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  • 平成18年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

国民年金事業における被保険者資格の適用、保険料収納等の実施状況について


第5 国民年金事業における被保険者資格の適用、保険料収納等の実施状況について

検査対象
社会保険庁、社会保険業務センター、28社会保険事務局
会計名
国民年金特別会計(平成19年度以降は年金特別会計)
事業の根拠
国民年金法(昭和34年法律第141号)
事業の概要
老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的に、保険料、国庫負担金等を財源として国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な年金給付等を行うもの
被保険者数及び保険料収納済額
第1号被保険者2091万人(平成18年度末)
保険料債権
4兆7550億円
(平成18年度末)
うち平成17年度末未納保険料
平成18年度発生保険料
2兆0482億円
2兆7067億円
 
保険料収納済額
1兆9038億円
(平成18年度)
不納欠損・時効消滅額
9864億円
(平成18年度)
未納保険料
1兆8647億円
(平成18年度末)
年金給付
老齢基礎年金等の支給
受給権者数
2108万人、
13兆4909億円
(平成18年度)
老齢年金等の支給
受給権者数
433万人、
1兆8149億円
(平成18年度)

<構成>


1 制度の概要

(1) 国民年金制度の概要

 社会保険庁では、国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づき、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的として、国民年金事業を運営している。そして、この目的を達成するため、国民から保険料を収納し、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付を行っている。
 国民年金の被保険者、保険料、年金給付等は、次のとおりである。

ア 被保険者

 国民年金の適用の対象となる被保険者は、一定の要件に該当する者はすべて強制加入とされ、加入形態及び費用負担の違いにより、第1号被保険者(日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって、第2号被保険者及び第3号被保険者以外の者である自営業者等。平成18年度末現在2091万人。)、第2号被保険者(被用者年金制度の被保険者、共済組合員又は加入者である会社員、公務員等。同3379万人(公務員等を除く)。)、第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養配偶者である20歳以上60歳未満の専業主婦等。同1079万人。)に区分されている。
 なお、被保険者の内訳については、社会保険庁が行っている「平成16年公的年金加入状況等調査」(3年ごとに実施)によれば、第1号被保険者2183万人のうち、就業者は1623万人(74.3%)、非就業者等は560万人(25.7%)となっている。そして、図1 のとおり、就業者1623万人のうち自営業者等は626万人で就業者の38.6%と4割を割り込んでおり、雇用者が798万人で49.2%と約半数を占めている。そして、雇用者のうちフルタイムは298万人(37.4%)であり、臨時、パート等が500万人(62.6%)と半数以上を占めている。

図1 就業者の内訳

図1就業者の内訳


イ 保険料の納付

 第1号被保険者及び任意加入被保険者(注1) は、定額の保険料(18年度月額13,860円)を納付することとされている。
 また、保険料を徴収する権利は、2年を経過したときに時効によって消滅するとされている。
 第2号被保険者及び第3号被保険者の保険料については、各被用者年金制度がその被保険者等の数に応じて拠出金として国民年金特別会計(19年4月以降は年金特別会計) に拠出することになっている。

 任意加入被保険者  60歳以上65歳未満の者で保険料納付済期間等が40年に満たないため任意に加入している者など


ウ 保険料の免除等

 第1号被保険者については、一定の要件の下に保険料の納付の免除又は猶予(以下「免除等」という。)を行うことが認められており、法定免除、申請免除、学生納付特例及び若年者納付猶予がある。
 法定免除は、第1号被保険者が障害基礎年金等の受給権者であるときや生活保護法(昭和25年法律第144号)による生活扶助を受けるときなど、法令で定められた要件に該当する場合、保険料の納付が免除されるものである。
 申請免除は、第1号被保険者本人及び保険料の連帯納付義務者である世帯主、配偶者のいずれもが一定の所得以下であるときなど、法令で定められた要件に該当する場合、第1号被保険者の申請を受けて社会保険庁長官が承認することにより、保険料の納付を要しないこととされるものであり、表1のように、所得に応じて全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除がある。

表1 国民年金保険料の申請免除に係る所得の目安(平成18年7月以降)
(単位:万円)
世帯構成
全額免除
一部免除
3/4免除
半額免除
1/4免除
4人世帯
(夫婦、子供2人)
162
230
282
335
2人世帯
(夫婦のみ)
92
142
195
247
単身世帯
57
93
141
189

 学生納付特例は、学生等である第1号被保険者本人の前年の所得が一定の額以下であるなどの場合に、申請により在学中の保険料の納付が猶予されるものである。
 若年者納付猶予は、30歳未満の第1号被保険者本人及び配偶者の前年の所得が一定の額以下であるなどの場合に、申請により保険料の納付が猶予されるものである。
 なお、これらの免除等を受けた期間は、年金の受給資格期間(被保険者期間25年等)に算入されるが、免除の区分に応じてその6分の1から3分の2は年金額の計算(注2) に反映されないことから、将来、資力が回復した場合などに、10年以内に限り、保険料の全部又は一部の追納が認められている。

(注2)
 年金額は、次の式により計算される。

(満額の年金、平成18年度の場合792,100円)×[{(保険料納付済期間の月数)×(保険料免除期間の月数)×(1/3(全額免除)、1/2(4分の3免除)、2/3(半額免除)又は5/6(4分の1免除))}/{(加入可能年数)×12}]


エ 保険料の納付対象者

 保険料を納付しない法定免除者、申請免除における全額免除者等を除き、国民年金保険料の納付の対象となる者(以下「納付対象者」という。)は、18年度で1594万人、その第1号被保険者(任意加入被保険者を含む。)に占める割合は75%(図2参照) となっている。

図2 保険料の納付の対象者

図2保険料の納付の対象者


(注)
 一般被保険者納付対象者のうち任意加入者、一部免除者以外の者


オ 年金の給付

 国民年金の給付には、全受給権者に共通の老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金(以下、これらを「基礎年金」という。)、第1号被保険者に支給される独自給付(付加年金、寡婦年金等)、国民年金制度の発足当時既に高齢で受給要件を満たせない者等に支給される福祉年金がある。
 このうち老齢基礎年金は、被保険者が老齢となったことにより、所得が減少又は喪失した場合に、生活の安定が損なわれることを防止するために支給される。老齢基礎年金は、保険料納付済期間、保険料免除期間、学生納付特例期間及び若年者納付猶予期間を合わせて25年以上などの受給資格期間を満たす者が65歳に達したときに受給権者となるものである。この受給権者数は、基礎年金制度が創設された昭和61年度は12万人であったが、年々増加して、平成18年度では1922万人となっている。
 そして、老齢基礎年金の額は、20歳から60歳に達するまでの40年等の加入可能期間のすべてが保険料納付済期間である場合に、満額の年金(18年度792,100円)が支給されることとなっている。

(2) 国民年金事業の事務

 社会保険庁が行っている国民年金事業の主な事務としては、被保険者資格の適用に関する事務、保険料に関する事務及び年金給付に関する事務があり、これらの事務のうち第1号被保険者の資格に関する届出の受理・報告等については、法定受託事務として市区町村においても行われている。

ア 被保険者資格の適用に関する事務

 被保険者資格の取得、喪失、種別変更等の届出の受理等を行うとともに、国民年金原簿等への記録の更新等を行い、年金手帳の作成交付等を行うなどの事務、未加入者等に対して資格取得届出の勧奨等を行うなどの事務である。

イ 保険料に関する事務

 保険料の収納、未納者に対する納付督励等を行うなどの事務、被保険者から提出された免除等申請書について、受理、内容審査、認定を行うとともに、国民年金原簿等への記録の更新等を行い、当該被保険者に通知を行うなどの事務である。

ウ 年金給付に関する事務

 老齢基礎年金等を受給しようとする者からの裁定請求書の受理、内容審査、裁定を行うとともに、国民年金原簿等への記録の更新等を行い、年金証書の作成交付等を行うなどの事務、裁定された老齢基礎年金等について、記録に従い受給権者に支払(年6回)等を行うなどの事務である。



