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  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

各都道府県に移管された高校奨学金事業について、運営状況等を的確に把握し、これに基づいて必要な助言等を行うなどの所要の対応を執るなどして、将来にわたって適切な運営が確保されるよう意見を表示したもの


(2) 各都道府県に移管された高校奨学金事業について、運営状況等を的確に把握し、これに基づいて必要な助言等を行うなどの所要の対応を執るなどして、将来にわたって適切な運営が確保されるよう意見を表示したもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)文部科学本省 (項)育英事業費
部局等 文部科学本省
交付の根拠 予算補助
高等学校等奨学金事業交付金の概要 独立行政法人日本学生支援機構から各都道府県に移管された高校奨学金事業に必要な資金を同機構を通じて都道府県に交付するもの
検査の対象 20府県
上記の20府県に対する交付金交付額 820億5055万余円(平成17年度〜22年度)
20府県のうち移管された高校奨学金事業を貸与水準を維持しつつ継続かつ安定して運営していく態勢が十分に確保されていない府県 11府県
上記の11府県に対する交付金交付額 575億8671万円(平成17年度〜22年度)

【意見を表示したものの全文】

各都道府県に移管された高校奨学金事業の運営について

(平成23年9月22日付け 文部科学大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 各都道府県に移管された高校奨学金事業等の概要

(1) 高等学校等奨学金事業交付金等の概要

 国及び地方公共団体は、経済的理由によって修学が困難な生徒等に対して奨学金を貸与するなどの奨学金事業を実施している。
 奨学金事業のうち、高等学校(中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部を含む。)及び専修学校の高等課程(以下、これらを合わせて「高等学校等」という。)の生徒を対象とした奨学金事業(以下、この事業を「高校奨学金事業」といい、同事業により奨学金の貸与を受ける生徒を「奨学生」という。)は、平成16年度までは、主として独立行政法人日本学生支援機構(16年3月31日以前は日本育英会。以下「機構」という。)及び各都道府県により実施されていた。しかし、機構が実施していた高校奨学金事業(以下「機構奨学金事業」という。)については、「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月閣議決定)を踏まえて、17年度以降の入学者から各都道府県に順次移管されることとなった。これを受けて、貴省は、移管後に都道府県が実施する高校奨学金事業(以下「移管奨学金事業」という。)において貸与する奨学金の原資(以下「奨学資金」という。)に充てるため、17年度から機構を通じて、各都道府県に対して高等学校等奨学金事業交付金(以下「交付金」という。)を交付している。
 貴省によれば、最終的な交付金の交付総額は約2000億円とされており、17年度から22年度までの間に各都道府県に対して交付された交付金の額は、表1のとおり、計1411億6360万余円(2000億円の約7割に相当)となっている。

