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  • 平成16年度|
  • 第4章 国会からの検査要請事項及び特定検査対象に関する検査状況|
  • 第2節 特定検査対象に関する検査状況

海岸事業における津波・高潮対策の実施状況について


第14 海岸事業における津波・高潮対策の実施状況について

検査対象 国土交通省(平成13年1月5日以前は運輸省及び建設省)、農林水産省、水産庁
会計名 一般会計
事業の概要 津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護することなどにより、国土の保全に資することを目的とする事業
平成7年度から16年度までの海岸事業費の合計 2兆1659億円

1 事業の概要

(海岸事業の概要)

 国土交通、農林水産両省では、海岸法(昭和31年法律第101号)等に基づき、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するとともに、海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用を図り、もって国土の保全に資することを目的として海岸事業を実施している。海岸事業においては、〔1〕津波・高潮等による災害を防止するための高潮対策事業、〔2〕海岸の侵食防止のための侵食対策事業、〔3〕環境整備、海浜利用を促進するための海岸環境整備事業等が実施され、その事業費は、平成7年度から16年度までの10年間で計2兆1659億余円となっている。

(海岸事業の実施)

 海岸法では、都道府県知事は、海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するための施設(以下「海岸保全施設」という。)の設置その他管理を行う必要があると認めるときは、防護すべき海岸に係る一定の区域を海岸保全区域として指定することができるとされている。
 海岸事業における主務大臣は、海岸の存する地域及びその背後地の利用状況等に応じてそれぞれ定められており、漁港区域に係る海岸保全区域及び土地改良事業として管理している施設で海岸保全施設に該当するものの存する地域等に係る海岸保全区域については農林水産大臣、これら以外の海岸保全区域等については国土交通大臣とされている。主務大臣は、津波・高潮等による災害の発生の防止、多様な自然環境の保全、海岸の利用者の利便の確保等を総合的に考慮して、海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本的な方針(以下「海岸保全基本方針」という。)を定めなければならないとされている。
 また、都道府県知事は、海岸保全基本方針に基づき海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本計画(以下「海岸保全基本計画」という。)を策定し、海岸の保全に関する事項(海岸の現況及び海岸の防護に関する事項等)及び海岸保全施設の整備に関する事項(海岸保全施設を整備しようとする区域、海岸保全施設の種類及び配置等並びに海岸保全施設による受益の地域及びその状況)を定めることとされている。
 そして、海岸法に定めるもののほか主要な海岸保全施設に関する技術上の基準は「海岸保全施設の技術上の基準を定める省令」(平成16年農林水産省、国土交通省令第1号)等(以下「設計基準」という。)に基づくこととされている。

(海岸の管理)

 海岸保全区域の管理は、原則として都道府県知事が行うこととされているが、港湾区域若しくは港湾隣接地域又は漁港区域と重複する海岸保全区域については、港湾管理者の長又は漁港管理者である地方公共団体の長が管理することなどとされている(以下、これら海岸の管理を行う者を「海岸管理者」という。)。
 そして、都道府県知事が海岸保全区域を指定したときは、海岸管理者は、海岸法に基づき帳簿及び図面をもって組成される海岸保全区域台帳(以下「海岸台帳」という。)を調製し、保管しなければならないとされている。

(海岸線の状況)

 我が国の海岸線延長は、表1のとおり、約35,000kmに及んでおり、海岸防護の対象としている海岸保全区域及び海岸保全区域以外の公共海岸である一般公共海岸区域並びに保安林などの他の目的から管理されている海岸及び天然海岸等からなるその他の海岸線からなっている。

表1 海岸線の延長等
(単位:km)

所管 海岸線延長 海岸保全区域延長 一般公共海岸区域延長 その他の海岸線の延長
国土交通省 25,070 8,676 7,759 8,634
農林水産省 8,181 4,576 26 3,578
その他 1,597 228 1,369
合計 34,850 13,482 7,785 13,582
(注)
国土交通省河川局「平成16年度版海岸統計」(平成16年3月31日現在)による。

(災害対策基本法等に基づく防災計画と地震防災対策の取組)

 国の災害対策は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき内閣総理大臣を会長に内閣府に設置された中央防災会議が作成する防災基本計画を基礎として行われており、同計画に基づいて、両省では防災業務計画を、都道府県及び市町村では地域防災計画をそれぞれ策定している。そして、同法では、海岸保全基本計画の防災に関する部分は、防災基本計画、防災業務計画又は都道府県地域防災計画と矛盾し、又は抵触するものであってはならないとされている。また、国の行政機関は、その責務として、地域防災計画の作成及び実施が円滑に行われるように、その所掌事務について、都道府県又は市町村に対し、勧告し、指導し、助言し、その他適切な措置をとらなければならないとされている。

(地震防災対策強化地域の指定等)

 東海地震を想定した大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)では、地震防災に関する対策を強化する必要がある地域を地震防災対策強化地域(以下「強化地域」という。)として指定し、中央防災会議は強化地域に係る地震防災基本計画を作成することとされている。そして、両省は防災業務計画において、また、都道府県及び市町村は地域防災計画において、地震防災応急対策に係る措置に関する事項等を定めることとされている。強化地域については昭和54年8月に当初の市町村の指定がなされ、平成17年3月末現在で、8都県(注1) における227市町村が強化地域に指定されている。

(東南海・南海地震防災対策推進地域の指定等)

 静岡県から高知県に及ぶ地域を震源とする大規模な地震を想定した東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成14年法律第92号)では、東南海・南海地震が発生した場合に著しい地震災害が生ずるおそれがあるため地震防災対策を推進する必要がある地域を、東南海・南海地震防災対策推進地域(以下「推進地域」という。)として指定し、中央防災会議は東南海・南海地震防災対策推進基本計画を作成することとされている。そして、両省は防災業務計画において、また、都道府県及び市町村は地域防災計画において、東南海・南海地震に係る地震防災上重要な対策に関する事項等を定めることとされている。推進地域については15年12月に当初の市町村の指定がなされ、17年3月末現在、21都府県(注2) における537市町村が指定されている。

(防災基本計画における津波・高潮対策)

 国は、阪神・淡路大震災において大規模な被害が生じた経験、教訓を踏まえ、7年7月、防災基本計画について、自然災害の種類別の体系構成とするなどして、津波対策及び高潮対策を次のように明確にしている。

ア 津波対策として、国及び地方公共団体は、海岸堤防等の海岸保全施設、港湾施設及び漁港施設等の整備を実施するとともに、耐震性の確保を図る。また、地方公共団体は、津波によって浸水が予想される地域について事前に把握し、浸水予測地図等を作成するとともに、住民等に対し周知を図る。

イ 高潮対策として、国及び地方公共団体は、既往最大規模等の高潮に対応できる海岸保全施設の整備を推進する。また、地方公共団体は、国等の協力を得つつ、地域住民の適切な避難や防災活動に資するよう、浸水想定区域、避難場所、避難路等水害に関する総合的な資料を図面表示等を含む形で取りまとめたハザードマップ等の作成を行い、住民等に配布する。

(防災業務計画に基づく津波・高潮対策)

 両省は、それぞれの防災業務計画において、津波対策及び高潮対策について次のような措置を講ずるなどとしている。

ア 津波対策として、海岸堤防等の海岸保全施設の整備及び耐震性の向上を推進するとともに、ハザードマップ等の作成、住民への配布等を推進する。また、強化地域、推進地域については、海岸保全施設の整備、補強について、緊急度等を勘案し計画的に推進する。

イ 高潮対策として、海岸保全施設の整備及び陸閘等の自動化、遠隔操作化を推進するとともに、地方公共団体により、高潮ハザードマップが作成・公表されるよう、必要な助言及び技術的な支援を行う。

2 検査の背景及び着眼点

 16年12月に発生したスマトラ島西方沖の地震に伴う津波により、インド洋沿岸諸国を中心に未曾有の災害が生じ、世界中が津波の強大な破壊力を改めて認識させられた。一方、我が国においては、現在、東海地震、東南海・南海地震等の大規模地震発生の切迫性が指摘され、これらの地震が起こった場合に甚大な被害の発生が想定されている。また、日本列島は台風の常襲地帯であり、高潮等による大きな被害が発生するおそれは依然として高い状況である。
 このような状況を踏まえ、北海道ほか36都府県(注3) (以下「37都道府県」という。)の両省所管の海岸事業(このうち、国土交通省所管に係る海岸事業は北海道ほか31都府県(注4) 、農林水産省所管に係る海岸事業は北海道ほか22県(注5) )について、我が国の津波・高潮対策がこれまでどのように実施され、効果的なものとなっているか、施設整備等のハード対策及びハザードマップ作成等のソフト対策について次のような点などに着眼して検査した。

