会計名及び科目 | 一般会計 (組織) | 国土交通本省(平成11年度以前は建設本省) |
(項)官庁営繕費 |
部局等の名称 | 国土交通省官庁営繕部(平成13年1月5日以前は建設省官庁営繕部)、国土交通省東北地方整備局(13年1月5日以前は建設省東北地方建設局)ほか7地方整備局、国土交通省北海道開発局(13年1月5日以前は総理府北海道開発庁)、内閣府沖縄総合事務局(13年1月5日以前は総理府沖縄開発庁) |
耐震化対策の概要 | 官庁営繕事業の一環として、地震災害時に災害応急対策活動を実施するために必要な機能を確保するため、防災拠点となる既存の官庁施設の耐震診断、耐震改修を実施するもの |
耐震改修に係る事業費 | 423億円(平成7年度〜16年度) |
1 官庁施設の耐震化対策の概要
国家機関の建築物及びその附帯施設(以下「官庁施設」という。)については、官公庁施設の建設等に関する法律(昭和26年法律第181号。以下「官公法」という。)等に基づき、国土交通省において、災害を防除し、公衆の利便と公務の能率増進とを図るための官庁営繕事業を実施している。官公法に基づいて同省が整備する主な官庁施設は、一団地の官公庁施設に属する国家機関の建築物等である中央及び地方の合同庁舎、一般庁舎、試験研究機関、研修施設等であり、整備された施設の管理は施設を所管する各省各庁が行っている。
また、各省各庁が管理している既存の官庁施設に係る耐震化対策は、官庁営繕事業の一環として実施されている。この耐震化対策は、国土交通省と施設を管理している官署(以下「管理官署」という。)との間で綿密な調整を行うことが必要となっている。
国の災害対策は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)に基づき、内閣総理大臣を会長として内閣府に設置された中央防災会議が作成する防災基本計画を基に実施されており、災対法では、国は、国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有することにかんがみ、組織及び機能のすべてをあげて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有するとされ、内閣総理大臣が指定する指定行政機関(注1)
及び指定地方行政機関(注2)
の長は、法令又は防災基本計画及び同計画に基づきその所掌事務又は業務に関して作成する防災業務計画の定めるところにより、災害応急対策を実施しなければならないとされている。
また、東海地震を想定した大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号。以下「大震法」という。)では、地震防災に関する対策を強化する必要がある地域を地震防災対策強化地域(以下「強化地域」という。)として指定し、中央防災会議は強化地域に係る地震防災基本計画を作成することとされている。そして、地震防災基本計画では、国等は、地震防災応急対策又は災害応急対策を的確かつ迅速に実施するために、建築物・構造物等の耐震化を図ることとされている。
さらに、東南海・南海地震を想定して制定された東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成14年法律第92号)では、地震防災に関する対策を推進する必要がある地域を東南海・南海地震防災対策推進地域(以下「推進地域」という。)として指定し、中央防災会議は推進地域に係る地震防災対策推進基本計画を作成することとされている。そして、地震防災対策推進基本計画では、国等は、住宅や、学校、病院等の多数の者が利用する施設及び市役所、消防署等の災害時の拠点となる施設について、耐震診断、耐震改修等の耐震化対策を強力に推進することとされている。
防災基本計画では、構造物・施設等の耐震設計に当たり、供用期間中に1度か2度程度の確率で発生する地震動及び発生確率は低いが直下型地震又は海溝型巨大地震に起因する更に高レベルの地震動を共に考慮の対象とするものとされている。また、構造物・施設等のうち、いったん被災した場合に生じる機能支障が災害応急対策活動等にとって著しい妨げとなるおそれがあるものなどについては、重要度を考慮し、高レベルの地震動に対しても他の構造物・施設等に比べて耐震性能に余裕を持たせることを目標としている。
(1)建築物の耐震設計基準の経緯
建築物についての耐震設計という考え方は、関東大震災の翌年(大正13年)に改正された市街地建築物法に初めて導入され、昭和25年制定の建築基準法(昭和25年法律第201号)に引き継がれている。その後、53年の宮城県沖地震等の大規模地震等を契機に改正され、56年から施行されている同法では、建築物の設計に当たり、従来の中地震に対する安全性を確保することに加え、大地震に対する安全性も確保することとする新しい耐震設計法(以下「新耐震設計手法」という。)が導入された。
これを受け、官庁施設についても、56年以降に建築されたものは新耐震設計手法を用いた整備が実施されている。
(2)耐震化対策の取組の経緯
