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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

柔道整復師の施術に係る療養費について、算定基準等がより明確になるよう検討を行うとともに、適切な点検及び審査を行うよう体制を強化するなどして、支給を適正なものとするよう意見を表示したもの


(5) 柔道整復師の施術に係る療養費について、算定基準等がより明確になるよう検討を行うとともに、適切な点検及び審査を行うよう体制を強化するなどして、支給を適正なものとするよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
  年金特別会計(健康勘定) (項)保険給付費及保険者納付金
部局等 厚生労働本省
国の負担の根拠 健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)
柔道整復師の施術の概要 骨折、脱臼、打撲及び捻挫に対してその回復を図る施術
実施主体 国(平成20年10月以降は全国健康保険協会)、25市、16後期高齢者医療広域連合、計42実施主体
施術所 208施術所
上記の施術所において頻度が高い施術、長期にわたる施術等を受けていた患者数 21,009人
上記に係る柔道整復療養費総額 7億7501万余円(平成20年度)
上記のうち国の負担額 3億0925万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

  柔道整復師の施術に係る療養費の支給について

(平成22年10月28日付け 厚生労働大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 柔道整復師の施術に係る療養費等の概要

(1) 療養費の給付

 貴省は、健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)等の医療保険各法及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づき、全国健康保険協会(以下「協会」という。)、市町村、後期高齢者医療広域連合等が行う保険給付に関して、これらの保険者に対する指導監督等を行うとともに、保険給付に要する費用の一部を負担している。
 保険給付は、原則として各保険の被保険者等が、その傷病につき、保険医療機関で療養の給付を受けることによって行われている。ただし、健康保険法第87条の規定等に基づき、療養の給付等を行うことが困難であると保険者が認めるとき、又は被保険者等が保険医療機関以外の病院等から診療、手当等を受けた場合において、保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて療養費を支給することができることとされている。その療養費の一つとして柔道整復師の施術に係る療養費(以下「柔道整復療養費」という。)がある。

(2) 柔道整復療養費

 柔道整復療養費は、「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準」(昭和33年保険局長通知保発第64号。以下「算定基準」という。)に基づいて算定し、支給することとされている。
 既往年度の柔道整復療養費の支給額については、貴省では、全保険者の統計がないため、推計値(被保険者等の自己負担分を含む。)が用いられている。平成19年度の推計値は3377億円となっており、13年度との対比で、柔道整復療養費の伸び率(17.9%)は国民医療費の伸び率(9.8%)を大きく上回っている状況となっている。
 なお、療養費の支給は、被保険者等が療養に要した費用を支払った後に保険者に支給の申請を行い、保険者がその内容を自ら点検するなどした上で行うのが原則であるが、柔道整復療養費の支給については、地方厚生(支)局長及び都道府県知事と柔道整復師の団体との間の協定等に基づき、被保険者等が柔道整復療養費の受領を柔道整復師に委任する取扱い(以下「受領委任の取扱い」という。)が認められている。

(3) 柔道整復師及び柔道整復の施術

 柔道整復師とは、柔道整復師法(昭和45年法律第19号)に基づき厚生労働大臣の免許を受けて柔道整復を業とする者である。また、柔道整復とは、骨折、脱臼、打撲及び捻挫に対してその回復を図る施術であるとされている。そして、全国の柔道整復師及び柔道整復の業務を行う施術所の数は、20年末現在で、それぞれ43,946人及び34,839か所となっており、10年末の29,087人及び23,114か所と比べて、いずれも1.5倍と著しく増加している。
 柔道整復療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないとされており、また、単なる肩こり及び筋肉疲労に対する施術は柔道整復療養費の支給対象外であるとされている。そして、施術は、療養上必要な範囲及び限度で行うものとされ、とりわけ「長期又は濃厚な施術」とならないよう努めることとされている。

