検査対象 | 農林水産省、北海道ほか28県、社団法人全国農地保有合理化協会 |
会計名 | 農業経営基盤強化措置特別会計 |
設置の根拠 | 農業経営基盤強化措置特別会計法(昭和21年法律第44号) |
支出済歳出額 | 432億円(平成16年度) |
決算剰余金 | 807億円(平成16年度) |
積立金 | 163億円(平成16年度末) |
上記の協会の基金における預金及び債券残高 | 494億円(平成16年度末) |
1 検査の背景
農林水産省では、農業経営基盤の強化に資するための農地保有合理化措置(自作農創設のため国の行う土地等の買収、売渡し、賃貸等及び農地保有合理化事業等に係る補助金の交付等)、農業経営の改善等に資するための農業改良資金の貸付け及び青年等の就農促進を図るための就農支援資金の貸付けに関する経理を一般会計と区分して行うため農業経営基盤強化措置特別会計(以下「基盤特会」という。)を設置し、運営している。
基盤特会における歳入は、農業改良資金貸付金の償還金、農地保有合理化事業に関する貸付金の償還金等であり、平成13年度までは一般会計からの繰入れも行われていた。歳出は、農業改良資金貸付金、就農支援資金貸付金、農地保有合理化事業に係る補助金等、事務取扱費等であり、基盤特会の歳入歳出決算の推移は、表1のとおりで、毎年度多額の決算剰余金(収納済歳入額と支出済歳出額の差額)が発生している。
表1 歳入歳出決算の推移 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||
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これを項別歳出予算現額、支出済歳出額等でみると、表2のとおり、(項)農地保有合理化促進対策費は、毎年度支出済歳出額合計の9割近くを占め、(項)農業改良資金貸付金の支出済歳出額はその歳出予算現額の数%という非常に低い執行率となっている。
表2 項別歳出予算現額、支出済歳出額及び不用額 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(上段:歳出予算現額、中段:支出済歳出額、下段:不用額、単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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また、基盤特会における歳入のうち、農業改良資金貸付金の償還金の額に相当する金額は、農業経営基盤強化措置特別会計法(昭和21年法律第44号。以下「基盤特会法」という。)第2条第2項によると、同貸付金の貸付財源に充てることとされている。ただし、都道府県が行う農業改良資金の貸付事業の実施状況に照らしその必要がないと認められる範囲内の金額については、この限りではないとされている。そして、基盤特会法第8条の規定によると、基盤特会において決算上剰余を生じたときは、これを翌年度の歳入に繰り入れることとされているが、同条のただし書きにおいて、当該剰余金から政令で定める金額を控除した金額は、予算で定めるところにより、一般会計の歳入に繰り入れることができるとされている。しかし、この政令は定められておらず、一般会計への繰入れは行われていない。基盤特会で実施されている業務は次のとおりとなっている。
(1)自作農創設特別措置
自作農創設特別措置については、自作農創設のため国の行う農地、未墾地等の買収、売渡し、賃貸等の経理を一般会計と区分して昭和21年に設けられた自作農創設特別措置特別会計において行っていたが、農地等の売買に伴う差益が同特別会計に累積し、相当額の剰余金を保有するに至った。そこで、この剰余金を、農地保有の合理化のための施策に活用し、同施策に係る経理を一般会計と区分して行えるよう同特別会計制度を改組し、60年度から基盤特会で経理されることとなったものである。その際、基盤特会法附則第3条第1項の規定により、自作農創設特別措置特別会計の59年度決算で生じた剰余金326億4518万円を引き継ぎ積立金とし、財政融資資金に預託して運用されている。
(2)農業改良資金
農林水産省では、農業改良資金助成法(昭和31年法律第102号)等の規定に基づき、農業者等における農業経営の改善等に必要な資金の貸付けを行う都道府県に対して、当該貸付けに必要な資金の3分の2を助成している。この助成は、制度が創設された31年度から59年度までは、当該額を国庫補助金として一般会計から交付することにより、60年度以降は、当該額を基盤特会から無利子で貸し付けることにより行われている。そして、59年度までに補助金として交付された計698億0952万円及び60年度から平成12年度までの間に一般会計より繰り入れられた計529億4961万円並びに昭和61、62両年度に「農業改良資金助成法による貸付金等の財源に充てるための日本中央競馬会の国庫納付金の納付等に関する臨時措置法」(昭和61年法律第36号)に基づき日本中央競馬会から納付を受けた300億円の計1527億5913万円を貸付財源としている。また、平成16年度末における国庫補助金の交付残高は307億7963万円、農業改良資金貸付金(以下「政府貸付金」という。)の貸付残高は25億2472万円となっている。政府貸付金の償還期間は、6年以内の据置期間を含む13年以内となっている。
都道府県は、政府貸付金及び国庫補助金に自己の拠出金等を合わせて農業改良資金の貸付原資として資金を造成し、農業者等に対して必要な資金を無利子で貸し付けている。
農業改良資金助成法等によると、都道府県における農業改良資金の貸付事業は、都道府県の一般会計と区分して特別会計で経理することとされている。また、農業改良資金の貸付財源に余裕がある場合等には、政府貸付金について繰上償還を行ったり、国庫補助金相当額について国に自主的に納付したりすることができることとなっている。都道府県は、毎年度、農業者等に対する貸付総額の上限を貸付枠として設定するなどした農業改良資金貸付事業計画を策定し、地方農政局長等の承認を受けることとなっている。
そして、14年度には、従来5種類あった資金種類を、農業の担い手が加工分野・新作物分野・新技術に取り組むための資金に一本化したり、都道府県からの直接貸付けに加え、農協等の民間金融機関が都道府県から資金を借り入れて農業者等に貸し付ける方式を追加したりするなど全面的な改正が行われている。
