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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 第10 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

生活保護事業の実施において、要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度の利用によって被保護世帯の資産の活用を図ることにより、生活保護費等負担金の交付が適切なものとなるよう改善の処置を要求したもの


(10) 生活保護事業の実施において、要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度の利用によって被保護世帯の資産の活用を図ることにより、生活保護費等負担金の交付が適切なものとなるよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生労働本省 (項)生活保護費
部局等 厚生労働本省、18都道府県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者(事業主体) 県3、市88、特別区5、計96事業主体
国庫負担対象事業 生活保護事業
国庫負担対象事業の概要 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するためにその困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度の概要 一定の居住用不動産を有し、将来にわたりその住居を所有し、又は住み続けることを希望する要保護の高齢者世帯に対し、当該不動産を担保として生活資金を貸し付ける制度
要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度が利用されていなかった被保護世帯数及び資産の額 被保護世帯数 436世帯
固定資産税評価額 29億9717万余円
上記の被保護世帯に対して支給する必要がなかったことになる保護費の額   20億2662万余円(平成19年度〜21年度)
上記に係る国庫負担金相当額   15億1997万円

【改善の処置を要求したものの全文】

  生活保護における被保護世帯の資産の活用について

(平成22年10月28日付け 厚生労働大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

(1) 生活保護制度の概要

 生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
 生活保護法による保護(以下「保護」という。)は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。そのため、保護の実施に当たっては、資産等の活用が前提となっている。
 貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)が、保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護費の4分の3について生活保護費等負担金(平成19年度以前は生活保護費負担金。以下「負担金」という。)を交付しており、全国における負担金の交付額は、20年度で2兆0083億余円、21年度で2兆2582億余円に上っている。

(2) 資産の活用

 事業主体が保護を実施するに当たっては、前記のとおり、資産の活用が前提となっていることから、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和36年厚生省発社第123号厚生事務次官通知)等により、最低限度の生活の内容としてその所有又は利用を容認するに適しない資産は、原則として処分の上、最低限度の生活の維持のために活用させることとなっている。
 ただし、保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)の居住の用に供される建物及びこれに附属した土地(以下「居住用不動産」という。)等については、原則として、所有を認めることとなっている。

(3) 生活福祉資金(要保護世帯向け不動産担保型生活資金)の貸付制度

ア 貸付制度の概要

 居住用不動産の取扱いに関しては、貴省の社会保障審議会福祉部会内に設置された生活保護制度の在り方に関する専門委員会及び全国知事会・全国市長会において、被保護者に対して全く援助を行っていなかった扶養義務者が当該被保護者の死亡時に土地や建物を相続することは、社会的公平の観点から問題であり、そのようなことにならないよう保護の実施に当たっては、被保護者の所有する資産の活用を徹底すべきである旨の指摘がなされている。
 貴省は、この指摘を踏まえ、19年4月に、一定の居住用不動産を有する低所得の高齢者世帯がこれを担保として生活資金を借り入れることにより自立した生活を送り、結果として保護の受給を必要としないようにするため、要保護世帯向け長期生活支援資金(20年7月以降は生活福祉資金(要保護世帯向け不動産担保型生活資金)。以下「不動産担保型資金」という。)を貸し付ける制度(以下「貸付制度」という。)を創設している。貸付制度は、「生活福祉資金(要保護世帯向け長期生活支援資金)の貸付けについて」(平成19年3月厚生労働省発社援第0327002号厚生労働事務次官通知。21年7月以降は「生活福祉資金の貸付けについて」(平成21年7月厚生労働省発社援0728第9号厚生労働事務次官通知)。以下「貸付要綱」という。)等に基づいて運用されることとなっている。そして、要保護の高 齢者世帯について貸付制度の利用が可能な場合、これを利用することにより資産の活用を図ることとなっている。
 不動産担保型資金の貸付けは、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する都道府県社会福祉協議会(以下「都道府県社協」という。)が行うものとされており、貴省は、都道府県を通じて貸付原資の4分の3について、セーフティネット支援対策等事業費補助金を交付している。
 そして、貸付要綱等では、不動産担保型資金の貸付対象は、一定の居住用不動産を有し、将来にわたりその住居を所有し、又は住み続けることを希望する要保護の高齢者世帯であって、次の貸付要件のいずれにも該当する世帯であることとされている。
(ア) 借入申込者が単独でおおむね500万円以上(固定資産税評価額で350万円以上)の資産価値の居住用不動産を所有していること
(イ) 借入申込者が所有している居住用不動産に賃借権等の利用権及び抵当権等の担保権が設定されていないこと
(ウ) 借入申込者及び配偶者が原則として65歳以上であること
(エ) 借入申込者の属する世帯が、貸付制度を利用しなければ、保護の受給を要することとなる要保護世帯であると事業主体が認めた世帯であること
 貸付金は、原則として1か月ごとに交付されることとなっており、その額は貸付対象となる世帯の生活扶助費に1.5を乗じた額から年金収入等の収入充当額を差し引いた額となっている。また、貸付限度額は、居住用不動産の評価額の7割となっており、貸付金を交付する期間は、貸付元利金が貸付限度額に達するまでの期間となっている。

