部局等
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海上幕僚監部
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国有財産の分類
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(分類)行政財産 (種類)公用財産 (区分)建物
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検査対象とした艦艇乗員待機所の概要
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護衛艦、潜水艦等の停泊中、乗組員が疲労の回復を図るために利用する施設
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上記待機所の平成18年度末現在の国有財産台帳価格
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28億5510万円
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海上自衛隊では、自衛隊法(昭和29年法律第165号)等の規定により船舶の乗組員に対して船舶内に居住することを義務付けている。そして、このうち護衛艦、潜水艦等(以下「艦船」という。)の乗組員に対しては、これらの艦船内における勤務及び生活環境が厳しいことを考慮して、艦船がその定係港に停泊している際に、その乗組員の肉体的、精神的な疲労の回復を図るための施設として艦艇乗員待機所(以下「待機所」という。)を整備し、運営している。
呉艦艇乗員待機所等4待機所(注1)
(平成18年度末における国有財産台帳価格28億5510万余円)は、昭和63年度から平成9年度にかけて、艦船が停泊する定係港の岸壁に近接して設置されており、浴室、会議室などの共用施設のほか、当直員(注2)
が待機・仮眠や休養するための個室(以下「仮眠室」という。)から構成されている。
停泊中の艦船は、「海上自衛官の上陸等に関する達」(昭和37年海上自衛隊達第93号)等に基づき、乗組員のうち5分の1以上を当直員に充てることとされている。当直勤務は、通常、4日から5日に1回の交替制とされていて、保安等の任務に就く以外の時間には、艦船内で過ごすほか、待機所内の浴室、仮眠室等を利用して、疲労の回復を図るなどしている。
海上自衛隊では、待機所の管理・運営について、「艦艇乗員待機所の運営における基本方針」(平成8年海幕運第452号。以下「基本方針」という。)を地方総監等に対し通知し、この中で、艦船の乗組員がゆとりと潤いをもって休養できる環境作りを目指すこととしている。これを受けて地方総監等は、各待機所の管理運営規則を定め、同規則により待機所の管理運営責任者に基地業務隊司令等を充て、これを補佐する者として管理人等を置くとともに、各艦船をそれぞれ代表する使用責任者を定めることとしている。さらに、待機所の運営を適切に行うため、これら責任者等による運営委員会を設置して協議することとしている。
管理運営責任者は、基本方針に基づき、各艦船の定員に比例した数の仮眠室を各艦船に割り当てることとされ、使用責任者は、原則として、当直員のうち海曹士に仮眠室を割り当てて利用させている。また、管理運営責任者は、使用責任者から割当てを超える利用の要望があった場合には、他の使用責任者と協議の上、割当てを超えて利用させることができるとされている。
仮眠室の利用を希望する海曹士は、使用責任者の審査を受けた後、管理運営責任者の許可を受け利用できることとしている。また、各待機所(下関舟艇員待機所を除く。)の管理人等は、各管理運営責任者が定めた管理運営細則により、仮眠室の宿泊員数等を管理業務日誌に記録することとされている。
海上自衛隊では、多額の国費を投じて待機所を整備し、これを管理・運営してきている。一方、近年、国際平和協力活動などにより多数の艦船の乗組員が長期間にわたり定係港を離れて勤務することが多くなるなど、待機所の建設時とは環境が変化してきている。
そこで、本院は、前記の呉艦艇乗員待機所等4待機所において会計実地検査を行い、有効性等の観点から、待機所の仮眠室の運営が効果的になされているかに着眼し、管理運営責任者等から仮眠室の運営状況について説明を聴取するとともに、宿泊員数が記載された管理業務日誌等を徴し、これらの調査・分析を行うなどの方法により検査した。
検査したところ、4待機所の18年度の仮眠室の運営状況について次のような事態が見受けられた。
呉艦艇乗員待機所及び横須賀潜水艦乗員待機所では、管理運営責任者及び使用責任者は、仮眠室を利用する当直員を日々入れ替えさせることが実務上困難であるとして、特定の海曹士にこれを固定的に割り当てて、継続的に利用させていた。このため、仮眠室の利用状況は極めて低くなっていた。
