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  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第13 国土交通省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置を適切に実施し、公営住宅を真に住宅に困窮する低額所得者の居住の安定を確保するために有効に活用するよう意見を表示したもの


(10) 高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置を適切に実施し、公営住宅を真に住宅に困窮する低額所得者の居住の安定を確保するために有効に活用するよう意見を表示したもの

所管、会計名及び科目 内閣府所管 一般会計 (組織)内閣本府
    (項)沖縄開発事業費
  平成13年1月5日以前は、
  総理府所管 一般会計 (組織)沖縄開発庁
    (項)沖縄開発事業費
  国土交通省所管 一般会計 (組織)国土交通本省
    (項)住宅対策事業費(平成19年度以前は、住宅建設等事業費)
    (項)都市再生・地域再生整備事業費(平成19年度以前は、揮発油税等財源都市環境整備事業費、都市環境整備事業費)
    (項)北海道開発事業費(平成19年度以前は、北海道住宅建設等事業費)
  平成13年1月5日以前は、
  総理府所管 一般会計 (組織)北海道開発庁
    (項)北海道住宅建設等事業費
建設省所管 一般会計 (組織)建設本省
    (項)住宅建設等事業費
部局等 国土交通本省(平成13年1月5日以前は、建設本省及び総理府北海道開発庁)
沖縄総合事務局(平成13年1月5日以前は、総理府沖縄開発庁沖縄総合事務局)
補助の根拠 公営住宅法(昭和26年法律第193号)、都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)、地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法(平成17年法律第79号)
補助事業者
(事業主体)
都、道、府1 、県21、市352、特別区21、町248、村32、計677事業主体
補助事業 公営住宅整備
補助事業の概要 住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸等することを目的として公営住宅を整備するもの
検査の対象とした高額所得者等が入居している住戸 高額所得者 3,042戸 (平成20年度末)
連続収入超過者 35,421戸 (平成20年度末)
収入未申告者 8,173 戸 (平成20年度末)
上記に係る事業費相当額 3900億1234万余円 (整備年度:昭和45年度〜平成20年度)
上記に対する国庫補助金相当額 2042億3304万円 (背景金額)
特別の事情がないのに明渡請求が行われていない高額所得者が入居している住戸 318戸平成(21年度末)
上記に係る事業費相当額 26億3175万余円 (整備年度:昭和48年度〜平成19年度)
上記に対する国庫補助金相当額 13億8516万円  

【意見を表示したものの全文】

 公営住宅における高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置の実施について

(平成22年10月28日付け 国土交通大臣あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 公営住宅の概要

 貴省は、住宅施策の一環として、公営住宅法(昭和26年法律第193号)等に基づき、公営住宅の整備を行う地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して、毎年度多額の国庫補助金(交付金を含む。以下同じ。)を交付している。これら公営住宅は、国及び地方公共団体が協力して、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸等することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として整備するものであり、事業主体が平成20年度末において管理している公営住宅は約218万戸と多数に上っている。

(2) 公営住宅の入居者資格及び家賃

 公営住宅の入居者は、公営住宅法及び同法施行令(昭和26年政令第240号。以下「政令」という。)において、1か月当たりの収入(注1) が政令等で定める基準(以下「入居収入基準」という。)を超えないことなどの条件を具備する者でなければならないとされている。
 入居収入基準は、一般の者については15万8千円、高齢者、障害者等の特に居住の安定を図る必要がある者については21万4千円以下で事業主体が定める金額とされている(21年3月31日以前はそれぞれ20万円、26万8千円以下で事業主体が定める金額)。
 また、公営住宅の毎月の家賃は、毎年度、入居者からの収入の申告に基づき、当該入居者の収入及び当該公営住宅の立地条件、規模、建設時からの経過年数等に応じ、かつ、近傍同種の住宅の家賃以下で、事業主体が政令で定めるところにより算定することとされている。

