368 98.2% 132.3%
その他 6,700 9,559 142.6% 10,477 109.6% 156.3%
事業費合計 135,000 249,000 184.4% 246,000 98.7% 182.2%

 このように、工種ごとに各々増減が見られるが、特に、当初計画と比べて第1回変更では潮受堤防工事に係る事業費が約2.6倍、測量及び試験費が約5.6倍に、また、第2回変更では雑工事に係る事業費が約2.7倍、測量及び試験費が約7.7倍にそれぞれ著しく増加している。

(2)事業の実施状況

ア 事業の進ちょく状況

 本件事業の進ちょく率(事業費ベース)を工種別に見ると表3のとおりとなっている。

表3 工種別進ちょく状況(事業費ベース)
(単位:百万円)

区分
工種
第2回変更事業費 14年度までの実施額 進ちょく率(%)
潮受堤防工事 118,251 118,251 100.0
内部堤防工事 29,629 25,414 85.7
 



南部堤防工
前面堤防工
北部堤防工
3,252
6,143
3,613
3,096
4,032
3,412
95.2
65.6
94.4
小江堤防工 4,684 4,339 92.6
潜堤工等 11,937 10,533 88.2
農地造成工事 14,895 5,377 36.1
雑工事 13,530 11,849 87.5
測量及び試験費 20,850 17,242 82.7
用地及び補償費 38,368 38,367 99.9
その他 10,477 9,351 89.2
合計 246,000 225,854 91.8

 本件事業は、昭和61年12月に国営土地改良事業として計画決定され、平成4年10月に公有水面埋立承認(変更)がなされた。これを受けて潮受堤防工事の潮受堤防工及び排水門工については、4年10月に工事が着手され、9年4月に堤防の締切り(瞬時締切方式)が行われ、11年3月に完成した。そして、12年度よりこれらの管理が長崎県に委託され、既に防災機能を発揮している。
 内部堤防工事については、中央堤防工(延長7.8km)は11年3月に、小江堤防工(同3.2km)は2年11月にそれぞれ工事が着手され、中央堤防工のうちの前面堤防工以外の内部堤防手事は概成している。また、前記のとおり旧前面堤防の既済部分は潜堤等に用途変吏することとされた。
 中央及び小江両干拓地の農地造成工事については、9年度に工事が着手され、現在、用排水施設、道路施設、ほ場整備等の工事が進められている。
 この結果、第2回変更の本件事業全体の進ちょく率は14年度末現在で91.8%となっている状況である。

イ 計画変更に伴う事業費の変動状況

 前記のとおり、計画変更の都度事業費の増減が見られるがこの増減は工法や事業量の変更によるものと物価変動によるものとに区分される。
 このうち、各工事の工法、使用材料の種類や数量の変更などによる増減額(以下「工法等変更額」という。)で、第1回変更及び第2回変更において、変更額が多額となっている工種について、その内容を調査したところ、以下のとおりとなっていた。

(ア)第1回変更

 工法等変更額が多額となっている工種のうち主なものは潮受堤防工事と測量及び試験費であるが、これらの内容は表4のとおりとなっている。

表4 第1回変更の主な事業費の増減内訳
(単位:百万円)

工種 当初計画 第1回変更 増減    
うち工法等変更分 うち物価変動分
潮受堤防工事
  潮受堤防工
  排水門工
44,000
35,300
8,700
118,251
93,786
24,464
74,251
58,486
15,764
59,560
45,681
13,879
14,690
12,805
1,885
測量及び試験費 2,700 15,223 12,523 12,199 324

 工法等変更額が増加した主な理由は以下のとおりとなっていた。

〔1〕 潮受堤防工事費
(約595億円)

 潮受堤防の基礎部には砂杭による地盤改良工が施工された結果、当初の想定を超えて地盤が盛り上がったため、この土を掘削するなどの費用として事業費が約60億円増加した。また、上記の掘削土の処理には、小江干拓地の造成予定地が土捨場に充てられることとなり、締切工を施工するなどして事業費が約111億円増加した。
 上記のほか、潮受堤防工は、当初は徐々に開口部を狭めて締め切る漸縮方式(延長600m)が計画されていたが、この潮止工法では一定程度開口部が狭まると、開口部付近の潮の流速が著しく上昇し、施工上危険が生じるとともに、海底の泥土が巻き上げられて付近の海域に濁りを発生させ環境の悪化を招くおそれがあった。このため、このような流速の上昇を発生させない瞬時締切方式(延長1,240m)が採用されることとなり事業費が約95億円増加するなどした。