(3) 国民年金事業に係る費用の負担

 国民年金事業の運営については、国民年金特別会計法(昭和36年法律第63号。19年4月以降は特別会計に関する法律(平成19年法律第23号))により、特別会計を設置し、国の一般会計と区分して経理することとされている。
 そして、国民年金事業に係る費用には、年金給付など国民年金事業に要する費用と国民年金事業の事務の執行に要する費用とがあり、第1号被保険者が納付する保険料、一般会計からの国庫負担金、厚生保険特別会計、共済組合等からの拠出金等により賄われている。
 なお、国民年金事業の事務の執行に要する費用の負担については、国民年金法第85条により、毎年度予算の範囲内で全額国庫が負担することとされているが、10年度以降、法律に基づく特例措置により、その一部に国庫負担以外の財源(年金保険料)を充てるものとされた。しかし、年金保険料で負担した事務費の中に職員宿舎、公用車等に係る経費等が含まれていることに対して社会的な批判が出たため、社会保険庁では17年度から、年金保険料で負担する事務費の使途は、保険事業運営に直接関わる適用、徴収、給付事務及びシステム経費に限定し、これまで年金保険料を充てていた職員宿舎、公用車等については国庫負担とすることとなった。

(4) 16年の国民年金制度の改正

 国民年金制度については、16年に国民年金法等の改正が行われ、給付と負担の見直し等が行われている。

ア 給付と負担の見直し

 従来、年金額の改定は、原則として5年ごとの財政再計算時に、少子・高齢化、賃金、物価変動等の社会経済情勢の変動を前提にして、年金額の給付水準を将来にわたり維持するために、保険料をどこまで引き上げなければならないかを計算する方式である給付水準維持方式に基づき行われていた。
 制度改正後は、将来の現役世代の過重な負担を回避するため、最終的な保険料額等の負担水準を法律に規定し、その負担の範囲内で年金給付を行うことを基本にして、社会経済情勢の変動に応じて給付水準を自動的に調整する方式である保険料水準固定方式により年金額の改定を行うこととした。そして、保険料については、17年度から29年度まで毎年月額で280円引き上げた額に、前年度の保険料改定率に名目賃金変動率を乗じて得た率を乗じて改定するものとし、29年度以降は保険料水準を16,900円(16年度賃金水準を基準とした価格)で固定することとした。

イ 基礎年金国庫負担割合の引上げ

 全受給権者に共通の基礎年金の国庫負担割合については、17、18両年度において、我が国の経済社会の動向を踏まえつつ、所要の税制上の措置を講じた上で、別に法律で定めるところにより、国庫負担の割合を適切な水準へ引き上げることとされ、また、国庫負担割合の2分の1への引上げ年度については、19年度を目途に、税制の抜本的な改革を行った上で、21年度までのいずれかの年度を定めるものとされている(図3参照) 。そして、19年度までの国庫負担については、16年度においては、税制改正における老齢者控除の廃止等による増収分を財源として充当し、17年度以降は、恒久的減税(定率減税)の縮減、廃止による増収分を財源として充当している。

図3 国庫負担割合の引上げの概要(予算ベース)

図3国庫負担割合の引上げの概要(予算ベース)


ウ 所得情報の取得

 保険料の徴収に関しては、従来から、国民年金法第108条の規定により、社会保険庁長官は保険料の処分に関し必要があると認めるときは、資産又は収入の状況等につき、郵便局その他の官公署等に対し必要な書類の閲覧若しくは資料の提供を求め、又は銀行、信託会社その他の機関等に報告を求めることができることとなっているが、16年の同法改正に伴い、同法第106条の規定により、社会保険庁長官は必要があると認めるときは、保険料に関する処分に関し、被保険者に対し資産又は収入の状況に関する書類その他の物件の提出を命じることなどができると明確に定められた。これにより、市区町村が社会保険庁の依頼に応じて所得情報の提供を行うことの法的環境が整った。
 このことから、16年10月以降、社会保険事務局及び社会保険事務所等は市区町村と事前に協議を行った上、書面又は電子媒体により保険料を未納している第1号被保険者(以下「未納者」という。)の所得情報の提供を受けて、保険料の徴収や免除等の事務に利用することとした。


2 検査の背景、観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の背景、観点及び着眼点

 本院は、平成15年度決算検査報告に、特定検査対象に関する検査状況として「国民年金事業の実施状況について」を掲記し、被保険者資格の適用に関する事務において、職権による適用が適切に行われていなかったり、保険料に関する事務において、電話番号情報の不明者が多く電話による納付督励の実施率が低かったりなどしており、職権適用の拡充、保険料収納の効率化等を図る必要がある旨を報告した。
 また、平成17年度決算検査報告に、特定検査対象に関する検査状況として「国民年金保険料の申請免除及び若年者の免除特例の実施状況について」を掲記し、国民年金保険料の免除等において、法令等に定められた要件を満たしていないのに承認するなどしており、改善策を着実に実施する必要がある旨を報告した。
 そして、社会保険庁では、職権適用の拡充など被保険者資格の適用促進を図るとともに、16年度以降毎年度「納付率80%の達成に向けた行動計画」(以下「行動計画」という。) を策定して、保険料の収納対策、受給権確保等のための免除等勧奨の推進、強制徴収の拡充等、国民年金保険料の納付状況(納付率)の改善策を実施してきた。また、社会保険庁が実施している保険料収納業務のうち、法令等の範囲内で民間事業者が実施可能な範囲において、民間事業者の創意工夫やノウハウを活用する国民年金保険料収納業務委託事業(市場化テストモデル事業)(以下「市場化テストモデル事業」という。)を17年10月から5社会保険事務所等で導入し、18年7月からは30社会保険事務所等を加えて実施している。
 社会保険庁については、その抜本的な組織改革が行われることとなり、20年10月には政府管掌健康保険の運営が新たな非公務員型の公法人である「全国健康保険協会」に分離され、その後、日本年金機構法(平成19年法律第109号)により、社会保険庁は廃止され、22年4月までに新たに非公務員型の公法人である「日本年金機構」が設立されることとなっている。
 そこで、社会保険庁が実施してきた被保険者資格の適用促進や保険料の収納対策、免除等勧奨の推進、強制徴収の拡充等及び市場化テストモデル事業について、合規性、経済性、効率性及び有効性等の観点から、それらが被保険者資格の適用や保険料の収納等にどの程度結び付いているか、市場化テストモデル事業が所期の目的を達成し効果を上げているかなどに着眼して検査を実施した。


(2) 検査の対象及び方法

 本院は、社会保険庁、社会保険業務センター及び28社会保険事務局(注3) において、会計実地検査を行った。そして、被保険者資格の取得や種別変更、保険料の収納等に関する各種帳票、その他事業実績に関する資料等を入手し、分析するなどの方法により検査した。
 なお、調査項目によっては、各社会保険事務局において把握している情報が区々となっていることなどから、調査・分析の対象とした社会保険事務局数が上記の28社会保険事務局を下回るものがある。

 28社会保険事務局  北海道、青森、岩手、山形、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、福井、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、 鳥取、徳島、高知、福岡、熊本、宮崎、沖縄各社会保険事務局


3 検査の状況

(1) 被保険者の適用促進に関する事務の実施状況について

 社会保険庁では、被保険者の適用促進に関する事務として、20歳に到達した者、基礎年金番号の管理により把握された第2号被保険者資格喪失者又は第3号被保険者資格喪失者で第1号被保険者の資格取得届等の届出が行われていないもの(以下「未届者」という。) に対し、届出の勧奨や被保険者資格の職権適用を行っている。そして、職権適用については、従来、20歳に到達した者を優先して行っていたが、20歳に到達した者については、住民基本台帳ネットワークシステムの情報の入手によりその把握等が容易になった。そこで、未届者について、17年4月に「国民年金第2号又は第3号被保険者から第1号被保険者に移行した者に対する適用促進について」(庁保険発第0420001号)を発して、その職権適用の促進を図ることとした。
 検査した28社会保険事務局において、18年度における未届者に対する職権適用者の割合を調査したところ、千葉社会保険事務局の0.7%から長野社会保険事務局の72.1%まで大幅な開差があった(図4参照)

図4 職権適用の実施割合(28社会保険事務局 平成18年度)

図4職権適用の実施割合(28社会保険事務局平成18年度)