上記のような農業改良資金の貸付けの仕組みを図に示すと図1のとおりである。
図1 農業改良資金の貸付けの仕組み
(3)就農支援資金
農林水産省では、「青年等の就農促進のための資金の貸付け等に関する特別措置法」(平成7年法律第2号。以下「青年等就農促進法」という。)等の規定に基づき、就農計画の認定を受けた認定就農者等の新規就農に必要な資金の貸付けを行う都道府県に対して、当該貸付けに必要な資金の3分の2を助成している。この助成は、制度が創設された6年度以降、当該額を無利子で貸し付けることにより行われている。そして、12年度までに一般会計より108億6881万円が基盤特会に繰り入れられ、これを都道府県への貸付財源としている。また、16年度末における都道府県への就農支援資金政府貸付金(以下「就農政府貸付金」という。)の貸付残高は165億6306万円となっている。就農政府貸付金の基盤特会への償還期間は、10年以内の据置期間を含む21年以内となっている。
都道府県は、就農政府貸付金に自己の拠出金等を合わせて就農支援資金として資金を造成し、認定農業者等に対して必要な資金を無利子で貸し付けている。
(4)農地保有合理化促進対策
農林水産省では、農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)等の規定に基づき、農業経営の規模拡大、農地の集団化その他農地保有の合理化を促進するため、農地保有合理化法人に対し、農用地等の買入れ及び小作料一括前払いに要する借入資金の利子相当額の一部並びに規模拡大の際に必要となる農業用機械等の導入に要する経費等について都道府県を通じて補助金を交付している。
また、社団法人全国農地保有合理化協会(以下「全国協会」という。)に対し、農地保有合理化法人が農用地等を買い入れる際に必要な資金の一部を全国協会が無利子で貸し付けるのに要する経費等について補助金を交付している。
なお、ウルグアイ・ラウンド関連農業農村整備緊急特別対策等の一環として、昭和63年度に農地流動化緊急対策事業、平成7年度に債務保証事業が創設され、このための費用として、一般会計より49億2000万円が基盤特会に繰り入れられた。
さらに、経営体育成基盤整備事業等の国庫補助事業を行う際の農家負担金の一部について無利子で貸付けを行う農林漁業金融公庫及び沖縄振興開発金融公庫(以下「農林公庫等」という。)に対して資金の貸付けを行うなどしている。
そして、これらに関する財源として、13年度までに一般会計より1174億8305万円が基盤特会に繰り入れられている。
(1)農家戸数の推移
16年に総農家戸数は、293万戸となり、このうち販売農家(農産物販売金額が年間50万円以上の農家等)は216万戸で、販売農家戸数は総農家戸数を上回る率で減少している。特に、主業農家(農業所得が主で65歳未満の農業従事者がいる農家)は2年当時(82万戸)の52.9%(43.4万戸)と著しく減少している。
(2)農業労働力の高齢化
16年の農家人口(販売農家)は940万人(前年比2.6%減)となり、農業就業人口、基幹的農業従事者も引き続き減少し、農家人口、農業就業人口及び基幹的農業従事者に占める65歳以上の者の割合は上昇を続けていて、高齢化が著しく進行している。
(3)農業所得等の推移
15年の販売農家1戸当たりの農業粗収益は、358万5千円(前年比3.3%増)で、農業経営費は248万2千円(同1.4%増)であったことから、農業粗収益から農業経営費を控除した農業所得は110万3千円(同8.3%増)となっている。これは、農林水産省の調査によれば、15年の冷夏等の影響により農産物価格が上昇したこと等によるものである。しかし、農外所得等を含めた農家総所得は771万2千円で9年以降7年連続で減少している。
2 検査の着眼点及び対象
基盤特会においては、前記のとおり毎年度多額の決算剰余金が発生しており、また、本院では、農林水産省に対し10年に、農業改良資金に関し多額の決算剰余金が発生している事態について注意を喚起したところであるが、農林水産省では、今後、農業改良資金の貸付け促進等の措置を講じることなどにより資金需要が拡大し、ひいては政府貸付金の需要が増大すると考えられるとしていた。しかし、その後も前記のように農家戸数、農家総所得の減少、農業従事者の高齢化、後継者不足と農業を巡る環境は依然として厳しい状況が続き、資金需要が拡大する環境には至っていないと考えられる。
さらに、14年において、同様に多額の決算剰余金が発生している状況を、特定検査対象に関する検査状況「特別会計の決算分析について」として平成13年度決算検査報告に掲記したところである。
そこで、多額の決算剰余金が発生している要因を分析するため、農業改良資金の貸付状況等の推移、農地保有合理化促進対策の執行状況等を検査し、改めて貸付財源としての政府貸付金、補助金等が効率的に活用されているかなどに着眼して検査を実施した。
主に11年度から16年度までの、基盤特会全般及び全国の状況については農林水産省において、都道府県段階における農業改良資金及び就農支援資金の貸付状況等については北海道ほか28県(注)において、また、農地保有合理化促進対策の執行状況については全国協会等において検査を実施した。
3 検査の状況
(1)自作農創設特別措置について
自作農創設特別措置としては、自作農創設のため16年度末までに農地200万ha、牧野50万haの買収等を行い、16年度末で国有農地等673haを残して売渡しなどを行ったほか、未墾地についても150万haの買収・所管換等を行い、16年度末で開拓財産4,353haを残して開拓の用に供している。16年度における農地及び未墾地の買収面積は0.1ha、売渡し面積は126.2haである。
また、積立金は、農地等の買収代金や農地保有の合理化に関する事業に対する助成の財源が不足する場合、その財源にこれを充てることとされていて、表3のとおり取り崩されてきており、16年度末現在163億4296万円となっている。
表3 積立金取崩額及び年度末現在額 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||
