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政府開発援助の実施に当たり、贈与資金の効率的かつ効果的な活用等を図るよう意見を表示したもの


(2) 政府開発援助の実施に当たり、贈与資金の効率的かつ効果的な活用等を図るよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
部局等 外務本省
政府開発援助の内容 無償資金協力
検査及び現地調査の実施事業数並びにこれらの事業に係る贈与額計 81事業 410億4114万余円(平成10年度〜22年度)
贈与資金の効率的かつ効果的な活用等が図られていないと認められる事業数及びこれらの事業に係る贈与額計 12事業
8億0801万円(背景金額)(平成18年度〜22年度)

【意見を表示したものの全文】

政府開発援助の実施について

(平成23年10月28日付け 外務大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 政府開発援助の概要

 我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成22年度の実績は無償資金協力(注1) 1965億6939万余円、技術協力(注2) 717億0450万余円、円借款(注3) 6777億4755万余円等となっている。

(注1)
 無償資金協力  開発途上にある国又は地域の経済及び社会の開発のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで贈与するもの
(注2)
 技術協力  開発途上にある国又は地域の経済及び社会の開発に役立つ技術、技能及び知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、技術研修員受入、専門家派遣、機材供与等を行うもの
(注3)
 円借款  開発途上にある国又は地域の経済及び社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として長期かつ低利の資金を貸し付けるもの

2 本院の検査及び現地調査の結果

(検査及び現地調査の観点及び着眼点)

 本院は、政府開発援助について、貴省又は独立行政法人国際協力機構(15年9月30日以前は国際協力事業団。以下「機構」という。)が実施している無償資金協力、機構が実施している技術協力及び機構(11年9月30日以前は海外経済協力基金、同年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行)が実施している円借款を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。
〔1〕  貴省及び機構(以下「援助実施機関」という。)は、事前の調査、審査等において、無償資金協力、技術協力及び円借款(以下「援助」という。)の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。
〔2〕  援助は交換公文、借款契約等にのっとって実施されているか、援助実施機関は公正な競争に関する国際約束の的確な実施を確保する方策を適切に講じているか。
〔3〕  援助の対象となった施設等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。

(検査及び現地調査の対象及び方法)

 本院は、貴省本省及び機構本部において協力準備調査報告書等により事業の説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
 一方、贈与資金の効率的かつ効果的な活用が図られているかなどを確認するためには、援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院は、23年次に11か国(注4) において、調査を要すると認めた無償資金協力81事業(贈与額計410億4114万余円)、技術協力16事業(経費累計額56億3274万余円)、円借款13事業(貸付実行累計額1792億1066万余円)、計110事業について、援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどした。また、相手国等の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、援助実施機関を通じて入手した。

 11か国  アンティグア・バーブーダ、アゼルバイジャン、カンボジア、フィジー、キリバス、ミクロネシア、ミャンマー、パラオ、ペルー、フィリピン、トリニダード・トバゴ

(検査及び現地調査の結果)

 検査及び現地調査を実施したところ、無償資金協力12事業(贈与額計8億0801万余円)については、贈与資金の効率的かつ効果的な活用等が図られていない状況となっていた。

(1) 草の根・人間の安全保障無償資金協力

ア 草の根・人間の安全保障無償資金協力の概要

 草の根・人間の安全保障無償資金協力は、贈与契約締結日から1年以内に終了する比較的小規模なプロジェクト(原則1000万円以下)に対して、在外公館が中心となって資金を贈与するものである。

イ 事業の概要

(ア) サン・アンドレス零細漁港埠(ふ)頭冷蔵施設整備計画

 この事業は、ペルー共和国(以下「ペルー」という。)サン・アンドレス地区にあるサン・アンドレス零細漁港の製氷機及び貯氷庫が19年8月にペルー南部で発生した地震及び津波により破損したため、同漁港に新たに製氷機及び貯氷庫それぞれ1台を設置するために計画され、これに要する資金を贈与するものである。
 この事業の実施に当たり、在ペルー日本国大使館(以下「ペルー大使館」という。)は、事業実施機関である漁業開発基金(以下「基金」という。)との間で20年2月に贈与契約を締結して、製氷機及び貯氷庫それぞれ1台を設置するための資金として同年3月に85,470米ドル(邦貨換算額991万余円)を贈与している。

(イ) チャコ零細漁港埠頭復興計画

 この事業は、ペルーパラカス地区にあるチャコ零細漁港の浮桟橋が前記の地震等により破損したため、同漁港に新たに浮桟橋を設置するために計画され、これに要する資金を贈与するものである。
 この事業の実施に当たり、ペルー大使館は、基金との間で20年2月に贈与契約を締結して、浮桟橋を設置するための資金として同年3月に85,999米ドル(邦貨換算額997万余円)を贈与している。