官庁施設の耐震点検は、46年度から実施されている。そして、56年2月の建築審議会答申(「今後の官庁施設の整備のための方策について」)では、官庁施設は、個々の建物として、地震災害から、生命、身体及び財産の保護を図り、地震災害の発生を防止するばかりでなく、地震災害時における防災拠点としての機能を積極的に持たせる必要があるとして、その用途・性格を明確にし、防災上の重要度に基づいて、防災性能の強化に努めなければならないとされ、総合的な地震防災性能の強化のため、構造設計指針や建築設備耐震設計指針及び既存施設の地震防災点検と改修指針の作成等についての提言がなされた。
この答申や上記建築基準法の改正を踏まえるなどして、国土交通省では62年4月に「官庁施設の総合耐震計画標準」(以下「計画標準」という。)及び「官庁施設の耐震点検・改修要領」を制定した。
その後、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災では官公庁施設も多くの被害を受け、災害対策活動のみならず、行政サービスの提供に重大な支障が生じた。さらに、構造体に大きな被害がない場合でも、通信設備や電源設備の被害によって迅速な災害情報の伝達等に支障を来し、結果として、防災拠点としての機能が果たせなかった事例も数多くあった。これらの教訓を踏まえ、国土交通省では、官庁施設が備えるべき防災機能の在り方について検討を行い、地震災害発生時における官公庁施設の防災機能の確保、その後の復旧・復興の円滑な推進のための拠点機能の確保及びそのための官公庁施設の整備方策の確立が喫緊の課題であるとして、7年11月に建築審議会に対して「官公庁施設の地震防災機能の在り方について」を諮問した。
そして、8年6月の同審議会の答申において、地震防災機能の確保のための基準の策定、既存施設の改修等の推進等の提言がなされた。
(3)計画基準・改修基準
上記8年6月の答申を踏まえ、国土交通省では計画標準等の見直しを行い、同年10月、特に、建築非構造部材及び建築設備についての耐震性能の強化を図ることなどに重点を置いた「官庁施設の総合耐震計画基準及び同解説」(以下「計画基準」という。)及び「官庁施設の総合耐震診断・改修基準及び同解説」(以下「改修基準」という。)を制定するとともに、総合的な耐震化対策の一環として、耐震安全性が確保されていない既存の官庁施設についても計画的な耐震化対策を実施することとした。
ア 計画基準
(ア)計画基準では、各施設の構造体(壁、柱等)、建築非構造部材(外壁、建具、天井材等)、建築設備(自家発電設備、消化設備等)について、表1のとおり、大地震動に対して施設が持つべき耐震安全性の目標を定め、その確保を図ることとされている(以下、各分類に区分される施設を「I類施設」、「A類施設」等という。)。
部位
|
分類
|
耐震安全性の目標
|
構造体
|
I類
|
大地震動後、構造体の補修をすることなく建築物を使用できることを目標とし、人命の安全確保に加えて十分な機能確保が図られている。 |
II類
|
大地震動後、構造体の大きな補修をすることなく建築物を使用できることを目標とし、人命の安全確保に加えて機能確保が図られている。 | |
III類
|
大地震動により構造体の部分的な損傷は生じるが、建築物全体の耐力の低下は著しくないことを目標とし、人命の安全確保が図られている。 | |
建築非構造部材
|
A類
|
大地震動後、災害応急対策活動や被災者の受け入れの円滑な実施、又は危険物の管理のうえで、支障となる建築非構造部材の損傷、移動等が発生しないことを目標とし、人命の安全確保に加えて十分な機能確保が図られている。 |
B類
|
大地震動により建築非構造部材の損傷、移動等が発生する場合でも、人命の安全確保と二次災害の防止が図られている。 | |
建築設備
|
甲類
|
大地震動後の人命の安全確保及び二次災害の防止が図られていると共に、大きな補修をすることなく、必要な設備機能を相当期間継続できる。 |
乙類
|
大地震動後の人命の安全確保及び二次災害の防止が図られている。 |
そして、構造体の分類別の耐震性能は、建築基準法上必要とされる耐震性能を1.0とした場合、これに重要度を表す係数(以下「重要度係数」という。)を乗じることにより定められており、I類施設の重要度係数は1.5、II類施設は1.25、III類施設は1.0となっている。
(イ)また、計画基準では、官庁施設は、被害を受けた場合の社会的影響及び地域的条件を考慮して、その機能により、表2のとおり、〔1〕災害応急対策活動に必要な施設、〔2〕避難所として位置づけられた施設、〔3〕人命及び物品の安全性確保が特に必要な施設、〔4〕その他に分類されている。
分類 | 活動内容 | 対象施設 | |||||||||||||||||||||
〔1〕災害応急対策活動に必要な施設 | 災害対策の指揮、情報伝達等のための施設 |
|
|
||||||||||||||||||||
・
指定地方行政機関のうち上記以外のもの及びこれに準ずる機能を有する機関が入居する施設
|
|||||||||||||||||||||||
救護施設 |
|
・
病院及び消防関係施設のうち災害時に拠点として機能すべき施設
|
|||||||||||||||||||||
・
病院及び消防関係施設のうち上記以外の施設
|
|||||||||||||||||||||||
〔2〕避難所として位置づけられた施設 | ・
被災者の受入れ等
|
・
学校、研修施設等のうち、地域防災計画において避難所として位置づけられた施設
|
|||||||||||||||||||||
〔3〕人命及び物品の安全性確保が特に必要な施設 | ・