〔2〕 測量及び試験費
(約121億円)

 本件事業は、工事中に周辺の環境が適正に保たれるよう環境影響評価を行っており環境監視等が適切に行われるよう国及び関係地方公共団体からなる「諫早湾干拓事業環境モニタリング連絡会議」(元年5月設置)や学識経験者からなる「諫早湾干拓地域環境調査委員会」(5年6月設置)等において、専門的な立場からの助言・指導が行われた。これを受けて事業実施予定地域及び周辺地域の環境保全を図るため各種の調査等が実施されることになったため、事業費が約49億円増加した。
 上記のほか、潮止工法の変更に伴い潮受堤防工などの実施設計業務や潮受堤防の動態観測業務の追加などを行い事業費が約33億円増加するなどした。

(イ)第2回変更

 干陸面積が半減されるなど事業内容が大幅に見直されたため、内部堤防工事費の中央堤防工費や農地造成工事費が著しく減少した。一方で雑工事費や測量及び試験費の増加が顕著に見られた。このほか、潜堤工等が新たに計画された。これらの内容は表5のとおりとなっている。

表5 第2回変更の主な事業費の増減内訳
(単位:百万円)

工種 第1回変更 第2回変更 増減    
うち工法等変更分 うち物価変動分
内部堤防工事
  中央堤防工
  小江堤防工
  潜堤工等
31,045
25,710
5,335
29,629
13,008
4,684
11,937
△1,416
△12,702
△651
11,937
△1,322
△12,624
△634
11,937
△94
△78
△17
農地造成工事
  用水施設工
  排水施設工
  道路施設工
  ほ場整備工
29,714
2,570
8,680
12,712
5,752
14,895
1,732
6,573
2,380
4,210
△14,819
△838
△2,107
△10,332
△1,542
△13,561
△654
△1,560
△10,136
△1,211
△1,258
△184
△547
△196
△331
雑工事 6,149 13,530 7,381 7,704 △323
測量及び試験費 15,223 20,850 5,627 5,989 △362

 

〔1〕 内部堤防工事費
(△約13億円)

 中央堤防工の延長及び事業費が13.8km約257億円から7.8km約130億円となるなどの一方で、新たに潜堤工等の事業費約119億円が計上された。

〔2〕 農地造成工事費
(△約135億円)

 農地造成工事のうち道路施設工については、道路計画を見直し、南北幹線道路延長9.6kmが計画から除外されたり、中央干拓地支線道路が縮小されたりして、道路総延長が58.4kmから26.1kmへ減少した。また、南北幹線道路の3橋りょう(総延長862m)が計画から除外されたり、中央干拓地支線道路の13橋りょうが2橋りょうに減少したりするなど20橋りょうが4橋りょうに減少した。これらにより、事業費が約92億円減少するなどした。

〔3〕 雑工事費
(約77億円)

 河川から流入する雨水等を円滑に調整池及び排水門に導くための承水路の浚渫土砂の処理は、第1回変更ではポンプ浚渫船を用いて東工区に捨土することとしていたが、第2回変更では空気圧送船を用いて西工区に捨土することとしたため事業費が約33億円増加した。
 上記のほか、承水路の浚渫土砂の土捨場を西工区に変更したため、土捨場の土留めを設置するなどして事業費が約13億円増加するなどした。

〔4〕 測量及び試験費
(約59億円)

 河川から流入する雨水等を円滑に調整池及び排水門に導くための承水路の浚渫土砂の処理は、第1回変更ではポンプ浚渫船を用いて東工区に捨土することとしていたが、第2回変更では空気圧送船を用いて西工区に捨土することとしたため事業費が約33億円増加した。
 上記のほか、承水路の浚渫土砂の土捨場を西工区に変更したため、土捨場の土留めを設置するなどして事業費が約13億円増加するなどした。

〔4〕 測量及び試験費 (約59億円)