 社会保険事務所等が職権適用を促進するに当たっては、関係市区町村に住所確認等を依頼しているが、この依頼は、所得情報の取得の場合と異なり、法律を根拠とするものでないことから、協力が得られるかどうかは各市区町村の判断に依存せざるを得ない面がある。そして、職権適用者の割合が高い社会保険事務局管内の社会保険事務所等においては、関係市区町村の協力が十分に得られていることが、その割合の高さにつながっていると思料される。

(2) 保険料の収納に関する事務について

 社会保険庁では、保険料の収納に関する事務として、未納者に対して、市区町村からの所得情報に基づき、一定の所得以下の者に対して免除等の周知、勧奨を行うとともに、様々な納付督励を行っている。
 このうち納付督励については、1箇月分以上の保険料の未納者は全国で約940万人(18年度)に上り、すべての未納者に面談して行うことは困難であることから、図5 のとおり、催告状の発行を定期的に行うとともに、保険料の納付が比較的見込める新規未納者(初めて未納が発生した者)や短期未納者(未納が6箇月以下の者)に対して、電話による納付督励を行い、それでも保険料を納付しない者や電話番号が不明で電話納付督励ができない者に対して、国民年金推進員等による戸別訪問や集合徴収で面談による納付督励を行うことにしている。
 そして、度重なる督励にも応じない未納者については、15年度以降強制徴収を実施しており、市区町村から提供を受けた所得情報や戸別訪問等による納付督励結果などを基に総合的に勘案して強制徴収の対象者を決定している。

図5 保険料の納付督励等の流れ

図5保険料の納付督励等の流れ


 主な納付督励の実施状況は以下のとおりとなっている。

ア 電話による納付督励

 電話による納付督励は、保険料の未納の長期化を防止し、収納の確保を図る観点から、納付期限を経過しても納付しない者のうち、主として、早期に対応することなどにより納付に結び付く可能性が高いと思われる新規未納者及び短期未納者を対象として、各社会保険事務局がその業務を事業者に委託等することにより実施している。そして、電話納付督励の対象者は、各社会保険事務所等が設定した未納月数等の条件に従って抽出され、社会保険業務センターから各社会保険事務局に配信される国民年金電話納付督励調査票等(以下「調査票」という。)を基に毎月、受託事業者等が電話により納付督励を行っている。
 13社会保険事務局において、調査したところ、電話納付督励の委託経費は、16年度3億7300万余円、17年度3億6247万余円、18年度3億1411万余円となっている。そして、16年度から18年度までの間に社会保険業務センターから配信された調査票の件数、電話納付督励の実施件数等は表2のとおりであり、調査票出力件数に対する電話納付督励の実施率は41.5%から44.8%にとどまっている。
 これは、被保険者資格取得届等に電話番号情報の記載義務がないことから、調査票に電話番号情報が記入されていないものがあることなどによる。

表2 電話納付督励実施状況(13社会保険事務局)
(単位:件、%)
年度
項目
16
17
18
参考
〔14年度 17社会保険事務局〕
調査票出力件数(A)
4,427,731
4,859,074
4,524,910
5,783,434
(A)のうち電話番号
情報有り
3,316,569
(74.9)
3,335,979
(68.6)
3,372,402
(74.5)
3,686,469
(63.7)
(A)のうち電話番号
情報無し
1,111,162
(25.0)
1,523,095
(31.3)
1,152,508
(25.4)
2,096,965
(36.3)
実施件数(B)
(実施率B/A)
1,985,613
(44.8)
2,103,780
(43.2)
1,880,487
(41.5)
1,532,106
(26.5)
接触件数(C)
(接触率C/B)
958,641
(48.2)
1,317,949
(62.6)
1,306,451
(69.4)

注(1)
 接触件数 実施件数のうち、被保険者本人等と電話で会話することができた件数
注(2)
 参考の数値は、本院が平成16年次の検査において調査したものである(平成15年度決算検査報告参照)

 また、13社会保険事務局で18年度に実施した電話納付督励1,880,487件のうち、未納者と接触できたのは1,306,451件(接触率69.4%)で、その結果、図6 のとおり、未納者が保険料を納める旨を約束した「納付約束」は364,746件(27%)で、「態度保留」が540,691件(41%)、「納付拒否」が24,392件(1%)となっていた。

図6 電話納付督励により接触できたものの内訳(13社会保険事務局 平成18年度)

図6電話納付督励により接触できたものの内訳(13社会保険事務局平成18年度)


イ 国民年金推進員の活動

 国民年金推進員は、保険料の収納に関する事務が国に移管された14年度から保険料の収納対策の一環として配置されている非常勤の一般職の国家公務員であり、その職務は国民年金制度の周知、口座振替の促進、免除等の勧奨、保険料の納付督励及び収納等を行うこととされている。
 国民年金推進員は、各社会保険事務所等に配置(全国で16年度2,566人、17年度3,108人、18年度3,334人)されており、今回調査した21社会保険事務局管内の170社会保険事務所等においては、18年度に1,677人の国民年金推進員により900万件の戸別訪問が行われていた。そして、未納者と接触できたのは441万件(49.0%)で、そのうちの49万件から、835,950月の保険料(1月当たり13,860円として試算すると115億8626万円。1件当たり23,194円。)が収納されている。この21社会保険事務局における国民年金推進員の配置人員数、収納月数及び収納金額は、表3のとおり、16年度以降増加しているが、口座振替獲得件数は17年度から18年度にかけて減少している。

表3 国民年金推進員の配置人員数、収納月数、金額等の推移(21社会保険事務局)
年度
16
17
18
配置人員数 (人)
1,375
1,604
1,677
収納月数 (月)
571,040
750,878
835,950
収納金額(試算) (万円)
75億9483
101億9692
115億8626
口座振替獲得数 (件数)
17,298
37,024
34,262

 また、21社会保険事務局における18年度の国民年金推進員1人当たりの収納月数及び収納金額についてみると、表4のとおり、最大で759月、1052万余円、最小で256月、356万余円と社会保険事務局間で大幅な開差が見受けられた。

表4 社会保険事務局別の収納月数、収納コスト等(21社会保険事務局 平成18年度)

表4社会保険事務局別の収納月数、収納コスト等(21社会保険事務局平成18年度)


 また、21社会保険事務局について、18年度における国民年金推進員人件費及び収納月数を調査したところ、保険料1月分(13,860円)を収納するのに要した人件費(人件費/収納月数。以下「収納コスト」という。)は、最大で8,709円、最小で2,696円と大幅な開差があり、主に大都市部の社会保険事務局において収納コストが高くなっていた。
 さらに、21社会保険事務局における18年度の国民年金推進員1人当たりの口座振替獲得件数は、表5のとおり、最大で29.4件、最小で10.4件と大幅な開差がある。

表5 国民年金推進員1人当たりの口座振替獲得件数(21社会保険事務局 平成18年度)

表5国民年金推進員1人当たりの口座振替獲得件数(21社会保険事務局平成18年度)


ウ 集合徴収

 集合徴収は、未納月数、住所等の条件で抽出した未納者に案内状等を送付し、一定の日に市区町村の公共施設等に来場してもらうことにより、納付相談等と併せ、未納保険料の収納等を行うものである。そして、今回調査した22社会保険事務局の16年度から18年度における集合徴収の実施状況は表6のとおりとなっている。

表6 集合徴収の実施状況 (22社会保険事務局)
年度
実施回数
案内状送付
(A)
来場者数
(B)
来場率
(B)/(A)
収納
納付者数
金額
1人当たりの納付金額
 
16
17
18
4,157
4,363
2,872
9,921,171
11,636,961
8,411,374
121,128
110,344
89,437
1.2
0.9
1.1
59,878
57,059
42,674
万円
32億9019
32億2432
23億7766
54,948
56,508
55,716

 16年度から18年度において、案内状送付件数に対する来場者数の割合は1%前後と低いものとなっているが、来場者の約半数は保険料を納付しており、1人当たりの納付金額も約4箇月分となっている。

