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生活保護事業の実施において、厚生年金保険の脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入による年金給付の活用を図ることにより生活保護費等負担金の交付が適切なものとなるよう改善の処置を要求したもの


(9) 生活保護事業の実施において、厚生年金保険の脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入による年金給付の活用を図ることにより生活保護費等負担金の交付が適切なものとなるよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省  (項)生活保護費
   平成11年度以前は、
 (組織)厚生本省 (項)生活保護費
部局等 厚生労働本省(平成13年1月5日以前は厚生本省)、28都道府県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者(事業主体) 県5、市100、特別区9、計114事業主体
国庫負担対象事業 生活保護事業
国庫負担対象事業の概要 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するためにその困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
活用が可能な他法他施策 (1)  厚生年金保険の脱退手当金
(2)  国民年金の任意加入による年金給付
上記の年金等の活用が図られていない被保護者 (1)  脱退手当金に係る被保護者153人
(2)  任意加入に係る被保護者101人
上記の被保護者に対する支給済保護費のうち低減されることになる保護費 (1)  3016万余円 (平成21年度)
(2)  1億9245万余円 (平成6年度〜21年度)
 2億2262万余円  
上記に係る国庫負担金相当額 (1)  2262万円  
(2)  1億4434万円  
 1億6696万円  

【改善の処置を要求したものの全文】

  生活保護の実施における厚生年金保険の脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入によ る年金給付の活用について

(平成22年10月20日付け 厚生労働大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1) 制度の概要

 生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号)に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
 生活保護法による保護(以下「保護」という。)は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。そのため、保護の実施に当たっては、各種の社会保障施策等の活用が前提となっている。
 そして、貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護費の4分の3について生活保護費等負担金(平成19年度以前は生活保護費負担金。以下「負担金」という。)を交付しており、全国における負担金の交付額は、20年度で2兆0083億余円、21年度で2兆2582億余円に上っている。

(2) 他法他施策

 事業主体が保護を実施するに当たっては、前記のとおり、各種の社会保障施策等の活用が前提となっていることから、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年厚生省発社第123号厚生事務次官通知)等(以下「実施要領等」という。)により、他の法律又は制度による保障、援助等(以下「他法他施策」という。)を受けることができる者については極力その利用に努めさせることとなっている。
 他法他施策については、実施要領等により厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)、国民年金法(昭和34年法律第141号)、生活福祉資金等40の法律等について、特にその活用を図ることとなっている。これらの他法他施策のうち、厚生年金保険法に基づく脱退手当金、国民年金法に基づく任意加入及び生活福祉資金貸付制度については、次のとおりと なっている。

ア 厚生年金保険の脱退手当金について

 厚生年金保険法では、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間等が25年(300月)以上ある者が65歳以上である場合に老齢厚生年金の受給資格があるとされている。ただし、老齢厚生年金の受給資格がない場合であっても、昭和16年4月1日以前に生まれた者で、厚生年金保険の被保険者期間を5年以上有するなどの要件を満たした場合には、裁定請求手続を行うことにより、被保険者期間等に応じて脱退手当金を受給できることとされている。

イ 国民年金の任意加入について

 国民年金法では、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間等が25年(300月)以上ある者が65歳以上である場合に老齢基礎年金の受給資格があるとされている。ただし、保険料納付済期間等が25年に満たない者であっても、60歳以上65歳未満の者であれば、当該不足する期間に相当する期間国民年金に任意加入し、保険料を納付することにより65歳までに保険料納付済期間等が25年となる場合には、国民年金の受給権を取得することができることとされている。さらに、平成6年の国民年金法の改正により、7年4月以降は、昭和30年4月1日以前に生まれた者について、任意加入できる対象年齢が65歳以上70歳未満に拡大された。