 有明海貧酸素調査などに係る水質調査及び海域環境調査の項目を追加し、干潟再生の基礎データを得るための干潟再生促進調査施設を新たに造成するなどして事業費が約19億円増加するなどした。
 以上のように、各変更計画においては、不測の事態や計画内容の大幅な変更などにより、新たな工種を設定することとなったり、工種ごとに多額な事業費の増減が生じることなったりした。この結果、第2回変更の総事業費は当初計画の約1.8倍に増こうしている状況であった。

ウ 第2回変更に伴い所期の効果を発現できなくなった施設など

 第2回変更により、既に施工された施設の中には、所期の効果を発現できなくなったものがある。これらについては、(ア)使用した資材の一部を利活用することとしたもの、(イ)用途変更することとしたもの、(ウ)存置することとしたものに分類される。その主な状況は表6のとおりとなっている。

表6 第2回変更に伴い所期の効果を発現できなくなった施設など
(単位:百万円)

態様 所期の効果を発現できなくなった施設 計画変更による主な変更点 対象となる事業費相当額 左のうち資材費相当額 利活用資材費相当額
(ア)使用した資材の一部を利活用することとしたもの 南部堤防工の一部
北部堤防工の一部
道路施設工の一部(小江工区は除く。)
内部堤防高
雑工事の一部
小計
延長減
延長減
除外及び幅員減
高さ減
除外
376
723
335
677
50
2,161
256
473
38
276
22
1,064
157
147
35
55
4
399
(イ)用途変更することとしたもの 旧前面堤防工 潜堤等へ用途変更 8,797
道路施設工の一部(小江工区) 小江堤防等へ用途変更 356
小計 9,153
(ウ)存置することとしたもの 既設堤防工 除外 606
合計 11,920
注(1)  「対象となる事業費相当額」とは所期の効果を発現できなくなった施設に係る事業費(諸経費含む)のことである。
注(2)  「左のうち資材費相当額」とは所期の効果を発現できなくなった施設に投じられた資材に相当する金額のことである。
注(3)  「利活用資材費相当額」とは所期の効果を発現できなくなった施設に投じられた資材のうち利活用可能な資材に相当する金額のことである。

 また、上記態様の主な内容は以下のとおりとなっていた。


(ア)使用した資材の一部を利活用することとしたもの
(約21億円)
〔1〕 南部及び北部両堤防工の一部
(約10億円)
 南部及び北部両堤防は、それぞれ延長約2.5km、約3.2kmが施工されていたが、それぞれ延長約0.9km(事業費相当額約3億円)、約1.3km(事業費相当額約7億円)は所期の効果を発現できなくなった。
〔2〕 道路施設工の一部(小江工区は除く。)
(約3億円)
 中央干拓地の南北幹線工事用道路は、延長約3.1kmが施工されていたが、東工区の約0.3km(事業費相当額約2億円)は所期の効果を発現できなくなるなどしていた。
〔3〕 内部堤防高
(約6億円)
 調整池の容量などを考慮して、内部堤防の必要高は一律4.5mとされていたが、調整池の容量が増加することにより、北部堤防の必要高は4.0m、それ以外の内部堤防の必要高は3.5mに変更された。しかし、前面堤防以外の内部堤防高は既に必要高4.5mで築造が進められていたため、整備した堤防の断面は結果的に必要な規模を上回ることとなった。
 なお、上記の各工事に投じられた山土等の資材の一部(資材費相当額計約3億円)については現在施工中である前面堤防等の資材として利活用することにしている。
(イ)用途変更することとしたもの
(約91億円)
 旧前面堤防工延長約4.3kmは基礎地盤の改良工、敷砂工等が施工されていたが、これが堤防としての目的を失うこととなったため、調整池のほぼ水面の高さまで築造されていた堤防延長約2.7kmについては潜堤として、また、調整池の現地盤上に覆砂したのみの延長約1.6kmについては魚類、貝類等の生息環境を改善する生物生息環境改善施設としてそれぞれ用途変更するなどしていた。
(ウ)存置することとしたもの
(約6億円)
 本件事業地内の既設の海岸堤防(以下「既設堤防」という。)は、高さを4.5m必要としてこれに満たない部分をかさ上げしていたが、前記のとおり、既設堤防の必要高は3.5mとなったため、結果的にかさ上げする必要がなかった部分は、このまま存置することとした。
 このように、第2回変更における干陸面積の半減など事業内容の大幅な見直しに伴い計画から除外された施設に係る工事のうち、約119億円に相当する工事が既に施行されていた。