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(2)農業改良資金について
ア 都道府県における農業改良資金の貸付状況等
11年度から16年度までの都道府県における農業改良資金の貸付枠、貸付状況及び貸付金残高は、表4のとおりである。
表4 農業改良資金貸付実績等 | (単位:百万円、件) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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農業改良資金の貸付実績は、年々逓減傾向にあり、昭和60年度以降で最高の貸付実績を示した平成3年度の貸付金額464億3210万円に対して、16年度の貸付金額32億6358万円はその7.0%となっている。また、貸付枠に対する貸付実績についてみても最近5年間は15%未満で推移しており、16年度は7.3%と著しく低調となっている。
イ 政府貸付金の都道府県に対する貸付状況並びに貸付金及び補助金残高
11年度から16年度までの間の都道府県に対する政府貸付金の貸付状況及び都道府県における政府貸付金及び補助金残高は、表5のとおりである。
表5 政府貸付金の貸付実績等 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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農業改良資金の貸付実績が逓減傾向にあることに伴って、都道府県における政府貸付金の需要も低く、3年度の政府貸付金貸付金額90億4237万円に対して、16年度の貸付金額1億9218万円はその2.1%にすぎないものとなっている。そして、北海道を除く都府県においては、新たに政府貸付金の貸付けを受けず従前の国庫補助金、借入者からの償還金等を農業改良資金の貸付財源に充てている状況である。
ウ 政府貸付金に係る歳入予算額及び決算額
政府貸付金に係る歳入予算額及び決算額の状況は、表6のとおりであり、繰上償還額及び国庫補助金の自主納付額が収納済歳入額を大きく押し上げている。
表6 政府貸付金に係る歳入予算額及び収納済歳入額の状況 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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エ 政府貸付金に係る決算剰余金の発生状況
単年度における政府貸付金に係る決算剰余金は、表7のとおり毎年度多額に上り、決算剰余金は翌年度の政府貸付金の貸付財源等に充てられている。
表7 政府貸付金に係る決算剰余金の発生状況 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||
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また、政府貸付金として使用するために1527億5913万円が基盤特会に繰り入れられるなどしているが、このうち都道府県における16年度末政府貸付金等残高は333億0436万円と、その使用割合は21.8%と極端に低くなっている。
オ 道県に対する検査の結果
今回、検査を実施した29道県の農業改良資金の貸付状況等については、以下のとおりである。
(ア)農業改良資金制度の浸透度
農業改良資金制度は、昭和31年度の制度創設以来、数度の制度の再編・拡充を行ってきているが、各道県では、現在、表8のような方策により周知を行っていて、農業者等は無利子融資である同制度の存在を承知していると判断しているところである。また、いずれの道県においても、農業者等からの借入れ希望があった場合、速やかに対応できるよう、普及指導センター等に窓口を設置するなど体制整備を行っている。
表8 周知に関する方策の実施状況(複数回答) | ||||||||||||||||||
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(イ)道県における農業改良資金に係る貸付予算額、決算額及び貸付財源額の推移
a 貸付予算額及び決算額の推移
各道県ごとの農業改良資金に係る歳出決算額について、平成7年度を基準として、8年度から16年度までの各年度の比率を算出した分布状況は、図2のとおりであり、8年度の決算額においては、7年度の決算額に対して80%以上となっている県がほとんどを占めているが、14年度以降の決算額においては、27道県中、20%に満たない県が23県となっていて、貸付規模の縮小が進んでいる状況である。
図2 道県における平成7年度決算額に対する各年度の決算額比率
また、道県の歳出予算額(当初額)の執行状況についてみると、図3のとおり、7年度では執行率50%以上の道県が大部分を占めているが、その後、執行率は逓減傾向にあり、16年度においては29道県中25県が執行率30%未満である。さらに、半数以上の県においては、執行率が20%にも満たない状況となっている。
図3 道県における歳出予算額(当初額)の執行率の状況
このように、貸付実績が著しく低調で推移していることから、各道県における決算規模も縮小傾向にある。その理由としては、表9に示すように、現在の景気では借入れをしてまで新規に投資しようとする農業者が少ないという意見、農業者等の高齢化・後継者の不足という意見や借入手続が煩雑などの意見がある。
表9 農業改良資金の貸付実績が低調な理由(複数回答) | ||||||||||||||||||
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b 貸付財源額の推移
各道県では、図4のとおり、基盤特会からの政府貸付金の借入れを縮小・停止し、さらに、政府貸付金の繰上償還及び国庫補助金の自主納付を行っている。14年度以降においては、政府貸付金の借入れを行っているのは北海道のみである。
図4 政府貸付金等の借入れ及び償還等の推移
政府貸付金の繰上償還又は国庫補助金の自主納付を行っている理由は、表10のとおり、農業改良資金の需要が見込めないためという意見が最も多くなっている。
