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  • 平成18年度|
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  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

素牛流通円滑化対策事業について、家畜商業協同組合等が実施する肉用牛預託事業の円滑な促進を図るという事業の目的が達成されていて、継続して実施する必要性が乏しいことから、事業を廃止させたもの


(1) 素牛流通円滑化対策事業について、家畜商業協同組合等が実施する肉用牛預託事業の円滑な促進を図るという事業の目的が達成されていて、継続して実施する必要性が乏しいことから、事業を廃止させたもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)農林水産本省
(項)牛肉等関税財源畜産振興費
独立行政法人農畜産業振興機構(畜産勘定)
部局等
農林水産本省
独立行政法人農畜産業振興機構本部
補助の根拠
独立行政法人農畜産業振興機構法(平成14年法律第126号)
補助事業者
(事業主体)
社団法人日本家畜商協会
補助事業
素牛流通円滑化対策
補助事業の概要
家畜商業協同組合等が実施する肉用牛預託事業の円滑な促進を図るため、奨励金の交付などをするもの
平成18年度に交付した奨励金の額
5億0662万円

1 事業の概要

 農林水産省では、平成5年度に、家畜商組織の活動の強化を図るとともに、家畜商の流通機能を十分に発揮させるため、家畜流通活性化対策事業(以下「流通活性化事業」という。)を創設し、その一環として、素牛流通円滑化対策事業(以下「素牛円滑化事業」という。)を農畜産業振興事業団に実施させてきた。そして、同事業団が独立行政法人農畜産業振興機構(以下「機構」という。)に改組された15年10月1日以降、同省では、素牛円滑化事業を含め畜産業振興事業の実施を要請することとなった。同事業の実施に当たっては、同省が、毎年度予算措置を行い、機構に対して交付金を交付するとともに、その事業内容等について要請を行っており、機構では、これを受けて素牛円滑化事業を実施している。
 家畜商は、本来家畜の売買等のあっせんなど主として家畜の流通にかかわっており、自ら肉用牛の生産に携わることが少なかった。しかし、我が国の肉用牛の生産を巡る環境が、3年度の牛肉輸入自由化により一段と厳しくなることが懸念されたことから、流通活性化事業は、家畜商に家畜の流通のみならず、肉用牛の生産の一翼を担わせることにより、肉用牛の生産及び流通の安定に資することを目的に実施されている。そして、機構が定めた「家畜流通活性化対策事業実施要綱」(平成15年15農畜機第48号。以下「要綱」という。)等に基づき、社団法人日本家畜商協会(以下「協会」という。)が事業主体となって同事業を実施しており、機構は協会に対して補助金を交付している。
 上記の流通活性化事業のうち素牛円滑化事業は、要綱等によると、肥育用素牛(以下「素牛」という。)の品質の向上と斉一化を図り、優良素牛の円滑な流通を推進する観点から、家畜商業協同組合等(以下「組合等」という。)が実施する肉用牛預託事業(以下「預託事業」という。)の円滑な促進を図るため、協会が、預託事業を実施した組合等に対して品種ごとに素牛1頭当たり4,400円から15,100円の奨励金の交付などをするものである。そして、預託事業は、素牛の導入推進を図るため、組合等が素牛の購入資金を金融機関等から借り入れて素牛を導入し、その所有権を留保して肉用牛肥育経営(以下「肥育経営」という。)を営む組合員等のうち預託事業参加者(以下「組合員等」という。)に現物預託する事業であり、資金調達力が乏しい肥育経営にとっては、素牛を安定的に導入できるという利点がある。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 素牛円滑化事業は5年度の創設以来10年以上経過しており、この間に肉用牛の飼養戸数が減少する中で肥育経営の規模拡大が進むなど肥育経営を取り巻く環境は大きく変化している。そこで、有効性等の観点から、本事業が所期の目的を達成しているか、環境の変化に対応した効果的なものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、農林水産本省及び機構において、18年度に協会が21組合等(注1) に対して交付した奨励金53,267頭分、5億0662万余円を対象として会計実地検査を行った。検査に当たっては、16年度から18年度までの3年間に協会から奨励金の交付を受けた23組合等(注2) における預託事業の実施状況等について、協会から機構に提出された事業計画書、実績報告書等の書類により検査をするとともに、17組合等(注3) において実地に調査を行った。そして、機構に対し上記の23組合等における組合員等の素牛の導入状況等に関する調査を求め、その調査結果等により、16年度から18年度までの組合員等の経営状況等について分析を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 素牛円滑化事業の実施状況について

 16年度から18年度における奨励金の交付状況についてみると、表1のとおり、毎年度5億円を超えている。

表1 平成16年度から18年度における奨励金の交付状況
(単位:頭、円)
年度
組合等数
黒毛和種
(15,100円/頭)
褐毛和種
(9,500円/頭)
その他肉専用種
(7,600円/頭)
乳用種
(4,400円/頭)
頭数
奨励金
頭数
奨励金
頭数
奨励金
頭数
奨励金
頭数
奨励金
平成16
21
25,764
389,036,400
342
3,249,000
560
4,256,000
26,726
117,594,400
53,392
514,135,800
17
23
24,917
376,246,700
248
2,356,000
611
4,643,600
27,241
119,860,400
53,017
503,106,700
18
21
25,232
381,003,200
95
902,500
558
4,240,800
27,382
120,480,800
53,267
506,627,300
75,913
1,146,286,300
685
6,507,500
1,729
13,140,400
81,349
357,935,600
159,676
1,523,869,800