呉艦艇乗員待機所(鉄骨鉄筋コンクリート構造12階建て 仮眠室数385室)は、呉港を定係港とする艦船の乗組員の利用に供されていた。平成18年度に呉港を定係港とする艦船は31隻で、これに係る海曹士の定員は3,519人となっていた。仮眠室は当直員のうち海曹士が利用することから、海曹士の当直員数を最低限必要な5分の1とすると、仮眠室385室の利用対象となる海曹士は1日当たり約704人となっていた。
管理運営責任者は、基本方針に基づき、仮眠室385室を艦船の定員に比例した数で艦船31隻に割り当てていた。そして、管理運営責任者及び使用責任者は、特定の385人にこれを固定的に割り当てて、継続的に利用させていた。
そこで、管理業務日誌の宿泊員数を基に、当直員の仮眠室の利用率を集計したところ、利用率が最高の日で43.1%、最低の日で3.9%、年平均で21.4%と極めて低い利用状況となっていた。
なお、呉潜水艦乗員待機所及び下関舟艇員待機所では、管理業務日誌に宿泊員数が記載されていないなどのため利用状況を確認できなかった。
ア 特定の海曹士に固定的に割り当てて、継続的に利用させていた仮眠室について
呉艦艇乗員待機所等4待機所では、前記のとおり、特定の海曹士に仮眠室を固定的に割り当てて、継続的に利用させているため、仮眠室を割り当てられていない海曹士は全く利用できず、また、仮眠室を割り当てられた海曹士であっても当直勤務以外の日は利用することができない状況であった。
イ 長期間定係港を離れる艦船に割り当てている仮眠室について
海上自衛隊では、前記のとおり、艦船が長期間定係港を離れる機会が増えている。そこで、艦船の定期検査等の修理実績や海外派遣、訓練実績のうち公表されている資料等から、呉港及び横須賀港を定係港とする艦船31隻及び7隻の出港状況についてみると、出港日数はそれぞれ年間平均約94日、約91日となっていた。そして、仮眠室を割り当てられた艦船が出港した場合は、割り当てられた仮眠室は利用されないことから、呉艦艇乗員待機所の仮眠室数385室及び横須賀潜水艦乗員待機所の仮眠室数102室のうち出港中のため利用されない室数の割合は、年間平均29.2%、22.5%となっており、類似した事態が、他の2待機所においても見受けられた。
呉港を定係港とする護衛艦Aの海曹士の定員は153人で、最低限必要な当直員数は31人となっている。これに対し、同艦に割り当てられた仮眠室は18室であるが、特定の海曹士18人に固定的に割り当てて、継続的に利用させているため、割り当てられていない海曹士135人は当直勤務の日であっても利用できず、また、基本方針において仮眠室の利用対象を当直員としているため、割り当てられていた海曹士18人についても当直勤務以外の日は利用できない状況となっていた。さらに、同艦は海外派遣や年次検査のために、平成18年度に延べ265日出港しており、同艦に割り当てられた18室の仮眠室はこの間、全く利用されない状況となっていた。
同港では、同様に延べ100日以上出港している艦船は護衛艦Aを含めて15隻あり、これらに対して割り当てられた222室はこの間利用されない状況となっていた。
このように、多額の国費を投じて整備された待機所において、仮眠室の利用率が低くなっていたり、仮眠室を艦船の特定の海曹士に固定的に割り当てて、継続的に利用させていたりなどしている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。
このような事態を生じていたのは、主として次のようなことによると認められた。
ア 管理運営責任者及び使用責任者において、仮眠室を特定の海曹士に固定的に割り当てて継続的に利用させていたため、割り当てられていない海曹士が全く利用できず、また、仮眠室を割り当てられた海曹士であっても当直勤務以外の日は利用できなくなっていたこと
イ 管理運営責任者において、艦船が定係港を長期間離れる間、仮眠室を当該艦船に割り当てたままにしていたため、その間、仮眠室が全く利用されなくなっていたこと
上記についての本院の指摘に基づき、海上自衛隊では、19年10月に、基本方針の見直しを図るとともに、地方総監等に対して通知を発し、次のような処置を講じた。
ア 仮眠室の割当てに当たっては、公平性の確保に十分留意するとともに、新たに利用できる期間の基準を定めるなどして、利用対象者の拡充を図ることとした。
イ 仮眠室の利用を促進するため、割当て及び利用状況に余裕が生じる場合には、当直勤務以外の日にも仮眠室を利用できることとした。
ウ 艦船が定係港を長期間離れる場合は、当該艦船に割り当てられた仮眠室を他の艦船の海曹士が利用できるよう、弾力的に艦船の間で仮眠室の割当ての変更を行うこととした。
4待機所 呉艦艇乗員待機所、横須賀潜水艦乗員待機所、呉潜水艦乗員待機所及び下関舟艇員待機所
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当直員 通常の勤務時間以降も引き続き艦船の保安警戒、規律・風紀の維持及び信号の発受等の任務に従事する乗組員
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