ア ハード対策について

〔1〕 現況の堤防・護岸等は想定される津波・高潮等に対してどの程度整備されているか。

〔2〕 堤防・護岸等における耐震対策はどのような状況となっているか。

イ ソフト対策について

〔1〕 津波・高潮等に関するハザードマップ等の情報は、円滑に住民等に伝達、提供できるような体制になっているか。

〔2〕 海岸保全施設の管理は適切に行われているか。

3 検査の状況

(1)海岸事業費の状況について

ア 年度別海岸事業費の推移

 37都道府県における7年度から16年度までの過去10箇年の年度別海岸事業費を見ると、図1のとおり、津波・高潮対策に係る事業費が海岸事業費に占める割合は40%〜55%程度で推移しており、また、基礎地盤に対する液状化対策等の耐震化対策事業費が津波・高潮対策に係る事業費に占める割合は30%程度となっている。
 そして、海岸事業費の合計額は7年度以降減少傾向にあり、7年度の約1832億円が16年度には約890億円と半減していることから、より計画的、重点的な執行が求められる状況である。

図1 項目別事業費の推移(37都道府県分)

図1項目別事業費の推移(37都道府県分)

イ 都道府県別の海岸事業費

 37都道府県のうち、両省所管の海岸事業について検査した18道県(以下「18道県」という。)別の7年度から16年度までの10箇年の海岸事業費は図2のとおりであり、これを見ると、強化地域又は推進地域に指定され東海地震、東南海・南海地震による大規模な津波が想定されている地域や、大規模な高潮等が想定されている地域において事業費が比較的大きくなっている。また、津波・高潮対策に係る事業費の海岸事業費に占める割合が大きい県が多くなっているが、強化地域及び推進地域に指定されている市町村の存する10県(注6) においてその割合が大きく、これらの県の津波・高潮対策に係る事業費の10箇年の合計額は約2968億円(平均約296億円、海岸事業費に占める割合53.2%)で、その他の8道県(注7) の10箇年の合計額1799億円(平均約224億円、海岸事業費に占める割合40.0%)に比べて平均額及び割合が大きくなっている。

図2 道県別事業費

図2道県別事業費

(2)津波・高潮等に対する堤防・護岸等の整備状況について

ア 堤防・護岸等の計画高の根拠

 海岸保全基本方針によれば、海岸の保全に当たっては、地域の自然的・社会的条件及び海岸環境や海岸利用の状況を調査、把握し、それらを十分勘案することとなっており、海岸の防護に関しては、〔1〕津波からの防護を対象とする海岸にあっては、過去に発生した津波による浸水の記録等に基づいて、地域の状況や防災効果を考慮して適切に想定した津波に対して防護することを、また、〔2〕高潮等からの防護を対象とする海岸にあっては、過去の台風等により発生した高潮等の記録に基づく既往の最高潮位又は適切に推算した潮位に、適切に推算した波浪の影響を加え、これらに対して防護することをそれぞれ目標にすることとなっている。
 設計基準では、堤防・護岸等の高さについては、津波や高潮等による海水の侵入から防護するとともに、波の打上げや越波を防護するのに十分な高さとし、設計に当たっては最も危険となる潮位を設計潮位とすることとされている。
 そして、津波対策施設に関しては、過去に発生した最大の津波、又は今後発生すると考えられる最大の津波を踏まえて海岸管理者が定めることとするが、設計津波を定めるに当たっては、海岸保全施設の整備に必要な費用、海岸の環境や利用に及ぼす影響、海岸保全施設背後の土地の利用状況などを考慮することとされている。また、海岸保全施設だけで津波の被害を防ぐことが困難な場合には、ソフト対策と連携した対策を講ずる必要があるとされている。
 一方、高潮等の対策施設に関しては、設計高潮位は、既往の最高潮位などを用いて設計することとされているが、既往の最高潮位として記録されているものは多くの場合台風によるものである。
 そして、津波と高潮等はそれぞれ異なる原因により起こる現象であることから、同時に起こることはないものとして設計することとされている。
 37都道府県における堤防・護岸等の計画高の根拠は、次のとおりとなっている。

〔1〕 管内のすべての海岸において、台風等により発生した高潮等の高さに基づき設計しているもの(28都府県)

東京都、京都、大阪両府、青森、福島、茨城、千葉、神奈川、石川、福井、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、香川、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県

〔2〕 管内のすべての海岸において、過去に発生した津波の高さに基づき設計しているもの

 岩手県

〔3〕 管内の海岸ごとに、台風等により発生した高潮等の高さ又は過去に発生した津波の高さのいずれか高い方に基づき設計しているもの(7道県)

 (北海道、宮城、秋田、山形、徳島、愛媛、高知各県)

〔4〕 管内の海岸ごとに、台風等により発生した高潮等の高さ又は将来発生が想定される地震による津波の高さ(以下「想定津波高」という。)のいずれか高い方に基づき設計しているもの

 静岡県

イ 津波に対する堤防・護岸等の整備状況

 37都道府県のうち、将来発生が想定される地震及びこれによる津波に対応するため、発生すると想定される地震の規模及び想定津波高を設定している都道府県は北海道ほか30都府県(注8) 、設定していない県は茨城県ほか5県(注9) となっている。
 そして、37都道府県のうち両省所管の海岸事業について検査を実施した18道県における堤防・護岸等の整備状況をみると、次のとおりである。

(ア)18道県における津波に対する堤防・護岸等の整備状況

 図3及び表2—1のとおり、両省所管の海岸保全区域延長8,668.2kmのうち、想定津波高を設定している延長は6,061.5kmである。このうち、堤防・護岸等の高さが想定津波高に対応している海岸保全区域延長は4,568.2kmであり、その割合は75.4%となっているが、岩手県、宮城県、和歌山県、宮崎県のように33.6%から53.9%にとどまっている県もある。
 一方、海岸保全区域延長1,313.6km(21.7%)については、堤防・護岸等の高さが想定津波高より低くなっている。

図3 津波に対する堤防・護岸等の整備状況

図3津波に対する堤防・護岸等の整備状況

 

