会計名 | (1) | 労働保険特別会計(雇用勘定) | |
(2) | 年金特別会計(健康勘定) | ||
部局等 | 厚生労働本省 | ||
一般会計からの繰入れの概要 | 特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第6条等の規定に基づき、各特別会計において経理されている事務及び事業に係る経費のうち、一般会計からの繰入れの対象となるべき経費の財源に充てるために必要があるときに限り、予算で定めるところにより、一般会計から当該特別会計に繰り入れるもの | ||
過大になっている一般会計からの繰入金 | (1) | 1101億9899万円 | (平成20年度) |
減額できた一般会計からの繰入金 | (2) | 96億3378万円 | (平成20年度) |
(本件事態等の検査状況について、「第4章第3節 特定検査対象に関する検査状況」に「一般会計からの繰入金を歳入としている特別会計における当該繰入金の繰入れ及び繰入れの対象となるべき経費に係る歳出予算の執行の管理等について 」を掲記した。)
(平成22年10月13日付け 厚生労働大臣あて)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求する。
記
国は、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)に基づき、その経理を一般会計と区分して行うため特別会計を設置しており、平成20年度における特別会計は21会計となっている。このうち、国立高度専門医療センター特別会計等4特別会計については、厚生労働大臣が、法令で定めるところに従い、管理することとされている。そして、労働保険、年金両特別会計においては、複数の事業が実施されていて、それぞれの事業収支を区分する必要があるとして勘定が設けられている(以下、勘定区分のない特別会計についても1勘定と数えることとする。)。
各特別会計の目的並びにその各勘定の20年度決算における収納済歳入額、支出済歳出額及びその差額である決算剰余金の状況は、表1のとおりとなっている。この決算剰余金は、予算額に対する歳入の増加、歳出予算の繰越、不用等が要因となって生じるものである。
表1 | 各特別会計の目的及びその各勘定の平成20年度決算の状況等 | (単位:百万円) |
特別会計名 | 勘定名 | 収納済 歳入額 A |
支出済 歳出額 B |
決算剰余金 A−B |
|
目的 | |||||
国立高度専門医療センター | 国立高度専門医療センター(国立がんセンター、国立循環器病センター、国立精神・神経センター、国立国際医療センター、国立成育医療センター及び国立長寿医療センター)の円滑な運営と経理の適正を図ることを目的として、その経理を一般会計と区分して行うため設置されているもの | 169,874 | 152,437 | 17,437 | |
労働保険 | 労働者災害補償保険事業及び雇用保険事業に関する経理を一般会計と区分して行うため設置されているもの | 労災 | 1,447,405 | 1,083,402 | 364,002 |
雇用 | 2,812,603 | 2,028,744 | 783,858 | ||
徴収 | 3,674,833 | 3,641,299 | 33,533 | ||
船員保険 | 国が経営する船員保険事業に関する経理を一般会計と区分して行うため設置されているもの | 67,391 | 63,360 | 4,030 | |
年金 | 国民年金事業、厚生年金保険事業、健康保険に関し政府が行う業務及び児童手当に関する政府の経理を一般会計と区分して行うため設置されているもの | 基礎年金 | 20,844,806 | 19,252,584 | 1,592,221 |
国民年金 | 5,414,434 | 5,834,378 | △ 419,943 | ||
厚生年金 | 36,421,701 | 36,107,751 | 313,949 | ||
福祉年金 | 9,439 | 9,367 | 72 | ||
健康 | 8,810,507 | 8,175,814 | 634,692 | ||
児童手当 | 484,656 | 462,011 | 22,644 | ||
業務 | 534,586 | 463,376 | 71,209 |
特別会計の歳入のうち、一般会計からの繰入金は、事務事業の支出に充てるための財源の一部又は全部を、一般会計から特別会計又はその勘定に繰り入れるものである。
特会法第6条では、「各特別会計において経理されている事務及び事業に係る経費のうち、一般会計からの繰入れの対象となるべき経費(以下「一般会計からの繰入対象経費」という。)が次章に定められている場合において、一般会計からの繰入対象経費の財源に充てるために必要があるときに限り、予算で定めるところにより、一般会計から当該特別会計に繰入れをすることができる。」と規定されている。また、特会法附則第390条において、「第6条の規定は、この法律の施行前に他の法令において定められた一般会計から特別会計への繰入れに関する規定の適用を妨げるものではない。」と規定されている(以下、「一般会計からの繰入対象経費」と他の法令の規定により一般会計から繰り入れた財源が充てられる経費を合わせて「繰入対象経費」という。)。そして、労働保険特別会計については特会法第101条、年金特別会計については特会法第113条等において、それぞれ繰入対象経費が規定されている。
