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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第13 独立行政法人雇用・能力開発機構|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

滞納の防止やその早期解消に向けた対応策を執ることなどにより、技能者育成資金の回収業務を適切に行うよう改善させたもの


滞納の防止やその早期解消に向けた対応策を執ることなどにより、技能者育成資金の回収業務を適切に行うよう改善させたもの

科目 一般勘定
部局等の名称 独立行政法人雇用・能力開発機構(平成16年2月29日以前は雇用・能力開発機構)
事業の根拠 独立行政法人雇用・能力開発機構法(平成14年法律第170号)
(平成16年2月29日以前は雇用・能力開発機構法(平成11年法律第20号))
事業の概要 優れた技能者を育成するための一助として、成績が優秀で、かつ経済的な理由により公共職業能力開発施設等の行う職業訓練等を受けることが著しく困難であると認められた者に対する資金の貸付け及び回収事業
貸付金残高 120億3788万余円 (平成16年度末)
滞納額 8億6238万円 (平成16年度末)

1 貸付事業の概要

(事業の概要)

 独立行政法人雇用・能力開発機構(平成16年2月29日以前は雇用・能力開発機構。以下「機構」という。)では、独立行政法人雇用・能力開発機構法(平成14年法律第170号)に基づき、優れた技能者を育成するための一助として、公共職業能力開発施設若しくは職業能力開発総合大学校の行う職業訓練又は指導員訓練(以下、これらを「職業訓練等」という。)を受けようとする者で、成績が優秀で、かつ経済的理由により当該職業訓練等を受けることが著しく困難であると認められた者に対して、当該職業訓練等を受けるために必要な技能者育成資金(以下「資金」という。)の貸付事業を行っている。
 資金には無利子の第1種育成資金(所定の月額18,200円〜85,000円、訓練区分等により決定)と有利子の第2種育成資金(所定の月額40,000円又は47,600円、訓練区分等により決定)の2種類があり、その返還方法等については、技能者育成資金貸付要領(昭和47年要領第23号。以下「貸付要領」という。)により次のとおり定められている。
〔1〕 資金の借受者は、当該職業訓練等を修了した月の翌月から起算して6月を経過した後16年以内に全額を年賦、半年賦等の方法により機構に返還する。そして、貸し付けた資金(以下「貸付金」という。)の返還を滞納したときは延滞利息を徴収する。
〔2〕 借受者が大学等に在学しているときなどは貸付金の全部又は一部の返還を猶予することができる。また、職業訓練を修了後、法律等に基づく資格試験に合格し、当該試験に係る職種の職業に就いた者や指導員訓練の長期課程等を修了後、公共職業能力開発施設等の職業訓練指導員等に就いた者で所定の要件を満たす場合などには、貸付金の全部又は一部の返還を免除することができる。
 なお、貸付要領の改正に伴い、11年度以降に職業訓練を受講し、受講後合格した資格試験に係る職種の職業に就いた者や15年度以降に指導員訓練を受講し、職業訓練指導員等に就いた者には、上記の返還免除は適用されないこととなった。

(貸付金の原資)

 貸付金の原資は、国の労働保険特別会計雇用勘定からの雇用開発支援事業費等補助金(16年2月以前は雇用・能力開発機構交付金)及び貸付金の回収金であり、16年度の貸付金額14億3166万余円の原資は、国からの補助金7億0093万余円、回収金7億3073万余円となっている。

(事業の実績)

 貸付事業が開始された昭和47年度から平成16年度までの間の事業実績は、借受者の累計が10万余人、貸付金の累計額が261億8275万余円で、これから貸付金回収金の累計額89億5239万余円、返還免除累計額49億9395万余円及び貸倒償却累計額1億9851万余円を差し引いた16年度末の貸付金残高は120億3788万余円(これに係る借受者2万余人)となっている。

(貸付金の回収業務)