危険物を貯蔵又は使用する施設
|
・
放射性物質若しくは病原菌類を貯蔵又は使用する施設及びこれらに関する試験研究施設
|
|||||||||||||||||||||
・
石油類、高圧ガス、毒物、劇薬、火薬類等を貯蔵又は使用する施設及びこれらに関する試験研究施設
|
|||||||||||||||||||||||
・
多数の者が利用する施設
|
・
文化施設、学校施設、社会教育施設、社会福祉施設等
|
||||||||||||||||||||||
〔4〕その他 | ・
一般官庁施設
|
(注) | 内は、防災拠点官庁施設を表す。 |
そして、災害応急対策活動のための施設のうち災害対策の指揮、情報伝達等のための施設(以下「防災拠点官庁施設」という。)については、大地震動に対してもその施設に必要とされる機能が確保できるようにするものとされており、入居する機関の別に次のとおり耐震安全性の分類を定めている。
〔1〕 内閣府、財務省、国土交通省、気象庁等の指定行政機関(注1) 、管区警察局、地方整備局、管区気象台等の指定地方行政機関(注2) のうち地方ブロック機関(注3) 並びに指定地方行政機関のうち東京圏、名古屋圏、大阪圏及び強化地域にある機関は、災害が発生した場合に、災害対策の指揮及び情報伝達の中枢的な機能を担うため、その入居する施設の耐震安全性はI類、A類、甲類に分類されている。
〔2〕 指定地方行政機関のうち〔1〕以外のもの及びこれに準ずる機関(注4) が入居する施設の耐震安全性はII類、A類、甲類に分類されている。
イ 改修基準
改修基準では、耐震診断結果に基づく評価及び緊急度に関する総合評価の方法が示されている。
このうち、構造体の耐震安全性については、表3のとおり、耐震性能が0.5未満である施設は人命の安全に対する危険性が高いa評価とされており、この場合、緊急度に関する総合評価において、緊急に改修等の措置を講ずる必要がある施設に位置付けられることになる。また、構造体の耐震安全性がb評価又はc評価の施設については、建築非構造部材及び建築設備についての耐震安全性の評価も勘案して、緊急度に関する総合評価がなされることとなる。そして、国土交通省では、この総合評価により耐震改修が必要と判断された場合には、診断結果を総合的に勘案しながら、経済性、施工性等を考慮して、最も効果的な方法により耐震改修を実施することとしている。
耐震性能
|
診断結果
|
評価
|
α<0.5
|
地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。 | a
|
0.5≦α<1.0
|
地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性がある。 | b
|
1.0≦α
かつ β<1.0 |
地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性は低いが、要求される機能が確保できないおそれがある。 | c
|
1.0≦β
|
地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性は低く、I類及びII類の施設では要求される機能が確保できる。 | d
|
(4)防災拠点官庁施設に係る耐震化対策
防災拠点官庁施設の耐震化対策は、昭和62年の計画標準の制定以降、国土交通省において実施されている。また、平成7年1月の阪神・淡路大震災を踏まえるなどして8年に制定された計画基準では、特に建築非構造部材及び建築設備に関する基準のレベルアップが図られるとともに、既存施設については、8年以前に設計、建築された官庁施設で所要の耐震安全性が確保されていない可能性のある施設は、施設の機能、社会的影響度等を考慮して重要度等の高い施設から優先的に耐震診断を実施することとされ、耐震診断の結果、耐震安全性が目標に達していないと判断された場合は、緊急度の高い施設から優先的に改修等の措置を講ずることとされている。
そして、12年に策定された第四次官庁施設整備10箇年計画等においては、既存庁舎の有効利用を図るため、総合的な耐震性能の向上及び防災拠点としての機能強化のための整備の実施等が掲げられており、地震防災機能が確保されていない既存の施設については、緊急度の高いものから計画的に必要な改修等を実施することとされている。
また、社会資本整備重点計画法(平成15年法律第20号)に基づき、国土交通大臣が重点的、効果的かつ効率的な社会資本整備を推進するために作成した社会資本整備重点計画(平成15年10月閣議決定)では、「大規模な地震、火災に強い国土づくり」が重点目標の一つに掲げられ、安全で災害に強い国づくりに寄与するために、災害時においてもその機能を十分発揮できるように、総合的な耐震性能の確保を図り、さらに、既存施設においても、計画的な耐震診断を実施し、地震防災機能が確保されていない施設については、所要の施設整備を計画的に推進することとされている。
(5)耐震化対策の予算等
国土交通省が行う官庁施設の新築、修繕等は官庁営繕費等により実施されており、耐震化対策については、官庁施設の適切な機能更新と有効活用を図るための修繕及び改善のための事業である施設特別整備の一環として耐震対策等施設整備費により実施されている。