貴省所管の特別会計では、20年度に、表2のとおり、4特別会計11勘定において、一般会計からの繰入金を歳入としている。
表2 | 一般会計からの繰入れの状況等(平成20年度) | (単位:百万円、%) |
特別会計名 | 勘定名 | 収納済歳入額 A | ||
うち、一般会計からの繰入額 B | 繰入率 B/A×100 |
|||
国立高度専門医療センター | 169,874 | 48,710 | 28.6 | |
労働保険 | 労災 | 1,447,405 | 456 | 0.0 |
雇用 | 2,812,603 | 161,188 | 5.7 | |
徴収 | 3,674,833 | 96 | 0.0 | |
船員保険 | 67,391 | 3,907 | 5.7 | |
年金 | 国民年金 | 5,414,434 | 1,855,801 | 34.2 |
厚生年金 | 36,421,701 | 5,432,308 | 14.9 | |
福祉年金 | 9,439 | 9,325 | 98.7 | |
健康 | 8,810,507 | 421,272 | 4.7 | |
児童手当 | 484,656 | 242,149 | 49.9 | |
業務 | 534,586 | 196,779 | 36.8 |
本院は、合規性、効率性等の観点から、特別会計の歳入である一般会計からの繰入れは適切かつ効率的に行われているかなどに着眼して、貴省所管の4特別会計12勘定のうち、一般会計からの繰入金を歳入としている4特別会計11勘定の20年度決算を対象に、貴省本省において会計実地検査を行った。そして、予算書、決算書等の関係書類によって、一般会計からの繰入れ及び繰入対象経費に係る歳出予算の執行はどのように管理されているかを分析するなどの方法により検査した。
検査したところ、労働保険特別会計の雇用勘定及び年金特別会計の健康勘定において、次のような事態が見受けられた。
この勘定は、雇用保険事業の保険収支(徴収勘定に係るものを除く。)を経理するものである。
この勘定における繰入対象経費は、特会法第101条第2項の規定により、求職者給付、雇用継続給付及び雇用保険事業の事務の執行に要する経費で国庫が負担するものとされており、20年度に一般会計から繰り入れられた額は1611億8850万円で、出納整理期間の21年4月20日に全額が繰り入れられている。
上記の金額は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)第66条及び第67条の規定による国庫負担金の額であり、このうち、上記の繰入対象経費のうち雇用保険事業の事務の執行に要する経費を除いた求職者給付及び雇用継続給付の財源とするための額については、貴省は、当該給付に係る18年度の予算額及び決算額並びに19年度の予算額と実績見込額から伸び率を推計するなどして20年度の給付予定額を算出した上、これに国庫負担割合を乗ずるなどして20年度の歳入予算額を1603億6400万円と算出して、同額を一般会計から繰り入れている。
特会法第105条は、「雇用勘定において、毎会計年度一般会計から受け入れた金額が、当該年度における雇用保険法第66条及び第67条の規定による国庫負担金の額に対して超過し、又は不足する場合には、当該超過額に相当する金額は、翌年度においてこれらの規定による国庫負担金として一般会計から受け入れる金額から減額し、なお残余があるときは翌々年度までに一般会計に返還し、当該不足額に相当する金額は、翌々年度までに一般会計から補てんするものとする。」と規定している(以下、このうち超過した額を「繰入超過額」という。)。そして、前年度である19年度においては繰入超過額が1101億9899万余円あった。
貴省は、20年度においては急激な雇用・経済情勢の変動が生じており、求職者給付及び雇用継続給付の急激な増加が見込まれるなどとして、これらの給付に係る20年度の一般会計からの繰入金1603億6400万円は歳入予算額をそのまま繰り入れており、19年度の繰入超過額1101億9899万余円を減額していなかった。
しかし、19年度の繰入超過額は、上記の特会法第105条の規定に基づき、20年度に一般会計からの繰入額から減額しなければならないものであり、20年度の一般会計からの繰入金は1101億9899万余円が過大に繰り入れられていると認められる。
なお、同様に、21年度に一般会計から繰り入れられた5886億8900万円についても、20年度に生じた繰入超過額1260億5358万余円を減額したものとはなっておらず、過大に繰り入れられていると認められる。
この勘定は、20年9月までは、政府の管掌する健康保険事業の保険収支を経理するものとして、事業主等から徴収する保険料及び国庫負担金を主な財源に保険給付等を行っていたが、健康保険法(大正11年法律第70号)の改正により、同年10月以降、当該健康保険事業を全国健康保険協会が管掌することとされたため、引き続き政府が行うこととされた保険料の徴収及び保険給付のための財源の全国健康保険協会への交付等の収支を経理するものである。