イ 貸付制度の事務手続等

 事業主体は、要保護の高齢者世帯について保護を実施するに当たり、貸付制度の利用が可能な世帯に該当するか否かを調査することとなっており、当該世帯が前記の(ア)から(エ)までの貸付要件を満たしている場合には、貸付制度の利用が可能と判断して、これを利用させることとなっている。
 そして、その場合には、事業主体は、保護を申請する世帯については、原則として保護の申請を却下することとなり、また、被保護世帯が貸付制度の利用を拒む場合には、保護の要件を満たさないものとして、保護を適用しないこととなっている。
 貸付制度の利用に当たっては、事業主体は、借入申込者に推定相続人がいる場合、借入者の死亡後の償還手続を円滑にするため、推定相続人の同意を得るための説明を行うこととされており、その後に、貸付契約に必要な書類を作成して都道府県社協等に送付することとなっている。ただし、この推定相続人の同意は貸付要件ではなく、仮に推定相続人から同意が得られない場合には、事業主体は当該推定相続人との調整状況を記した書類を作成して都道府県社協等に送付した上で貸付制度を利用させることとなっている。
 そして、都道府県社協は、必要書類を受理した後に、正式に居住用不動産の評価を行うなどした上で、貸付決定を行うこととなっている。
 また、借入申込者が未登記又は表示登記のみの土地及び建物を所有している場合には、所有権保存登記等が不動産担保型資金の申請時に必要となり、これに要する費用は、保護費の支給対象とされている。
 なお、保護の実施に当たって、事業主体は、被保護世帯に組織的に対応するため、被保護世帯の生活状況を踏まえて、個々の被保護者の自立に向けた課題を分析するとともに、それらの課題に応じた具体的な援助方針を策定し、また、当該被保護世帯の状況等の変動に合わせて援助方針の見直しを行うこととなっている。そして、事業主体は、被保護世帯ごとに策定した援助方針等に基づいて、貸付制度の利用等による資産の活用についても指導等を行うこととなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 21年度における被保護世帯の総数は約127万世帯で、そのうち高齢者世帯の数は約56万世帯と約44% を占めており、その数は年々増加している。また、貸付制度は19年4月に創設されており、20年度末時点の貸付原資51億余円に対して、貸付決定額は累計で24億余円となっている。
 そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、事業主体において、貸付制度を適時適切に利用することにより被保護世帯の資産の活用が図られているかに着眼して、18都道府県(注1) の135事業主体の152福祉事務所において、前記貸付要件のうち被保護者及びその配偶者の年齢が65歳以上であること及び所有する居住用不動産の資産価値が固定資産税評価額で350万円以上であることを満たしていて、不動産担保型資金の借入れを申請していない被保護世帯計1,574世帯について、その所有する土地及び建物計1,670件(固定資産税評価額計119億0951万余円)を対象として、負担金の事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。

 18都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、栃木、神奈川、岐阜、愛知、兵庫、奈良、和歌山、岡山、香川、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島各県

(検査の結果)

 検査したところ、不動産担保型資金の貸付要件をすべて満たしており、貸付制度を利用することが可能であったのに、利用されておらず、資産の活用が図られていないものが、18都道府県の96事業主体の107福祉事務所において、被保護世帯計436世帯の所有する土地計439件(固定資産税評価額計29億9717万余円)について見受けられた。
 上記の436世帯について、貸付制度が利用されていなかった事由を態様別に示すと次のとおりである。

ア 事業主体において、貸付要件を満たしているか否かの検討を行っていなかったり、貸付対象となる資産の把握を十分行っていなかったりなどしていたもの

172世帯の所有する土地計172件(固定資産税評価額計11億6345万余円)

イ 事業主体において、貸付制度の利用についての職員による働きかけに応じない被保護世帯に対して、組織的に取り組むための援助方針等に貸付制度の利用についての方針を定めていなかったなどのため、指導が十分に行われていなかったもの

10世帯の所有する土地計10件(固定資産税評価額計6373万余円)

ウ 貸付制度の事務手続等が理解しにくいものとなっているなどのため、貸付制度の内容を誤認していたり、所要の手続が行われていなかったりなどしていたもの
(ア) 事業主体及び都道府県社協において、貸付制度を利用するためには推定相続人の同意が必要であると誤認していたもの

86世帯の所有する土地計88件(固定資産税評価額計6億6696万余円)