表10 繰上償還及び自主納付を行う理由(複数回答) | ||||||||||||
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(ウ)道県における政府貸付金の今後の状況
各道県において、今後も政府貸付金の借入れを行わない場合に、道県の農業改良資金の貸付財源に不足が生じる時期について、農業者等からの約定償還額及び前年度繰越金を収入とし、農業者等への農業改良資金の貸付金額及び基盤特会への約定償還額を支出として分析したところ、図5のとおりであった。すなわち、今後の農業者等への貸付金額が、11年度から16年度までの間の最高額で推移した場合には、13県において政府貸付金の借入れを行わずとも3年以上の間貸付財源に不足を生じることはなく、貸付金額を11年度から16年度までの間の平均値とした場合には、22県が6年目(22年度)までの間貸付財源に不足を生じることはないという結果となった。
図5 貸付財源に不足を生じる時期
以上のように、農業改良資金に関しては、近年、貸付実績が著しく低調となっていて、都道府県では、この貸付実績を反映して政府貸付金を繰上償還したり以前の国庫補助金相当額を自主納付したりして、自らの貸付財源を縮小している状況である。一方、都道府県からの繰上償還や自主納付が行われ、政府貸付金の支出が極端に少ないことから、これが基盤特会における決算剰余金を大幅に押し上げる要因となっている。
(3)就農支援資金について
ア 都道府県における就農支援資金の貸付状況等
12年度から16年度までの間の都道府県における就農支援資金の貸付枠、貸付状況及び貸付金残高は、表11のとおりである。
表11 就農支援資金貸付実績等 | (単位:百万円、件) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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就農支援資金の貸付けは、6年度の制度創設当初、就農研修資金及び就農準備資金の2種類の資金により行われていたが、12年度の制度改正に伴い、新たに就農施設等資金が加えられ、現在に至っている。
就農支援資金の貸付金額は、現行の資金制度が整備された12年度の貸付金額23億6420万円に対して、16年度の貸付金額は37億6278万円となっているなど、13年度から16年度までの各年度の貸付金額は、12年度に比して増加しているが、表11のとおり、大幅な伸びはない状況である。また、貸付枠に対する貸付金額についてみると各年度とも10%台後半から20%台にとどまっている。
イ 就農政府貸付金の都道府県に対する貸付状況及び貸付金残高
12年度から16年度までの間の都道府県に対する就農政府貸付金の貸付状況及び都道府県における貸付金残高は、表12のとおりである。
表12 就農政府貸付金の貸付実績等 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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就農支援資金の貸付金額が13年度以降、大幅な伸びがない状況にあることに伴って、都道府県における就農政府貸付金の需要の伸びも鈍化傾向にあり、12年度の就農政府貸付金貸付金額27億0709万円に対して、14年度から16年度までの間の就農政府貸付金貸付金額の比率は60%台後半から70%台で推移している。
また、16年度においては、47都道府県のうち17県で、就農支援資金の貸付けに当たり、就農政府貸付金の貸付けを受けずに借入者からの償還金をその貸付財源に充てている状況である。
ウ 就農政府貸付金に係る歳出予算額及び決算額
就農政府貸付金に係る歳出予算額及び決算額の状況は、表13のとおりとなっていて、歳出予算現額と支出済歳出額との差(不用額)は毎年度多額に上っており、歳出予算現額に対する割合は70%から80%台と高率になっている。
表13 就農政府貸付金の歳出予算現額及び支出済歳出額の状況 | ||||||||||||||||||||||||||||||
(単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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また、就農政府貸付金の財源は、12年度までの一般会計からの繰入れ及び当該年度の都道府県からの就農政府貸付金の償還金等である。12年度から15年度までの間は、都道府県からの約定償還期限が到来していないため歳入実績はない。
エ 就農政府貸付金に係る決算剰余金の発生状況
就農政府貸付金は、基盤特会への償還期限が未到来のものが多いことなどから、16年度において初めて278万円の償還があったもので、単年度において就農政府貸付金に係る決算剰余金は生じていない。しかし、表11のとおり、就農支援資金の貸付金額は、その貸付枠に対する割合が10%台後半から20%台にとどまっていたり、表13のとおり、就農政府貸付金に係る不用額の割合が高くなっていたりなど、就農支援資金の貸付財源に対し、貸付実績がかい離している状況となっている。
オ 道県に対する検査の結果
今回、検査を実施した29道県の就農支援資金の貸付状況等については、以下のとおりである。
(ア)就農支援資金制度の浸透度
就農支援資金制度は、制度発足が6年度であり、農業改良資金制度と比較すると新しい制度であるが、各道県においては、表14のような方策により周知を行っている。
表14 周知に関する方策の実施状況(複数回答) | ||||||||||||||||||
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(イ)道県における就農支援資金に係る貸付予算額、決算額及び貸付財源額の推移
a 貸付予算額及び決算額の推移
各道県の就農支援資金に係る歳出決算額についてみると、13年度は対前年度増加率が50%以上の道県が半数以上を占めるものの、14年度以降の決算額は、前年度から減少している道県が半数近くを占めており、貸付規模が拡大傾向にあるとは言い難い状況である。また、就農支援資金の貸付金額が貸付枠に比べて低調で推移していることから、各道県における決算規模も現状維持の傾向にある。
