会計名 | 一般会計、国立高度専門医療センター特別会計、国営土地改良事業特別会計(平成20年度以降は、一般会計及び食料安定供給特別会計)、国有林野事業特別会計 治水、道路整備、港湾整備、空港整備各特別会計(20年度以降は、社会資本整備事業特別会計) |
部局等 | 財務本省 |
建設国債の概要 | 財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項の規定に基づき、公共事業費、貸付金等の財源に充てるために、毎年度国会の議決を経た金額の範囲内で発行される公債 |
(1)建設国債による調達資金が繰り入れられている項の不用額 | 616億9893万円(背景金額)(平成19年度) |
(2)建設国債による調達資金が財源の一部となっている貸付金の償還額 | 168億8485万円(背景金額)(平成19年度) |
(1)及び(2)の計 | 785億8378万円(背景金額)(平成19年度) |
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
貴省は、国の歳出需要を賄うための財源として公債を発行しており、平成20年度末の公債残高は680兆5091億余円になっている。
このうち一般会計で発行される公債には普通国債があり、これには建設国債と特例国債(赤字国債)等の種類があって、20年度末の公債残高の約8割を占めている。そして、普通国債の残高の推移をみると、建設国債は、昭和41年度に6750億円であったものが年々増加して、近年は減少傾向にあるものの、平成20年度末現在では224兆9269億余円と多額に上っている。一方、特例国債等は、昭和50年度に2兆1169億余円であったものが年々増加して、平成20年度末現在では321兆0312億余円になっている。
建設国債の発行については、財政法(昭和22年法律第34号)第4条第1項において、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」とされている。公共事業費の範囲については、 同条第3項において、毎年度国会の議決を経なければならないとされており、具体的には毎年度の予算総則において公共事業費に該当する(項)が定められている。そして、この公共事業費の財源として建設国債を発行することができるのは、それが消費的支出ではなく、受益が長期にわたる国の資産を形成するものであることから、後世代に相応の負担を求めることが適当であるためであるとされている。
また、貸付金の財源として建設国債を発行することができるのは、貸付金が国の資産であること、貸付金の元本の償還等により公債等の償還が可能となることによるとされている。
19年度における建設国債の発行限度額は6兆0940億円で、発行額(額面ベース)は6兆0439億余円となっている。19年度一般会計予算の予算総則では、同年度の公共事業費の範囲として、国会を始め15府省等の(項)衆議院施設費等230の項が規定されている(以下、この230の項に係る経費を「建設国債対象経費」という。)。
特別会計には、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)に定められている一般会計からの繰入対象経費の財源に充てるために、一般会計から19年度に計47兆8540億余円(一般会計支出済歳出額の58.4%)が繰り入れられている。このうち、財源として建設国債を発行することができる公共事業費に該当する(項)として定められた一般会計の(項)から特別会計に繰り入れられた額は、厚生労働省等3省(注1)
所管の国立高 度専門医療センター特別会計等7特別会計(注2)
における計1兆8772億余円となっている。
また、19年度以前に貸付金の財源として建設国債の発行により調達された資金が一般 会計から繰り入れられており、19年度末に貸付事業を行っている4特別会計(注3)
では、一般会計からの繰入れの累計額は9227億余円となっている。
(注1) | 3省 厚生労働省、農林水産省及び国土交通省
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(注2) | 7特別会計 国立高度専門医療センター、国営土地改良事業、国有林野事業、治水、道路整備、港湾整備、空港整備各特別会計
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(注3) | 4特別会計 食料安定供給、都市開発資金融通、港湾整備、空港整備各特別会計
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特別会計では、19年4月に施行された特会法に、財政健全化に向けた決算上の剰余金の処理に関する特別会計共通の規定がおかれている。すなわち、同法第8条第1項では「各特別会計における毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合において、当該剰余金から次章に定めるところにより当該特別会計の積立金として積み立てる金額及び資金に組み入れる金額を控除してなお残余があるときは、これを当該特別会計の翌年度の歳入に繰り入れるものとする。」とされており、さらに、同条第2項では「前項の規定にかかわらず、同項の翌年度の歳入に繰り入れるものとされる金額の全部又は一部に相当する金額は、予算で定めるところにより、一般会計の歳入に繰り入れることができる。」とされている。