官庁営繕費及び耐震対策等施設整備費の予算額並びに耐震改修に係る事業費の推移をみると表4のとおりとなっており、官庁営繕費に占める耐震対策等施設整備費の割合は7年度は阪神・淡路大震災の影響により、18.4%となっているが、8年度以降は3.0%から12.9%にとどまっている。
年度
\
区分 |
7
|
8
|
9
|
10
|
11
|
12
|
13
|
14
|
15
|
16
|
計
|
官庁営繕費(補正後) | 90,526
|
39,673
|
25,618
|
46,934
|
43,128
|
44,715
|
52,339
|
41,023
|
24,433
|
26,400
|
434,794
|
耐震対策等施設整備費(補正後) | 16,637
|
5,125
|
1,211
|
1,625
|
4,265
|
1,353
|
4,074
|
5,159
|
2,927
|
2,697
|
45,077
|
官庁営繕費に占める耐震対策等施設整備費の割合(補正後) | 18.4%
|
12.9%
|
4.7%
|
3.5%
|
9.9%
|
3.0%
|
7.8%
|
12.6%
|
12.0%
|
10.2%
|
\
|
耐震改修に係る事業費 | 5,554
|
11,586
|
1,488
|
4,251
|
990
|
2,926
|
3,194
|
4,014
|
5,661
|
2,643
|
42,310
|
2 検査の結果
官庁施設の震災等に対する防災対策、施設の長期有効活用のための対策は、国土交通省において重点的に取り組むべき喫緊の課題の一つであるとされている。また、国土交通省では、阪神・淡路大震災を契機とした建築審議会の答申において、地震防災機能確保のための基準の策定、既存施設の改修等の推進等の提言がなされたことなどを踏まえ、8年10月に計画基準及び改修基準を制定し、これらの基準に基づく総合的な耐震性能の確保及び既存施設の計画的な診断並びに所要の改修整備を推進する必要があるとしている。
また、上記建築審議会の答申において、防災拠点となる官公庁施設整備の基本的課題として、災害対策活動施設等の整備に当たっては、地震防災機能の確保のための投資を効果的に実施するため、重要な部分に重点的・効率的な投資を行う必要があるとされている。
そして、耐震化対策は、前記のように官庁営繕費のうちの限られた耐震対策等施設整備費で実施されているが、その実施状況は必ずしも明らかになっていない状況である。
このような状況を踏まえ、国土交通省が実施している既存の防災拠点官庁施設に係る耐震化対策について、実施状況を明らかにするとともに、〔1〕診断及び改修が計画的に実施されているか、〔2〕改修に当たっては、施設の重要度、緊急度等が考慮され、効率的な改修が実施されているか、〔3〕改修が実施された施設について所要の耐震性能が確保されているかなどに着眼して検査を実施した。
国土交通省官庁営繕部、東北地方整備局ほか7地方整備局(注5) 、北海道開発局及び内閣府沖縄総合事務局(以下、これらを合わせて「地方整備局等」という。)において、16年度末までに官庁営繕費等によって整備された施設のうち、施設の延べ床面積が200m2 以上の防災拠点官庁施設は966棟(I類施設161棟、II類施設805棟)であり、これらを対象に検査を実施した。
(1)耐震化対策の実施状況
ア 耐震診断の実施状況
(ア)耐震診断の実施状況は、図1のとおり、構造体についてはI類施設、II類施設ともほぼ終了しており、未診断施設はわずかとなっている。
しかし、地方整備局等が実施した耐震診断の結果が管理官署に提示されるまでに5年以上の期間を要していたり、5年以上経過してもいまだに提示されていなかったりする事態が見受けられた。
また、建築非構造部材及び建築設備については、I類施設ではそれぞれ53%、54%、II類施設ではいずれも58%が診断済みとなっているが、計画標準制定(昭和62年)以降、構造体についての耐震診断が優先されてきたことなどから構造体に比べて未診断施設の割合がかなり高くなっている。
そして、耐震診断が実施された施設の診断結果についてみると、建築非構造部材、建築設備共に改修が必要な施設の割合が高く、建築設備に関してはその状況がより顕著になっていることなどから、未診断施設の中には改修が必要とされる施設が多数残されていると思料される。
図1 耐震診断状況
イ 耐震改修の実施状況
(ア)構造体の耐震改修
a 耐震改修状況
耐震診断の結果、構造体について耐震改修が必要とされた施設は、表5及び図2のとおり464棟あり、このうち耐震改修が実施された施設は全体で154棟、改修率は33%となっている。
また、大規模な地震による著しい災害が想定されている強化地域及び推進地域における耐震改修状況をみると、耐震診断の結果、構造体に関する耐震改修が必要とされた施設は、それぞれ28棟、139棟あり、そのうち改修が実施された施設の棟数及び改修率は、強化地域において11棟、39%、推進地域において49棟、35%と全体の改修率よりは高い状況となっている。
しかし、施設の耐震安全性の分類別に改修率をみると、全体ではI類施設35%、II類施設33%となっているのに対し、強化地域においてはI類施設17%、II類施設56%、推進地域においてはI類施設24%、II類施設38%となっていて、防災上より重要な機能を担うこととなるI類施設の改修率がII類施設に比べて低くなっている。
区分
\
分類 |
全体
|
強化地域
|