(3) 収入超過者及び高額所得者

 入居後に収入が増加して入居収入基準を超える収入がある者については、法令において、本来の施策の対象としている、入居収入基準以下の入居者とは異なる取扱いをすることとされている。このうち、入居者が、公営住宅に引き続き3年以上入居していて、入居収入基準を超える収入がある者(以下「収入超過者」といい、後述する「高額所得者」を除く。以下同じ。)である場合、当該収入超過者は公営住宅を明け渡すように努めなければならないこととされている。また、入居者が、公営住宅に引き続き5年以上入居していて、最近2年間連続して政令で定める基準(以下「高額収入基準」という。31万3千円。21年3月31日以前は39万7千円)を超える高額の収入のある者(以下「高額所得者」という。)である場合は、事業主体は、当該高額所得者に対し、期限を定めて、当該公営住宅の明渡しを請求することができることとされている。
 そして、事業主体は、必要があると認めるときは、収入超過者及び高額所得者が他の適当な住宅に入居することができるようにあっせんするなど、その者の入居している公営住宅の明渡しを容易にするように努めなければならないこととされている。

(4) 収入未申告者

 事業主体は、入居者から収入の申告がない場合には、当該入居者に対して収入の申告を請求することができることとされている。そして、この請求を行ったにもかかわらず、応じなかった者(以下、この者を「収入未申告者」という。)について、必要があると認めるときは、課税台帳の閲覧等により当該収入未申告者の収入状況を調査することができることとされている(以下、この調査を「収入調査」という。)。

(5) 事業主体に対する周知

 貴省は、本院が平成14年度決算検査報告において特に掲記を要すると認めた事項として「公営住宅における収入超過者、高額所得者等に対する措置の実施について」を掲記したことを踏まえて、16年6月に、事業主体に対して通知を発した。これにより、収入超過者、高額所得者及び収入未申告者(以下「高額所得者等」という。)への対策として、〔1〕 収入超過者及び高額所得者としての認定及びその旨の文書による通知、〔2〕 収入超過者及び高額所得者に対する面談、他の公的資金による住宅等のあっせん、〔3〕 高額所得者に対する明渡請求、〔4〕 収入未申告者に対する収入調査、〔5〕 当該収入調査実施後の収入超過者、高額所得者としての認定等それぞれの措置を適切に実施するよう周知している。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 近年、世帯収入の減少等に伴い、公営住宅の応募倍率が上昇し、住宅に困窮する多数の入居希望者が入居できない状況となってきている。このため、貴省は、19年に政令を改正し、入居収入基準及び高額収入基準の引下げ等を行った。そして、この効果として、住宅の困窮度合いの高い者に対してより的確に公営住宅の供給が可能となるとしている。なお、入居収入基準及び高額収入基準は、21年4月1日において現に公営住宅に入居している者(以下「既入居者」という。)等については、その居住の安定を図るため、経過措置として26年3月31日までの5年間は、それぞれ改正前の基準(以下、これを「旧基準」といい、改正後の基準を「新基準」という。)が適用されることとされている。
 既入居者の収入が旧基準以下で新基準を超えるものである場合は、当該既入居者は、26年4月から、新たに高額所得者又は収入超過者となることとなる。このため、既に高額所得者及び収入超過者となっている既入居者について公営住宅の円滑な明渡しが行われない限り、26年4月以降、高額所得者及び収入超過者の入居割合は一層高いものとなる。
 そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、公営住宅の需要や入居者の事情等を踏まえた上で、高額所得者等に該当する既入居者に対して、明渡しの促進等の措置が適切に実施されているか、そして、これまでに整備された公営住宅が真に住宅に困窮している低額所得者のために有効に活用されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 24都道府県(注2) 及び管内の653市区町村の計677事業主体が管理している公営住宅のうち、昭和45年度から平成20年度までの間に整備された公営住宅に20年度末現在において入居している、〔1〕 高額所得者3,042戸(事業費相当額(その住戸の現在価格に相当する金額をいう。以下同じ。)253億5757万余円、国庫補助金相当額131億5628万余円)、〔2〕 3年以上連続して収入超過者としての認定を受けている者(以下「連続収入超過者」という。)35,421戸(事業費相当額2963億4331万余円、国庫補助金相当額1546億7846万余円)及び〔3〕 収入未申告者8,173戸(事業費相当額683億1145万余円、国庫補助金相当額363億9829万余円)、計46,636戸に係る事業費相当額計3900億1234万余円、国庫補助金相当額計2042億3304万余円を対象として検査した。
 検査に当たっては、24都道府県及び管内の281市区町村において会計実地検査を行うとともに、高額所得者等が入居している公営住宅を管理している事業主体から、明渡しの促進等の措置の実施状況等に係る調書を徴するなどして検査を行った。