エ 事業の一時中止に伴って新たに生じることとなった経費について

 本件事業では、前記のとおり、13年2月に反対派の一部の実力行使により工事現場が封鎖されるなどしたことから、これらを総合的に勘案して同年2月24日から14年4月29日までの間、前面堤防工事など24工事(事業費計約150億円)が一時中止されることとなった。そして、この一時中止が工事請負契約における「工事の中止」等に当たるとして、この間、工事の続行に備えた工事現場の維持や労働者、建設機械器具等を保持するために必要な費用など、新たに生じることとなった工事経費計約32億円は、発注者として国が負担していた。

(3)施設の管理状況

 潮受堤防及び排水門等の管理については、11年3月に潮受堤防が完成した後、12年3月に農林水産省と長崎県との間で管理委託協定が締結され、潮受堤防、排水門等の管理業務が長崎県に委託された。
 この管理業務は、潮受堤防、南部排水門、北部排水門、管理棟、通信制御施設、潮受堤防取付道路等の施設について維持管理を行うもので、本件事業とは別に国営諫早湾土地改良事業造成施設管理事業として所要の事業費が計上されている。

(4)今後の課題等

ア 経済効果

(ア)土地改良事業の経済効果の測定方法

 土地改良事業の施行に当たっては、土地改良法施行令(昭和24年政令第295号。以下「施行令」という。)において、そのすべての効用がそのすべての費用を償うこと及び農家負担がその農業経営の状況から見て相当と認められる負担能力の限度を超えないことが要件とされている。
 そして、この要件が満たされているか否かを判定するために経済効果が測定されることとなっているが、この経済効果の測定は、「土地改良事業における経済効果の測定方法について」(昭和60年構造改善局長通知)等に基づき、投資効率及び所得償還率を算定するなどして行うことになっている。
 このうち投資効率は、経済性の側面からの評価であり、投下費用(総事業費)とそれによって得られる年総効果額(効果項目の合計)を資本還元した妥当投資額とを対比することによって測定されるもので、この投資効率が事業着手時において1.0以上であれば、事業計画は妥当性を有しているとされている。
 また、所得償還率は、負担能力の側面からの評価であり、受益者全体の農家負担年償還額を受益者全体の年総増加所得額で除して算定されるもので、この所得償還率が0.4以下であれば受益者全体として償還の可能性があるとして、負担能力の妥当性の判断の基準とされている。

(イ)本件事業の投資効率

〔1〕 年総効果額

 本件事業の投資効率の算定に当たっての年総効果額を構成する効果項目は、作物生産効果、維持管理費節減効果、災害防止効果、国土造成効果及び一般交通等経費節減効果の5項目となっており、第2回変更の年総効果額の内訳は表7のとおりとなっている。

表7 第2回変更の年総効果額
 

区分
効果項目
年効果額(百万円) 項目の内容
作物生産効果 1,293 農地、水利施設等が開発され、又はこれらの条件が改良されることに伴って、受益地において発生する作物の量的増減等に関する効果
維持管理費節減効果 △275 水利施設等が新設され、又は改良されることに伴って発生する水利施設等の維持管理経費の増減に関する効果
災害防止効果 9,256 施設の新設又は改良により、洪水、土砂流出、高潮等の災害発生に伴う作物、農用地、農業用施設、一般資産及び公共資産の被害が防止又は軽減される効果
一般交通等経費節減効果 700 農道が新設又は改良されることにより、一般交通等における輸送交通の改善等により経費の節減が図られる効果
国土造成効果 2,415 干拓事業により国土が新たに造成されることに伴って土地の利用機会が増加する潜在的効果で、当該農地が公共の用途に利用された場合と農地として利用された場合の地代の差額により算出される。
年総効果額
(各効果項目の合計)
13,389  

 このうち災害防止効果は、潮受堤防及び調整池の設置によって、伊勢湾台風級の台風による高潮と諫早大水害級の洪水が地区周辺で同時に発生した場合に想定される被害を防止又は軽減する効果であり、その年効果額は9,256百万円と算定されており、年総効果額の69%を占めている。

〔2〕 投資効率の変遷

 本件事業の投資効率の変遷は表8のとおりとなっている。

表8 投資効率の変遷
(単位:百万円)