 機構は、借受者が訓練を修了するなどして貸付けが終了したときは、貸付要領、債権管理規程(平成16年規程第13号)等に基づき、連帯保証人(以下「保証人」という。)及び返還期限を記入するなどした誓約書を提出させた後、次のような方法により貸付金を返還させることとしている。
〔1〕 借受者に対して返還期限の1箇月又は3箇月前に年賦又は半年賦等の要返還額を記載した返還金の振込通知書をその都度送付し、借受者は返還期限までに貸付金を機構の指定する金融機関口座にその都度振り込む。
〔2〕 返還期限までに貸付金の返還がない借受者(以下「滞納者」という。)については、返還期限から約3箇月後に督促状を送付し、それでも返還がない場合は、督促状送付から約3箇月後に再度督促状を送付する。また、再度の督促にもかかわらず返還しない滞納者には、次回の振込通知書を送付する際に、年賦又は半年賦等の要返還額に滞納額及び延滞利息を上乗せした額を記載して送付する。なお、16年以内の最終返還期限が経過した滞納者に対しては、年2回督促状を送付する。
〔3〕 督促を行っても滞納者から返還がないときは、保証人に対して督促する。
〔4〕 督促を行ってもなお貸付金の返還がないときは、滞納者及び保証人について必要な調査を行い、これらの者の居所が不明である場合は、状況に応じて関係地方公共団体等に対して居所確認のための協力を求める。
〔5〕 督促後、相当の期間を経過してもなお滞納者及び保証人が貸付金の返還をしないときは、訴訟等の強制手続を執る。

(貸付金の回収状況)

 16年度の貸付金の回収状況についてみると、16年度に返還期限が到来した貸付金の額に、15年度末の滞納額を加えた額から16年度の返還猶予又は免除した額を差し引いた額(以下「要回収額」という。)16億0592万余円に対し回収額は7億4353万余円にすぎず、16年度末の滞納額は、表1のとおり、8億6238万余円で要回収額の53.7%となっている。このうち、1年以上滞納しているものが7億2018万余円(滞納額の83.5%)あり、この滞納に係る元金残高は22億9668万余円(貸付残高の19.1%)で、延滞利息の未収額は4億9964万余円に上っている。

表1 滞納状況 (単位:人、千円)
年度 11 12 13 14 15 16
滞納者数 不明 不明 不明 5,936 6,215 6,666
滞納額 612,314 651,223 677,835 702,591 769,164 862,388

(貸倒償却の状況)

 機構では、最終の返還期限到来後10年間に貸付金の返還が一度もない場合は、民法(明治29年法律第89号)第167条(債権の消滅時効)及び債権管理規程を根拠として貸倒償却を行うこととなっている。貸倒償却は11年度から実施しており、その年度別の推移は表2のとおりで、償却の対象となった借受者数、償却額ともに15年度、16年度と増加している。

表2 貸倒償却の状況 (単位:人、千円)
年度 11 12 13 14 15 16
人数 1,660 249 256 224 323 429 3,141
金額 80,604 15,580 19,674 19,606 26,077 36,971 198,515
(注)
 11年度に貸倒償却が多いのは、本来、過年度に処理すべきものについてまとめて処理したためである。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 滞納額は、表1のとおり、11年度末の6億1231万余円から16年度末には8億6238万余円と年々増加する傾向にあり、貸倒償却額も表2のとおり、15年度、16年度と増加している。また、職業訓練指導員等に就いた場合の返還免除が廃止されたことから、今後要回収額の一層の増加が見込まれる。
 そこで、貸付金の回収業務は、貸付要領等に従って適切に行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 16年度の要返還者16,750人、要回収額16億0592万余円のうち、15年度末における滞納者6,215人、滞納額7億6916万余円等を対象として検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、借受者全体の要回収額の把握状況や滞納者に対する督促等の状況は、次のとおりとなっていた。

(1)要回収額の把握状況

 機構では、債権管理簿をコンピュータシステム(以下「貸付回収システム」という。)を使用して作成し、各借受者の貸付金、返還状況などを入力している。しかし、機構では、借受者ごとの債権の状況については管理を行っていたものの、回収業務を的確に行う上で必要となる借受者全体の要回収額については、その必要性を十分に認識していなかったことから把握していない状況となっていた。