ウ 生活福祉資金貸付制度について

 生活福祉資金貸付制度は、「生活福祉資金の貸付けについて」(平成21年7月厚生労働省発社援0728第9号厚生労働事務次官通知)等(以下「貸付要綱等」という。)に基づいて、都道府県社会福祉協議会(以下「都道府県社協」という。)を実施主体として、低所得世帯、障害者世帯又は高齢者世帯(以下、これらを合わせて「低所得世帯等」という。)に対して、その経済的自立等の促進を図り安定した生活を送ることができるようにすることを目的として、低利又は無利子で生活福祉資金の貸付けを行うものであり、貸付目的により、総合支援資金、福祉資金、教育支援資金及び不動産担保型生活資金の4種類がある。そして、貴省は、都道府県を通じて貸付原資の3分の2についてセーフティネット支援対策等事業費補助金を交付している。
 上記のうち、福祉資金は、低所得世帯等に対して、日常生活を送る上で、又は自立生活に資するために、一時的に必要であると見込まれる費用等として貸し付ける資金であり、被保護者に対しては、保護の実施機関としての事業主体において当該世帯の自立更生を促進するため必要があると認められる場合に限り、貸し付けることができることとなっている。そして、低所得世帯等の日常生活上一時的に必要な費用については、上限額50万円、据置期間6か月、償還期間3年を目安として貸付けを行うこととされており、貸付金の償還に当たっては、借受人が災害その他やむを得ない事由により貸付元利金を償還することが著しく困難になったと認められるなどの場合、1年の償還猶予が認められている。

(3) 保護費の支給基準及び収入の認定

 保護は、厚生労働大臣の定める「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)により、保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)を単位として算定される生活費の額から被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定される額(以下「収入認定額」という。)を控除して決定された保護費の額を支給することとなっている。
 そして、貴省は、実施要領等において、国民年金の受給権を取得するために必要な任意加入保険料を世帯の収入から支払う場合は、必要経費として収入認定額から保険料相当額を控除することとしている。また、事業主体が事前に承認して、福祉資金等を借り入れて任意加入保険料を支払う場合は、被保護者の自立助長を図る観点から借入金を収入として認定しないこととしている。さらに、これらの福祉資金等の借入金を償還する場合、償還金も収入認定額から控除することとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 平成21年度における被保護世帯の総数は約127万世帯で、そのうち高齢者世帯の数は約56万世帯と約44% を占めており、高齢者世帯の数は年々増加している。
 そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、他法他施策のうち、高齢者世帯等における厚生年金保険の脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入による年金給付の活用が適時適切に行われているかなどに着眼して、貴省及び28都道府県(注1) の205事業主体の212福祉事務所において、65歳以上で年金を受給していない被保護者19,353人を抽出して、負担金の事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。

 28都道府県  東京都、北海道、大阪府、青森、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、群馬、埼玉、千葉、石川、福井、山梨、愛知、三重、奈良、和歌山、岡山、香川、高知、福岡、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(検査の結果)

 検査したところ、28都道府県の114事業主体の119福祉事務所において、厚生年金保険の脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入による年金給付の活用が図られていない事態が次のとおり見受けられた。

(1) 厚生年金保険の脱退手当金の活用が図られていないもの

 22都道府県の73事業主体の75福祉事務所における被保護者153人については、老齢厚生年金の受給資格はなく、また、国民年金の受給権を取得することはできない者であった。しかし、これらの被保護者はいずれも生年月日が昭和16年4月1日以前であり、かつ厚生年金保険の被保険者期間を5年以上有することなどから、脱退手当金を受給することができると認められた。これらについて、被保護者が裁定請求手続を行って、脱退手当金を受給したとすれば、これらの脱退手当金を収入として認定することにより、支給済保護費が3016万余円(うち負担金相当額2262万余円)低減されることになる。

<事例1>

 A市では、被保護者B(昭和15年5月生。平成8年11月保護開始。)について、年金に係る他法他施策の活用を行っていなかった。
 しかし、会計実地検査時点(21年1月)において、Bの厚生年金保険の被保険者期間は196か月であり、70歳までの17か月間国民年金に任意加入したとしても国民年金の受給要件は満たさないが、Bは、昭和16年4月1日以前に生まれた者で、5年以上の厚生年金保険の被保険者期間を有していることなどから脱退手当金を受給することができると認められた。
 したがって、Bが脱退手当金の裁定請求手続を行っていれば126万余円の脱退手当金を受給できることになり、これを収入として認定すれば支給済保護費が126万余円(負担金相当額94万余円)低減されることになる。

(2) 国民年金の任意加入制度の活用が図られていないもの

 27都道府県の63事業主体の66福祉事務所における被保護者101人については、国民年金に任意加入して保険料を1か月から1年の間納付することにより、国民年金の受給権を取得することができると認められた。これらを態様別に示すと以下のとおりである。

ア 被保護世帯の世帯員に就労又は年金等の収入があり、その収入から任意加入保険料を支払うことによって、国民年金の受給権を取得することができたと認められるもの

22事業主体22福祉事務所 被保護者数24人

イ 福祉資金を借り入れて任意加入保険料を支払うことによって、福祉資金の据置期間の6か月以内に国民年金の受給権を取得することができたと認められるもの

25事業主体25福祉事務所 被保護者数28人

ウ 福祉資金を借り入れて任意加入保険料を支払うことによって、福祉資金の据置期間の6か月以内に国民年金の受給権を取得することはできないが、償還の猶予が認められている1年以内には国民年金の受給権を取得することができたと認められるもの