b 貸付財源額の推移
各道県における就農支援資金に係る決算規模が現状維持の傾向にあることから、図6のとおり、就農政府貸付金の借入れの伸びも鈍化している。14年度以降に、就農政府貸付金の借入れを行っているのは29道県のうち約半数である。
図6 就農政府貸付金等の借入れ及び償還等の推移
以上のように、就農支援資金に関しては、制度発足から10年程度ということもあるが、貸付実績と貸付枠にかい離が見られる状況にあり、貸付実績が順調に伸びているとは言い難い状況にある。
(4)農地保有合理化促進対策について
農地保有合理化促進対策に係る決算額等の推移は、表15のとおりとなっている。
表15 (項)農地保有合理化促進対策費の決算額及び目別内訳 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||
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ア 農地保有合理化促進対策費補助金
(ア)補助金の交付実績
農地保有合理化促進対策費補助金の決算額等の推移をみると表16のとおり、近年、都道府県に対する交付額が減少する一方、全国協会に対する交付額が増加している。農林水産省の説明では、これは、農地保有合理化法人が農用地等を取得する際の助成手段として、金融機関からの借入金に対する助成を都道府県を通して行っていたものを、資金を安定的に供給する必要から、全国協会による原資貸付けに切り替えて、全国協会が資金を一元的に管理・調達することとしたためであるとしている。
表16 農地保有合理化促進対策費補助金の決算額及び交付対象別内訳 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||
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(イ)都道府県公社及び全国協会
都道府県では農業経営基盤強化促進法に基づき、都道府県の区域を事業実施地域として農地保有合理化事業を行う法人(以下「都道府県公社」という。)を定めることとされている。都道府県公社は、農用地等を買い入れ、又は借り受けて、当該農用地等を売り渡し、交換し、又は貸し付ける事業等を行っている。
一方、全国協会は、農業経営基盤強化促進法により農地保有合理化支援法人として指定された法人であり、農地保有合理化事業の実施のために必要な資金の供給、必要な助成等を行っている。そして、全国協会は都道府県公社に対し、農用地等の買入れに要する資金の一部を無利子で貸し付けるなどしている。
国は、全国協会が資金を貸し付けるのに必要な財源に充てるための基金を造成する事業に要する経費等を補助することとしている。また、都道府県公社が事業の実施及び本事業の推進体制の整備を行うのに要する経費について都道府県が補助する場合における当該補助に必要な経費等についても補助することとしている。
図7 国、全国協会、都道府県及び都道府県公社の関係
(ウ)全国協会における各会計
全国協会では、他の会計に属する事業以外の経理を処理する一般事業会計のほか、表17の7会計に区分し、それぞれ基金を設置し、経理処理を行っている。
表17 全国協会における会計区分及び会計別平成16年度末基金残高 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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全国協会は、「農地保有合理化事業資金の貸付けについて」(平成12年12構改B第400号農林水産省構造改善局長通知)等に基づき、各事業ごとに基金を設置している。このうち、特別事業会計、長期育成事業会計、担い手育成事業会計及び緊急加速リース支援事業会計では、造成した基金を都道府県公社に対する貸付けに使用しているため、償還金は再び貸付けのための原資として使用され、回転性がある。
一方、合理化法人機能強化事業会計、農地売買円滑化事業会計及び債務保証事業会計では、造成された基金は取り崩し、都道府県公社に対する助成金として支出することとしているなどのため、回転性はない。
全国協会の各会計の状況は、次のとおりである。
a 特別事業会計
特別事業会計では、農地保有合理化事業資金供給事業及び遊休農地整備特別対策融資事業に関する経理を行っている。
農地保有合理化事業資金供給事業は、都道府県公社に対し、農用地等の買入れに要する資金の10分の1を全国協会が無利子で貸し付けるものである。年度別の都道府県公社に対する貸付実績及び年度末貸付金残高は表18のとおりである。
表18 都道府県公社に対する貸付実績及び年度末貸付金残高 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||
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遊休農地整備特別対策融資事業は、遊休農地の解消・防止等を図るために簡易な農地の整備を行う農事組合法人等へ無利子貸付けを行う都道府県公社に対し、その10分の6を全国協会が無利子で貸し付けていたものであるが、11年度をもって新規貸付けを終了し、都道府県公社からの償還金11億3751万円を基盤特会に返納している。
特別事業会計の基金の残高は12年度末時点で154億7903万円となっていたが、その後の農地保有合理化事業資金の貸付実績は低迷しており、表19のとおり、基金のうち貸付金として使用されている金額はここ数年10億円前後、割合にして10%前後で推移している。
表19 基金のうち貸付金として使用されている割合 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||
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そして、次のような基金の振替や運用益の使用が行われている。
(a)国の指示による振替