我が国では、連年、建設国債のほかに特例国債等も発行していて、これらの残高は年々増加しており、財政の健全化が喫緊の課題となっている。
そして、特別会計については、行政に要する経費を抑制して将来の国民負担の上昇を抑えるという理念の下、経理の明確化等を図り、資産及び負債並びに剰余金等の縮減の措置等に より財政の健全化に寄与することを目標として改革が行われて、19年4月に特会法が施行されている。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、建設国債の発行により調達されて、一般会計から特別会計に繰り入れられた資金に係る剰余金等の使途等がどのようになっているかに着眼して検査した。
本院は、19年度に公共事業費の財源として建設国債の発行により調達された資金が一般会計から繰り入れられている7特別会計及び19年度以前に貸付金の財源として建設国債の発行により調達された資金が一般会計から繰り入れられている4特別会計、計11特別会計 (重複を除いた9特別会計)の19年度決算を対象として、財務本省等4本省(注4) において会計実地検査を行った。そして、公共事業費の剰余金及び貸付金の償還額の使途等について、予算書、決算書等関係書類により検査した。
建設国債の発行により調達された資金を財源としている9特別会計における19年度の剰余金の処理等について検査したところ、次のような状況となっていた。
前記の7特別会計に一般会計の建設国債対象経費から繰り入れられた額は、次表のとおり、計1兆8772億余円となっており、各特別会計における計87項の歳出財源に充てられている。
表 7特別会計87項の歳出科目の歳出決算(平成19年度) | (単位:百万円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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注(1) | この表は、建設国債対象経費が繰り入れられた(項)に係る支出済歳出額、不用額等を集計したものである。
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注(2) | 特定財源等に該当するものとして、道路整備特別会計では揮発油税相当額及び石油ガス税の2分の1相当額、空港整備特別会計では航空機燃料税の13分の11相当額、治水特別会計では建設国債対象経費以外の財源を一般会計から受け入れている。
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注(3) | 円単位で集計したのち、百万円単位で表記しているため、合計額は一致しない。
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これらの7特別会計における公共事業費に係る不用額計616億9893万余円の使途等は、次のとおりとなっていた。
ア 消費的支出の財源としているもの
(ア) 国立高度専門医療センター特別会計では、19年度に厚生労働省所管の建設国債対象経費である一般会計の(項)国立高度専門医療センター施設費から67億4469万余円を受け入れて、同特別会計の(項)施設整備費249億1885万余円の歳出財源の一部としている。
(項)施設整備費の19年度歳出決算においては、契約価格が予定を下回ったことなどにより不用額が2億8226万余円生じており、同特別会計では、この不用により生じた剰余金を翌年度以降の国立高度専門医療センターの経営費に充てるために必要な金額として積立金に積み立てている。そして、この剰余金には、上記の建設国債対象経費に係る分8307万余円が含まれていて、消費的支出の財源に使われる結果となっている。
(イ) 空港整備特別会計では、19年度に国土交通省所管の建設国債対象経費である一般会計の(項)空港整備事業費等7項から計737億3444万余円(内閣府所管の移替え分を含む。)を受け入れて、同特別会計の(項)空港整備事業費等11項計4635億3390万余円の歳出財源の一部としている。
(項)空港整備事業費等11項の19年度歳出決算においては、用地取得の難航や事業計画の変更等により不用額が計64億3651万余円生じており、同特別会計では、この不用により生じた剰余金を21年度の歳入に計上して、(項)空港等維持運営費等の歳出財源に充てている。そして、この剰余金には、上記の建設国債対象経費に係る分が含まれていて、一般会計からの繰入対象経費とされている空港整備事業に要する費用に該当しない消費的支出の財源に使われる結果となっている。
イ 後年度の公共事業費等の財源としているもの