表2—1 津波に対する堤防・護岸等の整備状況
  都道府県名 海岸保全区域延長
km
想定津波高を設定している海岸保全区域延長(A) 堤防・護岸等の高さが想定津波高に対応している海岸保全区域延長(B) 堤防・護岸等の高さが想定津波高より低くなっている海岸保全区域延長(C)
km 防護人口
(B/A)
km   %
防護人口
(C/A)
km   %
防護人口
両省分(18道県) 北海道 1,734.8 1,436.5 1,349.5( 93.9) 86.7(  6.0)
岩手県 133.6 131.4 100,379 57.0  ( 43.3) 49,539 74.4( 56.6) 50,840
宮城県 204.2 204.2 107.7 ( 52.8) 96.4( 47.2)
山形県 70.3 70.3 67.1 ( 95.4) 3.2(  4.6)
神奈川県 128.0 128.0 111.5 ( 87.1) 16.1( 12.6)
静岡県 271.6 271.6 314,088 192.3 ( 70.8) 250,435 79.2( 29.2) 63,653
愛知県 333.8 333.8 264.3 ( 79.2) 69.4( 20.8)
三重県 532.4 532.4 212,394 309.5 ( 58.1) 157,405 215.9( 40.5) 54,989
兵庫県 417.5 417.5 366,222 398.3 ( 95.4) 354,282 19.1(  4.6) 11,940
和歌山県 208.6 208.6 70.1 ( 33.6) 138.5( 66.4)
島根県 130.5 想定津波高を設定していない
山口県 550.6 486.4 451.9 ( 92.9) 16.9 (  3.5)
愛媛県 1,189.0 1,032.2 652.3 ( 63.2) 285.3 ( 27.6)
高知県 284.3 284.3 200.0 ( 70.3) 79.8 ( 28.1)
長崎県 1,361.7 想定津波高を設定していない
宮崎県 109.9 109.9 59.2 ( 53.9) 50.6 ( 46.1)
鹿児島県 591.3 想定津波高を設定していない
沖縄県 415.3 413.6 276.8 ( 66.9) 81.5 ( 19.7)
国交省計 5,397.9 3,835.7 843,891 3,184.9 ( 83.0) 734,889 650.7 ( 17.0) 109,002
農水省計 3,270.3 2,225.8 149,192 1,383.2 ( 62.1) 76,772 662.8 ( 29.8) 72,420
両省合計 8,668.2 6,061.5 993,083 4,568.2 ( 75.4) 811,661 1,313.6 ( 21.7) 181,422
国交省分(14都府県) 秋田県 135.2 135.2 101.8 ( 75.3) 33.3 ( 24.7)
福島県 66.6 66.6 66.1 ( 99.2) 0.5 (  0.8)
茨城県 103.6 想定津波高を設定していない
東京都 135.4 135.4 135.4 (100.0) 0.0 (  0.0)
石川県 192.8 192.8 129.5 ( 67.2) 63.2 ( 32.8)
京都府 85.6 33.6 32.8 ( 97.6) 0.8 (  2.4)
大阪府 102.1 102.1 102.1 (100.0) 0.0 (  0.0)
鳥取県 105.9 105.9 105.9 (100.0) 0.0 (  0.0)
広島県 405.0 405.0 347.3 ( 85.7) 57.7 ( 14.3)
徳島県 102.6 102.6 21,773 38.5 ( 37.6) 21,773 64.0 ( 62.4) 0
香川県 143.2 143.2 103.4 ( 72.2) 39.8 ( 27.8)
福岡県 126.1 32.6 32.6 (100.0) 0.0 (  0.0)
佐賀県 75.4 想定津波高を設定していない
大分県 137.2 137.2 128.1 ( 93.4) 9.0 (  6.6)
国交省計 1,917.5 1,592.8 21,773 1,324.1 ( 83.1) 21,773 268.6 ( 16.9) 0
農水省分(5県) 青森県 127.1 72.3 64.4 ( 89.1) 7.8 ( 10.9)
千葉県 43.2 30.1 24.9 ( 82.7) 5.2 ( 17.3)
福井県 51.7 51.7 38.0 ( 73.5) 13.6 ( 26.5)
岡山県 85.5 85.5 1,267 58.9 ( 69.0) 46 25.5 ( 29.9) 1,221
熊本県 297.5 想定津波高を設定していない
農水省計 605.1 239.6 1,267 186.3 ( 77.8) 46 52.3 ( 21.9) 1,221
注(1) 防護人口 浸水予測区域の面積に人口密度を乗じた値であり、津波による防護人口を設定している岩手、静岡、三重、兵庫、岡山、徳島各県以外は津波による防護人口が設定されていないため不明とした。
注(2) 茨城、島根、佐賀、長崎、熊本、鹿児島各県については、想定津波高が設定されていないので集計から除外した。
注(3) 北海道、神奈川、三重、岡山、山口、愛媛、高知、沖縄各県については、一部堤防・護岸等の高さが不明な延長があるため、(A)=(B)+(C)とならない(表2—2についても同様)。
注(4) 都道府県の海岸保全区域延長は、m単位で集計したものであるため、その延長を合計しても国交省計、農水省計及び両省合計とは一致しない(表2—2についても同様)。

(イ)強化地域等における津波に対する堤防・護岸等の整備状況

 強化地域又は推進地域に指定されている沿岸の市町村及び両地域に重複して指定されている市町村において、表2—2のとおり、堤防・護岸等の高さが想定津波高に対応している海岸保全区域延長はそれぞれ690.7km(65.0%)、2,126.2km(67.6%)、597.2km(62.8%)となっており、当該地域の海岸保全区域延長に対する割合は、全体の平均(75.4%)より低くなっている。また、堤防・護岸等の高さが想定津波高より低くなっている海岸保全区域延長はそれぞれ364.6km(34.3%)、914.4km(29.1%)、347.2km(36.5%)となっている。

表2—2 強化地域等における津波に対する堤防・護岸等の整備状況
各地域における県別市町村数 海岸保全区域延長
km
想定津波高を設定している海岸保全区域延長(A) 堤防・護岸等の高さが想定津波高に対応している海岸保全区域延長(B) 堤防・護岸等の高さが想定津波高より低くなっている海岸保全区域延長(C)
km 防護人口
km(B/A)% 防護人口
km(C/A)% 防護人口
強化地域 神奈川県 7 30.1 30.1 29.8 ( 99.1) 0.0 (  0.0)
静岡県 32 271.6 271.6 314,088 192.3 ( 70.8) 250,435 79.2 ( 29.2) 63,653
愛知県 23 333.8 333.8 264.3 ( 79.2) 69.4 ( 20.8)
三重県 12 427.0 427.0 120,607 204.0 ( 47.8) 65,618 215.9 ( 50.6) 54,989
両省合計 74 1,062.6 1,062.6 434,695 690.7 ( 65.0) 316,053 364.6 ( 34.3) 118,642
推進地域 静岡県 19 190.6 190.6 243,087 128.8 ( 67.6) 193,653 61.8 ( 32.4) 49,434
愛知県 23 333.8 333.8 264.3 ( 79.2) 69.4 ( 20.8)
三重県 23 532.4 532.4 212,394 309.5 ( 58.1) 157,405 215.9 ( 40.6) 54,989
兵庫県 21 402.3 402.3 361,036 384.1 ( 95.5) 349,999 18.1 (  4.5) 11,037
和歌山県 21 208.6 208.6 70.1 ( 33.6) 138.5 ( 66.4)
山口県 1 73.1 73.1 72.1 ( 98.6) 1.0 (  1.4)
愛媛県 19 1,189.0 1,032.2 652.3 ( 63.2) 285.3 ( 27.6)
高知県 24 284.3 284.3 200.0 ( 70.3) 79.8 ( 28.1)
宮崎県 9 89.1 89.1 44.7 ( 50.2) 44.3 ( 49.7)
両省合計 160 3,303.6 3,146.9 816,517 2,126.2 ( 67.6) 701,057 914.4 ( 29.1) 115,460
重複地域 静岡県 19 190.6 190.6 243,087 128.8 ( 67.6) 193,653 61.8 ( 32.4) 49,434
愛知県 23 333.8 333.8 264.3 ( 79.2) 69.4 ( 20.8)
三重県 12 427.0 427.0 120,607 204.0 ( 47.8) 65,618 215.9 ( 50.6) 54,989
両省合計 54 951.5 951.5 363,694 597.2 ( 62.8) 259,271 347.2 ( 36.5) 104,423

ウ 堤防・護岸等の耐震性の状況

(ア)海岸保全施設の整備の推移

 全国の海岸保全施設の施設延長は、図4のとおり推移してきており、15年度末の施設延長は約9,500kmである。このうち94%の約9,000kmが昭和61年度末までに整備されている。
 海岸保全施設の耐震性について、設計基準に地震に関する基準が追加されたのは62年3月で、それ以前は明記されていなかった。また、地盤の液状化に関する基準は、阪神・淡路大震災を契機として構造物の耐震設計法の見直しがなされ、平成16年6月に改訂された設計基準から明記された。
 また、海岸を所管する4省庁(農林水産省、水産庁、旧運輸省、旧建設省)では、7年1月に発生した阪神・淡路大震災後の同年4月に海岸保全施設耐震点検マニュアルを策定し、海岸管理者はこれを参考として既設の堤防・護岸等の耐震性(基礎地盤の液状化等)について調査を実施することとしている。

図4 年度別海岸保全施設の延長(国土交通省、農林水産省)

図4年度別海岸保全施設の延長(国土交通省、農林水産省)

(注)
国土交通省河川局海岸統計による。

(イ)18道県における堤防・護岸等の耐震性の状況

 両省所管の堤防・護岸等の延長は、図5及び表3—1のとおり4,877.8kmである。これらの堤防・護岸等の耐震性に関する状況についてみると、このうち耐震性が確保されている延長は787.8km(16.2%)、今後堤防・護岸等の基礎地盤の液状化対策等の耐震性の機能向上を目的とする工事(以下「耐震化工事」という。)が必要な延長が230.2km(4.7%)となっている。また、耐震性の調査を実施していない延長は3,859.7km(79.1%)となっており、堤防・護岸等の耐震化の必要性自体が不明となっているものが多数見受けられる。

図5 堤防・護岸等の耐震性の状況

図5堤防・護岸等の耐震性の状況

 

表3—1 堤防・護岸等の耐震性の状況
(単位:km)

