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農業災害補償制度(農作物共済)の運営に当たり、国がその一部を負担している共済掛金から生ずる多額の剰余の発生を防止するなどして、制度をより適切に運営するよう意見を表示したもの


農業災害補償制度(農作物共済)の運営に当たり、国がその一部を負担している共済掛金から生ずる多額の剰余の発生を防止するなどして、制度をより適切に運営するよう意見を表示したもの

会計名及び科目
農業共済再保険特別会計(農業勘定)
(歳入)
(款)農業再保険収入
  (項)再保険料
  (項)一般会計より受入
(歳出)
  (項)農業再保険費
  (項)農業共済組合連合会等交付金
部局等
農林水産本省
事業の根拠
農業災害補償法(昭和22年法律第185号)
事業の概要
農作物(水稲、陸稲及び麦)が気象上の原因等により損害を受けた場合に、その損害の程度に応じて組合員等又は組合等に対し共済金又は保険金を支払うもの
検査の対象
142組合等及び23連合会
上記の組合等及び連合会に生じている剰余の額
1752億円(昭和62年度〜平成18年度)
上記の組合等及び連合会が取り崩している特別積立金の額
1469億円(昭和62年度〜平成18年度)

 【意見を表示したものの全文】

     農業災害補償制度(農作物共済)の運営について

(平成19年10月26日付け農林水産大臣あて)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 農業災害補償制度の概要

(1) 制度の概要

 貴省では、農業災害補償法(昭和22年法律第185号)に基づき、農業者が不慮の事故によって受ける損失を補てんして農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資することを目的として、農業災害補償制度を運営している。
 この制度は、原則として、市町村などの各地域ごとに設立される農業共済組合又は市町村(以下「組合等」という。)が行う共済事業、都道府県ごとに設立される農業共済組合連合会(以下「連合会」という。)が行う保険事業、国が行う再保険事業の3段階により構成されている。このうち、組合等が行う共済事業及び連合会が行う保険事業は、対象とする作物等により農作物、家畜、果樹、畑作物及び園芸施設に区分されている。
 そして、組合等は、農業共済組合の組合員又は市町村との間に共済関係の存する者(以下、これらの者を「組合員等」という。)に対して支払う共済金の支払責任の一部を連合会の保険に付し、連合会は、組合等に対して支払う保険金の支払責任の一部を国の再保険に付することとなっている。そして、国の再保険事業に関する経理を一般会計と区分するため、農業共済再保険特別会計が設置され、運営されている。
 国は、組合員等の負担軽減を図るため、組合員等が組合等に支払うべき共済掛金の一部を共済掛金国庫負担金(以下「国庫負担金」という。)として負担することとしている。
 共済掛金についてみると、国庫負担金の交付事務の合理化を図るため、組合員等は組合等に共済掛金から国庫負担金を差し引いた額(以下「組合員等負担共済掛金」という。)を支払い、組合等は組合員等負担共済掛金を財源にして連合会に保険料を支払い、連合会は保険料を財源にして国に再保険料を支払う仕組みとなっている。
 また、共済金についてみると、国、連合会及び組合等がそれぞれの分担(以下「責任分担」という。)に応じて、国は再保険料等を財源として連合会に再保険金を支払い、連合会は保有している保険料(以下「連合会手持保険料」という。)、再保険金等を財源として組合等に保険金を支払い、組合等は保有している共済掛金(以下「組合等手持掛金」という。)、保険金等を財源として組合員等に共済金を支払うものである。
 農業共済再保険特別会計の農業勘定に係る昭和62年度から平成18年度までの歳入決算額の累計は2兆0396億余円(うち一般会計より受け入れている農作物共済に係る国庫負担金6843億余円)であり、また、歳出決算額の累計は1兆7783億余円(うち農作物共済に係る連合会への再保険金支払額7607億余円)となっている。
 農業災害補償制度の運営についてみると、国は連合会の業務又は会計の状況を検査し、都道府県は組合等の業務又は会計の状況を検査するなどして、それぞれ指導監督することとなっている。
 これら共済掛金及び共済金の流れを図で示すと、図1 のとおりである。