推進地域
|
||||||
I類
|
II類
|
計
|
I類
|
II類
|
計
|
I類
|
II類
|
計
|
|
耐震診断済み棟数(A) | 117
|
540
|
657
|
12
|
23
|
35
|
32
|
163
|
195
|
改修が必要な棟数(B) | 97
|
367
|
464
|
12
|
16
|
28
|
25
|
114
|
139
|
改修済み棟数(C) | 34
|
120
|
154
|
2
|
9
|
11
|
6
|
43
|
49
|
改修率(C)/(B) | 35%
|
33%
|
33%
|
17%
|
56%
|
39%
|
24%
|
38%
|
35%
|
図2 構造体の改修状況
b 緊急度による耐震改修状況
改修基準では、前記のとおり、構造体の耐震安全性の評価により、改修の緊急度が評価されることになっている。
そこで、緊急度ごとに改修状況をみたところ、表6及び図3のとおり、II類施設については、a評価を受けた施設の改修率は45%、b評価を受けた施設の改修率は35%、c評価を受けた施設の改修率は4%となっていて、より緊急度の高い施設の改修率が高くなっている。
しかし、防災上より重要な機能を担うこととなるI類施設については、a評価及びb評価を受けた施設の改修率はそれぞれ36%となっており、緊急度の高いa評価を受けた施設の耐震改修が優先されている状況とはなっていない。
また、強化地域及び推進地域におけるI類施設でa評価を受けた施設の改修率は、それぞれ20%、22%となっている。
区分
\ 耐震安全性の評価
\分類 |
全体
|
強化地域
|
推進地域
|
|||||||||||||||
I類
|
II類
|
I類
|
II類
|
I類
|
II類
|
|||||||||||||
a
|
b
|
c
|
a
|
b
|
c
|
a
|
b
|
c
|
a
|
b
|
c
|
a
|
b
|
c
|
a
|
b
|
c
|
|
改修が必要な棟数(A) | 45
|
36
|
13
|
113
|
183
|
69
|
10
|
1
|
1
|
5
|
6
|
5
|
18
|
4
|
2
|
34
|
67
|
13
|
改修済み棟数(B) | 16
|
13
|
2
|
51
|
64
|
3
|
2
|
0
|
0
|
3
|
5
|
1
|
4
|
0
|
1
|
13
|
29
|
1
|
改修率(B)/(A) | 36%
|
36%
|
15%
|
45%
|
35%
|
4%
|
20%
|
0%
|
0%
|
60%
|
83%
|
20%
|
22%
|
0%
|
50%
|
38%
|
43%
|
8%
|
図3 構造体の緊急度による耐震改修状況
c 改修後の耐震安全性の状況
構造体について耐震改修を実施してもなお計画基準で定められている所要の耐震性能が確保されていない施設は、表7のとおり、改修済み棟数154棟のうちの約3分の1に当たる51棟(I類施設19棟、II類施設32棟。耐震改修に要した費用188億2079万余円)となっている。
また、強化地域及び推進地域において所要の耐震性能が確保されていない施設の割合は、強化地域45%、推進地域35%となっている。
なお、上記の51棟については、所要の耐震性能を確保するための具体的な計画を立てている施設はほとんどない状況となっている。
\
|
分類
|
改修済み棟数
(A) |
耐震改修の結果の内訳
|
|||||
所要の耐震性能が確保されている棟数(B) | 耐震改修後においても所要の耐震性能が確保されていない棟数(C) | |||||||
割合
(B)/(A) |
割合
(C)/(A) |
現行の建築基準法上必要とされる耐震性能が確保されている棟数 | 現行の建築基準法上必要とされる耐震性能が確保されていない棟数 | |||||
全体 | I類
|
34
|
15
|
44%
|
19
|
56%
|
16
|
3
|
II類
|
120
|
88
|
73%
|
32
|
27%
|
17
|
15
|
|
計
|
154
|
103
|
67%
|
51
|
33%
|
33
|
18
|
|
うち強化地域 | I類
|
2
|
0
|
0%
|
2
|
100%
|
2
|
0
|
II類
|
9
|
6
|
67%
|
3
|
33%
|
3
|
0
|
|
計
|
11
|
6
|
55%
|
5
|
45%
|
5
|
0
|
|
うち推進地域 | I類
|
6
|
2
|
33%
|
4
|
67%
|
4
|
0
|
II類
|
43
|
30
|
70%
|
13
|
30%
|
5
|
8
|
|
計
|
49
|
32
|
65%
|
17
|
35%
|
9
|
8
|
<事例> 耐震改修後においても所要の耐震性能が確保されていない施設
A施設 | 建築年次 | 昭和42年 |
構造 | 鉄筋コンクリート造 地上4階建 | |
延べ床面積 | 5,356m2 | |
分類 | I類—A類—甲類 |
A施設に入居する機関は、防災気象情報や津波予報及び地震・津波情報等が防災活動に有効に利用されるよう、これらの情報を報道機関を通じて防災関連機関や住民へ迅速に提供することを主な業務としている。