(4) 柔道整復療養費審査委員会

 協会の都道府県支部(以下「協会支部」という。)は、全国健康保険協会管掌健康保険に係る柔道整復療養費支給申請書(以下「申請書」という。)を審査するため、柔道整復療養費審査委員会を設置している。また、都道府県は、国民健康保険及び後期高齢者医療に係る申請書について、当該保険者に代わり当該都道府県に所在する国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)に審査を行わせるため、国保連合会に国民健康保険等柔道整復療養費審査委員会を設置させることができることとされている。ただし、協会支部と都道府県の協議により、協会支部の柔道整復療養費審査委員会で審査を行うことができることとされている(以下、柔道整復療養費審査委員会と国民健康保険等柔道整復療養費審査委員会の両者を合わせて「柔整審査会」という。)。
 保険者(協会にあっては協会支部。以下同じ。)は、受領委任の取扱いに係る柔道整復療養費の支給を行う場合は、柔整審査会の審査を経ることとされている。そして、保険者は、柔道整復療養費の支給を決定する際には、適宜、当該被保険者等に施術の内容、回数等を照会して施術の事実確認に努めるとともに、柔整審査会の審査等を踏まえ、速やかに柔道整復療養費の支給の適否を判断し処理することとされている。

(5) 貴省における柔道整復療養費適正化の取組

 貴省は、21年11月に行政刷新会議が行った事業仕分けにおいて、柔道整復療養費の適正化について指摘を受けたことなどから、22年5月に算定基準等の改正を行った。その主な内容は、次のとおりである。
ア 3部位目に対する施術料(後療料等)について、所定料金の100分の80に相当する額としていたものを100分の70に相当する額に引き下げ、4部位目以降に係る施術料(後療料等)は3部位目までの料金に含まれることとした。
イ 4部位目以上の請求から申請書に部位ごとに負傷原因を記載することとされていたものを、3部位目以上の請求から記載することとした。
ウ 打撲及び捻挫に係る施術料(後療料)を470円から500円に引き上げた。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 本院では、5年に、柔道整復療養費の支給について検査したところ、柔道整復師の施術の対象とならない傷病について請求されていたり、療養上必要な範囲及び限度を超えて行われた施術について請求されていたりなどしている事態が多数見受けられたことから、当時の厚生大臣に対して、算定基準等の改正を行うこと、審査体制の整備を図ることなどの是正改善の処置を要求した。この本院の要求に対しては、当時の厚生省において、算定基準等の改正を行ったり、全都道府県に柔整審査会を設置させたりするなどの改善が図られた。
 今回、前記のとおり、柔道整復療養費の伸びが国民医療費の伸びを上回っていること、施術所の数が著しく増加していることなどを踏まえ、合規性、有効性等の観点から、柔道整復療養費の支給対象とされた施術が療養上必要な範囲及び限度を超えて行われていないか、特に長期又は濃厚な施術となっていないか、また、保険者の点検等はどのように行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 本院は、16道府県(注1) の各後期高齢者医療広域連合を含む41保険者(注2) 及び2協会支部(注3) (以下、保険者及び協会支部を「保険者等」という。)において会計実地検査を行い、柔道整復療養費を支給した施術所のうち支給額が多い208施術所における20年4月から9月までの6か月間の柔道整復の施術を受けた被保険者等(以下「患者」という。)28,293人分の柔道整復療養費総額806,248,861円に係る申請書等を抽出して、これらを分析するなどして検査を行った。また、上記の43保険者等を含む28道府県の1,162保険者等における申請書の点検状況等及び被保険者等に対する柔道整復療養費の支給対象となる負傷の範囲の周知状況について、調書の提出を受けその内容を分析するなどして検査を行った。

(注1)
 16道府県  北海道、大阪府、宮城、栃木、群馬、富山、愛知、岐阜、三重、和歌山、鳥取、広島、福岡、佐賀、熊本、沖縄各県
(注2)
 41保険者  25市、16後期高齢者医療広域連合
(注3)
 2協会支部  愛知、和歌山両支部(平成20年9月以前は、愛知、和歌山両社会保険事務局)