図1 共済掛金及び共済金の流れ(概念図)

図1共済掛金及び共済金の流れ(概念図)


(注)
 図1 は、再保険事業、保険事業及び共済事業の3段階の構成の場合である。このほか、保険事業(国)及び共済事業(組合)の2段階の構成となっている場合もある。


(2) 農作物共済事業及び農作物保険事業

 農作物共済事業及び農作物保険事業は、水稲、陸稲及び麦を対象としていて、組合等及び連合会は、これらの農作物に気象上の原因による自然災害等の共済事故が発生した場合に、その損害の程度に応じて組合員等又は組合等に対し共済金又は保険金を支払うものとされている。これらの事業に係る共済及び保険関係、国庫負担金、組合等及び連合会の責任分担等については、農業災害補償法、同法施行規則(昭和22年農林省令第95号。以下「施行規則」という。)等により、次のようになっている。なお、組合等が行う農作物共済事業と連合会が行う農作物保険事業は同様の仕組みとなっていることから、主に農作物共済事業でこれらを説明することとする。

ア 共済関係

 共済関係についてみると、農作物の耕作の業務を営む者のうち、その耕作の業務の規模が都道府県知事が定める基準に達している者は、すべて組合等の組合員等になるとされている。そして、その組合員等と組合等との間には農作物共済の共済関係が当然に成立するとされていて、組合等がこの共済関係により責任を負う期間は、水稲については本田移植期から、陸稲及び麦については発芽期等から収穫するまでの期間となっている。

イ 国庫負担金

 共済掛金は、組合員等ごとに、組合員等に係る共済金額(注1) に共済掛金率(注2) を乗じて得た額となっている。
 そして、共済掛金は、国庫負担金及び組合員等負担共済掛金から構成されていて、このうち国庫負担金は、組合員等ごとに、組合員等に係る共済金額に農作物基準共済掛金率を(注3) 乗じて算出した額に、国庫負担割合(注4) を乗じて得た額となっている。

 共済金額  共済金の支払の対象となる期間内に共済事故により全損の被害が生じた場合に組合等が組合員等に支払う共済金の最高限度額
 共済掛金率  組合等が共済事故の発生状況に応じて共済規程等で定める率で、組合員等が負担する共済掛金算定の基礎となる率
 農作物基準共済掛金率  農林水産大臣が過去一定年間(原則20年間)における被害率を基礎として定める率で、共済掛金率を組合等が共済規程等で定める際に下限となる率
 国庫負担割合  水稲及び陸稲50%、麦50〜55%(それぞれ6年産以降の負担割合)

ウ 農作物基準共済掛金率の設定及び見直し

 農作物共済事業は、農作物の被害が年によって極めて激しい変動を示すことから、組合等手持掛金と共済金のうち組合等が負担する額(以下「共済金組合等負担額」という。)の間には開差が生ずることとなる。すなわち、単年度でみると共済金組合等負担額が組合等手持掛金の範囲内で収まれば剰余が生じ、その範囲を超えれば不足が生ずることとなる。このように、農作物共済事業は、単年度でみると被害の発生状況によって剰余や不足が生ずることとなる(後記図3参照)
 貴省では、組合等手持掛金と共済金組合等負担額による収支が長期的に均衡することを基本としつつも、上記のとおり、組合等手持掛金は単年度でみると不足を生ずることがあることから、共済金の支払に極力支障が生ずることのないよう、農作物基準共済掛金率に安全率を織り込んで不足の生ずる年の出現が20%未満となるようにしている。そして、農作物基準共済掛金率は、直近の被害率を反映させるため、3年ごとに過去20年間の被害率に応じて見直すこととしている。

エ 組合等及び連合会の責任分担

 共済金組合等負担額には、上限が設定される仕組みとなっており、この最高額は、図2 のとおり(網掛けの部分)、農作物通常責任共済金額(注5) の範囲内となっている。そして、組合等は、共済金組合等負担額の最高額を超えて共済金を負担することはないものとなっている。
 また、保険金のうち連合会が負担する保険金支払額(以下「保険金連合会負担額」という。)は、農作物通常責任共済金額に係る分(波線の部分)と農作物異常責任保険金額(注6) に係る分(点線の部分)とがあり、これを合計した額となっている。そして、連合会は、保険金連合会負担額の最高額を超えて、組合等に支払う保険金を負担することはないものとなっている。