(検査の結果)

 検査したところ、11都道府県(注3) 及び24都道府県管内の206市区町村の計217事業主体が管理している公営住宅(整備年度:昭和47年度から平成20年度)に21年度末において入居している、高額所得者1,123戸、連続収入超過者1,472戸及び収入未申告者799戸について、次のような事態が見受けられた((1)から(3)の各事態には、事業主体が重複しているものがある。)。

(1) 高額所得者に対する明渡請求の状況

 事業主体は、高額所得者に対して明渡請求を行う権限が与えられているが、明渡請求を行うかどうかの判断については、当該高額所得者の健康状態の悪化等の明渡請求を猶予すべき特別の事情がない限り、原則として明渡請求を行うことが必要である。
 しかし、面談等により明渡請求を猶予すべき特別の事情がないことを把握しているのに明渡請求を行っていないものが、65事業主体で318戸(検査対象の高額所得者3,042戸に対する割合10.5%、事業費相当額26億3175万余円、国庫補助金相当額13億8516万余円)見受けられた。また、そもそも明渡請求を猶予すべき特別の事情の有無を把握すらしていないものも、102事業主体で805戸(同26.5%)見受けられた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

 徳島県板野郡板野町は、平成20年度末において町営住宅に入居している高額所得者11戸に対して、明渡請求を行う旨を文書で通知しているものの、町内に転居先となる適当な住宅がないことを理由として明渡請求を行っていなかった。そして、明渡請求を猶予すべき特別の事情の有無について把握すらしていなかった。同町が把握している11年度以降の認定状況をみると、この11戸のうち5戸は、20年度まで10年連続して高額所得者又は収入超過者として認定されていた。

 一方、明渡請求を猶予すべき特別の事情が認められない高額所得者に対して適切に明渡請求を行っているものが72事業主体で787戸あった。その明渡実績をみると、22年3月末までに退去しているものが314戸で、退去していない473戸のうち、明渡期限が到来していないものが118戸、明渡期限を経過しているものが355戸となっていた。
 上記について事例を示すと次のとおりである。

<参考事例>

 山口県は、毎年度、新たに認定した高額所得者と面談を行い、県営住宅の明渡計画や明渡請求を猶予すべき特別の事情の有無等を聴取し、特に明渡請求を猶予すべき特別の事情がないと認められる者に対しては、速やかに明渡請求を行うこととしている。そして、平成20年度末の高額所得者17戸のうち退去予定の1戸を除く16戸に対して21年3月に明渡請求を行い、21年度末までにすべての者が退去していた。

(2) 収入超過者に対する面談、あっせん等の状況

 収入超過者は、高額所得者と異なり、本人に対して明渡努力義務が課されているにすぎないが、公営住宅に対する需要が高い地域に所在する公営住宅に収入超過者が引き続き入居している場合には、住宅に困窮する多数の低額所得者の入居機会が阻害されることとなる。
 そして、検査の対象とした677事業主体が管理している公営住宅のうち17年度から21年度までの間に入居者の募集が行われた公営住宅について、その所在する市区町村ごとに平均の応募倍率を調査したところ、0.1倍から162.1倍となっていた。
 そこで、応募倍率が30.0倍以上となっており、公営住宅に対する需要がより高いと考えられる32市区のうち、連続収入超過者が入居している29市区の2,600戸について、17年度から21年度までの間における措置の実施状況を検査した。その結果、5年以上連続して認定されている収入超過者に対して、公営住宅の明渡しを促進するための面談や公的資金により整備された住宅等のあっせんなどを行っていないものが、9事業主体で1,472戸(29市区の連続収入超過者2,600戸に対する割合56.6%)見受けられた。
 上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