A施設については平成11年度に構造体の耐震診断を実施し、診断結果に基づいて12、13両年度に耐震改修を実施しているが、計画基準で求められているI類施設としての所要の耐震性能を確保するまでの改修を行うと執務室の環境悪化や狭あい化により通常業務に支障が生じることが懸念されたことから、当該機関との調整が整わず、十分な耐震改修が実施されていない。その結果、I類施設としての所要の耐震性能が確保されていないばかりでなく、現行の建築基準法上必要とされる耐震性能さえも確保されていない。なお、建築非構造部材については、耐震診断すら実施していない。
したがって、大規模地震が発生した場合には、情報伝達等の災害応急対策活動に対応できないおそれがある。
d 管理官署の認識等
上記のように、構造体の耐震改修状況において、強化地域及び推進地域のI類施設における改修率がII類施設よりも低く、また、緊急度による耐震改修状況において、I類施設でa評価を受けた施設の改修がb評価を受けた施設よりも優先されていないのは、強化地域及び推進地域におけるI類施設においてはa評価を受けている施設の割合が多いこと、さらにI類施設については求められる耐震性能が高いことなどから、耐震改修に当たっては大規模なものとなることが多いため、管理官署等との調整を図ることが難しいことなどによると思料される。
また、耐震改修後においても所要の耐震性能が確保されていない施設が、耐震改修を実施した施設の約3分の1に上ることから、これらの施設を管理する44官署を抽出して、その理由等について調査したところ、管理官署において、図4のとおり、改修工事後も所要の耐震性能が確保されていないと認識しているものが50%ある一方で、誤って、改修工事により所要の耐震性能が確保されたと認識しているものが30%となっているなど、耐震改修の内容が管理官署に対して周知されていない状況もうかがえた。
図4 耐震改修後においても所要の耐震性能が確保されていない施設の管理官署における現況施設の把握状況
そして、改修工事後においても所要の耐震性能が確保されていないと認識している官署の多くは、その理由として、施設の構造等の技術的な事項や予算の制約等を挙げている。しかし、執務室の環境悪化等により通常業務に支障が生じることや、現行の建築基準法上必要とされる耐震性能は確保されていることから現状の耐震改修で了としている官署も3割近くとなっており、これらは、防災拠点官庁施設としての認識が欠如していると思料される。
図5 所要の耐震性能が確保されていない理由
e 未改修施設の耐震安全性と管理官署の認識
耐震診断の結果、構造体について耐震改修が必要とされた施設で、16年度末までに耐震改修が実施されていない施設は、表8のとおり、全体でI類施設63棟、II類施設247棟、計310棟あり、その多くが建築年次が昭和55年以前であるため、新耐震設計手法が導入されておらず、現行の建築基準法上必要とされる耐震性能も確保されていない状況となっている。
このうち、I類施設では、63棟のうち約半数の29棟がa評価を受けており、前記の改修基準によれば、地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高いもので、総合評価においても緊急に改修等の措置を講ずる必要があるとされている。
また、強化地域及び推進地域におけるI類施設については、それぞれ10棟のうち8棟、19棟のうち14棟がa評価を受けている。
\
|
分類
|
未改修施設の棟数
(A) |
現行の建築基準法上必要とされている耐震性能が確保されていない施設の割合
(B+C)/(A) |
|||
耐震診断による耐震安全性の評価
|
||||||
a評価
|
b評価
|
c評価
|
||||
(α<0.5)
(B) |
(0.5≦α<1.0)
(C) |
(1.0≦α)かつ
(β<1.0) (D) |
||||
全体 | I類
|
63
|
29
|
23
|
11
|
83%
|
II類
|
247
|
62
|
119
|
66
|
73%
|
|
計
|
310
|
91
|
142
|
77
|
75%
|
|
うち強化地域 | I類
|
10
|
8
|
1
|
1
|
90%
|
II類
|
7
|
2
|
1
|
4
|
43%
|
|
計
|
17
|
10
|
2
|
5
|
71%
|
|
うち推進地域 | I類
|
19
|
14
|
4
|
1
|
95%
|
II類
|
71
|
21
|
38
|
12
|
83%
|
|
計
|
90
|
35
|
42
|
13
|
86%
|
そして、未改修施設の耐震改修に当たっては、管理官署等の理解が必要不可欠であることなどから、いまだ改修が実施されていない施設を管理する119官署を抽出して、耐震改修の必要性に対する認識等について調査したところ、耐震改修の必要性を認識しているものがその多くを占めていた。しかし、図6のとおり、診断結果の提示を受けていないので耐震改修の要否が不明というもの、耐震改修の必要性を認識していないというもの、また、誤って、既に耐震改修が実施されていると認識しているものも見受けられた。
また、耐震改修が実施されていない主な理由としては、予算の制約や移転又は建て替えの可能性を挙げる官署が多かった。しかし、図7のとおり、執務室の環境悪化等により通常業務に支障が生じることや、現行の建築基準法上必要とされる耐震性能は確保されていることを挙げている官署もあり、これらは、防災拠点官庁施設としての認識が欠如していると思料される。