図2 組合等及び連合会の責任分担(概念図)

図2組合等及び連合会の責任分担(概念図)

 農作物通常責任共済金額  通常災害のときに、組合等及び連合会が負担しなければならない最高責任保有額で、共済金額に農作物通常標準被害率を乗じて得られた額
 農作物異常責任保険金額  異常災害のときに、連合会及び国が負担しなければならない異常支払に係る最高責任保有額で、共済金額から農作物通常責任共済金額を減じて得られた額

オ 不足金てん補準備金及び特別積立金

 共済金組合等負担額の最高額と組合等手持掛金は、前記のとおり、図3 のような関係となっている。そして、共済金組合等負担額が組合等手持掛金の範囲を超えていれば、当該年度において組合等に不足が生じ、組合等手持掛金の範囲を超えていなければ剰余が生ずることとなる。
 また、保険金連合会負担額の最高額と連合会手持保険料についても、図3 と同様の関係となっている。

図3 組合等に生ずる剰余及び不足(概念図)

図3組合等に生ずる剰余及び不足(概念図)


 貴省では、組合等及び連合会の収支を長期的に均衡させるためには、組合等手持掛金及び連合会手持保険料から剰余が生じた場合、この剰余を不足金てん補準備金及び特別積立金に積み立てておく必要があるとしている。
 そして、農業災害補償法により、組合等は、不足の補てんに備えるため、毎事業年度の剰余の中から不足金てん補準備金を、また、施行規則により、毎事業年度の剰余から不足金てん補準備金として積み立てた残額を特別積立金としてそれぞれ積み立てなければならないこととなっている。
 一方、貴省では、特別積立金については、被害率の低減や被害率の低い組合員等の不満解消などのために、組合等及び連合会における総会等の議決を経て、次のとおり共済金の支払に不足を生ずる場合以外の使途に充てることを認めている。
(ア) 病害虫駆除等の農作物の損害防止をするのに必要な費用の支払に充てる場合
(イ) 組合員等が、一定年間組合等から共済金の支払を受けないとき、又は支払を受けた共済金が一定の額に満たないときに、当該組合員等に対して組合員等負担共済掛金の一部に相当する金額を払い戻す(以下「無事戻し」という。)際の支払に充てる場合
(ウ) 当該組合等の行う共済事業に関し必要な固定資産の取得等の支払に充てる場合

カ 不足金てん補準備金の限度額

 上記のことから、不足金てん補準備金を制限なく積み立てれば、特別積立金を積み立てることができなくなって損害防止活動や無事戻し等を図れないこととなる。そこで、双方の相反する要請を調整するため、組合等及び連合会が保有しておかなければならない不足金てん補準備金の最低限度の額(以下「限度額」という。)を設定することとし、不足金てん補準備金を限度額以上積み立てるか否かについては、組合等及び連合会における総会等の議決を経なければならないこととされている。
 この限度額は、「農業災害補償法施行規則第22条第1項第1号の農林水産大臣の定める金額」(昭和40年農林省告示第807号)等に基づいて算出される額で、今後6年間に責任分担の額の支払に支障が生じないよう設計されている。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 農業災害補償制度は、昭和22年度の事業開始から60年が経過しており、近年、米の消費減少に伴う生産の減少、米価の下落等により、制度を取り巻く環境は大きく変化している。そして、国は、毎年多額の国庫負担金を負担している。また、平成18年6月に制定された「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号)においては、「農業共済再保険特別会計及び漁船再保険及漁業共済保険特別会計において経理されている再保険の機能に係る事務及び事業については、積立金の管理の透明性の向上を図った上でこれらの特別会計を統合した特別会計において経理することを含め、その在り方を平成20年度末までに検討するものとする。」とされている。
 そこで、有効性等の観点から、組合等手持掛金及び連合会手持保険料の状況、不足金てん補準備金及び特別積立金(以下、両者を合わせて「積立金」という。)の取崩し状況等に着眼して検査した。