農地保有合理化事業資金の貸付実績が低迷していることから、農林水産省では予算の効率的な執行を図るとして、当該事業資金を、他の事業を実施するための資金に振り替えることを全国協会に対して指示している。この指示に基づき、15年度に特別事業会計から41億円を担い手育成事業会計へ振り替え、16年度には特別事業会計から20億円を農地売買円滑化事業会計へ振り替えている。
(b)基金運用益の使用
特別事業会計の16年度末現在の基金残高は93億8077万円であり、このうち44億6400万円は、昭和63年度補正予算により成立した農地流動化緊急対策事業に基づき国庫補助金により造成された基金である。しかし、当該事業が平成4年度に終了したにもかかわらず、「農地保有合理化促進対策費補助金交付要綱」(昭和48年48構改B第2482号)に基づき、特に必要があるとして農林水産省の指示により、当該資金を国に返納せず、農地保有合理化事業資金供給事業の貸付原資に繰り入れている。そして、「都道府県農業公社推進体制強化事業実施要領」(平成5年5構改B第863号)により、当該資金を留保・管理し、その運用益を都道府県公社の職員の増員等人的な業務運営体制の強化に要する経費等を助成するために使用している。この運用は主に債券によっているが、近年は低金利が続き、運用益は減少している。そのため14年度以降、都道府県公社に対する助成額は年間5000万円を下回る状況となっている(表20参照) 。
表20 都道府県公社に対する助成額 | (単位:百万円) | ||||||||||||||
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b 債務保証事業会計
債務保証事業会計は7年度に設置され、債務保証事業に関する経理を行っている。この事業は、都道府県公社が農地保有の合理化に関する事業の実施のために必要な資金を金融機関から借り入れる際に、全国協会が債務保証を行うものである。この事業を行うため、7年度に国が4億2000万円、都道府県公社等が2億8000万円の出資を行い、基金を造成している。16年度末の基金残高は7億5837万円であるが、全国協会が保証する債務の残高は3305万円、件数は6件である(表21参照) 。なお、全国協会が事業開始から16年度までに代位弁済を行った実績はない。
表21 債務保証の実績 | (単位:件、百万円) | ||||||||||||||||||
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c 合理化法人機能強化事業会計
合理化法人機能強化事業会計は7年度に設置され、都道府県公社の業務運営体制の整備、強化及び財務基盤の強化に要する経費に対して助成を行う事業に関する経理を行っている。全国協会では7年度から12年度までに毎年度25億円、計150億円の国庫補助金を受け入れ、基金を造成し、毎年度、基金を取り崩して都道府県公社に対して助成金を支出している。基金の造成は12年度で終了しているが、基金取崩しによる助成は継続して行われて、表22のとおり基金残高は毎年度減少している。なお、農林水産省では、この事業のうち、都道府県公社が買い入れた農用地等を売り渡す際の差損補てんに係るものについては22年度まで実施するとしているが、それ以外は今後も不可欠であるとして、終了年度を定めていない。
表22 農地保有合理化法人機能強化事業の助成金交付実績 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||
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d 長期育成事業会計
長期育成事業会計は13年度に設置され、長期育成事業資金供給事業に関する経理を行っている。この事業は、都道府県公社が買い入れた農用地等を認定農業者等に長期間(5年を超え10年以内)貸し付けた後に売り渡す事業及び10年以内の年賦払いにより売り渡す事業を実施する場合に、当該農用地等の買入れに要する資金の10分の7を全国協会が無利子で貸し付けるものである。そして、13年度から16年度までに合計175億円の補助金を受け入れ、基金を造成している。16年度末現在、都道府県公社に対する貸付金残高は表23のとおり139億0495万円で、基金の79.5%が貸付けに使用されている。
表23 長期育成事業資金の貸付金残高及び基金残高の推移 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||
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e 農地売買円滑化事業会計
農地売買円滑化事業会計は13年度に設置され、都道府県公社が買い入れた農用地等を一定期間貸し付けた後に売り渡す際に、貸付期間中の農地価格の下落により当該農用地等の買入価額と売渡価額との間に差額が生じた場合、当該差額の一部を助成する事業に関する経理を行っている。そして、13年度から15年度までに合計30億円の補助金を受け入れているほか、16年度には、特別事業会計から20億円を振り替えて基金を造成している。しかし、助成金として都道府県公社に支出された金額は16年度で150万円となっている(表24参照) 。
表24 円滑化事業助成金の支出額及び年度末基金残高 | (単位:百万円) | |||||||||||||||
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f 担い手育成事業会計
担い手育成事業会計は14年度に設置され、担い手育成事業資金供給事業に関する経理を行っている。この事業は、都道府県公社が買い入れた農用地等を認定農業者等に一定期間(5年以内)貸し付けた後に売り渡す事業を実施する場合に、当該農用地等の買入れに要する資金の10分の7を全国協会が都道府県公社に対して無利子で貸し付けるものである。そして、14年度から16年度までに合計315億5990万円の補助金を受け入れ、基金を造成し、15年度には特別事業会計から41億円を振り替えて基金を増額し、15年度から貸付けを実施している。15、16両年度の貸付額は242億0587万円となっているが、都道府県公社が貸し付けた農用地等の多くが5年よりも短い期間で貸付けを終了して売り渡され、それに伴い資金が全国協会に償還されており、113億6856万円が既に全国協会に償還されている。このため、16年度末現在、都道府県公社に対する貸付金残高は128億3730万円となっており、基金残高に対する割合は36.0%となっている(表25参照) 。しかし、17年度においても貸付けのため基金を増額するとして、国庫補助金81億円及び特別事業会計からの繰入金39億円が予算に計上されている。
