会計名及び科目 | 一般会計(組織)林野庁 (項)林業・木材産業等振興対策費 | |
(平成19年度以前は、 (項)林業振興費) | ||
部局等 | 林野庁 | |
補助の根拠 | 林業労働力の確保の促進に関する法律(平成8年法律第45号) | |
補助事業者 (事業主体) |
29都道府県 | |
補助事業 | 林業就業促進資金貸付 | |
補助事業の概要 | 新たに林業に就業しようとする者等に就業に必要な林業の技術等を習得するための研修及びその他の就業の準備に必要な資金の貸付事業を行う都道府県に対して、必要な資金の一部を助成するもの | |
有効活用されていない26都府県の資金残高合計 | 3億0022万余円 | (平成21年度末) |
上記に対する国庫補助金相当額 | 2億0015万円 |
(平成22年9月21日付け 林野庁長官あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴庁は、林業労働力の確保の促進に関する法律(平成8年法律第45号)に基づき、林業の健全な発展と林業労働者の雇用の安定に寄与することを目的として、新たに林業に就業しようとする者等にその就業に必要な林業の技術又は経営方法を実地に習得するための研修その他の就業の準備に必要な資金(以下「林業就業促進資金」という。)の貸付事業を行う都道府県に対して、当該貸付事業に必要な資金の3分の2に相当する金額を国庫補助金として交付する事業を当該貸付事業が発足した平成8年度から開始している。
そして、都道府県は、交付された国庫補助金に自己資金等を合わせて林業就業促進資金を造成して、これを都道府県知事の指定を受けた林業労働力確保支援センター(以下「センター」という。)に無利子で貸し付け、資金の貸付業務を行わせている。
センターは、新たに、林家若しくは事業主の後継者等として、又は事業主に雇用される林業労働者として林業に就業しようとする者(以下「新規就業予定者」という。)及び新規就業予定者を雇用するなどのため、労働環境の改善その他の雇用管理の改善、森林施業の機械化その他の事業の合理化を一体的に図るための改善計画を作成して都道府県知事の認定を受けた事業主(以下「認定事業主」という。)を対象に資金貸付業務を実施している。
なお、都道府県は、貸付事業を廃止した場合には、造成した資金のうち国庫補助金相当額を国に納付しなければならないこととなっている。
林業就業促進資金の種類は、〔1〕 新規就業予定者が就業に必要な林業の技術又は経営方法を実地に習得するため、センター、林業大学校等、林業試験場等における研修の受講に必要な資金(以下「就業研修資金」という。貸付限度額は、借受者が新規就業予定者本人の場合、1人当たり月額5万円から15万円、貸付利率は無利子、償還期間は20年以内(据置期間4年以内)、借受者が認定事業主の場合、雇用する新規就業予定者1人当たり月額4万円から12万円、貸付利率は無利子、償還期間は13年以内(据置期間4年以内))と、〔2〕 新規就業予定者が住居の移転、林業作業用具の購入等の就業の準備に必要な資金(以下「就業準備資金」という。貸付限度額は、借受者が新規就業予定者本人の場合、1人当たり150万円、貸付利率は無利子、償還期間は20年以内(据置期間4年以内)、借受者が認定事業主の場合、雇用する新規就業予定者1人当たり120万円、貸付利率は無利子、償還期間は13年以内(据置期間4年以内))がある(次図参照) 。
都道府県は、毎年度、センターの資金貸付業務に係る業務計画等を勘案して、就業研修資金及び就業準備資金ごとの事業計画を内容とする林業就業促進資金貸付事業計画(以下「貸付計画」という。)を策定して、林野庁長官からその承認を受けなければならないこととなっている。そして、都道府県は、貸付計画に基づいて実施した貸付事業の実績報告書を林野庁長官に提出しなければならないこととなっている。
本院は、有効性等の観点から、林業就業促進資金が有効に活用されているかなどに着眼して、21年度末現在で資金を造成している29都道府県(注1) (資金造成総額6億4541万余円、うち国庫補助金相当額4億3027万余円)を対象に、貴庁及び10道県において会計実地検査を行うとともに、その他の19都府県については関係資料を提出させて、各年度における資金の貸付額、年度末資金残高の状況等について分析を行うことにより検査した。また、21年度末現在で資金を造成していない18府県については、その理由を聴取した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 資金を造成している29都道府県の状況について
(ア) 29都道府県全体の資金の貸付け及び繰越しの状況
29都道府県全体の資金の貸付け及び繰越しの状況をみると、表1 のとおり、21年度末貸付残高は、17年度の3億1916万余円から2億7542万余円に減少しており、資金造成総額に対する年度末貸付残高の比率(以下「貸付残高率」という。)も、17年度の50.0%から21年度の42.7%に減少している。その結果、17年度から21年度までの間、資金造成総額に対する年度末資金残高の比率(以下「繰越率」という。)は年々増加している状況であり、21年度末資金残高も、17年度の3億1944万余円から3億6998万余円(国庫補助金相当額2億4665万余円)に増加している。
