ページトップ
  • 平成20年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第41 独立行政法人住宅金融支援機構|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2) バリアフリー賃貸住宅建設資金の貸付事業において、借受者に対して高齢者の入居機会を確保するための貸付条件を遵守させるよう是正改善の処置を求め、事業の効果を十分発現させるため高齢者の入居促進に結びつくような広報活動等を行うよう意見を表示したもの


(2) バリアフリー賃貸住宅建設資金の貸付事業において、借受者に対して高齢者の入居機会を確保するための貸付条件を遵守させるよう是正改善の処置を求め、事業の効果を十分発現させるため高齢者の入居促進に結びつくような広報活動等を行うよう意見を表示したもの

科目
(住宅資金貸付等勘定)貸付金
部局等
独立行政法人住宅金融支援機構本店及び11支店
バリアフリー賃貸住宅貸付事業の概要
高齢者の家庭に適した良好な居住性能等を有する賃貸住宅等の建設に必要な資金の貸付けを行うもの
検査対象としたバリアフリー賃貸住宅貸付けの件数
468件(平成19、20両年度)
上記に係る貸付額
440億3630万円(背景金額)(平成19、20両年度)
上記のうち募集開始時までに高齢者円滑入居賃貸住宅としての登録がなされていなかった件数
450件(平成19、20両年度)
上記に係る貸付額
417億8560万円(平成19、20両年度)

【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】

バリアフリー賃貸住宅貸付けの実施について

(平成21年10月16日付け 独立行政法人住宅金融支援機構理事長あて)

 標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により意見を表示する。

1 バリアフリー賃貸住宅貸付けの概要

(1) バリアフリー賃貸住宅貸付制度

 平成13年12月に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画により、住宅金融公庫は廃止されることになり、同公庫が行っていた貸付業務については、民間金融機関が円滑に業務を行っているかどうかを勘案して、独立行政法人が新たに設置される際に決定することとされた。そして、貴機構は、19年4月に、独立行政法人住宅金融支援機構法(平成17年法律第82号。以下「機構法」という。)に基づき、同公庫の権利及び義務を承継して設立された。
 貴機構の貸付業務は、政策上重要であるが民間には対応が困難な分野として、機構法の規定により、高齢者の家庭(単身の世帯を含む。)に適した良好な居住性能及び居住環境を有する賃貸住宅等の建設に必要な資金の貸付け(以下「バリアフリー賃貸住宅貸付け」という。)などに限定して実施することとされた。

(2) 貸付けの条件

 バリアフリー賃貸住宅貸付けの対象となる住宅は、住宅技術基準規程(平成19年住機規程第67号)等に定める「居室等の床は段差のない構造」、「便所・浴室等に手すりを設置」などの基準に適合しなければならないこととなっている。さらに、高齢者の入居の機会を確保するため、借受者は貴機構が定めた貸付条件規程(平成19年住機規程第49号)により、入居者の募集開始(以下「募集開始」という。)時までに当該住宅を高齢者の居住の安定確保に関する法律(平成13年法律第26号)の規定による高齢者円滑入居賃貸住宅として登録(以下「登録」という。)することが貸付予約(注1) の際の条件(以下「貸付条件」という。)とされている。

 貸付予約  借入申込書の内容に基づいて、申込人の資格・建設計画・賃貸計画・担保評価・収支計画・保証人等について総合的な審査を行い、貸付けの内容を決定すること。結果は融資予約通知書により借受者に通知される。

 上記の登録された住宅の情報は、都道府県の窓口や、高齢者居住支援センターとして国土交通大臣からの指定を受けている財団法人高齢者住宅財団(以下「高齢者住宅財団」という。)のホームページなどで閲覧が可能となっている。また、高齢者の居住の安定確保に関する法律によれば、登録された住宅の賃貸人は、当該住宅に入居を希望する高齢者に対して、高齢者であることを理由として、入居を拒んではならないとされている。
 そして、貴機構は、賃貸融資業務取扱規程(平成19年住機規程第54号)により、貸付条件が履行されていることを確認した後に、賃貸住宅の建設に係る資金を借受者に交付することとなっている。なお、貴機構によれば、貴機構の賃貸住宅貸付けは、返済期間が最長35年、固定金利であるため、返済計画が安定するなどの利点があるとされている。

(3) 国の施策と貴機構との関係

 貴機構は、機構法の規定により、業務を実施するに当たっては、国及び地方公共団体が行う良好な居住環境を整備するためのまちづくりその他の必要な施策について協力しなければならないとされている。
 国は、住生活基本法(平成18年法律第61号)に基づき18年9月に閣議決定された住生活基本計画(全国計画)において、高齢者等の居住の安定が確保されるよう、住宅セーフティネットの機能向上を目指すとしており、65歳以上の高齢者が居住する住宅のバリアフリー化率を設定している(注2) 。また、高齢者等の入居を受け入れることとしている民間賃貸住宅に関する情報の提供等を行うことなどを掲げている。
 そして、貴機構は、同法の規定により、事業を実施するに当たっては、同計画に定められた目標の達成に資するよう努めなければならないとされている。