(3) 保険料の免除等について

ア 保険料の免除等の実施状況

 保険料の免除等のうち申請免除については、14年度から被保険者の負担能力への配慮がきめ細かく行えるよう半額免除が導入された。また、17年4月から低所得の若年者が将来負担できることになった時点で追納できる仕組みである若年者納付猶予が創設された。さらに、18年7月からできるだけ保険料を納付しやすい仕組みとする観点から、申請免除において、4分の3免除及び4分の1免除を導入している。
 14年度以降の免除等者数の推移は図7 のとおりであり、免除等者数は毎年度増加する傾向となっている。特に、全額免除者についてみると、14年度の143万人から18年度では206万人と、約44%増加している。これは、被保険者が保険料を未納している期間は受給資格期間に算入されないが、免除等を受けた期間は同期間に算入され、また、年金額の計算にも相当程度反映されることから、社会保険庁において、被保険者の受給権確保等の対策の一つとして、低所得の未納者に対する免除等の勧奨を重点対策としているためである。

図7 国民年金保険料の免除等者数の推移

図7国民年金保険料の免除等者数の推移


イ 申請免除等の事務処理に係る改善策の実施状況

 本院では、前記のとおり、平成17年度決算検査報告に「国民年金保険料の申請免除及び若年者の免除特例の実施状況について」を特定検査対象に係る検査状況として掲記し、申請免除等に関して法令等を遵守した事務処理の徹底が強く求められていることから、社会保険庁が今後執ることとしている次のような改善策の実施状況について注視していくこととした。

(ア) 所得要件に関するもの

a 所得額の審査確認に当たっては、申請免除等の種類の承認誤りが生ずることのない事務処理方法を徹底する。

b 税務申告を行っていない申請者については、申請書に必ず申立書を添付させるなど、その取扱いについて徹底を図るため所要の措置を講ずる。

c 市区町村による所得額の審査を受けた後に免除等の承認事務手続を行うなど、正規の事務手続を徹底する。

(イ) 失業に係る資格要件に関するもの

 失業の事実を証明する公的証明書を申請書に添付させ、承認後もその事実を確認できるよう取扱いを徹底する。

(ウ) 免除期間に関するもの

 免除期間の決定に当たっては、法令等によった承認事務が徹底されるよう研修等を通じ職員に法令遵守の意識を徹底させる。

(エ) 申請の種類に関するもの

 申請書に申請免除等の種類が記載漏れとなっている場合は、申請者にいずれの種類の申請免除等を希望するか必ず確認し、その記録を残すなど適切な取扱いを徹底する。

上記の改善策の実施状況についてみたところ、今回の会計実地検査で検査した限りでは、おおむね社会保険庁が発出した通知に合致した事務処理となっていた。

(4) 強制徴収について

ア 実施の背景と目的

 国民年金法第96条は、保険料等を滞納する者があるときは、督促及び滞納処分をすることができる旨を規定している。この規定は、保険料が自主納付を原則としているものの、他の被用者年金制度と同様、強制的に保険料を徴収することができることを定めているものである。
 社会保険庁では、14年度から保険料の収納事務が国に移管されたことを契機として、保険料の収納事務を最重要課題と位置付け、催告状の送付、電話及び戸別訪問による納付督励等の収納対策を実施しているが、収納状況は極めて厳しい状況となっていることにかんがみ、15年度から特に必要と認められる者については、督促及び滞納処分を実施することとした。

イ 強制徴収の対象者及び事務

 未納者に対する最終催告状の送付対象者の選定から滞納処分に至る強制徴収の事務の流れは、図8 のとおりである。

図8 強制徴収事務の流れ

図8強制徴収事務の流れ


 社会保険庁では、強制徴収の対象者の選定について、15年度は、14年度分の保険料が全期間未納となっている者で、かつ、相当程度の資産があり、度重なる納付督励によっても納付に応じない者等から、戸別訪問による納付督励の結果等を基に総合的に勘案して選定することとした。そして、選定した者に対して、自主納付を促す最後の催告として、納付がなければ法の定める滞納処分を開始する旨を通知する最終催告状に納付書を同封して送付することとした。
 また、16年度以降は、市区町村から被保険者の所得情報の提供を受けることができる法的環境が整備されたことに伴い、所得状況を勘案した上で、1社会保険事務所等当たりの最終催告状の送付件数の目標を定めて実施することとした。

ウ 強制徴収の実施状況

 社会保険庁では、度重なる納付督励を行っても未納者が依然として減少しないため、15年度から実施している強制徴収を毎年度拡充しており、全国の47社会保険事務局における最終催告状及び督促状の発行件数の年度別推移は、表7のとおりとなっている。

表7 最終催告状及び督促状の発行件数(全国47社会保険事務局)
年度
15
16
17
18
 
最終催告状
9,653
31,497
172,440
310,551
督促状
416
4,571
56,407
100,896

 今回、28社会保険事務局において強制徴収の実施状況について調査したところ、最終催告状は、16、17両年度において、計161,331件発行されており、その後の状況は図9 のようになっていた。

図9 強制徴収の実施状況(28社会保険事務局)

図9強制徴収の実施状況(28社会保険事務局)


(ア) 最終催告状発行後の状況

 16、17両年度に最終催告状が発行された161,331件のうち、19年3月末現在において、完納したものは12,383件(7.6%)、一部納付又は納付誓約したものは34,116件(21.1%)、実際の所得等から免除等に該当したものは41,419件(25.6%)、接触継続中のものは6,222件(3.8%)、既に2号被保険者資格を取得していたなどにより資格喪失したものは16,375件(10.1%)となっている。 そして、督促状が発行されるに至ったものは50,816件(31.4%)となっている。
 上記の一部納付又は納付誓約及び接触継続中となっているものについて、その後の状況を調査したところ、社会保険事務所等において、納付状況を十分に管理していないなどのため、保険料の納付が全くなされなかったり、一部しかなされなかったりしているのに督促状が発行されないままとなっているものが見受けられた。また、納付誓約を承認したものは社会保険事務所等で時効中断の措置が執られているのに、社会保険庁において、その事実を把握する体制となっていないため、保険料の納期から2年経過した時点で消滅時効が完成したものとして経理処理が行われているおそれのあるものが見受けられた。

(イ) 督促状発行後の状況

 督促状が発行された50,816件についてみると、19年3月末現在、督促対象となった保険料(以下「督促保険料」という。)を完納したのは4,764件(9.3%)、一部納付及び納付誓約は10,327件(20.3%)となっているが、未納となっているものは依然として多く35,725件(70.3%)となっている。また、差押えを行った件数は7,043件(13.8%)である。

(ウ) 延滞金の調査確認及び調査決定

 督促保険料がその指定期限までに完納されないときは、国民年金法第97条の規定により当該未納保険料について納期限の翌日から完納日の前日までの日数によって計算した延滞金を徴収することとされている。そして、延滞金が督促保険料の納付等によって確定した場合、社会保険事務所等の歳入徴収官は、延滞金の調査確認及び調査決定を行い、即日納入告知書を作成し、送付することとしている。
 今回、28社会保険事務局において、督促保険料の納付又は差押えによって確定した延滞金の調査確認及び調査決定について調査したところ、社会保険庁の指示が十分伝わっていなかったことから、延滞金の調査確認及び調査決定が督促保険料の納付等の後、1年以上経過して行われていたものが見受けられた。

(5) 保険料の収納・未納等について

ア 収納状況

(ア) 全国の収納状況

a 年度別の収納状況

 全国47社会保険事務局の16年度から18年度までの間における保険料の納付対象者数、納付対象月数、納付月数及び収納額の推移は、表8のとおりであり、未納者数は減少しているものの全額免除等者数が増加傾向にあるため、納付対象者数及び納付対象月数が減少し、納付月数及び収納額も減少している状況である。

表8 納付月数、収納額等の状況(全国47社会保険事務局)
年度
16
17
18
納付対象者数
納付対象月数
納付月数
収納額
納付率
口座振替利用率
未納者数
全額免除等者数
1758万人
2億0613万月
1億3111万月
1兆7860億円
63.6%
37.0%
1119万人
458万人
1652万人
1億9060万月
1億2793万月
1兆8061億円
67.1%
40.0%
(注)
538万人
1594万人
1億8701万月
1億2396万月
1兆7796億円
66.3%
40.2%
944万人
528万人
注(1)
 納付対象者数は、第1号被保険者から、全額免除者、納付猶予者を除いたものである。なお、未加入者及び未届者は、被保険者となっていない。
注(2)
 納付率は以下の算式から計算される。