区分
\ 年度
|
資金造成総額 (a)=((b)+(c)) (国庫補助金相当額) |
||||
年度末貸付残高 (国庫補助金相当額) (b) |
年度末資金残高 (国庫補助金相当額) (c) |
||||
貸付残高率 (b/a) |
繰越率 (c/a) |
||||
平成17 | 千円 638,609 (425,739) |
千円 319,168 (212,778) |
% 50.0 |
千円 319,441 (212,960) |
% 50.0 |
18 | 643,463 (428,975) |
309,063 (206,041) |
48.0 | 334,400 (222,933) |
52.0 |
19 | 644,877 (429,918) |
299,653 (199,768) |
46.5 | 345,224 (230,149) |
53.5 |
20 | 645,153 (430,102) |
281,024 (187,349) |
43.6 | 364,128 (242,752) |
56.4 |
21 | 645,416 (430,277) |
275,428 (183,619) |
42.7 | 369,987 (246,658) |
57.3 |
(イ) 29都道府県別の21年度末における貸付残高率の状況
29都道府県別の21年度末における貸付残高率の状況をみると、表2 のとおり、23都府県(注2) において貸付残高率が50%未満となっており、このうち21都府県は30%未満となっていて、さらに12都府県(注3) は貸付残高がなかった。
貸付残高率 | 0% | 0%超10%未満 | 10%以上20%未満 | 20%以上30%未満 | 30%以上40%未満 | 40%以上50%未満 | 50%以上60%未満 | 60%以上70%未満 | 70%以上80%未満 | 80%以上90%未満 | 90%以上100% |
都道府県数 | 12 | 5 | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 2 | 1 | 0 | 1 |
計29 | 21 | 6 | |||||||||
23 |
(ウ) 29都道府県別の貸付計画と実績
29都道府県別の17年度から21年度までの間の貸付計画と実績の状況をみると、表3 のとおり、26都府県(注4) において貸付計画額に対する実績額の比率(以下「計画実施率」という。)が50%未満となっており、このうち23都府県は30%未満となっていて、さらに16都府県(注5) は貸付実績がなかった。そして、これら16都府県のうち7府県(注6) は、資金造成以降一度も貸付実績がなかった。
計画実施率 | 0% | 0%超10%未満 | 10%以上20%未満 | 20%以上30%未満 | 30%以上40%未満 | 40%以上50%未満 | 50%以上60%未満 | 60%以上70%未満 | 70%以上80%未満 | 80%以上90%未満 | 90%以上100% |
都道府県数 | 16 | 5 | 1 | 1 | 1 | 2 | 2 | 0 | 0 | 0 | 1 |
計29 | 23 | 3 | |||||||||
26 |
京都府は、平成9、10両年度に国庫補助金計1040万円の交付を受け、520万円の自己資金を合わせて、1560万円の資金を造成している。そして、10年度から21年度までの間、毎年度、840万円から1560万円の貸付けの見込みがあるとして貸付計画を策定していた。しかし、資金造成以降一度も貸付けの実績はなく、21年度における年度末資金残高は1563万余円(国庫補助金相当額1042万余円)となっていた。
そして、貸付残高率が50%以上で、計画実施率も50%以上のものは3道県(注7)
のみであり、この3道県を除く26都府県(注8)
の21年度末資金残高は計3億0022万余円(国庫補助金相当額2億0015万余円)となっている。
(エ) 貸付事業が低調になっている理由
前記のように本件貸付事業の年度末残高が多額となっていることなどから、29都道府県に対して、貸付事業の利用が低調になっている理由を聴取したところ、表4 のとおり、国の他の補助事業や県の単独事業等により新規就業予定者に対して研修を実施していること、道県内に、貸付けの対象となる研修を行う林業大学校等、林業試験場等がないことなどによるとしている。
理由 | 都道府県数 |
国の他の補助事業や県の単独事業等により新規就業予定者に対して研修を実施している | 25 |
道県内に、貸付けの対象となる研修を行う林業大学校等、林業試験場等がない | 18 |
地域内からの採用やUターン者が多いため、住居の移転が生じない | 14 |
既に作業着等の作業用具を持っていたり、事業主が用意しているので準備費用が少ない | 13 |
賃金が低いため、将来の不安から借入れをためらう | 10 |