表1 各都道府県に対する交付金の交付額

(単位:千円)
年度 平成            
17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 22年度 交付額計
都道府県名              
北海道 599,515 1,245,752 1,892,986 1,915,277 1,846,435 1,777,593 9,277,558
青森県 347,664 722,422 1,096,635 1,109,548 1,069,667 1,029,786 5,375,722
岩手県 145,088 301,483 457,933 463,325 446,672 430,018 2,244,519
宮城県 246,376 511,953 776,535 785,679 757,439 729,199 3,807,181
秋田県 115,888 240,808 365,494 369,798 356,506 343,214 1,791,708
山形県 122,275 254,080 386,386 390,936 376,884 362,832 1,893,393
福島県 119,538 248,392 376,055 380,483 366,807 353,131 1,844,406
茨城県 60,225 125,144 189,333 191,563 184,677 177,792 928,734
栃木県 51,100 106,183 161,951 163,858 157,968 152,079 793,139
群馬県 43,800 91,014 137,756 139,378 134,369 129,359 675,676
埼玉県 190,713 396,290 600,835 607,910 586,060 564,209 2,946,017
千葉県 140,526 292,003 444,069 449,298 433,149 416,999 2,176,044
東京都 281,051 584,006 887,063 897,508 865,248 832,989 4,347,865
神奈川県 117,713 244,600 372,176 376,559 363,024 349,489 1,823,561
新潟県 102,200 212,366 322,058 325,851 314,139 302,426 1,579,040
富山県 19,163 39,819 60,256 60,966 58,775 56,583 295,562
石川県 27,375 56,884 86,640 87,660 84,509 81,359 424,427
福井県 36,500 75,845 116,019 117,386 113,166 108,947 567,863
山梨県 79,388 164,963 249,244 252,179 243,115 234,050 1,222,939
長野県 70,263 146,001 221,055 223,658 215,619 207,580 1,084,176
岐阜県 58,400 121,352 183,611 185,773 179,096 172,418 900,650
静岡県 72,088 149,794 228,621 231,313 222,999 214,684 1,119,499
愛知県 100,375 208,573 315,760 319,478 307,995 296,512 1,548,693
三重県 134,138 278,730 423,292 428,277 412,883 397,489 2,074,809
滋賀県 52,925 109,975 166,137 168,093 162,051 156,010 815,191
京都府 189,801 394,393 598,377 605,424 583,662 561,901 2,933,558
大阪府 1,528,443 3,176,004 4,824,848 4,881,663 4,706,197 4,530,733 23,647,888
兵庫県 314,814 654,162 994,633 1,006,345 970,173 934,002 4,874,129
奈良県 98,550 204,781 310,576 314,233 302,938 291,643 1,522,721
和歌山県 46,538 96,702 146,052 147,771 142,460 137,148 716,671
鳥取県 48,363 100,494 152,081 153,872 148,341 142,810 745,961
島根県 89,425 185,820 283,501 286,839 276,529 266,219 1,388,333
岡山県 165,163 343,198 522,222 528,371 509,379 490,388 2,558,721
広島県 268,276 557,460 847,314 857,292 826,477 795,663 4,152,482
山口県 132,313 274,938 416,802 421,710 406,552 391,394 2,043,709
徳島県 49,275 102,391 154,923 156,747 151,113 145,479 759,928
香川県 61,138 127,040 194,364 196,653 189,584 182,516 951,295
愛媛県 149,651 310,964 472,296 477,858 460,682 443,506 2,314,957
高知県 88,513 183,924 278,431 281,710 271,584 261,458 1,365,620
福岡県 536,552 1,114,920 1,694,359 1,714,311 1,652,693 1,591,074 8,303,909
佐賀県 154,213 320,445 488,003 493,750 476,003 458,256 2,390,670
長崎県 316,639 657,954 997,974 1,009,726 973,433 937,139 4,892,865
熊本県 338,539 703,461 1,067,755 1,080,328 1,041,497 1,002,666 5,234,246
大分県 212,613 441,796 669,617 677,502 653,151 628,799 3,283,478
宮崎県 330,326 686,396 1,043,867 1,056,159 1,018,197 980,235 5,115,180
鹿児島県 468,114 972,711 1,478,374 1,495,782 1,442,018 1,388,254 7,245,253
沖縄県 204,401 424,731 645,538 653,139 629,663 606,187 3,163,659
合計 9,125,947 18,963,117 28,799,807 29,138,939 28,091,578 27,044,217 141,163,605

(2) 移管奨学金事業に関する財源措置

 貴省は、前記の移管に当たり、移管奨学金事業について、移管から一定の期間が経過すると奨学生からの返還金(以下「返還金」という。)が生じ、これが奨学資金に充当されて次の奨学金の貸与へと循環していくことになることを考慮して、次の〔1〕 〜〔4〕 の条件、指標等により移管奨学金事業の将来的な収支等を試算し、必要な財源措置についての検討を行っている。

〔1〕  17年度から20年度までの各年度の貸与額は機構の16年度の予算額程度とし、21年度以降の各年度の貸与額は高等学校等の総生徒数の減少と機構奨学金事業における貸与率(奨学生総数/高等学校等の総生徒数)を考慮して推定する。
〔2〕  大学等への進学実態を踏まえて、大学等に在学中は返還を猶予する。奨学金の標準回収期間を返還開始後10年間とする。
〔3〕  機構奨学金事業における実績を考慮して、当該年度に返還期日が到来する奨学金に係る回収率(以下「当年度回収率」という。)を84%、前年度までに返還されず当該年度に繰り越された奨学金に係る回収率(以下「過年度回収率」という。)を13%(返還期日が到来した翌年度から10か年度を経過するまで、毎年度13%ずつ前年度に未回収となった奨学金を回収すると仮定)とし、これにより、貸与した奨学金のうち回収が著しく困難となるものが4%程度発生すると想定する。
〔4〕  移管後において機構奨学金事業の貸与水準の維持が可能となるような奨学資金の規模は、機構奨学金事業において貸与した奨学金の回収見込額(約2000億円)と同額と想定し、この額を交付金として、10〜15年間をかけて各都道府県に配分する。なお、各年度の交付金は、機構奨学金事業における14、15両年度の総貸与額に対する各都道府県での貸与額の割合を踏まえて各都道府県に配分する。

