部局等 | 経済産業本省 | |
検査の対象 | 経済産業本省 | |
独立行政法人中小企業基盤整備機構 | ||
設置根拠法 | 独立行政法人中小企業基盤整備機構法(平成14年法律第147号) | |
中小企業基盤整備機構の第2種信用基金に対する政府出資金額 | 470億1206万余円 | (平成21年度末現在) |
上記のうち事業再構築円滑化等債務保証に係る政府出資金額 | 461億4975万円 |
(平成22年10月28日付け 経済産業大臣あて)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「機構」という。)は、平成16年7月に設立された際に、産業基盤整備基金(以下「整備基金」という。)の解散に伴って債務保証業務等を承継している。
承継した業務のうち債務保証業務は、経済産業大臣等から事業計画の認定を受けた事業者又は法律に基づく事業に対して、民間金融機関からの借入等による事業資金を円滑に調達するために行われるもので、その業務の内容により、第1種信用基金又は第2種信用基金(以下「第2種基金」という。)により実施されることとなっている。
そして、機構は、第2種基金により実施する債務保証業務のための原資として、政府出資金及び民間出えん金等を受けるなどしており、16年7月の機構設立時から21年度末までの推移は、表1のとおりとなっていて、第2種基金の残高は、機構設立時は250億5886万余円(うち政府出資金額243億4933万余円)であったが、21年度の補正予算により政府から250億円の追加出資を受けたことなどにより、21年度末現在では498億5953万余円(うち政府出資金額470億1206万余円)となっている。
\ | 平成16年7月 | 16年度末 | 17年度末 | 18年度末 | 19年度末 | 20年度末 | 21年度末 |
政府出資金 | 24,349 | 24,349 | 24,349 | 24,349 | 24,080 | 22,800 | 47,012 |
民間出えん金等 | 709 | 1,068 | 1,329 | 1,950 | 2,367 | 2,588 | 2,847 |
基金残高 | 25,058 | 25,417 | 25,679 | 26,299 | 26,448 | 25,388 | 49,859 |
第2種基金により実施してきた主な債務保証業務は、表2のとおり、産業活力再生特別措置法(平成11年法律第131号。以下「産業再生法」という。)の15年の改正に伴う事業革新設備導入円滑化債務保証業務や、19年の改正に伴う技術活用事業革新円滑化債務保証業務及び事業再生円滑化債務保証業務となっており、また、21年からは産業再生法が改正されて施行された産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(平成11年法律第131号。以下「産活法」という。)に基づき、事業再構築円滑化等債務保証業務を実施している。
そして、事業再構築円滑化等債務保証業務に係る政府出資金額(21年度末現在)は、461億4975万円となっており、前記政府出資金470億1206万余円の大部分を占めている。
業務の名称(根拠法の名称) | 保証割合 | 業務開始年月 | 業務開始後の状況 |
事業革新設備導入円滑化債務保証業務 (15年改正産業再生法)
|
90% | 平成15年4月 | 平成19年8月 新規受付停止 |
技術活用事業革新円滑化債務保証業務 (19年改正産業再生法)
|
70% | 平成19年8月 | 平成21年6月 新規受付停止 |
事業再生円滑化債務保証業務 (19年改正産業再生法)
|
50% | 平成19年8月 | 業務継続中 |
事業再構築円滑化等債務保証業務 (産活法)
|
原則50% (上限70%) |
平成21年6月 | 業務継続中 |
事業革新設備導入円滑化債務保証業務及び技術活用事業革新円滑化債務保証業務は、それぞれ15年4月及び19年8月に開始された業務であり、革新的な設備の取得又は製作をしようとする事業者に対し必要な資金の調達に際し債務保証を行ったり、企業連携により獲得した技術や知的財産を活用して研究開発や革新的な事業を行おうとする事業者に対し特定信用状発行契約に基づく債務に債務保証を行ったりするもので、経済産業大臣等から事業計画の認定を受けることが債務保証を受けるための前提となっていたが、それぞれ19年8月及び21年6月に新規受付を停止している。
