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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第3 総務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

地上デジタルテレビ放送送受信環境整備事業のうち辺地共聴施設整備事業の実施に当たり、施工業者との契約締結時には、国が定めた標準価格に基づく簡易積算書を使用して事業費を算定した場合であっても、業者見積書を徴するなどして事業費の算定が経済的に行われるよう改善させたもの


地上デジタルテレビ放送送受信環境整備事業のうち辺地共聴施設整備事業の実施に当たり、施工業者との契約締結時には、国が定めた標準価格に基づく簡易積算書を使用して事業費を算定した場合であっても、業者見積書を徴するなどして事業費の算定が経済的に行われるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織) 総務本省
      (項)電波利用料財源電波監視等実施費
部局等 総務本省、9総合通信局
補助の根拠 電波法(昭和25年法律第131号)
補助事業者 市84(うち事業主体3市)、町43、村3
間接補助事業者(事業主体) 534共聴組合
補助事業 辺地共聴施設整備
補助事業の概要 地上アナログテレビ放送の難視聴の解消を目的として設置した辺地共聴施設を地上デジタルテレビ放送対応に改修したり、新たな難視地区の難視聴の解消を目的として辺地共聴施設を新設したりなどするもの
簡易積算見積書のみを徴して契約を締結していた事業数及び事業費
537事業 23億6263万余円
(平成21年3月〜22年11月)

上記に対する国庫補助金交付額
11億5276万余円
 

低減できた事業費
2億5980万円
(平成21年3月〜22年11月)

上記に対する国庫補助金相当額
1億2679万円
 

1 事業の概要

(1) 辺地共聴施設整備事業の概要

 総務省は、電波法(昭和25年法律第131号)に基づき、地上デジタルテレビ放送への円滑かつ確実な移行に資することを目的に、平成20年度からデジタルテレビ中継局整備事業、辺地共聴施設整備事業等の地上デジタルテレビ放送送受信環境整備事業を行う一般放送事業者、市町村、共聴組合(注1) 等に対し、その事業に要する経費の一部として、電波遮へい対策事業費等補助金(22年度以降は無線システム普及支援事業費等補助金)を交付している。地上デジタルテレビ放送送受信環境整備事業のうち辺地共聴施設整備事業(以下「本件補助事業」という。)は、地理的条件による地上アナログテレビ放送の難視聴の解消を目的として設置した辺地共聴施設を地上デジタルテレビ放送対応に改修したり、地上アナログテレビ放送が受信できる地域において、地理的条件により地上デジタルテレビ放送が良好に受信できない新たな難視地区の難視聴の解消を目的として辺地共聴施設を新設したりなどするものである。
 そして、本件補助事業の補助事業者は市町村となっており、事業主体は市町村又は共聴組合となっている。
 総務省によると、本件補助事業は、地上アナログテレビ放送が終了した23年7月以降も、引き続き新たな難視地区の難視聴の解消等を目的に実施されることとなっていて、23年度の予算額は37億余円と多額になっている。

 共聴組合  地理的条件による地上テレビジョン放送の難視聴の解消を目的とした辺地 共聴施設を設置・運営する任意団体

(2) 事業費の算定

 本件補助事業の事業費の算定手続は、次のようになっている。
〔1〕  事業主体は、事業費の概算額を算定し交付申請書を作成して総務省へ交付申請を行い、総務省はそれを審査し交付決定を行う。
〔2〕  交付決定を受けた事業主体は、施工業者と契約を締結し補助事業を実施する。この契約額が本件補助事業の事業費となる。
 総務本省は、20年6月に、「電波遮へい対策事業費等補助金(共聴施設整備事業)実施マニュアル」(以下「実施マニュアル」という。)を作成し、各総合通信局等を通じて事業主体に配布している。実施マニュアルでは、事業主体は、事業費の内訳となる受信アンテナ、増幅器等の機器(以下「整備機器」という。)の個別単価が社会一般の物価等に対して著しくかい離しないよう、複数の業者から見積書を徴した上で、事業費の算定が適正か確認することとされている(以下、この業者自身が定める単価により作成された見積書を「業者見積 書」という。)。
 その後、総務本省は、21年3月に、事業の円滑な推進に資することを目的として、実施マニュアルの改訂を行い、全国一律に適用される整備機器の標準仕様とそれに基づく標準価格を新たに定めており、このうち、標準価格は、交付申請時において事業費の概算額を策定する際等の参考であるとされている。そして、交付申請に当たっては、上記と同様に、複数の業者から業者見積書を徴するとともに、標準価格と比較を行うなどして、事業費の算定が適正か確認することとされている。
 総務本省は、上記実施マニュアルの改訂に合わせて、一部の市町村の要望を受け、同月に、事業主体による事業費の確認等の事務の効率化等のため、整備機器等の数量を入力すると、標準価格による積算額が自動的に計算される電子ファイル(以下「簡易積算書」という。)を作成し、各総合通信局等を通じて事業主体に配布している。これにより、事業主体は、簡易積算書を用いるなどして、交付申請時における事業費の概算額の算定を行うことができるようになった。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、経済性等の観点から、本件補助事業における事業費の算定が経済的なものとなっているかなどに着眼して、実施マニュアルが改訂された21年3月から22年11月までの間に1,110事業主体が実施した1,141事業(事業費計51億8423万余円、国庫補助金計26億0647万余円)を対象に、6総合通信局(注2) 及び14市町(注3) において、交付申請書、実績報告書等の書類により会計実地検査を行うとともに、11総合通信局等(注4) に対し、事業費の算定方法に係る調書の作成を依頼し、提出を受けた調書の内容を確認するなどの方法により検査を実施した。
 そして、上記のうち、東日本大震災により甚大な被害を受けた3県(注5) における116事業主体が実施した118事業は除外し、994事業主体が実施した1,023事業(事業費計47億5229万余円、国庫補助金計24億0490万余円)を対象として分析を行った。