g 緊急加速リース支援事業会計
緊急加速リース支援事業会計は16年度に設置され、経営構造改革緊急加速リース支援資金供給事業に関する経理を行っている。この事業は、都道府県公社が機械・施設等をリースするのに必要な資金を全国協会が無利子で貸し付けるものであり、16年度に13億4600万円の補助金を受け入れ、基金を造成しているが、16年度末現在、この基金は使用されておらず、全額が預金として保有されている。
(エ)全国協会における現金預金等の状況
a 受け入れた国庫補助金の使用状況
全国協会では、都道府県公社に対する貸付け又は助成を行うのに必要な財源に充てる基金を造成するため、表26のとおり、12年度から16年度までの5年間で559億0590万円の国庫補助金を受け入れている。一方、既に終了した特別事業会計の遊休農地整備事業に係る国庫補助金11億3751万円を返還しているため、差引き547億6838万円の国庫補助金を受け入れていることになる。
表26 直近5年間における国庫補助金受入額 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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このうち、都道府県公社に対して資金の貸付けを行うための基金(回転資金)を造成する目的で受け入れた国庫補助金は12年度から16年度までの5年間で差引き492億6838万円である。全国協会では、この資金を基に都道府県公社に対して貸付けを行っており、11年度末と16年度末の都道府県公社に対する貸付金残高を比較すると表27のとおり、260億6830万円増加している。しかし、その一方で基金のうち預金及び債券として保有している資産も212億1629万円増加している。
一方、都道府県公社に対して助成金を支出するための基金(非回転資金)を造成する目的で受け入れた国庫補助金は、5年間で55億円である。この間の助成金支出額は合計で49億4703万円であるため、国庫補助金受入額に対する助成金支出額の比率は89.9%と比較的高い数字を示している。しかし、16年度に特別事業会計から農地売買円滑化事業会計に20億円の振替を行うなどしたため、基金残高としては27億4810万円増加しており、この全額を預金及び債券として保有している。
したがって、全国協会の基金全体では、預金及び債券で保有している金額は、回転資金及び非回転資金を合わせて239億6439万円増加していることになる。
表27 直近5年間における基金等の増加額 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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年度ごとにみると、表28のとおり、各年度とも貸付金の純増額と助成金支出額を合わせた金額が国庫補助金の受入額を下回っていて、預金及び債券で保有している金額が毎年度増加する結果となっている。
表28 国庫補助金受入額並びに預金及び債券の増加額の推移 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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また、各年度末時点の基金残高並びに預金及び債券で保有している残高の推移は表29のとおりであり、11年度末時点で既に255億1437万円を預金及び債券で保有していたが、16年度末には494億7877万円にまで増加している。
表29 年度末時点の基金残高並びに基金のうち預金及び債券で保有している残高の推移 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
(単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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b 債券による運用
全国協会では、各事業ごとに基金を設置しているが、これらの基金に属する資産は通知等に基づき、銀行又は農林中央金庫への預金若しくは郵便貯金によるほか、国債等の債券その他経営局長が指定する有価証券の取得等によって管理することとされていて、16年度末現在の運用形態を会計区分別に示すと、表30のとおりである。回転資金については、運用益を都道府県公社に対する助成金として支出するため、基金の一部44億6400万円が貸付金として使用されずに留保されている特別事業会計を除き、債券で運用している割合は8.0%以下となっているが、非回転資金については、債券で運用している割合が40.0%から80.0%となっていて、回転資金と比べて債券で運用している割合が高くなっている。
表30 会計区分別の基金の運用形態 | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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また、全国協会では、債券で運用する場合は、通常償還期間が5年又は10年の中長期の債券を購入していて、これら債券の残高を16年度末から償還期日までの残存期間別に示すと、表31のとおりであり、償還期日までの残存期間が5年超の債券が60億4591万円と全体の32.2%を占めている。
表31 残存期間別の債券残高 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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イ 農地保有合理化促進対策資金貸付金
基盤特会における農地保有合理化促進対策資金貸付金の決算額等の推移をみると表32のとおりであり、同貸付金の大半が担い手育成農地集積資金である。