(2)振込通知書等の送付状況

 滞納者6,215人に係る振込通知書及び督促状の送付状況についてみると、このうち1,948人(31.3%)については、居所不明という理由で振込通知書等を送付していなかった。このほか、振込通知書等を送付したものの、居所不明で返送されてきたものがあったが、これらの送付状況及びその結果については、そのうちの一部しか貸付回収システムに入力を行っておらず、債権管理事務が適切に行われていない状況となっていた。

(3)督促の状況

 滞納者6,215人に係る督促の状況についてみると、居所不明者1,948人を除いた4,267人に対して督促状等を送付した結果、返還があった者は517人(12.1%)であった。また、この4,267人のうち最終返還期限が経過した1,954人についてみると、返還があった者は33人(1.7%)にすぎなかった。
 督促を行っても滞納者から返還がない場合は、保証人に対して督促するなど必要な措置を執ることとしているが、上記の4,267人から返還があった517人を差し引いた3,750人のうち、保証人に対して督促したのは222人(5.9%)だけで、このうち返還に応じていたのは7人であった。
 このほか、滞納者又は保証人に電話により個別に督促したのは8人(滞納者の0.1%)にすぎず、このうち返還に応じていたのは3人であった。
 このように、滞納者の返還意識が希薄なことと併せて督促が十分に行われていない状況となっていた。

(4)居所調査の状況

 会計実地検査時点において、滞納者のうち約3分の1に当たる1,948人が居所不明となっているが、これらの居所不明者又はその保証人について、関係地方公共団体等に対して居所調査の協力依頼をしたものは91人(居所不明者の4.7%)にすぎず、調査が十分に行われていない状況となっていた。

(5)強制手続の執行状況

 昭和47年度の貸付事業の開始以来一度も強制手続を執ったことはなく、平成15年度末における滞納者6,215人、滞納額7億6916万余円のうち債権の消滅時効が16年度中に到来した429人の滞納額3697万余円は、表2のとおり、全額貸倒償却しており、その累計は、16年度末で3,141人、1億9851万余円に上っている。そして、滞納が生じた場合における督促、強制手続等に係る規定はあるものの、具体的な事務手続を定めたマニュアル等は作成されていなかった。
 今後要回収額の一層の増加が見込まれる中、回収すべき貸付金に多額の滞納が生じているのに、上記(1)から(5)のように、借受者全体の要回収額の把握や督促、居所調査等の回収業務が十分に行われていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、主として次のことによると認められた。
ア 借受者全体の要回収額を把握していなかったり、貸付回収システムに滞納者等に対して送付した振込通知書等の送付状況及びその結果が一部しか入力されていなかったりなどしていて、債権管理事務の体制が整備されていなかったこと
イ 借受者に対して、貸付事業の趣旨及び返還の重要性や、転居時における機構への届出手続等が十分周知されていなかったこと
ウ 貸付要領には、滞納が生じた場合における督促、強制手続等に係る規定はあるものの、具体的な事務手続を定めたマニュアル等が作成されていなかったこと
エ 貸付金の返還方法が振込通知書による金融機関口座への振込みのみとなっていて、借受者の利便性に十分な配慮がされていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、機構では、貸付金の回収業務を適切に行うよう次のような改善の処置を講じた。
ア 借受者全体の要回収額を把握するとともに、貸付回収システムに滞納者及び保証人に対する振込通知書等の送付状況及びその結果等を必ず入力することとした。また、債権管理委員会を新設し、実情に合った有効な滞納の防止及びその早期解消に向けた適切な対策が執れるよう債権管理事務の体制を整備した。
イ 17年9月、「技能者育成資金運営マニュアル」を作成し、滞納者への督促強化及び強制手続等の業務を早期かつ適切に推進するよう具体的な手続を明記するとともに、借受者に対して貸付けの説明を行う際に、制度の趣旨及び返還の重要性を十分周知するなど、借受者の返還意識の向上に努めることとした。
ウ 返還の利便性を高め、確実な回収を図るため、18年度末以降に貸付けが終了し返還手続を開始する借受者を対象として金融機関の口座振替を導入することとした。また、返還中の者に対しても口座振替加入の促進を図ることとした。