ページトップ
  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

委託事業及び補助事業等において、従事者が出向者、管理職等である場合の人件費単価の算出方法等を定めるとともに、従事実績に係る証拠書類等の整備方法等を支出先に明示することなどにより、人件費の算定が適切に行われるよう改善させたもの


(2) 委託事業及び補助事業等において、従事者が出向者、管理職等である場合の人件費単価の算出方法等を定めるとともに、従事実績に係る証拠書類等の整備方法等を支出先に明示することなどにより、人件費の算定が適切に行われるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)農林水産本省
(項)総合食料対策費
(項)食の安全・消費者の信頼確保対策費
(項)農地等整備・保全推進費
(項)農業生産基盤整備・保全事業費
(項)農業等国際協力推進費等
(組織)林野庁
(項)林業振興費
(項)森林整備・保全費
(組織)水産庁
(項)水産業振興費
(項)水産物安定供給対策費 等
食料安定供給特別会計(国営土地改良事業勘定)
(項)土地改良事業費 等
部局等 農林水産本省、林野庁、水産庁、7農政局、沖縄総合事務局
契約の概要 農林水産省の所管事務に関する調査・研究等の実施
契約の相手方 9公益法人
契約 平成18年4月〜21年2月 一般競争契約、随意契約
支払額   69億0565万余円 (平成18年度〜20年度)
補助事業の概要 農林水産省が所管する補助事業の実施
補助事業者(事業主体) 8公益法人
国庫補助金交付年月 平成18年4月〜21年3月
国庫補助金交付額   31億1199万余円 (平成18年度〜20年度)
(1)低減できた出向者、管理職等の従事者に係る人件費の額 委託事業 5055万円 (平成18年度〜20年度)
補助事業 4052万円 (平成18年度〜20年度)
(国庫補助金相当額3886万円)
9107万円 (国費相当額8941万円)
(2)従事実績の確認ができない人件費の額 委託事業 3億4826万円 (平成18年度〜20年度)
補助事業 2061万円 (平成19、20両年度)
(国庫補助金相当額2061万円)
3億6888万円 (国費相当額3億6888万円(背景金額))

1 委託事業及び補助事業等における経費の精算等及び人件費の算定の概要

 農林水産省(外局、地方支分部局等を含む。)は、毎年度、多額の委託費や補助金等を公益法人(注1) に対して支出している。
 農林水産省は、委託費及び補助金等について、同省があらかじめ定めた限度額と、実際に委託事業又は補助事業等(以下、両者を合わせて「支出対象事業」という。)の実施に要した経費の額(以下、事業の実施に要した経費の額を「実績金額」という。)とを比較して、いずれか低い額を委託費又は補助対象事業費の額とすることとしている。そして、実績金額のうち人件費は、従事者の1日又は1時間当たりの人件費単価に、従事実績(日数又は時間数)を乗じて従事者ごとの人件費を算出し、これらを合算して算定している。
 農林水産省は、支出対象事業において、委託先又は補助金等交付先(以下、両者を合わせて「支出先」という。)に、当該支出対象事業に係る支出を明らかにした帳簿及び証拠書類等を整備・保管させることとしていて、これにより他の業務の会計経理と区分して当該委託事業の精算又は当該補助事業等の額の確定(以下、両者を合わせて「精算等」という。)を行うことにしている。
 また、農林水産省は、平成19年3月に「委託事業の検査関係マニュアル」(以下「委託事業検査マニュアル」という。)を、20年1月に「補助事業等の審査におけるチェックポイント」(以下、両者を合わせて「委託事業検査マニュアル等」という。)をそれぞれ作成している。そして、委託事業検査マニュアルにおいては、業務日誌等により従事実績を確認することを、精算等の際に確認すべき事項として例示している。

 公益法人  ここでは、平成18年に改正される前の民法(明治29年法律第89号)第34条の規定に基づいて設立された社団法人及び財団法人のうち、各府省が所管する法人を指す。

2 検査の結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、委託費又は補助金等として国から多額の支出を受けている公益法人もあることなどを踏まえて、経済性等の観点から、公益法人が実施している支出対象事業について、人件費が事業の従事者に対する給与支給等の実態を反映したものとなっているか、証拠書類等による従事実績の確認を経て適切に人件費の精算等が行われているかなどに着眼して検査を実施した。
 検査に当たっては、委託先9公益法人及び補助金交付先8公益法人(両者の重複を控除すると計11公益法人)において、18年度から20年度までの委託事業329件、支払額計69億0565万余円及び補助事業59件、事業費計37億0238万余円(国庫補助金交付額計31億1199万余円)について、会計帳簿やその証拠書類等を確認するなどして実地に検査するとともに、農林水産本省において精算等に関する規程類を徴するなどして会計実地検査を行った。

 (検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 従事者に対する給与支給等の実態を反映していない人件費単価を用いて精算等が行われていたもの

