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  • 平成17年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

被保護者の年金受給及び精神保健法に基づく公費負担医療に係る他法他施策の活用を図ることにより、生活保護費負担金の交付が適切なものとなるよう改善させたもの


(1)被保護者の年金受給及び精神保健法に基づく公費負担医療に係る他法他施策の活用を図ることにより、生活保護費負担金の交付が適切なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費
部局等の名称
厚生労働本省、北海道ほか19都府県
国庫負担の根拠
生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者
(事業主体)
道、府1、県16、市98、特別区4、計120事業主体
国庫負担対象事業
生活保護事業
国庫負担対象事業の概要
生活に困窮する者に対し最低限度の生活を保障するため、その困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
検査対象とした被保護者の数
64,537人
上記のうち他法他施策の活用が十分でない被保護者の数
(1) 年金受給
376人
(2) 公費負担医療
914人
1,281人(重複者9人)
上記の被保護者に対する支給済保護費のうち低減できると認められる保護費
(1) 年金受給
3億4140万円
(平成12年度〜18年度)
(2) 公費負担医療
1億7742万円
(平成16、17両年度)
5億1883万円
 
上記に係る国庫負担金交付額
(1) 年金受給
2億5605万円
 
(2) 公費負担医療
4435万円
 
3億0040万円
 

1 事業の概要

(1)制度の概要

 生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じ必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
 保護は生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。そのため、保護の実施に当たっては、各種の社会保障施策による支援、扶養義務者による扶養、稼働能力等の活用が前提となっている。
 厚生労働省では、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下「事業主体」という。)が、保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護費の一部(4分の3)について生活保護費負担金(以下「負担金」という。)を交付しており、全国における負担金の交付額は、平成16年度で1兆9324億余円、17年度で1兆9715億余円に上っている。

(2)保護費の支給基準

 保護は、厚生労働大臣の定める「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)により、保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)を単位として算定される生活費の額(以下「最低生活費」という。)から被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定される額を控除して決定された保護費の額を支給することとなっている。
 また、保護は、その内容によって、生活扶助、住宅扶助、医療扶助等の8種類に分けられている。このうち医療扶助は、厚生労働大臣又は都道府県知事が指定する医療機関等において被保護者が診療を受ける場合の費用等について行われるものである。被保護者が健康保険等の被用者保険の被保険者等でない場合は、診療費の全額が医療扶助の対象として現物給付されることになる。

(3)他法他施策

 事業主体が保護を実施するに当たっては、前記のとおり、各種の社会保障施策等の活用が前提となっていることから、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年厚生省発社第123号厚生事務次官通知)等により、他の法律又は制度による保障、援助等(以下「他法他施策」という。)を受けることができる者については極力その利用に努めさせることとなっている。
 他法他施策については、上記の実施要領等により厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)、国民年金法(昭和34年法律第141号)、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「精神保健法」という。)など38の法律等について、特にその活用を図ることとなっている。これらの他法他施策のうち、厚生年金保険法等の年金受給及び精神保健法に基づく公費負担医療については次のとおりとなっている。

ア 年金受給について

 厚生年金については、厚生年金保険の被保険者期間を1月以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者は、65歳以上である場合に老齢厚生年金の受給権者となる。ただし、当分の間の特例として、65歳未満であっても厚生年金保険の被保険者期間を1年以上有する場合には、60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できることになっている。また、国民年金については、保険料納付済期間が25年以上ある者などは65歳以上である場合に老齢基礎年金の受給権者となる。そして、これらの受給権者は、その申請に基づいて社会保険庁の裁定手続を経てこれらの年金を受給できることとなっている。
 事業主体では、保護費の算定に当たっては、被保護者の年金受給資格の有無等を関係官署と連携を図るなどして把握し、被保護者が年金を受給した場合には、その額を収入として認定し、最低生活費からこれを控除することとなっている。

イ 精神保健法に基づく公費負担医療について

 精神保健法第32条によると、統合失調症等の精神障害者が通院により医療を受ける場合、都道府県が、その医療に必要な費用の100分の95に相当する額を負担することができることとなっており、国は都道府県に対してその費用の2分の1を精神保健対策費補助金として交付することとなっている(以下、このように精神障害者に対し公費によって医療に必要な費用を負担する制度を「32条公費負担医療」という。)。
 事業主体が医療扶助を実施するに当たっては、医療機関等に対して、十分な指導、連絡又は協力依頼を行うこととなっている。そして、被保護者が上記の公費負担の対象となる精神障害者であると思われるときは、直ちに32条公費負担医療の申請手続を行うよう被保護者を指導することとなっている。また、被保護者が32条公費負担医療の適用を受けた場合には、医療に必要な費用の100分の5に相当する額(自己負担額)を医療扶助として現物給付することになる。
 なお、32条公費負担医療については、障害者自立支援法(平成17年法律第123号)の施行に伴い、18年4月1日より、同法に基づく自立支援医療(精神通院医療)となり、原則1割の自己負担が導入されたが、被保護者については自己負担はなく、全額が自立支援医療費として支給されることとなった。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 16年度における被保護世帯の総数は約99万世帯で、そのうち高齢者世帯の数は約46万世帯と約半数を占めており、この割合は年々増加している。また、医療扶助人員の総数約115万人のうちの統合失調症等の精神疾患による入院外の医療扶助人員は約13万人で、その数も年々増加している。
 そこで、他法他施策のうち、高齢者世帯等における年金受給及び32条公費負担医療について、合規性等の観点から、他法他施策の活用が適時、適切に行われているかに着眼し、北海道ほか19都府県(注1) の127事業主体の145福祉事務所における被保護者64,537人を抽出し、事業実績報告書等により検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、年金受給及び32条公費負担医療について、他法他施策の活用が図られていない事態が次のとおり見受けられた。