 同計画では、65歳以上の高齢者が居住する住宅の一定のバリアフリー化(2か所以上の手すり設置又は屋内の段差解消に該当)率を29%(平成15年度)から75%(27年度)にすることとしている。バリアフリー賃貸住宅貸付けの対象物件は、この一定のバリアフリー化を行ったものに該当する。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、合規性、有効性等の観点から、バリアフリー賃貸住宅貸付けは、貸付条件規程等に従って適切に行われているか、高齢者の居住の安定を確保するという国の政策目的の達成に十分寄与するものとなっているかなどに着眼して、19、20両年度に借入申込があり、21年3月末までに最終回の資金が交付されている貸付け468件(貸付額440億3630万円)を対象として検査した。そして、貴機構の本店及び11支店(注3) において、借入申込書、融資審査調書等により会計実地検査を行うとともに、貸付対象賃貸住宅(以下「貸付対象物件」という。)のある現地に赴いて、借受者である賃貸人等から実際の入居状況等を聴取するなどの方法で調査した。

 11支店  北海道、東北、首都圏、北関東、東海、近畿、北陸、四国、中国、九州、南九州各支店

(検査の結果)

(1) 高齢者円滑入居賃貸住宅としての登録状況

 検査したところ、前記の貸付対象物件468件(貸付額440億3630万円)のうち、450件(貸付額417億8560万円)は貸付条件に違反して募集開始時までに登録が行われていなかった。そして、上記の450件について、登録時点における空き室の有無を高齢者住宅財団のホームページで確認したところ、確認できた434件中259件(59.7%)が空き室なしとなっていた。
 募集開始時までに登録を行うことを貸付条件としていることは、高齢者の入居機会を最大限確保する上で極めて重要であると考えられ、この見地に立てば、登録までに過半の物件が空き室なしとなっている事態は、高齢者円滑入居賃貸住宅への入居を希望する高齢者に対してその入居の機会を狭めるものとなっている。
 また、前記450件の貸付対象物件のうち任意に抽出した103件について、現地において借受者等から登録が遅延した理由を聴取したところ、登録前に空き室がない状態になったため登録の必要がないと誤認するなど認識不足によるものが48件、登録を失念したとするものが42件などとなっていた(複数回答あり)。

(2) 貴機構による登録の確認状況

 貴機構は、前記のとおり、賃貸融資業務取扱規程により、貸付対象物件がしゅん工して貸付額を決定(以下「総額決定」という。)した後に、貸付条件が履行されていることを確認した上で資金を交付することとなっている。
 しかし、資金の交付決定を行っている本店及びすべての支店では、前記の貸付対象物件450件が募集開始時までに登録されていないにもかかわらず、これを確認することなく資金を交付していた。
 貴機構は、その後、募集開始時までに登録を行わなかった借受者に対して貸付けを行っても同規程の定めに反することにならないよう、21年4月から、借受者が募集開始時までに登録を行わなくても総額決定時までに登録を行えば貸付条件違反とならないこととした。しかし、このような措置は、後述(3)のとおり総額決定時までに過半の物件が空き室なしとなっている状況にかんがみると、貸付対象物件への入居を希望する高齢者への配慮に欠けるものであり、高齢者の居住の安定確保という国の施策に対する貴機構としての協力姿勢が問われかねないものとなっている。

(3) 入居者の募集状況

 前記の貸付対象物件468件のうち331件(70.7%)はしゅん工の1か月以上前から募集を開始していたこともあり、しゅん工からおおむね1、2か月後となる総額決定時には、確認できた452件中248件(54.9%)は既に空き室がない状態となっていた。
 また、借受者との面談内容を記録する貴機構の申込者面談シートにある借受者が企図する入居者層の記載欄には、高齢者が入居者層として記載されていないものが多数見受けられた。さらに、前記の現地調査を行った103件について、借受者が企図する入居者層を聴取したところ、近郊勤務者76件、新婚者22件、学生22件となっていて、明確に高齢者を入居者層としているとした物件はわずか3件となっていた(複数回答あり)。
 このように、借受者の多くは、賃貸住宅建設のために長期・固定金利等の利点があるバリアフリー賃貸住宅貸付けを申し込む一方で、登録の趣旨を理解せず、募集開始後に空き室がない状態となってから登録していたり、入居者層の内容が貸付条件になっていないことから当初から高齢者を入居者層として考えていなかったりしていて、高齢者を積極的に入居させる意思を持っていないものと認められた。
 また、高齢者の居住の安定確保に関する法律によれば、賃貸人の申請により登録を抹消し又は同法の規定違反により登録を抹消される場合がある。上記のとおり、借受者の多くが高齢者を積極的に入居させる意思を持っていないことを勘案すると、今後は、登録が抹消されるなどの事態が懸念される。しかし、貴機構は、貸付後において、借受者が故意に登録を抹消し又は登録を抹消された場合の対策を講じていなかった。

