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  • 平成18年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

水田かんがい用パイプラインの設置工事における給水栓の設置個数の算定を給水栓の実際の給水能力を反映した経済的なものとするよう改善させたもの


(3) 水田かんがい用パイプラインの設置工事における給水栓の設置個数の算定を給水栓の実際の給水能力を反映した経済的なものとするよう改善させたもの

会計名及び科目
一般会計
(組織)農林水産本省
(項)農村振興費
(項)農業生産基盤整備事業費
(項)農村整備事業費
(項)農地等保全管理事業費
(項)離島振興事業費
(項)北海道農業生産基盤整備事業費
部局等
農林水産本省、7農政局
補助の根拠
土地改良法(昭和24年法律第195号)、予算補助
補助事業者
(事業主体)
22道県
間接補助事業者
(事業主体)
市1、町1、土地改良区等7、計9事業主体
補助事業
経営体育成基盤整備、中山間地域総合整備、元気な地域づくり交付金、畑地帯総合整備、農村振興総合整備、都道府県営かんがい排水、集落基盤整備、農村振興総合整備統合補助、水質保全対策、地盤沈下対策、総合農地防災
補助事業の概要
農業用水を供給する水田かんがい用パイプラインを設置するなどのもの
一つの耕区に複数個設置されている給水栓
243地区 9,228耕区 22,818個
上記に係る工事費
9億0803万余円
(平成17、18両年度)
上記に対する国庫補助金相当額
4億5493万余円
 
低減できた給水栓に係る工事費
1億5527万円
(平成17、18両年度)
上記に対する国庫補助金相当額
7793万円
 

1 工事の概要

(1) 水田かんがい用パイプラインの設置工事における給水栓の概要

 農林水産省では、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、農業生産基盤の整備を図るため、経営体育成基盤整備事業等の一環として、水田に農業用水を供給するため、農業用用水路(以下「用水路」という。)として水田かんがい用パイプライン(以下「パイプライン」という。)を設置する工事を国庫補助事業により毎年度多数実施している。
 パイプラインは、農業用水を送配水する水路組織であり、管路とその付帯施設である調整池、加圧ポンプ、給水栓等から構成されている。このうち給水栓は、管路から畦畔等により区画された耕作の最小単位となる水田(以下「耕区」という。)へ農業用水を供給するため管路に接続して設置される水口であり、パイプラインの最末端の付帯施設となっている。

(2) パイプラインの設計に係る基準

 農林水産省では、土地改良事業を適正かつ効率的に実施するために各種の計画や設計に関する基準を制定し、それらの中で基本・規範的な事項を定めており、パイプラインの設計に係る基準として、水田のほ場整備に係る調査・計画について一般的な基準を定めた「土地改良事業計画設計基準 計画「ほ場整備(水田)」」(平成12年11構改C第392号農林水産事務次官依命通達。以下「計画基準」という。)を、また、パイプラインの設計に係る基準を定めた「土地改良事業計画設計基準・設計「パイプライン」」(平成10年9構改D第248号農林水産事務次官依命通達。以下「設計基準」という。)をそれぞれ制定している。そして、計画基準及び設計基準を補完するものとして、それぞれの基準に係る「運用」、「基準及び運用の解説」及び「技術書」(以下、これらを「運用等」という。)を制定して、計画基準及び設計基準の具体的な事項や解説、標準的な設計事例及びその他参考となる事項等に係る指針を示している。
 計画基準及び計画基準の運用等によれば、用水路から各耕区へ給水する水口については、効率的な取水が可能となるようその設置数、配置及び構造を決定することとされている。そして、その水口の数と配置については、各耕区の用水路に沿う辺に1箇所以上、かつ間隔50m以内に設けることが望ましいとされ、用水路が管路の場合の水口は、バルブ方式の給水栓とすることとされている。
 また、設計基準の運用等によれば、パイプラインの給水栓の給水能力については、水田かんがいの場合は、24時間で必要な農業用水の量を供給することを原則とし、水口の位置である給水点で動水頭(注1) が最低の値となる耕区においても計画最大給水量(注2) を給水できる能力があることとされている。

 動水頭  流れが発生している時の管路内に作用している水圧を高さに換算した値(m)をいう。
 計画最大給水量  代かき(田植え前の水田に水を張った状態で、トラクタ等により土を細かくして表面を平らに均す作業)を行うため、水田に供給できる最大の給水量で、耕区面積に比例するため面積(m2 )で表示している。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点) 

 近年、用水路の維持管理労力や水管理労力の節減等を目的として、従来開水路形式で整備されてきた用水路のパイプライン化が多数実施されている。そして、パイプラインの設計を行うために制定されている設計基準等及び運用等についてみると、給水能力を考慮した給水栓の設置個数についての具体的な算定方法が十分に示されていない。
 そこで、経済性等の観点から、給水栓の設置個数は適切に算定されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法) 