42事業主体42福祉事務所 被保護者数49人

 上記の被保護者計101人に対して、事業主体が国民年金の受給権を取得するために国民年金に任意加入するよう指導し、福祉資金を活用するなどして国民年金の受給に必要な期間(1か月分から12か月分(平均7.7か月))保険料を納付することにより、国民年金の受給権を取得させることができ、被保護者の自立助長が図られることとなる。そして、このように国民年金の受給権を取得していたとすれば、国民年金の受給開始時から平成22年3月までに支給済保護費が1億9245万余円(注2) (うち負担金相当額1億4434万余円)低減されることになる。

 老齢基礎年金の受給見込額2億0420万余円から任意加入保険料相当額1174万余円を控除して計算した。なお、101人の被保護者のうち43人は厚生年金保険の被保険者期間があるため、国民年金の受給権を取得すれば老齢厚生年金も受給できることとなるが、老齢厚生年金の受給見込額を算出することが困難であるため、低減されることになる金額として考慮していない。

<事例2>

 C市では、被保護者D(昭和16年8月生。平成6年12月保護開始。)について、年金に係る他法他施策の活用を行っていなかった。
 しかし、Dの国民年金の保険料納付済期間(210か月)及び国民年金保険料の免除期間(88か月)は、合算すると298か月あることから、Dが国民年金に任意加入し、保険料を2か月間納付すれば、年金の受給権を取得することができた。
 したがって、C市がDに対して国民年金に任意加入するよう指導し、C市の事前の承認を得て、福祉資金を3万余円借り入れて保険料を納付していたとすれば、65歳に到達して国民年金の受給が開始される18年9月から22年3月まで老齢基礎年金141万余円を受給できたこととなり、返済すべき任意加入保険料に係る借入金の3万余円を考慮しても、支給済保護費が139万余円(うち負担金相当額104万余円)低減されることになる。

(改善を必要とする事態)

 以上のように、脱退手当金が受給できたり、国民年金の任意加入により年金受給が可能となったりするのに、これらの活用が十分に図られていない事態は、生活保護制度の趣旨からみて適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 事業主体において

(ア) 年金及び生活福祉資金貸付制度についての理解が必ずしも十分でないため、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間等が受給要件を満たさない被保護者について、脱退手当金を受給できる者及び国民年金に任意加入して年金受給権を取得できる者を把握していないこと
(イ) 他法他施策を活用して自立更生を促進することについての認識が十分でないため、脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入について被保護者に対する周知・指導が十分でないこと、また、生活福祉資金貸付制度の活用に関して都道府県社協等との連携等が十分でないこと

イ 貴省において

(ア) 脱退手当金の受給及び生活福祉資金貸付制度等を活用した国民年金の受給権の取得による年金給付の活用について、事業主体に対して具体的な指示等が十分でないこと
(イ) 被保護者が福祉資金を借り入れることにより国民年金に任意加入して年金受給権を取得することについて、事業主体及び都道府県社協等に対する周知が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

 近年、被保護世帯数及び負担金が増加傾向にあり、引き続き保護の適正な実施が強く求められている。
 ついては、貴省において、脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入による年金給付の活用を図ることにより負担金の交付が適切なものとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 事業主体に対して、年金及び生活福祉資金貸付制度について改めて周知徹底を図るとともに、事業主体が脱退手当金を受給できる者及び国民年金の任意加入により国民年金の受給権を取得できる者を確実に把握することができるよう、これらを確認するための様式を示すなどすること
イ 事業主体に対して、次のような技術的助言を行うこと
(ア) 脱退手当金の裁定請求手続及び国民年金の任意加入手続について被保護者に対する周知・指導を十分に行うこと
(イ) 生活福祉資金貸付制度を活用するため、都道府県社協等との連携等を強化すること
ウ 事業主体及び都道府県社協等に対して、被保護者が任意加入により国民年金の受給権を取得できる場合には福祉資金を貸し付けることができること及び貸付要綱等で定められた期間について貸付金の償還を猶予できることを十分に周知すること
エ 貴省、都道府県等が事業主体に対して行う生活保護法施行事務監査の際に、脱退手当金の受給及び国民年金の任意加入による年金給付の活用を図ることについて、事業主体に対して改めて指導を徹底すること