納付率(%)=(納付月数/納付対象月数)×100

注(3)
 平成17年度の未納者数については、免除等の不適正処理により、集計が困難となり全国集計を行っていない。

b 納付率の状況

 国民年金保険料の納付率については、15年8月に厚生労働省に設置された国民年金特別対策本部において、19年度までに80%に引き上げることが決定された。そして、社会保険庁では、16年度に国民年金保険料に係る行動計画を作成し、年度別の目標納付率を設定しており、その目標納付率に対する16年度以降の実績納付率は表9のとおりとなっている。

表9 目標納付率及び実績納付率(全国平均)
(単位:%)
年度
16
17
18
19
目標納付率A
65.7
69.5
74.5
80.0
実績納付率B
63.6
67.1
66.3
B-A
△2.1
△2.4
△8.2

 そして、18年度においては、実績納付率が前年度より0.8%低下しており、また、目標納付率と実績納付率とのかい離は拡大傾向にあることなどから、このまま推移すると19年度において、目標納付率80%を達成するのは困難と思料される。
 また、18年度の納付率の上位及び下位の各10社会保険事務局の状況を示すと図10 のとおり、79.6%から45.6%までとなっており、大幅な開差が生じていた。

図10 社会保険事務局(上位及び下位各10局)の納付率等の状況(平成18年度)

図10社会保険事務局(上位及び下位各10局)の納付率等の状況(平成18年度)


 また、17、18両年度における納付率を年齢階層別にみると、表10のとおり、年齢が高くなるほど納付率も高くなっている。特に、55歳から59歳の被保険者は、被保険者数全体の約20%を占めるとともに、納付率も80.5%、79.3%と全体の納付率67.1%、66.3%を大幅に上回っている。一方、34歳以下の若年層の納付率は60%に満たないものとなっている。

表10 被保険者の年齢階層別人数、納付率(全国)
年齢
17年度
18年度
人数(万人)
構成率
納付率
人数(万人)
構成率
納付率
20歳〜24歳
25歳〜29歳
30歳〜34歳
35歳〜39歳
40歳〜44歳
45歳〜49歳
50歳〜54歳
55歳〜59歳
438
242
231
211
185
183
250
423
20.0%
11.0%
10.5%
9.6%
8.4%
8.3%
11.4%
19.3%
57.8%
55.5%
57.9%
60.1%
65.2%
70.4%
73.6%
80.5%
424
227
222
218
181
177
232
415
19.9%
10.7%
10.5%
10.2%
8.5%
8.3%
10.9%
19.5%
56.2%
54.2%
57.6%
60.1%
63.6%
69.2%
72.5%
79.3%

 また、申請免除においては、半額免除が14年4月から、4分の1免除及び4分の3免除が18年7月から導入されているが、これらの半額免除者等の納付率をみると、表11のとおり、半額免除制度が導入された14年度以降、全体の納付率を大幅に下回った状況で推移している。

表11 半額免除者等の納付率
(単位:%)
年度
14
15
16
17
18
半額(1/2)免除
4分の1免除
4分の3免除
36.4
39.2
39.1
31.8
34.6
16.2
32.7
全体の納付率
62.8
63.4
63.6
67.1
66.3

 これは、半額免除等を承認された被保険者が、これらの承認を受けると保険料を納付する必要がないと誤解したり、免除されていない分の保険料を納付しないと全額未納扱いとなり受給資格期間に算入されなくなることを十分認識していなかったりしていることなどによると思料される。

(イ) 社会保険事務局の収納状況等

a 年度別の収納状況等

 調査した25社会保険事務局における16年度から18年度の収納状況等は、表12のとおりであり、納付対象者数、納付対象月数、納付月数及び収納額は毎年度減少傾向にある。

表12 納付月数、収納額等の状況(25社会保険事務局)
年度
16
17
18
納付対象者数
納付対象月数
納付月数
収納額
納付率
口座振替利用率
1270万人
1億4785万月
9216万月
1兆3826億1725万円
62.3%
34.7%
1194万人
1億3650万月
9002万月
1兆3784億5546万円
65.9%
37.4%
1173万人
1億3418万月
8725万月
1兆3141億7436万円
65.0%
37.5%

b 納付率等の状況

 調査した27社会保険事務局について、18年度の納付率の上位及び下位の各10社会保険事務局の納付率、口座振替利用率等の状況をみると、表13及び表14のとおりである。

表13 調査対象のうち納付率上位の10社会保険事務局(平成18年度)
(単位:%)
社会保険事務局
納付率
口座振替利用率
免除率(注)
福井
長野
岐阜
山形
鳥取
岩手
三重
山梨
和歌山
高知
77.5
76.7
75.9
75.7
75.6
74.7
73.4
73.1
72.0
70.9
59.9
59.5
58.5
52.1
49.2
31.8
54.2
46.8
50.8
30.3
23.3
23.8
20.6
23.8
33.2
27.4
22.3
24.7
30.5
34.9
10局平均
全国平均
74.5
66.3
49.3
40.2
26.4
25.2
 免除率は以下の算式から計算される。

免除率(%)=((法定免除者数、全額免除者数、学生納付特例者数又は若年者納付猶予者数)/第1号被保険者数)×100


表14 調査対象のうち納付率下位の10社会保険事務局(平成18年度)
(単位:%)
社会保険事務局
納付率
口座振替利用率
免除率
沖縄
大阪
東京
埼玉
千葉
青森
宮崎
神奈川
京都
兵庫
45.6
57.1
61.1
63.2
63.6
63.8
64.3
64.6
65.3
65.6
26.5
29.2
31.7
32.6
36.2
35.5
45.4
33.6
40.8
40.0
40.7
28.0
19.4
18.6
19.4
31.7
30.7
18.9
29.4
30.4
10局平均
全国平均
61.4
66.3
35.1
40.2
26.7
25.2

 納付率上位及び下位の各10社会保険事務局を比較すると、大都市及びその近県が納付率の下位の多くを占めている。また、納付率の上位の10社会保険事務局のほとんどは、口座振替利用率が全国平均を大幅に上回っているのに対し、納付率下位の社会保険事務局のほとんどは、口座振替利用率が全国平均を下回っている。
 また、27社会保険事務局管内の各社会保険事務所等について、18年度の納付率の上位及び下位の各10社会保険事務所等の納付率、口座振替利用率等の状況をみると、表15及び表16のとおりである。

表15 調査対象のうち納付率上位の10社会保険事務所(平成18年度)
(単位:%)
社会保険事務所
納付率
口座振替利用率
免除率
高山(岐阜)
千代田(東京)
長野北(長野)
寒河江(山形)
飯田(長野)
武生(福井)
稚内(北海道)
美濃加茂(岐阜)
倉吉(鳥取)
本渡(熊本)
85.6
83.8
83.5
82.6
81.1
80.4
80.2
79.8
79.7
79.2
75.8
25.7
72.3
63.6
67.8
65.3
56.2
62.4
60.9
64.1
15.2
16.7
22.8
21.2
23.1
22.5
22.8
20.2
29.2
33.3
10事務所平均
全国平均
81.5
66.3
61.4
40.2
22.7
25.2

表16 調査対象のうち納付率下位の10社会保険事務所等(平成18年度)
(単位:%)
社会保険事務所等
納付率
口座振替利用率
免除率
難波(大阪)
コザ(沖縄)
今里(大阪)
那覇(沖縄)
玉出(大阪)
平野(大阪)
浦添(沖縄)
市岡(大阪)
淀川(大阪)
堀江(大阪)
40.7
43.3
43.8
43.9
46.4
47.6
48.0
48.8
49.1
49.5
18.7
24.1
23.6
24.5
23.3
24.0
26.5
25.3
26.3
26.0
25.0
43.4
25.0
36.9
31.3
28.9
41.4
28.0
27.3
27.0
10事務所等平均
全国平均
46.1
66.3
24.2
40.2
31.4
25.2