治水特別会計等5特別会計では、19年度に国土交通省所管及び農林水産省所管の建設国債対象経費である一般会計の(項)治水事業費等35項から5特別会計に計1兆7968億余円(内閣府所管の移替え分を含む。)を受け入れて、5特別会計の(項)河川事業費等75項計6兆2449億余円の歳出財源の一部としている。
これら5特別会計の公共事業費に該当する75項の19年度歳出決算においては、地元調整の難航や事業計画の変更等により不用額が計549億8015万余円生じており、5特別会計では、この不用により生じた剰余金を翌年度の歳入に計上するなどして、建設国債が発行された年度よりも後の年度に公共事業費等の歳出財源の一部に充てている。
19年度以前に貸付金の財源として建設国債の発行により調達された資金が一般会計から繰り入れられている前記の4特別会計のうち空港整備特別会計及び港湾整備特別会計に おける19年度の貸付金償還額計168億8485万余円の使途等は、次のとおりとなっていた。
ア 消費的支出の財源としているもの
空港整備特別会計では一般会計から建設国債の発行により調達された資金を受け入れて、これを独立行政法人空港周辺整備機構等4法人に対して貸し付けており、昭和54年度から平成19年度までの間における一般会計からの受入額は計3921億2516万余円、19年度末の貸付金残高は3492億9848万余円となっている。19年度における貸付金の償還額は101億2114万余円となっており、同特別会計ではこれを当該年度の歳入に計上して、消費的支出である(項)空港等維持運営費の財源に充てている。
イ 後年度の公共事業費等の財源としているもの
港湾整備特別会計では一般会計から建設国債の発行により調達された資金を受け入れて、これを財団法人民間都市開発推進機構等16法人に対して貸し付けており、昭和56年度から平成19年度までの間における一般会計からの受入額は計1107億4315万余円、19年度末の貸付金残高は550億6068万余円となっている。19年度における貸付金の償還額は67億6370万余円となっており、同特別会計ではこれを当該年度の歳入に計上して、建設国債が発行された年度よりも後の年度に公共事業費等の歳出財源の一部に充てている。
国の歳出は公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源とすることが原則であることから、公債又は借入金を財源の一部としている特別会計において生ずる剰余金は財政の健全化のために活用する必要があると認められる。特に、公共事業費等に充てるために建設国債の発行により調達されて、一般会計から特別会計に繰り入れられた資金については、不用により剰余金となったり、償還により回収された資金に貸付金として使用する予定がなかったりする場合には一般会計に繰り入れることができることとなっているのに、これらが特別会計の歳入に計上されて、消費的支出の財源に充てられたり、後年度の公共事業費等の財源に充てられたりなどしている事態は、建設国債の発行に対して法律上設けられている制限を形がい化していたり、財源の既得権化による財政の硬直化を招くおそれをもたらしたりするものであり適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、国の健全な財政を確保する立場にある貴省において、公共事業費等に充てるため建設国債の発行により調達されて特別会計に繰り入れられた資金が不用となり生じた剰余金等の使途等について十分留意していなかったこと、貴省及び各省において、建設国債の発行の意義・目的、特会法第8条第2項の活用等に対する認識が十分でなかったことなどによると認められる。
本院は、参議院からの要請を受けて、18年10月に「特別会計の状況に関する会計検査の結果について」を報告しており、その中で、予算の執行状況や決算の精査、分析を一層徹底して、その結果を的確に予算に反映させること、決算剰余金、積立金等の内容や残高に留意して、可能な場合には一般会計への繰入れも含めてその有効活用を図るなどの検討を行うことなどを所見として記述している。
また、特別会計の改革により19年4月に特会法が施行されて、特別会計の剰余金は、同法第8条第2項の規定に基づき、一般会計の歳入に繰り入れることができることとなっている。
そして、貴省は、現在の厳しい財政状況の下で、特別会計において歳出の適切な見積りなどにより一般会計からの繰入額を圧縮することに努めるとともに、一般会計への繰入れなどにより特別会計の剰余金を財政の健全化に寄与させることに取り組むとしている。
ついては、貴省において、国の歳出は公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源とすることが原則であること及び建設国債は公共事業費、貸付金等の財源とする場合に限り例外的に発行することができるとされているものであることにかんがみ、引き続き上記の課題に取り組むとともに、今回の検査結果を踏まえて、前記の剰余金等の使途等に留意して、剰余金等が消費的支出の財源に使われて建設国債の発行に対して法律上設けられている制限を形がい化したり、一般会計に繰り入れられないまま財源の既得権化による財政の硬直化を招いたりすることがないようにするための方策を検討するよう意見を表示する。