会計名及び科目 | 投票勘定(平成15年9月30日以前はスポーツ振興投票勘定) |
部局等の名称 | 独立行政法人日本スポーツ振興センター(平成15年9月30日以前は日本体育・学校健康センター) |
事業の根拠 | スポーツ振興投票の実施等に関する法律(平成10年法律第63号)独立行政法人日本スポーツ振興センター法(平成14年法律第162号) |
事業の概要 | スポーツの振興のために必要な資金を得るためにスポーツ振興投票を実施し、これにより得た収益で地方公共団体又はスポーツ団体が行うスポーツの振興を目的とする事業に要する資金の支給などを行うもの |
適正な会計処理をしたことにより増加した欠損金の額 | 154億0547万円 平成14事業年度分 23億5000万円
平成15事業年度分 69億5757万円 平成16事業年度分 60億9790万円 |
1 事業の概要
スポーツの振興のために必要な資金を得るため、スポーツ振興投票の実施等に関する事項を定め、スポーツの振興に寄与することを目的とするスポーツ振興投票の実施等に関する法律(平成10年法律第63号)が平成10年5月に公布され、同年11月、同法及び関係政省令が施行された。これにより、日本体育・学校健康センター(以下「旧センター」という。)は、サッカーの試合を対象としたスポーツ振興投票券(以下「スポーツ振興くじ」という。)の発売、払戻し等を行うスポーツ振興投票の実施主体になるとともに、その収益を財源として、地方公共団体又はスポーツ団体が行うスポーツの振興を目的とする事業に要する資金の支給その他の援助(以下「くじ助成」という。)を行うこととなった。そして、このスポーツ振興投票等の実施に当たっては、スポーツ振興くじの毎事業年度の発売総額を2005億円と想定し、また、スポーツ振興くじの売りさばき、払戻金の支払などの業務は金融機関に委託するとともに、委託業務の実施に必要な施設、設備等は当該金融機関が調達し、その費用は13事業年度から17事業年度までの5年間に、毎事業年度の業務委託料に含めて支払うこととされた。
その後、15年10月、旧センターは解散し、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「センター」という。)が設立され、旧センターの一切の権利及び義務は、国が承継する資産を除き、センターが承継した。
スポーツ振興投票の払戻金の比率は、スポーツ振興くじの売上金額(スポーツ振興くじの発売金額から試合が開催されなかったなどのためにスポーツ振興くじの所有者に返還する金額を控除した金額)の50%(17年3月31日までの間は経過措置として47%)となっている。
そして、毎事業年度のスポーツ振興投票に係る収益(以下「投票収益」という。)は、独立行政法人日本スポーツ振興センター法(平成14年法律第162号。以下「センター法」という。)により、〔1〕当該事業年度のスポーツ振興くじの売上金額の50%(17年3月31日までの間は経過措置として53%)に相当する金額、〔2〕時効によって消滅した払戻金等の債権の金額、払戻金の1円未満の端数を切り捨てることによって生じた金額など(以下「時効金等収入」という。)の合計額からスポーツ振興投票及びくじ助成の業務に係る運営費(以下「運営費」という。)の金額を控除した金額となっている。
そして、センターは、投票収益の3分の2に相当する金額を翌事業年度以後のくじ助成の財源に充てるためにスポーツ振興投票事業準備金として整理し、3分の1に相当する金額を国庫に納付しなければならないこととされている(以下、この準備金と国庫納付金を併せて「助成準備金等」という。)。
また、スポーツ振興投票等の業務に係る経理については、その他の経理と区分し、「投票勘定」(15年9月30日以前は「スポーツ振興投票勘定」)を設けて整理しなければならないこととなっている。
くじ助成の財源を確保するため、運営費の金額は、センター法第19条の規定により、スポーツ振興くじの発売金額に応じて文部科学省令で定める金額を超えてはならないとされている。そして、独立行政法人日本スポーツ振興センターに関する省令(平成15年文部科学省令第51号)において、発売総額が2005億円以上の場合に適用される「通常限度額」と2005億円に達しなかった場合に適用される「特例限度額」がそれぞれ定められている。また、同省令の附則において、17事業年度末までの間にあっては、年度間のスポーツ振興投票の実施回数が過少となることなどの事由により、発売総額が過少となる場合には、別に文部科学大臣が定めるところによるとされている。
そして、毎事業年度、同附則に基づき、運営費の限度額が文部科学省の告示で定められており、その金額は、〔1〕発売総額に53%を乗じて得た金額と〔2〕発売総額に1万分の955を乗じて得た金額に183億円を加えた金額のいずれか少ない金額とされている。