  都道府県名

海岸保全区域延長のうち堤防・護岸等の延長
A=B+G
耐震性調査延長 耐震性調査未了延長

G
(G/A)%
B=C+F
(B/A)%
耐震化確保延長 耐震化工事必要延長
F
(F/A)%
C=D+E
(C/A)%
耐震化工事完了延長
D
(D/A)%
耐震化工事不要延長
E
(E/A)%
両省分(18道県) 北海道 520.3 118.6 110.5 10.1 100.3 8.1 401.7
岩手県 92.3 28.3 23.4 5.1 18.3 4.8 64.0
宮城県 137.5 50.3 29.4 1.6 27.7 20.9 87.1
山形県 18.4 11.9 6.9 0.0 6.9 4.9 6.4
神奈川県 83.1 39.7 5.2 5.2 0.0 34.5 43.4
静岡県 158.8 158.8 146.1 47.0 99.0 12.6 0.0
愛知県 288.2 204.0 138.8 10.8 128.0 65.2 84.1
三重県 386.7 52.4 28.2 7.8 20.3 24.2 334.2
兵庫県 296.5 16.7 16.7 1.2 15.4 0.0 279.8
和歌山県 180.1 9.1 1.0 0.0 1.0 8.1 171.0
島根県 71.7 20.3 20.3 0.0 20.3 0.0 51.3
山口県 444.0 224.6 214.1 9.4 204.6 10.5 219.3
愛媛県 615.3 58.7 24.0 0.3 23.7 34.6 556.6
高知県 215.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 215.2
長崎県 760.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 760.3
宮崎県 57.6 5.3 5.3 0.0 5.3 0.0 52.3
鹿児島県 374.7 3.0 1.6 1.6 0.0 1.3 371.6
沖縄県 176.1 15.6 15.6 11.4 4.2 0.0 160.5
国交省計 3,023.9 657.0
(21.7)
518.2
(17.1)
100.7
(3.3)
417.5
(13.8)
138.7
(4.6)
2,366.8
(78.3)
農水省計 1,853.8 361.0
(19.5)
269.5
(14.5)
11.2
(0.6)
258.3
(13.9)
91.4
(4.9)
1,492.8
(80.5)
両省合計 4,877.8 1,018.1
(20.9)
787.8
(16.2)
112.0
(2.3)
675.8
(13.9)
230.2
(4.7)
3,859.7
(79.1)
国交省分(14都府県) 秋田県 67.2 0.2 0.2 0.2 0.0 0.0 67.0
福島県 51.0 39.4 31.2 0.0 31.2 8.1 11.5
茨城県 61.9 3.4 3.4 0.0 3.4 0.0 58.5
東京都 95.1 73.5 64.9 11.5 53.4 8.6 21.5
石川県 150.5 18.5 17.6 5.5 12.1 0.8 132.0
京都府 65.3 14.9 5.0 0.0 5.0 9.8 50.4
大阪府 100.4 100.4 53.5 5.9 47.6 46.8 0.0
鳥取県 49.6 43.7 43.7 0.0 43.7 0.0 5.9
広島県 381.3 360.5 281.3 3.6 277.7 79.1 20.8
徳島県 89.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 89.3
香川県 122.0 8.5 2.2 0.0 2.2 6.3 113.4
福岡県 96.3 64.1 40.4 19.0 21.3 23.7 32.1
佐賀県 73.8 40.7 39.5 5.6 33.8 1.2 33.0
大分県 111.9 16.5 15.6 0.9 14.6 0.9 95.3
国交省計 1,516.4 784.9
(51.8)
599.0
(39.5)
52.5
(3.5)
546.5
(36.0)
185.8
(12.3)
731.4
(48.2)
農水省分(5県) 青森県 69.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 69.8
千葉県 25.6 1.9 1.9 0.0 1.9 0.0 23.6
福井県 33.5 5.5 5.5 0.0 5.5 0.0 27.9
岡山県 77.5 47.4 30.5 0.0 30.5 16.9 30.0
熊本県 212.9 212.9 123.2 0.0 123.2 89.7 0.0
農水省計 419.4 267.9
(63.9)
161.3
(38.5)
0.0
(0.0)
161.3
(38.5)
106.6
(25.4)
151.4
(36.1)
都道府県の各延長は、m単位で集計したものであるため、その各延長を合計しても国交省計、農水省計及び両省合計とは一致しない(表3—2についても同様)。

(ウ)強化地域等における堤防・護岸等の耐震性の状況

 強化地域又は推進地域に指定されている沿岸の市町村及び両地域に重複して指定されている市町村における堤防・護岸等の耐震性に関する状況についてみると、表3—2のとおり、耐震性が確保されている延長はそれぞれ288.2km(38.0%)、327.3km(15.0%)、238.7km(35.0%)、今後耐震化工事が必要な延長がそれぞれ103.7km(13.7%)、139.7km(6.4%)、80.9km(11.9%)となっている。また、耐震性の調査を実施していない延長は、それぞれ366.0km(48.3%)、1,713.7km(78.6%)、361.9km(53.1%)となっており、堤防・護岸等の耐震化の必要性自体が不明となっているものが多数見受けられ、強化地域等における堤防・護岸等の耐震性の調査は、必ずしも進んでいるとはいえない状況となっている。

表3—2 強化地域等における堤防・護岸等の耐震性の状況
(単位:km)

各地域における県別市町村数
海岸保全区域延長のうち堤防・護岸等の延長
A=B+G
耐震性調査延長 耐震性調査未了延長
G
(G/A)%
B=C+F
(B/A)%
耐震化確保延長 耐震化工事必要延長
F
(F/A)%
C=D+E
(C/A)%
耐震化工事完了延長
D
(D/A)%
耐震化工事不要延長
E
(E/A)%
強化地域 神奈川県 7 22.5 18.4 0.8 0.8 0.0 17.6 4.1
静岡県 32 158.8 158.8 146.1 47.0 99.0 12.6 0.0
愛知県 23 288.2 204.0 138.8 10.8 128.0 65.2 84.1
三重県 12 288.2 10.5 2.3 0.0 2.3 8.1 277.7
両省合計 74 757.9 391.9
(51.7)
288.2
(38.0)
58.7
(7.8)
229.4
(30.3)
103.7
(13.7)
366.0
(48.3)
推進地域 静岡県 19 105.0 105.0 97.5 24.0 73.4 7.5 0.0
愛知県 23 288.2 204.0 138.8 10.8 128.0 65.2 84.1
三重県 23 386.7 52.4 28.2 7.8 20.3 24.2 334.2
兵庫県 21 290.1 16.7 16.7 1.2 15.4 0.0 273.4
和歌山県 21 180.1 9.1 1.0 0.0 1.0 8.1 171.0
山口県 1 61.6 15.8 15.8 0.0 15.8 0.0 45.7
愛媛県 19 605.2 58.7 24.0 0.3 23.7 34.6 546.4
高知県 24 215.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 215.2
宮崎県 9 48.4 5.1 5.1 0.0 5.1 0.0 43.3
両省合計 160 2,180.9 467.1
(21.4)
327.3
(15.0)
44.2
(2.0)
283.0
(13.0)
139.7
(6.4)
1,713.7
(78.6)
重複地域 静岡県 19 105.0 105.0 97.5 24.0 73.4 7.5 0.0
愛知県 23 288.2 204.0 138.8 10.8 128.0 65.2 84.1
三重県 12 288.2 10.5 2.3 0.0 2.3 8.1 277.7
両省合計 54 681.5 319.6
(46.9)
238.7
(35.0)
34.8
(5.1)
203.8
(29.9)
80.9
(11.9)
361.9
(53.1)

(エ)想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況

 堤防・護岸等については、その高さが想定津波高に対応していても耐震性が確保されていなければ、大地震に伴って発生する津波に対して防護効果が十分発現しないおそれがあることから、想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況について検査したところ、次のとおりとなっていた。

a 18道県における想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況

 堤防・護岸等の高さが想定津波高に対応している海岸保全区域の延長は、表2—1のとおり4,568.2kmであり、堤防・護岸等の施設延長は、図6及び表4—1のとおり2,429.2kmである。このうち、耐震性が確保されている延長は597.4km(24.6%)、今後耐震化工事が必要な延長が172.7km(7.1%)となっている。また、耐震性の調査を実施していない延長は1,659.1km(68.3%)となっており、堤防・護岸等の耐震化の必要性自体が不明となっているものが多数見受けられる。
 このように、堤防・護岸等の高さについては、表2—1のとおり4,568.2km(75.4%)整備されているが、耐震性の調査が未了のため、堤防・護岸等の耐震化の必要性自体が不明となっているものが西日本において顕著に見受けられる状況である。

図6 想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況

図6想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況

 

表4—1 想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況
(単位:km)