 人件費単価については、支出先において、正職員の給与等の額を基に職階等に応じた日単価又は時間単価(以下「受託単価」という。)を定めていたり、支出先が実際に負担した給与等の額を年間の所定労働時間で除した単価を算出したりしていて、これらの単価を支出対象事業の人件費単価としている。
 このうち、受託単価については、正職員の給与等の額を基に定められていることから、支出先が給与等の全部又は一部を負担していない他の法人からの出向者等を支出対象事業に従事させている場合には、受託単価をそのまま精算等を行う際に人件費単価として適用すると、当該事業は支出先が実際に負担している人件費を上回る額で精算等が行われることとなる。
 また、時間外手当の支給対象とならない管理職、研究職等の従事者が所定労働時間外に支出対象事業に従事している場合には、前記の人件費単価(年間の給与等の額を所定労働時間のみで除した単価)を所定労働時間外の従事時間を含めた実従事時間に乗じて支出対象事業の人件費を算出すると、当該事業は支出先が実際に負担している人件費を上回る額で精算等が行われることとなる。したがって、このような場合には、当該従事者の所定労働時間と所定外労働時間を合計した総労働時間から算出した人件費単価を用いて精算等を行う必要がある。
 今回検査した11公益法人のうち4公益法人(注2) が実施した委託事業71件及び補助事業14件、計85件の事業において、当該公益法人がその給与等の一部を負担していない出向者等や当該公益法人の規程により時間外手当の支給対象とされていない管理職、研究職等である者が従事者の中に含まれていた。
 しかし、農林水産省は、上記のような場合の人件費単価の算出方法を具体的に定めていなかった。このため、支出先が実際に負担した給与等の額を反映して算出した人件費単価を大幅に上回る受託単価がそのまま適用されていたり、時間外手当の支給対象とされていない者の所定労働時間外の従事時間を含めた実従事時間に、当該従事者の年間の給与等の額を所定労働時間のみで除した人件費単価を乗じて人件費が算出されたりなどしていた。そして、農林水産省は、このような事態を把握することができずにそのまま精算等を行っていた。
 そこで、上記の事態に係る従事者の人件費計6億0839万余円(委託事業分3億7302万余円、補助事業分2億3537万余円)について、給与支給等の実態を踏まえるなどして算出した人件費単価により修正計算すると、計5億1732万余円(委託事業分3億2246万余円、補助事業分1億9485万余円)となり、委託事業分5055万余円及び補助事業分4052万余円(うち国庫補助金相当額3886万余円)、計9107万余円(国費相当額8941万余円)が低減できたと認められた。

(2) 従事実績の確認ができないまま人件費の精算等が行われていたもの

 支出対象事業の精算等においては、支出を明らかにした帳簿及び証拠書類等により、実績金額を確認することが求められている。人件費については、前記のとおり、人件費単価に当該支出対象事業に係る従事実績を乗じて算出しているため、賃金台帳等の証拠書類等による確認に加えて、従事者ごとの当該支出対象事業に係る従事実績と他の業務に係る従事実績との区分を明確にした業務日誌等の証拠書類等に基づき、当該支出対象事業に係る従事実績を確認する必要がある。
 農林水産省は、前記のとおり、事業完了後の精算等の際の確認に使用する目的で委託事業検査マニュアル等を作成していたものの、事業の開始前に、支出先に対して業務日誌等を整備することを周知することとはしていなかった。
 そして、今回検査した11公益法人に係る委託事業329件及び補助事業59件、計388件すべてにおいて、農林水産省は、契約書、仕様書、補助金交付要綱等に業務日誌等を証拠書類等として整備することを明記していなかった。
 このため、2公益法人(注3) が実施した委託事業22件(支払額計8億3899万余円、うち人件費計3億4826万余円)及び補助事業2件(補助金交付額計3509万余円、うち人件費計2061万余円)、計24件(人件費合計3億6888万余円(国費相当額同額))においては、当該支出対象事業の従事者が、事業期間中に他の業務にも従事していたが、業務日誌等が作成されていないため、当該支出対象事業に係る従事実績と他の業務の従事実績との区分が明確にされないまま、実績報告書等に記載された従事実績に基づいて人件費の精算等が行われていた。
 上記(1)及び(2)のとおり、人件費の算定において従事者に対する給与支給等の実態を反映するなどしていない人件費単価を適用して精算等が行われたり、業務日誌等の証拠書類等による従事実績の確認ができないまま精算等が行われたりしている事態は適切でなく、改善を図る必要があると認められた。

 (発生原因)

 このような事態が生じていたのは、農林水産省において、支出対象事業の従事者が出向者、管理職等である場合の人件費の算定方法を具体的に定めていなかったこと、人件費の算定の根拠となる従事実績に係る証拠書類等の整備の必要性について支出先に対してあらかじめ周知していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、22年9月に通知を発して、従事者が出向者、管理職等である場合の人件費単価の算出方法を定めるとともに、この算出方法及び人件費の算定の根拠となる従事実績に係る証拠書類等の整備方法を支出対象事業の実施要領等に明記することにより支出先に周知徹底を図ることとするなどの処置を講じた。

(注2)
 4公益法人  財団法人日本水土総合研究所、社団法人水産土木建設技術センター、社団法人マリノフォーラム21、財団法人林業科学技術振興所
(注3)
 2公益法人  財団法人畜産生物科学安全研究所、財団法人残留農薬研究所