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 申請書の検査結果

 患者28,293人に係る申請書の検査結果を施術の態様別に示すと、表1のとおりである。

表1
 態様別内訳

保険者等数 施術所数 患者数(人)
全体 ア 頻度が高い施術 イ 3部位以上の施術 ウ 長期にわたる施術   ア〜ウの一つ以上に該当 骨折又は脱臼に対する施術
エ 部位変更、再度施術等
43 208 28,293 8,141 18,210 10,894 9,153 21,009 141
患者数全体に対する割合(%) 28.7 64.3 38.5 (注) (84.0) 74.2 0.4
 ウに占めるエの割合

ア 頻度が高い施術

 患者1人に対する1か月当たりの平均施術回数は7.1回となっていて、1か月に10回以上施術を受けていた患者は8,141人で、全体の28.7% となっていた。

<事例1>

 A施術所(大阪府所在。検査の対象とした6か月間の患者総数115人)では、患者1人に対する1か月当たりの平均施術回数は16.2回となっており、1か月に10回以上施術を受けていた患者は77人で、全体の66.9%に上っていた。このうち、1か月に20回以上施術を受けていた患者は50人であり、最多の施術を受けていた患者は1か月に26回となっていた。

イ 3部位以上の施術

 3部位以上の施術を受けていた患者は18,210人となっていて、全体の64.3%を占めていた。

ウ 長期にわたる施術

 検査の対象とした6か月間の中で、3か月を超えて施術を受けていた患者は10,894人となっていて、全体の38.5% が長期にわたる施術を受けていた。

エ 部位変更、再度施術等

 上記ウの長期にわたる施術を受けていた患者10,894人のうち、当初の部位が治癒した後に別の部位の施術を受けていたり、同一部位についていったん治癒した後に別の負傷原因により再度施術を受けていたりなどしていた患者は9,153人となっていて、84.0%を占めていた。

<事例2>

 B施術所(和歌山県所在。検査の対象とした6か月間の患者総数131人)では、3か月を超えて施術を受けていた患者88人全員が当初の部位が治癒した後に別の部位の施術を受けるなどしていた。このうち、患者Cに対する施術の状況を示すと、表2のとおりであり、4月に頸部捻挫が治癒し、5月に腰部捻挫の施術が開始され、同月に右肩関節捻挫及び左膝関節捻挫が治癒し、6月に右下腿部挫傷の施術が開始され、さらに、頸部捻挫の施術が再開されているなど、7月以外はすべて施術部位が変更されていた。

表2
 患者Cに対する施術の状況

施術月 負傷部位名
4月 頸部捻挫
治癒
右肩関節捻挫 左膝関節捻挫        
5月   右肩関節捻挫
治癒
左膝関節捻挫
治癒
腰部捻挫      
6月 頸部捻挫     腰部捻挫 右下腿部挫傷    
7月 頸部捻挫     腰部捻挫 右下腿部挫傷
治癒
   
8月 頸部捻挫     腰部捻挫
治癒
  左肩関節捻挫  
9月 頸部捻挫
治癒
        左肩関節捻挫 右肘関節捻挫

 そして、上記のアからウの一つ以上に該当していた患者は、全体の患者28,293人のうち21,009人(74.2%)で、これらに係る柔道整復療養費は7億7501万余円、これに対する国の負担額は3億0925万余円となっていた。
 また、医師の同意が必要とされる骨折又は脱臼に対する施術を受けていた患者は、141人(0.4%)に過ぎず、大半が医師の同意が必要とされない打撲又は捻挫に対する施術となっていた。

(2) 患者に対する聞き取り調査結果

 上記(1)のイの3部位以上の施術、ウの長期にわたる施術等を受けていた患者の中から、療養上必要な範囲及び限度を超えた施術が疑われる203施術所の940人を抽出して、前記の43保険者等に対して、直接面会又は電話等による聞き取り調査を行うよう依頼した。その結果は、表3のとおり、施術所が申請書に記載した負傷部位と患者からの聞き取りによる負傷部位が異なっている患者が、回答のあった904人中597人(66.0%)、また、患者からの聞き取りによる負傷原因が日常生活に起因した肩こりなどで、外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫ではない患者が、回答のあった897人中455人(50.7%)と多数に上っていた。