この勘定では、〔1〕 健康保険法第151条等の規定により、保険給付費等の財源に充てるための額、〔2〕 特会法附則第31条の規定により、昭和48年度以前に旧厚生保険特別会計健康勘定において生じた損失の額及び旧日雇労働者健康保険法に基づく日雇労働者健康保険事業に係る損失に相当する額(以下、これらを「累積債務」という。)に対応する借入金の償還等の支払財源に充てるための額を繰入対象経費としてそれぞれ一般会計から繰り入れており、平成20年度に一般会計から繰り入れられた額は計4212億7265万余円となっている。そして、一般会計からの繰入金は、表3のとおり、20年4月、7月、9月及び21年1月に繰り入れられている。
表3 | 一般会計からの繰入れの状況(年金特別会計(健康勘定) | (単位:百万円) |
年月 | 平成20年 4月 |
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | ||
繰入額 | 158,129 | − | − | 236,565 | − | 1,724 | − | ||
うち累積債務に係る利子補てん額 | − | − | − | − | − | − | − | ||
年月 | 11月 | 12月 | 21年 1月 |
2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 計 | |
繰入額 | − | − | 24,853 | − | − | − | − | 421,272 | |
うち累積債務に係る利子補てん額 | − | − | 24,853 | − | − | − | − | 24,853 |
このうち、累積債務に対応する借入金の償還等の支払財源に充てるための額は、債務残高1兆4792億余円に係る利子の全額を一般会計からの繰入金で補てんするものである。利子補てん額は、借入金の借換予定額に財政投融資貸付利率の予算積算利率を乗じて得た額等を基に算出されており、20年度の予算積算利率は1.7% で、利子補てん額に係る一般会計からの繰入金は248億5315万余円と算出され、この全額が21年1月に繰り入れられている。
しかし、貴省は毎月借入金を借り換えていて、その実績利率が0.8%から1.4%と予算積算利率1.7% より低かったことから、累積債務に対応する借入金に係る利子の20年度における支払実績額は計152億1936万余円となっている。このため、利子補てん額248億5315万余円との差額96億3378万余円は健康勘定において不用になっている。
したがって、貴省は毎月借入金を借り換えているのであるから、借換えの都度支払が実際に必要となる利子補てん額を一般会計から繰り入れることとすれば資金不足にならないと認められ、これによれば、上記の差額96億3378万余円は一般会計からの繰入れを減額することができたと認められる。
労働保険特別会計の雇用勘定において、特会法に減額するとの規定があるにもかかわらず19年度の繰入超過額が20年度に減額されておらず一般会計からの繰入金が過大に繰り入れられている事態は、適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
また、年金特別会計の健康勘定において、累積債務に係る借入金利子の支払実績額が歳出予算額を下回っているのに、一般会計からの繰入れを減額していない事態は、減額されずに繰り入れられた資金が決算剰余金となって有効に活用されないこととなるもので適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省において、労働保険特別会計の雇用勘定では、繰入超過額の減額等について定める特会法の規定の趣旨を十分理解していなかったこと、年金特別会計の健康勘定では、利子の支払が必要となる都度繰入れを行うことにより一般会計からの繰入れの減額に努めることへの配慮が十分でなく、予算で定められた金額を一般会計から繰り入れることを慣行にしていることなどによると認められる。
一般会計から特別会計への繰入れが特会法の定めるところにより適正に行われることはもとより、繰入れが特別会計における歳出予算の執行状況等に応じて適時適切に行われ、税収のほか国債の発行等により調達されて一般会計から特別会計へ繰り入れられた資金が有効に活用されることが求められる。
ついては、貴省において、一般会計からの繰入れを適正化するとともに、繰入額を抑制して一般会計からの繰入れを適切かつ効率的なものとするよう、次のとおり是正及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求する。
ア 労働保険特別会計の雇用勘定において、これまでの繰入超過額を一般会計からの繰入金から速やかに減額等するとともに、今後は繰入超過額の減額等を適正に行うこと(会計検査院法第34条による是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めるもの)
イ 年金特別会計の健康勘定において、利子の支払に実際に必要となる額のみを一般会計から繰り入れること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)