図6 耐震改修が実施されていない施設の管理官署における現況施設の把握状況
図7 改修が実施されていない理由
f 所要の耐震性能が確保されている施設の状況
防災拠点官庁施設について、耐震診断に基づく耐震化対策の実施や施設の建て替え等により、構造体において所要の耐震性能が確保されている施設は、表9のとおり、全体で61%(I類施設47%、II類施設64%)となっているが、防災上より重要な機能を担うI類施設についてはその割合がII類施設より低くなっている。
また、強化地域及び推進地域においても同様に、I類施設、II類施設を合わせた全体では、それぞれ61%、63%となっているが、防災上より重要な機能を担うI類施設のうち所要の耐震性能が確保されているものの割合はそれぞれ8%、40%と低くなっている。
\
|
分類別の棟数 (A) |
計画標準制定(昭和62年)以降に建築されたため、構造体の耐震診断が不要とされた棟数
(B) |
耐震診断の結果、構造体の改修が不要とされた棟数
(C) |
耐震改修の結果、所要の耐震性能が確保されている施設の棟数
(D) |
構造体の所要の耐震性能が確保されている施設 | ||
棟数
(E)=(B)+(C)+(D) |
割合
(E)/(A) |
||||||
全体 | I類
|
161
|
40
|
20
|
15
|
75
|
47%
|
II類
|
805
|
254
|
173
|
88
|
515
|
64%
|
|
計
|
966
|
294
|
193
|
103
|
590
|
61%
|
|
うち強化地域 | I類
|
13
|
1
|
0
|
0
|
1
|
8%
|
II類
|
43
|
20
|
7
|
6
|
33
|
77%
|
|
計
|
56
|
21
|
7
|
6
|
34
|
61%
|
|
うち推進地域 | I類
|
42
|
8
|
7
|
2
|
17
|
40%
|
II類
|
263
|
95
|
49
|
30
|
174
|
66%
|
|
計
|
305
|
103
|
56
|
32
|
191
|
63%
|
(イ)建築非構造部材及び建築設備の耐震改修
耐震診断の結果、建築非構造部材及び建築設備の耐震改修が必要とされた施設の改修状況を構造体の分類別にみると、表10のとおり、全体ではI類施設に係る建築非構造部材及び建築設備の改修率はそれぞれ28%、29%となっており、II類施設の22%、18%を上回っている。また、強化地域及び推進地域における状況をみると、建築設備の改修率は、II類施設ではそれぞれ30%、25%、II類施設ではそれぞれ25%、19%となっており、全体での状況と同様な傾向にあるが、建築非構造部材の改修率は、I類施設ではそれぞれ22%、24%となっているのに対してII類施設ではそれぞれ29%、32%となっており、防災上より重要な機能を担うI類施設に係る改修率が低くなっている。
\
|
構造体の分類
|
耐震診断済み施設のうち改修が必要な棟数(A)
|
改修済み棟数(B)
|
改修率(B)/(A)
|
|
全体 | 建築非構造部材
(A類) |
I類
|
50
|
14
|
28%
|
II類
|
183
|
41
|
22%
|
||
計
|
233
|
55
|
24%
|
||
建築設備
(甲類) |
I類
|
63
|
18
|
29%
|
|
II類
|
261
|
46
|
18%
|
||
計
|
324
|
64
|
20%
|
||
うち強化地域 | 建築非構造部材
(A類) |
I類
|
9
|
2
|
22%
|
II類
|
7
|
2
|
29%
|
||
計
|
16
|
4
|
25%
|
||
建築設備
(甲類) |
I類
|
10
|
3
|
30%
|
|
II類
|
12
|
3
|
25%
|
||
計
|
22
|
6
|
27%
|
||
うち推進地域 | 建築非構造部材
(A類) |
I類
|
17
|
4
|
24%
|
II類
|
57
|
18
|
32%
|
||
計
|
74
|
22
|
30%
|
||
建築設備
(甲類) |
I類
|
16
|
4
|
25%
|
|
II類
|
78
|
15
|
19%
|
||
計
|
94
|
19
|
20%
|
(ウ)総合的な耐震化対策の実施状況
上記(ア)及び(イ)により、構造体、建築非構造部材及び建築設備の耐震化の状況をみると、検査の対象とした防災拠点官庁施設966棟については表11及び図8のとおり、構造体に関しては必要とされる耐震性能が確保されている施設は61%となっているが、建築非構造部材、建築設備に関して耐震性能が確保されている施設はそれぞれ49%、41%となっている。また、構造体、建築非構造部材及び建築設備のいずれに関しても耐震性能が確保されている施設は、I類施設で24%、II類施設で34%となっている。
また、強化地域のI類施設13棟について構造体、建築非構造部材及び建築設備のいずれに関しても耐震性能が確保されている施設はなく、大規模地震が発生した場合、災害応急対策活動に十分対応できないおそれがあると認められる。
\
|
分類別棟数
|
必要とされる耐震性能が確保されている棟数
|
||||||||
構造体について耐震性能が確保されている棟数 | 建築非構造部材について耐震性能が確保されている棟数 | 建築設備について耐震性能が確保されている棟数 | 構造体、建築非構造部材、建築設備のすべてにおいて耐震性能が確保されている棟数 | |||||||
