ページトップ
  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第4 法務省|
  • 不当事項|
  • 予算経理

刑務所の常勤医師が、許可を受けて行うこととされていた外部研修を全く行っておらず、正規の勤務時間中に勤務していなかったのに、この勤務しなかった時間に係る給与を減額することなく支給していたもの


(27) 刑務所の常勤医師が、許可を受けて行うこととされていた外部研修を全く行っておらず、正規の勤務時間中に勤務していなかったのに、この勤務しなかった時間に係る給与を減額することなく支給していたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)矯正官署 (項)矯正官署共通費
  (平成19年度以前は、 (項)矯正官署)
部局等 福岡刑務所
常勤医師の給与の概要 常勤医師に対して支給される俸給及び諸手当
給与の支給について疑義が生じた常勤医師に対して支給された給与の総額
71,924,577円
(平成18年1月〜23年1月)

上記のうち減額すべきであった給与額及び勤勉手当額の合計
17,346,304円
 

1 常勤医師の勤務の概要

(1) 常勤医師の給与等の概要

ア 常勤医師の配置

 福岡刑務所では、刑務所、少年刑務所及び拘置所組織規則(平成13年法務省令第3号)により、保健、衛生、防疫、医療及び薬剤に関する事務を所掌する医務部が設置され、同部に常勤で勤務する医師(以下「常勤医師」という。)7名が配置されている。

イ 常勤医師の給与

 常勤医師には、国家公務員法(昭和22年法律第120号。以下「公務員法」という。)、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号。以下「給与法」という。)、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律(平成6年法律第33号。以下「勤務時間法」という。)等が適用され、同刑務所は、常勤医師の勤務時間の管理等を行い、また、所定の給与を支給している。
 公務員法では、一般職の国家公務員である職員は、勤務時間中職務に専念しなければならないこととされており、給与法により、休日である場合又は休暇による場合その他その勤務しないことにつき特に承認があった場合等を除いて正規の勤務時間中に勤務しなかった時間は、給与額(勤勉手当等の額は含まない。以下同じ。)を減額して支給することとされている。そして、この減額する給与額は、給与法等によると、勤務しなかった時間数に勤務1時間当たりの給与額を乗じて得た額とされている。
 また、職員に支給される勤勉手当は、給与法等によると、当該職員の俸給の月額等に勤務期間(注) による割合(以下「期間率」という。)を乗ずるなどして算出することとされており、この期間率は、勤務期間に応じて0から100/100までの割合とされている。

 勤務期間  勤勉手当支給の基準日となる6月1日及び12月1日以前の6か月以内の期間において、給与法の適用を受ける職員として在職した期間から給与法により給与を減額された期間等を除いた期間

(2) 外部研修の概要等

ア 外部研修制度

 常勤医師は、一定の要件を満たす場合、医療技術の維持向上等を目的として、大学医学部、大学病院、総合病院等の外部医療機関等における研修(以下「外部研修」という。)を行うことが認められている。
 そして、人事院規則10—3(職員の研修)、「医療職俸給表(一)適用職員の外部医療機関等における研修について」(平成13年法務省矯総第4293号)等によると、外部研修を行う場合は、勤務する刑務所等の矯正施設の長(以下「施設長」という。)に対して、研修目的、研修先の外部医療機関等、研修の課業時間等を記載した研修計画書(以下「計画書」という。)を事前に提出して許可を受けることとされている。また、外部研修を行った場合は、施設長に対して、計画した研修期間の満了時点等の適宜の時期に研修結果報告書(以下「報告書」という。)を提出することとされている。

イ 外部研修時の勤務時間

 勤務時間法、人事院規則15—14(職員の勤務時間、休日及び休暇)等によると、日常の執務を離れて行う外部研修については、職員が終日、執務を離れて当該研修を行う場合には、許可を受けた課業時間が当該職員に割り振られた正規の勤務時間とされている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、合規性等の観点から、常勤医師が外部研修を行う場合の勤務時間の管理は適正に行われ、常勤医師の給与は適正に算定されているかなどに着眼して、福岡刑務所において、平成21年に常勤医師7名に支給された給与を対象として、出勤簿、計画書、報告書、職員別給与簿等により会計実地検査を行った。そして、このうち疑義が生じた常勤医師1名について、給与の支給の事実が確認できる職員別給与簿が保存されている18年1月から23年1月までの間に支給された給与の総額71,924,577円を対象として、上記の関係書類を確認したり、当該医師から説明を聴取したりなどして検査を行った。

(2) 検査の結果

 検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
 すなわち、常勤医師Aは、保存されている計画書及び報告書によれば、20年度から22年度までの毎年度、週2日のそれぞれ終日、外部医療機関において、患者の診断や治療方法を検討する病棟カンファランス等を行うこととする計画書を福岡刑務所長に提出して外部研修を行う許可を受けており、20、21両年度分については、研修期間経過後に報告書を提出して、計画どおり外部研修を行ったとしていた。また、計画書及び報告書が保存されていなかった19年度以前についても、保存されている出勤簿、職員別給与簿等によれば、同医師は、同様の外部研修を行ったことになっていた。そして、同医師が18年1月から23年1月までの間に外部研修を行ったとする課業時間(計477日、3,775時間)について、正規の勤務時間に勤務したものとして、所定の給与が支給されていた。
 しかし、同医師及び同医師が外部研修先として報告していた外部医療機関から外部研修の実施状況を聴取するなどしたところ、同医師は18年1月から23年1月までの間、外部研修を行ったとする課業時間には、許可を受けて行うこととされていた外部研修を全く行っていなかった。
 したがって、常勤医師Aについて、18年1月から23年1月までの間に、外部研修を行っていなかった課業時間数計3,775時間は、当該医師に割り振られた正規の勤務時間に特に承認を得ることなく無断で勤務していなかったこととなることから、月ごとの勤務しなかった時間数(31時間から80時間)にそれぞれの月の勤務1時間当たりの給与額(4,043円から4,315円)を乗じた額の合計15,693,853円の給与額を減額すべきであった。
 また、上記の勤務しなかった期間については、勤務期間の算定上、給与法により給与を減額される期間となり在職した期間から除かれることから、勤勉手当の算出基礎となる期間率は当初の100/100の割合から70/100又は80/100の割合に下がることとなり、18年6月から22年12月までの間の勤勉手当額を計1,652,451円減額すべきであった。
 前記のとおり、常勤医師Aが、許可を受けて行うこととされていた外部研修を全く行っておらず、正規の勤務時間中に勤務していなかったのに、福岡刑務所は、同医師の給与について、勤務しなかった時間に係る給与額及び勤勉手当額計17,346,304円を減額することなく支給していて不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、常勤医師Aにおいて、国家公務員の服務規律を遵守することの認識が欠けていたこと、また、福岡刑務所において、常勤医師に対して、外部研修をその目的に沿って適切に行うよう十分な指導を行っていなかったこと、外部研修の実施状況を適切に把握していなかったことなどによると認められる。