ウ 検査及び現地調査の結果

 検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。

(ア) サン・アンドレス零細漁港埠頭冷蔵施設整備計画

 基金は、20年3月に資金の贈与を受けた後、長期にわたり製氷機及び貯氷庫を設置していなかった。その後、資金の贈与を受けてから2年4か月後の22年8月に基金は贈与資金を使わずに自らの資金を使って援助対象の製氷機及び貯氷庫を設置していた。そして、贈与資金は、贈与されてから本院の現地調査実施時(23年2月)までの2年10か月の間活用されておらず、基金によって保有されていて、その間、ペルー大使館は年に数回の電話連絡により、事業の進捗状況について基金からの聴取等はしていたが、事業の進捗が滞っている原因となっている問題点を的確に把握し、適切に対応することを目的として基金から詳細なヒアリングを実施したり、事業現場の視察を行ったりするモニタリングを適時適切に行っていなかった。
 なお、同資金は、本院による現地調査の後、23年2月9日に基金からペルー大使館に返還された。

(イ) チャコ零細漁港埠頭復興計画

 基金は、この事業において、新規に浮桟橋を設置することにしていたが、20年3月に資金の贈与を受けた後に、浮桟橋設置工事の入札を21年5月、6月及び7月の計3回実施したもののいずれも不調となった。そして、基金は、その後は入札を実施しておらず、資金が贈与されてから本院の現地調査実施時(23年2月)までの2年10か月の間、浮桟橋を設置していなかった。このため贈与資金は2年10か月の間活用されておらず、基金によって保有されていて、その間、ペルー大使館は年に数回の電話連絡により、事業の進捗状況について基金からの聴取等はしていたが、事業の進捗が滞っている原因となっている問題点を的確に把握し、適切に対応することを目的として基金から詳細なヒアリングを実施したり、事業現場の視察を行ったりするモニタリングを適時適切に行っていなかった。
 なお、同資金は、本院による現地調査の後、23年6月15日に基金からペルー大使館に返還された。

(2) 日本NGO連携無償資金協力

ア 日本NGO連携無償資金協力の概要

 日本NGO連携無償資金協力(18年度は日本NGO支援無償資金協力。以下「N連無償」という。)は、日本の顔が見える援助として我が国のNGOが開発途上国又は地域で行う経済社会開発事業を支援するものである。貴省は、N連無償の実施に当たり、「日本NGO連携無償資金協力申請の手引き(実施要領)」(以下「手引」という。)を定めており、これによれば、1事業の実施期間は12か月以内とされ、地雷除去及び不発弾処理事業に係る贈与額の上限は1件当たり1億円とされている。そして、N連無償の対象となる経費は、現地住民に直接ひ益する活動を行うために必要な直接事業費、当該事業の実施を適切に管理するために必要な現地事業管理費、日本において現地における事業を適切に管理するための本部事業管理費及び外部監査費とされている。このうち、本部事業管理費の対象経費は、N連無償に従事する本部スタッフの人件費、通信費、事業資料作成費等となっている。
 また、N連無償に係る基本的な申請手続は、以下のようになっている。
〔1〕  NGOは、貴省本省又は在外公館に対して事業申請書を提出してN連無償の申請を行い、NGOから申請を受けた事業の目的・効果、人的体制、事業費等について、その妥当性の審査を行う。
〔2〕  在外公館は、NGOとの間で贈与契約を締結の上、贈与資金の支払を行い、NGOは、在外公館に対して、事業着手後に中間報告を、また、事業完了後に完了報告等を行う。
〔3〕  在外公館は、完了報告等とともに提出される証拠書類により、申請された事業費の審査を行い、終了後に贈与資金の精算を行う。

イ カンボジアにおけるN連無償による地雷除去及び不発弾処理事業の概要

 この事業は、退役自衛官が主体となって設立した我が国の認定特定非営利活動法人である「日本地雷処理を支援する会」(以下「JMAS」という。)が、専門家を派遣してカンボジア政府の地雷除去機関であるカンボジア地雷対策センター(以下「CMAC」という。)に所属する作業員と共に地雷除去や不発弾処理を行いこれらの作業を通じてCMACに所属する作業員に技術を移転するための資金を贈与したものである(18年度から22年度まで10事業、贈与額計7億8812万余円)。
 JMASは、カンボジアの地雷除去及び不発弾処理事業の実施に当たり、首都プノンペンにカンボジア統括代表部を設置するほか、地雷除去事業現場等の近隣都市ごとに指揮所を設置しており、JMAS本部、カンボジア統括代表部及び各指揮所のそれぞれに職員を配置するなどしている。そして、地雷除去事業現場等では、本邦から派遣された専門家の安全管理等の指導の下、実際の地雷除去等の作業はCMAC所属の作業員が実施しており、これらCMAC所属の作業員の人件費、教育訓練費、機材費用等は、N連無償によりJMASに対して支弁されている。