  当初計画 第1回変更 増減 第2回変更 増減 備考
総事業費 135,000 249,000 114,000 246,000 △3,000  
  換算全体事業費 135,000 255,980 120,980 255,740 △240 〔1〕
年総効果額 8,512 16,272 7,760 13,389 △2,883 〔2〕
  作物生産効果 2,640 3,012 372 1,293 △1,719  
維持管理費節減効果 △145 △302 △157 △275 27  
災害防止効果 4,040 9,563 5,523 9,256 △307  
国土造成効果 1,478 3,299 1,821 2,415 △884  
一般交通等経費節減効果 499 700 201 700 0  
廃用損失額 〔3〕
総合耐用年数 57年 63年 65年  
還元率×(1+建設利息率) 0.06148 0.06288 0.06302 〔4〕
妥当投資額 138,452 258,779 12,327 212,456 △46,323 〔5〕=〔2〕÷
〔4〕−〔3〕
投資効率 1.03 1.01 0.83 〔5〕÷〔1〕
(注)
 第2回変更における換算全体事業費の中には関連事業分も含まれる。

 このように、当初計画では、年総効果額が8,512百万円であったものが第1回変更では16,272百万円となり7,760百万円増加している(約1.9倍)。
 その主な要因は、災害防止効果の年効果額が5,523百万円増加(約2.3倍)したことによる。これは、各資産のうち堤防等の公共土木施設を評価する際に、当初計画では、施設の設置後の経過年数を勘案した現在価を用いて、これを再建設費の50%相当としていたが、第1回変更において、公共土木施設が被災した場合には直ちにこれを新設して機能回復する要があることなどから、当該施設と同等の機能の施設を新設した場合に要する再建設費による評価方法に変更されていること及び物価変動があったことによるものである。
 この結果、事業費が大幅に増加しているものの、妥当投資額も大幅に増加していることから、投資効率は1.01となっている。
 次に、第2回変更では、年総効果額が13,389百万円となり第1回変更に比べて2,883百万円減少している。これは主に干陸面積を半減したことによって作物生産効果や国土造成効果の効果額等が減少するなどしたことによる。
 この結果、第2回変更に伴い投資効率が1.01から0.83に低下し、本件事業の事業効果が投下された事業費を償うことができない事態となった。

(ウ)本件事業の所得償還率

 本件事業の場合、受益者全体の年償還額は干陸地の造成に対する農家負担額を、また、受益者全体の年総増加所得額は農業生産における所得額を基にして、所得償還率を0.238と算定し、前記所得償還率の判断基準を満足するとされている。

イ 営農計画及び土地利用計画

(ア)営農類型

 本件事業の第2回変更の営農計画、土地利用計画等において、長崎県が取りまとめた「諫早湾干拓営農構想報告書(平成12年6月)」(以下「営農構想」という。)などを踏まえた導入作物、農業所得・労働時間の目標等に基づき、8営農類型が設定されており、その内容は表9のとおりとなっている。

表9 営農8類型ごとの普通畑等の配分面積、導入作物等
 

営農類型 経営形態
(構成員数)
経営体数 配分
面積
類型別
面積
導入作物等
〔1〕 大規模野菜 個別経営
(3人)
10 21ha 210ha 春ばれいしょ、冬にんじん、たまねぎ
〔2〕 露地野菜(土物) 個別経営
(3人)
71 3ha
(5ha)
215ha 春ばれいしょ、冬にんじん、たまねぎ
〔3〕 露地野菜(葉物) 個別経営
(3人)
8 6ha 48ha 春はくさい、レタス、冬キャベツ
〔4〕 施設野菜
 (いちご)
協業経営
(10戸)
3 12ha 36ha いちご
〔5〕 施設野菜
 (アスパラガス)
共同利用
(8戸)
3 6ha 18ha アスパラガス
〔6〕 施設花き
 (カーネーション)
法人経営
(5戸)
3 6ha 18ha カーネーション
〔7〕 酪農 個別経営
(3人)
8 9ha 72ha 乳用牛(80頭)の飼料の一部としてのソルゴー、青刈りとうもろこしなど
〔8〕 肉用牛 個別経営(3人) 8 8ha 64ha 繁殖牛(50頭)、肥育牛(100頭)の飼料の一部としてのソルゴーなど
    681ha
注(1)  経営形態の1戸当たりの構成人員は3人を想定している。
注(2)  配分面積の( )は既耕地面積を含めたもの。
注(3)  類型別面積には宅地等用地(12ha)を含まない。

