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  • 平成21年度|
  • 第5章 会計事務職員に対する懲戒処分の要求及び検定

会計事務職員に対する懲戒処分の要求


第1節 会計事務職員に対する懲戒処分の要求

 本院は、平成19年度決算検査報告に掲記した「米軍普天間飛行場の代替施設の建設に伴う地質調査及び海象調査の技術業務委託契約において、支出負担行為をすることなく追加で業務を実施させるなどしていて、会計法令等に違背しているもの(同決算検査報告参照 )」に関し、予算執行職員等の責任に関する法律(昭和25年法律第172号)第6条第1項の規定により、予算執行職員の任命権者である防衛大臣に対して、懲戒処分を要求した。これに対して、防衛大臣から、22年6月3日、検討した結果、懲戒処分を行わないこととした旨通知があった。
 上記の懲戒処分の要求の内容は以下のとおりである。
 なお、以下の懲戒処分を要求したものの全文において、個人の官職名及び氏名は表記していない。

【懲戒処分を要求したものの全文】

懲戒処分要求書

(平成21年12月24日付け 防衛大臣あて)

 会計検査院は、次の理由により、那覇防衛施設局支出負担行為担当官A及び同Bに対し懲戒処分を行うべきものと認めるので、予算執行職員等の責任に関する法律(昭和25年法律第172号)第6条第1項の規定によりその処分を要求する。
 なお、上記の懲戒処分は、いずれも戒告を適当と認める。

理由

1 事態の概要

 那覇防衛施設局(平成19年9月1日以降は沖縄防衛局。以下「那覇施設局」という。)は、米軍普天間飛行場の代替施設の建設予定地を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」とするなどの「普天間飛行場の移設に係る政府方針」(平成11年12月28日閣議決定。18年5月30日廃止)等に基づき、基本設計に先立ち海底の地質調査及び海象調査を行うために15年3月に、シュワブ(H14)地質調査(その1)等の5件の技術業務委託契約(以下「地質調査等5契約」という。)をサンコーコンサルタント株式会社、パシフィックコンサルタンツ株式会社、応用地質株式会社及び株式会社東京久栄(以下「受託会社4社」という。)と契約金額計841,785,000円で締結していた。そして、那覇施設局は、地質調査等5契約に基づく調査業務の実施に当たり、調査予定地点周辺の海底の状況を把握するための潜水調査、代替施設建設に反対する地元住民等の阻止行動に対応するための警戒船を大量に導入する業務など仕様書で定めていない業務(以下「追加業務」という。)を受託会社4社に実施させていた。
 しかし、那覇施設局は、追加業務を受託会社4社に実施させるに当たり、追加業務の経費に係る支出負担行為、すなわち、追加業務に係る契約変更を行うべきであったのにこれを怠っていた。また、16年度及び17年度に予算の繰越しを行った際にも、受託会社4社と履行期限の延長を内容とする契約変更を行ったのみで、追加業務に係る契約変更は行っていなかった。
 そして、17年11月に、代替施設の建設予定地が変更されたことから、那覇施設局は、前記調査業務を一時中止して、その後地質調査等5契約を解除し、契約金額計841,785,000円を上限として支払うこととした。しかし、受託会社4社と支払額及び仕様書の変更に伴う契約変更の合意に至らず受領を拒否されたため、17年度に繰り越していた計589,630,000円を、18年4月に那覇地方法務局に供託していた。
 その後、受託会社4社は、同年8月までに国を相手取り、損害賠償請求事件等を提訴したが、20年3月に、和解が成立して、那覇施設局は、和解金計2,180,000,000円を受託会社4社に支払った。
 なお、本件で受託会社4社が実施した追加業務は業務遂行上必要なものと認められ、和解により支払われた金額は当該業務に対応するものであることなどを考慮すると、当該金額を支払ったことにより国に損害を与えたとは認められない。