  都道府県名

想定津波高に対応している堤防・護岸等の延長
A=B+G
耐震性調査延長 耐震性調査未了延長

G
(G/A)%
B=C+F
(B/A)%
耐震化確保延長 耐震化工事必要延長
F
(F/A)%
C=D+E
(C/A)%
耐震化工事完了延長
D
(D/A)%
耐震化工事不要延長
E
(E/A)%
両省分(18道県) 北海道 440.5 89.5 84.7 10.0 74.6 4.8 350.9
岩手県 23.1 6.3 6.3 0.5 5.8 0.0 16.7
宮城県 55.3 24.4 8.9 0.0 8.9 15.5 30.8
山形県 15.8 11.9 6.9 0.0 6.9 4.9 3.9
神奈川県 70.4 32.4 4.2 4.2 0.0 28.1 37.9
静岡県 107.7 107.7 102.5 35.0 67.5 5.1 0.0
愛知県 240.8 164.1 99.9 10.8 89.0 64.2 76.6
三重県 196.3 50.1 28.2 7.8 20.3 21.9 146.1
兵庫県 277.4 16.7 16.7 1.2 15.4 0.0 260.7
和歌山県 42.8 1.5 0.8 0.0 0.8 0.7 41.2
島根県 想定津波高を設定していない
山口県 370.7 214.0 203.5 9.4 194.0 10.5 156.7
愛媛県 313.9 38.3 21.7 0.3 21.4 16.6 275.5
高知県 136.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 136.7
長崎県 想定津波高を設定していない
宮崎県 27.3 4.5 4.5 0.0 4.5 0.0 22.7
鹿児島県 想定津波高を設定していない
沖縄県 109.9 7.9 7.9 4.3 3.6 0.0 101.9
国交省計 1,698.6 537.9
(31.6)
419.8
(24.7)
79.3
(4.7)
340.5
(20.0)
118.1
(7.0)
1,160.6
(68.3)
農水省計 730.6 232.2
(31.8)
177.5
(24.3)
4.6
(0.6)
172.9
(23.7)
54.6
(7.5)
498.4
(68.2)
両省合計 2,429.2 770.1
(31.7)
597.4
(24.6)
83.9
(3.5)
513.4
(21.1)
172.7
(7.1)
1,659.1
(68.3)
国交省分(14都府県) 秋田県 54.9 0.2 0.2 0.2 0.0 0.0 54.7
福島県 51.0 39.4 31.2 0.0 31.2 8.1 11.5
茨城県 想定津波高を設定していない
東京都 95.1 73.5 64.9 11.5 53.4 8.6 21.5
石川県 88.8 18.5 17.6 5.5 12.1 0.8 70.3
京都府 19.9 10.6 4.7 0.0 4.7 5.9 9.3
大阪府 100.4 100.4 53.5 5.9 47.6 46.8 0.0
鳥取県 49.6 43.7 43.7 0.0 43.7 0.0 5.9
広島県 326.8 324.1 250.5 3.4 247.1 73.6 2.6
徳島県 35.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 35.7
香川県 84.1 7.3 2.2 0.0 2.2 5.0 76.8
福岡県 27.7 19.0 13.8 0.0 13.8 5.2 8.7
佐賀県 想定津波高を設定していない
大分県 100.8 16.5 15.6 0.9 14.6 0.9 84.3
国交省計 1,035.3 653.6
(63.1)
498.3
(48.1)
27.5
(2.7)
470.8
(45.5)
155.3
(15.0)
381.7
(36.9)
農水省分(5県) 青森県 37.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 37.6
千葉県 12.6 1.2 1.2 0.0 1.2 0.0 11.3
福井県 20.0 4.0 4.0 0.0 4.0 0.0 16.0
岡山県 53.7 29.6 12.7 0.0 12.7 16.9 24.0
熊本県 想定津波高を設定していない
農水省計 124.1 35.0
(28.2)
18.0
(14.6)
0.0
(0.0)
18.0
(14.6)
16.9
(13.7)
89.1
(71.8)
注(1) 茨城、島根、佐賀、長崎、熊本、鹿児島各県については、想定津波高が設定されていないので集計から除外した。
注(2) 都道府県の各延長は、m単位で集計したものであるため、その延長を合計しても国交省計、農水省計及び両省合計とは一致しない(表4—2についても同様)。

b 強化地域等における想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況

 強化地域又は推進地域に指定されている沿岸の市町村及び両地域に重複して指定されている市町村において、堤防・護岸等の高さが想定津波高に対応しているものの耐震性については、表4—2のとおり、耐震性が確保されている延長はそれぞれ205.7km(43.3%)、249.7km(18.5%)、164.3km(40.1%)、今後耐震化工事が必要な延長がそれぞれ92.8km(19.5%)、106.0km(7.9%)、72.6km(17.8%)となっている。また、耐震性の調査を実施していない延長は、それぞれ176.5km(37.2%)、992.5km(73.6%)、172.4km(42.1%)となっており、堤防・護岸等の耐震化の必要性自体が不明となっているものが多数見受けられる。このように、強化地域等において、高さが想定津波高に対応している堤防・護岸等について耐震性の調査は必ずしも進んでいるとはいえない状況となっている。

表4—2 強化地域等における想定津波高に対応している堤防・護岸等の耐震性の状況
(単位:km)

各地域における県別市町村数

想定津波高に対応している堤防・護岸等の延長
A=B+G
耐震性調査延長 耐震性調査未了延長

G
(G/A)%
B=C+F
(B/A)%
耐震化確保延長
耐震化工事必要延長
F
(F/A)%
C=D+E (C/A)% 耐震化工事完了延長
D
(D/A)%
耐震化工事不要延長
E
(E/A)%
強化地域 神奈川県 7 22.5 18.4 0.8 0.8 0.0 17.6 4.1
静岡県 32 107.7 107.7 102.5 35.0 67.5 5.1 0.0
愛知県 23 240.8 164.1 99.9 10.8 89.0 64.2 76.6
三重県 12 104.0 8.2 2.3 0.0 2.3 5.8 95.7
両省合計 74 475.1 298.6
(62.8)
205.7
(43.3)
46.7
(9.8)
158.9
(33.5)
92.8
(19.5)
176.5
(37.2)
推進地域 静岡県 19 64.5 64.5 62.0 15.0 47.0 2.5 0.0
愛知県 23 240.8 164.1 99.9 10.8 89.0 64.2 76.6
三重県 23 196.3 50.1 28.2 7.8 20.3 21.9 146.1
兵庫県 21 269.7 16.7 16.7 1.2 15.4 0.0 253.0
和歌山県 21 42.8 1.5 0.8 0.0 0.8 0.7 41.2
山口県 1 60.5 15.8 15.8 0.0 15.8 0.0 44.6
愛媛県 19 313.9 38.3 21.7 0.3 21.4 16.6 275.5
高知県 24 136.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 136.7
宮崎県 9 22.8 4.3 4.3 0.0 4.3 0.0 18.4
両省合計 160 1,348.3 355.8
(26.4)
249.7
(18.5)
35.2
(2.6)
214.5
(15.9)
106.0
(7.9)
992.5
(73.6)
重複地域 静岡県 19 64.5 64.5 62.0 15.0 47.0 2.5 0.0
愛知県 23 240.8 164.1 99.9 10.8 89.0 64.2 76.6
三重県 12 104.0 8.2 2.3 0.0 2.3 5.8 95.7
両省合計 54 409.4 236.9
(57.9)
164.3
(40.1)
25.8
(6.3)
138.4
(33.8)
72.6
(17.8)
172.4
(42.1)

エ 18道県の高潮等に対する堤防・護岸等の整備状況

 両省所管の海岸保全区域延長8,668.2kmのうち、堤防・護岸等の高さが高潮等の高さに対応している海岸保全区域延長は、図7及び表5のとおり5,646.6km(74.3%、防護人口約450万人)となっている。
 一方、海岸保全区域延長1,869.1km(24.6%)については、堤防・護岸等の高さが高潮等の高さより低くなっている状況で、西日本の一部の県においては必ずしも整備が進んでいるとはいえない状況となっている。
 高潮対策については、海岸整備が推進された結果もあって、昭和40年代以降、伊勢湾台風規模の大規模な高潮被害は発生していない。しかし、日本列島は台風の常襲地帯であり、高潮等による大きな被害が発生するおそれは依然として高く、さらに、気候変動による海面上昇の影響などから、高潮等による被害は今後より多くなるおそれがある。そして、平成11年9月の台風18号により高潮被害を受けた山口県では、設計高潮位を15年4月に見直し、15年度の設計から適用することとしており、見直し後の潮位に合わせて改めて堤防・護岸等のかさ上げを行うこととしている。
 また、18道県以外の岡山、香川両県においても、設計高潮位の見直しを行っている。