また、事業再生円滑化債務保証業務は、19年8月に開始された業務であり、公正な第三者の関与の下で事業再生を図ろうとする事業者に対し、事業継続に必要な資金の調達に際し債務保証を行うもので、経済産業大臣等から事業計画の認定を受けることは必要とされていない。
そして、事業再構築円滑化等債務保証業務は、21年6月に開始された業務で、昨今の経済情勢の悪化により一時的に資金調達に支障を来しているものの将来的には収益性の向上が見込まれる中堅事業者を主な対象として、事業の再構築、経営資源の再活用等を図る際に必要な資金の調達に対し債務保証を行うもので、産活法で定められた要件に従って事業再構築計画等を策定し、経済産業大臣等の認定を受けることが債務保証を受けるための前提となっている。
なお、事業再構築円滑化等債務保証に係る保証条件のうち保証割合については、債務保証に係るリスクを合理的に分散し責任を共有する目的から金融機関に一定の負担を求める部分保証を基本として設定することとされたため、原則50%(上限70%)となっている。
近年の我が国の厳しい財政状況下において、独立行政法人に対しては、経営資源のスリム化の一環として、事業の見直しや効率化とともに、保有資産の規模の見直しや不要な資産の国庫返納等の検討が求められている。
また、本院が、整備基金の債務保証業務の実施状況等について検査を行ったところ、その実績が皆無となっていたり、著しく低調となっていたりしている状況が見受けられたことから、機構が債務保証業務を承継して実施する場合、その業務に必要な資金の額については、政策目的のみならず対象となる事業者の意向や経済情勢等も踏まえ的確な額を把握することが望まれるとして、その旨を平成13年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況として掲記しているところである。
このような状況を踏まえ、本院は、有効性等の観点から、機構設立の16年7月から22年7月までの間における第2種基金により実施している債務保証業務の実施状況や基金の規模の適否等に着眼して、貴省及び機構本部において、債務保証関係の書類等により会計実地検査を行った。
検査したところ、機構が第2種基金により実施している債務保証業務について、次のような事態が見受けられた。
機構が債務保証業務を承継した16年7月から19年8月まで実施していた事業革新設備導入円滑化債務保証業務は、表3のとおり、債務保証の実績が全くなく、この債務保証の新規受付を停止した後に開始した技術活用事業革新円滑化債務保証業務でも、表4のとおり、実績が全くなく21年6月に新規受付を停止していた。
そして、19年8月から開始した事業再生円滑化債務保証についても、表5のとおり、22年3月までに行った債務保証件数は3件(2社)、債務保証実行額は5億3500万円にとどまっていて、約6年にわたって第2種基金により実施している債務保証業務の実績は、極めて低調なものとなっていた。
項目 | 平成16年度 (7月から) |
17年度 | 18年度 | 19年度 (8月まで) |
債務保証件数 | — | — | — | — |
債務保証計画額 (A) | 72,000 | 72,000 | 72,000 | 72,000 |
債務保証実行額 (B) | — | — | — | — |
債務保証の実績率(B)/(A) | — | — | — | — |
表4 技術活用事業革新円滑化債務保証の実績 | (単位:件、百万円、%) | |||
項目 | 平成19年度 (8月から) |
20年度 | 21年度 (6月まで) |
|
債務保証件数 | — | — | — | |
債務保証計画額 (A) | — | 4,851 | — | |
債務保証実行額 (B) | — | — | — | |
債務保証の実績率(B)/(A) | — | — | — |
表5 事業再生円滑化債務保証の実績 | (単位:件、百万円、%) | |||
項目 | 平成19年度 (8月から) |
20年度 | 21年度 (6月まで) |