(イ)農業所得及び労働時間

 営農類型別の農業所得は、長崎県が策定した「長崎県農林業基準技術」(平成11年1月)の生産技術体系等を参考に算定され、これを前提とすれば、粗収益から経営費及び年償還額を控除した1戸当たりの所得額が、約700万円(露地野菜(土物))から約2070万円(大規模野菜)と他産業従事者の水準と同等以上の所得が得られるものとされている。
 また、これらの所得を得るために必要な1人当たりの年間労働時間についても他産業の年間労働時間の水準(2,000時間)以内とするなどとされ、その状況は表10のとおりとなっている。そして、施設野菜(いちご、アスパラガス)、施設花きの3類型以外の5類型においては、経営体の構成員で労働力をほぼ賄うことが可能となっている一方で、上記の3類型にあっては、雇用を前提としており、特に、施設花きでは、雇用を基本とした企業的な経営を目指すこととし、通年的に相当数の雇用を行うことが想定されている。

表10 営農類型別1経営体当たり労働時間
 

区分


営農類型
総労働時間
(時間)
 
うち家族労働 うち雇用
労働時間計
(時間)
労働時間計
(時間)
労働力
(人)
〔1〕 大規模野菜
〔2〕 露地野菜(土物)
〔3〕 露地野菜(葉物)
〔4〕 施設野菜(いちご)
〔5〕 施設野菜
  (アスパラガス)
〔6〕 施設花き
  (カーネーション)
〔7〕 酪農
〔8〕 肉用牛
5,795
3,034
4,627
89,389
43,300
121,219
6,503
5,375
4,853
3,034
4,423
55,385
36,779
30,000
5,959
4,991
3人
3人
3人
30人
24人
15人
3人
3人
942
0
204
34,004
6,521
91,219
544
384

(ウ)農地の配分見通し

 本件事業により整備される農地において、事業の目的に沿った営農計画による耕作が行われるためには、すべての農地が農業者に配分されることが必要となる。
 そのため、営農計画において、農地の配分については、表11のとおり、8営農類型のうち、露地野菜(土物)では干拓地以外の自作地で既に2ha程度耕作している農業者に新たに3haが配分され経営耕地面積5ha程度の経営が行われる増反型を、その他の類型は主に干拓地のみで営農しようとする農業者に農地を配分する入植型を、それぞれ想定している。

表11 土地配分計画
 

項目


区分
配分戸数(戸) 地目別配分計画(ha)
農業用施
設用地
小計 宅地等
用地
増反 71 207 7 214 214
入植 43 440 27 467 3 470
その他 9 9
114 647 34 681 12 693
(注)
 宅地等用地は、酪農、肉用牛、施設園芸の入植者のための宅地用地(3ha)及び農産物の集出荷施設等の農業関連施設用地(9ha)である。

 この農地の配分の見通しを農業者の意向、農地の価格、近隣農家の経営耕地面積等から見ると以下のとおりとなっている。

〔1〕 農業者の意向

 農業者の意向については、9年度から11年度までの3年間に、九州農政局及び長崎県が関係市町の協力の下に、営農類型ごとの配分面積の指標にするため農地利用の意向等を調査することを目的として、経営規模等に制限を設けずに諫早湾周辺2市20町の地域農業の担い手となる認定農業者の半数程度に当たる540農業者を対象に聞き取り調査等を行った。
 この調査等によれば、159人から1,965haの利用希望があり、その内訳は図2のとおりとなっている。

図2 希望面積別希望者数等

図2希望面積別希望者数等

 このように、上記159人のうち、営農計画で予定されている1経営体当たり面積3haから21ha未満の層は80人で、これに21haから50ha未満の層を加えると87人となっている。なお、土地配分計画における配分戸数は114戸となっている。

〔2〕 農地の価格

 農地の価格については、農地の配分価格である農業者の負担金は、前記の意向調査等において、10a当たり70万円台と説明されている。本件事業では、一般的な畑と比べて排水機場等の維持管理の状況が異なるため、単純に比較するのは困難であるが、長崎県の畑の売買価格は7年から11年までの5箇年平均で10a当たり124万円となっている。

