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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

社会保障費支出の現状に関する会計検査の結果について


2 検査の結果

(4)医療制度改革の概要

 国民医療費は、11年度以降毎年30兆円を超えており、今後も、高齢化の一層の進展等により老人医療費を中心に医療費の着実な増加が見込まれている。
 このような状況の下、国民皆保険を堅持し、将来にわたり医療保険制度を持続可能なものとしていくなどのため、「医療制度改革大綱」(平成17年12月1日政府・与党医療改革協議会決定)に沿って、18年6月、医療費適正化の総合的な推進、新たな高齢者医療制度の創設、保険者の再編・統合等所要の措置を講ずることなどを内容とする健康保険法等の改正が行われ、一連の医療制度改革が順次実施されることとなった。
 この医療制度改革の主な概要は次のとおりである。

ア 医療費適正化の総合的な推進

(ア)医療費適正化計画の策定

 国が示す基本方針に即して、国及び都道府県は5年間の医療費適正化計画を策定し、生活習慣病対策や長期入院の是正(平均在院日数の短縮)により、中長期的に医療費適正化を目指す。

(イ)予防検診の義務付け

 主として生活習慣病予防の観点から、保険者に対して、40歳以上の被保険者等を対象に検診・保健指導の実施を義務付ける。

(ウ)保険給付の内容・範囲の見直し等

 現役並の所得がある高齢者の患者負担や療養病床に入院する高齢者の食費・居住費負担の見直しなどを実施する。

(エ)療養病床の再編成

 療養病床については、医療の必要度の高い患者を受け入れるものに限定し、医療保険で対応するとともに、医療の必要度の低い患者については、病院ではなく介護保険の在宅、施設サービス等で対応する。

イ 新たな高齢者医療制度の創設

(ア)後期高齢者医療制度の創設

 現行の老人保健制度に代わる独立した医療保障制度として、75歳以上の後期高齢者を対象として、都道府県単位で全市町村が加入する広域連合が運営する後期高齢者医療制度を創設する。

(イ)前期高齢者の医療費に係る財政調整制度の創設

 65歳から74歳の前期高齢者については、従来の医療保険に加入したまま、前期高齢者の偏在による各医療保険者間の負担の不均衡を、各保険者の加入者数に応じて調整する制度を創設する。

ウ 保険者の再編・統合

(ア)国民健康保険の財政基盤の強化

 17年度までの時限措置であった国保財政基盤強化策(高額医療費共同事業等)を継続するとともに、新たな保険財政共同安定化事業の創設により国保の財政基盤の強化を図る。

(イ)政管健保の公法人化

 20年10月に、国とは切り離した全国単位の公法人を保険者として設立し、都道府県ごとに地域の医療費を反映した保険料率を設定するなど、都道府県単位の財政運営を行う。

3 検査の結果に対する所見

 今般、参議院からの要請を受けて、医療保険等の財政状況、保険給付の状況及び医療費の地域格差の状況について検査したところ、以下のような状況となっていた。

ア 医療保険等の財政状況

 医療保険等のうち、国が多額の負担を行うなど国の関与の度合いが高い3保険等の財政状況は次のとおりである。

(ア)政管健保

 政管健保を経理する厚生保険特別会計の健康勘定においては、15、16両年度に決算上の剰余等が生じ、安定資金への繰入れを行っていた。また、政管健保の実質的な財政状況を示す医療分に係る単年度収支決算においても収支差は15、16両年度にかけて改善が見られた。しかし、安定資金の残高は、5年度以降減少する傾向にあり、また、社会保険庁が16年12月に公表した17年度から21年度までの収支見通しによると、19年度に再び収支差が赤字となり、20年度には安定資金が不足する見通しとなっていて、今後の収支見通しは予断を許さない状況となっている。

(イ)国民健康保険

 市町村国保については、被保険者の高齢化の進展などにより保険給付費等が増加する一方で、保険料(税)収入が伸び悩んでいる。そして、多くの保険者、特に小規模な保険者において単年度収支が赤字になるなど厳しい財政状況にあり、その結果、多くの保険者において一般会計からの財政援助的な法定外繰入れが行われたり、一部の保険者において財政基盤の安定・強化のために保有する基金が取崩しにより枯渇したりしている状況となっている。

