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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

厚生労働省が委託契約により実施している労災特別介護援護事業から生じた資産について、必要性の有無を再検討し、不要となる資産を国庫に納付させるなどするよう意見を表示したもの


(7) 厚生労働省が委託契約により実施している労災特別介護援護事業から生じた資産について、必要性の有無を再検討し、不要となる資産を国庫に納付させるなどするよう意見を表示したもの

会計名及び科目 労働保険特別会計(労災勘定) (項)社会復帰促進等事業費
  (平成18年度以前は (項)労働福祉事業費)
部局等 厚生労働本省
契約名 労災特別介護援護事業委託(平成16年度〜21年度)
(平成18年度以前は労災特別介護施設援護事業委託)
契約の概要 労災特別介護施設における高齢重度被災労働者に対する施設介護業務等を委託するもの
契約の相手方 財団法人労災サポートセンター(平成21年6月30日以前は財団法人労災ケアセンター)
契約 平成16年4月〜21年4月随意契約
委託先が保有していた準備資産等 8億4992万円(平成21年度末)

【意見を表示したものの全文】

  労災特別介護援護事業から生じた資産の取扱い等について

(平成22年10月22日付け 厚生労働大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 労災特別介護援護事業の概要等

(1) 労災特別介護援護事業の概要

 貴省は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対し療養の給付等の保険給付を行うほか、業務災害及び通勤災害を被った労働者の受ける介護の援護等を図るため、社会復帰促進等事業(平成18年度以前は労働福祉事業)を行っている。
 貴省は、社会復帰促進等事業の一環として、重度被災労働者に対する介護施策の充実を図るとともに、介護に当たる者の負担の軽減を図ることの重要性にかんがみ、労働保険特別会計における保険料等の収入を財源として、労災特別介護施設(以下「施設」という。)を21年度までに8施設設置し、貴省本省及び7道府県労働局で管理している。そして、貴省は、この8施設において、在宅での介護が困難な高齢重度被災労働者に対してその傷病・障害の特性に応じた専門的な施設介護を実施することを目的として、施設介護業務、入退居の管理・調整業務等を行う労災特別介護援護事業(18年度以前は労災特別介護施設援護事業。以下「施設介護事業」という。)を実施している。施設介護事業は、元年度から実施され、いずれの年も随意契約(19、20両年度は公募を経た随意契約、21年度は企画競争を経た随意契約)により、財団法人労災サポートセンター(21年6月30日以前は財団法人労災ケアセンター。以下「センター」という。)に委託されている。

(2) 委託契約の内容等

 貴省がセンターと締結している施設介護事業の委託契約書、仕様書等によると、同事業の内容、経理等は、各年度ともおおむね次のとおりとなっている。

ア 貴省は、施設介護事業を行うために必要な施設の土地、建物等をセンターに使用させるものとする。
イ センターは、貴省が支出する委託費と、センターが施設の入居者等から徴収する入居費等を財源として、施設介護事業を実施する。
ウ センターは、委託費の経理と入居費等の経理とを区分しなければならない。
エ 委託費は施設の職員給与手当、施設運営事業費等に使用しなければならない。また、センターの収入となる入居費等は、入居者に係る食費及び光熱水費、センター本部の運営経費等施設介護事業の円滑な実施に必要な経費等に使用しなければならない。
オ センターは、毎事業年度の終了後、委託費については精算報告書を、入居費等についてはその収支結果報告書を、貴省に提出しなければならない。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、貴省及びセンターにおいて、経済性、有効性等の観点から、入居費等は施設介護事業に適正かつ有効に使用されているか、入居費等の収支結果及びその精算は適正かなどに着眼して、16年度から21年度までの委託契約を対象として、入居費等の収支結果報告書、決算報告書等の書類を精査することなどにより会計実地検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 支払資金準備資産及びプログラム開発準備資産について