 納付率下位の10社会保険事務所等の口座振替利用率をみると、平均で24.2%と全国平均の40.2%を大幅に下回っている。また、免除率も30%を超え、全国平均の25.2%を相当上回っている。一方、納付率上位の10社会保険事務所の口座振替利用率は全国平均を大幅に上回っているが、免除率は全国平均と大差ないものとなっている。

c 割引サービスの利用状況等

 保険料については年度ごとに毎月定額とされているが、保険料を6箇月分又は1年分を一括して前納するなどした場合には割引が受けられる前納割引制度がある。18年度の納付方法別の保険料額は表17のとおりである。

表17 納付方法別の保険料(平成18年度)
(単位:円)
納付方法
1箇月分
6箇月分
1年分
現金支払(月々)
13,860
83,160
166,320
現金支払(前納)
(割引額)
82,480
(680)
163,370
(2,950)
口座振替(前納)
(割引額)
13,810
(50)
82,220
(940)
162,830
(3,490)

 調査した21社会保険事務局管内における16年度から18年度における前納割引制度の利用件数、口座振替利用者数等の推移は表18のとおりである。

表18 割引制度の利用件数、口座振替利用者数等の推移(21社会保険事務局)
(単位:件)
年度
16
17
18
1年前納(現金納付)
1年前納(口座振替)
6箇月前納(現金納付)
6箇月前納(口座振替)
923,983
545,821
234,387
84,775
760,496
865,266
231,225
104,837
691,561
927,986
216,388
116,697
納付対象者数 (A)
口座振替利用者数 (B)
口座振替利用率 (B)/(A)
納付率
1125万人
391万人
34.8%
61.9%
1058万人
398万人
37.6%
65.5%
1030万人
388万人
37.6%
64.6%

 16年度から18年度において、現金納付による1年前納割引の利用件数は減少している(減少率約25%)のに対し、口座振替による1年前納割引及び6箇月前納割引の利用件数は、納付対象者数及び口座振替利用者数の減少にもかかわらず、大幅に増加(増加率約70%及び約37%)している。

イ 未納保険料等の状況

 保険料の納付義務が発生してから消滅時効(2年間)により請求できなくなるまでの保険料債権に対する18年度の収納等の状況をみると、17年度末の未納保険料2兆0482億円及び18年度に発生等した保険料債権2兆7067億円、計4兆7550億円の保険料債権に対し、保険料収納済額は1兆9038億円で、不納欠損及び時効消滅額9864億円、18年度末の未納保険料額が1兆8647億円となっている。
 また、これらの昭和61年度から平成18年度までの推移は図11 のとおりとなっており、未納保険料額は15年度をピークとして、16年度から減少に転じているものの、保険料の不納欠損及び時効消滅額は17年度に1兆円を超え、18年度においても9864億円となっている状況である。そして、保険料債権に対する保険料収納済額の割合は、近年、40%前後という非常に低い状態が継続している。

図11 保険料収納額等の推移

図11保険料収納額等の推移


ウ 未納者等の状況

(ア) 未納者

 消滅時効までの2年間に係る保険料のうち1箇月分以上の保険料が未納となっている被保険者の数について、全国の47社会保険事務局を調査したところ、表19のとおり、16年度の1119万人に対して、18年度は944万人であり、175万人(15.6%)減少している。

表19 全国の未納者数の状況
区分
第1号被保険者数
1箇月分以上の保険料の未納者
 
未納月数別内訳
1〜6箇月
7〜12箇月
13〜18箇月
19〜24箇月
 
16年度
万人
2216
万人
1119
万人
298
万人
187
万人
115
万人
517
17年度
2190
18年度
2123
944
264
181
93
404
(注)
 平成17年度については、免除等の不適正処理により、集計が困難となり全国集計を行っていない。

(イ) 居所未登録者の状況

 被保険者のうち、転出しても住所変更届が提出されていないなどして、居所不明であることが判明した場合等には、所在が判明するまでの間は、納付書等の発送、納付督励等を行うことができなくなっている。
 これらの居所未登録者の納付対象月数については、納付率の算定において納付対象月数に含まれないことから、計算上、納付率が上がることとなる。そして、居所未登録者は、調査した28社会保険事務局で計519,818人(18年度)となっている。
 なお、社会保険庁が18年8月に公表した「国民年金保険料の免除等に係る事務処理に関する第3次調査報告書」によれば、居所未登録処理を行う必要のない者に対して、納付率引上げのために居所未登録処理を行ったものが約10万件であったとされている。また、同年の国会審議において、居所未登録者の認定方法が不明確であるとの指摘があり、社会保険庁は改めて再調査を行うこととした。
 そして、社会保険庁では同年に「住所が不明な被保険者の取扱いについて(通知)」を発し、居所未登録者の要件を厳格に定め、改めて居所未登録者について現地調査を含む再調査を行っている。

(6) 市場化テストモデル事業の実施状況について

ア 市場化テストモデル事業の目的及び対象業務

 市場化テストモデル事業は、16年12月に提出された「規制改革・民間開放の推進に関する第一次答申」(「規制改革・民間開放推進会議」)に基づき、従来、社会保険庁が実施している国民年金保険料収納業務のうち、未納者に対する収納業務等を包括的に民間に委託し、民間事業者の創意工夫やノウハウの活用により、納付率の向上を図るとともに、当該業務の質及びコストに関する官民間の透明、中立、公正な比較を実施することを目的としている。そして、対象業務として、次の納付督励等業務を委託し、効率的、効果的に実施する手段、手法については、法令の範囲内において民間事業者の提案に委ねるものとされている。

(ア) 国民年金保険料の未納者(強制徴収及び免除等勧奨対象者を除く。)に対する納付督励

(イ) 未納者からの委託に基づく国民年金保険料の納付受託

(ウ) 未納者からの口座振替の獲得

(エ) 業務実施内容の記録及び報告

イ 対象事業に関する要求水準と委託費の支払

 市場化テストモデル事業の実施に当たっては、委託費の基本額及び成功報酬の支払額を決める際に用いる基準となる納付月数等の要求水準が定められている。17年10月から18年9月までの期間に5社会保険事務所等で実施された事業における納付月数の要求水準は、16年度の納付月数に16年4月末に対する17年4月末の被保険者数の増減率及び強制徴収の対象者を除いた被保険者数の減少率を乗じて設定することとされている。そして、委託費の支払については、受託事業者は事業を実施した翌月初旬に委託費を12で除した額の支払を社会保険庁に請求し、社会保険庁では請求書を受理して30日以内に当該金額を支払うほか、市場化テストモデル事業終了後に、受託事業者が要求水準を達成した場合は委託費の全額を支払い、これを上回った場合は更に成功報酬を支払い、これを達成できなかった場合は委託費を減額することとなっている。

ウ 市場化テストモデル事業の実施結果及び社会保険庁における評価

 市場化テストモデル事業は、当初、17年10月から18年9月までの期間、5社会保険事務局管内の5社会保険事務所等において実施された。その後、18年7月から19年9月までの期間、10社会保険事務局管内の30社会保険事務所等で、また、18年10月から19年9月までの期間、上記5社会保険事務局管内の5社会保険事務所等で、再度、実施されている。
 なお、上記をもって市場化テストモデル事業を終了し、19年10月から22年9月までの期間、17社会保険事務局管内の95社会保険事務所等(上記の35社会保険事務所等を含む。)において市場化テスト事業を本格化する予定となっている。
 市場化テストモデル事業のうち、17年10月から18年9月までの期間に5社会保険事務局管内の5社会保険事務所等において実施された事業の実施状況を調査したところ、以下のようになっている。

(ア) 入札及び契約の状況

 市場化テストモデル事業の契約に当たっては、入札において入札書以外に受託事業者が提案する企画書を提出させ、これに評価点を与え、最終的に入札金額及び評価点を考慮する総合評価落札方式により落札者を決定することとしている。そして、5社会保険事務所等ごとの契約の状況は、表20のとおりである。