旧センターは、11年9月に株式会社大和銀行(15年3月以降は、合併により株式会社りそな銀行。以下「委託金融機関」という。)との間で、スポーツ振興投票に係る業務の委託に関する基本契約を締結した。そして、委託金融機関が調達した委託業務に係る施設、設備等の調達経費351億円については、13事業年度から17事業年度までの5年間に毎事業年度70億2000万円を業務委託料に含めて支払うこととした。また、その後毎事業年度、委託金融機関と業務委託料に関する契約(以下「契約」という。)を締結し、上記の施設、設備等の調達経費や固定経費を考慮した上で、発売総額等に応じた業務委託料の算定方式を定めている。
そして、スポーツ振興投票は、12年10月の第1回以来、16事業年度末までに計155回実施され、このうち本格的な発売開始年度である13事業年度以降の収支等の状況は、表1のとおりとなっている。
表1 スポーツ振興投票の収支等の状況 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(注)
12事業年度は、テスト発売2回を含め計4回実施され、売上金額は3,063百万円である。
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2 検査の結果
独立行政法人については、国による事前関与・統制を極力排し、事後チェックへ重点を移行するため、主務大臣の監督、関与その他の国の関与を必要最小限のものとすることとされた。この事後チェックのためには業績評価が正しく行われるための情報が提供されなければならないとされており、独立行政法人会計基準(15年3月改訂。独立行政法人会計基準研究会等。)に準拠した正確な財務諸表の作成が求められている。
そして、センターが実施しているスポーツ振興投票の実績は、当初想定していた発売総額(2005億円)を大幅に下回っており、一方、委託金融機関が調達した施設、設備等に係る経費を5年間で支払うという枠組みになっていることもあって、毎年の運営費は多額に上っている状況にある。
そこで、業績評価が正しく行われ、健全な運営が図られるためにも、これまでのスポーツ振興投票等の実施に係る経理及び決算処理が適正に行われ、投票勘定の財務諸表が適正に作成されているかなどに着眼して検査した。
スポーツ振興投票の売上金額が少なく、また、運営費の限度額が設けられている状況の下で、多額の支払を要する業務委託料の支払状況はどのようになっているかを検査したところ、14事業年度から16事業年度までの間においては、次のとおりとなっていた(表2参照) 。
表2 業務委託料の支払額と繰延額 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(注)
16事業年度には、これとは別に、15事業年度の繰延額に係る利息106百万円を支払っている。
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a 14事業年度においては、発売総額が過少となり、当初の契約で定めた算定方式による額では委託金融機関の固定経費や施設、設備等の調達経費を賄えないこととなったため、その算定方式を変更して業務委託料を197億4354万余円とした。そして、このうち173億9354万余円を15年5月10日までに支払い、残余の23億5000万円については、そのうちの3億5000万円を15年10月末日まで、10億円を16年4月末日まで、10億円を17年4月末日まで、それぞれ支払を繰り延べることとし、期日どおり支払われた。
b 15事業年度においても、14事業年度と同様の事情から、当初の契約で定めた算定方式を変更して業務委託料を167億9828万余円とした。そして、このうち94億9070万余円を16年5月10日までに支払い、残余の73億0757万余円については、17年5月10日まで支払を1年繰り延べ、この繰延額に対して年利1.625%の利息を支払うこととした。その後、16事業年度の売上金額も過少であったことから、この繰延額を支払う財源がなく、変更した約定期限の17年5月10日までに支払ができなかったため、この間の利息を支払うにとどまっている。なお、この繰延額については、17年9月末現在、委託金融機関との間で返済のための条件などについて協議中である。
c 16事業年度においては、14、15両事業年度の変更契約と同様の算定方式を定め、これに基づき業務委託料を137億9887万余円としていた。そして、このうち67億0096万余円を約定どおり17年5月10日までに支払ったが、残余の70億9790万余円については、財源がないことから支払が行われておらず、17年9月末現在、その取扱いについて協議中である。
このような支払状況の中で生じている繰延額の会計処理について検査したところ、以下のとおり、適正を欠く事態が見受けられた。
ア 14、15両事業年度の投票勘定の財務諸表について
旧センターの14事業年度及び15事業年度(15年4月1日〜9月30日)の財務諸表においては、14事業年度に発生した業務委託料のうち翌事業年度以降に繰り延べた前記の23億5000万円を費用及び負債に計上していなかった。