図7 高潮等に対する堤防・護岸等の整備状況

図7高潮等に対する堤防・護岸等の整備状況

表5 高潮に対する堤防・護岸等の整備状況
  都道府県名
海岸保全区域延長
km
左のうち高潮等の高さを設定している海岸保全区域延長(A) 堤防・護岸等の高さが高潮等の高さに対応している海岸保全区域延長(B) 堤防・護岸等の高さが高潮等の高さより低くなっている海岸保全区域延長(C)
km 防護人口
(B/A)
km   %
防護人口
(C/A)
km   %
防護人口
両省分(18道県) 北海道 1,734.8 1,694.4 183,003 1,358.3 ( 80.2) 134,385 336.1 (19.8) 48,618
岩手県 133.6 95.2 19,434 95.2 (100.0) 19,434 0.0 ( 0.0) 0
宮城県 204.2 141.0 118,882 122.4 ( 86.8) 112,222 18.6 (13.2) 6,660
山形県 70.3 65.3 5,463 58.4 ( 89.5) 4,589 6.8 (10.5) 874
神奈川県 128.0 91.4 294,673 68.2 ( 74.6) 202,932 23.1 (25.4) 91,741
静岡県 271.6 231.0 235,514 168.6 ( 73.0) 230,795 62.3 (27.0) 4,719
愛知県 333.8 333.8 1,961,696 233.8 ( 70.1) 1,773,553 99.9 (29.9) 188,143
三重県 532.4 489.2 442,357 307.0 ( 62.8) 210,964 182.1 (37.2) 231,393
兵庫県 417.5 416.9 841,890 300.7 ( 72.1) 753,492 116.1 (27.9) 88,143
和歌山県 208.6 176.2 97,755 101.2 ( 57.4) 35,551 75.0 (42.6) 62,204
島根県 130.5 127.3 13,258 115.2 ( 90.4) 12,184 12.1 ( 9.6) 1,074
山口県 550.6 438.0 687,589 305.9 ( 69.8) 499,059 131.8 (30.1) 140,312
愛媛県 1,189.0 1,096.0 285,827 748.5 ( 68.3) 139,807 341.5 (31.2) 146,020
高知県 284.3 270.8 99,351 263.0 ( 97.1) 95,274 7.8 ( 2.9) 4,057
長崎県 1,361.7 948.4 87,945 540.6 ( 57.0) 51,385 372.5 (39.3) 35,386
宮崎県 109.9 101.9 18,045 101.9 (100.0) 18,045 0.0 ( 0.0) 0
鹿児島県 591.3 523.0 167,797 493.1 ( 94.3) 165,432 21.4 ( 4.1) 1,961
沖縄県 415.3 360.5 74,959 263.9 ( 73.2) 50,386 61.2 (17.0) 24,289
国交省計 5,397.9 5,239.6 5,005,621 3,984.2 ( 76.0) 4,095,620 1,255.4 (24.0) 910,001
農水省計 3,270.3 2,361.6 629,817 1,662.4 ( 70.4) 413,869 613.7 (26.0) 165,593
両省合計 8,668.2 7,601.2 5,635,438 5,646.6 ( 74.3) 4,509,489 1,869.1 (24.6) 1,075,594
国交省分 ( 14都府県) 秋田県 135.2 130.7 4,248 46.2 ( 35.4) 2,561 84.5 (64.6) 1,687
福島県 66.6 66.6 17,669 61.0 ( 91.6) 16,563 5.6 ( 8.4) 1,106
茨城県 103.6 103.6 18,030 97.7 ( 94.3) 14,566 5.8 ( 5.7) 3,464
東京都 135.4 135.4 1,007,812 104.9 ( 77.4) 809,434 30.5 (22.6) 198,378
石川県 192.8 192.8 17,440 175.0 ( 90.8) 15,764 17.8 ( 9.2) 1,676
京都府 85.6 85.6 7,414 77.7 ( 90.7) 6,270 7.9 ( 9.3) 1,144
大阪府 102.1 102.1 812,657 83.1 ( 81.5) 758,461 18.9 (18.5) 54,196
鳥取県 105.9 105.9 23,988 89.4 ( 84.4) 15,649 16.5 (15.6) 8,339
広島県 405.0 405.0 415,640 286.6 ( 70.8) 343,819 118.3 (29.2) 71,821
徳島県 102.6 89.2 358,239 67.2 ( 75.4) 325,554 21.9 (24.6) 32,685
香川県 143.2 119.0 110,828 104.5 ( 87.8) 73,407 14.5 (12.2) 37,421
福岡県 126.1 126.1 180,587 106.9 ( 84.7) 97,729 19.2 (15.3) 82,858
佐賀県 75.4 75.4 228,886 63.3 ( 84.0) 168,152 12.1 (16.0) 60,734
大分県 137.2 116.8 92,656 113.2 ( 96.9) 92,195 3.5 ( 3.1) 461
国交省計 1,917.5 1,855.0 3,296,094 1,477.4 ( 79.6) 2,740,124 377.5 (20.4) 555,970
農水省分 ( 5県) 青森県 127.1 127.1 19,909 103.9 ( 81.7) 16,011 23.2 (18.3) 3,898
千葉県 43.2 40.1 18,891 24.5 ( 61.2) 18,149 4.3 (10.9) 742
福井県 51.7 10.7 4,980 3.5 ( 32.5) 93 7.2 (67.5) 3,796
岡山県 85.5 79.0 90,127 26.1 ( 33.1) 60,640 52.3 (66.3) 28,837
熊本県 297.5 262.3 201,341 116.6 ( 44.5) 109,708 145.6 (55.5) 91,488
農水省計 605.1 519.4 335,248 274.8 ( 52.9) 204,601 232.9 (44.8) 128,761
注(1) 千葉、岡山、山口、愛媛、長崎、鹿児島、沖縄各県については、一部堤防・護岸等の高さが不明な延長があるため、(A)=(B)+(C)とならない。
注(2) 都道府県の海岸保全区域延長は、m単位で集計したものであるため、その延長を合計しても国交省計、農水省計及び両省合計とは一致しない。

(3)津波・高潮災害に対するソフト対策について

 津波・高潮等に対するハード面からの防災対策は、過去の災害状況等から施設設計上の防護目標(以下「防護目標」という。)を立て、堤防・護岸等の海岸保全施設の整備を行うことにより災害を抑止することであるが、防護目標を超える災害発生のおそれもあり、また、防護目標内であっても、海岸保全施設の整備が未実施となっている箇所や整備した海岸保全施設が有効に機能しない場合があることなどから、災害を最小限に止めるためにはソフト面からの対策の整備が必要となる。このため、市町村では、地域防災計画に基づき、津波・高潮災害に対する地域住民の避難や施設整備等の検討のために、都道府県が作成する浸水が予測される区域と浸水の程度を示した地図(以下「浸水予測区域図」という。)等に、必要に応じ避難場所・避難路などの防災情報を加えた津波及び高潮ハザードマップを住民へ配布することとしている。また、都道府県は、市町村等が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、かつ、活動の総合調整を行うこととされている。

ア 津波ハザードマップの整備状況

(ア)市町村における整備状況

 37都道府県の沿岸にある市町村は、表6のとおり792市町村となっているが、岩手、静岡両県以外の都道府県では津波ハザードマップが未整備の市町村が多い状況で、実際に作成し配布している市町村は全体の19.6%の156市町村となっている。このうち、岩手県では津波ハザードマップの整備率が100%となっているが、これは同県では既往最大の津波高が非常に高いことから背後地の土地利用等を考慮して堤防・護岸等の計画高を既往最大の津波高より低く設定しているため、堤防・護岸等の施設整備だけで津波の被害から防護することは不可能であることから、県内のすべての沿岸市町村で、津波ハザードマップを作成し住民に配布するなどして、津波に対するソフト面からの対策を実施していることによるものである。このように、岩手県では、施設整備というハード面からの対策と津波ハザードマップを住民に配布し避難方法等を周知するというソフト面からの対策とを併せ行うことにより、津波の被害から住民を防護する施策をとっている。