 6総合通信局  東北、関東、信越、近畿、四国、九州各総合通信局
 14市町  石巻、角田、岐阜、中津川、舞鶴、綾部、備前、広島、呉、庄原、大洲、天草各市、軽井沢、内子両町
 11総合通信局等  北海道、東北、関東、信越、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州各総合通信局、沖縄総合通信事務所
 3県  岩手、宮城、福島各県

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 事業費の算定状況

 事業主体が実施マニュアルに沿って事業費を適正に算定しているか検査したところ、表のとおり、前記1,023事業のうち52.5%を占める537事業については、事業主体は、業者に簡易積算書を提供するなどしており、業者見積書を徴することなく、施工業者から簡易積算書による積算額に基づく見積書(以下「簡易積算見積書」という。)のみを徴して、この見積額により当該施工業者と契約を締結し本件補助事業を実施して、国庫補助金の交付を受けていた(事業費計23億6263万余円、国庫補助金計11億5276万余円)。

表 簡易積算見積書のみを徴して契約を締結している事業の割合

辺地共聴施設整備事業
(A)
(A)のうち簡易積算見積書のみを徴して契約を締結している事業
(B)
割合
((B)/(A))
事業数
事業費
(国庫補助金)
事業数
事業費
(国庫補助金)
事業数
事業費
(国庫補助金)
事業
1,023
千円
4,752,298
(2,404,902)
事業
537
千円
2,362,630
(1,152,769)
52.5
49.7
(47.9)

 総務本省は、簡易積算書は交付申請時までの事業費の概算額の算定に使用することを想定していたとしているが、21年3月に簡易積算書を配布した際には、事業主体に対してこのことを明確に通知していなかった。そして、事業主体は、総務本省から各総合通信局等を通じて、簡易積算書により事業費を算定した場合には、複数の業者から業者見積書を徴する必要がない旨を周知されていたが、当該事業費が、交付申請時までの概算額を指すのか、施工業者との契約額を指すのかなどについては明確に示されていなかった。このため、事業主体は、国が定めた標準価格により積算される簡易積算書により事業費を算定しなければならないなどと認識して、施工業者との契約の締結時においても、簡易積算見積書の見積額により契約を締結し、契約額を事業費としていた。
 しかし、事業主体は、実際の工事内容、使用する整備機器等に基づく業者見積書を施工業者から徴することにより、より実態に即した契約額で施工業者と契約を締結することが可能であったと認められる。

(2) 簡易積算見積書と業者見積書の比較

 簡易積算見積書のみを徴して契約を締結している前記537事業の中には、簡易積算書による積算額から施工業者が値引きするなどした見積額により契約を締結しているものもあり、値引率は平均6.1%となっていたが、値引率1%未満の事業が287事業と全体の過半(構成比53.4%)を占めていた。
 これに対して、業者見積書を徴して算定された事業費と簡易積算書による積算額とが関係書類により比較可能な131事業についてみると、そのほとんどは、業者見積書を徴して算定された事業費が簡易積算書による積算額を下回っており、その低減額の簡易積算書による積算額に対する比率(以下「低減率」という。)は、平均16.4%となっていて、低減率10%以上の事業が75事業と全体の過半(構成比57.3%)を占めていた。
 このように、上記の低減率16.4%は、前記の簡易積算見積書のみを徴して契約を締結している事業の値引率6.1%と比べて10.3ポイントの差が生じており、簡易積算見積書のみを徴して契約を締結している事業について、業者見積書を徴して事業費を算定していれば、より経済的に本件補助事業を実施することが可能であったと認められる。
 以上のとおり、本件補助事業における事業費の算定に当たり、多数の事業主体において、業者見積書を徴することなく、簡易積算見積書のみを徴して契約を締結し、事業を実施している事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。

(低減できた事業費)

 簡易積算見積書のみを徴して契約を締結している537事業について、業者見積書を徴して算定していたこととし、前記の値引率と低減率それぞれの平均値の差である10.3ポイントを用いるなどして試算すると、事業費計23億6263万余円は21億0277万余円となり、約2億5980万円(国庫補助金相当額1億2679万余円)低減できたことになる。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、総務本省において、本件補助事業を経済的に実施することの認識が十分でなく、交付決定等を行う各総合通信局等及び事業主体に対して、簡易積算書は交付申請時までの事業費の概算額の算定に使用するもので、施工業者との契約締結時には、簡易積算書により事業費を算定した場合であっても業者見積書を徴する必要があることを明確に通知していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、総務本省は、23年1月に各総合通信局等及び事業主体に事務連絡を発し、23年度以降の補助事業の実施に当たっては、事業費の算定が経済的に行われるよう、施工業者との契約締結時には、簡易積算書により事業費を算定した場合であっても、業者見積書を徴した上で事業費を算定することとするなどの処置を講じた。