(ウ)老人保健

 市町村が実施する老人医療の収支は相均衡する仕組みとなっているが、各保険者の拠出金負担はそれぞれの支出において相当な割合を占め、その財政に大きな影響を与えている。

イ 医療保険等の給付の状況

 医療保険等の制度ごとに状況に違いはあるものの、制度改正等により、ここ数年、保険給付の大部分を占める医療費の伸び率は比較的抑制されたものとなっているが、長期的にみると、高齢化の進展等に伴い、老人医療費を中心に、医療費は依然として増加傾向にある状況となっている。

ウ 医療費の地域格差の状況

(ア)都道府県間格差の現状

 若年者及び老人の1人当たり医療費については、都道府県ごとにかなりの格差がみられ、これらの都道府県間の格差はおおむね固定化する傾向がみられる。

(イ)格差の要因

 都道府県間の医療費の格差は主に入院に係る医療費の格差によるものであり、入院に係る医療費と平均在院日数や人口10万対病床数との間で強い正の相関がみられるなど、医療提供体制との関係が認められる。
 また、近年病床数は減少傾向にあるものの、人口10万対病床数については都道府県間でかなりの格差がみられ、また、それが固定化してきている状況である。

(ウ)1人当たり医療費の高い市町村の状況

 1人当たり医療費が高い市町村は、厚生労働大臣の指定を受けて安定化計画を策定して、対策を講ずることとされているが、継続して指定を受けている市町村についてみると、対策の効果が必ずしも発現していなかった。
 指定市町村においては、特に入院に係る医療費において、全国平均とのかい離が著しくなっており、また、長期入院者の割合が、1人当たり医療費が低い市町村よりも高く、人口10万対施設数等が多い傾向が見受けられた。しかし、指定市町村と1人当たり医療費が低い市町村とでは、保険料(税)の水準においてほとんど差異がなかった。

(エ)医療圏における病床数の状況

 過剰医療圏における病床数は減少傾向になっており、若干は、医療計画に基づく病床の規制効果が見受けられたが、全体的にみると過剰病床数が増加傾向にあるなど、多くの医療圏で病床数が過剰になっている状況に変化はなかった。

 このような状況にかんがみ、医療制度改革は具体的実施の段階に入ったところではあるが、今後は、以下のような点に留意することが重要である。
〔1〕 政管健保の保険者である国(社会保険庁)においては、医療費適正化等による一層の収支の改善への取組が求められる。
 また、市町村国保における厳しい財政状況を改善するためには、保険料(税)の収納率向上や医療費適正化など収支両面にわたる市町村自らの一層の取組とともに、国・都道府県による的確な指導・助言や必要に応じての支援が求められる。
〔2〕 保険給付の大部分を占める医療費については、長期的には、特に老人医療費を中心に増加が見込まれることなどから、給付のより一層の適正化が求められる。
〔3〕 医療費の地域格差は、病床数等医療提供体制の格差がその要因の一つになっていると思料されるが、これらの医療提供体制の格差及びこれに伴う医療費の格差は、地域の特性などもあって固定化する傾向がある。しかし、医療費には国等による多額の負担が行われており、負担の公平等の観点から、また、医療サービスへのアクセスの公平性の観点からも、医療費や医療提供体制における過度の地域格差については縮小していくことが望まれる。
〔4〕 市町村国保においては、1人当たり医療費の高低が実際の保険料(税)の高低に必ずしも結びついていないなど、保険者等による医療費適正化の取組への誘因が働きにくい状況になっている。このため、新たに発足することになった後期高齢者医療制度等も含めて、保険者等による医療費適正化の努力が、関係者の負担軽減につながるような仕組みが望まれる。

 会計検査院としては、医療制度改革の進展の状況を踏まえ、医療保険等の財政状況や給付の状況等について、今後も引き続き注視しながら検査していくこととする。