(注)
イ 資金を造成していない18府県の状況について
21年度末時点で資金を造成しておらず貸付事業を実施していない18府県について、事業を実施していない理由等を聴取したところ、次のような状況となっている。
18府県のうち15府県は、新規就業予定者に対しては就業の円滑化を図るための県の単独事業等により対応できることなどの理由から、貸付事業発足時の8年度から事業を実施していなかった。
また、3県は、貸付事業発足後、事業を実施したものの、このうち1県は貸付実績が1件のみであったこと、2県は貸付実績がなかったことのため、県において需要調査を行った結果、今後の貸付需要が見込めないことなどを理由として、16年度から19年度までの間に事業の廃止を決定した。そして、造成した資金のうち国庫補助金相当額を国に納付していた。
3道県を除く26都府県において、林業就業促進資金を造成してから一度も貸付実績がなかったり、貸付実績があっても計画実施率が低かったりなどしているため、毎年度多額の年度末資金残高が発生して資金が滞留し有効活用されていない事態は適切でなく、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 都府県において、貸付計画の策定に当たり、新規就業予定者等からの貸付需要の把握及び貸付実績に対応した適切な資金規模の検討が十分でなかったこと、及び単独事業等により新規就業予定者の就業の円滑化を図るための研修を実施するなどしているのに、これらを考慮せず、貸付事業の存続の必要性や適切な資金規模を検討していなかったこと
イ 貴庁において、都府県における貸付事業の資金運営について現状把握が十分でなかったこと、また、このため都道府県が貸付事業の存続の必要性や適切な資金規模を検討するための基準等を策定して示していないなど、都道府県に対する指導が十分でなかったこと
本件貸付事業は、貴庁において、林業への就業の促進を図るため、都道府県に対して国庫補助金を交付し実施してきたものであるが、上記のように毎年度多額の年度末資金残高が発生して資金が滞留している状況にかんがみると、貸付需要に対応した適切な規模で資金の有効活用を図ることが必要である。
ついては、貴庁において、本件事業の実施状況の把握に努め、都道府県が貸付事業の存続の必要性や適切な資金規模を検討するための基準等を策定して、これを都道府県に示し、事業存続の必要性や貸付需要に対応した適切な資金規模を検討させて、造成した資金のうち適切な資金規模を超える資金については、その国庫補助金相当額を国に納付させることとするなどして、資金の有効活用を図るよう改善の処置を要求する。
(注1) | 29都道府県 東京都、北海道、京都府、青森、岩手、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、島根、岡山、山口、愛媛、熊本、大分、宮崎各県
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(注2) | 23都府県 東京都、京都府、青森、岩手、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、富山、石川、山梨、岐阜、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、岡山、愛媛、大分、宮崎各県
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(注3) | 12都府県 東京都、京都府、青森、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、奈良、岡山、大分、宮崎各県
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(注4) | 26都府県 東京都、京都府、青森、岩手、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、岡山、愛媛、熊本、大分、宮崎各県
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(注5) | 16都府県 東京都、京都府、青森、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、石川、奈良、鳥取、岡山、愛媛、大分、宮崎各県
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(注6) | 7府県 京都府、青森、福島、茨城、栃木、奈良、大分各県
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(注7) | 3道県 北海道、島根、山口両県
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(注8) | 26都府県 (注4)
の26都府県と同じ
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