(検査の対象及び方法) 

 本院は、47都道府県管内の283組合等及び43連合会のうち、24道県管内の142組合等及び23連合会において会計実地検査を行い、昭和62年度から平成18年度までの20年間の収入支出に係る決算等について分析を行うなどして検査した。

(検査の結果)

(1) 組合等手持掛金及び連合会手持保険料の状況

 組合等手持掛金及び連合会手持保険料に関して、上記の20年間について分析した結果は次のとおりである。

ア 組合等及び連合会別にみた剰余の発生状況

 国では、図4 のとおり、20年間に、組合員等が支払う水稲、陸稲及び麦に係る共済掛金計8640億余円に対し、その一部に充てるため計4549億余円を負担している。なお、上記共済掛金8640億余円のうち、水稲の共済掛金は6518億余円(75.4%)、陸稲の共済掛金は29億余円(0.3%)、麦の共済掛金は2092億余円(24.2%)となっていて、水稲の占める割合が高くなっているが、それぞれの積立金は相互に不足の補てんに充てることができることなどから、以降においては合算した計数を対象に分析することとした。

図4 国庫負担金及び組合員等負担共済掛金の累計額

図4国庫負担金及び組合員等負担共済掛金の累計額


(注)
 割合は、小数点第2位以下を切り捨てているため、各項目を合計しても100にならない場合がある。以下同じ


 上記の共済掛金計8640億余円は、組合等が共済金を、連合会が保険金を、国が再保険金をそれぞれ支払うため、組合等は組合等手持掛金として2889億余円(共済掛金計8640億余円の33.4%)を、連合会は連合会手持保険料として1330億余円(同15.3%)を、国は再保険料として4420億余円(同51.1%)をこれまでに支払財源としている。
 そして、図5 のとおり、組合等手持掛金2889億余円から共済金組合等負担額1674億余円を差し引いた1215億余円(組合等手持掛金の42.0%)が組合等の剰余となっている。

図5 組合等における剰余の発生状況(昭和62年度から平成18年度までの累計)

図5組合等における剰余の発生状況(昭和62年度から平成18年度までの累計)


 また、図6 のとおり、連合会手持保険料1330億余円から、保険金連合会負担額793億余円を差し引いた537億余円(連合会手持保険料の40.3%)が連合会の剰余となっている。

図6 連合会における剰余の発生状況(昭和62年度から平成18年度までの累計)

図6連合会における剰余の発生状況(昭和62年度から平成18年度までの累計)


 さらに、再保険料4420億余円は、全額が再保険金4741億余円の支払に充てられていて、不足する分については他会計からの繰入れ等により賄われている。

イ 剰余が生じている割合

 組合等又は連合会の剰余を組合等手持掛金又は連合会手持保険料でそれぞれ除して、組合等及び連合会に生じている剰余の割合を表わすと、表1のとおり、142組合等のうちの48組合等(33.8%)及び23連合会のうちの8連合会(34.7%)では50%以上となっている。

表1 組合等及び連合会別にみた剰余が生じている割合
(昭和62年度から平成18年度までの累計)
組合等及び連合会の別
剰余が生じている割合
組合等数(比率(%))
連合会数(比率(%))
25%未満
19
(13.3)
2
(8.6)
25%以上50%未満
75
(52.8)
13
(56.5)
50%以上
48
(33.8)
8
(34.7)
142
(100)
23
(100)

 このように、組合等及び連合会が前記の20年間に支払財源としている組合等手持掛金及び連合会手持保険料計4220億余円は、共済金組合等負担額(1674億余円)及び保険金連合会負担額(793億余円)の支払に計2467億余円が使用されているものの、残りの計1752億余円が剰余となっていて、その割合は上記4220億余円の41.5%となっている。
 そして、このように剰余が発生しているのは、実際の被害率が農作物基準共済掛金率を見直す際に用いた過去20年間の被害率の平均を下回ったことにもよるが、農作物基準共済掛金率に安全率が織り込まれていることで、組合等及び連合会によっては国庫負担金及び組合員等負担共済掛金が割高になっていることによると認められる。