 18年度の交付状況を品種別にみると、奨励金の交付対象となる素牛(以下「奨励対象素牛」という。)の頭数に占める割合は黒毛和種と乳用種が半々となっているが、奨励金の交付額では、黒毛和種がその大半を占めている。
 そして、奨励金は、家畜商に預託事業への参加を促すことにより、素牛の導入推進を図るためのものである。そのため、奨励金の交付を受けた組合等では、素牛の導入意欲を向上させるために組合員等に対して奨励金相当額を譲渡していた。

(2) 組合員等における素牛の導入状況等について

 家畜商における家畜流通の活性化等を推進するためには、家畜商の肉用牛飼養規模の拡大や肥育経営の安定化等が必要不可欠であることから、組合員等の素牛の導入状況等について機構から提出を受けた調書により確認したところ、以下のとおりとなっていた。
 18年度の前記の21組合等における組合員等377戸の素牛の導入頭数は、表2のとおり、奨励対象素牛で53,267頭、予算の制約等から奨励金の対象とならなかったが、資金的に余力が生じていたことなどのため自ら資金を調達して導入したものが43,027頭、計96,294頭となっていた。このことから、事業創設当初は、自ら肉用牛の生産に携わることが少なかった家畜商が、毎年度多数の素牛を導入しており、家畜商における家畜流通の活性化等が進んでいると認められた。
 そして、組合員等一戸当たりの平均素牛導入頭数は、表2のとおり、18年度において255.4頭となっており、「畜産統計」(農林水産省)による19年2月現在の肥育経営一戸当たりの飼養頭数107.9頭と比較しても組合員等の肉用牛飼養規模はその2倍以上に拡大していると認められ、この状況は16年度以降継続している。

表2 組合員等の素牛の導入頭数等
(単位:戸、頭)
年度
組合員等数
素牛の導入頭数
組合員等一戸当たりの平均素牛導入頭数
奨励対象素牛の導入頭数
奨励対象素牛以外の素牛の導入頭数
平成16
397
53,392
38,638
92,030
231.8
17
423
53,017
45,880
98,897
233.8
18
377
53,267
43,027
96,294
255.4

 また、377戸のうち76.9%を占める290戸が地域農業の担い手となる認定農業者として肉用牛飼養規模の拡大、収益性の向上等に取り組んでいる状況となっていることからも、全体として家畜商による肥育経営は安定的に行われていると認められた。
 さらに、377戸のうち80.9%を占める305戸が3年連続して預託事業に参加していて安定的に素牛の導入頭数が確保できていることから、家畜商に対して預託事業は十分に定着化が図られていると認められた。

 以上のとおり、事業創設当初は、自ら肉用牛の生産に携わることの少なかった家畜商において家畜流通の活性化等が進み、肉用牛飼養規模が拡大するなどした現状では、素牛円滑化事業を実施しなくても預託事業は円滑に促進できると判断され、事業の目的は相当程度達成されたと認められた。このため、今後は本事業実施の必要性が乏しく、このまま従来どおり継続して実施することは適切とは認められず、本事業の廃止を含めた抜本的な見直しを行う必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、農林水産省において、家畜商を取り巻く環境が変化している状況下で、本事業の目的の達成状況や事業効果の把握に基づく見直しが十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省において事業の抜本的な見直しを行った結果、本事業に対する19年度の予算措置を行わず、19年3月に機構に対して本事業を除いた畜産業振興事業の実施を要請した。機構ではこの要請に基づき18年度末をもって本事業を廃止する処置を講じた。

 21組合等  北見地方畜産商業協同組合、上川、十勝、岩手県、秋田県、山形県、静岡県、滋賀県、大阪、兵庫県、奈良県、島根県、岡山県、鹿児島県各家畜商業協同組合、庄内、長野県、宮崎県各家畜商商業協同組合、千葉県、新潟県両家畜商協同組合、京都府家畜商業協同組合連合会、全国肉牛事業協同組合
 23組合等  北見地方畜産商業協同組合、上川、十勝、岩手県、秋田県、山形県、静岡県、滋賀県、大阪、兵庫県、奈良県、島根県、岡山県、熊本県、鹿児島県各家畜商業協同組合、庄内、群馬県、長野県、宮崎県各家畜商商業協同組合、千葉県、新潟県両家畜商協同組合、京都府家畜商業協同組合連合会、全国肉牛事業協同組合
 17組合等  上川、十勝、岩手県、秋田県、山形県、静岡県、滋賀県、兵庫県、島根県、岡山県、熊本県、鹿児島県各家畜商業協同組合、庄内、群馬県両家畜商商業協同組合、新潟県家畜商協同組合、京都府家畜商業協同組合連合会、全国肉牛事業協同組合