 センターが貴省に提出している入居費等の収支結果報告書等によると、16年度から21年度までの間の入居費等の支出項目の中に、支払資金準備資産及びプログラム開発準備資産(以下、これらを合わせて「準備資産」という。)に充てるための積立額が含まれていた。
 このうち支払資金準備資産は、センターの内部規程によると、労災特別介護施設運営費及び本部運営費の支払に必要となる資金を確保するための資産で、次年度に係る労災特別介護施設運営費及び本部運営費の合計見込額の6分の1に相当する額まで積み立てることができるとされている。
 そして、支払資金準備資産は、表1のとおり、積立てを開始した16年度以降取崩しが行われたことはなく、21年度末の残高は7億2275万余円となっていた。

表1  支払資金準備資産の推移  (単位:千円)
年度 年度当初額 積立額 取崩額 年度末残高
平成
16
0 48,075 0 48,075
17 48,075 216,393 0 264,469
18 264,469 48,873 0 313,342
19 313,342 75,716 0 389,059
20 389,059 131,286 0 520,345
21 520,345 202,409 0 722,755

 また、プログラム開発準備資産は、センターの内部規程によると、センターの給与支払事務、会計事務等のコンピュータを利用した処理システムについて、次期の更新に向けて必要となる資金を確保するための資産で、8000万円を目標として積み立てるとされている。
 そして、プログラム開発準備資産は、表2のとおり、システムの更新により一部取崩しを行ったものの、21年度末の残高は4687万余円となっていた。

表2  プログラム開発準備資産の推移  (単位:千円)
年度 年度当初額 積立額 取崩額 年度末残高
平成
17
0 40,000 0 40,000
18 40,000 20,000 0 60,000
19 60,000 20,000 0 80,000
20 80,000 0 9,517 70,482
21 70,482 0 23,604 46,878

(2) 入居費等に関する収支差額について

 センターが貴省に提出している入居費等の収支結果報告書等によると、16年度から20年度までの間は入居費等に収支差額は生じていなかったが、21年度は8029万余円の収支差額が生じていた。これは、21年度に入居費等の額から入居費等が充てられた経費の額を差し引いた残額から支払資金準備資産として2億0240万余円を積み立てたことにより、支払資金準備資産の累計額が内部規程で積み立てることができるとされた額に達したため、その残額のうち、その積み立てた額を超える額が収支差額となったものである。
 そして、21年度の委託契約の終了時には入居費等の収支結果が報告されただけで収支差額はそのままセンターが保有していた。
 しかし、前記(1)の準備資産計7億6963万余円及び(2)の収支差額8029万余円、合計8億4992万余円は、センターが入居者等から徴収した入居費等を財源としているものの、センターが、委託契約に基づき、労働保険特別会計における保険料等の収入を財源として設置された施設を使用して、国の実施する事業を行ったことにより得られたものであり、施設介護事業が単年度の委託契約により実施されていることを考えると、貴省が準備資産と収支差額の取扱いについて十分な検討を行わないまま、これらを保有させている事態は適切とは認められない。

(改善を必要とする事態)

 センターが、施設介護事業を行ったことにより得られた入居費等から準備資産を積み立てて保有していたり、委託契約の終了時に入居費等の収支結果を報告するだけで収支差額についてはセンターの資産としてそのまま保有していたりする事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、準備資産の必要性の有無について十分な検討を行わないまま、センターの内部規程を根拠に準備資産を保有させていたこと、入居費等について精算の必要性の認識が十分でなく、委託契約に入居費等に関する精算条項を設けておらず、収支差額の取扱いを明確にしていなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

 貴省において、施設介護事業から生じた準備資産及び収支差額の取扱い並びに入居費等に関する精算が適切に行われるよう次のとおり意見を表示する。

ア センターが資産として保有している準備資産及び収支差額について必要性の有無を再検討し、これにより不要となる資産については国庫に納付させること
イ 入居費等から生じた収支差額を受託者に保有させることなく国庫に納付されるよう委託契約に入居費等に関する精算条項を設けること