 本院は、農林水産省及び22道県等において会計実地検査を行った。そして、22道県、12市町、15土地改良区等の計49事業主体が平成17、18両年度に実施した340地区に係る1,157工事(契約額計727億1580万余円、国庫補助金計367億5793万余円)において30,941耕区に設置された給水栓43,949個(工事費計17億2696万余円、国庫補助金相当額計8億7178万余円)を対象として、設計計算書、仕様書等の書類により検査するとともに、事業主体に報告を求め、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、上記の1,157工事のうち、22道県管内の31事業主体(注3) が実施した243地区に係る811工事においては、一つの耕区に給水栓が複数個設置されている耕区が9,228耕区あり、それらの耕区に設置された給水栓の数は計22,818個(給水栓に係る工事費計9億0803万余円、国庫補助金相当額計4億5493万余円)に上っていた。
 そして、これらの一つの耕区に複数個設置されている給水栓について、31事業主体では、各耕区における実際の動水頭を考慮することなく、地区内のすべての耕区に係るそれぞれの動水頭のうち最低の動水頭(以下「地区内最低動水頭」という。)を用いて算定した給水能力に基づき耕区ごとの給水栓の設置個数を算定するなどしていた。
 しかし、動水頭が地区内最低動水頭となる耕区以外の耕区については、実際の動水頭が地区内最低動水頭を上回っており、実際よりも低い給水能力に基づき給水栓の設置個数が算定されていることなどから、事業主体において算定した耕区ごとの設置個数が過大となっている事態が見受けられた。
 したがって、耕区ごとの給水栓の設置個数について、それぞれの耕区の計画最大給水量を当該耕区の実際の動水頭に基づき算定した給水栓の給水能力で除するなどして算定すれば、それぞれの耕区における給水栓の実際の給水能力を反映することにより、耕区ごとの給水栓の設置個数を低減することができたと認められた。

<事例>

 A県では、経営体育成基盤整備事業の一環として、平成17、18両年度に、B地区において、水田の区画整理に伴うパイプラインの設置工事を行い、給水栓を31耕区に計83個(給水栓に係る工事費1,508,668円)設置していた。そして、給水栓の設置個数の算定は、各耕区における実際の動水頭を考慮することなく、耕区の面積が3,000m2 以下の場合は給水栓を1個とし、3,000m2 を超える耕区については3,000m2 ごとに給水栓を1個増設することとして、3,000m2 を超えて6,000m2 以下の場合は2個、6,000m2 を超えて9,000m2 以下の場合は3個設置するなどとしていた。
 例えば、耕区面積4,230m2 (計画最大給水量4,230m2 )のC耕区では、次のとおり給水栓の設置個数を2個と算定していた。
 4,230m2 ÷3,000m2 /個=1.4個(給水栓の設置個数2個)
 しかし、それぞれの耕区の計画最大給水量を当該耕区の実際の動水頭に基づき算定した給水栓の給水能力で除するなどして耕区ごとの給水栓の設置個数を算定すると、31耕区における設置個数は68個と算定された。
 例えば、前記C耕区の場合、当該耕区の実際の動水頭に基づき算定した給水栓1個当たりの給水能力は8,230m2 /個であり、これにより給水栓の設置個数を算定すると、次のとおり給水栓の設置個数は1個となり、給水栓1個を低減することができた。
 4,230m2 ÷8,230m2 /個=0.5個(給水栓の設置個数1個)
 これによりB地区31耕区の給水栓68個に係る工事費を修正計算すると1,237,813円となり、給水栓に係る工事費を270,855円(国庫補助金相当額135,424円)低減できたと認められた。

 このように、パイプラインの設置工事における耕区ごとの給水栓の設置個数を、地区内最低動水頭に基づき算定するなどしていて、その設置個数が過大となっている事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(低減できた給水栓に係る工事費) 

 上記のことから、耕区ごとの給水栓の設置個数を、それぞれの耕区の計画最大給水量を当該耕区における実際の動水頭に基づき算定した給水栓の給水能力で除するなどして修正計算すると、前記の一つの耕区に給水栓が複数個設置されている9,228耕区に必要な給水栓は計18,000個、これに係る工事費は計7億5275万余円となり、前記の給水栓計22,818個に係る工事費9億0803万余円を1億5527万余円(国庫補助金相当額7793万余円)低減できたと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、事業主体において、給水栓の実際の給水能力を反映した経済的な設計に対する配慮が十分でなかったことにもよるが、農林水産省において、給水栓の設置個数を算定する際の給水能力を考慮した指針を運用等において十分に示していなかったこと、また、事業主体における給水栓設置個数の算定の実態把握が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、19年9月に各地方農政局等に対して新たに作成した指針を通知し、各地方農政局等を通じて事業主体に対して指針に基づき給水栓の実際の給水能力を反映した設置個数の算定を行うよう周知徹底を図るとともに、事業主体における給水栓設置個数の算定の実態把握を十分に行うよう各地方農政局等を指導する処置を講じた。

 31事業主体  北海道、岩手、宮城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、石川、福井、岐阜、愛知、滋賀、兵庫、岡山、徳島、香川、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島各県、豊岡市、綾川町、国府、向島、市場中央、観音寺市柞田、さぬき市寒川、川辺町各土地改良区、武生森久北部第3土地改良事業共同施行