 そして、貴省は、この試算において、各都道府県がそれぞれ機構奨学金事業と同様の制度を設け、機構奨学金事業における貸与水準と回収率を維持しつつ交付金及び返還金を奨学資金として移管奨学金事業を運営したとすると、将来的には各年度の返還金が貸与額を上回ることになり、移管奨学金事業に係る返還金が平年度化すると見込まれる43年度の年度末において、奨学資金に同年度の貸与額184億円の83.4%に相当する153億円の残額が生ずると予測している。また、この試算の結果から、貴省は、交付金として約2000億円を10〜15年間かけて交付することとすれば、各都道府県において、交付金及び返還金を奨学資金として、機構奨学金事業の貸与水準を維持しつつ移管奨学金事業を交付金の交付終了後も継続かつ安定して運営していくことは十分に可能であるとしており、移管に当たっての財源措置はこれを限度とし、追加的措置は行わないとしている。

(3) 各都道府県が運営している移管奨学金事業の概要

 各都道府県は、それぞれ移管奨学金事業の内容等を検討するなどした後、17年度以降、移管奨学金事業を運営してきている。各都道府県が運営している移管奨学金事業についてみると、事業の内容、実施方法等は都道府県により区々となっているものの、奨学資金の調達方法により、〔1〕 交付金と交付金を原資とした奨学金に係る返還金のみを奨学資金としているものと、〔2〕 交付金に都道府県が調達した資金を合わせた資金とこれらを原資とした奨学金に係る返還金とを奨学資金としているものとに大別することができる。そして、移管奨学金事業の多くは、現在、後者に該当しており、これらの移管奨学金事業においては、機構から移管された高校奨学金事業に係る奨学金事業と従前から都道府県が実施していた高校奨学金事業に係る奨学金事業とが一体不可分な形で実施されていることなどから、その多くが機構奨学金事業における当該都道府県での貸与額の実績を上回る規模となっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 前記のとおり、交付金の交付額は毎年度多額に上っており、今後の交付予定額も含めると交付総額は約2000億円に上る見通しとなっている。また、貴省は、地方分権の趣旨を踏まえて、移管奨学金事業の内容及び実施方法については、各都道府県の自主性・主体性を尊重するとしているものの、移管奨学金事業において、貸与水準が機構奨学金事業に比べて大幅に低下したり、生徒の奨学金に対する需要を大きく損なったりなどした場合には、各都道府県に対してその適切な運営について必要な助言等を行うとしている。
 このような状況を踏まえ、本院は、有効性等の観点から、各都道府県において、貸与水準を大幅に低下させたり生徒の奨学金に対する需要を大きく損なったりなどすることなく、移管奨学金事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくことが可能となっているかなどに着眼して、20府県(注1) が交付金(17年度から22年度までに交付された交付金交付額計820億5055万余円)を奨学資金の一部として運営している移管奨学金事業を対象として、貴省及び20府県において、交付金の交付に関する書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
20府県  京都、大阪両府、宮城、秋田、茨城、神奈川、長野、岐阜、静岡、愛知、兵庫、奈良、岡山、広島、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、鹿児島各県

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 移管奨学金事業を適切に運営することの可能性について

ア 移管奨学金事業における回収率

 高校奨学金事業においては、返還金が奨学資金に充当されて次の奨学金の貸与へと循環していくことから、事業を継続かつ安定して運営していくためには、奨学金の回収を適切に行い、将来の奨学資金を確保する必要がある。
 貴省は、前記の試算において、機構奨学金事業における回収率を踏まえて当年度回収率を84%、過年度回収率を13% と設定している。
 これに対して、20府県が運営している移管奨学金事業における直近の回収率(21年度実績)についてみたところ、8府県(注2) では貴省の試算における当年度回収率及び過年度回収率を下回っており、また、3県(注3) では当年度回収率のみ、1県(注4) では過年度回収率のみ、それぞれ下回っている状況となっていた。