〔3〕 近隣農家の経営耕地面積等

 近隣農家の経営耕地面積等については、配分予定戸数114戸の大部分を占める露地野菜(土物)の増反型71戸は、前記のとおり、既に自作地を2ha程度耕作しているが、新たに3haが配分されることにより、経営耕地面積5ha程度の経営が行われることとされている。
 「2000年世界農林業センサス」で見ると、2ha以上露地野菜の作付けを行っている農家は、本件事業の関係市町である諫早市など1市4町では吾妻町の12戸となっている。これを長崎県の営農構想に関係している2市20町で見ると、上記1市4町の12戸を除いた合計は282戸となっており、その内訳は島原市で98戸、有明町で78戸などとなっている。
 このように、本件事業で増反型と想定している規模の露地野菜(土物)の農家は、本件事業の関係市町以遠の市町に多い一方で、干拓地周辺の市町においては少ない状況になっている。
 以上のように、営農計画における経営収支及び農業者の負担金などの経済的な条件については整っていると想定される一方で、農地の配分については、増反型の農家における居住地と本件事業地との間の通作条件等考慮すべき事項も見受けられた。
 なお、農業者の意向調査や営農類型の設定等は相当年数が経過したものとなっており、その間に農業を取り巻く状況にも変化が生じている。

ウ 事業費の負担割合

(ア)負担の根拠及び事業の実施方式

 国営土地改良事業の実施に当たっては、国は土地改良法に基づき、都道府県にその事業に要する費用の一部を負担させることができるとされている。また、都道府県は、条例に基づいてその全部又は一部を受益者に負担させることができるとされている。
 そして、その事業の実施方式には一般型と特別型がある。一般型は、国及び受益者の負担分を一般会計からの繰入金で、都道府県の負担分を財政融資資金からの借入金でそれぞれ賄う事業の実施方式であり、特別型は、国の負担分を一般会計からの繰入金で、都道府県及び受益者の負担分を財政融資資金からの借入金でそれぞれ賄う事業の実施方式である。
 本件事業では、一般型と特別型を併せた複合型が採用されており、内部堤防工事及び農地造成工事等の事業費約933億円は一般型で、潮受堤防工事等の事業費約1527億円は完了の促進を図ることを目的として特別型でそれぞれ実施されている。

(イ)法令等に基づく各負担者の事業費の負担割合の変遷

 受益者の負担分を含めた県の負担割合については、施行令に規定されており、本件事業における国、長崎県及び受益者が負担する事業費の各々の負担割合の変遷は表12のとおりである。

表12 各負担者の事業費の負担割合の変遷
(単位:%)

実施方式 実施年度 工種 長崎県 受益者
一般型 59まで 内部堤防
農地造成
70.0 12.0 18.0
60、61 65.0 17.0 18.0
62〜2 60.0 22.0 18.0
3、4 65.0 17.0 18.0
5〜7
内部堤防
農地造成
70.0 12.0 18.0
    66.6 15.3 18.0
8、9 72.0 10.0 18.0
    72.0 10.0 18.0
10以降 82.6 10.0 7.4
    78.6 10.0 11.3
特別型 61まで 潮受堤防 66.6 33.3 0.0
62、63 60.0 40.0 0.0
元、2 72.0 28.0 0.0
3、4 80.0 20.0 0.0
5 84.0 16.0 0.0
6 83.3 16.7 0.0
7以降 82.6 17.4 0.0

その主な内容は以下のとおりである。
〔1〕 昭和60年度から平成4年度までの間は、施行令において国の負担率の引下げが行われている。そして、後進地域の開発に関する公共事業に係る国の負担割合の特例に関する法律(昭和36年法律第112号)に基づき、本件事業の一般型は8年度、特別型は元年度にそれぞれ「開発指定事業」として指定されたことにより、当該年度から国の負担割合が引き上げられている。
〔2〕 一般型については、長崎県は条例により9年度までは受益者の負担割合を18%としていたが、10年3月に条例を改正し、10年度以降は受益者の負担割合を軽減している。

(ウ)負担額及びその割合の変遷

 法令等に基づく負担割合などを基に算出した各計画における各負担者の負担額及びその割合の変遷は表13のとおりとなっている。

表13 負担額及びその割合の変遷
(単位:億円)

事業費   割合
長崎県 受益者 長崎県 受益者
全体 当初計画 1,350 978 247 126 72.4% 18.2% 9.3%
第1回変更 2,490 1,942 441 108 77.9% 17.7% 4.3%
第2回変更 2,460 1,984 423 53 80.6% 17.1% 2.1%
 