(4) 高齢者の入居状況

 貴機構は、貸付対象物件の入居者層の状況を全く把握していなかったことから、本院が、前記の現地調査を行った103件における高齢者の入居状況を借受者等から聴取したところ、高齢者が入居していたものは5件(4.9%)にすぎず、更に住戸数でみると、入居済の1,179戸中高齢者が入居していたものはわずか15戸(1.3%)となっていた。これは、総務省統計局が5年ごとに実施している住宅・土地統計調査の平成15年調査結果における一般の賃貸住宅のうち高齢者が入居しているものの比率(民営借家に単身又は夫婦2人で入居している833万1300世帯のうち65歳以上の単身者又は高齢夫婦の世帯は104万3100世帯で12.5%)よりも低いものとなっていた。
 そこで、本院は、21年6月末時点で高齢者円滑入居賃貸住宅として登録されていた民間賃貸住宅であって19年4月から21年3月までに建設されたもののうち、貴機構から貸付けを受けているもの、高齢者専用賃貸住宅であるものなどを除いた84件を対象として、不動産仲介業者等に対して、高齢者の入居状況、入居募集の際の取組等に関するアンケート調査を実施した。その結果、27件(587戸)について回答があり、高齢者はこのうちの17件(63%)の148戸(25.2%)に入居しており、また、27件すべてが登録時点において空き室を有していた。
 そして、高齢者が入居している物件については、入居募集に当たり、登録にとどまらず、高齢者の入居を促すために新聞折り込み広告を行ったり、医療機関や高齢者団体が組織する非営利活動法人に直接情報提供等を行ったりしているものがあった。
 さらに、高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づき登録に関する事務を行う県等の中には、県内の全登録物件の概要データを掲載した情報紙(隔月発行)を行政窓口、福祉事務所、書店、公立病院等に無料で配布するなど積極的な広報活動を行っているものもあった。
 以上の本院が実施したアンケートの調査結果等と比べると、バリアフリー賃貸住宅貸付けは、高齢者に適した居住性能を有する賃貸住宅の建設のために設けられた貸付制度であるにもかかわらず、登録時には過半の貸付対象物件に空き室がなかったり、借受者や貴機構において高齢者の入居を促すための積極的な情報提供や広報活動を行っていなかったりしている状況となっていた。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

 募集開始時までに登録を行っていない貸付条件違反が常態化している事態、高齢者を募集の際の入居者層として考えていないものまでバリアフリー賃貸住宅貸付けの対象としている事態、貸付後において、借受者が故意に登録を抹消し又は登録を抹消された場合の対策を講じていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
 また、高齢者の居住の安定を確保するという国の政策目的があるにもかかわらず、貸付対象物件における高齢者の入居率が著しく低い状況となっていて、バリアフリー賃貸住宅貸付事業の効果が十分発現していない事態は、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 登録を募集開始時までに行うことが貸付条件であったにもかかわらず、貴機構がその履行確認を行っておらず、貸付条件違反の事態を看過していたこと及び借受者が募集の際の入居者層に高齢者を考えていないものもバリアフリー賃貸住宅貸付けの対象としていること

イ 貴機構が、バリアフリー賃貸住宅について、行政窓口、福祉事務所、公立病院等に対する情報紙の無料配布による積極的な広報活動や、借受者が行う新聞折り込み広告等による高齢者への情報提供など、高齢者の入居を促進するためのより実効性のある措置を講じていないこと

3 本院が求める是正改善の処置及び本院が表示する意見

 貴機構は、政策上重要であるが民間には対応が困難な分野の一つとして、本件バリアフリー賃貸住宅建設資金の貸付業務を今後も実施することが見込まれる。
 ついては、バリアフリー賃貸住宅貸付事業が住生活基本計画に掲げられた国の基本的な施策である高齢者等の居住の安定の確保に寄与するよう、次のとおり是正改善の処置を求め及び意見を表示する。

ア 登録制度の意義が失われないよう、貸付条件である登録の時期については「募集開始時まで」とすることにより、高齢者の入居機会を最大限確保すること
 また、適切な審査を実施して借受者が募集の際の入居者層に高齢者を考えていない場合や募集開始時までに登録を行っていない物件には貸付けを行わないこと、貸付後において、借受者が故意に登録を抹消し又は登録を抹消された場合には貸付金を全額繰上償還請求できる旨を契約書等に明記することなど、借受者に対して貸付条件を遵守させる措置を早急に講ずること(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)

イ 更に高齢者の入居を促進するために、貸付対象物件の一覧表を適時に作成して、行政窓口、福祉事務所等に配布するなど積極的な広報活動を行うこと
 また、入居募集する貸付対象物件が高齢者の入居を拒まないものである旨を募集の際に明示することを貸付条件とするなどして高齢者に対し十分な情報提供を行うこと、優先募集期間を設けることを貸付条件とすることなど高齢者の入居に結びつくようなより実効性のある措置を講ずること(同法第36条による意見を表示するもの)