表6 ハザードマップの整備状況
都道府県名 対象市区町村数 津波ハザードマップ 高潮ハザードマップ
浸水予測区域図の作成状況 整備済市町村数 未整備市町村数 整備率
%
浸水予測区域図の作成状況 整備済市町村数 未整備市町村数 整備率
%
北海道 88 × 10 78 11.3 × 4 84 4.5
青森県 22 × 0 22 0 × 0 22 0
岩手県 13 13 0 100 × 0 13 0
宮城県 23 9 14 39.1 × 0 23 0
秋田県 11 × 0 11 0 × 0 11 0
山形県 4 × 0 4 0 × 0 4 0
福島県 12 × 0 12 0 × 0 12 0
茨城県 12 × 0 12 0 × 0 12 0
千葉県 37 9 28 24.3 × 4 33 10.8
東京都  ◎△ 15 0 15 0 × 0 15 0
神奈川県  ◎ 15 0 15 0 × 0 15 0
石川県 17 2 15 11.7 × 0 17 0
福井県 12 0 12 0 × 0 12 0
静岡県  ◎● 32 28 4 87.5 × 0 32 0
愛知県   ● 23 13 10 56.5 × 0 23 0
三重県  △● 23 11 12 47.8 × 0 23 0
京都府 5 × 0 5 0 × 0 5 0
大阪府   △ 12 1 11 8.3 × 0 12 0
兵庫県   △ 25 5 20 20.0 × 2 23 8.0
和歌山県  △ 21 11 10 52.3 × 0 21 0
鳥取県 10 3 7 30.0 × 0 10 0
島根県 13 × 0 13 0 × 0 13 0
岡山県   △ 7 1 6 14.2 × 1 6 14.2
広島県   △ 17 × 0 17 0 × 1 16 5.8
山口県   △ 21 × 0 21 0 × 1 20 4.7
徳島県   △ 12 5 7 41.6 × 0 12 0
香川県   △ 19 1 18 5.2 × 1 18 5.2
愛媛県   △ 19 3 16 15.7 × 0 19 0
高知県   △ 24 10 14 41.6 × 0 24 0
福岡県 19 × 0 19 0 × 0 19 0
佐賀県 11 × 0 11 0 × 1 10 9.0
長崎県 32 × 0 32 0 × 0 32 0
熊本県 27 × 1 26 3.7 × 0 27 0
大分県   △ 15 3 12 20.0 × 0 15 0
宮崎県   △ 13 2 11 15.3 × 0 13 0
鹿児島県 59 × 0 59 0 × 0 59 0
沖縄県 52 × 15 37 28.8 × 6 46 11.5
合計 792 21 156 636 19.6 0 21 771 2.6
うち強化地域 23 9 14 39.1  
うち推進地域 165 45 120 27.2
うち重複地域 54 39 15 72.2
注(1) 「都道府県名」欄の◎は強化地域のみ、△は推進地域のみ、●は両地域に重複指定されている市町村が所在する都道府県
注(2) 「浸水予測区域図の作成状況」欄の○は作成済み、×は非作成、▲は一部作成、合計欄は作成済みの都道府県数

(イ)津波ハザードマップが整備されていない理由

 津波による浸水予測区域図を作成している都道府県は、表6のとおり37都道府県のうち21都府県となっている。これらの都府県のうち、浸水予測区域図を最近作成した都府県内の各市町村では、津波ハザードマップが作成中であったり、市町村合併後に作成を予定していたりしており、津波ハザードマップの整備が進められている状況となっている。
 一方、浸水予測区域図を作成していない16道府県では、ほとんどの市町村において津波ハザードマップが整備されていない状況となっている。これらの道府県においては、津波による浸水予測区域図を早急に作成し、市町村における津波ハザードマップの作成を支援する要があると認められる。

(ウ)強化地域等における整備状況

 37都道府県のうち、強化地域のみ又は推進地域のみに指定されている沿岸の市町村及び両地域に重複して指定されている市町村は、表6のとおり、それぞれ23市町村、165市町村、54市町村あり、これらの地域のうち津波ハザードマップが作成されている市町村は、それぞれ9市町村、45市町村、39市町村にとどまっていて、強化地域等についてはその整備状況は十分とはいえず、今後一層の整備の推進が必要である。
 なお、両省では、17年度から、大規模地震による災害が甚大であり、緊急的な対策を要する地域に存する海岸については、津波ハザードマップの作成を支援する経費(浸水予測区域調査、耐震調査、避難路調査等)について国庫補助の対象とすることとし、津波ハザードマップの作成の推進を図ることとしている。

イ 高潮ハザードマップの整備状況

(ア)市町村における整備状況

 37都道府県の沿岸にある792市町村のうち、高潮ハザードマップを作成し配布している市町村は全体の2.6%の21市町村と極めて少ない状況となっている。

(イ)高潮ハザードマップが整備されていない理由

 表6のとおり、高潮等による浸水予測区域図を作成している都道府県はなく、また、市町村において高潮ハザードマップが整備されていないのは、主として高潮等による浸水予測区域図を、都道府県で作成していないことによるものであった。
 しかし、我が国では従来から台風による高潮等の被害が多数生じていることから、都道府県においては、高潮等による浸水予測区域図を作成し、市町村における高潮ハザードマップの作成の推進を図る要があると認められる。特に、湾内に面し、人口、資産の集中が著しい地区で背後地の地盤が低い地区においては、より大きな高潮被害の発生のおそれが高いことから、早急に高潮ハザードマップを整備する必要があると認められる。
 以上のように、いまだに津波及び高潮ハザードマップが整備されていない市町村が多くあり、これら自然災害に対する事前の被害想定を住民に十分周知する段階に至っているとは認められない状況となっている。

ウ 海岸利用者に対するソフト対策

 海岸の利用者は沿岸市町村の住民に限られるものではなく、観光客や来訪者等(以下「海岸利用者」という。)の多くも海岸を利用することから、海岸利用者への津波来襲時の情報伝達や避難方法等の周知が重要となっている。
 そこで、海岸利用者に対する災害時の情報伝達や周知等の体制について調査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア)津波発生時に海岸利用者に対する避難情報等の伝達はどのように行うか調査したところ、市町村等が設置した防災無線スピーカー等により情報伝達を図るとしている海岸管理者が多くなっている。しかし、防災無線スピーカー等を設置していなかったり、設置していても防災無線スピーカー等の音声の到達範囲が限られたりしている状況も見受けられる。

(イ)津波発生時の避難施設の指定や施設整備等を行っているか調査したところ、災害発生時には非常に有効となる避難施設の指定等は十分進んでいない状況が見受けられる。

(ウ)津波・高潮等の浸水予測区域について、海岸利用者へどのように周知しているか調査したところ、避難場所等を掲載したハザードマップの整備状況が、前記のとおり十分とはいえない状況であることなどから、今後の検討課題としている海岸管理者が多く見受けられる。

(4)海岸保全施設の管理について

ア 海岸台帳の整備について

 前記のとおり、海岸管理者は海岸法に基づき、海岸台帳を調製し、保管しなければならないこととなっており、海岸保全区域、海岸保全区域の指定年月日及び海岸保全施設の位置、種類、構造等を記載した帳簿及び図面の記載事項について変更があったときは、海岸管理者は速やかに訂正しなければならないとされている。また、海岸台帳は、海岸保全区域及び海岸保全施設の管理に当たり、これらの状況を把握し得る唯一のものとして位置付けられており、海岸保全区域を管理するに当たり不可欠のものであることなどから、海岸保全の実施及び今後の総合的な海岸事業の実施のためにも、常時、正確に、現状を表すものとして整備しておく必要があると認められる。
 しかし、37都道府県管内の145海岸管理者における海岸台帳の整備状況について検査したところ、48海岸管理者において、海岸台帳の調製が十分行われていないなどのために、海岸保全区域の範囲が不明となっていたり、過去に整備した海岸保全施設のしゅん功年月日、位置、延長、構造、天端高等が不明となっていたりしていた。
 これは、一部の海岸管理者が、海岸台帳によらず、独自に作成、保管している資料等により管理に当たっている場合があることなどによると思料されるが、上記のとおり、海岸法で、海岸台帳は海岸保全区域及び海岸保全施設等の状況を把握し得る唯一のものと位置付けられており、一元的な海岸管理を実施することにより、津波・高潮等に対して適切に対応するためにも、不統一な資料によることなく、海岸台帳を整備する要があると認められる。
 また、堤防・護岸等に対する耐震性の調査及び工事の実施状況を海岸台帳への記載事項に追加したり、港湾・漁港施設を海岸保全施設として最大限活用するため、これらの施設についても防災機能を十分検討し、海岸保全施設として取り扱うこととして海岸台帳に登載したりするなどして海岸台帳の充実を図り、もって今後の計画的な海岸事業の実施に資することが望まれる。