当初計画 700 490 84 126 70.0% 12.0% 18.0%
第1回変更 963 735 121 108 76.3% 12.5% 11.2%
第2回変更 933 777 103 53 83.2% 11.0% 5.6%


当初計画 650 488 163 0 75.0% 25.0% 0.0%
第1回変更 1,527 1,207 320 0 79.0% 20.9% 0.0%
第2回変更 1,527 1,207 320 0 79.0% 20.9% 0.0%

 このように、計画変更を経るごとに国が負担する事業費の割合は増加し、長崎県及び受益者の割合は減少してきており、その主な要因は、法令等の変更に起因するものである。そして、第2回変更で一般型における国の負担割合が増加したのは、東工区の干陸中止に伴い事業費の一部を国が負担することとしていることによるが、最終的な各負担者の負担額については関係者と調整の上事業完了後に決定することとしている。

(エ)単位面積当たりの受益者負担額

 本件事業に係る事業費のうち、国、長崎県の負担分を除いた残りの額は、土地の配分を受ける受益者が負担することとされている。これを、配分される面積で除すことにより算出した単位面積当たりの受益者負担額の変遷は表14のとおりとなっている。

表14 単位面積当たりの受益者負担額の変遷
 

算出時点 事業費   受益者
負担額
〔1〕
配分面積
〔2〕
単位面積当たりの
受益者負担額
〔3〕=〔1〕÷〔2〕
うち一般型
当初計画 1350億円 700億円 126億円 1492ha 84万円/10a
第1回変更 2490億円 963億円 108億円 1415ha 76万円/10a
第2回変更 2460億円 933億円 53億円 693ha 76万円/10a

 このように、第1回変更で単位面積当たりの受益者負担額が減少したのは、受益者の負担割合の引下げが行われたことから受益者負担額が126億円からl08億円に減少したことなどによるものである。そして、第2回変更では配分面積が1,415haから693haへと半減しているが、東工区の干陸中止に伴い事業費の一部を国が負担することとしていることにより、受益者負担額が108億円から53億円に半減しているため、単位面積当たりの受益者負担額は第1回変更と同程度となっている。

4 本院の所見

 本件事業は、地形的に平坦な農地の少ない長崎県において大規模な優良農地を造成するとともに、背後低平地における防災機能を強化することを目的とした事業であり、このうち防災機能については、潮受堤防が11年3月に完成し、その管理が長崎県に委託されて既にその効果が発現されている。そして、昭和61年に着手されてから、事業を取り巻く社会経済状況が著しく変化する中、2回の計画変更のほか約1年間にわたる事業の一時中止や事業工期の延長を経て、その総事業費は2460億円と多額に上っている。
 この間、事業の一時中止により結果的に約32億円の経費が生じることとなったり、第2回変更での大幅な事業内容の見直しにより、所期の効果を発現できなくなり、使用した資材の一部を利活用することとした施設(計約21億円)や用途変更することとした施設(計約91億円)などが計約119億円生じることとなったりした。
 また、本件事業は第2回変更において干陸面積が半減したことにより、優良農地の造成という本件事業の目的の一つが所期の効果を大きく減じられることとなった。この一方で、総事業費が当初計画よりも1110億円増加して約1.8倍となったため、本件事業によってもたらされる事業効果が投下された事業費を償うことができない事態となった。
 このような事態が生じるに至ったのは、本件事業を取り巻く社会経済状況等の外的要因の影響も強く認められる。
 しかし、本件事業については、既に約2259億円という巨額な事業費が投入されていることを考慮すれば、今後、これまで以上に本件事業に係る関係者との意見調整を図ったり、農業者等の意向や農業経営の状況等を考慮したりなどして、本件事業によってもたらされる事業効果が投下された事業費を少しでも償うよう、適時適切に所要の措置が講じられることが望まれる。
 また、計画変更により所期の効果を発現できなくなった施設の材料の中で未だ利活用されていないものについては経済性・効率性を検討するなどした上で、更に他の施設等へ利活用するなど、より一層の経済的・効率的な事業の運用が図られることが望まれる。
 したがって、本院においては、今後とも本件事業において適正かつ経済的・効率的・効果的な事業運営が実施されているか引き続き注視していくこととする。