(注2)
8府県  京都府(当年度回収率81.4%、過年度回収率6.6%)、茨城(同77.9%、同2.2%)、神奈川 (同75.7%、同11.7%)、長野 (同69.8%、同10.9%)、静岡(同80.9%、同3.2%)、兵庫(同82.7%、同6.8%)、奈良(同83.5%、同8.3%)、福岡(同67.2%、同12.2%)各県
(注3)
3県  秋田(当年度回収率73.4%)、愛知(同76.0%)、鹿児島(同81.7%)各県
(注4)
1県  岐阜県(過年度回収率7.4%)

イ 移管奨学金事業における収支予測等の実施状況

 前記のとおり、貴省の試算において、当年度回収率は84%、過年度回収率は13%と設定されており、この場合、貴省は、都道府県が別途に資金を負担することなく、交付金及び返還金により機構奨学金事業の貸与水準を維持しつつ移管奨学金事業を運営していくことが可能であるとしている。
 このため、移管奨学金事業における実際の回収率がこれらを下回っている場合等においては、各都道府県は、収支予測等を実施するなどして、事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくことが可能となっているかについて検証する必要がある。
 そこで、移管奨学金事業における将来的な収支予測等の実施状況について確認したところ、20府県のうちの9府県(注5) においては、将来的な収支予測等を実施しておらず、事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくことについての検討が十分に行われていなかった。また、収支予測等を実施していた府県(注6) についても、その内容等については、各種指標の入手及び活用の方法、試算内容等が区々となっており、このうちの8府県(注7) の収支予測等においては、将来、交付金及び返還金だけでは奨学資金に不足が生ずると予測されている状況であった。
 このように、20府県における移管奨学金事業については、事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくことが可能となっているかについて不透明な状況であった。
 なお、このような状況について、貴省は、十分に把握していなかった。

(注5)
9府県  京都府、秋田、神奈川、長野、岐阜、静岡、愛知、兵庫、福岡各県
(注6)
収支予測等を実施していた府県  大阪府、宮城、茨城、奈良、岡山、広島、愛媛、高知、長崎、熊本、鹿児島各県
(注7)
8府県  大阪府、茨城、奈良、岡山、愛媛、高知、熊本、鹿児島各県

ウ 移管奨学金事業を適切に運営することの可能性に関する本院試算に基づく検証

 上記イのような状況を踏まえ、20府県が運営している移管奨学金事業について、各府県における交付金の交付額、貸与額、返還金、回収率、回収期間、大学等への進学率等の実績値を使用するとともに、貴省が実施した前記試算の手法に準拠するなどして、本院において、貴省の試算における最終年度である43年度末までの将来的な収支等を府県ごとに試算して、事業を継続かつ安定して運営していくことが可能となっているかなどについて検証することにした。
 20府県が運営する移管奨学金事業の将来的な収支等について本院が行った試算の結果は、表2のとおりであり、貸与水準を維持していくとした場合、京都、大阪両府、茨城、神奈川、長野、愛知、兵庫、愛媛、福岡、長崎、熊本各県の11府県では、交付金及び返還金だけでは奨学資金が不足し、各府県においてその不足分を負担する必要が生ずることになると予測される。

表2 各府県における移管奨学金事業の将来的な収支等(本院試算)
(単位:千円)

区分 累計額(平成17年度〜43年度) 17年度から43年度の間に各府県において負担する必要が生ずると予測される資金の額
A−(B+C)
貸与額 返還金 交付金
府県名 A B C
宮城県 15,486,711 10,712,932 5,395,763
秋田県 5,941,627 5,941,627 2,538,930
茨城県 3,622,528 2,031,716 1,317,054 273,757
神奈川県 39,040,214 22,851,835 2,582,550 13,605,828
長野県 5,133,881 2,972,141 1,537,216 624,523
岐阜県 3,110,912 1,981,898 1,277,202
静岡県 3,449,597 2,018,376 1,584,306
愛知県 19,205,492 12,073,437 2,195,893 4,936,160
京都府 34,014,393 19,356,955 4,157,355 10,500,082
大阪府 118,751,351 80,119,539 33,502,984 5,128,827
兵庫県 41,561,810 25,017,819 6,903,984 9,640,006
奈良県 4,505,401 2,776,900 2,158,154
岡山県 10,993,093 7,449,521 3,623,659
広島県 10,323,910 6,858,077 5,882,272
愛媛県 14,102,846 9,460,177 3,279,873 1,362,794
高知県 6,021,623 4,115,795 1,936,333
福岡県 104,481,509 60,543,807 11,763,489 32,174,212
長崎県 24,185,914 16,981,189 6,934,487 270,236
熊本県 26,106,528 18,117,367 7,417,076 572,084
鹿児島県 33,495,458 23,278,831 10,263,560
(注)
各項目において端数整理を行っているため、計算しても数値が一致しないことがある。