(イ) 事業主体において、不動産担保型資金の貸付要件に係る不動産評価額の基準を貸付要綱等で定める350万円より高い固定資産税評価額等に設定するなどしていたもの

19世帯の所有する土地計19件(固定資産税評価額計1億5186万余円)

(ウ) 事業主体において、被保護世帯が所有する未登記の建物等について、登記の手続を行うよう指導していなかったなどのもの

56世帯の所有する土地計56件(固定資産税評価額計3億4273万余円)

(エ) 事業主体において、認知症等により判断能力が十分でない被保護者に対する後見人の選定等の検討を行っていなかったもの

93世帯の所有する土地計94件(固定資産税評価額計6億0841万余円)

 上記ウ(ア)の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A市は、昭和56年7月から世帯主B(昭和5年生、女性)の単身世帯を対象として保護を実施しており、Bに対して貸付制度が開始された平成19年4月から21年12月までの間に、保護費計347万余円を支給していた。
 そして、A市は、Bが固定資産税評価額714万余円の土地を所有しており、貸付制度の利用が可能であるにもかかわらず、県の事務処理手順において、本人、推定相続人等すべての者の同意を得ることが貸付要件として定められており、Bについては推定相続人の同意が得られていないとして貸付制度が利用されていなかった。
 しかし、推定相続人の同意は貸付要件ではなく、推定相続人から同意が得られない場合であっても、貸付制度を利用することが可能であった。
 したがって、Bが19年4月に速やかに貸付制度を利用し、資産を活用していたとすれば、前記の保護費347万余円(うち負担金相当額260万余円)は支給の必要がなかったことになる。

 そして、これらの事由について、事業主体等において、貸付制度の利用の検討を十分に行うとともに、援助方針等に貸付制度の利用についての方針を定めるなどして、利用していない被保護世帯に対して適切に指導を行うことなどにより、貸付制度が適時適切に利用され、資産の活用が図られていたとすれば、前記の436世帯に係る19年4月から21年12月までの保護費計20億2662万余円(注2) (うち負担金相当額計15億1997万余円)は支給の必要がなかったことになる。

 平成21年1月1日時点の固定資産税評価額に0.7を乗じた額を1か月当たりの貸付額で除するなどして貸付金を交付する期間を算定して、その期間に支給された保護費を算出している。

(改善を必要とする事態)

 上記のように、貸付制度の利用の検討を十分に行っていなかったり、利用していない世帯に対して指導が十分に行われていなかったりなどしていて、被保護世帯において、貸付制度の利用が可能であるのに、その利用が進まず保護を継続していて、被保護世帯が所有する資産の活用が図られていない事態は、生活保護制度の趣旨からみて適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる。

ア 事業主体において

(ア) 貸付制度の利用により資産の活用を図ることに対する認識が十分でないこと
(イ) 貸付制度の対象となる資産を把握するための体制の整備が十分でないこと
(ウ) 生活保護制度の趣旨に沿って資産の活用を図ることについて、被保護世帯に対する説明及び指導が十分でないこと
(エ) 都道府県社協等との連携が十分でないこと

イ 事業主体及び都道府県社協において、推定相続人の同意が得られていないとして貸付制度を利用できないと誤認するなど、貸付制度についての理解が十分でないこと

ウ 貴省において

(ア) 被保護世帯に貸付制度を利用させることなどについて、事業主体に対する具体的な説明、技術的助言等が十分でないこと
(イ) 貸付制度の運用状況の把握及びこれに基づいた事業主体に対する技術的助言等が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

 近年、被保護世帯数及び負担金が増加傾向にあり、引き続き保護の適正な実施が強く求められている。
 ついては、貴省において、貸付制度の適時適切な利用によって、被保護世帯の資産の活用を図ることにより、負担金の交付が適切なものとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 事業主体等に対して次のような技術的助言等を行うこと

(ア) 事業主体に対して、保護の実施において被保護世帯の所有する資産の活用を図ることについての認識を徹底させるとともに、全国会議等で、その活用が適切に行われている事業主体の事務処理、研修教材等の優良事例を取り上げるなどして、被保護世帯の所有する資産の活用の徹底を図ること
(イ) 事業主体において、被保護世帯の資産の状況について適時適切に把握するための体制を整備すること
(ウ) 被保護世帯に対する援助方針等に貸付制度の利用についての方針を定めるとともに、貸付制度を利用して資産の活用を図ることについて、被保護世帯に対して具体的な説明や指導を行うこと
(エ) 事業主体及び都道府県社協に対し、不動産担保型資金等の事務手続等をより分かりやすく明示することにより、貸付制度についての誤認を防止等すること
(オ) 事業主体と都道府県社協等との連携を強化すること

イ 貴省、都道府県等が事業主体に対して行う生活保護法施行事務監査の際に、被保護世帯が所有する資産の実態把握及び活用状況の確認を徹底し、貸付制度の利用等が十分でない事業主体に対して改めて指導を徹底すること