ウ 年度別にみた剰余の発生状況

年度別に剰余又は不足の発生状況をみると、図7 のとおりとなっている。これによれば、5年は全国的な低温や日照不足により北日本を中心に農作物に大きな被害を受けたことから、不足が生じている組合等及び連合会が多く見受けられるものの、それ以外の年では、剰余が生じている組合等及び連合会の方が多くなっている。また、前記の20年間に生じた不足の合計額が、剰余の合計額を上回っている組合等及び連合会はない状況となっている。

図7 年度別にみた剰余の発生状況(組合等及び連合会)

図7年度別にみた剰余の発生状況(組合等及び連合会)


 以上のとおり、国庫負担金及び組合員等負担共済掛金を原資とした組合等手持掛金及び連合会手持保険料においては、農作物基準共済掛金率に安全率が織り込まれていることなどから長年にわたって多額の剰余が生じている状況となっている。

(2) 積立金の取崩し状況

 貴省では、前記のとおり、組合等及び連合会の収支を長期的に均衡させるために、組合等手持掛金及び連合会手持保険料から剰余が生じた場合、この剰余を全額積立金に積み立てておく必要があるとし、そして、この積立金のうち、特別積立金については、損害防止活動や無事戻し等に取り崩すことができるとしている。
 組合等及び連合会は、不足金てん補準備金の使途が不足の補てんに限られているのに対し、特別積立金の使途が不足の補てん以外にも認められているため、不足金てん補準備金が限度額を上回っていれば、剰余を不足金てん補準備金に積み立てず、特別積立金に積み立てている。 そこで、組合等及び連合会が保有している積立金の取崩し状況に関して、分析することとした。

ア 不足金てん補準備金の取崩し状況

 組合等では、前記の20年間において、不足金てん補準備金を計367億余円積み立て、このうち計340億余円を共済金の支払に充てている。また、連合会では、不足金てん補準備金を計136億余円積み立て、その全額を保険金の支払に充てている。

イ 特別積立金の取崩し状況

 組合等では、前記の20年間に特別積立金として計1284億余円を積み立てているが、図8 のとおり、不足の補てんに計4億余円(特別積立金の積立額1284億余円の0.3%)、損害防止の支払に計221億余円(同17.2%)、無事戻しの支払に計774億余円(同60.3%)、共済事業に関し必要な費用の支払に計70億余円(5.5%)、合計1070億余円を取り崩していて、当該期間に積み増された額は213億余円(同16.6%)となっている。

図8 組合等における特別積立金の取崩し状況

図8組合等における特別積立金の取崩し状況


 また、連合会では、前記の20年間に特別積立金として計572億余円を積み立てているが、図9 のとおり、不足の補てんに計5215万余円(特別積立金の積立額572億余円の0.1%)、損害防止の支払に計56億余円(同9.9%)、無事戻しの支払に計323億余円(同56.5%)、保険事業に関し必要な費用の支払に計18億余円(同3.1%)、合計398億余円を取り崩していて、当該期間に積み増された額は173億余円(同30.3%)となっている。

図9 連合会における特別積立金の取崩し状況

図9連合会における特別積立金の取崩し状況


 このように、組合等及び連合会では、前記の20年間に特別積立金として計1856億余円を積み立て、このうち損害防止や無事戻し等に計1469億余円を取り崩していて、特別積立金に積み立てた額に対する取崩し額の割合は79.1%と高率なものとなっている。

ウ 組合等及び連合会別にみた取崩し額の割合

 組合等及び連合会別にみた特別積立金に積み立てた額に対する取崩し額の割合は、表2のとおりとなっている。すなわち、前記の20年間において、142組合等のうち92組合等(64.7%)及び23連合会のうち8連合会(34.7%)では、特別積立金に積み立てた額の75%以上を損害防止活動や無事戻し等に使用している。その一方で、142組合等のうちの11組合等(7.7%)及び23連合会のうちの6連合会(26.0%)では、特別積立金に積み立てた額の50%未満を使用しただけである。