 なお、前記の本院の試算において、返還期日が到来しているのに未返還となっている奨学金が年度の経過に伴って累積すると予想されたことから、当該年度に回収すべき奨学金の総額(当該年度に返還期日が到来する奨学金の額と前年度末の未返還残高との合計額)に対する当該年度末の未返還残高の比率(以下「未返還残高比率」という。)についても検討したところ、8府県(注8) においては、43年度末の未返還残高比率が60% を超えていると予測される。

(注8)
8府県  京都府(未返還残高比率70.8%)、茨城(同81.3%)、神奈川(同69.0%)、長野(同75.2%)、静岡(同77.2%)、兵庫(同69.0%)、奈良(同65.8%)、福岡(同75.1%)各県

 20府県が運営している移管奨学金事業に係る将来的な収支等に関する本院の試算により、移管奨学金事業の今後の推移を予測した結果等について事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

 福岡県は、平成17年度から、同県が従前から実施していた高校奨学金事業(16年度貸与額14億4278万余円)と機構から移管された高校奨学金事業(機構奨学金事業における同県内での16年度貸与額16億1794万余円)とを統合して移管奨学金事業を運営している。
 同県の移管奨学金事業における21年度の実績は、貸与額49億9372万余円、当年度回収率67.2%、過年度回収率12.2% 等となっている。
 そこで、本院において、貸与水準が維持されることを前提に、これらの実績値等を使用するとともに、貴省の試算の手法に準拠するなどして同県の移管奨学金事業における43年度までの収支等について試算するとともに、各年度の年度末における未返還残高比率について試算したところ、現在の貸与水準と回収率を維持していくとした場合、移管奨学金事業においては交付金及び返還金の合計額が貸与額を下回り、交付金及び返還金以外に奨学資金として同県が負担する必要が生ずる資金の額は、17年度から43年度までの間の累計で321億7421万余円(交付金の交付予定総額117億6348万余円の約2.7倍)に上る。
 しかし、同県は、今後各年度に同県に対して交付される交付金の交付額等が明確になっていないなどとの認識から、移管奨学金事業における将来的な収支予測等を実施しておらず、このため、現在の貸与水準を維持していくとした場合、どの程度の回収率を達成し、それと連動して同県が負担しなければならない資金がどの程度必要となるかなどについて把握していなかった。なお、試算最終年度に当たる43年度末における未返還残高比率は75.1%に上ると予想される。
 そして、この試算結果からみると、同県において、移管奨学金事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくことについては、著しく不透明な状況となっていて、その態勢が十分に確保されているとは認められない状況である。

 以上の検証結果等から、貸与水準を維持していくとした場合、収支予測等において交付金及び返還金だけでは奨学資金が不足し、その不足分を負担する必要が生ずることになると予測される前記の11府県が運営する移管奨学金事業(17年度から22年度までの交付金交付額計575億8671万余円)については、事業を継続かつ安定して運営していく態勢が十分に確保されておらず、このため、将来的に、移管奨学金事業の運営において奨学資金が不足するなどの事態が生じ、ひいては、貸与水準が大幅に低下したり、生徒の奨学金に対する需要を大きく損なったりなどするおそれがある。
 したがって、移管奨学金事業について、事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくため、各都道府県において、定期又は随時に収支予測等を実施したり見直したりして、その結果に基づき必要な対応策等を講ずることについて、貴省において必要な助言等を行うことが重要であると認められる。
 なお、本院の試算に当たり、回収率については、20府県における21年度の実績を使用しているが、移管奨学金事業の進展により、今後、返還期日が到来し、奨学金を返還する奨学生数、回収しなければならない奨学金の額等が増大していくことになり、これに伴って奨学金の回収等に係る事務量も増大していくことなどを考慮すると、現在の回収率を将来にわたり維持することには、困難が伴うことが予想される状況である。