2 懲戒処分を要求する理由

ア A支出負担行為担当官について

 Aは、14年8月から16年7月までの間、那覇施設局において支出負担行為担当官を命ぜられていた。
 そして、A支出負担行為担当官は、15年3月に地質調査等5契約について当初契約を締結し、16年3月に契約期間の延長を内容とする契約変更を行った。しかし、この間に契約の主目的である地質調査及び海象調査を実施するに当たり、沖縄県との公共用財産使用についての協議の中で、同県から環境に影響のないことを明らかにするための調査を求められたことから、追加業務として潜水調査が必要となった。そして、これに伴い、A支出負担行為担当官の補助者は沖縄県との連絡調整等といった想定外の業務に追われることとなった。
 このような状況の下、上記補助者は、当初契約に含まれていない潜水調査を追加業務として受託会社4社に口頭で依頼するなどして行わせていた。そして、追加業務を受託会社4社に行わせていたことについて、A支出負担行為担当官は上記補助者から報告を受け十分承知していた。
 したがって、A支出負担行為担当官は、自ら又は必要に応じて他の職員を新たに補助者に命じるなどして、追加業務を仕様書に追加して変更契約を締結すべきであったにもかかわらず、これを怠ったまま追加業務を受託会社4社に行わせることを容認していた。
 この追加業務を受託会社4社に行わせることを容認した行為は、予算執行職員等の責任に関する法律(以下「予責法」という。)第2条第3項の「国の債務負担の原因となる行為」であり、同項に規定する「支出等の行為」に該当すると認められる。そして、予責法第3条第1項では「予算執行職員は、法令に準拠し、…支出等の行為をしなければならない。」と定められ、会計法(昭和22年法律第35号)第11条では「支出負担行為は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」と定められている。
 したがって、A支出負担行為担当官は、追加業務を受託会社4社に実施させるに当たって、会計法第13条の2等の規定に従った支出負担行為を行う必要があり、また、その過程において支出負担行為等取扱規則(昭和27年大蔵省令第18号)第19条に規定する官署支出官への通知等を行う必要があったと認められる。
 しかし、A支出負担行為担当官は、追加業務を受託会社4社に行わせるに当たり、前記補助者が行った依頼を容認するにとどまり、これらの法令に準拠した手続を行っていないことから、ひいては会計法第11条の規定に違反して支出等の行為を行ったと認められる。そして、A支出負担行為担当官は、支出負担行為担当官の職にある者として、上記の行為が予責法第3条第1項の規定に違反していることを当然認識すべきであったのに、その認識を欠いた点について重大な過失があったと認められる。
 以上のように、A支出負担行為担当官は、重大な過失により予責法第3条第1項の規定に違反して支出等の行為をしたと認められることから、同支出負担行為担当官に対して懲戒処分を行うべきと認められる。

イ B支出負担行為担当官について

 Bは、16年7月から18年1月までの間、那覇施設局において支出負担行為担当官を命ぜられていた。
 そして、B支出負担行為担当官は、17年3月に地質調査等5契約について契約期間の延長を内容とする契約変更を行った。しかし、基地移転反対派の抗議行動が活発化したことから、追加業務として警戒船を大量に導入することなどが必要な状況になった。そして、これに伴い、B支出負担行為担当官の補助者は、反対派への対応等といった想定外の業務への対応に追われることとなった。
 このような状況の下、上記補助者は、当初契約に含まれていない警戒船を大量に導入することなどを追加業務として受託会社4社に口頭で依頼するなどして行わせていた。そして、追加業務を受託会社4社に行わせていたことについて、B支出負担行為担当官は上記補助者から報告を受け十分承知していた。
 したがって、B支出負担行為担当官は、自ら又は必要に応じて他の職員を新たに補助者に命じるなどして、追加業務を仕様書に追加して変更契約を締結すべきであったにもかかわらず、これを怠ったまま追加業務を受託会社4社に行わせることを容認していた。
 この追加業務を受託会社4社に行わせることを容認した行為は、予責法第2条第3項の「国の債務負担の原因となる行為」であり、同項に規定する「支出等の行為」に該当すると認められる。そして、予責法第3条第1項では「予算執行職員は、法令に準拠し、…支出等の行為をしなければならない。」と定められ、会計法第11条では、「支出負担行為は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」と定められている。
 したがって、B支出負担行為担当官は、追加業務を受託会社4社に実施させるに当たって、会計法第13条の2等の規定に従った支出負担行為を行う必要があり、また、その過程において支出負担行為等取扱規則第19条に規定する官署支出官への通知等を行う必要があったと認められる。
 しかし、B支出負担行為担当官は、追加業務を受託会社4社に行わせるに当たり、前記補助者が行った依頼を容認するにとどまり、これらの法令に準拠した手続を行っていないことから、ひいては会計法第11条の規定に違反して支出等の行為を行ったと認められる。そして、B支出負担行為担当官は、支出負担行為担当官の職にある者として、上記の行為が予責法第3条第1項の規定に違反していることを当然認識すべきであったのに、その認識を欠いた点について重大な過失があったと認められる。
 なお、会計法第12条では「支出負担行為をなすには、…支出負担行為の実施計画に定める金額を超えてはならない。」と定められている。しかし、B支出負担行為担当官は、前記のとおり、受託会社4社に追加業務を行わせることを容認し、その結果、地質調査等5契約に係る経費が予算額及び実施計画に定める金額を超える事態となっていたのにそれを見過ごしており、受託会社4社に対し当初契約額を大幅に超える金額を支払う結果となっていた。
 以上のように、B支出負担行為担当官は、重大な過失により予責法第3条第1項の規定に違反して支出等の行為をしたと認められることから、同支出負担行為担当官に対して懲戒処分を行うべきと認められる。