ア 特別支給の老齢厚生年金等の受給について活用が図られていないもの

 上記の被保護者64,537人のうち、60歳以上70歳以下の被保護者で年金を受給していない被保護者8,309人について、厚生年金等の加入状況を検査したところ、北海道ほか19都府県の101事業主体の113福祉事務所における被保護者376人(注2) について、特別支給の老齢厚生年金等の受給権を有していたのに、これらの年金の裁定請求手続が行われず、年金を受給していなかった。
 これらについて、被保護者が裁定請求手続を行って、年金を受給していれば、これらの年金を収入として認定することにより、12年度から18年度までの支給済保護費が3億4140万余円(負担金相当額2億5605万余円)低減することになる。このうち、特別支給の老齢厚生年金に係るものは、北海道ほか19都府県の89事業主体の98福祉事務所における被保護者257人で、低減することとなる支給済保護費は2億5083万余円(負担金相当額1億8812万余円)となっていて、上記の73.4%を占める状況となっていた。

<事例>

 A市では、被保護者B(平成10年12月保護開始)は年金の受給権を有していないとしていたが、実際には、保護開始前の職歴等から国民年金71月、厚生年金保険265月、計336月(28年)の加入期間があって、13年11月に特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生していた。しかし、事業主体では被保護者Bの年金受給権の有無を十分に調査していなかったため、裁定請求手続が行われておらず、年金を受給していなかった。被保護者Bが裁定請求手続を行っていれば313万余円(13年12月分〜18年3月分)の年金を受給できたことになる。
 したがって、上記の特別支給の老齢厚生年金を収入として認定すれば支給済保護費が313万余円(うち負担金相当額235万余円)低減されることになる。

イ 32条公費負担医療の適用を受けていないなど公費負担医療制度の活用が図られていないもの

 前記の被保護者64,537人を検査したところ、北海道ほか19都府県の107事業主体の120福祉事務所における被保護者914人について、32条公費負担医療の対象となり得るのに、その適用を受けていなかったり、保護開始後又は診療開始後速やかに適用申請が行われなかったりしていた。
 上記の被保護者914人について、32条公費負担医療を適切に活用したとすれば、16、17両年度の支給済保護費が1億7742万余円低減され、32条公費負担医療の適用に伴って国から交付されることになる精神保健対策費補助金相当額を考慮しても、国庫負担相当額が4435万余円低減されることになる。

<事例>

 C市において、被保護者D(平成6年3月保護開始)が保護開始前の5年12月に統合失調症に罹患し、10年9月から通院による治療を受けていたが、事業主体では、医療機関との連携が十分でなかったため、32条公費負担医療の適用申請を行うよう指導しておらず、被保護者Dは、この適用を受けていなかった。そして、16、17両年度の医療扶助による給付額107万余円には、32条公費負担医療の適用を受けることになると認められる通院精神療法等に係る診療費が93万余円含まれていた。
 したがって、被保護者Dが32条公費負担医療の適用を申請し、その適用を受けたとすれば、上記診療費の95%に当たる88万余円の支給済保護費が低減され、国から交付されることとなる精神保健対策費補助金を考慮しても国庫負担相当額が22万余円低減されることになる。
 以上のように、年金受給及び32条公費負担医療について、他法他施策の活用が十分に図られていない事態は、生活保護制度の趣旨からみて適切とは認められず、生活保護費負担金の交付が適切なものとなるよう改善の必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
ア 事業主体において、年金受給については、被保護者の年金受給資格、特に特別支給の老齢厚生年金の受給資格についての理解が不足していたなどのため、これに係る調査、確認が十分でなかったこと、また、32条公費負担医療については、被保護者の病状等を的確に把握していなかったこと、その適用の有無について医療機関等との連携が十分でなかったこと、被保護者に対する適用の申請の指導が十分でなかったこと
イ 厚生労働省において、年金受給及び32条公費負担医療に係る他法他施策の活用について、事業主体に対して具体的な指示等が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、18年9月に通知を発するなどして、年金受給及び32条公費負担医療に係る他法他施策の活用を図るよう次のような処置を講じた。
ア 事業主体が策定する生活保護業務の実施方針に、年金の受給資格等の調査、特に特別支給の老齢厚生年金に係る受給資格の調査には留意する旨を、32条公費負担医療(18年4月以降は障害者自立支援法に基づく自立支援医療(精神通院医療))の適用のために必要な病状把握等の調査を医療機関等と連携して確実に行う旨を、それぞれ明記するなど改善に向けた取組を行うよう指導した。
 また、年金受給及び32条公費負担医療に係る他法他施策についての業務を統一的に実施し、その進ちょく管理を行うため、調査結果を記録する様式を事業主体に示した。
イ 厚生労働省及び都道府県等が実施する指導監査の際に、年金受給及び32条公費負担医療に係る他法他施策の活用状況を重点事項とし、福祉事務所に対して指導を徹底することとした。

 北海道ほか19都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、福島、千葉、神奈川、石川、岐阜、静岡、兵庫、和歌山、島根、岡山、山口、高知、福岡、熊本、大分各県
 被保護者376人 複数の年金を併給できた者が2人いる。