(2) 移管奨学金事業における回収事務の実施体制等について

 前記のとおり、奨学金の回収は将来の奨学資金の確保に直結する問題であり、回収率の向上は、貸与水準を維持する際に都道府県が奨学資金として負担しなければならない資金の規模を抑制することなどに大きく寄与するものである。このため、交付金及び返還金だけでは奨学資金が不足し、その不足分を負担する必要が生ずることになると予測される府県はもとより、将来において未回収の奨学金が多額に上ることが予想される府県においても、回収率を向上させる施策を積極的に講ずることは、奨学資金を確保するに当たっての非常に有効な対応策となる。
 機構は、各種の奨学金事業を実施するに当たり、奨学金の回収率向上のため、自動口座振替の導入、滞納者に対する適時適切な法的措置等の実施、債権回収会社(サービサー)への回収業務委託等による回収、個人信用情報機関が保有する情報の活用、在籍した学校等との連携強化等の様々な施策を講じており、一定の成果を上げている。
 そこで、20府県におけるこれらの施策等の導入状況と回収率についてみると、法的措置を積極的に実施したり回収業務委託等による回収を行ったりなどしている府県においては貴省が前記の試算に用いた回収率を上回っているなど、回収率が高い傾向が見受けられる。一方、法的措置の実施や回収業務委託等による回収等を行っていない府県においては、回収率が低い傾向が見受けられる。
 法的措置を積極的に実施したり回収業務委託等による回収を行ったりなどしていることにより、奨学金の回収率が比較的高い水準となっている府県における回収事務の実施体制等について参考事例を示すと、次のとおりである。

<参考事例>

 広島県は、平成14年度から県の事業として高校奨学金事業を開始し、17年度からは、従前からの高校奨学金事業(16年度貸与額7972万余円)と機構から移管された高校奨学金事業(機構奨学金事業における同県内での16年度貸与額7億7535万余円)とを区分して運営している。
 奨学金の回収等は、18年2月に定めた「広島県高等学校等奨学金債権管理事務取扱要綱」等に基づいて行われることとなっている。そして、滞納者に対しては主として納入指導等が行われており、同要綱に定められている法的措置については、従前からの高校奨学金事業において19年度に1件実施したにすぎない状況となっていた。
 しかし、同県は、移管奨学金事業に係る奨学金の回収が本格的に開始されたのに合わせて、20年12月からは、徴収業務及び回収督促業務を債権回収会社に委託して回収率の向上を図っている。
 また、同県は、以前は、奨学金の回収に際し、納入通知書を発出し、原則として年賦、半年賦、月賦の現金振込みにより奨学金を返還させていたが、上記の債権回収会社への業務委託に合わせて21年2月から自動口座振替による返還も開始しており、22年度末における自動口座振替の利用率は77.7% となっている。
 このように、同県は、移管奨学金事業における回収率を向上させるための各種施策を講じており、21年度の当年度回収率は90.4%、過年度回収率は32.2% と高い水準となっている。
 さらに、22年度には、同県の債権管理会議において、高校奨学金事業における奨学金が特に債権回収の取組を強化する必要があると認められる「特定管理債権」に指定されたことを契機として、同県は、長期滞納事案等7件(うち移管奨学金事業に係る事案2件)について法的措置の実施を決定してその旨の予告を行い、このうち返還の意思表示があった4件(同2件)を除く3件について裁判所に対して支払督促の申立てを実施しており、23年度も他の長期滞納事案等について法的措置の実施に向けた検討を行っている。
 そして、同県は、23年3月に高校奨学金事業の将来的な収支等についての試算等を行っており、その中で、将来に向かって更に回収率を向上させていくとする目標を設定して、今後、目標達成に向けて種々の施策に取り組むことにしている。