表20 5社会保険事務所等の契約等の状況
対象社会保険事務所等名
予定価格(円)
(A)
(前年度経費)
契約金額(円)
(B)
落札比率
(B)/(A)
(%)
入札参加事業者数
(社)
受託事業者
弘前
(青森)
65,869,440
(75,712千円)
43,396,500
65.8
5
A社
足立
(東京)
46,441,410
(49,937千円)
25,942,350
55.8
9
B社
熱田
(愛知)
36,322,520
(39,481千円)
21,981,750
60.5
3
B社
平野
(大阪)
39,631,950
(42,615千円)
20,556,900
51.8
8
B社
宮崎
(宮崎)
61,631,250
(64,875千円)
34,813,800
56.4
3
A社
(注)
 予定価格は、前年度(平成16年度)経費から免除等勧奨及び強制徴収業務に係る経費を差し引いたものである。


 市場化テストモデル事業は、官民間の透明、中立、公正な競争を促すことにより、国民にとってより良い公共サービスを効率的に提供することを目指すものであることから、官民双方が競争入札に参加することが望ましいが、上記の5社会保険事務所等に係るものについては、本格的導入前のモデル事業でもあるため社会保険庁は入札に参加せず、民間事業者のみの競争入札となっている。ただし、社会保険庁では、同庁と民間事業者の実施する事業間で効率性の比較が可能となり、競争的環境が創出されるよう必要な措置を講ずるとしている。

(イ) 市場化テストモデル事業の実施結果及び評価

 19年2月に社会保険庁が公表した市場化テストモデル事業の実施結果は、表21のとおりである。

表21 5社会保険事務所等及び同一管内の社会保険事務所等における事業の実施結果
対象社会保険事務所等名
要求水準納付月数
達成納付月数
達成率
納付督励の方法
件数
納付コスト
弘前
(青森)
570,953
601,566
105.36
電話 106,425
戸別訪問 18,700
文書 0
計 125,125
77.3
足立
(東京)
771,109
778,027
100.90
電話 119,612
戸別訪問 0
文書 29,153
計 148,765
34.2
熱田
(愛知)
436,291
444,545
101.89
電話 127,707
戸別訪問 0
文書 13,434
計 141,141
51.3
平野
(大阪)
314,565
304,535
96.81
電話 67,727
戸別訪問 0
文書 10,355
計 78,082
65.3
宮崎
(宮崎)
436,380
459,526
105.30
電話 77,963
戸別訪問 14,197
文書 0
計 92,160
80.8
青森社会保険事務局管内の社会保険事務所等
電話 21,506
戸別訪問 97,564
文書 18,636
計 137,706
164.0
東京社会保険事務局管内の社会保険事務所等
電話 11,273
戸別訪問 65,931
文書 97,457
計 174,661
52.1
愛知社会保険事務局管内の社会保険事務所等
電話 29,356
戸別訪問 51,680
文書 59,366
計 140,402
93.9
大阪社会保険事務局管内の社会保険事務所等
電話 29,069
戸別訪問 63,844
文書 106,192
計 199,105
131.0
宮崎社会保険事務局管内の社会保険事務所
電話 23,962
戸別訪問 60,432
文書 35,690
計 120,084
149.1
注(1)
 市場化テストモデル事業を実施した社会保険事務所等の納付コストは、受託事業者に支払った契約金額に成功報酬を加算した金額又は契約金額から減算した金額を達成納付月数で除して算出している。また、各社会保険事務局管内の社会保険事務所等の納付コストは、市場化テストモデル事業を実施した社会保険事務所等を除いた各社会保険事務所等の人件費、旅費、物件費の合計金額を納付月数で除した数値の平均である。
注(2)
 平野社会保険事務所における戸別訪問件数は、正しくは1件である。

 上記の実施結果について、19年2月に社会保険庁が公表した評価は次のとおりである。
a 要求水準は4社会保険事務所等において達成されたものの、要求水準の達成が必ずしも納付率の向上に結び付いていない。
b 対象社会保険事務所等の免除率が低調であった。
c 対象社会保険事務所等において、積極的に受託事業者と連携、協力し、納付率の向上を目指す取組が不十分である。
d 納付コスト面において受託事業者が社会保険事務所等を下回ったのは、前者が電話による納付督励を中心に行っているのに、後者が電話以外にも戸別訪問、集合徴収による多様な納付督励を行っていて、人件費等に開差が生じているためである。

エ 市場化テストモデル事業の留意点

 今回、本院が調査した結果、事業の実施に当たって次のような点に留意が必要と認められる。

(ア) 入札及び契約について

 市場化テストモデル事業の入札には、社会保険庁は参加していない。そして、入札方式は、企画と価格の双方を考慮して落札者を決定する総合評価落札方式となっている。また、予定価格は対象社会保険事務所等の前年度経費(人件費、旅費、物件費。ただし、免除等勧奨、強制徴収に要する経費を除く。)に基づいて算定されている。しかし、民間事業者だけの競争入札であれば、従来から電話納付督励事業を委託している事業者等から事業に必要な人数及び単価、戸別訪問を行う場合に必要な旅費等の見積りを徴するなどして、委託事業の作業実態に合うような予定価格を作成すべきものと思料される。
 また、前年度経費のうち人件費については、職員の給与、国民年金推進員の賃金及び国民年金収納指導員の謝金の額に、職員が被保険者資格適用業務、免除等勧奨業務及び強制徴収業務を除いた収納業務に従事した割合を考慮した従事率を乗じて算出することとされている。しかし、社会保険庁では、この従事率を各社会保険事務局の判断により設定させることとしているため、ほぼ同様な業務に従事している職員の従事率が1%から30%までとなっていた社会保険事務所があったり、一律に50%となっていた社会保険事務所等があったりして、区々となっている。また、これらの従事率を算定した資料は保存されていない状況である。

(イ) 要求水準の設定方法

 社会保険庁では、19年度目標納付率80%の達成に向けて、各社会保険事務所等ごとに毎年度数パーセントずつ引き上げた目標納付率を設定しており、その対象社会保険事務所等における推移は表22のとおりである。

表22 目標納付率等の推移表
(単位:%、月)
社会保険事務所等
納付率
16年度
17年度
18年度
19年度
目標
実績
(納付月数)
目標
目標
目標
弘前
62.3
62.0
595,172
(634,611)
67.4
75.3
82.2
足立
55.5
54.0
723,959
(801,623)
59.1
64.2
70.3
熱田
60.0
59.1
424,596
(457,907)
64.4
70.8
77.7
平野
46.7
46.5
291,506
(328,324)
54.4
59.4
62.9
宮崎
61.3
55.4
402,701
(441,711)
67.6
75.9
84.7
(注)
 ( )書きの納付月数は過年度の保険料の分を加算したものであり、納付月数の要求水準を算定する際に考慮されたものである。


 市場化テストモデル事業の契約における納付月数の要求水準は、17年10月から18年9月までの期間の事業では、前記のとおり、16年度の納付月数に16年4月末に対する17年4月末の被保険者数の増減率及び強制徴収対象者を除いた被保険者数の減少率を乗じて設定されているが、17年度及び18年度の目標納付率を反映させた納付月数を用いるべきであると思料される。

(ウ) 達成納付月数の状況

 1社会保険事務所を除き、納付月数の要求水準を上回ったことから、受託事業者に対して成功報酬が支払われている。受託事業者の達成納付月数は、強制徴収による納付月数を除くすべての納付月数、すなわち、通常の納付書により金融機関等に保険料が払い込まれた納付月数、口座振替による納付月数、社会保険事務所等の窓口で収納した保険料の納付月数及び受託事業者が直接収納した納付月数の合計となっている。
 この達成納付月数について調査したところ、弘前、足立及び熱田各社会保険事務所においては、それぞれ1,074月、2,203月及び100月の過小が判明した。また、宮崎社会保険事務室においては達成納付月数を集計する際に用いた資料が保存されておらず、達成納付月数が確認できない状況にある。
 これは、社会保険庁が達成納付月数について、各社会保険事務局の報告を精査していない結果であると思料される。
 また、社会保険庁は、受託事業者に対して毎月収納月数の情報を速やかに提供していないため、受託事業者は事業終了後まで達成納付月数を確認できず、自ら成果を確認できない状況となっている。