表32 農地保有合理化促進対策資金貸付金の決算額及びその内訳 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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担い手育成農地集積資金は、国から農林公庫等に無利子で貸し付けるもので、5年度より貸付けが開始されている。そして、農林公庫等では、この資金を用いて、担い手への農用地の利用集積を促進するため、土地改良区等が経営体育成基盤整備事業等の国庫補助事業を行う際の農家負担金の6分の5以内(ただし対象年度の年度事業費の10%以内)に相当する額を無利子で貸し付けている。また、担い手への草地の利用集積を促進させるため、土地改良区等が畜産担い手育成総合整備事業を行う際の農家負担金について、同様の無利子資金の貸付けを行っている。
農林公庫等に対する担い手育成農地集積資金の貸付実績は表33のとおりである。11年度以降、経営体育成基盤整備事業等の国庫補助事業の事業量の減少に伴い、貸付金額は減少し続けている。一方、償還金額は繰上償還が発生しているため漸増傾向にあり、これらの結果、16年度末には前年度に比べて貸付金残高が減少している。
表33 農林公庫等に対する担い手育成農地集積資金の貸付実績等 | (単位:百万円) | ||||||||||||||||||||||||||||
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以上のように、農地保有合理化促進対策に関しては、都道府県公社が行う事業に対する助成手法が、基盤特会における都道府県への利子補給から、全国協会を通しての原資貸付けに変更されてきていることから、全国協会に対するその原資を造成するための補助金が大幅に増額された。しかし、全国協会においては、資金造成額が将来の事業に対する貸付原資ということもあるが、16年度末基金残高771億8152万円のうち494億7877万円、率にして60%以上を預金及び債券で保有している。このうち187億9045万円は償還期間5年又は10年の中長期の債券を購入し運用しており、127億4453万円が償還期間5年、60億4591万円が償還期間10年の債券となっている。
農林水産省では、都道府県公社に農地保有合理化事業に要する資金を安定的に供給するため、将来必要となる金額についても全国協会においてあらかじめ基金として措置する必要があるとしている。しかし、全国協会に対する補助金の支出額が、全国協会から都道府県公社に対する貸付金の純増額及び助成金支出額を、毎年度継続して上回っていて、全国協会の保有する預金及び債券の金額が毎年度増加している状況は、資金の効率的活用及び補助金としての効率的使用の観点から問題があると考えられる。
(5)決算剰余金の状況について
基盤特会においては、近年、農業改良資金の貸付実績が著しく低調となってきていて、その予算額と決算額が著しくかい離していることなどから、表34のとおり多額の決算剰余金が毎年度発生し、貴重な財政資金が効果を発現することなく滞留している事態となっている。
表34 決算剰余金の推移 | (単位:百万円) | ||||||||||||||
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この決算剰余金は、13年度から16年度までの間に計423億9888万円減少しているが、その主な要因はこの間に全国協会に交付された農地保有合理化促進対策費補助金の額が、13年度の52億7542万円から16年度の238億2764万円へと大幅に増加していることなどによる。しかし、交付先である全国協会において多額の資金を保有している事態となっていて、預金及び債券の保有額は16年度末で494億7877万円となっている。
基盤特会に関する各事業の実績及び決算剰余金等については以上の状況となっているが、これらについて基盤特会の予算及び決算によって全体像を示すと図8のとおりであり、歳入歳出予算額は毎年度均衡しているが、予算額に比べて決算額が毎年度著しくかい離していて、歳入歳出決算額は大幅に不均衡となっている。例えば、16年度は歳入決算額は予算額に比べて431億8846万円上回っており、一方、歳出決算額は、予算額に比べて375億6801万円下回っている。このように歳入歳出決算額が大幅に不均衡となっているのは、歳入に関しては決算剰余金の受入れが多額に上っていることが主な原因であり、一方、歳出に関しては予算どおりの事業が執行できなかったことによる。
図8 基盤特会の予算及び決算の状況
基盤特会においては、決算剰余金以外に積立金があり、その金額は16年度末で163億4296万円となっていて、16年度の決算剰余金807億5648万円と合わせると970億9944万円となっている。
また、全国協会においては、農地保有合理化事業に充てる基金として預金及び債券を494億7877万円保有している。
これらを11、13両年度と比較すると、図9のとおりである。
図9 国及び全国協会が保有している資金残高
4 本院の所見
基盤特会の決算状況等をみると、農業改良資金においては、貸付実績が低調で推移していることから、各都道府県において基盤特会からの政府貸付金の借入れを縮小・停止したり、政府貸付金の繰上償還及び国庫補助金の自主納付を行ったりしており、また、就農支援資金についても貸付実績は貸付枠に比して低調で推移している。
これらにより、多額の決算剰余金が毎年度発生していて、剰余金の一部を一般会計に繰り入れることができるという基盤特会法第8条ただし書きにおける政令を整備しておらず、貴重な財政資金が効果を発現することなく滞留している事態となっている。
また、近年、基盤特会からの支出額が伸びている農地保有合理化促進対策費補助金については、都道府県公社における農地保有合理化事業として活用するための多額の資金が預金や中長期の債券として全国協会において保有されている状況である。
ついては、上記のような各事業の運営状況、全国協会における資金の保有状況等を的確に把握した上で、資金規模の縮小も含め、基盤特会における資金の効率的活用を図るための方策を検討する必要があると考えられる。