 東京都江東区は、平成17年度から21年度までの間に、空家となった37戸の区営住宅について入居者を募集しており、その募集戸数に対する応募倍率は96.0倍となっていた。しかし、同区は、20年度末現在で5年以上連続して認定されている収入超過者23戸に対して、明渡努力義務がある旨の文書による通知や、明渡しのための面談、区内に整備されている他の公的資金により整備された住宅のあっせんなどの措置をいずれも行っておらず、これらの収入超過者は、引き続き21年度末においても入居していた。また、この23戸のうち12戸は、20年度まで10年以上連続して収入超過者として認定されていた。

(3) 収入未申告者に対する収入超過者又は高額所得者の認定の状況

 事業主体は、収入を適切に申告して収入超過者又は高額所得者として認定された者との公平を欠くことのないよう、収入未申告者に対して確実に収入調査を行うとともに、その結果、これらの者の要件を満たす収入があることを把握した場合にはその認定を適切に行う必要がある。
 しかし、収入調査により収入超過者又は高額所得者の要件を満たす収入があることを把握していながらその認定を行っていないものが、37事業主体で645戸(検査対象の収入未申告者8,173戸に対する割合7.9%)見受けられた。また、103事業主体の990戸(同12.1%)については、収入調査自体を行っていなかった。そこで、本院が改めて調査を求めたところ、収入超過者又は高額所得者の要件を満たす収入があるものが、40事業主体で154戸(収入調査が行われていなかった収入未申告者990戸に対する割合15.6%)見受けられた。

(改善を必要とする事態)

 上記のとおり、高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置が適切に実施されておらず、本来の施策対象者ではない入居収入基準を超える者が入居し続けていて、整備された公営住宅が住宅に困窮する低額所得者のために有効に活用されていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業主体において、公営住宅法の趣旨を踏まえて高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置を適切に実施し、整備した公営住宅を住宅に困窮する低額所得者のために有効に活用することについての認識が十分でないこと
イ 貴省において、公営住宅に対する高い需要や高額所得者等の特別の事情の有無等を踏まえて高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置を適切に実施することについての事業主体に対する周知徹底が十分でないこと、また、その措置の確実な実施を確保するための方策を講じていないこと

3 本院が表示する意見

 国及び地方公共団体の協力の下に整備されている公営住宅は、これまで住宅に困窮する低額所得者等の居住の安定を確保する住宅セーフティネットとして中心的な役割を果たしてきており、長期にわたる景気の低迷や高齢者世帯の増加等を背景として、今後ともその重要性は増していくものと思料される。
 ついては、貴省において、次のような処置を講ずることにより、公営住宅を真に住宅に困窮する低額所得者の居住の安定を確保するために有効に活用するよう意見を表示する。
ア 事業主体に対して、地域における公営住宅の需要や入居者の特別の事情の有無等を踏まえて、高額所得者等に対する明渡しの促進等の措置を適切に実施し、公営住宅の管理を適正に行うようより一層の周知徹底を図ること
イ 事業主体に対して、高額所得者等に対する明渡請求等の措置の実施状況やこれらの明渡しの促進等の措置を講じたことによる明渡実績等を定期的に報告させること
ウ イの報告内容や措置が十分に実施されていないと認められる事業主体を公表したり、当該事業主体に対して適切に措置を実施するよう技術的な助言を行ったりするなどして、法令等に定める措置の確実な実施を促すこと

 1か月当たりの収入  入居者及び同居者の過去1年間における所得税法(昭和40年法律第33号)の例に準じて算出した所得金額の合計から一定の控除をした額を12で除した額
 24都道府県  東京都、北海道、大阪府、秋田、栃木、千葉、神奈川、新潟、山梨、静岡、愛知、三重、滋賀、奈良、和歌山、岡山、山口、徳島、高知、福岡、佐賀、熊本、大分、沖縄各県
 11都道府県  東京都、北海道、大阪府、栃木、神奈川、愛知、滋賀、和歌山、岡山、 山口、大分各県