また、センターの15事業年度(15年10月1日〜16年3月31日)の財務諸表においても、15事業年度に発生した業務委託料のうち翌事業年度に繰り延べた前記の73億0757万余円を費用及び負債に計上していなかった。一方、この財務諸表の注記事項には「重要な債務負担行為」として、委託金融機関が調達した施設、設備等に係る経費351億円のうち16、17両事業年度に支払期日が到来する140億4000万円と、14、15両事業年度に発生した業務委託料のうち15事業年度末繰延額93億0757万余円とを合算した額233億4757万余円を記載して、委託金融機関への債務負担行為の存在を表示していた。
センターが、上記の繰延額について費用及び負債として計上せずに「重要な債務負担行為」として注記したのは、運営費についてはセンター法第19条等によりその上限が定められており、これを超える額については費用として財務諸表に計上できないと判断したことによる。
しかし、センター法第19条は支出の限度額を規定したものであり、発生した費用の財務諸表への計上の限度額までを定めたものではない。
そして、14、15両事業年度の繰延額は、各事業年度にそれぞれ委託業務の履行を受けて、既に各事業年度の費用として発生しているものであるから、債務負担行為ではなく、各事業年度に費用及び負債として計上するのが適正であった。
イ 16事業年度の投票勘定の財務諸表について
本院は、17年2月の会計実地検査の際、上記アの事態について、財務諸表に適正に表示するよう指摘したところである。その後、センターは、16事業年度において、〔1〕16事業年度の限度額を超える運営費60億9790万余円、〔2〕過事業年度において運営費の限度額を超えるため費用に計上できないとしてきた93億0757万余円を損益計算書の経常費用の業務経費に計上した。この結果、運営費の限度額は費用計上の限度額であるという考えの下では明らかになることがなかった欠損金154億0547万余円が貸借対照表に計上された。
そこで、各事業年度の財務諸表について、各事業年度に費用として発生した業務委託料の全額を適正に費用及び負債に計上すると、表3のとおり、14事業年度以降多額の欠損金が発生していたことになる。
表3 業務委託料を適正に計上した場合の欠損金の増加額 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||
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したがって、センターにおいては、このような多額の欠損金を解消しスポーツ振興投票の健全な運営を図っていくためにも、独立行政法人会計基準に準拠した正確な財務諸表を作成して、スポーツ振興投票に係る財政状態及び運営状況を適切に開示する要があると認められた。
なお、16事業年度の損益計算書で、〔1〕過事業年度において運営費の限度額を超えるため費用に計上できないとしてきた93億0757万余円及び〔2〕15事業年度の業務委託料のうち16事業年度に繰り延べた73億0757万余円に係る16事業年度の発生利息1億0605万余円を経常費用の業務経費に計上したが、〔1〕は過事業年度に発生した費用であるから臨時損失に計上するのが適正であり、また、〔2〕は支払利息であることから、財務費用に計上するのが適正である。さらに、16事業年度決算における運営費の計上については、限度額を超える部分についても費用計上するとする考え方に変更されているにもかかわらず、これについての説明が財務諸表上一切なされていない。このことは、明瞭性等の観点からみて適切を欠くと認められた。
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、運営費の限度額に関する法令の趣旨を十分理解していなかったこと、センターの財政状態及び運営状況を国民に対して適切に開示することの重要性に対する認識が十分でなかったことなどによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、センターでは、16事業年度の投票勘定の損益計算書に、過事業年度において運営費の限度額を超えるため費用に計上できないとしてきた93億0757万余円及び16事業年度の限度額を超える運営費60億9790万余円を費用として計上し、運営費の限度額は費用計上の限度額であるという考えの下では明らかになることがなかった欠損金154億0547万余円が計上された財務諸表を、17年6月30日に文部科学大臣に提出した。
また、上記財務諸表の損益計算書について、過事業年度に発生した費用は臨時損失に、繰延べに係る支払利息は財務費用にそれぞれ計上し直すとともに、15事業年度以前の決算と16事業年度決算において運営費の計上に係る考え方が異なっていることにつき所要の注記をした財務諸表を、17年9月30日に文部科学大臣に再提出した。
なお、センターでは、同月、18事業年度から21事業年度までの4年間で欠損金を解消するとした収支計画を策定し、スポーツ振興投票の財務の健全化に努めることとしている。