表2 特別積立金の積立額に対する取崩し額の割合
上段:組合等及び連合会数、下段:割合(%)
割合
組合等及び連合会
特別積立金の積立額累計に対する使用額累計の割合
50%未満
(半分未満)
50%以上
75%未満
75%以上
(4分の3以上)
組合等
11
(7.7)
39
(27.4)
92
(64.7)
142
連合会
6
(26.0)
9
(39.1)
8
(34.7)
23

 このように、特別積立金の取崩し額の割合は、組合等及び連合会により異なっている。

エ 特別積立金の残高の状況

 特別積立金の取崩し状況は前記のとおりとなっているが、組合等及び連合会における特別積立金の残高及び特別積立金を取り崩さなかった場合の積立累計額の推計は、図10 のような推移を示している。

図10 特別積立金の残高の推計

図10特別積立金の残高の推計


(注)
 特別積立金を損害防止のために取り崩して必要な費用の支払に充てることなどにより、共済金又は保険金の支払額が減少することもあり得るので、特別積立金を取り崩さなかった場合の積立額は、必ずしも上図のとおりとはならない。


 組合等及び連合会は、収支を長期的に均衡させるために、組合等手持掛金及び連合会手持保険料に生じた剰余を全額積立金に積み立てておき、まずは不足の補てんに備える必要があるが、総会等の議決を経ることにより損害防止活動や無事戻し等に多額の特別積立金を取り崩していて、この際、将来生ずる不足の補てん等に窮するおそれについては十分に検討していない。
そして、検査の対象とした142組合等及び23連合会では、表3のとおり、18年度末現在、不足金てん補準備金を計423億余円、特別積立金を計966億余円、積立金計1390億余円を保有している状況となっている。

表3 平成18年度末における不足金てん補準備金と特別積立金の状況
(単位:千円)
積立金
組合等及び連合会
不足金てん補準備金
特別積立金
積立金の計
142組合等
29,358,711
58,987,959
88,346,670
23連合会
12,998,476
37,699,429
50,697,905
合計
42,357,187
96,687,388
139,044,575

(改善を必要とする事態)

 組合等及び連合会において、国庫負担金及び組合員等負担共済掛金を原資とした組合等手持掛金及び連合会手持保険料から長年にわたって多額の剰余が生じているものがある事態、損害防止活動や無事戻し等が必要であるとしても、収支を長期的に均衡させる見地から、将来不足の補てん等に窮するおそれがあるかを十分に検討しないまま多額の特別積立金を取り崩している事態は、剰余及び特別積立金が国庫負担金及び組合員等負担共済掛金を原資としていることを考慮すると適切ではなく改善の要があると認められる。 

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、次のことによると認められる。
ア 組合等手持掛金及び連合会手持保険料から生ずる多額の剰余の発生を防止するための処置を講じていないこと
イ 組合等及び連合会に将来不足の補てん等に窮するおそれがあるかを十分に検討させていないこと

3 本院が表示する意見

 農業災害補償制度は、昭和22年の制度創設以来、累次にわたる改正を経て、共済目的の拡大、補償内容の充実等を図りつつ、農業経営の安定を通じて、我が国の農業生産力の発展に大きく寄与している。しかしながら、現下の厳しい国の財政事情にかんがみ、農業をめぐる情勢が大きく変化している中で今後ともその機能を十分に発揮していくためには、制度をより適切に運営していくことが従来にも増して重要なものになってきている。
 ついては、貴省において、農作物共済事業及び農作物保険事業の運営がより適切なものとなるよう、次のとおり意見を表示する。
(ア) 国庫負担金及び組合員等負担共済掛金を原資とした組合等手持掛金及び連合会手持保険料から多額の剰余が生じないよう処置を講ずること
(イ) 上記(ア)の処置を講ずることに伴って、今後は剰余の発生が抑制されることになることから、組合等及び連合会が特別積立金を取り崩す際に、将来不足の補てん等に窮するおそれがあるか否かをより一層検討することが肝要となり、このためその検討ができるよう具体的な方策を示し、連合会に対して指導すること、及び、都道府県に対して組合等を指導するよう助言すること