ウ 検査及び現地調査の結果

 検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。

(ア) 技術移転について

 JMASは、安全管理に関して高い技術を有するとされる我が国の退役自衛官の専門家を派遣して、CMACに所属する作業員に地雷除去や不発弾処理の安全性を高めるためなどの技術移転を行うことをN連無償による地雷除去及び不発弾処理事業の目的の一つとしている。そして、JMASが作成したN連無償による地雷除去及び不発弾処理事業に係る作業員の編成表によれば、21年度に、地雷除去については100人及び不発弾処理については48人の計148人の作業員をJMASの専門家の下で作業に従事させて指導を行ったとしている。
 しかし、指導を受けるCMAC所属の作業員についてみると、JMASは、14年度に不発弾処理事業を、18年度に地雷除去事業をそれぞれ開始してから現在に至るまで、上記の作業員を増員しているものの、ほとんど入替えは行っていないことなどから、CMACに所属する作業員等が約1,800人いるのに、専ら、一部の作業員のみがJMASから指導を受けていて、当該事業目的の一つとされる安全管理等の技術の移転がCMACに所属する作業員等に対して十分に寄与していない状況であった。

(イ) 事業対象経費について

 JMASは、カンボジア統括代表部において、CMACとの事業調整、在カンボジア日本国大使館との贈与契約の締結から精算までの事務手続等の事業の主な業務を現地統括代表1名、総務・企画主任1名及び経理担当者4名の計6名を配置するなどして行っている。
 また、JMAS本部において、地雷除去及び不発弾処理の両事業にそれぞれプロジェクトコーディネーター1名及び会計主任1名を配置し、計4名がそれぞれ専任スタッフとして、事業申請のための貴省本省との事業調整、専門家派遣に係るカンボジア統括代表部に対する後方支援業務等を行っている。
 前記のカンボジア統括代表部の人員配置の変遷についてみると、JMASは、18年度は、地雷除去の専門家として派遣された職員が兼務する現地統括代表1名と経理担当者4名を配置するなどしていたが、その後、19年度には専任の現地統括代表1名を新たに配置し、20年度には経理担当者のうち1名を総務・企画主任に昇任させて、新たに経理担当者1名を採用するなどして、地雷除去及び不発弾処理の両事業を統括して管理運営等を行う体制を整備しており、従来JMAS本部で行われていた業務の一部はカンボジア統括代表部へ移行している。
 このようにJMASは、19年度以降、カンボジア統括代表部の人員配置を増員し、これに伴う人件費を事業費に計上しているが、JMAS本部の人員については、従前どおり、両事業に一律にプロジェクトコーディネーターと会計主任をそれぞれ1名配置し、計4名について、事業申請書の事業費に計上し続けている(このJMAS本部4名に係る人件費は、19年度1573万余円、20年度1606万余円、21年度1595万余円及び22年度1474万余円)。
 そして、手引において、本部事業管理費として計上可能とされている「本部スタッフ人件費」については、N連無償に従事する本部スタッフの人件費とされているだけで、業務量や業務内容等に応じた具体的な対象人数等の制限は特段設けられておらず、貴省は上記の申請書に基づき事業費を支払っていた。

(改善を必要とする事態)

 以上のように、贈与資金が長期にわたり事業実施機関で保有されたまま、活用されていない事態、及び技術移転をより効果的なものとする検討が十分でなかったり、経費の必要性について経済的な観点から精査する必要があったりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア サン・アンドレス零細漁港埠頭冷蔵施設整備計画及びチャコ零細漁港埠頭復興計画において、資金の贈与後にモニタリングを適時適切に行わなかった結果、事業の進捗が滞っている原因となっている問題点を的確に把握し、適切に対応を行うことが十分でなかったこと

イ 地雷除去及び不発弾処理事業について、事業の実施体制や技術移転の実態の把握が十分でなかったこと、また、本部スタッフの人件費の計上に関して、業務を行うために必要な範囲内にとどめるよう明確にしていなかったこと及び経済的な事業の実施についての審査が十分でなかったこと

3 本院が表示する意見

 貴省において、贈与資金を効率的かつ効果的に活用し、また、技術移転を効果的に行うよう、次のとおり意見を表示する。

ア 草の根・人間の安全保障無償資金協力について、今後、資金の贈与後、事業の進捗が長期にわたり滞っているなどの場合は事業実施機関へのモニタリングを適時適切に行うことにより事業の進捗が滞っている原因となっている問題点を的確に把握し、適切に対応を行うことに努めて、事業の実施を促したり、事業の実施が見込まれない場合には贈与資金の取扱いについて事業実施機関と十分に協議を行ったりすること

イ カンボジアにおけるN連無償による地雷除去及び不発弾処理事業については、事業実施体制や技術移転の実態を十分に把握して、JMASの技術がより多くのCMAC所属の作業員に移転されるようJMASと事業内容の調整を行うこと、また、本部スタッフの人件費の計上について、業務を行うために必要な範囲にとどめるよう明確にするとともに、事業対象経費の審査を十分に行うなど経済的な事業の実施について検討を行うこと