(エ) 納付督励の実施結果
 電話による受託事業者の納付督励結果を比較したところ、表23のとおり、被保険者本人等と会話することができた接触率は、A社が18.5%及び21.4%であるのに対してB社が36.1%、40.5%及び62.8%となっており、後者が前者を大幅に上回っていた。

表23 電話納付督励及び戸別訪問督励結果
対象社会保険事務所等名
延べ督励数
(A)
接触者数
(B)
接触率
(B)/(A)
納付約束数
(C)
納付約束率
(C)/(B)
受託事業者
弘前
電話 106,425
戸別訪問 18,700
22,812
9,645
21.4
51.5
8,997
2,291
39.4
23.7
A社
足立
電話 119,612
戸別訪問 −
48,486
40.5
6,793
14.0
B社
熱田
電話 127,707
戸別訪問 −
46,192
36.1
6,153
13.3
B社
平野
電話 67,727
戸別訪問 1
42,577
1
62.8
100
5,973
1
14.0
100
B社
宮崎
電話 77,963
戸別訪問 14,197
14,466
6,299
18.5
44.3
7,113
1,574
49.1
24.9
A社
青森社会保険事務局管内他社会保険事務所等
電話 21,506
戸別訪問 97,564
15,330
56,887
71.2
58.3
東京社会保険事務局管内他社会保険事務所等
電話 11,273
戸別訪問 65,931
5,565
21,451
49.3
32.5
愛知社会保険事務局管内他社会保険事務所等
電話 29,356
戸別訪問 51,680
16,108
21,462
54.8
41.5
大阪社会保険事務局管内他社会保険事務所等
電話 29,069
戸別訪問 63,844
16,830
23,475
57.8
36.7
宮崎社会保険事務局管内他社会保険事務所
電話 23,962
戸別訪問 60,432
15,120
39,089
63.0
64.6

 また、対象社会保険事務所等と同一管内の他社会保険事務所等における電話納付督励による接触率は49.3%、54.8%、57.8%、63.0%、71.2%となっており、大阪社会保険事務局管内の他社会保険事務所等を除いて、受託事業者の接触率を上回っていた。 また、納付約束率はA社が39.4%、49.1%であるのに対してB社が13.3%、14.0%、14.0%となっており、前者が後者を大幅に上回っていた。
 戸別訪問による受託事業者の納付督励については、B社が戸別訪問を1件しか実施していなかったため、A社と接触率を比較することはできない。一方、対象社会保険事務所等と同一管内の他社会保険事務所等との比較では、A社の接触率は51.5%、44.3%であるのに対して、同一社会保険事務局管内の他社会保険事務所等は、58.3%、64.6%となっており、後者が前者を上回っていた。
 なお、上記以降に実施されている市場化テストモデル事業においても、前記の入札及び契約の実施や要求水準の設定方法における留意点とほぼ同様の事態が見受けられた。
 一方、17年度開始の事業と18年度開始の事業との大きな変化は、対象社会保険事務所等及び所管の社会保険事務局において受託事業者と連携、協力して市場化テストモデル事業を円滑に進めることをしている点である。これは、前記の社会保険庁の評価を踏まえてのものと思料されるが、納付率の向上を図る取組が望まれる。

(7) 年金記録の状況について

 現在、社会保険庁における国民年金、厚生年金保険及び船員保険の被保険者の納付記録の管理体制等が大きな問題となっている。
 本院としては、現在の状況及び今後の社会保険庁及び厚生労働省の対応状況を把握し、年金記録に関する組織と事務分担、年金記録の管理体制、基礎年金番号の付番等について改善すべき点がないか検討することとし、現在、社会保険庁から過去からの経緯、事態が生じた原因、現在執りつつある対策等について聴取するなど検査に着手したところである。

4 本院の所見

 ア 社会保険庁では、16年度以降、毎年度行動計画を策定するなどして、保険料の収納対策、免除等勧奨の推進、強制徴収の拡充等、国民年金保険料の納付状況の改善策に取り組んできている。また、保険料収納業務について、民間事業者の創意工夫やノウハウを活用する市場化テストモデル事業を17年10月から5社会保険事務所等で導入し、18年7月からは35社会保険事務所等に拡大している。
 今回調査したところ、以下のような状況が見受けられた。
(ア) 被保険者の適用促進に関する事務については、住所確認等に係る市区町村の協力の度合により、社会保険事務局間で、職権適用対象者に占める職権適用者の割合に大きな開差がある。
(イ) 保険料の収納に関する事務については、電話による納付督励において、未納者と接触できたのは69.4%で、そのうち納付約束されたものは27%にとどまっていたり、国民年金推進員による戸別訪問における国民年金推進員1人当たりの収納月数及び収納額並びに保険料1月当たりの収納コストに社会保険事務局間で大きな開差があったりしていて、必ずしも効率的とは思料されない状況となっている。
 また、納付率が上位の社会保険事務局及び社会保険事務所等の口座振替利用率は、ほとんどにおいて全国平均を大幅に上回っていた。
(ウ) 強制徴収の実施状況については、一部納付、納付誓約及び接触継続中となっているもののうち、社会保険事務所等において、納付状況を十分に管理していないなどのため督促状が発行されないままとなっていたり、納付誓約を承認して時効中断の措置が執られているのに、社会保険庁において、その事実を十分に把握できていないため、保険料の納期から2年経過した時点で消滅時効が完成したものとして経理処理が行われているおそれのあるものがあったり、延滞金の調査確認及び調査決定について、督促保険料の納付等の後、1年以上経過してから行われていたものが見受けられた。
(エ) 保険料の収納状況等については18年度の保険料の納付率が同年度の目標である74.5%を相当下回る66.3%となっており、19年度までに80%に引き上げるという目標達成は困難と思料される。そして、34歳以下の若年層では60%を下回っており、半額免除者等では30数%という状況となっていた。
 そして、18年度における保険料債権4兆7550億円に対し、保険料収納額は1兆9038億円、不納欠損及び消滅時効額が9864億円、同年度末の未納保険料額が1兆8647億円となっており、保険料収納額割合は40%と非常に低い水準にある。
(オ) 市場化テストモデル事業の実施状況については、民間事業者だけの競争入札であれば、見積りを徴するなどして委託事業の作業実態に適合するような予定価格を作成すべきものと思料された。また、前年度経費の人件費算出に用いた従事率が業務の実態に合致したものかどうか確認できなかった。さらに、納付月数の要求水準の設定に当たっては、目標納付率を反映させるべきであると思料された。

イ 上記のような状況を踏まえると、社会保険庁において、今後、未届者や未納者の減少を図り、また、保険料収納額の増収を図るため、国民年金事業の実施について、次のような点を検討するなどして適切な事業運営を図ることが望まれる。
(ア) 職権適用については、市区町村との一層の協力、連携を図る必要がある。
(イ) 未納者への納付督励については、できるだけ低い収納コストで、効率的に実施できるよう社会保険事務局間で、納付督励の実施方法、納付督励に関する情報等を共有できるような体制を整備する必要がある。また、口座振替利用率の向上は納付率の向上に結びつくと考えられることから、口座振替利用率向上のためのより一層の対応を図る必要がある。
(ウ) 強制徴収の実施については、督促状を発行すべきものは速やかに行うとともに、社会保険事務所等において納付誓約を承認して時効中断の措置が執られている滞納保険料の情報の把握や督促保険料に係る延滞金の調査確認及び調査決定の債権管理を適切に実施していく必要がある。
(エ) 若年層に対する収納対策について検討するとともに、半額免除等の承認に当たっては、免除されていない分の保険料を納付しないと未納扱いとなることを十分周知徹底するなどの必要がある。そして、このような取組を通して納付率の向上、収納額の増大につなげていくことが重要である。
(オ) 市場化テスト事業の実施については、市場化テストモデル事業の実施結果における留意点も踏まえ、一層の納付率向上を図るための取組が望まれる。

 本院としては、国民年金事業の実施状況について今後も引き続き注視していくこととする。また、年金記録問題については検査に着手したところであるが、今後、社会保険庁の対応、総務省に設置された年金記録問題検証委員会、年金記録確認第三者委員会及び年金業務・社会保険庁監視等委員会の動向等を注視しつつ、年金記録の在り方について、改善すべき点がないか引き続き検査を実施していくこととする。