|
債務保証件数 | 1 | 1 | 1 | |
債務保証計画額 (A) | — | 34,920 | 4,340 | |
債務保証実行額 (B) | 17 | 17 | 500 | |
債務保証の実績率(B)/(A) | — | 0.05 | 11.5 |
貴省は、事業再構築円滑化等債務保証業務について、債務保証計画額を1兆3674億円、これに必要な政府出資金額を461億4975万円と想定し、前記のとおり、機構に対し政府出資金250億円を追加出資して、21年6月から当該業務を実施させている。
しかし、表6のとおり、機構が上記業務を開始した21年6月から22年3月までの10か月間に行った債務保証件数は12件(2社)、債務保証実行額は13億2000万円で、上記の計画額に対する債務保証の実績率(債務保証実行額/債務保証計画額)は0.09%にとどまっており、22年度においても7月までの4か月間の債務保証件数は12件(4社)、債務保証実行額は29億8200万円にとどまっていた。
年度 | 事業者 | 件数 | 債務保証実行額 |
平成21年度 (6月から) |
A | 2 | 1,000 |
B | 10 | 320 | |
小計 | 12 | 1,320 | |
22年度(7月まで) | C | 4 | 220 |
D | 3 | 750 | |
E | 4 | 1,500 | |
F | 1 | 512 | |
小計 | 12 | 2,982 | |
合計 | 24 | 4,302 |
貴省は、事業革新設備導入円滑化債務保証業務、技術活用事業革新円滑化債務保証業務及び事業再生円滑化債務保証業務の実績が前記のように極めて低調であった理由について、〔1〕 債務保証制度の利用の前提である経済産業大臣等の事業計画に対する認定要件が、研究開発段階から実証段階へ移行するための設備導入となっていること、〔2〕 生産性向上等の数値基準が高く設定されており、かつ、申請した事業者の外国子会社が他の国の企業と合弁し、技術、知的財産等を獲得し、研究開発等を行うことなど、限定された範囲の企業活動を対象としていたことなどにあるとしている。
そして、21年6月に事業再構築円滑化等債務保証業務を開始するに当たっては、上記の課題を踏まえ、より多くの事業者が利用可能となるよう見直しを行い、その結果を当該債務保証業務に反映したとしている。
しかし、事業再構築円滑化等債務保証を利用するためには、従前から実施していた債務保証と同様、事業計画について経済産業大臣等の認定を受ける必要があるが、認定を受けるための手続に相当の期間を要することとなり、同債務保証の業務開始後の実績でみても、債務保証を受けるための機構での事前相談から実際の債務保証の実行までの期間を合わせ、約3か月を要している。
さらに、保証割合は、前記のとおり原則50%(上限70%)となっていて、従前の債務保証に比べて保証割合が低いことなどから、金融機関は、リスクのある事業者に対する自らの融資に慎重になっている面があると思料される。
機構が実施している第2種基金による債務保証の利用が極めて低調となっていて、政府出資金等を財源としている第2種基金が有効に活用されていない事態は適切でなく、改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、貴省及び機構において、第2種基金による債務保証が事業者にとって利用しやすいものとなっておらず、債務保証の実績が極めて低調になっているのに、その原因を分析し事業の見直しを行うなどの検討が必ずしも十分でなかったことなどによるものと認められる。
貴省は、機構に係る第2期中期目標(計画期間は21年4月から26年3月まで)において、保有資産の見直し等を行うこととしており、また、機構が作成した第2期中期計画においては、事業評価が継続的に低い事業は原則廃止、効率化のための改善努力が見られない事業については原則縮小することとしている。
ついては、貴省及び機構において、事業再構築円滑化等債務保証等の利用実態を分析するなどした上で、債務保証制度の所期の目的が達成されるための方策を検討し、その結果、今後も債務保証の利用の増大が見込めない場合は、その利用実態に応じた事業規模となるように、基金の額を適切に見直すよう意見を表示する。