表3
 患者に対する聞き取り調査結果

区分 施術所数 調査患者数
(人)
申請書に記載した負傷部位と聞き取りによる負傷部位が異なっている患者数
(人)
聞き取りによる負傷原因が外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫ではない患者数
(人)
回答数(A) 該当患者数(B)
((B)/(A))
回答数(C) 該当患者数(D)
((D)/(C))
16道府県 203 940 904 597
(66.0%)
897 455
(50.7%)

(3) 保険者等における申請書の点検状況等の検査結果

 28道府県の1,162保険者等における申請書の点検状況についてみると、保険者等においては、各道府県に所在する国保連合会に審査等を委託していることなどから、自ら点検を行っていないものが439保険者(37.7%)、自ら点検を行っているものの、被保険者の資格等についてのみ点検を行い、施術内容の点検については行っていないものが467保険者等(40.1%)と多数見受けられ、両者の合計は906保険者等(77.9%)となっていた。
 一方、貴省から柔整審査会に対して審査要領の参考例は示されているが、具体的な審査に関する指針等までは示されておらず、また、28道府県の柔整審査会においては、多くの場合施術が療養上必要な範囲及び限度で行われているかに重点を置いた審査が行われておらず、保険者等から支給決定の権限の委任までは受けられないこともあり、審査の結果が柔道整復療養費の支給の適否にまで反映されている事例は極めて少ない状況であった。

(4) 被保険者等に対する周知状況

 柔道整復療養費の支給対象となる負傷の範囲を被保険者等に対して周知することが柔道整復療養費の支給の適正化を図る上で重要であることから、28道府県の1,162保険者等における柔道整復師の施術に関しての被保険者等に対する周知状況について検査した。その結果、柔道整復療養費の支給対象となる負傷の範囲が急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫に限定されていて、内科的原因による疾患並びに単なる肩こり及び筋肉疲労に対する施術は柔道整復療養費の支給対象外であることを被保険者等に対して直接周知していたのは106保険者等(9.1%)と少ない状況であった。

(改善を必要とする事態)

 前記のとおり、貴省では、22年5月に算定基準等の改正を行っているが、以上のように、頻度が高い施術、長期にわたる施術等の事例が多数見受けられたり、また、患者からの聞き取りによる負傷原因が外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫ではない患者に施術が行われていたりなどして請求内容に疑義があるのに、これらの施術に対して十分な点検及び審査が行われないまま柔道整復療養費が支給されている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 算定基準等において、柔道整復療養費の支給対象となる負傷の範囲等が必ずしも明確に示されていないため、頻度が高い施術や長期にわたる施術等が多数行われる結果となっていること
イ 保険者等及び柔整審査会が行う点検及び審査に関する指針等が整備されていないなどのため、保険者及び柔整審査会において、多くの場合施術が療養上必要な範囲及び限度で行われているかに重点を置いた点検及び審査が行われていないこと
ウ 被保険者等に対して、内科的原因による疾患並びに単なる肩こり及び筋肉疲労に対する施術は柔道整復療養費の支給対象外であることが周知されていないこと

3 本院が表示する意見

 我が国の医療保険制度は、高齢化の進行もあって国民医療費が増加の一途をたどっており、柔道整復療養費も今後多額の支給が見込まれる。
 ついては、貴省において、柔道整復療養費の支給を適正なものとするよう、次のとおり意見を表示する。

ア 柔道整復療養費の支給対象となる負傷の範囲を例示するなどして、算定基準等がより明確になるよう検討を行うとともに、長期又は頻度が高い施術が必要な場合には、例えば、申請書にその理由を記載させるなどの方策を執ること
イ 保険者等及び柔整審査会に対して、点検及び審査に関する指針等を示すなどして、施術が療養上必要な範囲及び限度で行われているかに重点を置いた点検及び審査を行うよう指導するなどして体制を強化すること
ウ 保険者等に対して、内科的原因による疾患並びに単なる肩こり及び筋肉疲労に対する施術は柔道整復療養費の支給対象外であることを被保険者等に周知徹底するよう指導すること