イ 海岸保全施設の開口部に設けられた陸閘等の管理について

 海浜、岸壁、物揚場等とその背後の住宅、道路等の間に堤防、胸壁等の海岸保全施設が設けられている場合には、通常時に岸壁等とその背後地との間の車両及び人の通行等の確保をするために開口部を設けることにより、堤防、胸壁等が一部不連続となる箇所がある。そして、これらの開口部には、主として鋼製の扉を備え、これを閉鎖することにより海水の侵入を防ぐ陸閘又は水門、樋門等の閉鎖用施設(以下「陸閘等」という。)が設置されている。陸閘等は、津波・高潮等の非常時に閉鎖された状態にしておかないと、津波又は高潮等の高さに対し堤防等の高さが対応していても、開口部からの海水の侵入を防ぐことができないことから、開口部が閉鎖されなければ多額の事業費を用いて整備した堤防等の防護効果が十分発現しないこととなる。このため、陸閘等は、通常時に開放していても災害が想定される場合には容易に閉鎖できるものとなっていることが必要であるとともに、確実に閉鎖する体制が求められる。
 特に、強化地域及び推進地域は、東海地震、東南海・南海地震による津波等が想定され、著しい災害が生ずるおそれがあるため防災対策の強化等を要する地域であることから、これらの地域内においては、開口部を確実に閉鎖する体制等を早急に整えることが求められている。
 今回、開口部の幅が2m以上、高さが1m以上を有する2,100箇所の陸閘等のうち、通常時に開放している1,833箇所について、その操作方法及び閉鎖体制等について検査したところ、表7のとおり動力化等が未実施で手動で閉鎖しなければならないものが1,570箇所(85.7%)と大半を占めていた。また、動力化等が実施済の箇所のうちでも、遠隔操作が導入されていたのは東京都、大阪府などの大都市や強化地域に指定されている静岡県等における計42箇所にとどまっていた。このように動力化及び遠隔操作化については、強化地域、推進地域においても、また、想定津波高等に対応した堤防等の高さとなっている箇所においても、特に整備が進んでいるとはいえない状況となっている。
 また、陸閘等の操作については、海岸管理者が自ら閉鎖するとしている施設は420箇所(22.9%)、他に委託して行わせている施設が1,413箇所(77.1%)となっており、大半の施設について委託により閉鎖等の操作を行わせることとしている。

表7 通常時に開放されている陸閘等の操作方法等
(単位:箇所)

区分 操作方法 委託状況
人力 動力化等 自ら 委託
  遠隔操作
全体
1,833(100%)
1,570
(85.7%)
263
(14.3%)
42
(2.3%)
420
(22.9%)
1,413
(77.1%)
  うち強化地域、推進地域
1,291(100%)
1,104
(85.5%)
187
(14.5%)
25
(1.9%)
359
(27.8%)
932
(72.2%)
うち想定津波高等に対応しているもの
1,475(100%)
1,241
(84.1%)
234
(15.9%)
33
(2.2%)
286
(19.4%)
1,189
(80.6%)

 そして、委託先については、表8のとおり、市町村、消防団、自治会、民間企業、個人等となっており、この中には実際の操作は自治会等へ再委託しているものも見受けられた。また、委託方法については、委託の内容等が協議文書等に基づいて明確となっているものは1,119箇所(79.2%)となっているが、一方、口頭で委託しているなどのため閉鎖等の操作者等が必ずしも明確となっていないものも294箇所(20.8%)見受けられる。さらに、委託先の操作者の防災訓練については、449箇所(31.8%)の操作者が防災訓練に参加していない状況となっている。
 以上のように、津波、高潮等の非常時に開口部が迅速、確実に閉鎖できるかどうか疑問となる状況も見受けられ、これらの状況は、強化地域、推進地域でも、また、想定津波高等に対応した堤防等の高さとなっている箇所でも見受けられた。

表8 操作を委託している陸閘等の委託先、委託方法等
(単位:箇所)

区分 委託先 委託方法 防災訓練
市町村 消防団等 民間企業等 口頭 文書等 参加 未参加
全体
1,413(100%)
508
(36.0%)
407
(28.8%)
498
(35.2%)
294
(20.8%)
1,119
(79.2%)
964
(68.2%)
449
(31.8%)
  うち強化地域、推進地域
932(100%)
236
(25.3%)
263
(28.2%)
433
(46.5%)
271
(29.1%)
661
(70.9%)
574
(61.6%)
358
(38.4%)
うち想定津波高等に対応しているもの
1,189(100%)
410
(34.5%)
321
(27.0%)
458
(38.5%)
203
(17.1%)
986
(82.9%)
758
(63.8%)
431
(36.2%)

 さらに、陸閘等の状況について検査したところ、閉鎖扉の通るレールがコンクリート等で埋められていたり、閉鎖に必要な資材が用意されていなかったりなど操作に支障があったり、開口部に陸閘等が設置されていなかったりしている事態が見受けられた。

4 本院の所見

 両省及び海岸管理者においては、従来から海岸法等に基づき、多額の事業費を投入して津波・高潮等による被害から海岸を防護することなどを目的に、海岸事業を実施している。一方、我が国の周囲には多数の震源域が存在し、これらを震源とする地震による津波の発生が想定され、また、台風による高潮被害の発生のおそれが高い状況であるが、経済活動の集中や環境対策の必要性などといった海岸の現状及び厳しい財政状況などから、これらすべてに対応することができる防護施設の設置は困難と思料される。
 このような状況の下、両省では、防災業務計画において、海岸保全施設等に係る津波対策及び高潮対策について措置を講ずることとしていたり、全国的な海岸の状況調査を実施したりなどしている。
 そこで、本院において、両省においてこれまで進められてきた津波・高潮対策がどのように実施され、効果的なものとなっているかなどについて検査したところ、前記のとおり、堤防・護岸等の整備状況については、表2—1のとおり、その高さは想定される津波に対し、国土交通省所管では83.0%、農林水産省所管では62.1%の整備がなされている状況にあるものの今後整備を要する延長も650.7km(17.0%)、662.8km(29.8%)見受けられた。また、想定津波高に対応した高さとなっている堤防・護岸等についても、表4—1のとおり、耐震性が確保されているものが24.7%、24.3%、耐震性が確保されていないものが7.0%、7.5%、耐震性の調査が行われていないものが68.3%、68.2%に上っていた。
 さらに、津波・高潮ハザードマップについては、市町村により作成・公表がされていないものが80.4%(津波)、97.4%(高潮)と多数見受けられ、このうち、特に緊急に津波、耐震対策を要する強化地域及び推進地域においても、堤防・護岸等の高さや耐震性の確保が十分ではないにもかかわらず、ハザードマップを作成していない市町村がなお多く見受けられる状況となっていた。また、海岸保全区域の把握の状況や整備した施設の管理状況は、必ずしも適切なものとはなっていなかった。
 ついては、大規模地震発生とこれによる津波の被害が想定され、また、台風による高潮等の被害発生のおそれも高い現在、海岸保全施設の整備には今後長期間及び多額の事業費を要することが予想されることから、これらの制約の下で、両省において、災害による被害の軽減等のため均衡あるハード対策及びソフト対策等により、海岸事業の効果を早期かつ最大限に発現させ、津波・高潮災害の減災に資するよう、海岸管理者に助言するなどして、次のような事項について対策を実施することが望まれる。

ア 海岸保全施設の整備状況は、前記のとおり今後も長期間及び多額の費用を要することが見込まれることから、耐震性の調査を進めるなどして、より計画的、重点的な対策を着実に実施すること

イ 津波・高潮等による被害の軽減に資するなどのため、海岸保全施設による防護機能を補完する津波・高潮ハザードマップの整備が急務であることから、浸水予測区域図を作成するよう都道府県を支援し、市町村が津波・高潮ハザードマップを作成できるようにすること。また、海岸利用者に対する避難方法等の防災情報について、関係機関と十分な連携と緊密な調整を図り対策を講ずること

ウ 海岸保全施設等の現状を正確に把握するため、海岸台帳の整備を適切に行い、もって今後の計画的な海岸事業の実施に資するようにすること。また、海岸保全施設の開口部に設けられた陸閘等について、津波・高潮等の緊急時に迅速、確実に閉鎖することが緊要であることから、その実効性を確保するための体制を整備すること

(注1) 8都県 東京都、神奈川、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重各県
(注2) 21都府県 東京都、京都、大阪両府、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、大分、宮崎各県
(注3) 北海道ほか36都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、千葉、神奈川、石川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注4) 北海道ほか31都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、神奈川、石川、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、島根、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注5) 北海道ほか22県 北海道、青森、岩手、宮城、山形、千葉、神奈川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、島根、岡山、山口、愛媛、高知、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注6) 10県 神奈川、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、山口、愛媛、高知、宮崎各県
(注7) その他の8道県 北海道、岩手、宮城、山形、島根、長崎、鹿児島、沖縄各県
(注8) 北海道ほか30都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、千葉、神奈川、福井、石川、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、大分、宮崎、沖縄各県
(注9) 茨城県ほか5県 茨城、島根、佐賀、長崎、熊本、鹿児島各県