全体 | I類
|
161
|
75
|
47%
|
62
|
39%
|
54
|
34%
|
38
|
24%
|
II類
|
805
|
515
|
64%
|
413
|
51%
|
343
|
43%
|
272
|
34%
|
|
計
|
966
|
590
|
61%
|
475
|
49%
|
397
|
41%
|
310
|
32%
|
|
うち強化地域 | I類
|
13
|
1
|
8%
|
4
|
31%
|
4
|
31%
|
0
|
0%
|
II類
|
43
|
33
|
77%
|
25
|
58%
|
21
|
49%
|
18
|
42%
|
|
計
|
56
|
34
|
61%
|
29
|
52%
|
25
|
45%
|
18
|
32%
|
|
うち推進地域 | I類
|
42
|
17
|
40%
|
15
|
36%
|
15
|
36%
|
11
|
26%
|
II類
|
263
|
174
|
66%
|
177
|
67%
|
154
|
59%
|
118
|
45%
|
|
計
|
305
|
191
|
63%
|
192
|
63%
|
169
|
55%
|
129
|
42%
|
図8 総合的な耐震化対策の実施状況
(2)耐震改修計画
上記のとおり、防災拠点官庁施設の耐震化対策の実施状況は、必ずしも施設の重要度、緊急度等を考慮した計画的、効率的なものとはなっていない。
そして、社会資本整備重点計画においては、平成14年度に66%となっている防災拠点官庁施設の耐震対策化率を19年度までに69%とする指標が示されているが、この目標値は、14年度時点で近年の実績を基に今後5年間の目標を設定したものであり、必ずしも耐震診断の結果等を基に施設の重要度、緊急度、地域性等を総合的に勘案したものとなっていない。
3 本院の所見
官庁施設の耐震化対策については、従前から国土交通省において実施されており、特に昭和62年以降は、防災拠点となる官庁施設の震災時における災害対策活動上の役割の重要性にかんがみ、防災拠点官庁施設に係る耐震化対策が実施されてきている。そして、厳しい財政状況の下、限られた予算の中で耐震化対策を効果的に推進していくためには、事業の重点的、効率的な実施が不可欠である。
しかし、今回、防災拠点官庁施設に係る耐震化対策の実施状況について検査したところ、全国的に、また、耐震化対策の強化、推進が求められる強化地域及び推進地域においても、防災拠点官庁施設としての重要度がより高い施設が未改修であったり、緊急度のより高い施設の改修が優先されていなかったりする事態、耐震改修は実施されたもののその施設に必要とされる耐震性能が確保されていない事態、構造体、建築非構造部材及び建築設備の改修が計画的に実施されていない事態、管理官署に対して施設の現状や耐震改修の内容等が十分に周知されていない事態等が見受けられた。
このように防災拠点官庁施設の耐震化対策が必ずしも計画的、効率的に実施されていない事態は、震災時において、災害対策の指揮、情報伝達等の災害応急対策活動に対応できなかったり、防災拠点官庁施設の機能を十分に発揮できなかったりするおそれがあり、状況によっては人命の安全に対する危険性も憂慮されるものと認められる。
したがって、防災拠点官庁施設の耐震化対策の実施に当たっては、今後、公共事業費が縮減されている状況の下、施設の重要度、緊急度等を勘案しながら、官庁営繕費のより一層の重点的・効率的な予算執行を行うことが重要である。そして、効率的な耐震改修を実施するためには、各省各庁及び各施設の管理官署等の耐震化対策に対する理解及び協力が必要不可欠であることなどから、各省各庁及び管理官署等においては、防災拠点官庁施設の耐震化の重要性及び必要性を今まで以上に強く認識し、国土交通省と相互の連携、調整を図ることが必要である。
ついては、次のような方策を講じ、防災拠点官庁施設としての耐震性能を確保するための耐震化対策が確実に推進されることが肝要である。
ア 既存の防災拠点官庁施設について重点的・効率的な耐震化対策を実施するため、国土交通省において、具体的な中長期計画等を定めること。特に、大規模な地震による著しい災害が想定されている強化地域、推進地域の施設でより重要度が高いI類施設及び防災拠点官庁施設の中でも特に重要な機能を担うこととなるI類施設において、緊急度が高いにもかかわらずいまだ耐震化対策の実施されていない施設については、管理官署と調整の上、耐震改修に着手するなど、施設の重要度、緊急度等を総合的に勘案して耐震化対策を実施すること
イ 耐震改修に当たっては、防災拠点官庁施設としての機能確保を図るため、国土交通省において、耐震改修を実施した施設が所要の耐震性能を確保できるよう計画基準・改修基準に沿った耐震改修を実施すること。また、構造体のみならず、建築非構造部材及び建築設備についても施設の重要度、緊急度等を勘案の上、計画的に耐震改修を行うことなどにより防災拠点官庁施設としての機能が総合的に確保できるようにすること
ウ 建築非構造部材及び建築設備の耐震診断を早急に実施すること。また、診断結果を速やかに提示し、国土交通省において、管理官署等に対し、施設の現状等を周知し、耐震化対策の必要性についての認識を高めるよう努めること