 また、前記のとおり、移管奨学金事業の進展により、今後、返還期日が到来し、回収しなければならない奨学金の額等が増大していくことになり、これに伴って奨学金の回収等に係る事務量も増大していくことが見込まれることなどから、事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくためには、回収事務の実施体制等の整備を図ることがより重要となる。
 以上のことから、各都道府県、特に回収率が低調となっている都道府県においては、機構が講じている施策や高い回収率を達成している都道府県の回収事務の実施状況等を参考にするなどして、移管奨学金事業の実態に適した効率的かつ効果的な回収事務の実施体制等について十分に検討し、将来にわたって移管奨学金事業を継続かつ安定して運営することができるよう回収事務の実施体制等の整備を図る必要があり、貴省において、この点について、必要な助言等を行うことが重要であると認められる。

(改善を必要とする事態)

 各府県において、移管奨学金事業の将来的な収支予測等を実施していなかったり、将来的な収支予測等の結果に基づいて必要な対応策等を講じていなかったり、回収率が低調となっているにもかかわらずその向上を図るための具体的な施策を十分に講じていなかったりなどしていて、貸与水準を維持しつつ移管奨学金事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していく態勢が十分に確保されておらず、交付金の効果の発現が将来にわたって継続しなくなるおそれがある事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 貴省において

(ア) 高校奨学金事業の移管に伴う財源措置の内容等について、各都道府県に対して十分に周知していないこと
(イ) 地方分権の趣旨を踏まえて各都道府県の自主性・主体性を尊重するとして、各都道府県が運営している移管奨学金事業の内容、実施方法、運営状況等の実態について十分に把握していないこと
(ウ) 上記(イ)の結果、移管奨学金事業に関する将来的な収支予測等を実施すること、収支予測等の結果に基づき必要な対応策等を講ずること、特に、回収率の向上を図るための具体的な施策を十分に講ずることなどについて、各都道府県に対して必要な助言等を行っていないこと

イ 各府県において

(ア) 特殊法人の整理合理化及び地方分権を踏まえて貴省が実施するとしている高校奨学金事業の移管に伴う財源措置の内容等について、十分に理解していないこと
(イ) 移管奨学金事業を将来にわたって継続かつ安定して運営していくためには、将来的な収支予測等を適時適切に実施し、この結果等に基づいて必要な対応策等を講ずること、特に、回収率の向上を図るための具体的な施策を十分に講ずることなどが必要であるのに、その重要性を十分に認識していないこと

3 本院が表示する意見

 高校奨学金事業は、教育の機会均等に寄与するとともにセーフティネットとしての役割も有するとされている。貴省は、このような高校奨学金事業の担う社会的な役割の重要性等に鑑み、機構奨学金事業を都道府県に移管した後も貸与水準が維持されなければならず、奨学生を始めとする国民の利便性が損なわれることがあってはならないとして、同水準が維持されるよう交付金を交付しており、今後数年間にわたり、引き続き多額の交付金を都道府県に対して交付することとしている。
 また、移管奨学金事業のうち交付金に都道府県が調達した資金を合わせて運営されている事業においては、機構から移管された高校奨学金事業に係る奨学金事業と従前から都道府県が実施していた高校奨学金事業に係る奨学金事業とが一体不可分の関係で運営されるなどしていることから、現在、各都道府県により運営されている移管奨学金事業において返還金の適切な回収等を行いつつ事業全体の貸与水準を将来にわたって継続かつ安定して維持していくことによって、機構から移管された高校奨学金事業に係る奨学金事業についても移管前の貸与水準を確保していくことが可能となる。
 ついては、各都道府県が運営する移管奨学金事業において、交付金の交付が行われている期間はもとよりその交付終了後においても、必要となる奨学資金が不足し、奨学金の貸与を必要とする生徒への貸与が十分に行われないこととなる事態の発生を抑止するとともに、高校奨学金事業が有する社会的な役割等が損なわれることのないよう、貴省において、移管奨学金事業の適切な運営の確保を図るよう次のとおり意見を表示する。

ア 各都道府県に対して、機構奨学金事業の移管に伴う財源措置の内容等について、再度、周知徹底を図るとともに、適時適切に移管奨学金事業における将来的な収支予測等を実施したり見直したりすることなどについて周知すること

イ 各都道府県が運営している移管奨学金事業の内容、実施方法、運営状況等の実態について適時適切に調査するなどして的確に把握すること

ウ 上記イの調査結果等に基づき、次の(ア)及び(イ)について、各都道府県に必要な助言等を行うこと

(ア) 将来的な収支予測等の結果等に基づいて必要な対応策等を講ずること
(イ) 回収率の向上を図るための具体的な施策を十分に講ずること